ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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八話

 凱の顔が憎々しげに歪み、ねじれた唇から気炎が吐き出される。
 「寝かせてやるよ」
 みぞおちに衝撃。
 解剖学的な正確さで胃袋に打ち込まれた拳に背骨が反り返る。息が詰まり、一時的な酸欠状態に陥る。目の前が赤く点滅する。危機を知らせる赤信号の色が瞼の裏に乱れ咲き、酸っぱい胃液とともに猛烈な嘔吐感がせりあがってくる。
 はげしく咳き込む僕の鼓膜を下卑た哄笑が叩く。ベッドを取り巻いた少年たちが品のない大口を開け、大袈裟に笑い転げている。盛大に唾を飛ばし、甲高く平手を叩き、上体を仰け反らせて笑う少年たちを眇めた目で一瞥、視線を上方に滑らす。
 凱の顔が目と鼻の先にある。
 「これくらいじゃ寝られねえってか?軟弱な見た目に反して打たれ強いじゃねえか」
 分厚い唇を捲り上げてせせら笑う凱。黄ばんだ歯が唾液にぬめり、いやらしく濡れ輝いている。腹を庇って身を丸めた僕の襟首を掴み、凱は耳元でささやいた。
 「つくづくツイてねえな、お前。寝ちまったほうがラクなのによ」
 凱が意図していることは察しがついた。恐らく、これから僕は意識を失ったほうが幸せだったとしみじみ感じ入るような目にあわされるのだろう。一分の隙なくベッドを包囲した、複数の少年たちによって。
 馬鹿の行動は短絡的で読みやすい。
 ひりひり痛むみぞおちを庇い、上体を起こす。 すぐさま二人がかりで肩を押さえ込まれ、マットレスに背中を叩きつけられる。ベッドの周囲に居並んだ少年たちを見回し、僕は吐息に諦念を滲ませて吐き捨てた。
 「事前に忠告しておきたいことがある」
 「なんだあ?」
 凱の眉根がぴくりと動く。僕は仰臥した姿勢で眼鏡のブリッジを押し上げ、言う。

 「僕は不感症だ」

 あぜんとした沈黙。
 あっけにとられた顔がベッドのぐるりに円を描いている。雁首並べた少年たちの間抜け面を心ゆくまで観察しつつ、僕は抑揚に乏しい口調で続けた。
 「短絡的思考を旨とする君たちのことだ、これから行おうとしていることも察しがつく。わざわざ就寝中に忍び込んでおきながらすぐさま行動を起こさなかったのは、僕の反応が見たかったからだろう。
 ……以上のように仮定して推論を導き出せば、ことは単純なリンチじゃない。殴る蹴るの暴行目的で房に侵入したのなら、徒手空拳の標的をベッドに押さえ込んでおく必要はどこにもない。どのみち多勢に無勢、腕力で劣る僕が君らにかなうわけがないからな。従って……」
 眼鏡のポジションを正し、視線を往復させる。ベッドを取り囲んだ少年たちは例に漏れずぽかんとした顔をしている。先刻まで威勢のよかった凱でさえ思考停止状態の空白の表情で僕を見下ろしていた。
 「君たちがこれから行おうとしていることは明々白々。強姦だろう」
 不均衡な沈黙。
 僕のベッドを取り囲んだ少年たちは毒気を抜かれたようにその場に立ち尽くしていた。最前まで疑問符を浮かべていた不審顔から拭い去ったように表情が消え、沸々と怒りが湧き上がってくる。モルモットに指を噛まれた科学者のように嫌悪と怒りの入り混じった目が僕へと注がれ、粘着質な視線が肌を這いまわる。
 僕は嘆息し、四肢から力を抜いた。
 「ご覧のとおり僕は手も足も出ない状態だ。強姦したければするがいい。ただ、僕の反応を期待しているなら残念ながらご期待に添えそうもないな」
 僕はいい加減うんざりしていた。こうなったら一刻も早く面倒ごとを済ませて欲しい。今の僕は明日から始まる強制労働に備えて一分一秒でも長く睡眠をとり、気力と体力を充電しなければならないのだ。
 性欲を持て余した低脳どもの玩具になるのは正直ぞっとしないが、恐怖よりは生理的嫌悪の方が先に立っている。同性と性交した経験はないし排泄以外の目的に肛門を使用したこともないが、女性がいない東京プリズンではこれが日常なのだろう。
 僕らを護送してきた看守も言ってたではないか、東京プリズンはリンチとレイプが横行するこの世の地獄だと。
 ソドムの刑務所で一日目に受ける洗礼としては、まあ妥当な部類だろう。僕はざっとベットの周りを見回し、暗闇に同化した人数を把握した。一、二、三……しめて六人。またずいぶんとご団体でやってきたものだ。
 これから順番に六人に輪姦されるとして、はたして僕の体がもつだろうか?確証はない。最初の三人位で満足してくれればいいのだが、枕元に待機しているのはいずれも窮屈な刑務所暮らしで性欲を持て余している凶暴な少年たちなのだ。
 最悪一人二回ずつとして計十二回……辟易する。
 「……なめやがって」
 獰猛な唸り声に目を向ける。とても未成年とは思えない頑強な体躯の凱が、体の脇に垂らした拳を握り締め、射殺さんばかりの目つきで僕を睨んでいた。
 「!」
 風切る音が耳朶を掠めたと思った次の瞬間、僕は身を二つに折って苦悶にうめいた。鉛の重量を伴い腹の中心部へと叩き込まれた拳の威力は絶大で、ひしゃげた胃袋から酸っぱい胃液が逆流してきた。さっき食べたワカメの味噌汁の味が口内を満たし、胃袋ごと吐き戻しそうな嘔吐感に襲われて目が眩む。
 苦悶に身を捩る僕の頭上にのっそりと影がさす。歪んだ視界を一点に凝らしてみれば、鼻先に凱の顔が浮かんでいた。攻撃的に尖った顎には男性ホルモン分泌過多のためか剛毛のヒゲが生えていた。
 凱の顎先の毛穴に焦点を絞っていた僕の襟首が無造作に掴まれる。首が絞まり、危うく窒息しかけた僕の胴へと凱が跨る。
 凱の顔は怒りに上気していた。
 「早速レイジの悪影響が出やがったな。飯の最中になに話してたんだか知らねえが、大方まわりに敵を作る方法でも習ってたんだろ?」
 否定できない。
 妙に的を射た因縁をふっかけながら、手荒く僕の襟首を揺する。力任せに襟首を締め上げられ気道が圧迫される。顔を充血させた僕が酸欠状態に陥る寸前で襟首を解放した凱が、悪意滴る揶揄を耳孔へと注ぎ込む。
 「ケツ振る相手をまちがえたな、メガネ。レイジの周りにいる奴は全員ムショでも浮いてる変わり者のキチガイ揃いさ。野郎の飴玉しゃぶるのが三度の飯より好きなリョウ、台湾と中国の半半でどっちのグループからもハブられてる無愛想でかわいげねえロン、それにお前の同居人……」
 一呼吸おき、続ける。
 「サムライだ」
 「?」
 生理的な涙でかすんだ目を凱の顔へと凝らす。凱は笑っていた。楽しくて楽しくて仕方ないという嗜虐心に酔った陰湿な笑み。問答無用許可も得ず、凱の手が僕のシャツの内側へともぐりこむ。
 抵抗する気は毛頭ないと前述したが、脇腹を這いまわる手の汗で湿った感触に体が拒絶反応を起こす。鳥肌。全身の毛穴が縮む感覚を味わうのはぞっとしないが、これから行われる行為でさらに極限の忍耐を強いられるだろうことは想像にかたくない。僕を組み敷いた凱は強張った下肢を片膝で割り、片手で愛撫を続けながらもう一方の手をズボンの内側へと滑り込ます。
 「っ、」
 腰が引けた。
 ズボンの内側で蠢く他人の手を意識すると、えもいわれぬ違和感を覚える。確かに僕は不感症だ。そう多く性交渉の経験があるわけではないが、どのセックスの場合でも絶頂に達したことはなく、また、理性が押し流されるような快感を感じたこともなかった。
 今もそうだ。じかに太腿へとおかれた凱の手が膝の表裏をまさぐり、敏感な部位をさがして五指を独立して動かすも、僕が感じているのは他人に自分の体を好きにされているという嫌悪感と腰のあたりに沈殿した鈍い疲労感のみ。まあ、愛撫に反応してよがり声でもあげたりしたらかえってこの低脳を喜ばせるだけなので、それはそれでいい。
 僕の太腿をしつこくなで擦りながら、凱は熱に浮かされたような口調で続ける。
 「おめえは今日来たばかりで知らねえだろうが、アイツはある意味レイジ以上の危険人物だぜ」
 アイツ。サムライ。性急に太腿をしごかれ、苦痛に顔をしかめた僕の脳裏にサムライの横顔が浮かぶ。初対面の時、暗闇に沈んだ房の中央で座していた孤独な男の横顔が。
 「サムライがなんでぶちこまれたか知ってるか?」
 質問。無言。けたけたと下品な声で凱が笑う。
 「殺しだよ」
 それだけなら別に驚かなかった。
 サムライが殺人を犯して東京プリズンに収監されたことは本人の口から聞き及んでいたし、未成年による殺人事件が大々的にマスコミに取り上げられたのはもう半世紀も前の話だ。
 今の時世、十八歳未満の未成年が人を殺したからといって目の色変えて騒ぎ立てるほどの価値はない。交通事故より少し珍しい位の割と頻繁に起こる現象、よくある事件に過ぎないのだ。僕が東京プリズンに送り込まれることになった主たる罪状も、両親に対する尊属殺人と所長に転送された書類には記載されているだろう。
 だが、続く言葉には目を剥いた。
 「サムライは東北で有名な剣術道場の跡取り息子だったんだが、ある日突然とち狂って、それまで共に修行してきた同胞十三人を伝家の宝刀で斬り殺した」
 「!」
 凱はぐっと声を潜めた。極力トーンを落とした、怪談でも語るかのようなおどろおどろしい口調。
 「サムライが惨殺した十三人の中には、自分に剣を伝授した実の父親も入っていた」
 おそろしげに口にした凱の目に一抹の翳りが射したのを僕は見逃さなかった。

 間違いない、凱は怯えていた。
 今ここにはいない房の主に、僕の同居人に、あの……サムライに。

 「……動機はなんだ?」
 口を開き、からからに喉が渇いていたことに気付く。動機。動機が知りたい。自分の父親を含む十三人もの人間を片端から殺害したからには、そこには明確な動機が介在したはずだ。僕の知るサムライは礼儀正しい物腰と含蓄深い口調が印象的な、明鏡止水の四字熟語を体現したかのような男なのだ。
 あの物静かな男が、何故そんな大それたことをしでかしたんだ?脳裏に疑問符が増殖してゆく。僕を脅すために凱が嘘をついているという可能性も考慮したが、その疑惑を自ずから否定するが如く凱の顔は真剣だった。
 
 目を見ればわかる。
 凱はどこまでも真剣にサムライに怯えていた。

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20060608001001 | 編集
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