ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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三十三話

 「タジマの同類だな、君は。玩具に頼らなければ僕一人満足に悦ばせる自信がないのか?とんだ性的不能者だ」
 「なんだって?」
 下肢を剥かれセメント袋の上に芋虫のように腹這う僕に、暴君は気色ばむ。
 「僕の口に銃を突っ込んで少しでも気持ちよくなったか、不能め。あんな生ぬるい擬似フェラで僕が満足するとでも思ったか?まったくもって遺憾の至りだ、こちらは顎が疲れただけだ。暴君、これで君が性的不能者だという事実が立証された。君のペニスは僕を満たすに足るに及ばぬ卑小な代物で、勃起不全による劣等感を抱いた君は銃を用いた擬似フェラの強制により失われし男性性を補強しようとした。銃の威を借るペニスだな。以上、フロイト派の分析に異論はあるか」
 「俺が勃たないってか?」
 「現に銃に頼ってるのが何よりの証拠じゃないか」

 空気が張り詰める。
 皮膚が緊迫する。

 銃を手にした暴君が意味深に僕を見やる。
 黄金の輪を冠した髪の隙間から硝子の瞳がちらつく。
 狂気を沈め底光りする瞳は猫科の猛獣に似た獰猛さと同時に危うさを秘め、退廃の翳りをもって人を魅惑する。
 絶世の美形と評しても遜色ない顔立ちにランプの光が酷薄な陰影をつける。

 暴君は銃をもてあそびながら思案にふける。
 太股にそって滑っていく銃口に意識を凝らす。
 固く冷たい鋼鉄の塊が皿で防御されてない敏感な膝裏をくすぐる。
 萎えかけた気力を叱咤し、醜態をさらしてなるものかと抗う。

 「勃たないなら勃たないといえばいい。虚勢は見苦しい」

 閉じた体が拒絶反応を示す。
 肛門に擬された銃口の圧力に発狂しそうになる。
 売春班では数多くの男のペニスを受け入れてきた肛門も、今は固くとじて異物の侵入を拒んでいる。
 きつく窄まった穴をむりやりこじ開けられる痛みを予期し、あわや恐慌をきたしかける。
 心臓の動機が早鳴り血が逆流し呼吸がひどく荒くなる。
 一瞬の空白の後に訪れたのはじわじわと理性を侵食する恐怖、切実に身に迫る危機。
 掌がじっとり汗ばむ。
 抑制し難い激情が身の内で荒れ狂い際限なく不安が膨張、胸を内側から圧迫し呼吸を妨げる。
 僕は必死に抗う。
 プライドを賭け恐怖に抗い、最後まで虚勢を張って戦おうとする。
 間違っても醜態などさらさぬように、無駄な抵抗だと頭の片隅で達観しつつも、理屈をこねるのをやめたら僕を僕足らしめる最後の砦まで崩れてしまう危惧に憑かれ、肩越しに振り返る。

 毒々しい嗤笑が顔に浮かぶ。

 「普段偉そうな口を叩いてる癖に肝心な場面で役に立たないとは、君のペニスは持ち主よりさらに腰抜けだな」
 毒気の滲んだ調子で揶揄すれば、暴君の表情が豹変する。
 軽薄な笑みを浮かべた顔が一転空白となり、空洞じみた虚無をさらす。
 見るものの心を冷え冷えさせる完璧な無表情。
 あらゆる感情が窺えぬ空白の表情で僕を見返すや、ランプの光に映える顔に野卑な笑みを乗せる。
 「挑発してんのか?」
 今にも口笛を吹きかねぬ愉快げな声で暴君が問う。
 交互の手に銃把を渡しながら面白そうに目を細めじろじろ不躾に僕を眺める。

 うなじ、肩、背中、太股。

 慎みと対極にある無遠慮な眼差しが僕にさえ見えぬ体の秘所を、辟易すべき執拗さでもって微に入りほじくり返す。
 僕さえ知らずにいた僕が容赦なく暴かれる。
 欲情の火照りを孕んだ視線に晒され、快楽に慣らされたちりちりと肌が燻る。
 僕の体は羞恥にさえ興奮するよう躾けられている。
 売春班にいた頃、服で隠す事はおろか手を使う事も許されず、僕自身すら医学書の図解でしか知り得なかった体の秘密を残酷に暴き立てられ、飽きるまで視姦された。

 僕は汚れている。
 直接触れなくても、ねっとり濃厚に肌を滑る視線によって間接的な刺激を受けている。

 粘着に肌を這う視線がもどかしさと恥辱を煽る。
 視線を注がれた部位がひどく過敏になり、淫蕩な熱を孕んで疼きだす。
 飢えに似て強烈な衝動が暴れ出す予兆に慄く。
 砂塵の乾きにも似た苛烈な渇望が体を干上がらせていく。
 生殺しの責め苦に苛まれ、ゆるやかに汗が伝う喉が物欲しげに鳴る。
 交尾をねだる雌犬のように尻を突き出した僕にのしかかり、吐息に絡めて囁く。
 「俺が欲しいんだろ。なあ、そうだろ」
 褐色の指が耳朶をつまむ。
 後ろ髪を梳き、じゃれる。
 うなじをくすぐる指の火照りに悩ましさが募る。
 愛情と錯覚しそうなほど優しい声音も、折檻の恐ろしさを引き立てる罠でしかない。
 腰が蕩けそうな低音の囁きに曇りゆく理性を繋ぎとめ、今にも挫けそうな肘と膝を意志の力だけで支える僕を、暴君は嬉嬉として嬲る。
 口元に愉悦が滲む。
 細めた目に喜悦が宿る。
 ランプの光に浮かぶ顔は悪魔のように邪悪で美しく、破滅を知りながら魂を売り渡したくなる。
 「銃じゃなくて俺のもんを突っ込んで欲しいんだよな。お前は欲張りだからちゃちな銃なんかじゃ満足しなくて、どくどく脈打つ熱い肉棒突っ込んでめちゃくちゃにしてほしいんだろ。さすが売春班上がりは強欲だな、俺の責めがなまぬるいってか?そいじゃクエストに応えてやるよ」
 肛門のまわりで円を描いていた銃口がふいに退けられる。
 安堵するのは早い。
 次につきつけられたのは、前にも増して非情な要求。
 「ほしいならくれてやるよ」
 後ろ髪を掴まれ思い切り仰け反る。
 首が折れる限界まで仰け反った僕の顔を至近で覗き込み、暴君がぞんざいに顎をしゃくる。
 形よく整った唇が不敵な弧を描く。
 
 陵辱と暴虐の限りを尽くす専制君主の笑み。

 「プリーズ、リップサービス」 
 頭皮ごと引き剥がされる激痛に苦鳴をもらす。
 暴君の手に縋るようにして反転、足元にくずおれる。
 衣擦れの音が耳朶に触れる。
 片手に銃を預けた暴君がもう片方の手で器用にズボンを下ろしていく。
 僕は床に凝然と手足を付いたままそれを見詰める。
 驚愕に目を見張った僕の前で暴君はズボンに指を引っ掛け、誘うように淫らな腰の動きでずらし、トランクスごと下ろす。
 トランクスの下から露出したのは胴体と比して完璧な均整を誇る下肢。
 ランプの影がちらちら躍る野生的な褐色肌はエキゾチックな美しさと精悍さを感じさせる。  

 申し分なく長い足
 よく締まった脹脛
 ため息がでるほどに扇情的な腰つき
 股間の淫靡な翳り。
 頭髪と同色の毛がしなやかに反った性器を鬣のように飾る。

 暴君のペニスは美しい形をしていた。
 藁色の翳りの中から雄雄しい角度をもって突き立つそれは、奔放な性遍歴を物語るように成熟し、横溢する若さを誇示する。売春班では何十人もの男のペニスを見てきたが、そのどれにも比べて暴君のペニスは均整がとれている。
 あらゆる人種の女性を満足させるに十分な長さ太さを兼ね備えているだけでなく、上品な紅を刷り込んだ色といい形といい、申し分なく生ける彫刻の美を体現する。
 暴君のペニスは既に勃起の兆候を示していた。

 「見とれてんなよ。使うんだよ、手と口を」
 暴君が不遜に命じ、金縛りが解ける。
 眼前につきつけられたペニスにおそるおそる手を伸ばし、何度も意を決し触れようとしては引っ込める。
 「木偶じゃねえって思い知らせてやる」
 「!っは、」
 いきなり僕の頭を抱え込み、股間に押さえ込む。 
 後頭部に回った手が毟るように髪を掴み、いまだ決断に至らぬ僕の顔を力づくで俯かせる。
 髪を毟られる痛みに仰け反る。
 くぐもった苦鳴を漏らし必死で顔を引き剥がそうとする僕を愉快げに眺めやり、畳み掛ける。
 「どうした?舐めろよ。売春班仕込みの舌テクでせいぜい楽しませてくれよ。俺と銃を秤にかけて俺を選んだのはお前だろ?ならとっととやれよ、なにじらしてんだよ。ケツに銃突っ込まれて中でぶっぱなされてーか?お前の内臓が綺麗なピンク色してるかどうか撒き散らして見せてやろうか?床に散らばった内臓を犬食いさせてやろうか、なあ」
 「……慌て、なくても……いい……余裕がないぞ、君は。暴君らしく悠揚迫らぬ態度で待ち構えていたらどうだ」
 顔筋を凝りほぐし皮肉な笑みを投げる。
 「口だけは達者だな、相変わらず。それでこそ俺たちが見込んだキーストアだ」
 複数形の一人称が何を意味するかわからないほど僕の頭の回転は鈍くない。 
 僕の後ろ髪に指を絡めいじくりまわしながら暴君が促す。
 仁王立ちで踏み構える暴君の股間に近付く。
 褐色の翳りと赤黒いペニスを至近距離で見詰め、生唾を呑む。
 暴君はにやついている。
 僕の葛藤を見透かすような下卑た笑みを顔一杯に浮かべ、無言の内に威圧を込めて奉仕を強要する。

 指がしつこく髪に絡む。
 一房二房と絡めては指の隙間に通し、感触を楽しむ。

 「可愛げねえ毒吐いてばっかの口を開けろ。気持ちよくしてもらいてーんだろ?ならそれ相応の誠意をみせろ」
 凄まじい嫌悪が胃袋を締め上げる。
 眼前に迫るペニスの威容に本能的な恐怖を感じる。
 後ろ髪を掴む手が畏怖を与える。決して拘束を緩めず屈従を迫る手の残酷さに打ちひしがれ、よもやこれまでもかと諦念が心を満たし始める。

 口を開き、また閉じる。
 それを数回繰り返す。
 緊張に乾いた唇を舐め、時間を稼ぐ。
 呼吸が荒く浅くなる。
 耳裏が発火する。
 屈辱に耐えて握り込んだ手の内がじっとり汗ばむ。
 拒否は死を意味する。
 拒絶は自滅に繋がる。
 目を逸らすなどもってのほかだ。
 残された道は無条件降伏しかない。

 服従せよ。
 服従せよ。
 服従せよ。
 犬のように服従せよ。
 頭を垂れて奉仕せよ。

 頭の片隅に一握り居残った理性が警鐘を鳴らすも、衝撃に打ちのめされた心身は既に倦怠感に包まれていた。 

 服従すればらくになる。
 言う事を聞けば解放される。
 何から?
 苦悩から、葛藤から、未練から。僕をここに繋ぎとめるすべてから。
 何より彼から、彼から解放される。
 僕の生まれて初めての友人、それ以上にも以下にも決してなり得ぬ男への報われぬ執心から解き放たれ安息を得られる。

 なら、いいじゃないか。
 何を迷うことがある、いまさら。

 きつく目を閉じる。
 盲目の闇に感傷的な面影が錯綜する。
 ロンが人懐こく笑う、サムライが柔和な目でこちらを見守る、在りし日のレイジが無邪気に笑う。
 ヨンイルがいる。
 ワンフーがいる。
 ルーツアィがいる。
 リュウホウがいる。
 安田がいる。
 斉藤がいる。
 今生きている者たちとそうでない者が交錯する。
 僕がここで得たかけがえのない仲間が、東京プリズンで出会った数少ない友人達が、入れ替わり立ち代わり瞼の裏に去来して固有の表情を見せる。 

 それらすべてと引き換えても、
 それらすべてをこの手で無に帰しても。

 胸が、痛む。
 瞼裏の闇に浮上するロンの面影が罪悪感を喚起する。

 僕は、裏切り者だ。
 レイジはロンの相棒なのに、これからそのレイジと何をしようとしている?
 ロンの知らない場所で、ロンのいないところで、なにをしようとしている?

 ロンを裏切ることになるとわかっていながらそれを自覚した上で行為に及ぼうとしている、裏切りを前提に過ちを犯そうとしている。

 最低だ、僕は。
 ロンからレイジを横取りするような真似をして。
 レイジはロンの相棒で僕の友人なのに。

 「………………ふ…………」
 罪悪感を吹っ切れず心がぐらつく。
 自分がいかに卑劣な人間か痛感し、選択の重さに打ちのめされる。
 掌の柔らかい皮膚に爪が食い込み痛みを感じる。
 強く強く拳を握り込み、固く固く目を閉じてロンの面影を払拭にかかる。
 「まだぐだぐだくだんねーことで悩んでんのかよ。フェラか死か決めかねてんのかよ」
 消え去れ、雑念。
 ロンの面影を意識の範疇から閉め出す。
 固く固く目を閉じ闇に自我を没し、間延びした呼吸を繰り返して仮初の平静を回復する。 
 鉄壁の平常心で武装した無表情で、改めてペニスと向き合う。
 「くだらないことは忘れちまえよ。楽しい事だけ考えろよ」
 唄うような抑揚で暴君が言う。
 音に乗った言葉は喪神の呪文と化し酩酊を誘い、三半規管を狂わす。
 蠱惑的な姿態で暴君が笑い、両の手で頭を抱え込みゆっくりと僕を導く。
 麝香の体臭が理性を奪う。
 鼻腔に抜けて染み渡る体臭は強烈な媚薬のように作用し、指の末端まで痺れさせる。
 抜け殻と化し暴君の導きに従う。
 頭に靄がかかり思考が停止、暴君に促されるがまま首をうなだれて股間に顔を埋める。
 ランプの光が壁に影を投じる。
 傲然と仁王立ちした暴君の股間に顔をつけた僕の姿は、ひと繋がりの歪な影となり壁に映し出される。
 「楽しませてくれよ」

 後戻りできない。
 引き返せない。

 最後まで踏みとどまっていた何かが溶け消える。
 全身を巡る血の流れが鈍化する。
 溶けた鉛を流し込まれたように体がおもく、けだるい。
 耳孔に流し込まれた声は蠱惑の余韻を帯びて殷々と反響し、体の深奥を漣だてる。

 もういい。

 完全なる諦念が意識に降りる。
 絶望で視界が狭窄、瞼の裏を占めた面影が急速に遠のく。
 サムライの面影が忘却の彼方に遠ざかる。 

 「楽しませてやるさ」

 口から出た声は、底知れぬ凄味すら含んでいた。
 顔の筋肉が奇妙に歪み、毒気に満ち満ちた自嘲の笑みを刻むのがわかる。

 体が疼く。
 喉が渇く。

 顔が卑屈に歪み、笑みとは似て非なる露悪的な表情を形作る。
 顔の表面に虚ろな笑みを浮かべていても、心はそれ以上に空虚で、もはや痛みすら感じない。僕は僕であって僕でないものへと変容する。
 今まで東京プリズンで得たもの培ったもの、それらすべてを擲って人の形をした虚ろになる。

 あるのはただ輪郭のぼやけた熱だけ。
 粘着な視線に嬲られた箇所の疼きだけだ。

 緩慢な動作で顔を上げる。
 目が合う。
 ランプの光を受けた顔は、剥き出しの欲望にぎらついていた。 

 震えのおさまった手を伸ばし、ペニスに添える。
 左手で根元を持ち角度を調整、右手を竿に添える。
 手の中のペニスは固く柔らかい。
 固い芯を秘めていてもそれを覆う肉は頼りなくふやけている。
 手中で脈動するペニスの存在に意識を凝らす。さらに接近を図る。
 膝立ちの姿勢から前傾し手中のペニスをつぶさに観察、どの程度口を開ければこれが入るか計算する。

 上唇で先端にふれる。
 柔らかな唇が柔らかな先端と密着、重なり合った部位からじんわり熱が広がる。
 唇を僅かに開ける。
 上唇と下唇で先端をささやかに食む。
 口腔には入れず、入り口でじらす。
 上唇と下唇で軽く挟むようにして刺激すれば、先端にうっすら汁が滲む。
 一滴吸う。
 先端の孔から分泌された透明な上澄みは、ほのかに青臭く苦味があるも、精液よりも淡白で口当たりがいい。
 今度はやや大きめに口を開ける。
 右手と左手を軽く動かし竿を立て、様子を見ながら先端を含む。
 歯を立てぬよう注意しつつ、舌先で器用につついて反応を引き出すのにのめりこむ。
 蝶の管に似た緩急の付け方で舌先を出し入れし、淡く滲み始めた蜜を啜る。  

 「俺の味がすんだろ」
 暴君が満足げに笑う。
 後頭部にのしかかる握力が増す。
 集中力を散らすのだけが目的の意地悪い揶揄には応じず、両手に捧げ持ったペニスが固くなり始めたのを期にいよいよ迎え入れる。
 「んっ………ふぐ」
 固くなり始めたペニスが口腔を圧迫する。物理的な息苦しさに視界が霞む。
 技巧を凝らした舌使いと手管でもって分身をしごきたてれば、暴君の息が上がり始め、僕を押さえ込む手の力がさらに強くなる。
 無我夢中一心不乱にそれを行う。
 余計な事は何も考えず間違っても思い出さぬように、含んだペニスを手と舌でもって捏ねくりまわす。
 「上手いぜ」
 優越感に酔いしれた手つきで僕の頭をなでながら嘯く。
 こちらはそれどころじゃない。
 口の中で膨張したペニスが上下の顎を圧迫し、窒息の苦しみに危うくむせそうになる。
 喉元に込み上げる嘔吐感を堪えながら懸命に奉仕を続ける。
 何も、何も考えたくない。すべて忘れてしまいたい。
 やすりがけるように根元から先端にかけ強めにしごき、唾液を捏ねる音も卑猥に、潤滑な唾液で満たした口腔に含んだペニスを舐める。
 暴君の味が口の中に広がる、唾液に溶けて染みこんでいく。

 頭が朦朧とする。
 全身の皮膚がひりつく。
 何度も喉を上下させ暴君を飲み下す、青苦く独特の味の汁を啜りこむ。 

 「あ……ふく、ぅあ………」
 「やらしー顔。よだれでべとべとだ」
 僕の顔に指を持ってきて涎を拭う。
 悪戯っぽい笑いを泡立てる暴君をよそにフェラチオを継続、下品な水音を響かせてペニスをしゃぶる。
 僕自身の唾液で濡れそぼったペニスが淫猥に濡れ光る。
 口の端から濃厚な糸引き涎がたれる。

 含み、飲み干す。
 啜り、味わう。
 喉がこくんと上下する。

 フェラチオに没頭する視界の端にホセが映る。
 ランプの光を避けるようにして片隅に退避、腕を組みこちらを眺めている。
 その顔は闇に沈んで判別付かない。
 嘲っているのか蔑んでいるのか、はたまたそのどちらでもないのか、謎めいた沈黙からは窺い知れない。
 片隅に潜む隠者の存在をいやがおうにも意識しつつ、浅ましい姿を見られる恥辱がまたも倒錯した興奮をもたらす。

 「だんまりじゃつまんねーよ。おしゃべりしようぜ」

 僕の後ろ髪に指を絡めかきまぜながら暴君が提案する。 

 「聖書を全部そらんじてるお利口さんな奴隷に質問だ。今の気分にぴったりな一文を挙げよ」

 逆らったら何をされるかわからない。
 朦朧としながらも、暗記している全文から今の心情に最もふさわしい記述をさがす。

 見つけた。

 「………『多くの人が肉によって誇っているので、私も誇る事にします』」

 怒張したペニスにむしゃぶりつく傍ら、掠れ声を搾る。

 「『あなたがたは賢いのに、よくも喜んで愚か者たちをこらえています。事実あなたがたは、だれに奴隷にされても、食い尽くされても、だまされても、いばられても、顔をたたかれても、こらえているではありませんか』」

 潜水と浮上を繰り返すあいまに視野は狭まり意識は霞んでいく。
 酸素を欲して喘ぐ。
 声を発しようとしたそばから暴君が腰を突き入れ、ペニスが喉の奥を突く。
 喉を塞がれる苦しみに生理的な涙が滲み、視界がぼやける。
 ペニスを含みながらも反発に駆られ、手で持って抜くと同時に、呂律の回らぬ舌を動かして続ける。

 「『言うのも恥ずかしい事ですが、言わなければなりません。私達は弱かったのです』」
 「そのとおりだよ。お前は弱かったんだ、キーストア。俺の誘惑をつっぱねられねーくらいな」

 暴君の顔が毒々しく歪む。おそらく笑ったのだろう。
 だがそれは笑みと形容するにはあまりに禍々しく邪悪な瘴気を発し、正視に堪えざるほど不吉な陰影に隈取られていた。
 貪欲に目を輝かせた暴君が、僕の頭を押さえ込んでもっと舌を使えと催促する。

 僕は従う。
 言われるがまま唾液を捏ねる音をたて、どこまでも下品に卑猥に、顔中涎でべとつかせ、口を窄め頬を膨らまし、乞食じみてペニスにしゃぶりつく。

 口の中で独立した生き物の如く肉塊が脈打つ。
 ランプの火影を映じた顔に凄惨な笑みを広げ、細めた双眸を恍惚の光にぬらし、錯乱甚だしい饒舌で口走る。

 「『暴虐な証人どもが立ち 私の知らないことを私に問う。彼らは善にかえて悪を報い、私のたましいは見捨てられる。しかし、私はー』……」

 次第に目の焦点がぼやけていく。
 放心した顔つきで立ち竦み、暴君は静かに言う。

 「『彼らの病の時、私の着物は荒布だった。私は断食してたましいを悩ませ、私の祈りは胸を行き来していた。私の友、私の兄弟にするように、私は歩き回り、母の喪に服するように、私はうなだれて泣き悲しんだ』」

 頭にのった手がふっと軽くなる。
 異変を察し、ペニスを含んだまま上目遣いにうかがう。
 暴君の目はここではないどこかを見ていた。
 虚空を通り越して自分の内側に回帰するような視線だった。   

 ランプの光に照らされた顔はひどく心許なく
 闇に取り残された子供のように孤独で。
 悲痛で。

 暴君は淡々と続ける。
 憎悪という憎悪を飲み干し尽くし、虚無という虚無を貪り尽くし、ついにはなにもかも失ってしまったように。
 静かながら救い難い悲哀を帯びた声で、抑圧され続けた間の苦しみを訴える。

 「『彼らは私がつまずくと喜び、相つどい、私の知らない攻撃者どもが、共に私を目ざして集まり、休みなく私を中傷した。私のまわりの、あざけり、ののしる者どもは、私に向かって歯軋りした』」

 生を享けたところでだれからも祝福されず
 存在を認められず。

 耐え難い孤独と救い難い猜疑の中、レイジの奥底に封印され続けたもうひとつの人格が、みずからの正当な権利を主張せんと沈黙を破る。
 「『わが主よ、いつまでながめておられるのですか。どうか私のたましいを彼らの略奪から、私のただひとつのものを若い獅子から、奪い返してください』」

 それは祈り。
 それは嘆願。

 生まれながらにして否定された人格が、神から免罪符を強奪し生きる資格を得ようとする。
 生きる許しを乞うている。

 冷たい石室の中、ランプの光を受け孤独に立ち竦む暴君を含んだまま見上げる。

 ああ、そうか。
 そうだったのか。
 こんな単純なことに何故気付かなかったのだろう。

 「暴君」
 名を呼ぶ。
 暴君がこちらを見る。
 気だるげにこちらを見下ろす視線を真っ向から受け、本人すら気付いてなかった事実を指摘する。
 「寂しかったんだな」
 顔に驚愕が浮かぶのを見逃さない。
 「寂しい?俺が?」
 「生まれた時から否定され続けて寂しかったんだろう。誰からも顧みられず、誰からも認められず。君を生んだ本人さえ君を認めようとはしなかった、受け入れようとはしなかった。それがどうしようもなく寂しかったんだろう」
 淡々と指摘すれば、汚泥が煮立つような笑い声があがる。
 暴君が笑い始める。
 肩を震わせ喉ひくつかせ、おかしくておかしくてたまらないといったふうに抑えた声で笑い出す。
 破滅的な暗さを孕んだ笑いが床を這うようにして流れる。
 僕はペニスに手を添えたまま身動きを忘れ暴君を見詰める。
 暴君は低く、低く笑い続ける。
 痙攣の発作に襲われたかのように肩と喉を断続的にひくつかせ、頬に纏わりつき口の端に紛れ込むおくれ毛をうざったげに払う。
 「んな当たり前のこといまさら聞くなっつの。そうさそのとおり、まったくご指摘の通りだよ。お利口さんな天才はなんでも見通しってわけか、恐れ入ったね。俺を産んだ女は俺の事を憎んでいた。聖母とおんなじ名をもつ男狂いのマリアめ、娼婦上がりのマクダラの女の分際で好き放題罵りやがって!呪われた子だ悪魔の血筋ださんざ言われたよ、ぶたれて蹴られて毟られて絞められて毎日毎日地獄だったよ!こっちだって好きでお前の股から生まれたんじゃねえ、叶う事ならお望みどおり地獄で生まれたかったさ。だけどしかたねーだろ、石もて追われるマクダラの女が産んだててなし子こそこの俺、どこの馬の骨とも知らねえ男にさんざ犯されて孕んだガキがいくら憎くても殺せなかったのがあの女の限界さ!そうやって生かしておきながらあの女よっぽど俺が気に入らなかったらしい」
 「違う」
 「なにが違うんだよ?」
 「君を産んだ母親じゃない、君を生んだ張本人の事だ」
 暴君の顔が強張る。
 構わず捲くし立てる。
 「君とレイジは陰陽の双子だった。君は生まれた時から負の感情を肩代わりしてきた、怒り苦しみ悲しみ痛みの感情をレイジの身代わりに引き受けてきた。しかしレイジは君を否定した、君の存在を決して肯定せず許容せず忌むべき片割れとして疎んじ続けた。だから」
 「黙れよ」
 前髪を強く引かれる。
 悲鳴の形に開いた口にむりやりペニスが押し込まれる。
 「あぅぐ、ひう……」
 「知ったふうな口を聞くなよ、裏切り者の分際で。ケツで感じる淫売の分際で、偉そうに俺とあいつを語るなよ」
 暴君が乱暴に腰を突き入れる。
 ペニスがめちゃくちゃに口内を攪拌する。
 前髪が何本か引き抜かれ唐辛子をすり込まれたように頭皮がひりつく。
 口から唾液が溢れる。
 首を伝い服をぬらす唾液を拭う暇も与えられず、口腔の粘膜をぐちゃぐちゃかき回し喉の奥に突っ込まれるペニスをひたすらねぶる。
 異物感が喉を塞ぐ。
 頬の内側の粘膜を乱暴に出し入れされるペニスがこそぎおとす。
 顎の間接が外れる限界まで精一杯口を開けペニスをしゃぶる、無我夢中で舌を窄め尖らせ肉棒に這わせる。
 「覚えてるか、キーストア」
 暴君が懐かしい呼び名で僕を呼ぶ。
 仮初の親愛を込めて。
 僕は顔中涎でべとつかせ、両手にペニスを捧げ持ち、ひたすらにそれをねぶる。
 飴玉を転がす要領で舌を丸め、ねっとり竿に這わせて唾液を伸ばし、刻々と趣向を変え新たな刺激を与え飽きさせないようにする。
 盲目的な奉仕。
 「二人でバスケした時の事」
 優しい声音が耳朶をくすぐる。朦朧と霞がかった頭にあの日の青空が浮かぶ。
 今目の前にいるのは暴君か、レイジか?
 わからない。区別がつかない。声は同じだ。顔は同じだ。
 暴君?
 レイジ?
 ……頭が混乱する。疲労と苦痛に目が霞む。
 ひょっとしたらレイジかもしれない。
 レイジが帰ってきたのかもしれない。
 そうだ、この声はレイジだ。漸くレイジが帰ってきたんだ。

 男は語る。

 僕とレイジしか知りえないはずの事実を、二人きりの秘密を。
 あの日分かち合った空の青さを、
 二人で寝転んだアスファルトの熱さを。

 「お前ときたら筋金入りの運動神経の鈍さで、ちょっとよそ見したら10メートルも引き離されてやんの。何度注意してもうっかり三歩以上歩いちまうし、つきっきりで教えてやってもさっぱり上達が見られねえ。正直こりゃあだめだと思ったよ。お手上げだった。まともに勝負になんねーし諦めたほうが無難だってアドバイスしても天才に不可能はねえの一点張りで、全身汗だくで髪も服もびしょぬれで、なのにむきになってボールを拾い上げるもんだからしまいにゃ俺も降参してさ、お前が納得するまで付き合ってやろうってハラ決めたんだ」

 声が記憶を喚起する。
 水音も淫猥にペニスを頬張る僕の脳裏に、はるか前を走るレイジの背中が浮かぶ。
 ボールを追いかけ疾走するレイジと僕の姿が、遠い日の残像が浮かぶ。

 「……ルール、は、完璧、に、は、あくして、いた…………」

 浮かんで、消える。

 「実技にゃとても合格点つけられなかったけどな。お前にしてはまあ頑張ったほうだと思うぜ、何十回失敗しても粘り強く挑戦し続ける根性はたいしたもんだ。教えてやったろ、ボールを扱うコツ。なんだったか言ってみろ」
 「肘を……90°に曲げて………」
 「こうだ」
 暴君が僕の腕をひったくりぐいと曲げる。ぴったり90°に。あの時僕にやったように。
 ペニスを捧げ持った手と肘の角度を、90°に固定する。
 「ボールは……額につけて……三角点を結ぶように……ふあ、」
 「覚えてるだろ。すっげーいい天気だったよな。毎日つきっきりで特訓してやったよな。練習が終わったあとはふたり大の字になってアルファルトに寝転んでこんがり焼いたよな。おかげでシャツの内と外と全然色が違うの、笑えるぜ。お前なんか特に生っちろいから変わり目が目立ってさあ……」
 日焼けのあとをさぐるようにうなじをなぞる。
 ぞくりとする。 
 「もうすっかりもとにもどっちまったな」
 「は…………」
 「覚えてるか?すっげー綺麗な空だった。抜けるような青空だった。バターみてえな太陽だった。グラウンドはでっかいフライパンで、俺たち二人その上にのっかってあっちこっちへ走り回ってたよな。もうちょっとでスクランブルエッグになりそうだった。お前の眼鏡湯気で曇ってやんの。すっげー間抜け面だった、今思い出しても笑えるよ」

 やめろ。
 やめろ。
 それ以上聞きたくない。
 思い出すな思い出させるなこんな時に思い出させるな、君のペニスをしゃぶっているときに無我夢中一心不乱にフェラチオをしてる時に今まさにロンとサムライを裏切っている時にそんな事を思い出させるんじゃない!!

 僕と君が友人だったと
 君の友人だったと、
 思い出させないで、くれ。 
 頼むから。

 「………いいダチ持って嬉しいよ、俺は。バスケはへたっくそだけど、フェラは上手いしケツもただで貸してくれる」
 暴君の言葉は、礫となって僕を打ちのめす。  
 抑圧した感情が逆流する。
 これまで懸命に殺そうとしていた感情がレイジへのロンへのサムライへの想いが沸騰し、僕は今レイジのものをしゃぶってる顔中涎でべとつかせレイジのものを頬張ってる、こんな関係になりたかったわけじゃない、かつて僕たちは同じ空の下でボールを追って息を弾ませ寝転んで沢山汗をかいて、今僕がかいてる汗は別の物で、僕が口と体から垂れ流す体液からは発情した雄の匂いがして、ちがう、ちがうー……
 もうレイジは戻ってこない、あの日は戻ってこない。
 同じボールを追いかけることも灼熱のアスファルトに寝転ぶこともない、地べたに足を崩し野次を飛ばすことも手取り肘取りバスケの作法を教授することもない、音痴な鼻歌を口ずさみもしない、僕の友達だったレイジは永遠に消えてなくなってしまった。

 レイジの顔をした男は語る。
 レイジを騙って、失われし思い出を物語る。

 「楽しかったな、あの時は。またやりてーな、バスケ」
 「もう、こりごりだ……右往左往駆けずり回って体力を浪費して……ばかばかしい……」
 「楽しんでたくせに。知ってるんだぜ、ずっと見てたから」

 大きな手がくしゃりと髪をかきまぜる。
 サムライの手とは違う感触、違う撫で方。
 上から押さえつけるような手つきでもって僕をなで、耳朶で囁く。

 「これからは俺が遊んでやるよ。いやってほどな」 

 ペニスが極限まで膨張する。
 射精の寸前、ペニスが引き抜かれる。
 勢い良く口から引き抜かれたペニスから弧を描いて白濁が放たれ視界を染める。

 「かはっ、がほっ……」 
 青臭い粘液が顔面にぶちまけられる。
 先端の孔から勢い良く迸り出た精液は、狙い違わず僕の顔面に命中し、眼鏡のレンズに至るまで斑に汚し尽くす。 
 レンズを覆う白濁を拭う気力もなく、フェラチオだけで体力を使いきり、床に手足を付いて暴君を見返す。
 「すっげー顔。自慢のメガネが台無し」
 指を伸ばしレンズにつと触れる。 
 レンズに付着した白濁を指で引き伸ばし擦り付け、意味深にほくそ笑む。
 「バスケより楽しい事教えてやるよ」
 ランプの光が酷薄な翳をつける顔で笑い、優雅に翻した手で僕の肩を掴み押し倒す。
 背中が固く柔らかいものに当たる。
 セメント袋を敷き詰めた上に押し倒されたのだと気付いた時には、既に暴君が体重をかけてのしかかっていた。 
 「望みのもんをくれてやる。売春班が天国に思える地獄に堕として苦痛と快楽をすりかえてやる」
 前髪の被さった奥から荒みきった光を放つ双眸が覗く。
 弛緩した体をセメント袋の上に投げ出した僕は、白濁に塗れた顔を暴君の肩越しの天井に向け、瞬きも忘れ放心する。
 ランプの光が波濤めいた陰影をつける天井にロンの面影が浮かぶ。
 人懐こく笑うロンの面影が薄れたのちに、サムライの顔が映し出される。
 こんなに近くなのに、手を伸ばしても届かない場所にふたりはいる。
 もはや完全に僕から遠ざかってしまった。

 サムライも、
 ロンも、
 レイジも。
 
 皆、消えた。
 僕の友達は、消えた。

 僕はひとりだ。
 長い長い歳月を経て、長い長い回り道をして、ひとりに還った。

 「『あなたは私から愛する者や友を遠ざけてしまわれました。私の知人たちは暗いところにいます』」
 唇が勝手に動き、思念の表層に浮かんだ言葉を吐き出す。
 薄く骨張った背中にセメント袋があたる。
 レイジであってレイジでない男が、愉快げに目を光らせてこちらを覗き込む。
 僕は言う。
 呟く。
 空虚な心と空虚な体、それでも煽られつつある熱を意識し、唇を動かす。

 「『あなたは私の親友を私から遠ざけ、私を彼らの忌み嫌う者とされました。
  私は閉じ込められて、出て行くことができません。
  私の目は悩みによって衰えています。
  主よ。私は日ごとにあなたを呼び求めています』」

 眼鏡の内側にまで飛び散った精液が目に染みる。
 眼球に張った淡白の膜を瞬きでとりさり、怠惰に腕を翳す。

 目の前の男に身も心もすべて委ねきるように、
 魂までも明け渡すように。
 
 暴君に向かって両腕をさしのべ、暴君を通り越した虚空に視線を投じる。

 祈りが失墜する。
 魂が失楽する。
 身も心も堕落する。
 堕ちて、果てる。

 「『あなたに向かって私の両手を差し伸ばしています』」

 暴君の腕の中に失墜する。


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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050209023658 | 編集
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