ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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十三話

 「パーティーのはじまりだ。楽しもうぜキーストア」
 嗜虐の愉悦に酔った暴君が悪戯めかし顎を傾げ耳朶を咥える。
 豹がじゃれつくようなしぐさがかえって危機感を煽る。
 熱く潤んだ口腔に耳朶を含まれ予期せず声が漏れる。
 レイジを制止しようにも無駄だ、この体勢では物理的に不可能だ。
 僕は現在壁際に押さえ込まれている。
 壁に手を付いた前傾姿勢をとらされた僕の背にのしかかり今しも上着の裾をはだけ素肌を貪っているのは、暴君。
 欲情に荒げた息遣いがまざまざと興奮を物語り性急な衣擦れの音が焦燥を煽り立てる。
 身動きを制限された苦しい体勢からどうにか首を捻り暴君を仰ぐ。
 僕の背に覆い被さった酷薄な笑みを絶やさずほつれた前髪のかかる隻眼にぎらつくぬめりをおびた光を湛えている。
 凶暴な目。
 食欲と性欲の区別が付かない暴君は片時たりとも手を休めず僕の素肌を貪っている。
 しっとり汗ばむ掌が皮膚を擦り、ゆるやかな快感が生まれる。
 しなやかな五指が愛撫を紡ぎ野蛮な熱が注ぎ込まれる。
 「やめろレイジっ、正気に戻れ!ロンが見ている前でこんな事をして自虐に走るのはよせっ、今君がすべきことはこんなくだらない事じゃない、いい加減目を覚ますんだ!」
 「うるせえ」
 返答は短くそっけない。
 掌が後頭部を包んだかと思いきや視界がぶれ首が項垂れる、暴君が力づくで後頭部を押さえ込み下を向かせたのだ。
 衝撃で眼鏡が鼻梁にずれる。
 僕自身の吐息で仄白く曇ったレンズに灰色の床と薄汚れたスニーカーが映る。
 僕はさかんに身じろぎどうにか振り払おうと努めるも暴君は僕の背中にぴったり体を密着させもはや完全に抵抗を封じ込めてしまった、今更どれだけ奇声を発し抗おうが毒々しい嘲笑を浴びせられるのみだ。
 図書室を出てからの道のりがコマ落としのフィルムの如く脳裏を巡る。
 瀕死の斉藤を書架の奥に隠し二人手分けして床の血痕を片付け椅子を直し机の位置を調整し終えた僕らは、あたりを十分窺い目撃者がいないのを確認後図書室を辞した。
 事件現場からは暴君の助力により傷害の痕跡が一掃された。
 暴君は非常に手際よく手慣れた手つきでもって床一面に飛び散った血痕を一滴残らず拭い、床に横倒しになった椅子を元の位置に戻し机の上に遺留品はないか改め事件を隠蔽した。
 恵が描いた絵は素早く畳んでポケットにしまった。
 たとえそれが僕の偽善を糾弾し欺瞞を暴く告発文書であっても妹が描いた絵をその場に捨て置くことはできなかった、破いて捨てるなどもってのほかだ。
 僕は興奮冷め遣らぬまま、半ば放心状態でレイジについて廊下に出た。
 行くあてもなく、ただただ図書室から離れたい一心でやみくもに歩きながら上着が覆う背中に施された十字の烙印をどうしても意識してまう。
 噛み切られた唇がじくじく疼く。
 唇のささくれた痛みにもまして新たに背負わされた不可視の十字架が足取りを重くする。

 『忘れるなよキーストア。俺とお前は共犯だ』
 暴君の宣告が絶望の余韻を帯びて殷々と蘇る。
 『忘れるなよキーストア。俺もお前も人殺しだ』
 僕の背を裸に剥いて贖罪の十字架を課し暴君は恍惚と呟く。

 僕は今日を限りに暴君の専属奴隷となった。
 背中に十字架を刻む儀式は契約だ。
 僕は斉藤の殺人を隠蔽し恵の名誉を守るため悪魔に魂を売り渡したのだ。サムライとの関係を壊すのを承知でこれまで彼との間に築いてきたものを根こそぎ破壊するのを覚悟の上で、暴君の怒りを鎮める生け贄として我が身を捧げることになった。自己犠牲、自己憐憫……否、極論すればこれとて自己満足の帰結だ。自己犠牲など口にするのもおこがましい、すべては僕の欺瞞と偽善にもとづく代償行為なのだから。

 僕は暴君に身を捧げ魂を売った。
 暴君は僕の弱みを掴み優位に立った。

 暴君は二階から僕が斉藤に危害を加えるところを一部始終目撃していた、のみならず自ら共犯を買って出て意識をなくした斉藤を隠すのを手伝った。
 暴君には逆らえない。
 彼の命令に逆らえば最後暴君は事件の真相を暴露し僕を破滅に追い込む。否、僕が破滅を迎えるのは自業自得だ。
 しかし恵は、
 『おにいちゃんが死ねばよかったのに』
 恵を道連れにするのは僕が望むところではない、それだけは何としても避けねばならぬ最悪の事態だ。
 暴君は図書室の二階から僕と斉藤の会話を一言一句漏らさず聞いていた、ということは僕と斉藤を除いて鍵屋崎夫妻殺害事件の真相を知る唯一の人物ということになる。
 暴君は真実の鍵を握っている。
 暴君の意向に逆らえば鍵屋崎夫妻殺害事件の真相が明るみにでるおそれがある。
 そして僕は、暴君の掌の上で踊らされる運命に甘んじることにした。
 そうすることでしか恵を守れず真相の漏洩を防げないのならつまらないプライドなど捨ててやる。
 この決断がサムライを裏切りこれまでの関係を壊すことに通じるとしても僕は甘んじてそれを呑む、偽善者の謗りを受ける。

 誰も幸福にしない真実など永劫の闇に葬り去ってやる。
 誰をも不幸にする真実など暴き立てる値打ちもない。
 だから僕はー………

 「!?っあ、」
 「なに考えてんだ?前戯中によそ見されんの嫌いなんだよ」
 首筋に熱が爆ぜ思考が拡散する。
 ふてくされた囁きが耳朶を打つ。
 熱い唇で僕のうなじを辿った暴君が冷徹な光が沈む隻眼を細める。
 褐色の手が上着をたくし上げ肌を這いまわる。
 貪るような手つきに衣擦れの音が混じり息遣いが速くなる。
 僕は壁に手を付き両腕の間に深々頭をたらし野蛮な愛撫にされるがまま身を委ねていた。
 視線滑らせ隣を見る。
 僕と同じ格好で壁に手を付かされたロンに道了がのしかかっている。
 「あっ、ひあ、ふくっ……道了、や、やめ、うあ………頼む、から、ここではやめてくれ……こんな廊下のど真ん中で……レイジの前でっ……」
 涙の跡も生々しい頬をひくつかせロンが痛切に訴える。
 汗で濡れそぼつ髪が額に纏わり付き熱っぽく潤んだ目は焦点が合わず茫々と虚空をさまよい、だらしなく緩んだ唇からはひっきりなしに吐息まじりの嘆声が漏れる。
 淫蕩に上気した頬があどけない顔に倒錯した色香を添える。
 ロンは壁に縋り辛うじて体勢を保っている状態で少しでも気が緩めば腰砕けに座り込んでしまいそうだ。
 「犯る、なら、房に帰って、からにしろ、よ……こんな、場所で……コンクリ壁に手え付かせて、立ったまま、なんて……悪趣味にも、程があるぜ」
 一週間ぶりに見たロンは心なしやつれていたが減らず口は健在だった。
 拳で力なく壁を殴り、ぷつんと途切れて闇に滑り落ちそうになる意識を何とか現実に繋ぎとめながら憤怒に燃える三白眼でぎっと道了を睨む。
 人慣れぬ野良猫を思わせる反抗的な目つきは記憶の中のロンそのままで、やはり幼児退行は演技だったのだと悟る。
 「感じている姿を見せてやれ。あんなに会いたがってたんだ、再会できて嬉しいだろう」
 ロンの前髪を一房雑草を毟るように鷲掴み、むりやり顔を引き上げた道了が淡々と言う。
 前髪を引き毟られる激痛に顔を歪めるロン、その目が物狂おしげに暴君を見詰める。
 乞うように、縋るように、ただただ一途に。
 ロンの目に激情が爆ぜる。
 悲哀、焦燥、憤怒、絶望……それらが混沌と入り混じり沸騰した炉の色。自分が目にするものが信じがたいといった驚愕と戦慄が綯い交ぜになった表情で瞬きも忘れ狂おしく一心に一途に暴君を見詰め続ける、しかし暴君はロンの声なき悲鳴を無視しその視線をはねつけますますもって愛撫の手を加速させる。
 「レイジっ、どうしちまったんだよ!?」
 絶望に打ちひしがれたロンが怒号を発する。
 「俺がわかんねーのかよ見えねーのかよ、ロンだよ、お前のロンだよ!お前の相棒のロンだ、俺はここにいるんだ、どうしてさっきから一度もまともに見ねーんだよ、さっきからずっと無視しやがって……なあ、何か俺に言いてえことあるだろ?責めるでも罵るでも詰るでもなんでもいい、お願いだから何か言ってくれよ、ちゃんとこっちを見てくれよ!?怒ってんのか?そうなのか?俺がしたことに腹を立ててんのか、だからずっとシカトこいてやがんのか。ならはっきりそう言えよ、俺に腹立ててんなら鍵屋崎にあたんのよせよ、気が済むまで俺のことぶん殴ってぶち殺してくれよ!!」
 憔悴激しいロンが自分の胸を切り裂き奥に手を突っ込み掴みだした血の滴る言葉を投げ付ける。
 狂おしく身をよじり道了から逃れようと努め暴君に向かって脱臼せんばかりに手を伸ばすも、その手はあと1センチ足らずで届かず虚空を毟りとる。
 溺れるものが藁をも縋るように必死な形相で、見開いた目に絶望と渇望を去来させ、はだけた上着から扇情的に肌を覗かせたロンが叫ぶ。
 「レイジ、俺、おれっ………」
 嗚咽が濁る。顔がくしゃくしゃに歪む。
 今にも涙腺が決壊しそうなのをなけなしのを自制心を振り絞り塞き止めているような、痛々しいまでに幼さが剥き出しとなった顔を振り向け、どうしてもこれだけは伝えたいと喉の奥から掠れた声を絞り出す。
 今もっともレイジに伝えたい言葉を。

 『対不知………!』
 ごめん。
 ロンは言った。

 道了にペニスをしごかれもう片方の手で胸板をまさぐられ快感に息を喘がせながら、涙の跡が痛々しい顔に思い詰めた色を浮かべたどたどしくも懸命に言い募る。

 「ごめん。お前に、酷いことした。お前を裏切った。お前のこと知らん振りして、だまして、ガキのふりして……道了の所にいった。お前をひとりぼっちにするのを承知で、道了と一緒に行った。ごめん。背中を向けて、ごめん。呼び声を無視して、ごめん。俺、ほんとはわかってたんだ。ひとりにされたお前がどんだけ傷付くかちゃんとわかってたけどでもどうしても許せなかった、お袋と梅花を殺しときながら肩で風切ってほっつき歩いてるこいつが許せなかったんだ。こんな奴にふたりが殺されたのかと思うと辛くて遣り切れなくてどうしようもなくて、だってお袋も梅花も今頃生きてるはずで、二人が死ななきゃいけない理由なんか俺とかかわったことしか見当たらなくて、でも何で俺とかかわっただけで二人が死ななきゃならなかったのかわかんなくて、頭ん中ぐちゃぐちゃで、胸ん中はもっとぐちゃぐちゃで……苦しくて。吐きそうで。吐けなくて。お前が大好きだよレイジ、それは本当だ。けどさ、俺とお前さえよけりゃお袋と梅花はどうでもいいかって割り切れるかっていうと……違うんだ、そうじゃないんだ。そうならなかったんだよ」  

 力一杯振り下ろした拳が壁を穿つ。
 上体を支える両腕のあいだに頭を突っ込み、ロンが小さくかぶりを振る。

 「悪かった。お前に嘘ついた、突き放した、おいてった。俺は……最低だ。最低の半々だ」
 傷だらけの拳を振り上げ振り下ろし何度となく壁を殴打する。
 開いた傷口から新たな血が滴り拳が朱に染まる。自分を殴る代わりに壁を殴り延々自責と謝罪の言葉をくりかえす、やがてそれは呪詛となり瘴気を放ち錆びた毒が回るようにロンを蝕んでいく。
 両腕のあいたに顔を伏せ本音を叫ぶ。
 相棒にあわせる顔がないとばかりに、
 自分の存在を呪うように。
 「お前に会いたかった。すっげえ会いたかった。裏切っといていまさらこんな事言えねえけど、でも」
 悲痛な独白は悲鳴により遮られた。  
 道了がロンの足を膝でむりやりこじ開け、腹に密着するほど勃起したペニスを手にとったのだ。
 「あっ、ひあ、あぅく……」
 「おしゃべりの時間はおしまいだ。お前が聞かせるのは喘ぎ声だけでいい」
 残酷な手がゆるゆるとペニスを擦る。
 ロンの腰ががくんとおちる。
 後ろにさしこまれた道了の膝に尻を乗っける形で姿勢を崩したロンが弛緩した口から荒い息を吐き出す。
 ペニスを掌握した手の動きに合わせ膝が律動する。
 手と膝から同時に送り込まれる律動に尻を弾ませ恥辱に塗れた喘ぎ声をあげるロン、道了はその声を愉しむかのように薄っすらと目を細める。
 「やめ、道了やめっ……頼むから、あっ、や、レイ、ジと、かぎやざき、が、みてんのにっ……この、露出狂の変態やろうっ……」
 喘ぎ声を噛み殺す歯の間から掠れた罵倒を浴びせるロンの背中に鍛え抜かれた胸板を重ね道了が陰湿に囁く。
 「露出狂はどちらだ?好きな男と友人に痴態を見られてしっかり勃たせているくせに。ペニスだけじゃない、乳首も……」
 ロンのうなじに顔を埋め塩辛い汗を啜る。
 ざらついた舌がうなじを這う感触の不快さにロンが顔をひくつかせしきりと身動ぎする。
 体前に回った手が、薄い胸板をまさぐり乳首を摘む。
 「!痛っあ………、」
 見開かれた目にしっとりと涙の膜が張る。
 道了がぎゅっと乳首を摘む。
 快楽ではなく痛みを与えるのが目的だといわんばかりに、折檻の一環とばかりに。
 道了の指の間で絞られた乳首が痛そうに充血し、羞恥に身を焼かれ正気を蝕まれたロンが喉仰け反らせ激しく首振り最大限の抵抗を示す。
 道了はロンの抵抗をもろともせず、否、ロンの苦しみ歪む顔と非力な抵抗こそ行為に興を添えるとばかり邪悪な蛇の如く金と銀の目の輝きを深め乳首を弄繰り回す。
 「乳首がこりこりとしこっている。固く尖って痛そうだ。裸を露出して興奮しているのか?仲間に見られて興奮しているのか?そうなんだろう、お前はどうしようもない淫売だからな。かつてともにいた男に思うさまよがり狂うところを見られペニスから汁をたらし、俺に弄ばれ歓喜の喘ぎを上げ………」
 「言う、な……はあっ……あ、あぅあ……道了、手え、はなせ……やめ……も、揺すんなっ……」
 徐徐に首振りの力が弱まる。
 語尾が嗚咽に掠れる。
 しかし道了はやめない、ロンの薄く貧相な胸板を片手で愛撫し両の乳首を引っ張り指の腹で潰し転がし絶えずこりこりと刺激を与えてやる。道了にさんざん弄くり捏ね回された乳首は今や陰核の代替物となり、外気に晒されるのすら切ない刺激となってぴくぴく震えている。壁に上体を寄りかからせずり落ちるロンの腰を道了がむりやり引き上げ行為を継続する。
 壁に凭れたロンの目が淫蕩に濁り始める。
 汗でびっしょり濡れそぼった前髪の奥、今にも瞼がおち閉ざされそうな目が、一縷の希望に縋る悲哀を映じ暴君を捉える。
 「レ、イジ…………ゃあ、レイ、じぃっ……」
 ロンの顔が泣きそうに歪む。
 暴君へとさしのべた手が宙で迷うー……
 もう耐えられない。
 「レイジっ、ロンの声が聞こえないのか?!」
 もう限界だ。
 僕は精一杯壁から身を起こし鼓膜がびりびり震える怒号を放つ、何とかして背に覆い被さる暴君を正気に戻そうと恫喝する。
 「お前は自分のことだけ考えてろ。ま、じきに他人を気にする余裕なんざなくなるけどな」
 さりげなく言い放ち飄々と笑う。
 だが騙されない。その目は決して笑っていない、どこまでも冷え冷えとした虚無を湛えている。
 「!っあ、やめ………」
 「他人の感じてる顔で興奮したのか?前が固いぜ」
 甘く掠れた独特の響きをもつ囁きに孔雀の羽で耳裏をくすぐられるような極彩色の官能が湧き起こる。
 危険な色香を含む流し目がうなじを這う。
 熱をもった部位に視線を感じる。
 うなじに重点的に注がれていた視線がやがて首筋を下り服に包まれた腰のラインを執拗に辿り始める。
 愛撫の余韻に息を喘がせながら必死に思考を纏め、口を開く。
 「ロンが他の男に犯されても何とも思わないのか、君は本当に変わってしまったのか?」
 コンクリート打ち放しの通路を不安定な緊迫を孕んだ沈黙が覆う。
 蛍光灯の光を弾き、鈍い黄金の輝きを放つ髪の隙間から空虚に醒め切った視線が放たれる。
 僕は体ごと向き直り暴君に食い下がる。
 ズボンのポケットの中で十字架の鎖が擦れ合い澄明な旋律が耳朶を打つ。
 視界の端ではロンが犯されている、道了にのしかかられ片手でペニスをしごかれもう片方の手で胸板をまさぐられ汗みずくで息を喘がせ縋るようにこちらを見ている。
 重たく垂れ下がり始めた瞼の奥、朦朧と霞む目で暴君と僕とを捉え、切れかけた絆を繋ぎとめようと震える手をこちらに伸ばしてくる。
 「れい、じ………」
 「レイジっ!!」
 肩を掴む手に力がこもる。
 暴君は僕の手を振り払おうともせずじっとこちらを見詰める。
 伸びた前髪が隠す表情には深遠な翳りが射し、唯一残る色素の薄い硝子の瞳は瞬きもせず儚い倦怠の色をたゆたわせている。
 僕は一切の加減容赦なく肩を揺さぶり彼の正気を揺り起こしにかかる、暴君の奥底で眠りについたレイジを覚醒させ現実に引き戻そうと激情に駆られて肩を揺さぶり叫びを放つ。
 
 「ロンは確かに君に嘘をついた裏切った!だがそれが何だ、君とロンの関係はその程度で壊れてしまうものなのか、その程度であっけなく壊れてしまうほど君たちが積み上げてきた歳月は脆いものなのか!?思い出せレイジ、君はずっとずっとロンと一緒に居た、ずっとずっとロンのすぐそばで彼を見てきたはずだ!僕は忘れてない、たとえ君自身が忘れても忘れない、君がかつてロンを救い出すため売春班撤廃を賭けペア戦100人抜きに挑んで左目を失ったことを忘れてない、体の一部を犠牲にしてまでロンを守り抜いたことを忘れない、君がロンをそれほどまでに好きでいたことを決して忘れない!!その気持ちが今も失われてないなら出て来い、いつまでも暴君をのさばらせておくんじゃない、暴君に好きに体を使わせておくんじゃない!!」 

 僕は叫ぶ、この声が暴君の奥底のレイジに届けと喉破れ血を吐かんばかりに声を張り上げる。
 僕は信じる、今もまだ暴君の奥底に王様が存在していると。
 レイジは完全に消滅したわけではなく暴君の奥底に潜在しているだけだと、展望台を去る間際のように必ずや僕の呼びかけに応え浮上するはずだと。
 ロンは友人だ、レイジは友人だ、ふたりともかけがえのない友人だ。 僕が東京プリズンで得たかげかえのない仲間だ。二人の心が離れ離れになるのは耐え難い、引き裂かれる二人を見るのは辛い、もうこれ以上耐えられない。

 ふたりは一緒じゃなければ駄目だ。
 駄目なんだ。

 「聞いてるのかレイジ、これ以上僕に喉を使わせるんじゃない!!」
 ポケットの中で十字架が音をたて、鎖が擦れる清涼な旋律をヒステリックな怒声が打ち消す。
 僕の声は、レイジに届かないのか?
 暴君に言葉は通じないのか?
 徹底した無反応と底知れぬ沈黙を保つ暴君と対峙、世界の地盤が崩壊するような絶望感に襲われる。
 「あっ、あっ、あぁあああっあ………」
 反射的に振り向く。
 壁に上体を突っ伏したロンの尻がむりやり引き上げられ赤黒く勃起したペニスが肛門にめりこんでいく。
 「見るなレイジ、見ないでくれっ……」 
 道了が体重かけロンの背中にのしかかる。赤黒く巨大な男根が肛門の筋肉をみちみちと押し広げロンの背が弓のようにしなう。
 ロンが絶叫する、長く長く絶叫する。
 絶叫の余韻が大気に溶け込むのを待たずまた激痛が炸裂、生理的な涙があとからあとから頬を濡らし力を込めて噛み締めたせいで切れた唇から血と唾液の混ざった泡が垂れ粘ついた糸を引くー……  
 「!!ロンっ、」
 体が勝手に動く。
 道了とロンを引き剥がそうと床を蹴り全速力で走り出す僕の頬を切れ味鋭い風が薙ぐ。

 そして、それが起きた。
 一瞬の出来事だった。

 強靭かつしなやかな脚のバネを駆使し高々と床を蹴り宙に舞った暴君が音もたてず道了の背後に着地、右足を軸に左足を一閃。
 俊敏な弧を描いて風切り宙に乗じた左足は狙い定めたかの如く側頭部に炸裂、水平に衝撃を受けた道了が体ごと吹っ飛ばされる。
 轟音、衝撃。
 暴君が放った蹴りの威力は絶大で、道了はろくに受身もとれず床に着弾し連続で二回跳ね、壁に激突し漸く停止する。
 壁に振動が走り蛍光灯が揺れ埃が降り注ぐ。
 背中から壁に叩き付けられた道了は脳震盪でも起こしたものか深々とうなだれ微動しない。
 横一文字に裂けたこめかみの傷口からぱたぱた血が滴り床に染みを作る。
 僕は廊下の中央に慄然と立ち尽くし、瞬きも忘れその衝撃的な光景を見詰めていたが、不意に金縛りがとけてこの場における最優先事項を思い出す。
 「大丈夫か、ロン!」 
 壁際にぐったり座り込んだまま、もはや自力で立ち上がる気力体力もないロンのもとへ駆け寄り、背中に手をあて慎重に抱き起こす。
 接近してすぐ様子がおかしいことに気付く。
 ロンはまるで他人の接触を拒むように身をよじり僕の手を振り払うと、勃起したペニスを隠すようにズボンを引き上げる。
 「ロン、どうした?どこか痛むのか?すぐに医務室へ……」
 「!ひあっ、や、あぁあっ!!」
 ロンの体調を気遣いそっと肩に手を置けば、焼き鏝を押し当てられたかのような過剰な反応を示し不規則に痙攣する。
 恥辱に頬を染めたロンが表情を読まれるのを避け深々俯き、掠れた息遣いのはざまから途切れ途切れに乞う。
 「……み、んな、かぎやざき……はっ……たの、むから……さわ、んないでくれ……今、おれ、おかしい……体がいうこと、きかね……っ。お前にさわられらだけで、イッ、ちま………た」
 羞恥に苛まれ語尾が消え入る。
 漸くその股間がぬれているのに気付く。
 無防備に肩にふれたのがきっかけで射精してしまったのだ。
 内腿に飛び散った白濁を正視できず、上半身裸でおこりにかかったように震えるロンの傍らに立つ。
 物問いげにこちらを仰ぐロンの前で上着を脱ぐ。
 外気にふれてぞくりとする。
 脱いだ上着をロンに放り顎をしゃくる。
 「医務室に行くぞ。ひとりで歩けるか」
 僕から借りた上着で裸の胸を隠して頷き、壁に縋るようにして何とか立ち上がる。
 体が辛そうだ。
 おそらく薬を使われたのだろう、それも媚薬のたぐいを。
 壁に寄りかかって一歩二歩と踏み出すあいだも燃えるような劣情と性的な昂ぶりに炙られているらしく、ロンには少し大きすぎる僕の上着越しに、尖った乳首がくっきり浮いているのがわかる。
 道了はたいした怪我じゃない、放っておいてもかまわないだろう。
 ロンの歩調に合わせ進み始めた僕の眼前に、底知れぬ威圧を放ち、厳粛な沈黙を纏う影が立ち塞がる。
 「……………レイジ」
 ロンがその名を呼ぶ。
 言葉を発するのすら苦しい体調を押して、絶望と安堵が溶け合った複雑な表情で、淫蕩な熱に浮かされ朦朧としたロンが口走る。
 「俺、お前に謝らなきゃ……ずっと、ずっと、謝りたくて……謝って許してもらえるもんじゃねーけど、でも……」
 蛍光灯が点滅する廊下をふらつく足取りでロンが歩きだす。
 一歩、二歩と距離が縮まる。
 薄暗がりに包まれた廊下を暴君を目指して歩き、ロンが笑みを浮かべる。
 「会いたかった」
 泣き笑いに似て悲哀に満ちた表情に胸が痛む。
 足をひきずるように暴君のもとへ向かう。
 一歩一歩慎重に床を踏みしめ、今にも足が縺れ転びそうになりながら、体を苛む淫蕩な熱にともすれば屈しそうになりながら、下唇を血が滲むほど噛んで喘ぎ声を押し殺し、長い長い気の遠くなるように長い道のりを経て遂に暴君のもとへ到達する。 
 「すっげえ会いたかった」
 暴君まであと三歩という距離でロンが手をさしのべる。
 暴君がこの上なく優しく澄んだ笑みを浮かべる。
 聖母のように慈愛に満ち溢れた笑みを湛えた暴君が、寛大に両腕を広げロンを迎え入れる体勢をとる。
 抱擁。
 「………死ぬほど会いたかった」
 僅かに腰を低め抱擁の姿勢をとった暴君のもとへ縺れる足取りで必死に近付いていくロン、その手がゆるやかに宙を泳ぎ暴君の頬にー……

 暴君は言った。
 この上なく優しく神聖な微笑を浮かべ、
 前髪のかかる隻眼に柔和な光を宿し。
 「この淫売が」

 間近まで迫ったロンの笑顔が凍り付く。
 暴君の頬に触れようとした指先が止まる。
 暴君がうっとうしげにロンの手を薙ぎ払う。
 容赦なく手を薙ぎ払われたロンがバランスを崩し転倒、みじめに床に這ったロンの鼻先に一対の靴が現れる。何が何だかわからぬまま混乱して見上げるロン、口の端にはまだ笑みのかけらが漂っている。
 叩き払われた手が薄赤く熱をもち腫れ始める。 
 床に這い蹲ったロンが見上げる前に暴君は無言で佇む。
 祝福と救済の光に包まれた聖母の如く慈悲深い微笑が、いつしかマグダラのマリアの如き背徳と退廃の翳りを帯び始める。
 「レイ、ジ……お前、レイジだよな?」
 暴君の足元に這ったロンが打たれた手を庇い縋るように聞く。
 暴君の膝に縋り付き這い上がるように上体を起こし、泣き笑いに似た表情で心を蝕む絶望を覆い隠し、たどたどしく聞く。
 次の瞬間、ロンが無造作に蹴倒され床を滑る。
 もんどり打って床にひっくり返ったロン、低く呻いて上体を起こそうとするその努力を嘲笑うかのごとくその手を靴裏が踏みにじる。
 「!!痛っ……」
 暴君の靴裏がロンの手を踏みにじる。
 床に這い蹲ったまま悶え苦しむロンの手を靴裏で残忍に捏ね回し泥を絡め、狂気じみた微笑を湛えて宣言する。
 「あいつはもういない。俺が食っちまったよ」
 暴君がおもむろに屈みこむ。
 ロンの前髪を乱暴に鷲掴み強引に上を向かせるや、痛みと絶望とに侵され慄然と固まったロンの顔を舌なめずりせんばかりに覗き込む。
 「お前のレイジはもういないんだ。跡形残らず消えちまった。冷たく暗い闇の底で膝抱えて縮こまってた王様はもういないんだ」
 「嘘だ」
 「本当だ。全部お前のせいだ、お前の裏切りが原因だ、お前があいつを追い詰めたんだ」
 コンクリート剥きだしの通路に終末の余韻を帯びて哄笑が反響する。
 ロンの背後で慄然と立ち竦む僕の視線の先、突如反り返るようにして暴君が笑いだす。
 背骨がへし折れんばかりに仰け反り両腕をばたつかせ壊れたハーモニカを吹き鳴らすように甲高く躁的な哄笑を上げる、上げ続ける。
 大気をびりびりと震わせ鼓膜をびりびりと張らせ喉も破裂せんばかりに音程がくるい振幅の激しい破滅的な哄笑を上げ続ける。

 「王様は死んだ、王様万歳!ああ本当に長かったぜ待ちに待ったぜこの時を、あの腰抜けは俺の奥底にケツまくって逃げ込んでもう一生出てこねえ、俺はあいつを食った、王様は俺の晩餐になったんだ!マザーグースにあんだろ、母さんが僕を殺し父さんが僕を食べ兄弟がテーブルの下で骨を拾い冷たい大理石の下に埋めるってあの歌とおんなじだ、俺があいつを殺し俺があいつを食い骨を拾い埋めたんだ!とうとうこの体は俺の物だそれもこれもお前のおかげだお前があいつを暗闇に突き落としてくれたおかげだ、感謝するぜ淫売ありがとよ裏切り者!!」

 My mother has killed me,
 My father is eating me,
 My brothers and sisters sit under the table
 Picking up my bones
 And they bury them under the cold marble stones……

 殻をぶちやぶり産声を上げるが如く勝利の歌を奏でる暴君、そのどこを探してもかつてのレイジの面影はない。
 相変わらず音痴な歌声だがそれはもうレイジじゃない。
 暴君はストレンジ・フルーツを歌わない。

 レイジは消えてしまった。
 暴君に食われてしまった。

 「あ…………あ、あ……………」
 ロンの目が極限まで見開かれ瞳孔が収縮し視界を占めるおぞましい暴君の笑顔、やがて震えは全身に広がりロンは床に這い蹲ったまま声にならぬ呻きをもらしそしてー………

 「レイジぃいいいいいいいいいいいいいいいいいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃッッッ!!!!!!」 

 もういない男の名を呼んだ。


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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050301122555 | 編集
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