ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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十二話

 「俺を謀った罪を贖え」
 押さえ込まれたらひとたまりもない。力の差は圧倒的だ。
 道了は上背と膂力に利して俺を押さえ込み膝を押し開く、俺は四つん這いの格好で道了に高々と尻を引き上げられ身を焼く恥辱と腹の底で暴れ狂う憎悪を飲み干す。
 手負いの獣の如く喉から唸り声を発し威嚇するも、道了の手は少しも緩まずかえって非情さを増し俺を追い立てる。
 「ひあっ!?」
 声が跳ねる。腰が弾む。
 俺の意志を裏切り快楽に慣らされた体が震える。
 倒錯した快楽の味を仕込まれた俺の体は道了の手がひやりと膝裏に触れただけで反応を示し背筋に沿ってぞくりと官能的な震えが走る。
 肌に触れた手から静かな怒りが伝わってくる。
 道了の怒り……想像するだに恐ろしい。
 鉄板の如き平板な表情はそのままに金と銀の目に狂的な滑りを帯びた輝きをやどし、道了は容赦なく俺の背にのしかかり股を開かせる。
 裸の背に腹が密着し二人分の汗が交じり合う。触れた部位から規則正しい鼓動が直接流れ込んでくる。
 道了の心臓が脈打つのを背中に感じながら俺はシーツを噛み身構える、これから自分の身に何が起きようとしてるのか頭が考えるのを拒絶する、情けない事に俺はたやすく道了に裏返されてこのざまで復讐なんて口先だけでお袋と梅花の仇をとるなんてもはや不可能に近い。
 これじゃあレイジを裏切った甲斐もねえ俺は何のためにレイジを裏切って哀しませたんだ?
 自問の嵐が脳裏で荒れ狂う。
 俺がしたことは無駄だったのか、道了にゃ全く歯が立たねえのか?
 どす黒い絶望が脳裏に染み渡り虚無感が胸の真ん中に穴を穿つ。
 千々に乱れるシーツの上で奇声を発し滅茶苦茶に首振り足掻き苦しむ、淫らに波打つシーツを毛を逆立てた猫のように爪立て掻き毟り背中を撓らせる。
 俺は滅茶苦茶に暴れる、やり場のない激情に駆り立てられ腰にしがみつく道了を振りほどこうと狂おしく身をよじる。
 視界の端に鉄扉がちらつく。
 今すぐ道了を振り払いベッドを飛び降り裸足で鉄扉に向かう、転がるように廊下に出て一目散に駆ける。
 行き先は決まっている、レイジだ、レイジのところだ。
 俺は必死こいて走る、息せき切って走る。
 脇目もふらず一心不乱に心臓が蒸発せんばかりに全力疾走で走って走ってあいつのところに行く、相棒が待つ懐かしい房に帰る。
 こんな冷たい房はもううんざりだ、灰色のコンクリ壁は妙に冷え冷えとして配管と配線剥き出しの天井は妙に遠くてベッドは俺の汗と道了の汗を吸っていつもじっとり不快に湿っている。
 ここは俺がいたい場所じゃない、俺が居心地いいと場所じゃない、俺の居場所じゃない。
 俺は俺の房に帰りたい、レイジのいるところに帰りたい、相棒の馬鹿笑いが絶えないあの房へ懐かしい房へ見慣れた房へ帰りたい。
 一年と半年馴染んだあの房へ、壁には濃淡にとんだ不気味な染みが浮き出てべたべた手形が付いた鏡に亀裂が走りベッドのペンキはところどころ剥落しみすぼらしい地金を晒したあの房へ帰りたい。
 指紋で仄白く曇った鏡に映る俺の顔レイジの顔、俺が顔を洗ってると起きてきたレイジが毎回性懲りなく邪魔して鬱陶しかった。
 レイジは洗顔中の俺の背後にそうっと忍び寄りいきなり抱きついてくる、前ぶれなく首ったまにかじりつかれた周章狼狽して毎回跳び上がる羽目になる。
 どうかするとずうずうしくも首筋を舐めてくる、猫みたいにざらついた舌が首筋を舐めて塩辛い汗を啜るたんびに俺は怒号を上げる。
 けれどもレイジは反省の色なんざかけらもなく涼しい面で笑っている、「お前が油断するのがわりーんだよ。お勉強になったろ?」と悪びれず言い放つ始末でまったく手におえねえ。
 レイジは毎回毎回ちょっかいをかけてくる、スニーカーで尻を蹴り上げられてもへらへら笑いを絶やさずよってくる。

 『いつまでたっても成長しねーなロンは、そんな無防備だと命がいつくあっても足りねーぜ』
 『背後ががら空きなんだよ。毎回俺の接近を許すようじゃ凱どもに囲まれたら一巻の終わりだぜ』
 『首筋敏感だな、お前。まあお前の体で敏感じゃねーとこなんてねーけど……いてっ、冗談だっつの!』

 レイジは俺以上に俺の体を知っている。
 俺のからだの隅々まで知り尽くしている。
 どこをくすぐりゃ震えが来るかどこを突けばいい声を出すかどこを揉めば反応が返ってくるかレイジは全部わかってる。
 レイジはその指と舌でもって俺の性感帯をひとつ残らず制覇しそれでもなおテクの向上に余念がなく暇さえありゃ俺にいやらしいまねをし「すっげえエロい顔」と低い声で囁いた。

 レイジ。
 レイジ。
 レイジ。
 会いたい、お前に会いたい。

 今の俺にこんなこと言う資格なんかねえってわかってる、わかってるけど止めらない、お前に会いたい気持ちの暴走を止められねえ。
 しょっぱい水が瞼をぬらす。
 俺はどこまでも自分勝手だ。
 レイジを酷く傷付けるのを承知で道了のところに来たのに今お前に会いたいと本気で思ってる、お前の面が再び見れるなら死んでもいいと半ば本気で思ってる。
 頼む、会わせてくれ、あいつに会わせてくれ。
 心が悲鳴を上げる。とっくに麻痺して痛みなんか感じなくなったはずの心がじくじく疼いて血を流す。
 俺はわけもわからずひっきりなしに奇声を発しベッドの上でのたうちまわる、レイジの面影を掴み取ろうと肩が外れるぎりぎり限界まで腕を伸ばし大気をむしりとる。
 背中に密着する体温がうなじを湿らす息遣いが俺のケツをまさぐる手の感触がそれらすべてが不快で不快で俺は心底から道了を憎悪する。

 「はな、せよ道了……。梅花とお袋を殺した手で俺にさわんじゃねえぶち殺すぞくそったれ、梅花とお袋の血に汚れた手で俺の体にさわってんじゃねえよ畜生この人殺し、どうせおまえは熱い血の代わりに液体窒素か水銀かそんなどろどろしたもんが血管の中に流れてるんだろうさ、お前の首を切り裂きゃどろどろした有害な水がすごい勢いで噴き出してくるんだろうさ!さわるな、さわんじゃねえ、金輪際俺の体にさわんじゃねえ!!お前は感情のない人形だ、他の連中が陰口叩いてたとおり血も涙もねえ殺戮人形だ、人の痛みどころか自分の痛みも感じねえ出来損ないのジャンクドールだよ!
 殴られ蹴られて顔に痣作ってもお前に尽くした梅花の気持ちをわかろうともしないお前なんざ生きてる価値ねーよ地獄に落ちろ、どうせなら俺も一緒に地獄におちて假面ご自慢の目ん玉がほじくりだされるとこ見物してやる、眼窩の奥から根こそぎ回線引っこ抜かれて火花がはぜるとこ笑いながら見物してやらあっ!!」

 大量の唾飛ばし狂気じみた哄笑を上げ長い長い痙攣の如く全身を波打たせる。
 シーツの上で芋虫の如く伸び縮みし蠢く俺を道了が冷ややかに見下ろす。
 もうどうでもいい。
 自暴自棄な衝動が腹の奥底から込み上げ哄笑が貪欲に膨れ上がる。
 酸素を貪るように首仰け反らせ笑い続ける俺の背中に道了が手を添えかと思いきや、もう一方の手が無遠慮にケツをまさぐり始める。
 「!?………っ、あうっぐぅ」
 冷たく乾いた指がケツを抉り膝がへこたれそうになる。
 ケツの窄まりをむりやり押し開き指が突っ込まれる。
 第二間接まで曲がった指が何かを掻き出すように内壁をひっかき鋭い痛みが突き抜ける。
 まだ癒えてない傷口をむりやりこじ開けられるような痛み。
 シーツを噛んで苦鳴を押し殺す。
 道了は容赦なく俺の肛門に指を突き立て中をかき回す。
 粘膜がぐちゃぐちゃ鳴る。
 痛い、目も眩むほど痛え。
 固く閉じた瞼の裏側で赤い閃光が爆ぜ顎が強張り背骨が張り詰め全身の筋肉が緊張する。
 「殺す、なら、殺せよ……」
 朦朧とした頭で息も絶え絶えに呟く。
 生殺しは地獄だ。
 いっそひと思いに殺して欲しい。
 おそかれはやかれ道了の手にかかって死ぬ運命ならこれ以上屈辱を味わいたくない、これ以上痛い思いをするのはいやだ。
 道了に殴られ擦りむいた頬がひりつく。
 全身至る所に生じた傷口が外気に晒され塩でも刷り込まれたみたいにひりひりする。
 ちょっと油断すると気が遠のきそうになる。
 まどろみと覚醒を繰り返すあいまに意識は半透明の羊膜に包まれて瞼は鉛のように重くなり目を開けているのが次第に困難になる。
 体の芯に疲労が沈殿し間接が錆びたようにぎしぎし鳴る。
 瞼を上げるのにもなけなしの体力を振り絞らなきゃいけない状況下、極限まで張り詰めた糸のようにいつ意識がぷつんと切れてもおかしくない。

 一度堕ちたら這い上がれねえ。
 直感でそれがわかる。

 溶暗しかけた意識の中「もういい」と「まだ駄目」が綱引きする。
 俺はなけなしの意地にしがみつき死力を尽くし現実にかじりつく、ともすれば気を失いそうになるのに奥歯を食い縛り抗う。
 「……やれ、よ……お袋と梅花を殺ったみたいに、さ………どうぞご自由に、だ」 
 口元をひん曲げ、憔悴しきった面に不敵な笑みをこしらえる。
 道了に殺される。
 これはもう決定事項だ。
 俺は道了を裏切った、騙した、殺そうとした。
 道了は逆らう奴を決して許さない。
 俺はお袋の二の舞になる、梅花と同じ末路をたどる。
 二人のように嬲り殺され壊れたボロ人形さながら打ち捨てられる。
 道了は俺を憎んでいる。
 何故そこまで憎まれるのかわからない。
 半々だから?口答えするから?一体俺の何がそこまで憎悪をかきたてる?
 もういい、放っといてくれ。
 頼むから俺のことなんか放っといてくれ。
 お前が来るまでは楽しくやってたんだ、ようやっと出来た相棒と仲間に囲まれて食堂で騒いで漫画を読んで毎日それなりに最高に楽しく過ごしてたんだ。
 どうしてそっとしといてくれなかった、どうして追いかけてきた、どうして苦しめる?
 俺は娑婆のことなんか忘れてたかった、娑婆なんか存在しないふりをしてずっとずっとレイジや鍵屋崎やサムライと楽しくやっていきたかった。

 お袋も梅花も忘れて、
 お前のことなんか忘れて。

 「殺せよ………殺してくれよ……」
 哀願の調子が声に混ざる。
 語尾が情けなく震える。
 歯の間から嗚咽が零れシーツに点々と涙がちる。
 胸が苦しい。
 苦しくて苦しくて死んじまいそうだ。
 身の内で絶望の水位が上がり今にも溺れ死にそうだ。縋るものを求めぎゅっとシーツを握りこむ。塩辛い涙があとあとから湧いてきて頬をぬらす。
 涙腺がふやけるまで泣いて泣いて……塩水の貯蔵庫はとっくにからっぽだってのに俺の目ん玉はまだ泣き足りないのかよ?くそ、こんなんじゃレイジに笑われちまう。
 違う。
 レイジに出会うまでは決して泣き虫じゃなかった。
 レイジが俺を弱くした、俺が涙もろくなったのはレイジのせいだ。

 レイジが「もういいよ」って言ってくれたから、
 顔を伏せて泣くために肩を貸してくれたから。

 レイジの肩は頭を凭せ掛けて泣くのにちょうどいい位置にあって、だから。

 『お前さ、まだガキなんだから意地張らずに泣いていいんだぜ』
 いつだったかレイジが言った。

 裸電球を消した房の暗がりで、レイジの書いた下手くそな手紙を読んだ俺がベッドに座り込んで鼻を啜ってると、いつのまにか起きだしてきたレイジがいつも余裕ぶっこいたあいつらしくもねえ妙に慌てふためいた素振りで俺の顔を覗き込み、あったかい手で俺の髪をくしゃくしゃかきまぜながらそう言った。

 だから俺は、意地を張るのをやめた。
 あいつの前でだけは、意地を張るのをやめた。
 あいつの前では意地を張るのをやめ虚勢を捨て、ただのガキに戻った。

 俺の涙腺が脆くなったのはレイジのせいだ。 
 レイジが俺の心ん中にずかずか土足で踏み入ってきたから、俺の心ん中にいつのまにかどっしり居座って押しても蹴っぽっても出ていかねえからだ。
 俺は仕方なく心ん中にあいつの居場所を認めた。
 あいつの存在は日に日に俺の中ででかくなっていった。

 いつのまにか、あいつなしじゃ生きられなくなっていた。

 「………泣いてたまっか」
 レイジのいないところで泣いてたまるか。
 こんな奴に涙を見せてたまるか。
 引っ込め、涙。乾け。
 シーツに乱暴に擦りつけ頬の涙をぬぐう。
 俺はレイジの面影を胸に抱きしめ金輪際泣いてたまるかと誓う、道了に嗚咽を聞かせてたまるかと萎えかけた気力を奮い立たせる。
 道了は俺の背中にのっかってごそごそ動いてる。
 何やってんだ?
 ふやけた頭に疑問が浮かぶ。
 おもむろに指が引き抜かれる。
 「-っ………」
 虚脱感と物足りなさが同時にやってくる。
 だらしなく緩んだケツの穴に外気が忍び込み背中にうっすら鳥肌が立つ。
 これで終わり?
 まさか、こんな生ぬるい折檻があるか。
 安堵と不安が喉元まで込み上げおそるおそる首をねじり……
 「ひあっ、ふあぁあああっ!?」
 不意打ちだった。
 何か、冷たくて固いものが……プラスチックみたいな質感の異物をぐいと圧力を加え肛門にねじ込まれる。
 括約筋が収縮し異物を排泄しようとするのを道了が指で押さえて阻み更に奥へと突っ込む。
 冷たく固く細長いものが俺のケツの穴にむりやりねじ込まれる、内壁を削り奥へ奥へ到底掻き出せない場所にまで突っ込まれて漸く止まる。道了の長くしなやかな指がケツん中でぐちりと蠢く。
 「ひあっ、ひっ、はあっ、はっ……なに、ケツに、突っ込んだ、んだよ……だせ、よ……っあ……、」
 ケツん中に異物を仕込まれた。
 その異物は奇妙にのっぺりと冷たくてケツがきゅっと締まる。ちょっとでも動くとそれが刺激となりケツの奥深く挟まった異物が妙な具合に襞と擦れあい排泄の欲求にも似た切なくもどかしい感覚に苛まれる。
 顎先から滴り落ちた汗がシーツに染みを作る。
 点々と、点々と。
 ケツの筋肉を強張らせ苦痛に顔を歪める俺の背に、そっと手が触れる。
 「粘膜吸収性のカプセルだ。……どういう意味かわかるな」
 肩甲骨に沿って滑った手が、筆舌尽くしがたい絶望を与える。
 「セックスに使うと病みつきになるんだそうだ。試してみるのも悪くない」

 ケツに媚薬を仕込まれた。
 衝撃的な事実を知覚し恥辱に身が染まる。

 「っ、はっ……変態、やろう………てめえ、タジマといい勝負、だ……」
 「タジマ?」
 道了がかすかに眉をひそめる。
 怪訝な表情の道了に不敵な笑みを振り向け、せいぜい憎たらしく毒づいてやる。
 「前にここいにたド変態の看守だよ……囚人いじめが三度の飯より大好きな残飯漁りの豚だ。警棒しごくよか股間のものをしごくのが好きってな腐りきった手合いだ。お前にそっくりだよ、道了」
 体に異変が起こる。
 直腸の温度に馴染んだカプセルがじわじわ溶け出してきやがったのだ。
 媚薬を吸収した粘膜が熱をもち漣立ち、全身の肌が性感帯に造り変えられたように過敏になる。
 肌を切るシーツの感触も汗がうなじをゆるりと垂れる感触も俺の口から吐き出される熱い息が胸板にかかるのすら劣情をもよおす刺激となり早鐘の鼓動が肋骨に響く。
 耳の裏でどくどく鼓動が脈打ち耳朶がカッと熱くなる。
 体が、変だ。
 速攻媚薬が効いてきた。
 瀕死の犬みたいにはあはあ荒い息を吐きどうにか肘を付き上体を起こそうとするが、ぐらりと視界がぶれバランスを崩し、その拍子にあっけなくベッドからずりおちる。

 眼前に床が迫る。
 顔面激突は避けられない。
 激痛を予期し反射的に目を閉じるも、いつまでたっても衝撃が訪れる不審げに薄目を開ける。
 目と鼻の先に床がある。

 「来い」
 道了が俺の肘を掴み宙吊りにしていた。
 来い?どこへ?
 目で問う俺を無視し、手早く服を身に付けた道了が強引に俺を引きずり歩き出す。
 俺は膝までズボンが下りた情けない格好のまま縺れる足取りで道了に付いていく。
 足を繰り出すたびケツの中で溶けかけたカプセルがたぷんと波打って全身に波紋が広がる。
 俺は皮肉にも道了に縋るようにして歩くのをよぎなくされる。
 道了が俺の腕を掴みベッドから引き離し鉄扉を開ける、廊下に座り込みエロ雑誌を読んでいた見張りが弾かれたように顔を上げこっちを見る。
 「た、道了さん!?いきなりどうしたんスかっ、何か用なら俺が……」
 「ここで待っていろ。だれも入れるな」
 エロ雑誌を膝から滑りおとし立ち上がった見張りに素っ気なく言いおきその前を通過、道了がずんずん歩き出す。
 道了の手が腕に食い込む。
 手の甲を引っかき必死にこじ開けようとするも握力がすさまじく爪が立たたない。
 「どこ、いくんだよ、道了……っあ、はっ、あくっ………やめ、もっとゆっくり歩け、よ……体、変で……」
 今の俺は道了に縋らなきゃ立てない有様だ。
 道了に突き放されたら最後、自力で引き返えせず廊下の隅にうずくまって悶え苦しむはめになる。
 膝に絡んだズボンを震える手で引き上げどうにか局部を隠すも、ズボンとケツが擦れる感触すらじれったい刺激となりぞくぞくとえもいえぬ快感が走る。
 先端に熱が集まる。
 前が勃起する。
 余った手で前を隠し勃起を悟らせないようにするも道了は全部お見通し、横目でちらりと一瞥くれる。
 「今いちばん会いたい男のもとへ連れていってやる」
 まさか。
 「はな、せ」
 瞼の裏にちらつく褐色の笑顔。
 俺にだけ向ける最高の笑顔。

 嫌だ、と頭の片隅でだれかが囁く。

 こんな俺を見られるのは嫌だ、あいつに見られるのは嫌だ、お願いだからやめてくれ!
 今の状態の俺を見てレイジは何て思うケツに媚薬を仕込まれて前が勃起してケツの穴がじくじく疼いて物欲しげに頬染めてとろんと目を蕩かせた俺を見てあいつは何て言う、嫌だ頼むからそれだけはやめてくれこんな俺をレイジに会わせないでくれ!

 「はな、せ……やめ、ろ……俺がにくいなら、殺せ、よ。こんな、回りくどい、手、使うな……苦しいのは俺だけで十分だ、ボロ雑巾みてえにずたぼろになるのは俺だけで十分だ、あいつはもう十分苦しんで傷付いたんだ、頼むからこれ以上あいつを追い詰めないでくれよ、なあ、なあ……」
 動揺と焦燥で足が縺れてあわや転びかける。
 道了は少しも歩調を緩めず強引に俺を引きずり肩で風切り突き進む。威風あたりを払う歩みは無機物すらも畏怖するものか、蛍光灯が息を潜めるかのようにひそやかに点滅する。
 道了の背中が視界を塞ぐ。
 たちの悪い風邪でもひいたみたいに体がぞくぞくし捌け口のない熱が膿む。
 ズボンの前を押し上げる男根をぎゅっと握りこむ。
 固くしこり尖りきった乳首が目に入り死にたくなる。
 媚薬は今や原形を留めず粘膜に吸収され全身の細胞にじゅわりと染み渡り、道了に引きずられ一歩を踏み出すごとに理性が剥げ落ちて性感が剥き出しとなり噛み締めた唇から漏れる呻きが小刻みな喘ぎと判別つかなくなる。 
 「はっ、はっ、はっ……とま、れよ……こんなの、無理、だ……体が保たね……んぅっ……はっ……や、やめ、やぁ……」
 腰がへたれる。
 ペニスが腹にくっつくほど頭をもたげてくる。
 視界が赤く点滅する。
 体の奥で快感が小爆発、何度も鋭く短い絶頂を迎え意志で制御できず腰が跳ねる。
 体の奥底で熱いものがどろりとうねり、その熱く獰猛なうねりが全身の血管を巡り巡って、しまいには俺自身が等身大の炉となる。
 「いやらしい顔だな。感じているのか」
 冷ややかな嘲笑が耳朶を打つ。
 朦朧と霞んだ目に、よく研いだ剃刀じみた冷笑を捉える。 
 「お前でもそんな甘ったるく鳴くのか。ケツにクスリを仕込まれて涙目で熱に浮かされもう一刻も猶予もないといった具合に腰を揺すり立て……」
 「殺してやる」
 「できるのか?」
 殺す。ころす。ころしてやる。
 意味をもたない言葉が脳裏で増殖し快感と殺意がごっちゃになり目に流れ込んだ脂汗のせいで視界がぼやけて軸が歪み道了の顔がぐにゃりと溶ける。抽象的な渦に目鼻を没した道了の顔はお袋や梅花に変わり、悪夢が境界線をこえ現実を侵略していくおぞましい感覚が絶えず付きまといそしてー…… 

 靴音が止む。

 「!っあ、」
 顔面に衝撃。
 前触れなく停止した道了の背中に顔面ごと突っ込んだ俺は、向こうから近付いてくるもうひとつの靴音に気付く。
 道了の肩甲骨のあいだから顔を抜き、のろのろと前方を向く。
 敏捷な猫科の獣のようにしなやかな身ごなしの男がこっちにやってくる。 
 飼い慣らされない豹の如く野生的な歩き方は獰猛な品をおび、申し分なく長い足を律動的に繰り出すさまは誰だろうと傷ひとすじ自分に付けることはできないといった絶大な自信を窺わせる。
 世界の半分を所有しもう半分を支配する王者の歩みを阻むものはだれもいない。
 タバコの吸殻やガムの残骸が一面こびりついた汚物だらけの不潔な廊下を緋毛氈が敷かれているかの如く優美に踏みしめ、男は言う。
 「よう假面。ご機嫌にやってるか」
 藁色の髪が不吉にさざめき、滑らかな褐色肌に埋め込まれた色素の薄い瞳が獰猛な光を孕む。
 「あ………」
 レイジ。
 レイジが、いる。目の前にいる。
 「レイジっ!!!」
 脳裏で閃光が爆ぜる。
 狂おしい激情に駆り立てられ俺はめちゃくちゃに身をよじり暴れ狂い道了の手を振りほどきにかかる、レイジの面を見た瞬間なけなしの自制心が綺麗さっぱり消し飛んで理性なんか百万光年彼方に行っちまって『会いたかった』『めちゃくちゃ会いたかった』渇望と希望が輪となり世界を閉じて俺は脇目もふらずまっしぐらにレイジに駆け寄ろうとする、限界ぎりぎりまで手を伸ばしさあ行けレイジに届けとー……
 
 「ちょうどいいところで会ったな」

 伸ばした手が、凍る。
 レイジが一人じゃないのに気付いたからだ。
 レイジの背後から俯きがちに歩み出たのは……、鍵屋崎。
 鍵屋崎は眼鏡越しにこっちをちらりと見て顔を歪める。
 レイジはなれなれしく鍵屋崎の肩に手をかけ自分の方に引き寄せる。 鍵屋崎は抵抗せずレイジのしたいようにさせている。
 レイジに肩を抱かれた鍵屋崎は無言で俯きじっと自分の足元を見詰めている、体の脇で握りこんだ手が屈辱を堪えぶるぶる震えている。

 様子がおかしい。
 鍵屋崎も、レイジも。

 「それは俺の台詞だ」
 廊下のど真ん中でレイジと対峙した道了がうっそりと呟き、能面じみて平板な表情に酷薄な気配を漂わせる。
 「ロンが俺に噛み付いた。お前の躾が悪いからだ。だから少し懲らしめてやることにした」
 「へえ、どうすんの」
 「お前の前でロンを犯す」
 「そりゃ名案だ」

 喉が、ひどく渇く。
 二人の会話が耳を素通りする。
 
 道了に腕を掴まれたまま、今にも屑折れそうな中腰の姿勢で笑みすら交え道了としゃべるレイジを凝視する。

 どうしちまったんだ、レイジ?
 どうしてこっちを見ない?

 「名案ついでに便乗させてもらおっかな」
 舌なめずりしそうな笑みを浮かべたレイジが強引に鍵屋崎を抱き寄せる。
 「なっ、何を考えてるんだ!?やめろレイジ、ロンが見ている前でこんなっ……」
 「どっちが早くイかせられっか競争しようぜ」
 鍵屋崎の声が歪んで聞こえる。
 レイジの嘲笑が追っかけてくる。
 レイジの腕の中で鍵屋崎が必死に身をよじりこっちを振り仰ぎ眼鏡越しの視線で「見るな」と請う、その表情が何を意味するかわからないほど俺は馬鹿でも鈍感でもない。
 蛍光灯が忙しく点滅する。
 ジジジと電池が消耗していく。
 鍵屋崎を手早く後ろに向かせ壁に手を付かせ背中にのしかかるレイジ、褐色の手が上着を捲り上げ隙間に滑り込み飢えたように肌をまさぐりはじめ……。
 「!?痛ぁっ、ぐぅ」
 毛根に激痛が走る。
 俺の前髪を鷲掴み強引に上を向かせた道了が、苦痛に歪む俺の顔を無感動に見下ろす。
 耳朶を掠める衣擦れの音と欲情の息遣い、視界の端で律動を刻む二つの影。
 鍵屋崎がこっちを向き何かを言う必死に訴える、褐色の手がその口を覆い唇が首筋をすべり鍵屋崎がひあっと仰け反る、鍵屋崎の耳朶の裏を唇で愛撫しながらレイジは誘うように挑発するようにこっちを見て陰険に目を細める。

 その笑み。
 その顔。

 レイジじゃ、ない。

 「残念だったな。お前はもう用済みだそうだ」
 道了は俺を壁にむかって投げ付け、鍵屋崎とそっくり同じ後ろ向きの体勢をとらせ背中に覆い被さる。
 背中に覆い被さった道了の衣擦れの音と息遣いを聞きながら、戦慄に打たれ硬直し、事実の浸透とともに極限まで目を見開く。
 貪るように鍵屋崎の背中に手を這わせ唇で愛撫するレイジ、野蛮な情熱と凶暴な衝動に浮かされた手つき、藁色の髪の奥でぎらつく光と放つ隻眼は沸騰する狂気の坩堝。口元に酷薄な笑みを刷き発達した犬歯を剥き、レイジであってレイジでない男は鍵屋崎を食らうー……

 「暴君?」
 
 声を発した一瞬、レイジの顔をした悪魔がちらりと顔を上げ流し目をくれる。

 『Yes,I am him』

 そこに眼帯の封印はなく、無残な傷跡が穿たれた左目が冷え冷えとした虚無に晒されていた。

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050302042454 | 編集
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