ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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五話

 大丈夫、うまくやれる。
 犯るんだ。殺るんだ。梅花とお袋の仇をとるんだ。

 脳裏でぐるぐると言葉が回る。
 瞼の裏側で警告の赤信号のように鮮烈に赤い閃光が爆ぜ心臓の弁がうるさく開閉する。
 俺は道了を犯す。
 そう決めた、決めたんだ。
 ずっと前から計画していた事だ。今更びびるんじゃねえ、土壇場で待ったはなしだ。
 今更後戻りはできない。
 俺は今日この日の為に子供に戻ったふりをし道了の懐に潜り込んだ、道了の油断に付け込み復讐を成し遂げるため鍵屋崎を騙しサムライを欺きレイジを裏切り世界で一番憎い男にむざむざ抱かれたんだ。
 何度も、何度も。
 込み上げる吐き気と戦いながら。
 道了は俺を時に優しく時に激しく自分の意のままに扱った、欲望の赴くまま前髪を掴みしゃぶらせたこともあれば仰向けにした俺にのしかかり頬を包み気遣うようにゆっくり挿入したこともある。

 俺は道了の人形だ。
 道了に股を開き何でも言う事を聞く。

 俺はずっとずっと道了の言うなりだった、お袋と梅花を殺しレイジの十字架を捻りつぶした世界で一番憎い男に抱かれながら快感に翻弄され仰け反り喘いだ、殺したいほど憎くて憎くして仕方がない男に乳首を吸われ背中に手を回され髪をすくわれ激しく貫かれはしたない声で喘いだ、お袋そっくりの淫らな声でもうこれ以上は壊れちまう勘弁してくれと哀れっぽく懇願し背中に爪を立てた。

 男のくせに男に犯されて喘いだ。
 何度も、何度も。
 熱に溺れ押し流されそうになるたびにとっかかりを求めて背中に爪を立てた。
 ひっきりなしに押し寄せる快楽の波に翻弄され高みに押し上げられ理性が一片残らず剥落蒸発し、自分が自分じゃなくなる恍惚と紙一重の恐怖に怯えながら、自我を現実に繋ぎ止める拠り所として確かな感触を求めプライドも意地もかなぐり捨てがむしゃらに肉に縋った。
 絶頂に上り詰める過程で一片ずつ理性が蒸発し、シーツと擦れる感触や汗のぬめりもろもろのまだるっこしい刺激すら肌炙る燠火となり、俺は俺が俺じゃなくなる恐怖に苛まれ恐慌をきたしわけもわからず道了にしがみついた。

 道了の背中は傷だらけだ。
 俺がつけた傷。
 消したくても消せない行為の痕跡。
 レイジを裏切った証拠。

 うつ伏せになってるせいで背中の傷が見えないのがせめてもの救いだ。
 深呼吸で覚悟を決め、緊張と焦燥にひりつく指先をズボンにかける。
 そのまま一気に引きずり下ろし下半身をあらわにする。
 ひやりとした外気に下肢が粟立つ。強張った顔で俺自身のものを見下ろす。
 レイジや道了とは比べ物にならない貧相なペニス……股間にぶらさがったそれはぐんにゃりと芯がなくうなだれている。
 足の間でみっともなく萎れたペニスを見詰めるうちにやりきれなさが募る。
 情けない。なんだこれ、こんなんじゃ全然使い物になんねーじゃんか。
 腹立ち紛れにペニスを引っ張り出す。掌に包んで荒くしごく。
 掌に熱を感じる。
 摩擦に伴いペニスが徐徐に硬くなる。
 「はあっ、はあっ、ふっ………」
 指先に全神経を集中する。
 カリに軽く爪立て左手を根元に添え上下にしごく。
 俺がやってることは道了の位置から丸見えだ。俺は道了に跨った姿勢のまま膝立ちに上体を支え股間に両手を突っ込みペニをやすりがけする。きつく目を閉じる。瞼の裏の闇が視界を覆う。こんな状態じゃ使い物になりゃしねえ。考えろ、考えるんだ、何かいやらしいことを。一刻も早くペニスを使い物に足る状態に仕立て上げて突っ込まなきゃいけないんだぐずぐずやってる暇はねえ早く早く……焦燥にひりつく指先で徐徐に角度をもたげはじめたペニスを揉む。
 人前で自慰をするのはタジマ以来だ。
 瞼裏の闇にタジマが蘇る。
 ありあまる性欲を剥き出しぎらついた目、脂でぎとついた醜悪な顔、涎にぬめる唇がだらしなく弛緩し不潔に黄ばんだ歯が零れ怖気を振るう下劣な笑みが頬肉を引き延ばし顔一杯に広がる。
 タジマはにやにやと嗤いながら俺を見た、最高に楽しくて楽しくて仕方ないといった愉快この上ない笑顔で涙を呑んで自慰をする俺をねちねち視姦した。
 道了は無感動に俺を見つめる。
 冷徹とさえ言っていい体温の低い眼差しを揺るがず俺に注ぎ、血まみれの顔に何ら表情を浮かべず死んだようにベッドに寝転がってる。
 道了の醒めた視線を受けながら性急な手つきで自慰に耽る、早くペニスを勃起させようとそればかり考え手に意識を集中し上下に擦る。
 けれどもなかなか上手くいかない、焦りばかりが募って手が滑りペニスは少しだけ頭をもたげて停止する。
 「ひっ、ふっ……」
 腰を浮かせ位置をずらす。
 耳障りにスプリングが軋みベッドが弾む。
 顎先から滴る汗がシーツに染みを作る。
 早く、早く勃たせなきゃ。
 先走りの汁がペニスに滲む。
 先端の上澄みを親指の腹ですくいとり五指で伸ばし丹念に練りこむ。潤滑油代わりに指に塗布した上澄みを手の上下運動に合わせ粘着質に刷り込んでいく。次第にペニスが熱をもち硬くなる。
 ペニスが熱く脈打ち手と連動し敏感になるのがわかる。
 固く固く目を閉じる。きつくきつく歯を食い縛る。
 身の内で吹き荒れる激情に押し流されぬよう必死に抗う。
 道了を犯す。
 お袋や梅花の無念を晴らす。
 道了がお袋と梅花にした事をそのまんま返してやる二人の痛み苦しみを存分に思い知らせてやる決めたんだ決めたんだそう決めたんだ、もう誰も俺を止められない後戻りできない。
 考えろ、考えるんだ。
 何かいやらしいこと、興奮することを。
 こんなペニスじゃ道了を犯せねえ、こんなもん突っ込んでもちっとも痛くねえ。
 赤黒く屹立したレイジのペニスを思い出す。
 下腹に密着するほど雄雄しく反り返って自己主張するペニスと俺の手の中のもんを比べて無性に情けなくなる。
 同じ男でどうしてこうも違うんだよ畜生。
 くちゃくちゃと粘着の糸引く五指で股間をまさぐりねっとりとペニスを捏ね回す。
 「レイジ………っ」
 自分の手にレイジの手を重ねる。
 俺の手に被さる褐色の手を想像する。
 レイジの手が優しく俺の手を導きペニスを包み込む、どうやればいいか教えてくれる。
 瞼の裏に強くレイジを思い描く。
 日の光を透かし柔らかな黄金に輝く干し藁の髪、左目を覆う眼帯、硝子じみて色素が薄い右目に稚気を閃かせ微笑みかけるその顔……
 屈託ない笑顔。
 親から貰った憎しみの名前を蹴っ飛ばすような、太陽の下がよく似あう笑顔。
 レイジの手が俺を導く。
 俺はレイジの手に導かれるがままペニスをしごく。
 これは俺の手じゃない、レイジの手だ。貪るようにペニスを弄くりながら強く強く暗示をかける。レイジが俺に触れている。例の悪戯っぽい笑みをちらつかせにじり寄り俺のペニスに指絡めを弄んでやがる。
 鋭い性感が走る。
 「ふあっ、レイジ、レイジっ……!」
 口から声が迸る。
 次第に腰がせりあがってくる。
 『感度がいいな、ロン。こうされると感じるんだろ?お前』 
 耳の裏側に吐息交じりの囁きがふれる。
 熱い唇が耳朶を啄ばむ。
 俺を後ろから抱きしめ膝に座らせたレイジが前に手を回しペニスをいじくってる。
 意地悪な指先が焦らすようにペニスをなぞるたびぞくりと快感が走る。
 レイジが後ろにいる、すぐ後ろにいる。
 声が間近で聞こえる、衣擦れの音が聞こえる。
 欲情に掠れた息遣いも俺のペニスを弄くり捏ね回す手もうなじに感じる熱っぽい視線も全部全部レイジのものだ。
 振り返ればレイジがいる、されるがまま腰を浮かせ快感に頬染めた俺を余裕のツラで見下ろしてるに決まってる。

 なあそうだろレイジ、そこにいるんだろ?

 心の中で問いかける。
 何度も、何度も。
 レイジに呼びかけながら手を加速させる。
 これは俺の手じゃない、レイジの手だ。自分がしてるんじゃなくレイジにされてると思え。
 「ひぐぅ……」
 先端から根元にかけ強弱つけ摩り下ろす。
 痛みと熱とが溶け合い一際鋭い快感が芽生える。
 手の中でペニスが硬くなる。
 「レイジ、あっ、ひあ、そこ、れいじぃっ……」
 「あの男のことを考えながら自慰をしてるのか?」
 朦朧とした頭で道了の声を捉える。
 手の動きは止めず突っ伏した姿勢から上目遣いに正面を仰ぐ。
 道了がひどく冷たい目でこっちを見詰めている。
 侮蔑を含んだ冷ややかな眼差しに晒され俺の中で怒りが膨張、憑かれたようにペニスをしごきながら精一杯凄んでみせる。
 「そう、だよ。悪い、かよ」
 「俺の腹の上で違う男を呼ぶな」
 声が氷点下まで冷え込む。
 「俺の勝手だろ。間違って、も、お前の名前なんか、呼ばねーからな」
 獣じみた息遣いのはざまから虚勢を張って噛みつく。
 その間も指は独立して動き根元を塞き止め先端を執拗にいじくる。
 手が止まらない。
 自分の手にレイジの手を重ね背中にレイジの存在を重ね夢中で自慰に耽る。閉じた瞼の裏側に情事中のレイジを想起する。扇情的に汗ばむ褐色の肌横顔に纏わり付くおくれ毛いやらしく細めた右目と皮肉な笑みを浮かべた口元……
 『愛してるぜ、ロン。どうしてほしいか言ってみろ』
 「ひあっ!?」
 イき、そうだ。
 慌てて手を放す。
 射精寸前で塞き止めたペニスが透明な上澄みを滲ませ赤黒く照り光る。
 奥歯を食い縛り絞り射精を堪える。
 手の中で体積を増したペニスが熱く脈打つ。鼓動に合わせて脈打つペニスを慎重に握り締め、浅く肩を上下させ不規則に乱れた息を吐く。
 堪えろ。
 イッちゃ駄目だ、まだ。ここでイっちまったら意味がねえ。
 激しくかぶりを振りレイジの顔を追い払う。勃起したペニスを握り締め呼吸を整える俺を見上げ、切れた唇を不器用に動かし道了が言う。
 「梅花は俺に殴られながらするのが好きだった」
 耳を疑う。
 体が硬直する。
 道了が突如として抑揚なく語りだす。
 「梅花は俺に殴られて股ぐらから涎を垂れ流す淫売の雌犬だ。殴ると締まりがよくなった。俺のものを内腿に挟んでぐいぐい締め付けてきた。梅花はいい声で喘いだ。悲鳴のように甲高い喘ぎ声と断末魔のような絶頂の声……発情期の雌犬のようにはしたなく腰振りたくり物欲しげな顔で何度も俺を呼んだ、道了道了とくりかえし俺の名を呼びもう許してと歓喜の涙を流し淫らによがり狂った」
 「黙れ」
 道了は淡々と梅花の痴態を暴き立てる。
 俺の初恋の女が道了に組み敷かれどう喘いだかよがり狂ったか、行為の最中に何を叫び何を乞うたかを克明に描写する。
 道了の口から漏れた言葉が脳裏で結実し鮮明に映像が立ち現れる。全裸の道了の下でよがり狂う全裸の梅花、波打つシーツの上に寝転がり長い髪を打ち振りもう許してと叫びながら滂沱の涙を流す化粧が剥げた痛々しい顔まで脳裏にくっきり浮かび上がる。
 梅花はあちこち傷だらけだ。
 全身至る所に新旧大小無数の痣が散らばっている。
 痣の上に痣が重なりどす黒くどす青く色素が沈殿した斑の肌が汗でぬめり、道了が律動的に腰を突き入れ揺するたび梅花は弓なりに仰け反る。
 「梅花の死に際を教えてやる」 
 「やめろ」
 耳を塞ぐ。
 無意識に首を振る俺を無視し道了は機械的に平板な声音で語り続ける。
 「梅花は絶頂で『殺して』と言った。狂ったように腰振り俺を咥え込み『殺して』と哀願した。俺はそのとおりにしてやった。快楽の絶頂で命を断ってほしいとむしゃぶりついてきた淫売の願いを叶えてやった。俺は梅花の首に手を回し力を込めた。梅花は俺と目が合った刹那うっすら微笑んだ。眦から一筋涙が零れ頬を伝い唇が無音で動きー……」

 『道了』
 『愛してるわ』

 「やめろ」

 死に際の梅花の笑みが俺の中で再び蘇る。
 耳を塞いでも聞こえてくる幾重にも木霊し余韻をひく呪詛のような睦言のような声、『道了』『好きよ』『愛してる』『あなたになら殺されてもいい』……
 やめろ、そんなこと言うな、簡単に受け入れるな!
 梅花が発した声が聞こえる、亡霊が紡ぐ囁きが聞こえる。
 幻聴を閉め出そうと深々頭を抱え込む。
 瞼の裏で閃光が爆ぜる。
 梅花と道了の情事の光景が細部まで鮮明に忌まわしいほど克明に浮かび上がる。
 波打つシーツに仰臥した梅花にのしかかる道了、縺れる足、絡まる吐息……劣情を刺激する光景。
 道了が梅花の首に手を回す。
 涙の跡も生々しい顔で梅花が恍惚と微笑む。
 諦念と許容のはざまを儚くたゆたう笑み。
 道了は無表情に腕に力を込める。
 金と銀の目はしんと冷えたまま、砥いだように冴えた光を放っている。

 「腕に力を込めた」
 「やめろ」
 「乾いた音がした。梅花の首がへし折れる音だ」 
 「やめろ」
 「骨が折れる感触が伝わってきた。梅花の顔は笑みを貼り付かせたまま支えを失い後ろに仰け反った。後ろ向きに倒れる時に長い髪が生き物のように逆立った」

 ああ。
 梅花。
 『ロンのこと、好きよ』

 「梅花は死んだ。完全に死んだ。お前の言うとおりこの俺が犯して殺したー……」
 「黙れよクソ野郎!!!!!!!」
 理性が焼き切れる。梅花の死に際の印象がそのあまりに救いのない死に様が感情をかき乱す。梅花、梅花、どうしてこんな奴に……こんな奴を好きになったばっかりに。
 梅花の面影が急激に褪せていく。
 俺が救えなかった女の面影が伸ばした指のあいだをすりぬけ急速に遠ざかっていく。

 「なんで俺じゃなかったんだよ」
 俺なら幸せにできたのに。

 「俺を選ばなかったんだよ」
 俺なら守れたのに。

 「梅花は馬鹿だ。どうしようもねえ馬鹿な女だ。なんでよりにもよってお前なんか選んだんだよ、ちっとも大事にしてくれねえ男を選んだんだよ」

 廃工場の片隅で俺にだけこっそり夢を打ち明けた梅花を思い出す。
 はにかむような笑みを浮かべ、あたりを憚りながら俺に顔を寄せ、耳朶をくすぐる吐息も秘密めかして囁く。
 『私ね、お母さんになりたいの。子供に媽媽って呼ばれたい』
 夢を語る梅花は幸せそうだった。たとえそれが叶わぬ夢だと知っていても、罪のない空想に耽ることでひとときの慰めを得られたのだから。

 「俺なら叶えてやれたのに。お母さんにしてやれたのに」
 お前もお前の産むガキも大事にする。
 お前もガキも守ってやる。
 孕んだのが俺の種じゃなくても梅花が頼ってくれたならそうするつもりだった、あの時俺を選んでたらお前は今頃……

 「月天心を潰したのは梅花だ」
 「え?」
 弾かれたように顔を上げる。
 驚きに打たれ道了を見返す。
 道了はベッドパイプに腕を結わえられ仰臥した姿勢で半眼の双眸を冷酷に光らせる。
 「梅花はお前をここに送り込んだ張本人だ。恨みこそすれ同情する必要はない」
 断固として言いきる道了を食い入るように見返す。
 意味が理解できず混乱する。
 梅花が俺をムショに送り込んだ張本人?
 馬鹿も休み休み言え、何の根拠があってそんな……
 顔が半笑いに歪む。
 道了は笑わない。
 相変わらず無表情を保ったまま、表情の変化から俺の内面を推し量ろうとでもいうふうに意味深に押し黙っている。
 「どういうことだよ。なんで梅花が俺をムショに送り込んだことになるんだよ。梅花は関係ねえ……」
 「梅花の客に武器の横流しで小遣いを稼ぐ在日米軍の兵士がいた」
 俺の語尾を遮り道了が楔を打つ。
 腫れ上がった瞼の奥から褪せぬ輝きを放つ金と銀の瞳が覗く。
 感情を映さぬ硝子の瞳に戦慄に固まる俺が映る。
 「梅花はそいつから手榴弾を貰い受けた。爆発のタイミングがずれた不良品だとわかっていながらな。そしてその手榴弾を中国系チームとの抗争に備え月天心のガキどもがかき集めた武器の中に紛れ込ませた。誰の手に渡るかまったくわからなかった。しかしそれでよかったと言っていた」
 「………なんでそんな………」
 「梅花は月天心壊滅を祈っていた。どんな形であれ月天心がなくなることを望んでいた」
 頭が混乱する。梅花が不良品の手榴弾を武器の中に紛れ込ませた真犯人だという事実に衝撃を受け気が動転する。
 手榴弾を手にする前のやりとりを思い出す。
 俺は俺のことをお荷物の半々扱いする連中を見返してやりたい一心で、今度の抗争では必ず成果を上げてやると発奮して、チームの奴が無造作に投げてよこした手榴弾をその場の勢いで受け取っちまったのだ。けれどもそれは梅花が意図せぬ事態で、誰の手に手榴弾が渡るかは梅花も予想できずにいて、それがたまたま俺で……
 「は、ははははははっ」
 空虚に乾いた笑い声をたてる。
 「なんだよ、それ。賭け事運の強さは親父譲りだと思ってたのに、あの時人生最大の貧乏くじを引いちまったってわけか?」 
 気づかなかった。
 今の今まで夢にも思わなかった。
 月天心の連中がどこからかツテを頼りまたは無断でかっぱらいかき集めてきた武器の中に不良品の手榴弾が交じっていたとして、それが故意かそうじゃないかなんて誰に分かる?分かるわけがねえ。俺は今の今まであの手榴弾を受け取ったのは悪い偶然だと諦念に達してたのに、実際は梅花が馴染みの客から貰い受けて武器の中にこっそり紛れ込ませておいたもので、当事者の梅花はといえば手榴弾が周囲の奴らを敵味方問わず巻き添えにとんでもないタイミングで爆発し月天心が甚大な被害を受けるところまで予想していたのだ。

 何も知らなかった。
 何も。
 梅花を疑ったことなんて一度たりともなかった。

 梅花はいつだって優しくしてくれた。
 月天心で除け者にされてる俺に何くれとなく良くしてくれた。
 生傷の絶えない俺を始終慰め絆創膏を貼り包帯を巻き時に頭をなでてくれた。
 梅花の手のぬくもりを反芻する。
 寂しげな翳のつきまとう笑みを回想する。
 胸の痛みを伴う追憶が感傷を呼び起こす。
 『ロン、また怪我してるじゃない。駄目よ、自分を粗末にしちゃ。もっと自分を大事にして。あなたが怪我して帰ってきたら私は哀しい』
 いつだったか梅花は言った。
 俺の顔を両手で挟み、まっすぐ目を見つめ。
 あの言葉は嘘偽りない本心だったけど、本当にあの言葉をかけたかった相手は別にいる。
 それがわからないほど俺は鈍感じゃない。

 「梅花はお前を心配してた。いつだって、いつだって、お前の無事を祈ってたよ」
 欺かれた怒りや裏切られた哀しみにも増して、報われない献身に対する同情が胸を締め付ける。
 俺を東京プリズンに送り込む遠因となったのが他ならぬ梅花だと知ってもとことん憎む気にはなれなかった。
 憎むには思い出がありすぎた。
 俺はまだ梅花の感触を、
 声を、
 寂しげな笑みを覚えている。
 慣れた手つきで包帯を巻いてくれた事を、膝抱えて蹲った俺に物言わず寄り添い慰めてくれたことを、俺を優しく包み込む人肌のぬくもりと香水の匂いを覚えている。
 「梅花は寂しかったんだ。抗争が起きるたび真っ暗い廃工場にたったひとりぽつんと取り残されて、今度こそ帰らないかもって胸潰れる不安に苛まれて、それでもお前の帰りを信じて待ち続けて……月天心さえなくなりゃお前が戻ってくるって思ったんだよ、ずっとそばにいてくれるって思ったんだよ。梅花は月天心にお前を横取りされそうで怖かったんだ、お前に行かないでほしかったんだ」

 俺には梅花の気持ちがよくわかる。
 暗い廃工場で膝抱えひとり道了の帰りを待つ梅花に、ブラックワークの試合に赴くレイジを金網の外でただ見送るしかない無力で非力な俺が重なる。
 売春班撤廃を条件にブラックワーク百人抜きを宣言したレイジは、試合前笑顔で手を振って俺に別れを告げた。
 俺は何度もレイジの背に追いすがっては金網に遮られ苦汁を飲んだ。

 「帰ってきてほしかった」

 戦ってほしくなんかなかった。
 けれどもレイジは戦いにいく、肉食獣を彷彿とさせるしなやかな大股の歩みで戦場に立つ。俺はリングのあちらとこちらを隔てる金網にしがみつきただひたすらレイジの無事を祈り声張り上げ応援するしかなかった。
 自分の無力を痛感した。
 焦燥に煽られ帰りを待つしかない現状に甘んじる無力に打ちしひしがれ非力を呪い、今度こそレイジは帰ってこないんじゃないか、俺の目の前で死んじまうんじゃないかと不安に苛まれて一瞬たりとも油断できなかった。

 梅花の気持ちがわかる。
 痛いほどわかる。
 梅花は俺自身だ。
 レイジの無事を祈りながらただ待つことしかできなかった無力で非力な俺だ。
 俺は男だからまだよかった。
 レイジに追いつこうとあがいてあがいてあがきまくってほんの少しだけ強くなれた。
 梅花は女だ。
 どんだけがむしゃらにあがいてあがいてあがきまくったところで男みたいに強くなれず戦力外の女は戦場から閉め出される。

 辛かったな、梅花。
 怖かったんだよな、梅花。

 日々の戦いでぼろぼろに傷付く道了をただ見ていることしかできず、いつの日か道了を失ってしまう恐怖に怯えて。

 「俺だってそうだ、梅花と同じだ、ブラックワークの試合にレイジを送り出すときいつも同じこと考えてたよ。このまま帰ってこないんじゃねーかって、俺に背中を向けて金網の向こうに行ったまま二度と帰ってこないんじゃねーかって、お気楽極楽能天気なツラ二度と拝めなくなるんじゃないかって怖くて怖くてたまんなくて今にも気が狂っちまいそうで、それが毎日毎日続くんだよ。レイジは実際帰ってきたよ。アイツは東京プリズンの誰より強いから余裕で勝って帰ってきたよ、誰とやっても楽勝だってへらへら笑いながらひょっこり戻ってきた……でもさ、やっぱり怖いんだ。いつまでたっても怖いんだよ、どうしようもなく。確かに今日は帰ってきた。けど明日は?明後日は?行かせたくねえって思ったよ、泣いて喚いて縋り付きたいのを体の脇でこぶし握り込んでぐっとこらえたよ。こっち側にひとりぼっちで残されるのが寂しくて、お願いだから行かないでくれって……」

 事件の真相を知っても梅花を憎めない。
 梅花が味わった寂しさや不安はかつて俺が痛感したもの、今またレイジに味あわせてるものだ。

 「梅花はな、お前とずっと一緒にいたかったんだよ」

 ごめんレイジ。
 ひとりぼっちにしてごめん。
 謝って許されることじゃない。
 罵ってくれていい、恨んでくれていい、憎んでくれていい。
 梅花とお袋の死をなかったことにできなかったのは俺の弱さだ。
 二人の死を瞬間風速で忘れ去ってぬくぬく幸せにひたる事がどうしてもできなかった。
 二人の犠牲の上に成り立つ幸福なんて、欲しくなかった。

 「どうして殺したんだよ……」

 苦しい。
 レイジ、助けてくれ。
 こんなこと言えた義理じゃないのはわかってる、でも今の俺が縋れるのはお前しかいない。
 鍵屋崎よりサムライよりお袋より梅花よりお前が好きだ、大好きだ。
 俺のこと心配してくれる仲間より俺を生み育てたお袋より俺に優しくしてくれた初恋の女より誰より何よりここで出会ったお前が好きだ、薄暗い房で馬鹿話に興じ馬鹿笑いし毎日のようにふざけてどつきあったお前が大好きだ。

 なのに俺は、どうしてここにいる?

 喉がひくつき嗚咽に似てくぐもった呻きが零れる。
 道了に腹に突っ伏したまま顔を上げる気力もなく肩を震わす。
 下から注がれる視線を感じる。
 震える俺に透徹した凝視を注ぎ道了が静かに呟く。
 「……喜ばないのか。お前の代わりに殺してやったのに」
 何かが粉々に砕け散る。
 緩やかに顔を上げる。
 道了が不可思議な目で俺を眺める。
 能面じみて感情の起伏に乏しい顔の中、倦怠の色をたゆたわせる金と銀の瞳に俺の顔が映りこむ。
 白目がぬめりぎらつき毛穴から憎悪が噴き出さんばかりの顔。
 「……ぐちゃぐちゃにしてやる」
 ぐちゃぐちゃにしてやる。ぐちゃぐちゃに。梅花とお袋にしたみたいに。
 身の内で荒れ狂う怒りに駆り立てられ道了の膝を押し開き尻の肉を割る。
 俺の股間のものはまだ角度を保ったままいやらしく上澄みを滲ませている。
 荒く呼吸しながらよく引き締まった尻を揉みしだき唾でぬらした指で肛門を探りあてる。
 尻の穴に人さし指を突きたてる。
 「………っ、」
 肛門を穿つ異物感にかすかに顔を顰める道了を無視し、膝裏に手をかけひっくり返す。
 穴の中で指を曲げる。
 粘膜をひっかく痛みに道了がいかにも鬱陶しげに眉根を寄せる。
 「処女か?道了」
 眉間に翳りをおとした道了を見下ろすうちに残虐な衝動が疼く。
 肛門を穿った指で粘膜を擦る。
 侵入した異物を排泄せんと粘膜が収縮しぐいぐいと指を締め上げる。
 「俺の指にケツを犯される気分はどうだよ。え?假面」
 指を二本に増やし抉りこむ。
 道了の眉間に苦痛の皺が寄る。
 ぐちゃぐちゃと唾を絡め粘膜をかきまぜる音も淫猥に二本の指を使い肛門をほじくりかえす。
 最初は固く閉じていた肛門が指の出し入れを繰り返すごとに次第に緩んできて今や指の根元までを深々咥え込む。
 「三本目だ」
 予告どおり手首に捻りを加え三本目を強引に突っ込む。
 今度はかなり抵抗を感じた。
 たっぷりと唾液を練りこんでおいたにもかかわらず、熱く潤んだ粘膜が三本の指をぎりぎりと締め上げて痛いくらいだ。
 指が食いちぎられそうな痛みに顔を顰めながらも口元の嘲笑は絶やさず、ケツに突っ込んだ三本の指を連動させ前立腺に刺激を送り込む。
 「っ、ふ……」
 道了が息を荒くしわずかに上擦った声を漏らす。
 シャギーを入れた前髪を額に散らばらせ、苦痛に呻いてるのか快感に喘いでるのか判断しかねる焦点の合わない表情からは初期化された機械人形さながら何ものにも染まらぬ白痴美が透けて見える。
 深い皺を刻んだ眉間をうっすら汗ばませ、ケツを犯される不快感に身じろぐ姿が嗜虐心を煽り立てる。
 「痛みに鈍感な木偶も中をかきまぜられりゃあちゃんと感じるんだな」
 あの道了が俺の指で感じてやがる。
 かつて月天心の首領として池袋に君臨した男が、恐れを知らぬ假面が、俺の指でケツの穴をぐちゃぐちゃ犯されて固く目を閉じて苦しげに呻いてやがる。
 「もっと声出せ。気分出して腰振れよ」
 指を出し入れするたびぐちゃぐちゃと濡れた音が鳴る。
 唾液に浸した指が粘膜を攪拌し前立腺を弾くのに合わせ道了が腰を振り始める。
 機械的な腰振りに合わせ縄が限界まで引き延ばされ今にも千切れそうに軋む。
 ぎちぎちに張り詰めた縄が道了の手首に食い込む。
 身動きが激しくなるにつれ上着が捲れ上がり引き締まった腹筋と胸板が覗く。
 新旧大小の傷痕が刻まれた上半身を無防備に晒す道了にのしかかり胸板に顔を埋めぎこちなく乳首を吸う。
 「っふ……」
 レイジにされたことを思い出しながら道了を扱う。
 上唇と下唇で乳首を挟んで転がし窄めた舌先でつつく。
 俺はただただ一心不乱に行為を継続する。
 女しか抱いたことねえ道了が男に乳首を吸われている。
 月天心にいた頃から中国人の血が混じる半々と蔑んでいた俺に両手を縛られズボンを脱がされケツの穴をぐちゃぐちゃ弄くられてる。
 いい気味だ、ざまあみろ。
 腹の底から湧き上がるどす黒い哄笑を喉元でおさえこみ、更に道了を追いたてにかかる。
 「………!っ………、」
 わざと乱暴に指を引き抜く。
 だらしなく弛緩し赤黒い粘膜を覗かせる肛門と淫らに上気した道了の顔とを見比べ、一方的に宣言。
 「いくぜ」
 拒む暇を与えず馬乗りになる。
 道了の膝裏を掴み大きく広げる。
 興奮を覚え生唾を飲み下す。
 こちらに尻を向かせ肛門を晒し、根元に手を添えた俺の物を慎重にあてがい、息をため一気に貫く。
 「っあ、きつっ………」
 底なし沼のような肉のはざまに杭が沈んでいく。
 臓物の圧迫感がペニスを包む。
 きつい、食いちぎられそうだ。
 くそ、何だこれ……初めて体験する感覚と感触、容赦なく咥え込み締め付ける粘膜のうねり、一滴残さず精液を絞り取ろうとする貪欲な吸引力に腰が砕けそうになる。
 体を支える芯が溶け崩れてぐらりと均衡が傾ぐ。 
 「痛っあ、ひっ、あぐ………ひあ、レイ、じぃ………」
 痛い熱い痛いきつい苦しい食いちぎられる助けて誰か助けてくれ!
 咄嗟に腰を引き抜こうとしたが途中でつっかえちまう、直腸の粘膜が貪欲に締め付けてくるせいでなかなか抜けない。熱い熱い熱い熱い……繋がったところからどろどろ溶けていって境目が混沌とする、むりやり動かそうとすれば肉と擦れるのが刺激となり容易に達しそうになる。
 「あっ、ひあ、ぅぐう………あっ、ああっ、あ!?」
 「俺の中は熱いか、ロン」
 朦朧とする意識の彼方で道了の声がする。
 繋がった部位がどろりと濃厚な熱をもつ。
 こんな状態で動かすなんて無理だ、死んじまう。
 ペニスを包む粘膜が収縮する。
 複雑に織り込まれた襞が卑猥に蠢く無数の吸盤となり快感を加速度的に高める。
 ちょっとでも腰を動かすと駄目だ、ぎりぎりまで張りつめたものがあっけなく破裂しちまいそうだ。
 苦しい。
 どろどろとした熱に溺れてろくに息もできない。
 腰から下が意志を裏切りどくどくと急激に脈打ち始める。
 「は、っ……ふ……痛てえ………」
 肉に穿ったままのペニスが早鐘を打つ鼓動に合わせ疼き始める。
 視界がぼんやり曇る。
 生理的な涙が目に滲む。
 女の膣とは違う狭窄した直腸がぎちぎちと俺を締め付ける。
 膝裏を掴んだ手に力を込める。
 膝裏に爪が食い込み柔らかな皮膚が破け血が滴る。
 生ぬるい血が指を伝う。
 道了の肛門からも俺の唾液と混ざって薄められた血が滴る。

 犯してるのに犯されてるようだ。
 人の形をした虚無に喰われる。

 「レイジ……っあ、ひあ、あふ、れいじっ……」
 ずぶずぶと肉に沈んでいく。
 ずぶずぶと熱に溺れていく。 
 繋がった部位が熱く溶け合い道了との境目がわからなくなる。
 俺は懸命にレイジを呼ぶ、縋るように呼ぶ。
 固く目を閉じレイジの面影を呼び起こし淫蕩な熱に溺れ自我が溶けゆく恐怖に抗い朦朧と薄れゆく意識を現実に繋ぎ止めるレイジの笑顔を強く想起する。
 「俺の腹の上で違う男を呼ぶな」
 レイジの笑顔がかき消える。 
 「!?っあ、」
 何が起こったかわからなかった。
 道了の両足が突如俺の腰を挟みこむ。
 道了の足に固定され前屈みの姿勢をとらされ抉りこむように奥深く貫く。
 腰がぴたりと密着しペニスが肉のはざまに沈んでいく。
 幾重にも襞を織り込んだ粘膜のうねりに巻き込まれ快感が漣立つ、腰から下が蕩けるような快感の奔流に膝が砕け自重を支えきれなくなる。
 「どうした?気分を出して腰を振れ」
 「ひあっ、あっ、あああっあああああああ、ひ、やめ、たおりゃ、やっ、あっ!!?」 
 道了が両足で俺の腰を挟みこみ容赦なく揺すり立てる。
 振動が腰に伝わり道了の中に突っ込んだままのペニスがびくびく痙攣する。
 嘘だこんなのありかよ俺が犯すほうなのにまるで逆だ犯されてるみてーだ、道了の中はマグマが煮立つ炉みたいにどろどろに熱くて奥深く咥え込まれた俺は抵抗できずはしたない声を上げ続ける。
 仰向けた道了の腹に突っ伏し拒絶の意を示し激しく首を振るも無駄、繋がった腰がずくずくと重く鈍く疼き奥深く穿ったペニスが剥き出しの性感帯となり射精を誘発し全身にぞくぞくと快感が走る。
 「おふ、くろ……め、ふぁ…………」
 悪寒に似た快感が腰椎から脊椎にかけ駆け抜ける。
 汗でぬれそぼった髪が額にはりつく。
 弛緩した口元から粘つく糸引き涎がたれる。
 焦点の合わない目を虚空に泳がせここにはいないお袋と梅花を捜す。
 「いやらしい顔だな。香華そっくりだ」
 道了が剃刀じみて鋭利な笑みを閃かせる。
 道了は少しも余裕を失わない。むりやり突っ込まれても時折顔を顰める以外これといった変化はなく叫び声ひとつあげやしない。

 腕を縛られ犯されたところで假面の絶対的優位は覆らない。

 「…………っ、ふ………」
 悔しい。情けない。
 身の内で殺意が沸騰する。憎悪が膨れ上がって喉に栓をする。 
 「俺の尻は気持ちいいか?」
 剃刀じみた冷笑を浮かべ道了がうっそりと聞く。
 金と銀の瞳が酷薄に光る。
 怠惰とさえいっていい厭世的な表情で仰がれた俺は、まともに口を利く余裕もなく道了に腰を挟まれ揺さぶられるがままお袋そっくりの喘ぎ声を上げる。
 「あっ、あっ、ああっ、あ、ひあ、あああっ、あっ!!」
 「俺の腹の上でそうやって仰け反るところは淫乱な母親に生き写しだ」
 おかしい。
 突っ込んでるのはこっちなのに、なんで。
 そろそろ限界だ。頭が真っ白になる。ペニスが怒張する。
 道了が俺の腰を強く強く挟みこみ囁くー……

 『我愛你、龍』

 睦言に似た囁きが耳朶をくすぐったその瞬間、俺は絶頂に達した。
 道了の中にザーメンをぶちまける。
 腰から下が蕩けて感覚を失う。
 屑折れた体を途方もない虚脱感が襲う。
 「はあっ、はあっ、はっ…………」
 ふやけたペニスを中に突っ込んだまま疲労の息を吐く。
 射精の瞬間瞼の裏に去来したのはレイジの顔だ。

 『我愛你、龍』

 甘く掠れた独特の響きを反芻する。
 何度も、何度も。
 挫けそうな心を叱咤して。
 「………畜生…………」
 レイジに会いたい。
 会いてえよ。
 弛緩した肛門から自然にペニスが抜ける。
 栓を抜かれた穴から俺が放った白濁があふれてシーツをぬらす。
 レイジのぬくもりが恋しい、笑顔が恋しい。
 今すぐ会いにいきたい。
 ひとりぼっちにして悪かったと力一杯抱きしめてやりたい。
 「俺は淫売だ」
 両の手でシーツを掴む。
 ザーメンと血を吸った生臭いシーツに突っ伏し、みっともなく掠れた声を搾り出す。
 「最低の淫売だ」
 自責の念が胸を苛む。
 シーツを掻き毟り爪痕を刻む。

 俺は淫売だ。
 レイジを裏切り道了に抱かれた、そして今度は道了を抱いた。
 レイジの相棒を名乗る資格が俺にあるか?
 
 縄が引きちぎれる音がしおもむろに視界が翳る。 
 縄を引きちぎった道了が俺にのしかかってきたのだと気付いたのは次の瞬間だ。
 抵抗する暇もなかった。
 ささくれた縄が床に滑り落ちるのを目の端で窺う俺をたちどころに俺を押さえ込むや、耳朶に唇を寄せて低く囁く。
 「何度呼んだところでレイジは来ない。お前の居場所はここしかない」
 抑揚に乏しい声が絶望的な宣告を下す。
 拘束を振りほどこうと狂ったように暴れるも力の差は絶大。
 道了に組み伏せられ顔の横に腕を固定された俺は、醜く腫れ上がった道了の顔を見返し、億劫げな唇の動きを読む。
 内出血した瞼の奥で金属質の瞳が無慈悲に輝く。
 そして道了は言った。

 「お前はレイジを捨てたんだ。
 俺がお前を選んだように、お前は俺を選んだんだ」

 俺とお前は同類だと、そう言った。 


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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050309231046 | 編集
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