ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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三十八話

 「何をしている」
 鞭のように叱責が飛ぶ。
 脳天から爪先まで非の打ち所ないエリート然とした風貌の男が颯爽とこちらにやってくる。
 男の姿を一目見るなりとてつもない安堵を覚える。
 一筋の反乱も許さず撫でつけた潔癖症じみたオールバック、聡明に秀でた額、知性を加味する銀縁眼鏡の奥の切れ長の双眸は怜悧な光を湛えている。
 皺など一筋も見当たらない端正に仕立てた背広を着こなし、艶めく革靴で床を叩きこちらに近付いてくるのは……
 「安田………」
 安堵の吐息とともに呟く。
 安田が一瞬こちらを見る。
 眼鏡の奥のぎらつく光にたじろぐ。
 呼びかけに反応し一瞥くれた安田だが、その顔は緊張を孕んで強張ったまま眼前の事態にいかに対処すべきか苦慮している。
 安田が戸惑うのも無理はない、現在展望台では僕含む東棟の囚人が予想だにせぬ異常事態が発生しているのだ。
 展望台の中央、灼熱の夕日に胸板を染めて力なく身悶えるサーシャを背後から拘束するレイジ……否、暴君。
 サーシャを後ろ手に締め上げ屈従を強いる前傾姿勢をとらせ、自分はサーシャの体前に手を回し股間をまさぐっている。
 コックバンドを抜かれ大量の精を搾り取られたサーシャのペニスは最前の屹立が見るかげなく萎んでいた。
 それでも暴君は精も根も尽き果てたサーシャを気まぐれに嬲るのをやめない、既に精を放ち果てたサーシャの股間をいやらしくまさぐり再び衆目の眼前でペニスをもたげさせようと意地悪い企みを巡らす。
 東京プリズンの実権を預かる副所長の介入にも微塵も悔い改める様子なく、不敵に暴挙を継続する暴君のもとに安田が傲然と歩み寄る。
 「安田、これは……」
 安田に追いすがり経緯を説明しようと口を開くも言葉が続かない。
 無力感に打たれて佇む僕を振り返り、すべてを悟った安田が思慮深く首肯する。
 「安心しろ鍵屋崎、即刻こんな馬鹿な真似はやめさせる。君は離れて見ていろ」
 安田は怒っていた。
 固く張り詰めた背中から抑制した怒りの波動が感じられた。
 冷徹な理性の働きで沸々と込み上げる憤怒を辛うじて抑えているがそれも限界に近く、夕日に映える横顔の鼻梁から顎に至る線が鋭利に研ぎ澄まされる。
 夕日を照り返し朱に染まる眼鏡の奥の切れ長の双眸は冷静沈着な知性の光を湛えた平素と一変し激情に漣立っている。  
 嵐を予告し波立つ水面の如く双眸にごくかすかな波紋を生じさせ、コンクリ床を叩く靴音も高らかに展望台の中央に歩み出る。
 風を孕んで背広の裾が捲れる。
 折から吹いた風が一筋二筋とオールバックを乱す。
 靴音が途絶える。
 唾を嚥下する音すら聞こえない茫漠たる静寂。
 背広の裾が風を孕んではためく音がやけに騒々しい。
 焼け爛れた夕日が朱に染める展望台にて、安田とレイジと対峙する。

 溶鉱炉のような夕焼けが空を朱一色に塗り替える。
 否、一色というのは語弊がある。
 僕はこんな不吉な夕焼けを形容する言葉を持たない。
 何種類もの赤と朱が練り合わされたこの世の終わりのような空。
 終末の風景に酷似した荒涼たる砂漠の上、太陽が全方位に照射する赤熱の光線が僕の視界をも激しく刹那的に燃え立たせる。
 月へと座を明け渡す間際、全力で生命を燃焼させる太陽の最後の一滴が大気を染め抜く。
 鮮烈な夕焼けがすべての事物の輪郭を浮き彫りにし、すべての事物の核心を残酷に暴き出す。
 展望台に群れ集う囚人たちの期待と不安が入り混じったどこか物欲しげでさえある顔も、地面に腰を抜かしてへたり込んだままもはや尻であとじさる気力もないケニーのみじめな姿も、不自然な前屈姿勢をとらされズボンを膝まで下ろした欲情を煽り立てる格好で晒し者にされているサーシャも、サーシャを後ろから抱きしめ勝ち誇った笑みをちらつかせる暴君も、挑むような眼差しを暴君に叩き付ける安田も展望台に居合わせた全員の表情が克明に暴き出される。 

 最初に言葉を発したのは安田だった。
 「何をしている」
 安田が静かに問う。
 今ここでは場違いでさえある沈着な声音。
 安田の問いを受けた暴君は不敵な笑みを浮かべ挑発する。
 「見ればわかるだろ?犬に芸をさせてるんだ。あんたも前はよく所長の命令でハルを散歩させてたじゃねーか、お互い躾のなってねー犬をもつと苦労するよな。無能なサバーカに芸を仕込むのは予想外に大変だ」
 さも共感するとでも言いたげに頷き、苦労を分かち合うように微笑を深める。
 上辺だけ親愛の笑みを装ったレイジの笑みにも心を許すことなく、尚一層警戒を強めて顎を引く。
 眼鏡の奥の目が氷針めいた光を孕み剣呑に細まる。
 油断のない目つきで暴君の挙動を窺いつつ警告する。
 「サーシャは犬ではない、人間だ。即刻彼を解放したまえ」
 「いやだと言ったら?」
 「レイジ、一体どうしてしまったんだ。こんな事いつもの君らしくない、どうかしてるとしか思えない。君は東棟のトップとして囚人をまとめていく立場だというのに、今の君は自ら規律を犯し規則を破り群集の眼前でサーシャを嬲り者にして悦に入っている。サーシャの下半身を剥いて股間を晒しペニスを持ち上げ『犬』と呼ぶ、副所長の私にも反抗的な態度をとり挑発的な口を利く。こんな無謀なまね君らしくもない、君は普段いかに軽薄に節操なく振る舞っていても倫理的に越えてはいけない一線は守ってきたじゃないか、だからこそ私は一目おいていたんだ、ブラックワーク覇者にして東棟の王たる君の実力に最大限の敬意を表し……」
 語尾が途切れる。
 安田の顔が苦渋に歪む。
 打ちひしがれた様子で沈痛に面を伏せる安田を暴君は薄ら笑いさえ浮かべこの上なく愉快げに眺める。
 焦燥に駆られて言い募った安田がおもむろに言葉を切り、真摯な眼差しを正面に向ける。
 「もう一度言う、ただちにサーシャを離せ。彼は君に弄ばれ疲弊している、身も心もずたずたの状態だ。これ以上彼を苦しめるのはよせ」
 「だとさ。お偉い副所長サマが御託を述べてるけどお前はどうしたいサーシャ、中途半端でやめて満足できるか?本番はこれからだってのに」
 凶暴に犬歯を剥き出し暴君が笑う。
 傲慢な自信とプライドが透けて見える野蛮な笑み。
 熱く湿った吐息まじりに耳朶で囁かれたサーシャがびくりとする。
 サーシャの顔が淫乱に蕩ける。
 物欲しげに口を半開きにし発情した犬のように息を吐くサーシャ、薄紅色の突起が尖りきって存在を主張する胸板を貪るようにまさぐりながら暴君が執拗に囁く。
 「手でしごかれてイっただけで足りるのか?たった一回精液ぶち撒けただけで足りるのか?違うだろ、そうじゃねえだろ。まだまだこの程度じゃ満足できないよな、お預け食らって切ないよな。コックバンドで栓されてたぶんペニスはびんびんにおっ勃って今にも張り裂けそうだったもんな。後ろの孔さわってもらえなくて物足りねーよな、俺のモノ突っ込んでぐちゃぐちゃにかき回してほしいよな?」
 「あうっ……あふっ……レイジ、やめ……東の群集が見ている前で、そんな汚らわしいところをさわるなっ……」
 ナチスの軍服をしどけなく着崩し、乱れた襟元から薄赤い痣が散り咲く胸板を大胆に曝け出したサーシャの姿態が倒錯的な官能を引き立てる。
 群集の目も副所長の目も気にせず暴君は行為を続ける。
 敏感な突起を執拗にいじくりまわし、固く勃ち始めた乳首を指先で摘んで痛みと快楽を同時に与える。
 快感にまで昇華できない痛みに間断なく苛まれ、乳首を指絞りされ身悶えるサーシャの尻にペニスを密着させる。
 「見られて興奮してるんだろ?この変態」
 滑らかな褐色の手が白い胸板に覆い被さる。
 器用な指先が意地悪く執拗に乳首を捏ねくりまわす。
 指の狭間から搾り出された乳首が赤く痛々しく充血する。
 サーシャの双丘に怒張したペニスを押し付けた暴君は、少しでも圧力を加えればすぐにでも挿入できる体勢のままサーシャの股間に手を潜らせ再び角度をもたげ始めたペニスをいじくりだす。
 「東棟の黄色い猿どもに見られながら俺に犯されるのがずっと前からのお前の夢だったんだろ?いいさ、叶えてやるよ。俺は心優しい暴君だから薄汚いサバーカの夢も差別せず叶えてやるよ、感謝しろよサーシャ。さあ、尻の穴を緩めろ。大勢が生唾呑んで見てる前で心ゆくまでお前を犯してやるよ、顎外れるまで跪かせてしゃぶらせてやる、括約筋ズタズタになって一生糞便垂れ流して暮らすようになるまで犯して犯して犯しまくってやる。どうした?もっとイイ声で鳴けよ、ご覧になってる副所長がびんびんに勃っちまうくらいにな」
 「見るな……頼むからこんな、みじめで卑しい私の醜態を見ないでくれっ……サバーカに成り果てた私が二度と喘ぎ声などあげられぬよう喉を潰してくれ、喉を裂いて血を抜いてくれ……どうか、慈悲を……」
 「やなこった」  
 与えられた回答は明快だった。
 片手でペニスをしごき上澄みの雫を滲ませ、もう片方の手で相変わらず胸板をなで乳首を摘む。
 尻に押し付けた怒張がますますもって固さを増していく。
 物狂おしく身をよじるサーシャの痴態を舌なめずりせんばかりに視姦しつついよいよ挿入の準備に入る。
 双丘の窄まりに怒張をあてがう。
 サーシャの喉が仰け反り声にならない悲鳴が迸る。
 衣擦れの音も淫らに暴君に背後から抱きしめられることにより辛うじて立ち続けるサーシャがしっとり汗ばんだ胸板を仰け反らせ涙の薄膜が張った目を限界まで見開く。
 挿入に伴う激痛が下肢を引き裂く。
 レイジに後ろから抱きしめられた姿勢のまま倒れることも許されず、勃起したペニスから汁を滴らせ剥き出しの尻にペニスを捻じ込まれる。
 犯される屈辱とそれを凌駕する激痛にサーシャが絶叫する。 
 「よせ!!」
 それまで奇跡的に保っていた理性をかなぐり捨て安田が行動を起こす。 
 犬の交尾を思わせる姿勢でサーシャの背に覆い被さった暴君は安田の制止も聞かずサーシャから離れようとしない。
 上澄みの雫をすくいとり指の腹で伸ばし丁寧にペニスに刷り込む、もう片方の手をサーシャの顎先に運び白い糸引く指を含ませ唾液を捏ねる水音も卑猥にかきまぜる。
 片手でサーシャのペニスをしごき勃ち上がらせもう一方の手で容赦なく口腔を蹂躙しながら暴君が宣言する。
 「お前は俺の犬だ。薄情な兄貴の分まで可愛がってやる」
 さんざん指の腹で揉みしだかれた乳首が白い胸板に二点の朱を添える。
 ともするとそれは恥辱の刻印にも見える。
 次第に熱を帯び始めた手が雄雄しく屹立した分身をしごき絶え間なく快感を注ぎ込む傍ら、怒張したペニスを双丘の狭間に押しあて力を込め穴をこじ開けていく。
 熱と体積を伴う肉塊の侵入にサーシャが悲痛な声あげ悶え狂う。  
 「あがっ…………」
 立ったまま行為を強制される苦しみたるや尋常ではなく、銀髪が縺れた額に大量の脂汗を滲ませサーシャが呻く。
 内臓を圧迫する異物の侵入に酸素を欲するように喉仰け反らせたサーシャのもとに安田が足早に赴き、サーシャの背にのしかかる暴君を力づくで引き剥がしにかかる。
 もはや完全に冷静さをかなぐり捨てた安田が激発する。
 「いい加減にしろ、東棟の囚人が見ているんだぞ!」
 憤激に駆られた安田が肌と肌をぴたり密着させた二人を苦労して引き剥がす、暴君とサーシャの間にむりやり身を捻じ込ませ疲労困憊のサーシャを背に庇い暴君の胸板を突き放す。
 交わりを妨げられた暴君が舌を打つ。
 既に三分の一ほどサーシャの中に沈んでいた肉塊がずるりと音たて引き抜かれる、それが引き金となり覚醒剤で過敏になったサーシャが二度目の絶頂を迎える。

 「ひあ、あああっああああああああっあああ……!」
 ペニスから迸り出た白濁がサーシャの下腹をみじめに汚す。

 地に膝を屈したサーシャが下半身を剥かれた格好のまま放心するさまを暴君が嗤う。
 「気持ちよかったか?サーシャ」
 もっとも憎む男の嘲笑がどん底のサーシャに追い討ちをかける。
 自分は皇帝であるという妄想と誇りだけを支えに生きてきた男が、そのすべてを根こそぎ奪い去られた絶望の底で己の吐き出した白濁に塗れて呆然と弛緩した表情を晒している。
 朦朧と虚空をさまよう空洞の目には既に光がなく、アイスブルーの瞳の輝きすら失せてしまっている。
 展望台のど真ん中でレイジの巧みな指使いと言葉責めと薬の効果によって乱され、東棟の群集が生唾を呑んで注視を注ぐ眼前でしどけなく軍服を着崩し氷の彫刻めいた胸板と突起を晒し、股間から滴り落ちる雫すら包み隠さず披露することになったサーシャは未来へ繋ぐ一縷の希望すら失い果て呆然と座り込むばかり。

 皇帝の時代は終わった。
 監視塔で、ペア戦の会場で。
 背筋を寒からしめるナイフ捌きでもってレイジすらも圧倒した皇帝はここにはいない。
 いるのはただレイジに手ずから餌代わりの薬を与えられ調教されサバーカと成り果てたみじめで哀れな男だ。
 群集の前でレイジに犯されるという最大の屈辱を味わったサーシャはもはや自力で立ち上がる気力も尽き果て、肩から滑り落ちた軍服に申し訳に腕を通したまま、ズボンの前をしまいもせず暮れ始めた空に虚ろな視線を投じている。

 「………っ、」
 正視に耐えない光景に顔を背ける。
 強者が弱者を食らうのが東京プリズンの掟だ。
 その事実が実感を伴いひしひしと染みてくる。
 しかしレイジは決して意味なく弱者を食らうような真似をしなかった、手当たり次第に獲物を狩って飢えをみたすような下品な真似はしなかった。レイジは常に満腹の豹だった。満腹だからこそ余裕をもてた、弱者に対する寛容さを失わず王位に君臨していられた。

 暴君は違う。

 今目の前にいるのは飽食を知らぬ豹だ、食っても食っても満たされぬ飢えを抱え常に獲物を欲する呪われた本性をもつけだものだ。
 無力な獲物を狩り立てるのこそ至上の悦びである暴君は東棟全体を猟場と化しこれからも獲物を狩り続ける、今日サーシャに行なったのと同じ事を他の人間にする可能性もある。

 このままではいけない。
 止めなければ。
 一日も一刻も一秒でも早くレイジを連れ戻さねば。

 暴君の覚醒がもたらした衝撃は絶大だ。
 不運にも好奇心から展望台に馳せ参じた連中は、目に焼き付いたサーシャの痴態に今だ興奮冷めやらず股間を固くしている者も多くいる。
 欲情に息を荒げ物欲しげに舌を出した囚人らに対し殺意に近い感情を抱く。僕の視線の先では身を挺し止めに入った安田が油断なく暴君を牽制する。
 暴君の縄張りを侵し怒りを買う危険も辞さず、半裸の状態で風に吹かれるサーシャを必死に庇う。
 安田が思いがけぬ行動をとる。
 衣擦れの音もかすかに背広を脱ぎサーシャの裸の背にそれをかける。
 サーシャの裸身を衆目の注視と冷たい外気から隠そうという配慮だ。
 背広を掛けられたサーシャは礼を述べるでもなく、かたくなに同情を拒み面を伏せる。
 粉々に粉砕されたプライドを地を這いかき集め、寒さと屈辱に小刻みに震える手で肩に掛かる背広を掴み、今ここにいない誰かのぬくもりを求めるようにぎゅっと引き寄せる。
 背広の襟を掻き合わせたサーシャから暴君に視線を転じ、
 「……囚人間の性行為に本来口を挟む立場ではない。男性しかいない環境では往々にしてそういうことが起こり得る。特に君たちは十代後半、もっとも性欲旺盛な年頃の少年たちだ。その年代の少年たちが一箇所に集められれば不可避的にそういう事態が起こり得ると私も熟知している。しかし事が合意の上で行なわれ性病予防の処置がきちんと施されているなら私とて口を出すわけにはいかない、互いの合意のもと密室で性行為に及ぶのは個人の自由で私とて黙認するしかない。残念ながら東京少年刑務所の規則には同性の性交渉を禁じる条項が設けられていないのだ」
 「そりゃ結構だ。これからも俺は好き放題犯って犯って犯りまくれるってことだよな」
 「……あれのどこが合意の上の性行為だと?」
 「セックスには色々やりかたがある。三十路超えて童貞の副所長にはわかんないのか?」
 安田の目が悲哀にぬれる。
 「こんな振る舞い君らしくもない」 
 「らしくなくて当たり前だ。一緒にされちゃたまんねーよ」
 折から吹いた風が安田のシャツの袖口をはためかせ暴君の髪をそよがせサーシャの銀髪を清流の如く梳る。
 残照に映える横顔に酷薄な笑みを浮かべ、楽観的な口ぶりで暴君が述べる。

 「で、あんたは俺をどうするんだ?東棟の連中が生唾呑んで見守る前でサーシャをむりやり剥いてイカせた罪で独居房にぶちこむってか、醜く肥え太ったゴキブリとネズミが這いずりまわる糞尿垂れ流しの独居房に一週間でも一ヶ月でも放り込んで反省をしいるってのか?いいぜ、やれよ。東京プリズンの秩序を司る副所長サマとしちゃ当然そうしなきゃいけねーよな、ハルを亡くした所長が廃人と化した今はあんただけが頼りだ、あんたがこれから東京プリズンを背負ってくんだ。ゲスな所長に成り代わった気分はどうだよ安田?最高か?さあ、今すぐ看守を呼んで後ろ手に手錠かけてくれよ。俺がこれ以上サーシャにおいたしねーように独居房に引っ立てるが吉だ。どうした?びびってんのか?良心的な副所長サマはネズミとゴキブリの巣窟に俺を放り込むのをためらってぐずぐずしてんのか?」

 饒舌に捲くし立てる間も暴君の目は狂気を孕み爛々と輝きを増す。
 嗜虐の愉悦にうっとり目を細めた暴君が恍惚の境地で挑発するあいだ、核心に揺さぶりかけられた安田は動揺を隠せず、眉間の皺を一層深め苦悩している。
 僕は安田の性格をよく知っている。
 安田がいかに公平で公正な人間であるか痛感している。
 安田は己に暴君を裁く権利があるか自問し結論を出せずにいる。
 レイジが東棟の群集の前でサーシャを嬲り者にしたのは彼自身目撃した周知の事実だが、ゴキブリとネズミが這いずる不衛生極まりない悪臭と汚物の掃き溜めに罰と称して囚人を放り込むような非人道的措置は可能な限り避けたいのが良心を重んじる安田の本音だ。
 もしこの場にいるのが真性サディストの所長なら即刻レイジに独居房送りを命じたことだろう、のみならず独断で罰を下しもしただろう。
 しかし安田は所長ほどには非情にも残忍にも徹しきれない。
 囚人に対し常に公正な態度をもって臨もうと自らを厳しく律してきた安田はレイジの処遇に思い悩んでいる。
 副所長の立場と一人の人間としての良心の間で揺れ動く安田をちらちら眺めやり、新たな遊びを閃いたとばかり暴君がほくそ笑む。
 「あんたがサーシャの身代わりになってくれるのか」
 強い風が吹く。
 砂利の礫が舞い上がる。
 僕が注意を促すより早く暴君は行動を起こしていた。
 地を蹴り跳躍し無防備に立ち尽くす安田に肉薄、驚愕に目を剥いた安田が反射的に振り上げた手をたちどころに押さえ込み押し倒す。
 安田が後ろ向きに倒れる。
 ケニーが展望台の隅に素早く退避する。
 群集がどよめく。

 「いいぞ暴君やっちまえ、副所長をひん剥いてサーシャの二の舞にしちまえ!」
 「安田の奴いっつもお高く澄ましてて気に入らなかったんだよ、すかした眼鏡なんかかけて俺たち見下して胸糞悪いったらありゃしねえ」
 「お高くとまった日本人のエリートにあんたのペニスぶち込んでやれよ」
 「サーシャの次は安田だ、二匹目のサバーカだ!」
 「さあ、思う存分俺たちを愉しませてくれよ!!」

 猛り狂った囚人らが爛々とぎらついた顔で唾と野次を飛ばす、これまでさんざんサーシャの痴態を見せつけられ既に限界まで高まっていた性的興奮が爆発したのだ。
 熱狂の渦と化した展望台にて平静を保っているのは僕と安田と暴君の三人のみ。サーシャは安田の背広を掻き合わせ震えている、ケニーは展望台の隅でひしと頭を抱え込み震えている。
 群集の支持を受けた暴君が安田に馬乗りになる。
 「何をするレイジ、離れろ、即刻離れないと私も手段を選ばず……」
 「今のあんたに何ができるってんだ?頼りの銃もお守りの看守もないくせに」
 冷ややかな嘲笑を浮かべた暴君の言葉に安田の顔が強張る。
 焦燥の汗をかくシャツの襟元に手をかけ一気に引きちぎる。
 裂かれたシャツから弾け飛んだボタンが僕の足元にまで転がってくる。スニーカーの爪先にあたって止まったボタンを一瞥、漸く僕は我に返る。
 「ーくっ!」
 安田の言葉ではないがよもや手段を選んでいられない。
 目の前では今まさに安田が犯されようとしている、サーシャの身代わりにされようとしている。他の群集は野次をとばすばかりで頼りにならない、僕が止めに入らねば安田はこのまま犯されてしまう。
 烈風を切り裂き走り出す。
 ぐんぐん迫りつつある視界の中、展望台に寝転がった安田に暴君が覆い被さる。
 引き裂かれたシャツから覗く不健康に白い肌、貧弱な腹筋。
 それらすべてが欲望を焚きつける。
 激しく首振り拒絶の意を示す安田を無視し、暴君は一番下までボタンを毟り取り一糸纏わぬ上半身を暴いてしまう。
 引き裂かれたシャツの間にいやらしくのたくりながら褐色の手が忍び込む。
 「ひとりも看守を連れてこないなんて無謀だな、副所長のご威光を過信しすぎだぜ。ひょっとして話し合いで解決できるとか思ってた?話し合いには邪魔だからあえて看守を連れてこなかった?
 ……ははっ、ウケるよあんた。最高に面白い冗談。
 いいか、よーくあたりを見渡してみろ。
 ここは処刑場だ、キリストが磔にされた髑髏の丘だ。ここに一歩足を踏み入れた時から正義は死に絶えたんだよ、あんたが拠って立つもの一切合財が等しく塵芥に帰して空の彼方に連れてかれたんだよ。わかるだろ?ここじゃ話し合いなんて時代遅れな解決法は通用しない、あんたはすぐさま俺を撃ち殺すか手錠をかけるべきだったんだ」
 「くっ……レイジ、やめ、ろ……あぅくっ……」
 ズボンの上から股間にふれる。
 軽く置かれただけで甘い痺れが走ったらしく安田が呻く。
 まんざらでもない反応に気を良くした暴君が陰険な笑みを滴らせベルトを引き抜きにかかる。
 手際よくベルトを緩めカチャカチャと金具が擦れる音も秘密めかしてズボンを脱がせば、地味な暗色のトランクスと青白く貧弱な下肢があらわとなる。
 非力な細腕をいかに突っ張ろうとも暴君を押しのけることもできず、とどまるところを知らぬ欲望の赴くままシャツを引き裂かれ胸板をまさぐられる屈辱に顔を上気させた安田のもとへ急ぎ駆けつける。
 「よせレイジ、それ以上やったら独居房どころではすまなくなるぞ!」
 「お前はあとで相手してやるよキーストア。なんなら安田と一緒がいいか」
 悪びれず嘯く暴君を殴りたい衝動が突き上げるも拳を握り込み自制する。
 今殴りかかっても返り討ちにされるだけだ、腕力では到底暴君にかなわないのが動かしがたい現実だ。
 安田と暴君の間に割り込み引き離そうと抗う僕にせっかくいいところなのに邪魔するなと一斉に罵倒が浴びせられる、興奮に猛り狂った囚人らが前列に踊りだし弾け飛んだボタンを拾い上げ力任せに投擲する。
 後頭部に肩に背中にボタンが跳ね返る。
 しかし今はそんなことに構っていられない、後頭部や肩や背中にボタンがあたる痛みに気を散らす暇はない。
 「今の君は正気じゃない絶対おかしい、サーシャだけでは飽き足らず副所長まで群集の前で犯しそれでどうしようというんだ、そんなことをしたところで癒されず飢え渇くだけだというのにそれすら理解できないのか!?」
 「邪魔だどけ親殺し、安田のケツが見えねーじゃんか!」
 「副所長のペニスが剥けてるかどうか教えてくれよ、親殺し。お前の位置ならばっちり見えるよな」  
 「なんならお前が口と手で剥いてやってもいいんだぜ。せっかく暴君の遊びの輪に加わったんだからそん位してやってもバチあたらねーだろ」
 背後で哄笑が炸裂する。
 群集の哄笑が殷殷と大気を震わし鼓膜を打つ。
 僕はそれらの野次を無視しがむしゃらに暴君の腰にしがみつく、地に倒れ伏したまま不規則な息を吐く安田がシャツの端切れを羽織り上体を起こすのを目の端で捉え急きたてる。
 「早く逃げろ安田、暴君の餌食になりたいのか!?」
 前髪を額に被せた安田が前戯の恍惚と疲労とが溶け合った放心の表情で呆然と僕を仰ぐ。
 犯されかけたショックも激しく胸郭を上下させる安田だが、僕の絶叫に応じて震える膝を叱咤し何とか立ち上がる。
 安田が立ち上がったのに安堵するも束の間、暴君と激しく揉み合ううちに固くいきり立った股間が接触する。
 「…………っ、」
 胃袋が痙攣し苦い胃液が逆流する。
 猛烈な吐き気に襲われた僕の間合いに踏み込み暴君がちろりと唇を舐める。
 「まだまだまだまだ足りねーんだよ。狂気が鎮まらないんだよ」
 狂気の衝動を持て余した暴君が標的をかえる……目の前のこの僕に。間合いから逃れようとあとじさるのを許さず手首を掴み、思い切り引く。
 骨をも軋む力にたまらず苦鳴を零す。
 手首に走る激痛にうろたえる僕にもお構いなくもう片方の手で僕の腰を抱いて自分のもとへ引き寄せる。
 「熱を冷ましてくれよ。ペア戦の時みたくさ」
 「!ふあっ……」

 背筋に沿って這い登る指の感触にぞくりと震えが来る。
 服越しに背筋をなぞられただけで性感帯に微電流が走る。
 僕の腰を抱き寄せた暴君が首筋に顔を埋め汗を啜る。
 唇の火照りがじわりと染みて肌が淫蕩な熱を持ち始める。
 快楽の奔流に理性を押し流す。
 売春班でさんざん快楽に馴らされた体があらゆる刺激に感じるよう仕込まれた体が、背筋をじれったく這いのぼる指遣いと首筋を辿る唇の火照りをあざとい快感に昇華する。

 「はふっ……レイジ、よせ……囚人が見ている前でこんな破廉恥な……公序良俗に反する行いは人格を疑われるぞ……」
 「服越しでもわかるくらい乳首こりこりにさせてるくせにいきがるなよ」
 「!いっあ、」
 暴君が服の上から乳首を転がす。
 指の腹で押し潰された乳首の痛みに喉が仰け反る。
 一体何をしているんだ僕は?
 安田を助けに入ったつもりが今度は自分が身代わりに犯されようとしている、東棟の群集がさかんに野次をとばし食い入るように見詰める中で痴態を晒している。
 こんなの嘘だ、こんなの絶対に間違っていると心が否定するも快楽に貪欲な体が愛撫を待ちかねて疼きだす。
 固く勃起した股間を僕の内腿に押し付け、かかるそばから爛れそうな熱い吐息に交えてねっとり囁く。
 「サムライに抱いてもらえなくて寂しいだろ?慰めてやるよ」
 傲慢な物言いにも増してその残酷な笑みが、睫毛の奥に沈んだ双眸を過ぎる猟奇的な悦楽の色が僕を打ちのめす。

 サムライ。
 サムライ。

 固く目を閉じサムライの顔を思い浮かべる、そうすることによって理性を保とうと努める、反応を自制する。
 滑らかな褐色の手が上着をはだけ背に忍び込む、その手が僕の腰をいやらしく撫でさする。
 死に物狂いに抵抗を試みる、暴君の腕の中から逃れようと狂おしく身悶え奇声を発する。しかし暴君は僕の抵抗など歯牙にもかけず獲物をいたぶる愉悦に酔いながら僕の内腿に手をかけー……
 「………」
 僕の意志など無視し、膝を押し開こうとした手が止まる。
 異状を察し抵抗を止める。
 反射的に顔を上げ暴君を仰ぐ。
 暴君は凝然と目を見開きただ一点を見詰めている、僕のズボンの横を食い入るように見詰めている。
 何が注意を引いたのかといぶかしみハッとする。

 十字架。
 激しく抵抗したせいでポケットにしまっていた十字架の先端がとびだしている。
 豁然と夕日を照り返し神々しく燃える十字架が、暴君を魅入る。 
 否、これは。

 「レイジ……」
 おそるおそる名を呼ぶ。
 その一瞬、瞬き一回にもみたぬほんの一刹那、十字架が放った光を浴びた暴君が奇妙に安らかな表情を浮かべレイジへと戻る。
 狂気が癒えたかの如く瞼を下ろしたその顔は束の間の安息にまどろむ幼子にも似ていた。
 十字架の残光に射抜かれたレイジがあとじさる。
 一縷の希望を託し十字架を握り締め、乾いた唇を湿して説得にのりだす。
 「レイジ、正気に戻れ。君が今すべきことはこんなことじゃない、暴君に魂を売り渡して狂気に走るなど馬鹿げている。君は今すぐロンを迎えに行かねばならない……」
 『手遅れになる前に』
 斉藤の言葉が蘇る。
 気迫を込めて立ち向かう僕をレイジは呆けたように見返す。
 時が静止する。
 砂塵を運ぶ風が上空で螺旋を描く。
 レイジが何か言おうと口を開きかける、風に捲れた前髪の下に唯一残る左目に波紋が生じる。
 僕はレイジをこちら側に連れ戻そうと手を伸ばす、レイジの腕を引いてこちら側に連れ戻そうと一歩を踏み出しー……
 「大丈夫ですか副所長!?」
 静寂を破ったのは、闖入者の悲鳴。
 靴音も慌しく展望台に転がり込んできた若い看守が激しく息を切らしあたりを見回す。
 廊下を全力疾走し既にして疲労困憊の体で汗を垂れ流した若い看守は、膝に手を付き呼吸を整えながら安田と向き合う。
 「鈴木看守、どうしてここが……」
 「わかりますよそりゃ!東棟中すごい騒ぎになってますよ、廊下や房のあちこちに囚人が大怪我して倒れていて、ここに来る途中にもいくつも血の跡が残っていて……看守もみんな副所長をさがしてます、この事態を収拾すべく副所長の指示を乞おうと探し回ってます。けれどどこにも姿が見当たらなくて、それでなくても所長はあんなんで頼りにならないし、だから僕先輩にどやされながらあちこち走り回って副所長さがしまくって……そしたらこっちの方が騒がしいから何かあったんじゃないかって駆け付けてみたら案の定……」
 そこで初めて安田の風体とそばでへたり込んだサーシャに気付いたらしく、若い看守は息を呑む。
 「何があったんですか、一体。彼はどうしてこんな……酷い……」
 引き裂かれたシャツから覗く肌の至る所に痣を生じさせた安田と、その傍らで背広を羽織りうずくまるサーシャとを見比べ、看守は愕然とする。
 安田は強姦未遂されたと一目瞭然、サーシャに至っては背広一枚ひっかけた寒々しい半裸のままなのだから彼が最悪の事態を予期したのも無理はない。
 実際その予想は当たっていた。
 「副所長、これは、これはどういうことです……一体ここで何があったんですか……彼は誰にレイプされたんですか?」
 「俺だよ」
 ふてぶてしく名乗りでたのは、暴君。
 既にレイジの面影は消え去り、先刻よりもさらに傲慢な物言いで若い看守を威圧する。
 若い看守がびくりとする。
 罪悪感などかけらもなく名乗りでた暴君に気圧された看守がみるみる目に大粒の涙をためるのに鼻白み、暴君はあっけなく踵を返す。
 「興ざめだ。帰って寝る」
 誰も止められなかった。この僕でさえ口をきけなかった。
 群集の人垣が自然と割れ暴君を通す。
 両岸に分かれた群集には一瞥もくれず颯爽と展望台を出ようとする暴君の行く手に白い影が立ち塞がる。
 「行かせない」
 暴君の行く手を塞ぐ形で立ちはだかったのは、斉藤。
 斉藤を認めた刹那、安田の顔が歪む。
 「………貴様の仕事は医務室で事足りるだろう」
 変わり果てた姿を見られた屈辱に唇を噛み、旧友にむかい辛辣に吐き捨てる。
 斉藤がちらりと安田を見る。
 脳天から爪先までさっと視線で一刷けし、ついで傍らのサーシャと十字架を抱いたまま微動だにせず停止する僕と手前の群集に順に目をやり展望台の全容を把握する。
 斉藤の顔から拭い去ったように笑みが消える。
 「君がやったのかい」
 ひどく穏やかな問いかけ。
 暴君は掴み所ない笑みで核心をはぐらかす。
 軽薄に肩を竦めた暴君に相対した斉藤は、迫り来る暴君から放たれる威圧感にも毅然と抗し再度問う。
 「安田君のシャツを破いたのは君かと聞いてるんだ」
 「知ってるか?安田の肌ときたら最高に白いんだぜ。肌触りときたら三十路の男と思えないほど弾力あった」
 一歩、また一歩と着実に距離が狭まる。
 肉食獣を思わせるしなやかな大股の歩みで近付きつつある暴君にも一切動じず、冷徹な眼差しでこれを迎えうつ。
 「逃げろ、斉藤。死にたいのか」
 看守に肩を借りた安田が苦しげに唸る。
 斉藤は動かない。
 周囲の囚人が固唾を呑んで注視する中、距離は着実に狭まっていく。
 夕焼けを背景にした暴君が、狩りに赴く豹の歩みで獲物の喉笛に食いつかんと牙を剥く。

 距離が縮まる。
 空気が緊迫する。
 太陽が燃え尽きる。
 影がひとつに重なる。

 「斉藤………っ!」
 安田が僕の見たことない顔で叫ぶ。
 冷静沈着なエリートの装いをかなぐり捨て、大人の余裕と落ち着きすらも跡形なく振り捨て、その瞬間安田は十数年の歳月を飛び越え斉藤の友人に回帰する。
 肩を抱いた看守を振り払いたまらず斉藤に駆け寄る安田、眼鏡の奥に切迫した光が過ぎり必死な形相がひりひりと身を灼く焦燥を伝えてくる。
 名伏しがたい衝動に襲われ友人へ駆け寄りかけた安田の視線の先、床に穿たれた影が交わり同化する。
 肩がふれそうでふれない微妙な距離ですれ違いしな影を溶け合わせた暴君が勝ち誇って微笑む。
 「先越されて悔しいか」 
 「君は腰抜けだ」
 不敵に応じる斉藤に暴君は怪訝に眉をひそめる。
 重苦しい沈黙が被さる中、斉藤がゆっくり口を開く。  
 「僕は順を迎えに来たけど君はその勇気も出ずにこんな所で燻っている」
 挑発というにはあまりに静かな口調で淡々と事実のみを指摘する。
 暴君がスッと無表情になる。
 虚無に食い荒らされた空白の表情を斉藤は静かに見詰める。
 暴君が体ごと向き直り、展望台の真ん中に今だ座りこんだままのサーシャに無情に顎をしゃくる。
 「来いよ、サーシャ」
 サーシャが鞭打たれたように竦み上がる。
 立ち上がった拍子にバランスを崩し転倒しそうになりながら、安田から借りた背広の裾をはためかせ追いすがるサーシャに暴君が釘をさす。
 「ちゃんと『それ』拾って来いよ。またあとで遊ぶんだから」
 暴君が冷ややかに一瞥くれた箇所に転がっているのは、サーシャの根元を戒めていたコックバンド。
 恥辱に苛まれ顔を上気させたサーシャに溜飲を下げる暴君、その変貌ぶりに胸が痛む。
 「くっ………」
 地に膝を屈し四つん這いになり、震える指先でコックバンドを握り込む。
 己自身の白濁に塗れたコックバンドを掌に固く握り込み、屈辱に肩打ち震わせる皇帝の醜態が僕の胸をかきむしる。
 「どうしてそこまでするんだ?ブラックワーク第二位の実力者、超絶的技巧のナイフ捌きを誇る北の皇帝ともあろうものが何故暴君如きの命令を呑み恥をさらす?君にとってレイジは憎んでも憎み足りない人間、唯一認める好敵手のはずじゃないか。そんな男に群集の眼前で強制的に射精させられてもなお尽くそうとする理由は何だ、答えろサーシャ!!」
 サーシャは僕の問いに応えず顔を上げようともしない。
 展望台に這い蹲ったサーシャの裸身を群集がじろじろ視姦する。
 薄汚いスニーカーの爪先で小突かれ尻を蹴飛ばされ、萎縮したペニスをわざと靴裏で揉みしだかれるような屈辱を舐めながらも呻き声一つなく耐え忍ぶサーシャに理性が蒸発する。
 「上出来だよサーシャ、これでこそ薬漬けにして仕込んでやった甲斐があるってもんさ。なかなか上等な芸じゃねーか」
 暴君が大仰に両手を広げサーシャを迎え入れる。
 飼い犬の芸を褒めるようにサーシャの銀髪に手を潜らせかき回し、固く強張った五指をこじ開けコックバンドを取り上げる。
 「はっ……あふっ……」
 「けどな、どうせなら咥えてもってきてほしかったぜ」
 弛緩した口から涎をたらすサーシャを至近距離で覗き込み、たった今取り上げたばかりのコックバンドを口に突っ込む。
 己の白濁に濡れそぼったコックバンドを唾液を捏ねる音も淫らにサーシャがしゃぶりはじめる。
 「口寂しいならこれでも咥えとけ。薬はあんまり多く舐めると毒だからな、しばらくはこれで我慢しとけ」
 口に含まされたコックバンドに夢中で舌を絡めるサーシャを満足げに見下ろし、暴君が一同に別れを告げる。
 「サーシャを連れていく気か」
 「こいつが望んだことだ。疑うならサーシャに聞いてみな、一も二もなく頷いて俺の爪先をしゃぶりはじめるだろうさ。いかにお偉い副所長サマとはいえ囚人のフリーセックスを咎める権利はねーよな?」
 安田の抗議を平然と受け流し、人の心をざわつかせる不吉な笑みはそのままに暴君がこちらを見る。

 その目。
 その顔。
 もはや十字架の威光も通じないと絶望させる笑み。

 『Good-bye my friend, See you again. 』
 さようなら我が友よ。
 また会う日まで。

 暴君の口を借りてレイジが喋った最後の言葉だった。

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050316202153 | 編集
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