ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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三十四話

 天と地を架ける雨が白い軌跡を描く。
 俺にとって雨は地を縫い止める直線の糸としか認識されない。
 ならばどれだけ雨にぬれようが一向に構わない。
 梅花が貢いだ服が水浸しになろうが惜しくはない。
 俺は雨にぬれながら倉庫街を目的もなく歩いていた。
 周囲には蕭然と廃墟が建ち並んでいた。
 不況の煽りを食らって閉鎖に追い込まれた工場が軒を連ねる荒廃した町並みはどこかの戦場の風景にも似ていた。
 戦争が起こり住民がひとり残らず逃げ出した街。
 とるものとりあえず命からがら身ひとつで逃げ出していった痕跡が至る所に穿たれている。
 ひび割れた路面にへばりついたガムと芯まで燃え尽きた煙草の吸殻、雨の散弾に撃たれて左右に傾ぐ空き缶。倉庫の大半はシャッターを下ろしその内側は死のような静寂が支配している。どこを見回してもゴミばかりだ。朽ちて寂れた虚しい廃墟にただひとり、俺は目的もなく漠然と歩いていた。
 そして出会った。
 『だれだっ!?』
 威勢のいい第一声。
 第一印象は猫。そう簡単に俺を手懐けられるとおもうなよと毛を逆立ていきがる野良猫だ。
 やんちゃな気性を反映するように癖の強い髪があちこちに跳ね回る。
 ぽたぽた雫を滴らせる前髪の下には荒みきった光を放つ目があった。
 癇の強そうに引き結ばれた口元は一度こうと決めたらてこでも譲らぬ意固地さを感じさせる。
 生意気な面だった。
 何日、否、何ヶ月洗濯してないのか想像もつかぬほどに薄汚れたジャンパーを羽織ったガキはよく見ればあちこち泥だらけ傷だらけの悲惨な有り様で、食うや食わずの路上生活を送っていることはおのずと察しがついた。
 全身ずぶ濡れで倉庫の軒先にしゃがみこんだガキは、近寄りつつある俺に敵意を示し、いつ俺がとびかかってもきてもいいよう腰を落として身構える。
 俺を見据えてびくともしないその強くひたむきな眼差しに惹かれた。逐一俺の顔色を窺い機嫌を損ねぬよう腐心する梅花のようにおどおど卑屈な色もなく、「月天心」の連中が俺に跪く際の狂熱を湛えた畏怖と崇拝の色もなく、その目はただ真っ直ぐに挑むように俺を見詰めていた。
 鮮鋭な意志がやどる眼差しに魅入られ、機械的に足を繰り出しガキに歩み寄る。
 距離が縮まるにつれガキの顔に驚きが広がる。
 シャッターに寄りかかったガキが放心の体で呟く。
 『……金、銀?』
 金、銀。
 瞳の色をさしているとすぐわかった。
 ガキは間抜け面をさらし俺の瞳に見惚れていた。面白い顔だった。
 考えていることがすぐ顔に出る体質らしくガキは束の間虚を衝かれたように立ち竦んでいたが、我に返るや否や棒立ちの醜態をさらしたことに腹を立て虚勢をはってみせる。
 ガキは寒くないのかと聞いた。
 俺は寒くないと答えた。
 ガキは怪訝な顔をした。
 俺は頭がおかしいと言った。
 ガキに指摘されるまでもなくそんなことは知っていたが、実際俺を前にして「頭がおかしい」と断言したやつははじめてだった。 

 ガキに興味を持った。
 久しく忘れていた好奇心が疼きだす。

 少し話をした。
 途切れ途切れに言葉を交わした。
 勢いを増す雨音に時折かき消されそうになりながら、しかしガキは正面に突っ立つ俺をひたと見据え、歯切れ良く冗談をとばし笑いさえした。
 年相応にガキっぽい笑顔だった。
 喜怒哀楽の激しさをあらわすようにどの表情もいきいきと躍動感に溢れていた。
 顔をくしゃっと崩した屈託ない笑みも胡乱げにこちらを窺う目つきも怒った顔も芝居っ気などかけらもないごく自然なものだった。
 顔の筋肉と感情を伝える神経とが断ち切れた俺には真似できない笑顔だ。
 素の自分をあけっぴろげにさらけだした人間臭い笑顔は、俺の欠落を埋める代用物となりえるものだった。
 突然ガキが欲しくなった。
 名も知らぬ初対面のガキに対し、梅花にもだれにも感じたことのない狂気じみた独占欲を抱き始めていることを自覚した。
 他人に執着を抱いたのはあの時が最初で最後だった。
 俺はそれまで他人を物としか見てなかった。
 俺の意のままに操れる人形くらいにしか思っていなかった。
 実際梅花も月天心の連中も自分に意志がないかの如く従順に振る舞い自らすすんで俺に服従していた。
 だからこそ俺は人形を壊すことをためらわなかった。
 人形は玩具だ。
 玩具はいずれ捨てられる宿命だ。
 必要価値のなくなった玩具はすみやかに廃棄処分にすべきだ。
 壊れた人形に用はない。飽きた玩具に用はない。
 これまでずっとそう思ってきたが、何故かこのガキに対してだけは玩具に抱くのよりはるかに強烈な関心を抱き始めていた。
 物に対する異常な執着か、人に対する異端な思慕か。
 どちらとも判断つきかねる激しい感情が胸裏で荒れ狂う。

 不意にこいつが欲しくなった。
 欲しくて欲しくてたまらなくなった。
 自分から何かを欲することなど滅多になかった俺が、何故か今目の前にいるこいつを、この薄汚れたガキを心底から欲しいと思った。

 シャッターに凭れたガキがはでにくしゃみをする。
 濡れ髪から雫が滴る。
 長いこと雨に打たれ体温を失ったらしく、すっかり顔が青褪めていた。
 ずぶ濡れのジャンバーを着込んだガキと対峙し、訊ねる。

 『名前は?』
 『ロンだ』
 いい名前だ。単純だが良い響きだ。
 ロン、それがガキの名前だった。
 俺はその名を脳髄に刻み込んだ。

 ガキの目が、同情を含んだ眼差しが。
 「可哀想に」というたった一言が思考回路に混乱を引き起こす。

 ロン、お前のことが知りたい。
 もっと知りたい。
 おまえのすべてを知りたい、俺の物にしたい、お前が欲しい。 
 「可哀想に」の意味を知りたい。
 お前ならきっと教えてくれるはず、「可哀想」とはどういうことかを教えてくれるはずだ。

 奇跡が起きた。
 退廃に倦んだ灰色の世界に突如一条の光が切り込んだ。
 あの時怯むことなく俺を貫いた眼差しが「可哀想に」と何の打算も下心もなく投げかけた飾らぬ本音が、思いがけぬ強さでもって俺の情動を揺り起こしたのだ。 

 お前が欲しい。
 手に入れたい。

 至って無造作にロンに手を差し伸べる。
 俺の顔と手を見比べロンが戸惑う。

 目の前に差し出された手が何を意味するかわからないといった困惑顔で、しかし邪険に払いのける度胸もなく、どことなく不安げにこちらを窺っている。
 『一緒にくるか』
 抑えた声で静かに問う。
 意表を衝く申し出にロンが目を見張る。
 閑散とした廃墟に雨音が響き渡る。
 殷殷とこだまする雨音の中、一呼吸の逡巡をおき決断をくだす。
 ロンがおそるおそる慎重に指を伸ばし、手の甲に届く寸前に怖じたように引っ込める。
 俺の手の冷たさに驚き、狼狽の色が面を掠める。
 それでも一瞬のちに再び勇を鼓し、今度はしっかりと、思いがけぬ強さでもって俺の手を握る。
 縋り付くように一途に、
 希うように必死に。
 ロンはもうためらうことなく、繋いだ手を介してぬくもりの半分を俺に明け渡した。
 繋いだ手から流れ込む体温が、体の奥底で疼く衝動をおだやかに宥める。
 『俺は假面。お前を月天心に歓迎する』
 俺は俺の一存で行き場を失ったガキを月天心に迎え入れた。
 行くあてなく廃墟をさまよっていたロンに居場所をくれてやった。

 俺はロンの救い主だ。
 あの時も、これからも。

 褪せた夢から目覚めれば褪せた現実が待っていた。
 「…………」
 緩慢に瞼を上げる。
 不潔な染みが浮きでた天井が視界を占める。
 無味乾燥なコンクリートで塗り固められた四角い部屋の片隅、ガタの来たパイプのベッドに右半身を下にして寝転がっていた俺は、ここがどこかを即座に思い出す。
 東京少年刑務所、通称東京プリズン。
 スラムのガキどもが恐れおののく砂漠の監獄。
 ここは俺にあてがわられた房だ。
 堅固なコンクリ壁に塞がれた殺風景な部屋の片隅には廃品同然のベッドが置かれ精液と小便が染み付いた汚い毛布が申し訳に掛かっていた。

 夢も灰色なら現実も灰色だ。
 夢と現実に境界線はないのだ。

 ベッドに横たわったまま惰性的に視線を巡らし異状の有無を確認する。
 異様に低い天井が頭を押さえ付けるような閉塞感を与える。
 天井には幾何学的に配管が走っている。
 腐食した配管の破れ目からは絶え間なく汚水が滴りコンクリートの床を穿っている。
 昔の夢を見たのはこのせいか。
 床の窪みにできた茶褐色の水溜りを無感動に一瞥する。
 おもむろにベッドから身を乗り出し水溜りを覗き込む。
 水溜りにぼやけた顔が映る。
 能面じみて無機質で無表情な顔。
 細く通った鼻梁と酷薄そうに薄い唇、神経質に尖った顎。
 切れの長い瞼の奥から硝子の加工品の瞳が覗く。

 俺の顔。
 「假面」の由来となった無慈悲な鉄面皮。

 水溜りの中の顔を瞬きもせず凝視する。
 水溜りの男が瞬きもせずこちらを見返す。
 配管から雫が滴り水面に波紋が生じる。
 男の顔が歪みかき消え、波紋が収束すると同時に再び現れ出でる。

 俺は何故そうするのかもわからぬまま水溜りの中の男を長いこと見つめていた。
 現実の俺と水溜りに映りこむ虚像、どちらが本当の俺なのか次第に曖昧になる。
 今確かにここにいる俺は、存在する俺は、しかし本当は誰なのだろう?

 「假面」。人はそう呼ぶ。
 「道了」。俺の名前だ。

 愚にもつかない自問だ。
 俺は道了であり假面だ、俺は假面であり道了なのだ。
 それでも時々わからなくなる。
 梅花は俺が「優しい人間だ」と言った。
 俺が自分を愛していると思いこんでいた。
 梅花が見ていたのは俺の虚像だ、そうあってほしいという願望の上に築き上げた偽の幻影にすぎないのだ。
 「月天心」の連中もそうだ。
 奴らは俺を崇拝していた。
 どこまでも従順に俺に付き従うことで服従の喜びを感じていた。
 奴らはカリスマを求めていた。
 絶対的な力を持ち自分たちを率いる王者をもとめていた。
 俺は求めに応じ奴らを率いる王として暴威をふるった。 

 王座に祭り上げられた人形は糸が切れるまで踊り続けるしかない。

 俺は何も感じなかった。
 何も、何も。
 すべてが何の刺激も与えず無味乾燥に流れ去った。
 俺に楯突くものの手足をへし折り見せしめにしビール瓶で殴打し鼻をけずり顎を砕いてもなお何も感じなかった。
 発作的に湧き上がる暴力の衝動すら俺を癒しはしなかった。
 「俺は假面だ」
 口に出して確かめる。
 水溜りに映った唇がかすかに動く。
 俺は假面だ。この顔は作り物だ。そんな気がしてならない。
 俺は表情の作り方がわからない。
 意識して笑みを浮かべることはできる、意図して表情を作ることはできる。だがそれだけだ。自分一人でいる時どんな表情をしてるのか俺にはわからない。鏡を見るより他に確かめる術もない。
 俺は出来損ないの人形だ。
 衣擦れの音が耳朶をくすぐる。
 「う……ん……」
 寝ぼけた声がもれる。
 隣で寝返りを打つ気配がする。
 水溜りから視線をそらしそちらに向き直る。
 俺に背中を向ける形で寝転がっていたロンがごろりと反転しこちらを向く。
 枕元に肘を付く。
 ベッドが軋む。
 ロンへと顔を近付ける。
 ロンはよく眠っていた。
 癖の強い髪が重力に逆らいぴんと跳ねる。
 ゆるく瞼を閉じた顔は無邪気な子供のそれだ。
 弛緩した口元から一筋涎が垂れて顎を伝う。
 良い夢でも見ているのだろうか何かを咀嚼するようにくぐもりがちな寝言を呟き、首を振った拍子に肩から毛布がずりおちる。
 「…………寒くないのか」
 外気に晒された肩が寒々しい。
 ロンは返事をせず胎児のように手足を縮めた寝相でぐっすり眠っている。
 もどかしげに毛布を振り落としたロンの肩を軽く揺する。
 ロンは起きない。夢の中で母親に甘えてでもいるのだろうか幼い寝顔に甘美な安息が溶け広がる。
 「…………」
 毛布の端を掴み持ち上げる。
 童心に返って空想の世界に遊ぶロンに毛布をかけなおす。
 「………夢を見ているのか」
 寝顔に問いかける。
 ロンは答えない。
 目覚めるのを拒否するかのように身動ぎし意味をなさない寝言を呟くのみ。
 ロンの額に手をあてる。
 気だるく髪をかきあげる。
 指の隙間をすべる髪の感触が心地よい。
 額に被さる前髪をかきあげ額を包む。
 人肌のぬくもりが掌に伝わる。
 生きている人間の温度が掌に染み渡る。
 人形じゃない。こいつはたしかに生きている。
 こいつを壊すのは簡単だ。
 ほんの少し力を込めればいいのだ。
 ロンを壊したい欲求とロンをそばにおきたい欲求とが危うい均衡を保ちせめぎあう。

 額から手をおろし柔らかな頬を包む。
 指先で顎をぬらす涎を拭う。

 「良い夢か」
 聞かなくてもわかる。
 毛布に包まり熟睡するロンを飽かず眺める。
 俺の知るロンとは違うあらゆる邪悪に耐性のない無防備な寝顔。
 ロンが無意識に口元に指をもっていく。
 物欲しげに唇が開き、ぬれた音をたて親指をしゃぶりはじめる。
 乳を欲する赤ん坊の無垢なる貪欲さでもっておのれの親指を吸いながら、紛れもない至福の笑みさえ薄っすらと口元に浮かべ、たどたどしく舌足らずに単語を発する。
 『媽媽』
 おかあさん。
 「………………」

 ロンは壊れてしまった。
 俺が壊したのだ。
 この俺が。

 ロンが壊れるよう仕組んだのはこの俺だ。
 ロンにむかって香華の話をし形見の牌を砕き最後の希望まですっかりとりあげたのだ。

 牌と一緒にロンの心も砕けた。

 今のロンは幼子も同然だ。
 保護者に捨てられるのをおそれ俺に懐く臆病な子供だ。
 ロンが幼児退行してもう三日が過ぎるがこの間ロンは眠ってばかりいる。
 現実逃避の一種の嗜眠症だ。
 俺は一日の大半を寝て過ごすロンに寄り添い飽かず寝顔を眺め続ける。
 不思議と充ち足りた時間だった。
 漸くロンが俺の物になった、俺だけのものになった。
 俺はロンを手に入れた、ロンの精神を徹底的に破壊し尽くし人格を剥奪し自分に従順な人形へと作り変えもはや完全に東京プリズンに来た目的を達したのだ。
 「ロン」
 耳朶に息を吹きかける。
 ロンがくすぐったそうに肩を揺らす。
 「どこへもいくな」
 ピアスの光る耳朶を指で挟む。
 瞼がぴくりと反応する。
 執拗に耳朶をいじられるくすぐったさに不快げに眉根を寄せ、ロンが薄っすらと目を開ける。
 朦朧とまどろむ目が俺を仰ぐ。 
 「…………………媽媽?」
 あどけなく反駁する。
 目覚めたばかりで記憶が混濁してるらしく俺と母親を混同している。 幼稚な仕草で寝ぼけ眼をこすり起き上がりしな体の線にそって毛布がすべる。
 母親の姿をさがし部屋中を見渡す顔に次第に不安の色が濃くなり、ひくひくと口角が痙攣して号泣の準備に入る。
 大粒の涙を目にためたロンにすかさず声をかける。
 「俺はここだ」
 「たおりゃ」
 即座にロンが振り向く。
 強張り始めた顔が俺の姿を認めた刹那安堵に溶け崩れる。
 一抹の未練なく毛布を蹴飛ばしたロンが宙に両手を差し伸べ俺に抱擁をせがむ。
 俺はロンを抱き寄せる。
 ロンがきつく抱きついてくる。
 合わせた肌から甘酸っぱい汗の匂いが立ち上る。
 「たおりゃ、ねてるあいだおれのことひとりぼっちにしなかった?」
 「ずっと一緒だった」
 疑り深げに俺の顔色を窺うロンに噛み砕くように言い聞かせ、背中に回した手をつと腰にすべらす。
 これから行なわれる行為を予期しロンの体がびくりと硬直する。
 俺の手を拒絶するように背筋を突っ張るも、俺の機嫌を損ねることをおそれ、含羞と哀願の入り混じる悲痛な表情を浮かべる。
 「寝ているあいだに大分汗をかいたな。服を脱いだほうがいい」
 「自分で脱げる、体もふけるよ。手伝ってくれなくていいよ」
 激しくかぶりを振り許しを請うロンを無視しズボンにたくしこんだ上着をひきずりす。
 「!ぃひっ、」
 背中にじかに触れる。
 俺にしがみついたまま感電したようにロンが仰け反る。
 華奢な腰から背筋にそって手を這わせる傍ら、首筋に顔を埋め、貪るようにキスをする。
 首筋を舐めれば塩辛く淡白な汗の味が広がる。
 「お前のいい場所はわかっている」
 窄めた舌で唾液の筋をひきながら衣擦れの音も性急に体をまさぐる。 恐怖に駆られてあとじさったロンが背中から壁に激突し鈍い音が鳴る。俺はロンの上にのしかかり肌を密着させさらに大胆に愛撫を始める。
 体を襲う熱に何も判らぬロンは恐慌に陥り切ない声を上げる。
 「あっ、あっ、あっ、あっ!」
 片手を細腰に回しもう片方の手で胸板をまさぐる。
 胸の突起を交互に摘んで捏ね繰り回してやれば、快感を堪えきれなくなったロンが先ほどとは別の意味で激しく首を振り始める。
 壁に背中を預け汗ばむ喉を仰け反らせ、痙攣の発作にでも襲われように断続的に身を打ち震わせ、縋るものを欲して伸ばした手で爪痕が付くほどシーツを掻き毟る。
 ロンが背中で壁を叩く。
 「やっぱりぬれてるじゃないか。体じゅうぐっしょり汗をかいている」
 羞恥を煽ろうと低く囁けば、今にも泣きそうにロンの顔がくしゃりと歪む。
 「こんなにぬらして恥ずかしくないのか?お前が出したものでシーツもぐっしょり湿っている。これじゃ俺が寝る場所がないじゃないか」
 「俺しらない……しらないもの……目が覚めたらこうなってたんだ、俺がしたんじゃないよ」
 必死に弁解するロンの乳首を指の腹で転がす。
 ロンが「ひあっ!」と仰け反る。
 「粗相をした罰だ」
 苦痛と相半ばする快感に苛まれ、首元まで捲れた上着の下から充血した突起をさらけだしたロンの顔に梅花が重なる。
 「罰」の脅しが与えた効果は絶大だった。
 殴られるのを予期して身を竦めたロンが咄嗟に掲げた腕の隙間から恐怖に駆られた視線を投げかける。

 あの時の梅花と同じ目。
 梅花の亡霊が取り憑いた目。
  
 腕を掲げたロンの前におもむろに立ちはだかり、下着と一緒にズボンを脱ぐ。
 壁際に追い込まれたロンが戦慄に打たれ驚愕に目を見張る。
 梅花と瓜二つの目、香華と生き写しの顔。
 自分の身にとてつもなく酷い事が起きると悟り絶望に打ちのめされ、抵抗する気力を一片残らずなくしただただ呆けたように俺を仰ぐ。
 「しゃぶれ」
 「………だ、って」
 命じられた行為の意味もわからぬまま、呆然と座り込んだロンがおずおずと口を開く。
 「おちんちんをしゃぶるの?だって、そんなことしたら汚いよ……」
 嫌悪を示すロンの前髪を掴み強引に顔を上げさせる。
 髪を引かれる痛みにこらえきれず悲鳴を発したロンの顎をすかさず固定し指でむりやりこじ開ける。
 「シーツをぬらした罰だ。お前が出したものと同じ量だけ飲み干せば許してやる」 
 「はうっぐン、ふっぐ、ひぅぐぅ……っ……ん……」
 口腔に指を突っ込まれる息苦しさにロンが弱々しく喘ぐも構わず粘膜をかきまぜる。
 奥まで指を突っ込み唾液をかきだす。
 たっぷりすくいとった唾液を頬の内側に塗りたくる。
 酸欠になる寸前に口腔から指をひきぬき、唾液が糸引く唇に怒張をあてがう。
 「俺が言ったことを忘れたのか?」
 苦しげに喘ぐロンに追い討ちをかける。
 「言う事を聞けば優しくしてやる。だが、言う事を聞かないなら……」

 『捨てる』。

 「や、だ……捨てないで……ひとりぼっちはやだよ……」
 長い長い葛藤と逡巡の末、意を決したロンが膝這いににじり寄る。
 小刻みに震える手を根元にあてがい怒張を支え、震える唇を先端に擦り付ける。
 俺に嫌われたくない一心でロンは何も判らぬまま淫らな奉仕を始める。
 行為の意味すら知らず、奉仕の意図すら知らず。
 俺の足元に跪き、危なっかしく震える手で俺の性器をしごき、焦燥に縺れる舌を竿に這わし熱く潤う口腔へ導く。
 「大きく口を開け。吐き気を堪えて奥まで咥え込め」
 「ふむぐっ……」
 俺の股間に顔を突っ込み、貪るようにペニスを咥え込む。
 唾液を捏ねる音も下品に余裕をかなぐり捨て四つん這いの姿勢で行為に熱中するロン、泥水を啜る子猫のように顔じゅう唾液で汚し目を潤ませ俺のペニスをべとべとにする。
 「歯を立てるな。手を休めるな。根元から先へ強く擦り上げろ。そうだ……舌を動かせ。手抜きをするな。強くしごけ。上手いじゃないか。手と口で同時にやるんだ。そうだ、そういうふうにするんだ。俺が仕込んだとおりにするんだ」
 醜い肉塊に喉を塞がれる苦しみに顔全体を歪め、絶え間なく込み上げる猛烈な吐き気を堪えながらもロンは奉仕を継続する。
 ペニスが体積を増す。
 既にして疲労困憊のロンは唇の端が裂けるほど大口を開け膨張したペニスを咥え込み激しく抜き差しする。
 『要吐……悪心……火辣辣地疼……』
 気持ち悪い、吐きそうだ、裂けた唇がひりひりすると病み衰えたロンが訴える。
 今にも力尽き屈しそうになりながら俺の股間にむしゃぶりつくロンの頭を抱え込む。
 「お前は俺の玩具だ。漸く手に入れたんだ。壊れたところで手放したりなどしない、ずっとずっとそばにおいてやる。ロン、俺を慕え。俺だけを見ろ。その目にずっと俺だけを映していろ。他の人間は見るな、感じるな、一生死ぬまで俺の玩具として隷属し続けると約束しろ」
 頭を抱え込んだ拍子に刺激が伝わり、ペニスに痙攣が走る。
 射精の瞬間。
 「げほがほがほっ、がはっ!!」
 飲み干しきれなかった白濁がゆるりと顎を伝いシーツに滴る。
 ベッドに両手足を付き激しく咳き込むロンを抱きしめ、耳元で囁く。
 「憐れむ価値のない俺に憐れみをかけた報いだ。俺に欲望の在り処を示したのはお前だ」
 ぐったり力を抜いたロンを押し倒す。
 ベッドが軋む。
 ロンが仰向けになる。
 熱病に浮かされたように喘ぐロンの上着とズボンを取り去り全裸にし、頼りなげに萎えた膝を力づくで押し開く。
 
 初めて出会った瞬間からお前に惹かれていた。
 お前を壊したくてたまらなかった。

 「持てる欲望のすべてを注ぎ込んでお前を壊してやる」 
 狂気に似た欲望に突き動かされ、俺はロンを陵辱した。

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050320085240 | 編集
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