ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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二十八話

 長大な軌道で飛来した棒が手首を直撃。
 「!っ、」
 接触の衝撃で宙高くナイフが弾かれる。
 眩い閃光を放ち宙を舞うナイフをユエが呆然と見詰める。
 間一髪、ユエが頚動脈を切断する寸前に宙を舞ったナイフが半秒ほど滞空し落下する。涼やかな音をたてナイフが床を滑る。ユエの手からナイフを叩き落した棒がカラカラと床で弾む。
 木刀。
 振り向く前から誰がそこにいるのかわかった。
 蛍光灯の消えた薄暗がりに埋没し、その人物は静かにこちらを窺っていた。
 鞭のように引き締まった体躯。
 切れの長い一重瞼の奥で白目が剣呑に光る。
 気息を正すことによって足裏の自重を分散させ、己の体を完璧に制御し、水面を渡るような歩みで男がこちらにやってくる。
 姿を現す前から正体がわかっていた。
 この場で僕だけが正体を知っていた。
 蛍光灯が放電する。
 闇と光が交錯する幽明の中に男の顔が浮かぶ。
 走馬灯の如く入れ替わる闇と光の狭間から現れ出でたのは、内なる獰猛さを秘めた痩身の男。
 「サムライ!」
 蛍光灯が点き、男の素顔が暴かれる。
 同時に僕は叫び、サムライのもとへと駆け寄っていた。
 廊下の奥から姿を現したサムライは、駆け寄る僕を見るなり厳しい表情を緩め安堵の笑みを浮かべるも、すぐさま表情を引き締め油断ない眼光であたりを睥睨する。
 廊下に集った囚人たちはサムライの登場に仰天する。
 道了は鉄面皮の冷徹さでもって余興を邪魔した闖入者と対峙する。
 サムライは他者の視線を意識せぬ悠揚たる所作で先ほど投擲した木刀を拾い上げる。
 木刀が持ち主の手に返る。
 屹然と反った刃が蛍光灯の光を弾く。
 極力贅を削ぎ落とした潔いまでに飾りけのない刃はサムライ自身を彷彿とさせる。
 臨機応変のしなやかさと質実剛健の強靭さを兼ね備える芯が通った木刀は、信念の芯に支えられたサムライの写し身ともとれた。
 「見参」
 奉納の演舞に似た大仰さで腕を一薙ぎ、あざやかに腰に帯刀する。
 状況を弁えぬ風雅な所作に一連の所作にさすがの僕も自制心が切れる。
 「遅参だ、馬鹿者!」
 「面目ない」
 サムライが律儀に頭を下げる。
 礼儀正しく対応されると叱責を続けるのが馬鹿らしくなる。
 不承不承口を閉じ恨みがましくサムライを見上げる。
 またしても危ういところを救われた。
 サムライが来なければユエは自身の頚動脈を切断し即死していた。
 間一髪失血死を免れたユエは、自分の身に起きた出来事がいまだ把握できず茫然自失の体で蹲るばかり。
 首筋の皮が薄く裂けただけで命に別状はないと遠目に確認、安堵の吐息を交えて愚痴を零す。
 「……役に立たない用心棒だな」
 「……勝手にいなくなるお前が悪い」
 「僕は悪くない、僕の不在に気付かない君が悪い」
 「凱を宥めるので手一杯だったのだ」
 「僕より凱が大事だと?」
 「お前が大事だ」
 大真面目に即答するサムライに気恥ずかしさを覚えブリッジにふれる。一方サムライはといえば、恥も外聞も衒いもない堂々たる態度で顎を引き、僕の手足に擦り傷がないかすみずみまで目を光らせ身体検査中だ。
 あまりに熱心な様子に呆れを通り越し脱力する。
 「そうか。大事な僕が無傷ですんでよかったな」
 サムライに言いたいことは山ほどあるが今はそんな場合ではない。先に処理せねばならない案件がある。
 僕の顔がにわかに強張ったのに気付き、サムライもまた眼光を鋭くし、廊下の惨状を顧みる。 
 「何があった?直」
 「惨劇だ」
 サムライの出現に反感をむき出した少年らが非友好的視線を向けてくる。敵愾心の塊と化した囚人らが悪意の波動を叩き付けてくるのをさらりと無視、サムライが道了を見る。道了はまったく動じずにサムライに視線を受け止めた。跳ね返すでも受け流すでもなく、ただありのままに受け止めた。眼窩に嵌め込まれた硝子の目はサムライの視線を透過し内部に何の影響も及ぼさぬ無害なものへと帰してしまった。
 道了は廊下の中央に悠然と佇んだまま、自分を取り囲む事象をありのままに受け止め把握する。
 道了の指示があり次第ただちに僕とサムライに襲い掛かる準備を整えた少年らも、無造作に手足を投げ出し失神したマオも、壁に背中を預けてしゃがみこんだまま腰が抜けて即座に立ち上がれないユエも、互いの体温を拠り所に寄り添う僕とサムライもその足元まで範囲を広げた血も、ぎこちなく首を巡らしそのすべてを等分に目視する。
 道了の目の奥を0と1の電子信号が駆け巡る幻を見る。
 能面じみて表情を消した顔に先ほど僕に見せた人間らしさの名残りはない。
 「何をしにきた?」
 凍えた鉄のような声で道了が問う。質問はサムライに向けられていた。
 利き手に木刀を預け、道了が不審な行動をとればすぐにでも斬りかかると牽制しつつサムライが口を開く。
 「決まっている。直を迎えにきたのだ」
 「用が済んだら帰れ。お前に用はない」
 「そうもいかないんだな、これが」
 緊迫した雰囲気をぶち壊しにする能天気な声がかかる。
 一同一斉にそちらを向く。先ほどサムライが現れた方角、電池切れの蛍光灯が神経症的に点滅する廊下の暗がりから一人の男が歩み出る。
 いつからそこにいたのだろうか。
 否、最初からずっといたのかもしれない。
 いつ消えてもおかしくない蛍光灯が微細な火花を生じる。 
 点いては消え点いては消えを節操なく繰り返す蛍光灯の下、束の間暴かれた男が微笑む。
 「お前に用がなくてもこっちに用があるんだよ。なあ、ロン」
 生まれつき褐色の肌。
 干し藁の髪。
 茶と金を練り込んだような不思議な色合いの目。
 不敵で不遜な笑みがよく似合う野生的な美貌。
 猫科の肉食獣めいた強靭なバネで肢体を操り、世界を敵に回すのも覚悟の上と大股に歩いてくるのは我らが東棟の王。
 「レイジ、ロン!?」
 何故ふたりがここに?
 レイジの隣にはロンがいた。
 これから戦場にでも赴くような悲壮な顔。強情さの塊といった風情。
 レイジの肩のあたりまでしかない小さい体にレイジに匹敵する気迫が漲っていた。胸中で際限なく膨らむ恐怖と不安を押し殺し、動揺を面に出さないよう努め、迷いを吹っ切るように一心不乱に突き進む。
 ロンの様子がおかしいのは一目でわかった。 
 「ロン、待て、道了に近付くな!彼が一週間前何をしたか忘れたのか?君を監禁し暴行を働いた男だぞ、今度も未遂ですむ保証はないんだぞ!君には他にも聞きたいことがある、この一週間どうしていた、食堂にも顔を見せず房に閉じこもり僕が訪ねても追い返し……聞いてるのかロン!?」
 「道了に聞きたいことがあるんだ」
 素っ気ない返答。
 感情の昂ぶりを懸命に抑えこみ平静を保つ声。
 ロンは歩く。
 前だけ見て歩く。
 道了だけを見て真っ直ぐ突き進む。 
 止めなければ。止めなければ。
 一週間前ロンは道了につかまり酷い目に遭わされた。ロン自身の口から詳細は聞けずじまいで想像するより他ないがその後の経過を見れば余程酷い目に遭ったのは確実、なのに何故わざわざ道了に会いに来る、危険を犯す?
 そうまでして道了に会わねばならない目的とは何だ、動機とは何だ?
 脳裏で疑問が膨らむ。心臓が早鐘を打つ。
 一直線に道了に向かうロンを遮ろうと飛び出しかけ、サムライに引き戻される。
 「何故止めるサムライ、このままではロンが殺されてしまう、一週間前と同じかそれよりもっと悪い事が起きる!」
 「レイジがついてる」
 肩を掴む手に力が篭もる。
 肩を包むぬくもりに動悸が鎮静する。
 ロンの隣を歩くレイジにちらりと目をやる。
 レイジはロンから付かず離れずの距離を保ち軽薄な笑みで本心を塗り隠す。
 時折胸元に手をやり十字架をまさぐる。
 官能を紡ぐ指使いで十字架を愛撫するレイジから道了に視線を戻す。
 道了は廊下の中央に立ち尽くしたまま微動だにせず、いかなる感情も覗かせず二人の接近を待っていた。
 歩調が速まる。距離が縮まる。小走りになる。
 ロンの顔が悲痛に歪む。
 レイジの笑みが獰猛さを孕む。
 十字架を握る手に力が篭もるのが遠目にもわかる。
 ロンが走り出す。
 無我夢中で走り出す。
 風を切り走りながら大きく息を吸い込む。

 「本当の事を聞かせろ、道了っっっっ!!!」

 祈りにも似て切実な叫びが木霊する。
 無謀にも一直線に道了に立ち向かう。
 思い詰めた光を目に宿し、挫けそうな気力を奮い立たせ、薄っぺらい靴裏で軽快に床を叩く。ひりつく緊張が伝染する必死な形相に汗を浮かべ、血が滲むほど唇を噛み締め、距離が縮むごとに肘振りの幅を大きくする。
 道了は廊下の中央に無防備に身を晒し、急接近するロンを待ち受けていた。
 道了の背後でおもむろに人影が動く。
 僕は見た、その瞬間を。
 焦る手でナイフを手にとり、柄に指を回し、しっかりと握り込む。
 笑う膝を叱咤し立ち上がる。
 ゆるやかに顔を上げる。
 虚ろな目に激情が燃える。
 床に倒れ伏したマオ、だらりと垂れた手足と皺だらけの服と鼻血に塗れて目鼻だちすら定かでない顔を見下ろし余裕を失った呼吸を繰り返す。
 「マオと凱さんの仇だ」
 狂おしくぎらつく目が道了の背中を捉える。
 道了は気付かない、振り向かない。
 自分めがけひた走るロンへと視線を注いだまま、背後でナイフを振り翳すユエの存在など完全に忘れ去りいないものとして扱っている。
 殺るなら今だ、道了が隙を見せた今がチャンスだ。
 ナイフを手に道了に忍び寄る。
 両手で柄を支える。
 鋭利な切っ先がきらめく。
 「死ねっ、台湾の犬!!!!」
 血を吐くような絶叫が鼓膜を叩く。
 刺突の構えで凶器を突き出すユエ。ナイフは正確に肺の位置に擬されており貫通すれば失血死は免れない。
 しかし実際はそうならなかった。
 残像を残し道了の踵が跳ね上がる。
 後ろ向きに跳ね上がった踵は狙い図ったようにユエの手首を痛打し、最前木刀の直撃を食らい手首を痛めていたユエがたまらずナイフを取り零す。
 床で跳ねたナイフが涼やかな旋律を奏でる。
 焦燥に駆られたユエがみじめに床に這い蹲りナイフを拾おうとする、手探りで床を這ったユエの目先にナイフが落ちる、ユエの顔が安堵に溶け崩れー……
 「探し物はこれか」
 絶望に、叩き割られた。
 肉眼では捉えられぬ迅速さで体ごとユエに向き直る道了。ユエがナイフに手を伸ばすのを冷静に観察し、指先が柄にふれる寸前に鞭の如く手を撓らせ奪還する。恐るべき反射神経、ユエとは比較にならぬ反応速度。目に飛び込んだ情報を網膜で捉え神経を介し脳に伝達するのではない、脳で直接解析してるとしか思えぬ脊髄反射の早業。
 ユエの鼻先でナイフを奪い取った道了がそっけなく言い捨てる。
 「紛らわしい」
 太く毛細血管の浮いた眼球が極限まで迫り出す。
 悲鳴をあげようと顎が外れんばかりに大口を開けるも道了は容赦なく腕を一閃する。
 血しぶきがとぶ。
 無表情に振り下ろしたナイフがざくりとユエの顔を切り裂く。
 皮膚を裂き肉を抉る傷から朱が迸り能面に血化粧を施す。
 「同じ顔はふたついらない」
 鳩尾に強烈な蹴りを食らいユエがはねとぶ。
 背中から床に叩き付けられたユエが肺を圧迫され激しく咳き込む。
 床でもがき苦しむユエの前髪を掴み力づくで起こす。
 「あぅ、ぐぅ……」
 ユエは酷い有り様だった。
 眦から顎先にかけて右頬が柘榴のように爆ぜていた。
 苦痛に喘ぐユエに一片の慈悲も垂れず、力任せに腕を振る。前髪を掴んだまま床に激突した衝撃で毛髪が束で毟れ頭皮が出血する。背骨もへし折れんばかりに仰け反るユエの正面に回りこみ、顔に跳ねた返り血を拭いもせず口を開く。
 「ジャンクにしてやる」
 人形の王の私刑宣告。
 「ひ、ひ、ひぃっ……」
 髪も顔も服も返り血にぬれていたが道了は表情ひとつ変えなかった。
 鮮血に染まる顔の中、金と銀の目に内なる狂気が噴出する。
 ユエは傷口を押さえ壁に沿ってあとじさる。
 少しでも道了から距離をとろうと壁沿いに遅々と移動する。
 何度も立ち上がろうと試みては膝が屈する。
 何度も起き上がろうと試みては肘が砕ける。
 何度目かの挑戦も失敗に終わり、上体を支え起こそうとした努力が泡と消え、ユエがぐしゃりとその場に突っ伏す。
 突っ伏した場所はちょうどマオの上だった。
 マオに縋り付きひどく苦労しながら漸く上体を起こしたユエが、意識を失った弟に呼びかける。
 「マオ、起きろ、逃げるぞ、早く……」
 乱暴に肩を揺さぶる。頬を叩く。
 マオは無反応無抵抗に兄に揺さぶられている。
 出血は止まらない。
 双眸に涙の膜が張る。
 喉が引き攣る。
 下顎を食い縛り嗚咽を殺す。
 絶体絶命の窮地に追い込まれ前後見境ない狂乱に陥り、手加減なしで弟を揺さぶる。
 「呑気に寝てる場合じゃねえよ、一大事だよ。お前の言う通りだったよマオ、俺に凱さんの代わりがつとまるわきゃなかった、あんなすごい人の真似できるわきゃなかったんだ。そうだよ畜生俺だって凱さんが好きだったんだ、凱さんみたいになりたかった、出会った時からずっと凱さんに憧れていた!凱さんは俺の英雄だった、命の恩人だった。凱さんが分けてくれた饅頭の味は一度だって忘れたことねえ。凱さんは数え切れないほど世話になった。食い逃げのコツを教えてくれた、喧嘩を仕込んでくれた、でかくてごっつい手でわしゃわしゃ頭なでてくれた。ブサイクな娘の写真を見せて『可愛いだろ』って自慢して、けど俺たちだけにゃ嫁にやらねえって、可愛い娘を強姦魔なんかに渡すもんかって決まって最後に付け加えて」
 嗚咽がくぐもる。卑屈に喉が鳴る。
 マオの肩に食い込む指の関節が白く強張る。
 依然目を覚まさない弟の胸に顔を埋め、戦慄く口元に自嘲の笑みを吐き出す。
 「冗談、あんなブッサイクなのこっちからお断りだよ。……けどさ、凱さんと家族になれるならそれもいいかなって思った。強姦魔から足洗っていいかなって、この俺が思えたんだよ。なあ、笑えるだろ?巷に名高い残虐兄弟の片割れがだぜ」
 切迫した横顔。切迫した声音。嘘をついてるようにはとても思えない。
 「ユエ、もしかして君は……」
 一抹の疑念が過ぎる。
 ユエはマオと同じ事を言った、弟と酷似した顔で凱を「英雄」と呼んだ。
 英雄。中国語のヒーロー。「俺の」英雄。
 ユエは凱を裏切り道了についた。今の今まで僕もそう思っていた、事実を誤認していた。ユエは瀕死の凱を見限り道了に寝返った恥知らずの裏切り者だと、保身と利益を優先し凱に忘恩で報いた卑劣な人間だと今の今までそう解釈していた。
 だがしかし。
 僕の視線の先、マオの上に屈みこんだユエが無力な拳で膝を殴る。
 「対不起、凱さん。さんざん世話になったのに何も返せなくて、俺、俺……」
 対不起。謝罪の言葉。世話になった恩人へ何も返せず逝くことへの。
 頬を伝い顎先で合流した涙がマオの寝顔で弾ける。
 マオに覆い被さる背中に悔恨が滲む。
 「君は、凱の仇を討とうとしたのか」
 凱の仇をとるため、道了に寝返ったふりをしたのか。
 弟にすら本音を隠し道了に媚を売り周囲を欺き続けたのはすべて凱の仇を討つため、凱の無念を晴らすためだった。
 道了はユエの真意を見抜いていた。ユエが凱を裏切った真の動機、真の目的を見抜いていた。だからこそマオにユエを刺すよう命じ文字通りの「裏切り者」に制裁をくだしたのだ。
 「凱さんは英雄だった。俺もあんなふうになりたかった」
 凱との出会いを回想しているのだろう半透明の目でユエが呟く。
 「マオ、お前がいればいつかあんなふうになれるんじゃねえかって思いあがってた。お前があんちゃんあんちゃんて頼ってくるたび俺だって凱さんになれるって、他の連中が凱さん凱さん言うのと同じ位お前がしつこくあんちゃんあんちゃん呼ぶもんだからうっかり勘違いしちまったんだ」
 道了が静穏な威厳を帯びてユエに近付く。
 ナイフの切っ先から血が滴り落ちる。
 道了の歩幅に合わせ点々と床に血痕が散る。
 処刑の刻が迫る。
 最期の最後の瞬間まで身を挺し弟を守ろうとユエが覆い被さる。
 靴音が止む。
 ユエの正面に道了が立ち、血塗れたナイフを翳す。
 「お前の英雄は死んだ。俺が殺した」
 道了が高々とナイフを振り翳す。蛍光灯の光を反射しナイフが剣呑に輝く。
 ナイフの光に目が眩んだ僕の耳に、あまりにそっけない最後通牒が届く。
 「お前も死ね」
 一片の慈悲も一抹の憐憫も挟まぬ死刑宣告。
 生き物の命は等しく無価値と断ずる醒め切った瞳。
 腕が弧を描く。ナイフが振り下ろされる。
 風切る唸りを上げ来襲したナイフが血染めの頬を手で包んだユエの首に

 『救命、凱大哥!!』
 「ゴア嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああっあああああああっ!!」 

 潰れた喉が発する復活の雄叫びが呼びかけに応じた。

 頚動脈が切断される寸前。
 銀の軌跡を曳いたナイフが宙高く舞い、道了の体が圧倒的物量に吹っ飛ばされる。
 ユエにとどめを刺そうとナイフを振りかぶった道了に水平方向から筋骨隆々の巨体が激突、凄まじい轟音、衝撃が炸裂。
 壁が床が天井が鳴動する。
 濛々と埃が立つ。
 直下型地震に襲われたように蛍光灯が放電し衝撃に耐え切れず劣化したワイナーが途切れ蛍光灯が落下、破砕の轟音とともにあたり一面に大小無数の破片が飛散する。
 レイジが口笛を吹く。
 道了に駆け寄る途中で急制動をかけたロンが呆気にとられる。
 僕の隣でサムライが瞑目し、薄っすらと笑む。 
 
 道了を張り飛ばした反動で自分もまた床に転がった男が、解けかけの包帯を首にひっかけ、火花散る蛍光灯を重々しく踏み砕く。
 蛍光灯が木っ端微塵に割れ砕け青白い雷火が爆ぜる。
 あたかも男が吐き出す気炎が引火し起爆したかのような光景。 
 包帯の尾が颯爽となびく。
 蛍光灯の破片を微塵に踏み砕く音が暴威の到来を告げる。
 靴裏が破片を噛むざらついた感覚が一週間寝たきりだった身にはやけに新鮮なのか、一歩一歩重畳に踏みしめ屹立した巌の如き巨体を運ぶ。
 信じ難いといった驚愕の面相で自分を見上げるユエに鋸を曳く濁声で男は言った。
 『呼んだか、舎弟』
 凱の完全復活だ。 

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050326082304 | 編集
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