ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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十六話

 「はるうううううううううううううううううううううううううううううううううゥううううううううう!!」
 血を吐くような絶叫が喉を迸る。
 失意の所長が膝から崩れ落ちる。
 「ハルよ!!ハルよ!!青天の霹靂よ!!」
 愛犬を失ったショックで心神喪失状態に陥った所長が両手を天に翳して身悶えし、虚ろな眼差しを足元に落とす。
 ハルは何も言わない。もう吠えない。
 震える手を伸ばして肉塊をひっくり返す。濡れた音をたて裏返った肉塊に生前のハルの面影をさがす。しとどに血を吸った黒い毛皮をいとおしむように撫でさすりかき抱く。
 いかに所長といえど一目でこの肉塊をハルと見分けるのは困難だ。
 根拠は首輪だ。
 肉塊のくびれに巻かれた首輪は、生前ハルがしていたものと同じだった。
 所長が顔に爪を立てる。
 爪の圧力でプツリと皮が弾け大粒の血が盛り上がる。 
 呆然と見開いた目に毛細血管と絶望を映し、体を激しく戦慄かせ、突如愛犬に訪れた悲劇を嘆く。
 「ああああああああ、何故、何故こんなことに?可哀想なハルよ、お前が一体何をした。私の良き伴侶として極東砂漠のはてに赴き夜毎孤独を癒してくれた心優しいお前が何故死なねばならない、無残な屍を晒さねばならない?私は許さない、お前をミンチにした犯人を決して許さずに報復を誓うと約束する、私から人生の伴侶を奪った犯人に情け容赦ない制裁を下すと断言する!!」
 所長が血涙を絞る。眼鏡の奥の双眸から哀悼の涙が滴り頬を濡らす。
 「ハルよ、私の授乳で育ったハルよ、私の乳首を吸って大きくなった愛おしい子!私のミルクを飲んで大きくなった愛おしい子!賢く利口で決して主人以外の人間に尾を振らない誇り高いお前には可愛い弟の名をとって『ハル』と名付けた、人のハルの代わりに犬のハルが常に傍らにあったらばこそ私は砂漠に飛ばされてからも希望を失わずにこれたのにそれなのに!!」
 所長が激しく首を振り嗚咽交じりに掠れた声で絶叫する。
 所長が首を振るたび髪が乱れて残像が泳ぐ。人間の尊厳をかなぐり捨てハルの亡骸に縋り付く所長の姿は狂気に侵されて半径5メートル以内に近付く者は誰もいない。
 「ハルは私のすべてだった。伴侶であり友であり愛人であり愛犬だった」
 口角に泡を噴いて所長が叫び、ハルの亡骸をひしと抱いたまま血走った目であたりを睥睨する。
 「ハルを殺した犯人に告ぐ。即刻前に出ろ!所長命令だ!」
 名乗り出る者はいない。このタイミングで名乗り出たら命がないとわかっているのだ。
 「誰だ、ハルを殺したのは誰だ、お前らの中にいるのだろう犯人はなら即刻私の前に突き出せ罰を受けさせろ拷問の末に死刑にしてくれる!!知能の低い家畜の分際で賢く可愛いハルを血祭りに上げた代償は高くつくぞ、お前らの命より高くつくぞ、犯人が名乗りでぬなら今ここにいる全員を死ぬまで四肢を縛り独居房に放り込んで糞尿塗れの刑に処す!!」
 一方的な決定に囚人がどよめき不安げに顔を見合すも名乗りでる者はいない。場に動揺が広がる。僕とサムライは互いに寄り添って事態の推移を見守っている。そばにはヨンイルもいる。ゴーグル奥の目を丸くして「あちゃー、フユキご乱心や」とうそぶく道化には緊張の色がない。
 そうこうしているあいだにどよめきは大きくなり、業を煮やした所長が手当たり次第に囚人に掴みかかる。
 「お前が、お前が殺したのか、それともお前か!?」
 手近な囚人から胸ぐら掴み引き寄せ罵倒する。
 熾烈な追及に疑われた囚人が戦々恐々首を振れば、怒り任せに突き飛ばし蹴倒し床に這い蹲らせていく。
 「乱心」。
 確かにその通りだ、ヨンイルの言ったことは皮肉にも的を射ている。一片残らず理性が蒸発したとしか思えない乱心ぶりを露呈し、遠巻きに事態を窺っていた野次馬の渦中に飛び込んで、片っ端から囚人を捕まえ腕の一振りで薙ぎ捨てていく。
 廊下は大混乱に陥る。
 「冗談じゃねえ、自分がやってもねえことで疑われちゃたまんねーよ!」
 「逃げるが勝ちだ!」
 「ペニスを犬に捧げた獣姦野郎の戯言に付き合ってらんねーよ!」
 巻き添えを恐れた群集が堰を切ったように逃げ出し無秩序に入り乱れる。
 「直!」
 サムライが咄嗟に僕を抱き寄せ統制を欠いて逃げ惑う群集から庇う。僕を庇うようにのしかかるサムライの重みとぬくもりと息遣いを感じる。サムライの肩に誰かが激突し肘が衝突する。衝撃と激痛に顔を顰めるサムライの懐で身を竦ませ、せめて眼鏡が外れないよう片手で押さえる。
 ロンとレイジ、そしてヨンイルは?
 「ロン、レイジ、ヨンイル、無事か!?」
 「おう、ぴんぴんしてるよ!」
 逃げ惑う群集に押し流されぬよう抗いながらあたりを見回せば、壁際に避難したレイジがちょうど僕がサムライにされているようにロンを抱きしめていた。レイジの懐に守られたロンは寒がりの猫のように縮こまっている。必死な形相で何かを叫んでいるが生憎この騒ぎでは聞こえない。レイジとロンの無事を確認、安堵の息を吐くも束の間でヨンイルの姿を求めて視線を巡らす。
 「ヨンイルっ……」
 いた。
 ヨンイルはなんと天井と壁のはざまに張り付いていた。
 「貴様、手足に吸盤があるのか!?」
 「スパイダーマンや」
 天井と壁が交わる三角の隙間を背に、両手両足を突っ張って自重を支えたヨンイルが空中に浮かんでいる。
 呆れ返った僕の耳に、喧騒の中で激しく言い争う声が届く。
 「お気を確かに、所長!」
 安田の声。
 無軌道に暴走する囚人の流れに逆らうようにサムライの腕の中で伸び上がり前方を見る。
 いた。安田が身を挺して所長を止めている。
 一分の隙なくオールバックに纏めた髪を跡形なく振り乱し、背広を揉みくちゃにして所長にしがみつく。
 安田の拘束を解こうと手足を振り回し、怒気を孕んで膨らんだ顔を真っ赤に充血させた所長に本能的な恐怖を感じる。
 「囚人の模範となるべき所長がこのような醜態を露呈してどうします、トップの威厳にかかわります、どうか自重を……」
 「副所長の分際で私に命令する気か、無能な犬めっ!」
 鈍い音がした。
 所長が闇雲に振り回した拳が安田の顔に当たったのだ。
 その瞬間、僕はサムライの腕を払って駆け出していた。
 「直っ!?」
 怒りで視界が真っ赤に燃える。安田がよろめく。手で覆われた下から鼻血が垂れる。
 安田が殴られた。
 あまりにも理不尽だ。
 安田はただ所長の暴走を止めようとしただけだ、安田が殴られる理由などどこにもない!怒りに駆られて床を蹴る僕の視線の先、ハンカチをだす間も惜しんで手の甲で鼻血を拭いた安田がきっと顔を上げ、眼鏡越しの双眸に強固な決意と高潔な意志を宿し、敢然と所長に立ち向かっていく。
 「所長、貴方は東京少年刑務所のトップだ。東京少年刑務所の秩序を司るのが貴方の職務だ。それが本人自ら秩序を壊すなど本末転倒だ、冷静になるのは貴方のほうだ!ハルを殺した犯人は日を改めて捜せばいい、この場で暴れても更なる混乱を招くだけだと何故わからない!?」
 普段の冷静沈着な物腰をかなぐり捨て安田が感情的に叫ぶ。 
 しつこく追いすがる安田を振り払おうと所長が怒号する。
 「私は君の助言を受け入れレイジおよびヨンイルを解放した、その結果がこれだ、このザマだ!レイジ程の実力者ならば王の一声で暴動をおさめられると、看守を出動させるよりそちらのほうがより効率的だと君が強硬に主張したからやむなく尋問を中断してレイジを行かせたのだ、その結果がこれだ、ハルは返事がないただの屍になってしまった!!」
 憑かれたように捲くし立てた所長がふいに硬直、焦点の合わない表情で虚空を仰ぐ。
 「……犯人がわかったぞ」
 胸騒ぎ。
 安田に腕を掴まれたまま、逃げ惑う群集の渦中に立ち竦んだ所長が緩やかに顔を巡らす。眼鏡の向こうの双眸が狂気に濡れる。
 陰険に濡れ光る双眸が壁際のロンとレイジを捉える。
 表情が苦渋に歪み、皺の裂け目から激烈な憤怒が迸る。
 内側で殺意が沸騰し、噛み締めた歯の間から濁った呪詛が漏れる。
 「Rageよ、これが貴様の復讐か」
 まずい。
 その一言で所長がレイジを犯人と決め付けたと直感、間に合えと一心に念じて速度を上げる。
 錯乱した所長が何をしでかすか全く予想がつかず、靴底で床を蹴るのに合わせて恐怖が加速する。
 精神の安定を欠いた所長が抑揚なく繰り返す。
 「私の調教を逆恨みしてハルに嬲り殺したのは君かレイジ、貴様がハルを殺したのか」
 安田を振り払い大股に歩き出した所長に「やめろ」と呼びかけるも立ち止まる気配はない。もんどり打って床に転がった安田が所長の足に縋り付く。しかし所長は止まらない。
 壁際にへたり込むロンとレイジのもとへと威圧的に靴音響かせて歩み寄り、手前で立ち止まる。
 「俺じゃねーよ。俺が来た時にはもうミンチになってたんだって」
 「レイジが言う事は本当だ。だって俺この目で見たんだ、ハルを殺した犯人はたお……」
 レイジが釈明する。ロンもまたレイジを庇う。
 互いを庇い合うレイジとロンを冷ややかに見下した所長がおもむろに手を伸ばし、ロンの首を絞める。ロンが痙攣する。レイジが目を見開く。所長が手に力を込める。
 ロンの首に手をかけ徐徐に締め上げつつ、どす黒い狂気に隈取られた陰惨な形相をその鼻先に突き出す。
 「ハルの仇だ。愛するものを奪われた仕返しに、お前の愛するものを奪う」
 酸欠に苦しみもがくロンの首を締め上げる所長を体当たりで組み伏せようと僕と安田とレイジが同時に動くー

 一陣の風が吹く。
 
 『打死』
 機械じみて平板な声……殺戮人形の宣告。

 ロンの首を絞める所長の背後に均整取れた影が着地。
 所長の首の横へ、首の骨をへし折る威力と勢いで水平に叩き込まれた足の甲。
 肉眼では捉え切れぬ速さで叩き込まれた蹴りの威力は凄まじく、ロンから手を放してよろめいた所長の顔面に拳が入りしぐしゃり肉と骨が砕ける音とともに鼻が陥没する。所長が膨大な量の鼻血を撒き散らし白目を剥いて失神、手足を不規則に痙攣させながら脳に打撃を与える危険な角度で倒れこむ。
 「くっ……」
 安田も続けて気を失う。
 「安田、大丈夫か安田!?」
 安田の脈をとり呼吸を確かめる。大丈夫、ちゃんと息がある。精神的ショックならび疲労が限界に達して気を失ったものらしい。
 「直っ」
 名を呼びながらサムライが駆けてくる。安田の傍らにへたり込んだ僕は、サムライに答えようと振り向き……
 「あとは僕に任せといて」
 え?
 正面を向く。いつ現れたものか、清潔な白衣を纏った見知らぬ男が目の前にいる。
 まず目を引くのは鳶色の髪。天然か染めているのかはわからない。
 くたりと芯のない髪を真ん中で分けて耳の後ろに流した軽薄な髪形は若作りな印象を抱かせるが実際は安田とそう変わらない年齢だろう。
 突如現れた白衣の男は、半眼で誰何の眼差しを注ぐ僕をやんわり無視し、安田の脇に片膝付いて慣れた手つきで脈をとる。
 予断を許さぬ真剣な顔にこちらも気を呑まれる。
 「貴様何者だ?」
 眠りを妨げぬよう細心の注意を払って安田を抱き上げる。
 両腕に安田を抱いた男が誠実な物腰で僕に対応する。
 「後で説明する。彼は僕が責任もって処置する。もうすぐ看守が駆けつけてくる、だからその前に……」
 男の言葉を遮ったのは、ロンの呆然とした呟き。
 「道了……」
 壁に背中を寄せたロンがひどく苦労して生唾を嚥下する。
 恐怖に囚われたロンの眼前に仁王立つのは……
 假面。
 假面の足元には意識を失った所長が横たわる。所長の横には赤黒い肉塊と化したハルがいる。
 抱き合うようにして倒れ伏せた一人と一匹を邪魔だといわんばかりに蹴りどかす男へと、満場の視線が集中する。
 「道了が、所長を殺した?」
 中の一人が囁く。
 「所長を一撃でのしちまいやがった」
 「信じらんねえ、強すぎる」
 「道了は俺たちを助けてくれたんだ、とち狂った所長に雁首そろえて独居房にぶちこまれかけた俺らを助けてくれたんだ」
 「台湾人中国人の区別もねえ、道了こそ俺たちの恩人、砂漠の地獄に光明をもたらす救世主だ!!」
 中国人台湾人、人種の区別なくこの場に居合わせた囚人が口々に道了を称賛し畏怖と憧憬を込めて仰ぎ見る。熱っぽく潤んだ眼差しで仰ぎ見られた道了はといえば、自らの暴威にひれ伏す大衆を一顧だにせず、理解者など最初から求めぬ孤高の威厳を保つ。
 圧倒的なカリスマ性とそれに伴う実力、暴力の快楽に溺れた人間を惹きつけてやまぬ危険な魅力。
 絶大なる負のカリスマ、道了。
 僕を支え起こしたサムライの腕を掴み、道了を見るよう促す。
 「……見ろ、サムライ。さっきまで道了を罵っていた連中が手のひらを返すように……」
 産毛が逆立つ感覚。空気が帯電したように不穏にさざめく。今まさに何かが起きようとしている、起ころうとしている。
 道了は所長を倒した。
 その事実は歓喜と熱狂をもって迎えられ、指導者を欠いた暴徒が入り乱れる阿鼻叫喚の惨状を狂気の饗宴へと塗り替えていく。
 「あんちゃん、あいつ……ひょっとしたら凱さんよか強いかも」
 「お前もそう思うか、弟よ」
 残虐兄弟が小声で囁き交わす。
 「なあ、凱さんやめてアイツに寝返ったほうがいいんじゃねーか?」
 「売国奴め、中国人の誇りを捨てるてのか」
 「はっ、バカ言えよ。ここは弱肉強食の掟がまかりとおる東京プリズンだぜ?強さがすべての刑務所で他に望むことがあるってのか?」
 別の囚人が喧々囂々言い争う。
 廊下に熱狂が渦巻く。道了に魅了された大衆が凱を廃して次代のトップを迎えようと色めきだつ。
 賛否両論激しく議論が交わされる廊下の片隅にて、壁に背中を預けてへたり込んだロンが身を乗り出し吠える。
 「まて、よ。なんだよ、それ。お前ら凱の子分だろ、大怪我した凱を見捨てて道了につくってのか、あんまりだろ畜生ども!?凱は、凱はお前らにいいとこ見せようって体張って戦って道了にぶちのめされたってのにお前らは親分見捨てて憎い台湾人につくのかよ、んだよそれ、国の誇りはどこにやったよ!?今までさんざん俺のこと血の汚れた半々て馬鹿にしたくせに、今更……」
 怒りに紅潮したロンの顔が悔しげに歪む。
 「道了が東棟の新しいボスだなんて絶対認めねえ、梅花とお袋殺した外道が凱に代わるボスになるなんざぜってえ認めねえ、お前に比べりゃ下品で下劣で挨拶代わりにケツ揉む凱のがずっとマシだ、どうしようもねえ親馬鹿で娘の写真皺くちゃになるまで持ち歩いて暇さえありゃ見返して幸せ祈る凱のがよっぽど人間らしくて好きだよ俺は!!」
 目尻に朱を刷いたロンが我を忘れて食って掛かるさまに道了は悠然と目を細める。
 「……反逆者め」
 毒気が滲んだ笑顔でレイジが吐き捨てる。
 道了は無言。
 王の御世と凱の地位を脅かす反逆者と罵られても淡白な表情を変えず、優雅に体ごと振り返り、醒め切った目で熱狂に沸く観衆を眺める。
 妖しい光を帯びた金と銀の双眸であたりを睥睨し、道了はうっそりと口を開く。
 「俺は假面。ロンを取り戻しに此処へきた」
 よく通る声が朗々と響き渡る。騒然と賑わう廊下が道了の一声で静寂に包まれる。
 静寂に浸るように肉の薄い瞼を閉ざし、己の内なる暗闇に回帰する。
 蛍光灯の破片が散乱する廊下の中央にて、冷徹な光を放つ双眸を薄っすらと開き、在るがままに在る「假面」が真理を説く。
 「味方になるも敵になるもお前たちの自由だ。俺は敵には容赦しない。だがしかし秩序なき混沌は本意ではない。お前たちが従うならば危害は加えない。俺は犬を殺した。所長を殺した。敵対するものにはこれからも容赦なく鉄槌を下していく、何故ならそれが俺の信条だからだ。何故なら俺はこれまでそうやって生きてきたからだ。お前らが反乱を起こすならば全力をもって殲滅する、そして俺は………」
 ふいに語尾が途切れ、闇をも貫く金と銀の残光を曳いた目がレイジを射止める。
 あたりに冷気が充満する。
 背骨に氷柱をさしこまれたような戦慄が襲う。
 僕とサムライが互いに凭れ掛かり、壁に張り付いたヨンイルが身軽に着地し、安田を抱き上げた白衣の男が不安げに顔を曇らす。 
 ロンを庇うように前に出たレイジを見下し、道了は言う。
 「いずれ、王を殺す」
 予言じみた宣戦布告に応えたのは、地鳴りめいた怒号と歓声。
 廊下を揺るがすような盛大な歓呼は、凱に代わる新たなトップとして道了を迎え入れた証。
 東京プリズンでは強さがすべて。強いものこそが正しい。強さこそ絶対。無力は罪。無力は絶対悪。
 そして僕は思いだす、収監当初から今日に至るまでの様々な出来事を。
 リュウホウが首を吊ったのは彼が弱いから、僕が売春班に送り込まれたのは僕自身が弱いから、タジマや凱に僕とロンが執拗に付け狙われたのは僕らが弱いから、どうしようもなく弱いからー……
 「しっかりしろ、直!」
 サムライの声が、遠い。
 「これからは假面の時代だ、假面についていきさえすりゃ安泰だ、これからは凱さんの代わりに假面が守ってくれんだからよ!」
 「台湾人だろうが中国人だろうが構うもんか、いちばん強いやつが天下を仕切るのが道理ってもんだ」
 「どうする、あんちゃん」
 「決まってんだろ、弟よ。寝返るのさ。沈みかけた船にいつまでも乗り込んでんのは馬鹿らしい。俺たち兄弟ふたり一緒ならトップが代わろうが今までどおりやっていけるさ。俺がいてお前がいて女を刻む彫刻刀がありゃ他に何もいらねえ、俺たち残虐兄弟一心同体運命共同体さ」
 周囲の喧騒が遠のく。
 眩暈に襲われてくずおれた僕をサムライが助け起こす。 
 サムライの腕に凭れて上体を起こした僕は、ロンを挟んで対峙する道了とレイジを捉える。
 轟々と殺気を孕んだ喧騒が渦巻く中、右目の傷痕を前髪に隠したレイジが薄っすらと微笑む。
 暴君と王とが兼ねあって血の匂いがかおる残忍な笑顔。
 『……You are Genocide doll.』 
 
 革命の夜明けだ。

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050407161401 | 編集
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