ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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十四話

 「!んな阿呆なっ」
 ヨンイルが目をひん剥き仰天する。
 左足に重心を移した体勢から思い切り右足を跳ね上げ無防備な側頭部を狙ったはずが、粉骨の蹴りが炸裂する寸前に假面が後方に倒れたのだ。
 背筋が床に接するほど仰け反った顎先を柔軟に軌道変化した蹴りが削って血をしぶかせるも深手には至らない。
 自らの顎先を苛烈な蹴りが掠め去るさまを見ても、假面の顔筋はその異名通り動かない。
 煙たい倦怠の表情と絶対零度に冷め切った瞳は一切情動を感じさせず背筋が薄ら寒くなる。
 假面は瞬きもしない。
 人ならざる金銀の目に酷薄な光を宿したまま冷静沈着に敵の動きを読んで次なる攻撃を予測し臨機応変に攻防の構えをとる。できる。假面は強い。名乗りを上げた時の囚人の反応から薄々勘付いていたが、実際目の当たりにすると鬼気迫る強さだ。
 破片の地雷原と化した廊下でレイジと対戦する假面とは、かつて都下最大スラム池袋を縄張りに猛威を振るった戦闘狂であり、台湾人中国人の別なく畏怖された危険人物らしい。
 「なるほど、伝説にもなるわけだ」 
 洞察力と観察力なら僕の右に出る者はないと自負する。
 眼鏡の奥の目を推し量るように細め、両者の戦力差を分析する。
 無敵無敗のブラックワーク覇者として東京プリズンに君臨するレイジの強さは東西南北全棟にあまねく知れ渡っている。
 レイジは名実ともに東京プリズン現役の「王」だ。
 他者と比較にすらならない、そもそも比較しようという発想が馬鹿らしい圧倒的強さでもって数多の挑戦者を児戯に等しく蹴散らしてきたレイジと互角に戦える相手など西南北のトップを除いて他に浮かばない。これまで数限りなくレイジの戦闘を目撃した僕が断言するがレイジがレイジであり続ける限り王位は末永く安泰だ。戦わずして格の違いを自覚させる極上の美貌と実力を兼ね備えたレイジは、これまでもこれからも東京プリズン唯一無二の王として君臨し続ける……
 はずだった。
 彼さえ現れなければ。
 「……嘘だ」
 自分が目にしているものが信じられない。周囲の囚人も同じ心境らしく、愕然と立ち竦むよりほかない。
 あのレイジが、東京プリズン最強の男が、東棟を仕切る無敗の王が、入所してたかだか一ヶ月の新入り相手にいまだ一撃も打ち込めず先手をとれずにいる。ありえない。レイジと互角に戦える相手が西南北のトップ以外にいるわけがない。だがしかし現実にそのありえないことが目の前で起きている。身の程知らずの挑戦者と見なされた假面は足腰の強靭なバネを生かした奇妙に機械的かつ一分の隙もない正確無比な動きで息継ぐ間もなく繰り出される攻撃をすべてかわす。
 殺戮人形。
 脳裏に閃いたその言葉を激しくかぶりを振って追い払う。
 まさか。ナンセンスだ。
 だがしかし、假面の戦いぶりを評するのにこれほど相応しい形容もない。
 假面には予備動作が殆どない。
 体勢が泳いだ時差に付け入ろうにも遅滞がないのでは話にならない。
 戦場への投入を前提に、死体の量産を目的に製造された軍用兵器のように淡々と。
 假面が噴射の推進力で足を跳ね上げる。
 「っ!」
 瞼裏に凱の断末魔が蘇る。
 喉の血管を切断された凱の姿が脳裏を過ぎり、今また同じ運命がレイジに訪れようとしていると悟る。
 「足元に気をつけろ、假面は靴に凶器を仕込んでいる!」
 焦慮に駆られて叫ぶ僕をよそに假面と対峙したレイジが唇の端を捲り薄く嗤う。
 普段見慣れた不誠実で軽薄な笑顔ではない、底冷えするような笑顔。
 来るなら来いよ。
 僕にはレイジがそう言っているように見えた。
 レイジが嘯く。
 『Childish』
 子供騙しだ、と。
 假面の顔に不快げな揺らぎが生じる。
 垂直に跳ね上げた爪先から鋭利な刃が突き出る。
 先ほど凱の喉を切断した凶器。
 いまだ凱の血に濡れたそれが今度はレイジの喉を狙う。
 薄茶の毛髪が宙に散る。
 数本の毛髪を犠牲に難を逃れたレイジが首元の金鎖に手をやり一気に引きちぎる。
 假面のように派手なかわし方ではない。
 レイジはほんのわずか喉を仰け反らせて蹴りをいなした。
 あと1ミリ目測がずれていれば鼻が削り取られていたというのに、ふてぶてしくニヤつく顔には微塵の焦りもない。
 「床と仲良しにならなくても必要最小限の動きでかわせるなら越したこたあねえ。派手さが取り得のパフォーマンスは駄賃稼ぎのガキの見栄だ」
 必要最小限の動きで必殺の一撃を回避したレイジは、金に艶めく玉を宙にばら撒いて十字架を逆手に握りこむ。
 宙にばら撒かれた玉が滲んだような黄金の軌跡を描いて床を乱打する。
 滝のように不規則に床に流れ落ちた玉が甲高く澄んだ旋律を奏でる。
 黄金の玉が潮騒の旋律で床の表面を転がっていくのをよそに、掌中に十字架を握り込んだレイジが前髪のかかる隻眼に狂気の光を過ぎらす。
 假面の喉に狙い定めて十字架を繰り出す。
 確実に喉仏を潰し頚動脈を断つ刺突の構え。
 真っ直ぐ腕を突き出すレイジの手の先、鈍い光沢の十字架の突端が標的の喉に穿ち込まれる。
 喉仏を破壊する意志を込めた凶悪な一撃はしかし、假面の失笑に妨げられる。  
 「この程度か」
 喉仏を潰そうと一直線に突き込まれた十字架を素手で掴む。
 「!!」
 動揺が伝染する。
 衝撃的な光景に呼吸が途絶する。
 廊下に馳せ参じた囚人たちが息を詰めて見守る中、喉を破る直前で十字架を掴んだ假面が腕を突っ張る。
 力を込めた手に強靭な腱が浮かぶ。
 鉄枷で締め上げるような怪力が指に伝わって凄まじい膂力を発揮する。
 僕には假面がしようとしていることが漠然と予想できた。
 できたが、まさかと思う気持ちの方が強かった。
 果たしてそんなことが可能なのか半信半疑だ。
 レイジも僕と同じ結論に達したらしく、その顔に初めて焦りが生じる。
 傷だらけの十字架を取り返そうと反射的に手を伸ばすレイジ、その手が宙を泳ぎ目標に達する寸前に肺を絞り尽くすような重量の呼気を吐き、持てる握力を最大限発揮する。
 假面の手の中で十字架がへし曲がる。
 「―――――――-――――――――っ!?」
 もはや声にならない声で叫び、間に合わないと知るやいなや攻勢に切り替えたレイジが勢い良く床を蹴る。
 上着の裾を猛然とはためかせ、腰に捻りを利かせて申し分なく長い足を一閃すれば假面がもんどり打って吹っ飛ぶ。
 躍動感に溢れた一連の活劇に野次馬が熱狂し、罵声と怒声と歓声が入り乱れて喧騒の坩堝を成す。
 良くて脳震盪、悪くて即死の威力の蹴りだ。いかに假面といえどもしばらくは立ち上がれないだろうと楽観して安堵の息を吐く。
 「まずいで、こりゃ」
 隣でヨンイルが舌打ち。
 何がまずいんだ?不審げに向き直った僕に珍しく神妙な顔を取り繕い、ヨンイルが周囲を憚り声を低める。
 「暴君が起きてもた」 
 背筋を冷や汗が伝う。
 罵声と怒声が混沌と入り乱れる中、悄然と項垂れたレイジの手には十字架が載っている。
 傷だらけのみすぼらしい十字架。
 假面に握り潰された十字架。
 醜くひしゃげた十字架を見下ろすレイジの表情は前髪に隠れて読み取れないが、口元からは先ほどまでの余裕の笑みが完全に消え去った。
 「マリア」
 前髪に表情を隠したまま、俯き加減にレイジが呟く。
 ひしゃげた十字架を固く固く握り込んだ手を力なく脇に垂れ、体ごと假面に向き直る。
 レイジが薄っすらと微笑する。
 狂気の上澄みの微笑。
 「お前、そんなに俺を怒らせたいのか。俺を暴君にさせたいのかよ」
 不吉にさざめく空気から精神が狂気に侵食されつつあるのが窺える。
 「……最悪だ」
 それでなくても暴動が発生し囚人が恐慌を来たし廊下は惨状を呈しているのだ。レイジが理性を放棄して体と精神を暴君に明け渡せば最後、東棟はおろか東京プリズン全体を巻き込む破壊がもたらされるのは避け難い。
 何よりレイジの暴君化を僕は望んでない。
 レイジが身も心もぼろぼろになるとわかっていながらこのまま放っておけない。
 「『暴君は一昨日きさらせ』か?」
 ハッとして顔を上げる。
 ヨンイルがしたり顔で頷く。
 「同感や。俺かて事態の泥沼化は避けたい。東京プリズンの平和のために、明日も鼻くそほじりながら漫画読む平和のために道化ヨンイル一役買うで」
 そうだ、僕には西の道化がついている。
 「サムライ!」
 胸に希望を抱いてサムライを振り仰ぐ。
 サムライが腕組みを解いて首肯する。
 緊迫した一声で自分に何を求められているかを察し、腰の死角で木刀を構える。
 西の道化が味方につけばロンの奪還も不可能じゃない。
 慎重を期す僕とサムライでは距離的に踏み切れなかったが、最低三人いれば一人が陽動に回って注意を引きつけたすきにロンを救出できる。
 白熱する死闘に沸き立つ観衆に紛れ、喧々囂々飛び交う野次と怒号の中で頭を低め、見張りとの距離を目測で割り出す。
 いける。今ならいける。
 ロンを取り押さえた見張り二人は、眼前で行なわれる迫力の死闘に魅了され、軽い催眠にかかったような放心状態で立ち竦んでいる。
 呆けたように戦闘を見詰める台湾人の動向を油断なく探る。 
 胸の鼓動が高鳴る。脈拍が速まる。
 アドレナリンが過剰分泌されて全身の血が沸騰する。
 サムライとヨンイルに目で合図を送る。
 作戦を話し合う時間はない。
 そもそもこの騒音の中では会話が成立しない。
 だがしかしヨンイルとサムライは、緊張に青ざめた僕の顔色から思考を読み取るや互いに張り合うように顎を引き、神妙に頷いてみせる。
 卑怯者にはなりたくない。
 ロンを、仲間を見捨てたくない。
 凱の時のように見殺しにしたくない。
 くだらない自己嫌悪に悩むのはもうごめんだ、ならば行動あるのみだ。大丈夫、僕にはIQ180の優秀なる頭脳という最大の味方の他にもサムライとヨンイルという次善の保険がある。
 勝算はある。
 深呼吸で冷静さを吸い込み、ひたとヨンイルを見詰める。
 「頼りにしてるぞ、道化」
 輝かんばかりの笑顔でヨンイルが応じる。
 「よっしゃ!」
 西の道化ヨンイルが先陣切って走り出す。
 額のゴーグルを押し下げて戦闘体勢に入り、ヨンイルが跳ぶ。
 「!?なっ、」
 高い高い跳躍。
 天井付近から滑降した勢いに任せて壁を蹴り、その反動で浮力を得て身軽に跳梁する。
 「通行止めなら上が空いとる!」
 廊下を塞き止めた群集を一望し、はだけた上着から覗く龍の刺青も猛々しく躍動させ、上空に舞ったヨンイルが快哉を叫ぶ。
 「まるで撞球だ。自分の体を使って撞球するなどむちゃくちゃだ」
 無茶苦茶だが、難易度の高い曲芸を苦もなくこなす道化の体術は素晴らしい。
 壁に付いた手と靴裏を支点に玉突きのように変則的・偶発的に方向転換、巧みな体重操作を用いて自由自在に空中で軌道変化し、完全な死角の頭上を急襲する。
 「オレは上、きさまは下やっっ!!」  
 「下!?待て、お前どこからっ……」
 ゴーグルに顔半分を隠していてもわかる勝ち誇った笑み。
 上着の裾が翻るままに腹筋の龍をうねらせ、落下の勢いに任せて猛然と右足が旋回する。
 轟と唸りを上げた足が見張りの顎に炸裂する。
 「大丈夫か孝賢!?くそっ、わけわかんねえこと言いやがってこのゴーグル野郎台湾人舐めたらただじゃ」
 「貧弱!貧弱ゥ!」
 もう一人の見張りが即座にヨンイルに掴みかかろうとして胸ぐらに手がかかる前に飛び蹴りで沈没する。
 今だ。
 ヨンイル突然の暴挙に騒然とする群集の中心を突っ切り、両腕の拘束が外れてくたりくずおれたロンに駆け寄る。
 ロンの肩を掴んで助け起こし、この際手段を選んでいられないと決断を下す。
 「ロン、いい加減目を覚ませ。君のレイジが大変なことになってるぞ、相棒を暴君に乗っ取られてもいいのかこのド低能!!」
 鼓膜が割れんばかりの大声で怒鳴り、乱暴に肩を揺する。
 僕に揺さぶられるがまま首の据わらない赤ん坊さながら上下に顔を打ち振っていたロンが、ひどく緩慢に目を開く。 
 焦点の合わない目で茫洋と僕を仰ぐロンに不安がいや増すも、口元を厳しく引き締めて内心を出さないよう努力する。
 「大丈夫か、頭を打ったのか、クモ膜下出血の可能性は……」
 「―レイジがどうしたって?」 
 肩に痛みを感じる。
 ロンが僕の肩を掴んで立ち上がる。
 僕が止めようとした時には既に遅く、ロンは覚束ない足取りで歩き出していた。足を引きずるようにして歩くロンがめざす先にはレイジがいる、假面がいる。レイジと假面は今も激闘を繰り広げている。
 殺戮人形と暴君が相争う戦場に武器ひとつ持たず乗り込むのは蛮勇の類の無謀だ。
 全身に痛々しい掠り傷を負ったロンは、それでもしっかりと前を見据えたまま、不屈の闘志で次なる一歩を踏み出す。 
 「レイジのヤツ、さんざんひとのこと心配させやがって…挙げ句に目え覚めたらなんだこりゃ、こりゃなんの冗談だ?なんでレイジが道了とやってんだ?ふざけんなよお前ら、人が寝てるあいだに勝手に話進めやがって……レイジ、俺がどんだけお前のこと心配したか考えてみろよ。これ以上心配させんなよ。これ以上相棒甲斐なくさせるなよ」
 痛みに疼く体をひきずるように一歩ずつ着実に前進する。右へ左へ不均衡に傾ぐボロ布と化した体から峻烈な気炎が立ち上る。
 上着の裾がしどけなく捲れ痣と生傷だらけの貧相な太股が半ばまで覗くのも構わず、交互の靴裏で蛍光灯の破片を微塵に踏み砕く。
 激情に潤んだ目に悲哀の光がさす。
 「帰って来いよ、王様」
 傷の痛みに顔を顰めながら罵倒はすれども弱音は零さず、沸々と対決の気迫を漲らせて戦場に突入する。
 「ロン、わざわざ巻き添えになりにいく気か!?」
 蛍光灯の破片を踏み砕く音も重々しく戦場に突入したロンの背中を追おうとして肩を掴まれる。
 「行かせてやれ」
 サムライが僕の目を見て深く頷く。
 「ロンに任せておけ。レイジを止められるのはロンだけだ」
 「せやで直ちゃん。おいたしたダーリンにいちばん利くんは世話女房ラムちゃんのビリビリや」
 ヨンイルとサムライが僕を挟んで並んでロンを送り出す。
 居直りか達観か微妙な路線の道化の言動に危うく激発しかけるも、僕の行動を見越したサムライにすかさず引き戻される。
 ロンはひたすら歩き続ける。
 脂汗に塗れた苦悶の形相で假面とレイジの間に転がり出る。
 「俺を見ろ、レイジ。さんざん心配かけた相棒にただいまはどうしたよ、薄情者め。おかえりなさいが言えねーだろ」 
 肩で息をしながらひどく苦労して笑みを拵えるさまが痛々しい。
 ロンの悲痛な笑みに目を留めた刹那、凪の水面に波紋が生じるようにレイジの微笑が崩れ去る。
 「……ロン」
 視線が絡み合う。レイジが戸惑いがちに名を呼べば、それに応じるようにロンがしっかりと頷き、レイジを迎え入れるように両手を広げる。
 闇に光を見出した安堵からロンに歩み寄ろうとしたレイジの目が、その背後に忍び寄る不吉な影を捉えて極限まで見開かれる。
 『Fuck it!!』
 敵意を剥きだしたレイジに狼狽したロンに振り向く暇を与えず、蛍光灯の破片を踏み砕いて至近に迫ったオッドアイの少年が、腋の下から腕を差し入れて背後からロンを抱き竦める。
 ロンの顔に恐怖が去来する。
 極限まで剥いた目に戦慄を映し、自分の意志では指一本動かせず硬直したロンの肩に顎を凭せた假面が、体前に回した手を上着の裾に潜らせ、ロンの太股を性急にまさぐりはじめる。
 レイジに見せ付けるように。
 挑発するように。
 ロンは自分の物だと宣言するように。
 「やめ、道了っ……犬の腐肉食わせただけじゃ飽き足らずまだ続ける気かよ、假面!!」
 半狂乱で身を捩り、上着の裾をはだけて下半身をまさぐる手から逃れようとしたロンの腰が砕け、意志に反して甘い声が上がる。
 衆人環視の中でロンの体を蹂躙しながら、欲情とはかけ離れた冷たい表情を保ち続け、假面が断言する。
 「ロンは俺の物だ」
 腰から太股へと這わせた手を股間に潜らせ、貪るような愛撫でロンを煽り立て、「假面」の異名に相応しい端正な無表情で囁く。
 「お前の眼前でロンを犯して、それを証明する」
 
 「どうしたレイジ、調教はまだ終わってないぞ。
 このような下賎の輩とかかずりあっている暇があるなら、皇帝の高貴にして繊細な足の指が霜焼けにならぬよう口に含んで転がしておけ」
 
 尊大な声とともに飛来した鞭が顔を掠め、頬肉が爆ぜる。
 背後から飛来した鞭に頬を削り取られた假面がぐったりしたロンを抱いて振り向けば、ナチスの軍服に身を包んだ白皙の美青年が、薄氷の目に冷ややかな侮蔑を込めて一同を睥睨していた。
 場違いな軍服の存在感で群集を下がらせたその青年は機敏な腕の一振りで巧みに鞭を跳ねさせ、ひどくつまならそうに鼻を鳴らしてみせる。
 「レイジの相手は私だ。レイジの好敵手たりえるのは現在過去未来永劫私ひとりだ。どこの誰とも知らぬ愚民の出る幕はない」
 ふと足元に視線を落とす。
 蛍光灯の破片が散乱した床に黒革の眼帯を見つけ、中腰の姿勢で拾い上げる。
 自らも故あり片目を封印した青年は、今しも拾い上げた眼帯を指先で弄びながら、陰湿な光に濡れた薄氷の瞳にうっとりとレイジを映す。
 「調教再開だ」
 サーシャは傲然と宣言した。  

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