ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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九話

 『なんっ、のつもりだよ道了……!』
 情けなく語尾が萎む。
 目を通して網膜に捻じ込まれる光景のおぞましさに吐き気を催す。
 薄暗がりの房に所在なく突っ立ってるガキども五人。
 観衆が固唾を呑んで見守る中、嫌悪と畏怖と欲情とが入り交ざった視線を一身に浴びて俺の股間に顔を伏せ、唾液を捏ねる音も淫猥にペニスを含む男。男の性器を含む行為に何ら抵抗も躊躇いも感じさせず、俺の膝を手掴みで開かせ股間に顔を突っ込み、こまめに顎を傾げてペニスにしゃぶりつく。
 『………ひぐっ、』
 夢だ。悪い夢だ。そうに違いない。
 俺はまた悪夢にうなされてるんだこの前みたいにこの前と同じ繰り返しで、きっそそうに違いない。
 喉の奥で悲鳴が煮詰まる。
 道了から少しでも距離をとろうと無意識にあとじさる。
 背中が何か固い物に当たる。
 咄嗟に振り返り、壁際のベッドに追い詰められたことに気付く。
 さんざん殴られ蹴られいたぶられた全身の関節が軋む。
 道了からは逃げ切れないと直感、手足の先に絶望の温度を感じる。
 悪い夢だ。悪い冗談だ。
 俺の身に何が起きてる?気持ちが悪い。もう沢山だ。いい加減頭がおかしくなりそうだ。
 眼前に道了がいる。
 手掴みで俺の膝をこじ開け股間に顔近づける。口を開ける。含む。機械的に。
 道了の口腔に含まれ舌でねぶられるうちに徐徐に硬さを増し張り詰めていくペニスを根元から切り落としたい衝動に駆られる。
 嗚咽とも苦鳴とも付かないくぐもった呻きがひしゃげた喉から零れる。
 気持ちが悪い。最低最悪のみじめな気分。情けない話腰が抜けて立てない。俺は力なく壁際にへたり込んだまま道了にフェラを施されている。
 道了はフェラが上手い。
 男の癖にどうしてフェラが上手いのか衝撃に麻痺した頭の片隅で疑問を抱く。
 誰に教わったんだ?梅花?まさか。
 髪を鷲掴みにされた梅花が道了に傅いて奉仕する絵なら容易に思い浮かべる事ができるが逆は絶対無理だ。待て、違う、冷静になれ。道了がどこでフェラチオ覚えたかなんてそんなこたどうでもいいだろ関係ないだろ。今すべきことは一刻も早くここから逃げ出すこと助けを呼ぶこと道了を上からどかすことだ。だけど体が言う事聞かない。金縛りにあったように体が硬直して四肢は棒みたく突っ張って自分の意志じゃ指一本動かせない。
 頭が真っ白になる。脳内を虚無に帰す恐怖がぶり返す。
 道了の言動は理解不能だ。
 道了の言動は明らかに常軌を逸してる。
 思考回路は完璧いかれてる。どうしようもなく修正不可能にいかれてる。
 何故そうまで執拗に俺を憎むのかその理由が皆目わからない不条理に当惑が深まる。
 鉄板めいた無表情の裏に秘めた異常な執念がますます恐怖を煽り立てる。
 こんな理不尽ってあるか畜生と腹の中で毒づくも状況は一向に好転しない。
 消え去れ悪夢、消滅しろ道了。
 きつく瞼を食い縛り狂気を伴う恐怖を吹き散らそうと一心に念じる。
 次に目を開けたら道了が跡形もなく消え去ってるといいと儚い希望に縋りながらおっかなびっくり薄目を開ける。
 強く閉じ続けた瞼が幻覚を見せるのか視界に赤い光輪がちらつく。
 赤い光輪が滲んで闇に溶けるのを待ち、早鐘の如く脈打ち沸騰した血を送り出す心臓をどやしつけ、股間を見下ろす。
 毛先を銀に染めた黒い頭が股間で蠢いている。ぴちゃぴちゃ唾液を捏ねる音が響く。
 夢じゃない。現実だ。漸くそれを思い知る……痛感する。自覚した途端に感覚が活性化する。体の麻痺が解けた下半身にどろりとした熱を感じる。不快と快の境界線が溶け出して曖昧に交じり合う。気持ちいいのか悪いのか頭が朦朧として自分でもよくわからない。全身の痛みが徐徐に薄れて下半身に熱が集まっていくのを感じる。
 やばい。
 俺、興奮してる。体が勝手に反応してる。
 分身が浅ましく昂ぶってやがる。 
 レイジ以外の男にさわられて感じる体が憎い。
 レイジ以外の男にむりやり感じさせられて拒否できない自身の境遇に無力感と屈辱感が込み上げる。
 瞼の裏にレイジの顔がちらつく。いつでも能天気に笑ってる王様。俺の最初で最後の男。
 レイジ体を許した決断に後悔はないがこのままろくに抵抗せず道了にヤられちまったら一生後悔するに決まってる。
 道了にヤられるのだけはやだ、絶対やだ。
 梅花みたいにお袋みたいにこいつに犯されて殺されるのだけは嫌だ、梅花やお袋と同じ運命を辿りたくない、こうなりゃ死ぬ気で抵抗してやる、半々の意地を見せてやる!
 『おまえら、ぼさっと突っ立ってないでコイツ引っぺがせよ!なに引いてんだよ、しっかりしろよ、お前らが娑婆にいた頃からずっと憧れてた道了が薄汚い半々の股間に顔突っ込んでペニスしゃぶってるとこなんて見てて楽しいのかよ、台湾人のプライドはどこに売り払ったんだよ、ええっ!?目ん玉かっぽじってよく見ろ、これがお前らが憧れてた月天心トップの本性だよ!俺の股ぐらに顔突っ込んで夢中でペニスしゃぶってるこいつが池袋で伝説化した最凶の男だよ、なあがっかりだろ、現実知ってがっかりしたろ!?お前らが憧れてる道了はお前らが思ってるような男じゃなくて失望したろ、ならコイツどうにかしろよ、俺の腹の上でさかってるこのド変態をぶち殺してくれよ!』
 恥も外聞もかなぐり捨て必死の形相でガキどもに助けを請う。
 薄暗い房内に立ち尽くすガキどもの顔からは完全に血の気が引いてる。
 こいつらに道了の抑止力となる期待をかけた俺がバカだったと自分の浅はかさを呪う。
 フェラを見せ付けられて完全に腰が引けたガキどもを役立たずと腹の中で罵る。
 助けは望めない。自分一人の力で何とかするっきゃない。
 覚悟を決めた俺は狂ったように暴れだす、ちぎれんばかりに激しく首を振り手足を振り回し拳で力一杯道了を殴打する。
 喉も裂けよと甲高い奇声を発する。怒りに任せて拳を振り上げ振り下ろしひとときたりともじっとせずさかんに身をよじる。
 ペニスを含まれた状態で体を動かすのは危険だと頭じゃわかっていても抵抗をやめない、万力めいた顎の力でペニスを噛み千切られるかもしれなと薄っすら予期しながらも激情に翻弄されて判断力を失っている。
 今俺のペニスをしゃぶってるのは梅花とお袋を殺した男、憎んでも憎み足りない殺しても殺したりない惚れた女と母親の仇だ。
 道了の言ったことが真実か妄言かどうかなんてわからない確かめる術がない、だけど道了の言葉は動揺を招くのに十分で劇的な効果をもたらして俺は世界の地盤ががらがら崩れていく音を聞いた。
 お袋が死んだ。殺された。犯されて殺された。道了はさっきそう言った、たしかにそう言った。無慈悲に冷たい金属の瞳で俺を見据え、目の奥まで抉りこむように透徹した視線を顔の中心に固定し、合成音声めいた抑揚のなさでそう言った。

 お袋が死んだ。
 殺された。
 こいつに。
 こんなやつに。
 俺とこいつが関わったばっかりに。
 俺のせいで。
 俺が原因で?

 『なん、で?』
 純粋な疑問が脳裏を塗り潰す。弛緩した口から無意識の問いを発する。
 フェラチオを続けながら道了が面倒くさそうに顔を上げて俺に一瞥よこす。
 俺は震えていた。馬鹿みたいに震えていた。さっきからずっと震えがとまらなかった。
 ずっと昔、まだお袋に縋っていたガキの頃、着のみ着のまま薄汚れたジャンパー姿でアパートを叩き出されて路地裏の寒空の下震えていた頃を思い出す。
 折檻の痛みを体が覚えている。
 恐ろしい剣幕で怒鳴り散らすお袋の形相を鮮明に覚えている。
 今でもまだ悪夢でうなされる。
 平手と一緒に叩き付けられた呪詛、口汚い罵声、ヒステリックに振り上げ振り下ろされる平手と邪険に浴びせられる蹴り。
 この疫病神。
 あんたさえ生まれなきゃもっといい暮らししてたのに、今頃は稼ぎのいい台湾人か金持ちの日本人と所帯を持っていたのに、あんたを産んだばっかりにあんたの父親のろくでなしに惚れたばっかりに私はわたしは……。
 俺のためにいかに苦労してるか涙ながらに切々と語る。
 俺のせいでいかに人生をめちゃくちゃにされたか半狂乱で訴える。
 命からがらスニーカーをつっかけてアパートを逃げ出したこともあればお袋に襟首掴まれてポイと投げ捨てられたこともある。
 最低の母親。最悪の記憶。俺がいようがいまいがとっかえひっかえ男を連れ込んで愉しんだ女。
 とうに吹っ切ったと思っていた。
 忘れ去ったと油断していた。
 お袋はいまや俺の人生に何の影響も及ぼさない、俺は完全にお袋から解放された、お袋の束縛を逃れて呪縛を断ち切ったと思い込んでいたのだ。めでたいことに。
 なのに何で今頃になって、俺の前に現れるんだ。
 こんな最悪の形で現実を突きつけられなきゃいけないんだ。
 お袋なんかどうなってもいい。どうなったって知るもんか。
 痴情のもつれで情夫に刺し殺されるのが売女に似合いの最期だ。
 ざまあみろ。
 自業自得だ。
 俺に優しくしなかったらそうなったんだ。
 あんたがもうちょっと母親の自覚を持って息子に接してればこんな結末にならずに済んだのに全く皮肉なもんだ。
 どうした?笑えよ。
 売女にふさわしい最期だって、自業自得だって嗤ってみせろよ。
 あんな女さっぱり未練はない。
 殺したいほど憎みこそすれ愛してるわけがない。
 どんなに一途に慕ってもさっぱり愛情を返してくれなかった女に期待するのはやめたんだ。
 ひょっとしたら俺の帰りを待っててくれるんじゃないかとか俺の居場所を残しといてくれてるんじゃないかとか母親らしい慈愛の笑顔で「おかえり」と迎えてくれるんじゃないかとかありえない空想で自分を慰めるのはやめたんだ縋るのはやめたんだ。お袋とはすっぱり縁を切った。俺は勘当同然でたたき出された身の上で帰る場所がなくてお袋が待ってるはずないと頭ではわかってるのに……
 『なんでお袋が死ななきゃならなかったんだよ。何も悪くねえのに』
 怒りのあまり声が震える。喉の奥で嗚咽が泡立つ。
 涙腺が熱い。瞼に涙がしみる。
 記憶の中のお袋は今も若く綺麗なままだ。
 俺とよく似た面立ちに蔑みの表情を浮かべ、高飛車に腕を組み、自分が腹を痛めた息子を見下している。
 堰を切ったように溢れ出た涙が頬を滴る。顎先で合流した涙が道了の額を点々と濡らす。
 口の中が塩辛い。
 鼻腔の奥に逆流した涙に噎せ返りそうになりながら、最初は弱く、次第に激しく首を振る。
 『お袋がなにしたよ。なにもしてないだろ。お前の気に障ることはなにもしてねーだろ』
 瞼の裏にくっきりとお袋の面影が浮かぶ。
 端正な造作の切れ長の目、肉の薄い繊細な鼻梁、薄く整った口元と華奢なおとがい。
 俺によく似た、けれども俺より遥かに薄情な面差し。お袋らしいことなんか何ひとつしてくれなかった女。
 けれど、名前をくれた。
 かけがえのないものをくれた。
 お袋がくれた名前を「かっこいい」と褒めてくれたのはレイジだ。
 名前を褒められて誇らしかったのも事実だ。
 客に煙草の火を押し付けられていつまでも泣き止まない俺をぎこちなく撫でてくれた。俺が泣き止むまで辛抱強く麻雀牌を並べて倒す遊びに付き合ってくれた。たったひとつだけ優しい思い出をくれた。たった一回だけ母親になってくれた。
 お袋。お袋。母さん。
 なんであんたが死ななきゃならなかったんだ?
 こんなくだらない理由で、逆恨みに等しいくだらない理由で、単なるとばっちりで。
 『確かにひどい女だった。最低の母親だったよ。だけどお袋はお袋なんだ、死ぬほど苦しい思いで蛙みたいなカッコで力んで俺を股ぐらから産み落とした女なんだよ、この世でたった一人かけがえのない大事な女なんだよ、どんなに酷くされたって殴られ蹴られて放り出されたって嫌いぬけない、今だって本当は忘れられない振り向いて欲しい大好きな女なんだよ!!俺はずっとお袋を守りたくて、お袋を守れるくらい強くなりたくて……月天心にいた頃だってそうだ、お袋忘れたことなんか一度もなかった、いつだってお袋のところに帰りたかった、階段にガタがきたあのアパートに帰りたかった。お袋に会いたくてしょうがなかった。いつだって寂しくて寂しくてしょうがなかった』
 激情に乗って本音が溢れ出す。
 胸が熱い。痛い。
 頭ん中はぐちゃぐちゃだ。
 お袋がもうこの世にいないなんて信じられない。
 いや、信じてたまるか。でも……何が本当で嘘なのかわからない。妄想と現実の区別が付かない。
 でも。
 道了なら眉ひとつ動かさずにお袋と梅花を殺してのけるだろう確信がある。
 梅花の顔をアスファルトで磨り潰し目鼻を血膿に変え手足をへし折り股ぐらにビール瓶をつっこんで骨盤破壊してもなお道了は無表情だ。
 お袋を裸に剥いて横っ面を張り飛ばし爪あと残すほど乱暴に乳房を掴んでもなお無表情だったに違いない。
 道了なら梅花とお袋を殺しても不思議じゃない。
 道了が言うなら十分ありえることだ。
 『お袋と梅花を返せ』
 獣じみた唸り声を発する。
 憎悪に満ち満ちた呪詛を搾り出した俺をちらりとも見ず道了は口を動かし続ける。技巧を凝らした舌遣いに意志を裏切り下半身が反応する。唾液を捏ねる音がやけに淫靡に響く。
 熱い。道了の口の中は熱く潤んでいて、発情した軟体動物めいた動きで舌が蠢くたびにあらたな快感の波が押し寄せる。
 腰が上擦りそうになるのを必死に堪え、間違っても喘ぎ声など上げないよう生唾を呑み言葉を紡ぐ。
 『返せよ。道了。俺の惚れた女と俺を産んだ女を返せ』
 梅花が死んだなんて嘘だ。
 お袋が死んだなんて嘘だ。
 俺が守れなかったなんて嘘だ。
 嘘だ嘘だ嘘だそんなことあってたまるか、俺が知らないあいだに俺が知らない所で道了に犯され殺されただなんて救いのない結末あってたまるかよ。
 道了は答えない。
 俺の股間に顔を突っ込んだまま貪欲にペニスをしゃぶってる。 
 『っは……』
 膝と腰が砕けそうになる。
 腰から下が快感に蕩ける。
 男にしゃぶられてペニスが勃起する。
 レイジ以外の男にやられて感じるなんて信じたくない、俺がそんな淫乱だなんて信じたくない。
 両腕を突っ張って必死に道了をどかそうと試みるも無駄だ。
 押しても引いても道了はびくともせず、屍肉を貪る獣めいた殺気を放って俺の分身をねぶっている。
 『ん、あ、はぅ………』
 思考力が低下する。腕から力がぬけていく。
 体が熱っぽい。口腔の粘膜に包まれ潤されたペニスがびくりと震える。
 体を支える芯がふやけて前屈みになる。自然道了の頭を抱く格好になる。
 嫌だ。イきたくない。
 道了にいかされるなんて最高の屈辱だ。
 梅花とお袋を殺したかもしれないヤツにむりやりイかされるなんて……。
 イきたくないと理性が抗う。
 体が貪欲に快楽を受け入れる。
 梅花とお袋の面影がかわるがわる瞼裏に去来する。
 梅花はじっと哀しげにこっちを見てる。
 お袋は蔑むように見下してる。
 道了にヤられる一方で無力感に苛まれるしかない俺を哀れんでいる。
 憐憫の眼差しに反発が湧く。
 ぐっと腕に力を込め、道了を頭ごと引き寄せる。
 道了の顔をしっかり手挟み、真っ直ぐ目を覗き込む。
 『お前にいかされるくらいなら食いちぎられたほうがマシだ』
 涙と鼻水と涎と血でべとべとになった顔をほんの一瞬虚勢の笑みを浮かべてみせる。
 長くはもたないのは承知の上だ。
 俺に顔を挟まれた道了はそれでも眉ひとつ動かさず、竿を捧げ持つ手を緩慢に動かし、口一杯に頬張ったペニスを繊細この上なく舌で愛撫する。
 『あっ、うあ、ひあ………』
 イきたくないイきたくないイきたくねえ。
 心が逆らう。体が迎合する。射精の欲求が理性に反発する。
 わけもわからず、ただ縋るものがほしい一心で道了の頭を懐深く抱き込む。堪え切れず声が漏れる。射精の瞬間が訪れる。
 『あああああああああああっ……』
 脊髄を貫くような快感が脳天に抜ける。脳裏が真っ白に爆ぜる。射精の瞬間閃光が炸裂した瞼の裏側を過ぎったのは梅花でもお袋でもなくレイジの顔だった。
 レイジは笑っていた。
 いつもと変わらず笑っていた。
 頭の後ろで手を組み、心痛の翳りなどどこにもない陽気な笑顔で。
 『レイジ……』
 舌が、唇が、勝手に名前を紡ぐ。
 ここにいない相棒を呼ぶ。
 射精の瞬間に思い出したのは梅花でもお袋でもなくレイジで心はもはや完全にレイジに占められていた。
 道了の口の中に精を放ったショックよりもレイジを裏切った罪悪感のほうが大きかった。
 背中を支える芯が溶けたようにしどけなく足を崩して座り込む。
 涙は枯れ果てた。
 頬を濡らす涙のあとが外気に晒され乾いていくのを感じた。
 だらしなく開いた口の端から一筋涎を垂らし、下腹に散った白濁を拭いもせず足をおっぴろげた俺の耳に、非情な呟きがふれる。
 『レイジ』
 のろのろと気だるい動作で声のほうに顔を向ける。
 俺の腹から顔を上げた道了が瞬きしない目でじっとこっちを見てる。
 道了がそっけなく顎を拭う。
 手の甲で白濁を拭き取る。
 金の右目と銀の左目が煌煌と光を放ち闇を貫通する。
 道了が怠惰に口を開く。
 『それが、俺からお前を奪った男の名か』
 感情が凍った、しかし底冷えするような殺意を感じさせる声。
 ぎょっと道了を仰ぐ。
 道了は不気味に押し黙る。
 『違う。レイジはただの相棒だ。俺を横取りしてなんか、ない』
 何言ってんだ、俺。
 横取りなんて言ったら道了の物だと自分で認めたみてえじゃんか。
 だけどそれしか言葉が思いつかない。
 レイジを敵と認識した道了がとる行動がありありと予測できたから殺意の矛先を逸らすために心にもない嘘をつくしかない。
 道了は梅花を殺した。
 お袋を殺した。
 この上レイジまで殺されるのはごめんだ。
 レイジまで奪われたら生きてけない。
 道了如きにレイジが負けるはずない殺られるはずない。
 でもそれでもレイジの身を危険にさらす不安は飽食を知らない化け物みたいに膨れ上がる一方で本気の道了がレイジを殺しにかかるところを連想すれば全身が鳥肌だった。
 殺意の矛先をレイジから逸らそうと唾飛ばし反駁する。
 
 『レイジはただのダチだ。俺と同房の囚人ってそれだけだ。お前が相手するようなヤツじゃない実力じゃお前にとても及ばないお前が本気になる価値もないやつだ、だからレイジは放っとけよ、放っといてくれよ、あいつに手えだすのはお願いだからそれだけはやめてくれよなあ頼むこの通りだ、昔の仲間のよしみで言う事聞いてくれよ!?』

 我を忘れて道了に縋り付く。
 道了の肩を掴んで押しとどめた手が震える。
 肌を触れ合った箇所から道了の体温と鼓動が感じられる。
 こいつは人形じゃない。ちゃんと生きて呼吸して飲み食いする人間だ。なら言葉が通じるはず、血を吐くように説得すれば願いを聞いてくれるはずだと一縷の希望に縋って道了の方へ身を投げ出す。
 『!?ふっ、くぅっ……』
 道了の手が、指が、俺の後ろに回りこみ肛門の窄まりを探り当てる。ひんやり骨ばった手で尻の柔肉を揉みしだき割り開き、他者の侵入を拒むように固く綴じた穴に指を突き立てる。
 前戯も何もなく乾いた指を捻じ込まれ矢のように激痛が走る。
 嫌々と首をふり力なく身を捩る。
 あまりに弱々しくて抵抗にならない。
 へたに動くと中で指が擦れて更なる痛みを生み出す。
 『仲間?』
 淡々と道了が言う。
 生まれて初めてその言葉を聞いたみたいに、語彙がまっさらな赤子みたいに。
 『俺には仲間などいない。いた試しがない』
 淡々と、ただありのままの事実だけを述べる口調に反発が募る。
 『一緒に死線をくぐりぬけた月天心のやつらも仲間じゃないってのかよ!?』
 『そうだ』
 道了はあっさりと首肯した。
 俺のケツにねじ込んだ指をぐりっと捻る。
 襞が巻き込まれて摩擦熱が生じる。
 上げかけた悲鳴を飲み下し、崩れた体を道了に凭せてどうにか支える。
 熱い。気持ちが悪い。苦しい。
 体の中で指が動いてる。
 閉じた穴をむりやりこじ開けて掻き分けて奥の奥まで暴こうとしている。額に脂汗が滲む。奥歯を噛んで苦鳴を殺す。力加減を忘れて道了に抱き付く。
 指が一本から二本へ、二本から三本へと増える。
 俺には見えない場所で三本の指がぐちゃぐちゃ音たて蠢きはじめる。
 『俺の形を覚えろ』
 道了の命令。
 ケツの穴に捻じ込まれた指が乱暴に引き抜かれ、隙間ができる。
 次に何が起こるか理解できた。
 逃げなきゃやばいと思った。
 道了の肩越しに唯一の出入り口の鉄扉を振り仰ぐ。
 格子窓越しに射し込む廊下の明かりがぼんやりと床を照らす。
 逃げろ。
 萎えた足腰を気力をかき集め奮い立たせ、壁を伝って。
 俺の考えを読んだようにまわりのガキどもに目配せする道了。
 房の薄暗がりにぼうっと突っ立ってたガキどもが瞬時におのおのの役割を思い出し、鉄扉を塞ぐ形で展開する。
 逃げ道はない。
 万一道了を突き飛ばして逃げることができても数人がかりで鉄扉を塞がれちゃ逃げ出せるわけもない。
 このまま道了に犯されちまうのか。
 梅花とお袋を殺した男に犯されちまうのか。
 大声で助けを呼ぼうとした。
 大声出せば看守か囚人か誰かが気付いてくれると期待した。
 深呼吸し、肺活量が保つ限り絶叫を振り絞ろうとしたそばから片手で隙なく口を封じられる。道了の手。目だけ動かして道了を見る。道了は相変わらずの無表情で金と銀の瞳だけが凶暴に凶悪にぎらついていた。
 『お前の母親がどんなふうによがり狂ったか知りたいか』 
 呟きながら片手でズボンを引き摺り下ろす。
 下着も一緒に。
 『お前の母親はとんでもない淫売だった。相手が息子と同じ年頃のガキでもおかまいなしに腰振ってさかっていた。大股開きで俺を咥えこんで「もっと、もっとひどくして」とねだっていた。俺はその通りにしてやった。毟る勢いで前髪を掴んで、窒息させるつもりで唇を貪って、爪あとが残る強さで乳房を揉みしだいた』
 やめろと叫びたかった。両手で耳を塞ぎたかった。
 お袋の痴態なんて知りたくない聞きたくないお袋がどんなふうに喘いだかよがったか男の下でどんなに淫らになったかなんて聞きたいわけない。
 道了はやめない。
 ズボンと下着を脱ぎ下半身を露出し、皮が剥けたペニスを赤錆びた凶器のように屹立させ、俺の尻へとあてがう。
 『喘ぐ顔がとくにお前にそっくりだった』
 必死に抵抗する。余力を振り絞り抵抗する。
 脳裏を過ぎるお袋の顔梅花の顔レイジの顔、道了に組み敷かれてよがり狂うお袋と血まみれの梅花とレイジの能天気な笑顔が一緒くたに溶け合って消えていく。
 泣き潰れた喉から獣の絶叫が迸る。
 道了は素手の膂力でやすやすと俺を組み敷く。
 シャツが捲れた背中に硬質な床の温度を感じる。
 ざらついたコンクリートの感触にも増して俺を不快にさせるのは体の表面を撫でる指の冷ややかさだ。
 道了の先端が尻にあたる。
 固く張り詰めて存在を主張するペニスが指でほぐされた肛門に侵入……

 「暴動だ!!!!!!」

 その一声で電池が切れたように道了の動きが止まる。
 俺の体内に先端を侵入させたまま、それきり興味が尽きたように格子窓の向こうを仰ぐ道了。鉄扉まわりのガキどももぎょっとする。
 「なんだ、何が起こった?」
 「中国人どもの暴動だ。東棟の中国人どもが所長室に襲撃かけたそうだ」
 「東棟の中国人どもって……凱の一派か?」
 「凱がなんで所長室に殴りこむんだよ?レイジ取り戻しにいったのか」
 「俺に聞かれても知るかよ」
 ヒステリックな怒声と罵声が炸裂、鉄扉一枚挟んだ廊下を殺気立った足音が駆け抜けていく。野太い激を飛ばす看守と囚人どもが入り乱れて阿鼻叫喚の大乱闘を演じる。
 房内のガキどもは戸惑いを隠せない。
 この場でただ一人道了だけが変わらぬ冷静さを保っている。
 「道了さん、どうします?表が大変なことになってますよ」
 考賢が縋るような眼差しで道了を見る。
 道了は俺にのしかかったまま動かない。
 密度を増す沈黙に押し潰されそうで息苦しさを覚える。
 抑揚の激しい中国語が喧しく表を飛び交う。
 格子窓にちらつく人影の中に見知った顔をさがす。
 いた。
 そして俺は、いちかばちかの賭けにでる。
 『救命、凱!!!!!!!!!!』
 爆発の勢いで扉が蹴破られたのは次の瞬間。
 扉の手前にいたガキが二人まとめて吹っ飛ぶ。
 蝶番がいかれた扉の向こう、蛍光灯の光に冴え冴え照らされた廊下に仁王立つのは2メートル近い威容の巨体を誇る男。
 蛍光灯の光を背にシャツもはち切れんばかりの筋骨隆々たる体躯を堂々踏み構えた男が、目を物騒に光らせて房内を睥睨する。
 道了に組み敷かれた俺をつまならそうに見下ろし、不快げに口元を歪める。
 「呼んだか?半々」
 凱だった。 

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050414131326 | 編集
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