ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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一話

 暗闇で何かが割れ砕ける。
 音源は廃工場の奥、暗闇に溶け込むように存在する二十人前後の少年たち。
 場の中心は一人掛けのソファーに座る人物。
 スプリングの壊れたソファーの座り心地はお世辞にも良いとは言えないが、似たり寄ったりの年恰好の集団の中で唯一人特等席に腰掛ける少年は、斬新なコートに包んだ全身から崩れた雰囲気を漂わせている。
 胡乱な半眼の奥、飢えに似た渇望に苛まれて貪欲な光に濡れた目。
 肉の薄い鼻梁と華奢に尖った顎、細く剃った眉が似合う小作りな容貌をそこはかとなく異形めかすのは本来人にはありえないオッドアイ。
 右目が銀、左目が金。
 両方の目に嵌めたカラーコンタクト。
 もう少し表情豊かならばさぞかし女受けがいいだろうと惜しまれる容姿の持ち主だった。
 少年は致命的に表情を欠いたまま、円滑な動作で足元のビール瓶を握る。
 手にした瓶の重みを確かめるように手首に捻りを利かせて軽く振る。
 体の奥底から突き上げる衝動に任せて腕を振りかぶる。
 鞭のように腕が撓り、一直線の軌道で瓶が飛来する……
 「きゃあっ!」
 悲鳴があがる。
 壁際の女が頭を抱え込む。
 その顔の横にビール瓶が激突、木っ端微塵に砕ける。
 宙に飛び散った破片が頬の薄皮を裂き、すっぱり鋭利な傷口から一筋血が流れる。
 血が滲んだ傷口を庇いもせず虚脱しきった様子の女、物問いたげな表情が哀しみに覆われていく。
 どうして?
 目の奥底から浮上する純粋な疑問。
 「対不起……許して、道了」
 女は下腹部を抱いて震えている。
 自己防衛の本能か腰砕けに座り込みたい誘惑と必死に戦っているのかはわからない。目にはしっとりと涙の膜がかかっている。破片ですっぱり切れた頬から血が滴り落ちる。キャミソールの紐がしどけなく肩からずりおちて乳房の膨らみが覗く。しかし女は紐をあげようともせず、睫毛の淵で潤んだ目に一途な哀願の色を浮かべている。
 「気にさわったなら謝る。ただあなたが心配だったのよ。お酒の飲みすぎは体に悪いからそれ以上はやめてってお願い……」
 胸の前でひしと手を組んだ女が言い募るのを遮り、二本目の空き瓶が飛ぶ。
 「ひっ!」
 反射的に女が首を竦める。
 二本目の酒瓶は女の頭すれすれを掠めた。
 直撃すれば脳挫傷は避けがたい。一人掛けのソファーに怠惰に沈み込んだ少年は、何の感慨も無い空洞の目に女を映している。致命的な無表情。感情を欠損した顔。わざと狙いを外してやったのだと言わんばかりにふてぶてしく開き直った態度。
 「道了……」
 震える唇から零れ出る哀願、報われない懇願。
 不規則な呼吸音に紛れて呼ばれた名にも無反応を決め込み、至って無造作に、それでいて的確に三本目を投擲。
 正確無比なコントロール、完璧なフォーム。背凭れから僅かに身を乗り出す前傾姿勢をとり、鋭い呼気に乗せて腕を振り被る。道了の手を放れた酒瓶は女の遥か頭上で割れ砕け、大小無数の破片を降らす。
 「惜しい、はずれだ」
 「道了、ちゃんとど真ん中を狙えよ」
 「安心しろよ梅花ちゃん、折れた歯はちゃんと拾ってやっからさ。鼻がひん曲がったくらいで嘆き哀しむこたぁねえさ、整形の口実できてかえって万々歳だろが」
 「どうせなら一本残らず歯あ引っこ抜いちまえよ、フェラがやりやすくなるぜ。尺八の達人になりゃわんさか客が押し寄せるぜ」
 「俺たちがかわるがわる突っ込んでやるよ」
 「そん時は奥までずっぽりしゃぶってくれよ」
 廃工場の最奥、最も闇が濃く澱んだ場所で哄笑が弾ける。
 女のまわりに散らばった少年たちが一斉に笑い出す。
 下品な嘲笑と野卑な口笛が飛び交う中、壁際に佇んだ女は両手で顔を覆って泣き崩れる。哀切な嗚咽が零れる。
 激しく泣きじゃくる女のまわりに群れ集まる少年たち、弱者をいたぶることに快感を見出した醜悪な笑顔。中のひとりが梅花を小突く。肩を小突かれて梅花がよろめく。中のひとりが梅花の髪を引っ張る。女の命とも呼ばれる髪に触れられた不快感に梅花が身をよじる。
 嬲り者。慰み者。恋人公認の。
 「道了、正気に戻って。こんなのやめさせてよ」
 梅花が抗議の声を上げる。
 滂沱の涙で溶け流れた化粧の下に大小の青痣が見え隠れする。
 酒乱の恋人に暴行されて痣だらけになった素顔。
 しかし道了は退廃的に足を組んだまま、恋人の悲痛な訴えにも心動かさず四本目の瓶を弄んでいる。
 梅花の表情が失望を通り越した絶望に凍りつく。
 梅花の恐怖を煽るようにひどくゆっくりと瓶を掲げる。
 肘掛けに置いた肘を起こし、予備動作で手首を伸ばす。
 壁に背中を付けて漸く起き上がった梅花が惰性で首を振る。
 己の無力を痛感し諦念に覆われた表情、力の抜けきった弱々しい動作。壁に背中を凭せて何とか立ち上がった女が下腹部を守る。
 無意識な動作で下腹部を抱く女を一瞥、オッドアイを細める。
 「『漏らした』のか、梅花」
 意地悪く口角を吊り上げる。梅花の表情が強張る。
 スカートから突き出た下肢がかすかに痙攣する。失禁の兆候。
 破裂寸前の尿意を堪えてけなげに立ち上がった梅花は、いじらしく下腹部を抱き、内腿を性急に擦り合わせている。
 羞恥に頬を染め、涙ぐんで道了を睨む。
 「悪い、まだか。今まさに『漏らしそう』なのか」
 人を食った口ぶりで追い討ちをかける。
 取り巻き連中が追従して笑う。
 梅花は下唇を噛んで耐える。
 「いいぜ、漏らせよ。躾けのなってねえ雌犬らしく床に小便撒き散らしちまえ。その代わり後始末は自分でやれよ。床に漏らした小便は一滴残らず這いつくばって啜らせるからな。いや、待て。気が変わった。俺の可愛い子分どもに雌犬の下の始末を手伝わせてやるよ。ぐしょ濡れの下着を脱がして股ぐらに口付けて陰唇啜ってやる。どうした梅花その顔は、風邪でもひいたか?処女でもねえくせに顔真っ赤にして恥ずかしがるふりすんじゃねえ。そうやって男の気を引こうって魂胆か?図々しいビッチめ。言いたことがあんならはっきり言え」
 息継ぎもせず捲くし立てた道了を睨み、梅花が何度も深呼吸する。
 そして。
 さんざん躊躇った末に、今にも消え入りそうな小声を搾り出す。
 「………トイレに行かせて………」
 戦々恐々と道了の顔色を窺う。
 上目遣いに道了を探り見て、緊張に乾いた唇を舐める。
 唇が剥け、鉄錆びた血の味が舌の上に溶ける。
 「もう一度」
 魔性めいた金銀の目を光らせ、道了が冷徹に命じる。
 恋人の機嫌を損ねたらさらにむごい折檻が待ち受けている。
 究極の選択を迫られた梅花は、取り巻き連中にも聞こえる大声を張り上げる。
 「トイレに行かせてください」
 恥も外聞もかなぐり捨て叫ぶように懇願する。
 焦燥に駆り立てられた梅花を取り巻き連中がさんざん笑いのめす。
 死ぬほど恥ずかしい思いを味わって面を伏せた梅花、その両足は絶えず震えている。性急な貧乏揺すり。小刻みな振動で尿意を紛らわそうという苦肉の試み。
 大儀そうにソファーから腰を上げた道了の手にビール瓶が垂れ下がる。
 頭に命中すればひとたまりもない。
 床一面に脳漿をぶちまけて絶命する末路を予期し、少しでも距離をとろうと壁に密着する梅花。
 間延びした喘鳴、呼吸に合わせて上下する胸郭。
 喘息の発作でも起こしたみたいに呼吸が引き延ばされる。
 内腿の摩擦が激しくなる。尿意は限界に来ている。これ以上はとても保たない。ちょっとした刺激でもイってしまいそうだ。
 羞恥、恐怖、哀しみ、怒り……それらを混沌と煮詰めた最低の気分。たまらなくみじめな気分。
 「道了、助けて、殺さないで!!」
 半ば無駄だとわかっていながら最後の抵抗をする。
 しかし梅花の叫びを無視し、道了はひどくゆっくりと片腕を振り上げる。余裕をもった動作。取り巻き連中に見せつけるように。取り巻き連中が緊迫の面持ちで見守る中、梅花の延長線上に立ち塞がった道了が無防備に天を仰ぐ。

 「あぁああああああああああああぁああああああああっ!!!」

 脳天から甲高い奇声を発する。
 梅花は来たるべき衝撃を予期しきつく目を瞑る。風圧が前髪を捲る。耳元で轟音、鼓膜が麻痺。鋭利な痛みを肌に感じる。
 木っ端微塵になった瓶の破片が四肢に刺さる痛み……
 「ひあああっ……」
 官能の喘ぎにも似た苦痛の呻きが漏れる。
 スカートから突き出た下肢が今にも屑折れそうにがくがく震える。
 下腹部を抱え込んでしゃがみこんだ梅花、あられもなく捲れ上がったスカートから剥き出された太股、内腿から踝にかけてを伝う尿……
 膝が挫けた梅花の下に湯気だつ水溜りができる。
 「大勢の男に見られて興奮したのか、売女」
 口汚く唾棄し、投擲の姿勢からゆっくり上体を起こす。 
 「どうせお前の事だ、スカートの下じゃだらしなく股ぐら濡らしてたんだろが。大勢のガキに視姦されて興奮してたんだろ?だらしなく緩んだ股ぐらにビール瓶の一本二本突っ込んで欲しいってねだってたんだろ?俺らに輪姦される妄想膨らまして子宮疼かせたくせに被害者ぶってんじゃねえよ」
 道了が大股に歩み寄り、梅花の髪を鷲掴む。
 梅花が悲鳴を上げるのを無視、力任せに髪を掴んで振り回す。
 「俺にでかい口叩くなよ、股ぐらおっぴろげて誰彼構わず男を咥え込むド淫乱の売女の分際で」
 「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの、ただあなたの体が心配でそれで……」
 「脱げよ」
 「え?」
 涙の跡も生々しい放心の表情で梅花が問い返す。
 梅花の額を突き放し、わざとらしくスカートの端を摘む。
 「後始末だよ。いつまで小便くさい下着はいてるつもりなんだ?今この場で下着を脱いで床を拭けよ」
 梅花が嫌々と首を振る。いくら道了の命令でもそれだけは出来ないと頑なに。道了は一切取り合わず、布地をひったくろうとする手を邪険に払いスカートをなめらかに巻き上げていく。
 華奢な膝が現れる。
 青痣だらけの太股が引ん剥かれる。
 ついで股間を包む薄地の下着…… 
 「大勢が見てるところじゃいや、こんな所で……」
 「勘違いすんなよ。床を拭けって言ってんだ、俺は。ひとりでできねえなら手伝ってやるよ」
 声音だけは奇妙に優しく道了が宥める。
 梅花が反射的に膝を閉じようとするのを遮り、力任せにこじ開ける。自分を拒んだ罰を与えるように強引に押し開き、ぐっしょり濡れた股間をたっぷり凝視する。尿を吸収して股間にへばりついた下着から縮れた陰毛が透けている。
 「いや、いや、いや!こんな大勢が見てる前は嫌、やめてっ……」
 狂ったように身をよじる梅花を押さえ込み、下着の内側に手を入れ、陰毛の湿った性器をまさぐる。 
 「ヤッちまえ道了!」
 「あとで俺たちに分けてくれよ」
 「俺たちとも遊んでくれよ、梅花ちゃん」
 「もう辛抱たまんねえよ……」
 獣じみて荒い息遣い、生唾を嚥下する音、異様な興奮と熱気。
 「あっ、あふっ、ふあ……ぁ」
 けだものの交尾じみた愛撫に身悶える梅花の痴態に欲情したか、取り巻き連中が自然と股間に手を持っていく。
 中のひとりが張ち切れんばかりに膨らんだ股間に手のひらを被せる。中のひとりがズボンに手を突っ込み荒々しくしごきだす。
 梅花は髪を振り乱し半狂乱で泣き叫ぶ、大勢が見てる前で恋人に犯されるのだけは嫌だと丸めた下着を足首にひっかけて悩ましく身悶える。
 破片が一面に散らばった床に梅花を押し倒し腹這いにのしかかる、その顔に朱線が走る。
 無表情に梅花を見下ろす。
 爪で引っかかれたのだと気付いた瞬間、道了は逆上した。
 「鼻をへし折られるのはこれで何度目だ?」
 爪で抉られた頬がひりひりする。
 手探りで酒瓶を掴む。
 突き上げる憤怒のままに腕を振り上げる。
 梅花が声にならない叫びを上げる。
 恐怖と絶望に歪んだ形相が愉快で愉快でたまらない。
 取り巻き連中が息を呑む気配が伝わる。
 構うものかと開き直る。全体重をかけて馬乗りになる。
 暴力の愉悦に酔った笑み。
 「シリコン入れとけよ」
 梅花の顔面めがけ酒瓶を叩き込む。
 顔面がひしゃげ鼻がへし折れ顎が砕けるあの手ごたえはとうとう伝わってこなかった。梅花の顔に酒瓶を叩き込む寸前、人垣をぶち破って転がり出た小柄な少年が瞬殺の蹴りを放ったのだ。
 酒瓶が木っ端微塵に砕け散る。
 その場に居合わせた全員が闖入者に向き直る。
 「………なにやってんだよ」
 癖の強い黒髪の少年が周囲に睨みを利かせている。
 怒りが滾った目つきには他を圧倒する迫力がある。
 凄味を含んだ表情、小柄な体から発散される怒気。
 少年は猛烈に怒り狂っていた。興奮に息を荒げて半歩ずつ立ち位置を移動、半裸の梅花を背中に隠す。
 両手を広げて下半身を剥かれた梅花を守り、少年が怒号する。
 「お前ら一体なにやってんだよ、女ひとりに寄ってたかって……最低の屑どもが!!」
 怒りのあまり舌が回らず悪態が続かない。
 次に少年がとった行動に誰もが面食らう。
 梅花に跨ったままの道了の胸ぐらを掴むや床に張り倒すも、怒りに任せて振り上げた拳は取り巻き連中によって封じられ、少年自身もまた手荒く押さえ込まれてしまう。
 「放せよくそっ、くそ……俺がちょっと出かけてたあいだにお前らなにしてんだよ畜生、こんなのってありかよ、今度という今度こそ許せねえ、勘弁できねーよ!!道了、梅花はお前の女じゃねえのかよ!?なんでこんな酷い扱いできんだよ、大勢が見てる前で下半身ひん剥いてこんなっ……信じられねえよ畜生、それが恋人のすることかよ、梅花はただお前の事心配してるだけなのにこんな仕打ちアリかよ最低最悪のゴキブリ野郎!!!」
 激情に駆られて罵倒するも道了は表情ひとつ変えない。
 梅花は泣いている。剥き出しの肩を庇って慟哭する。
 肩を抱いて泣き暮れる梅花とその傍らの道了を見比べて咆哮する、おのれの拳が届かない悔しさに激昂する。  
 「うるせーぞこいつ、血の汚れた半々の癖にいい気になりやがって!」
 「お情けで仲間にいれてやってるってのにボスに手ぇ上げるなんざとんでもねえ野郎だ」
 「中国人は薄情で恩知らずって本当だな」
 「構うこたあねえ、手足の一・二本へし折って路上に放り出してやれ」
 「さかりのついた野良犬に可愛いケツ貸してやれよ」 
 取り巻き連中が口々に罵倒して少年を小突き回す。
 手足を押さえ込まれた少年はされるがまま屈辱と痛みに耐える。スニーカーのつま先が鳩尾にめりこむ。少年が跳ねる。肩口に狙いをつけて蹴られる。少年が身を丸める。さんざん殴られ蹴られ唾を吐かれボロ屑と化した少年がやがて動かなくなる。
 「ロン」
 女々しく啜り泣く梅花を残し、道了が歩き出す。
 床に伸びた少年の傍らに片膝つき、前髪を掴んで顔を覗き込む。
 「お前、梅花とできてるのか?」
 痛々しく腫れ上がった瞼がゆっくり持ち上がる。
 切れた唇が歪む。
 反抗的な光を宿した目が道了を捉える。
 「まさかな。お前にそんな甲斐性ないな。梅花にだって好みはあるよな」
 淡々と続ければ取り巻き連中が大いに笑い転げる。
 互いの肩を叩き合い爆笑する取り巻きをよそに、道了はうっそりと口を開く。
 「梅花に惚れてんのか」
 「女の顔に傷を付ける最低野郎が許せねえだけだ」
 愉快この上ない返答に嗜虐的に目を細める。
 ロンと呼ばれた少年が床に肘を付き起き上がる。
 唇の端には血がこびりついている。目は片方塞がっている。
 それでも泣き言ひとつ言わず起き上がったロンの前髪から名残惜しく指を放し、試すように囁く。
 「……お前が身代わりになるなら梅花は許してやってもいいぜ」
 梅花がびくりとする。
 「瓶投げの的になれってのか?いいさ、乗ってやるよ」
 ロンが虚勢を張る。
 だらりと垂れ下がった片腕を庇うようにして立ち上がる。
 梅花が何か言いたげに唇を開き、ロンの目配せでまた閉じる。一同が見守る中、覚束ない足取りで壁際に行き着いたロンが覚悟の面持ちできっかり前を見据える。
 「びびって目え瞑るんじゃねえぞ、半々」
 「アソコが縮み上がって小便もらしちまうんじゃねえか」
 「道了、ど真ん中に当てろよ。クソ生意気なツラを潰してやれ」
 「お情けで仲間に入れてやったのに俺らに歯向かう恩知らずの半々なんざ殺しちまえ」
 『殺!殺!』
 『殺!殺!』
 『殺!殺!』
 殺せ殺せと台湾語の大合唱に後押しされて道了が酒瓶を握る。
 壁際のロンは真っ直ぐこちらを見返している。
 反抗的な目。決して媚びない野良猫の目。
 生傷だらけの顔を厳しく引き締めて道了の目の奥を突き刺すように見ている。
 「投げてみろよ」
 ロンが不敵に微笑む。
 本心は怖くて怖くてたまらない、今にも腰が抜けて座り込んでしまいそうだと腰だめに構えた拳がそう言っている。
 殺せ殺せの大合唱が不可視の重圧となり押し寄せる。
 鉄骨組みの天井にはよく声が反響する。
 壁を背に突っ立ったロンは死の大合唱に屈することなくふてぶてしく笑っている。
 お前の弱味を掴んだとでもいうふうに、
 お前の怯えを見抜いたとでもいうふうに。
 「!!―っ、」

 馬鹿な。
 俺がくそったれ半々にびびるようなことがあってたまるか。

 猛然と酒瓶を投げる。
 歓声が爆発する。
 宙高く舞った酒瓶が急激に落下、硝子の砕ける音が爆ぜる。
 一同息を呑む。道了が渾身の力で投擲した酒瓶はロンの顔の横を穿って木っ端微塵に砕け散った。
 宙に飛び散った破片が頬を裂く。
 ロンの頬に一筋血が滲む。
 頬の傷口から流れる血を親指でひとすくい、意地汚く舐めとる。
 鉄錆びた血の味に顔をしかめ、嘲りを含んだ表情で道了を見上げる。
 「酒乱の台湾人が行き場をなくした半々を哀れんでくれたってわけか?謝謝」
 挑発。
 我を忘れて近くにあった缶ビールを握りしめる。
 まだ栓を開けてない缶ビール。
 道了が奇声とともにぶん投げた缶ビールは凄まじい威力の剛速球と化してロンの腹にめりこんだ。たまらずロンが体を二つに折りへたりこみ、胃袋ごと吐き戻す勢いで激しく咳き込む。咳はやまない。胃液にむせて酸っぱい唾を吐き散らすロンを取り巻き連中がそれ見たことかと嘲笑する。
 「あ、がっ…………」
 あまりの激痛に声もない。
 額がじっとり汗ばむ。
 瀕死の芋虫の如く苦悶に身をよじるロン、極限まで剥かれた目に生理的な涙が浮かぶ。床に転がった缶ビールを拾い上げ、プルトップを引き、豪快に喉を鳴らして呷る。
 「好吃」 
 美味い。
 缶ビールを三分の二ほど空けてロンのもとに歩み寄る。
 床にうつ伏せたロンを必死に抱き起こしているのは……梅花。
 道了の恋人。
 「ごめんなさいロン、私のせいでこんな目に……私が余計なことをして道了を怒らせたから」
 「どけ」
 たどたどしく謝罪する梅花を蹴りどけてロンを見下ろす。
 声もなくのたうちまわるロンの頭上で缶ビールを逆さにする。三分の二ほど残ったビールがロンの顔面に降り注ぐ。
 「起きろよ」
 顔面にぶちまけられたビールが傷口に染みたらしく、ロンが億劫そうに薄目を開ける。髪も顔も服もビールでぐっしょり濡れそぼる。水滴の垂れる前髪を掴んでロンを仰け反らせ、腕力に任せて背後の壁に叩き付ける。
 「がはっ、げほごほっ!!」
 背骨もへし折れんばかりに仰け反るロンを前屈みに押さえ込み、ビールが染みたシャツを力づくで捲り上げる。
 「勘違いするなよ、半々。梅花は俺の物だ」
 濡れそぼったシャツを胸まで捲り上げ、鳩尾に生じた痣を外気に晒す。
 拳ほどの大きさの痣を舌なめずりせんばかりに視姦し、壁に押さえ込まれて身動きできないロンの鳩尾を膝で圧迫する。
 「ぐあっ、あぅぐあ、ひぎっ………!!」
 鳩尾に膝がめりこむ激痛に四肢が跳ねる。 
 缶ビールが直撃した鳩尾に体重かけて膝を入れられる激痛に涙ぐむロン、手足をばたつかせ必死に抵抗する様子に取り巻き連中までもたじろぐ。
 「ロンにひどいことしないで!」
 梅花が金切り声で悲鳴を上げ道了の腰にしがみつく。しかし道了はやめない。壁面に押さえ込んだロンの鳩尾に膝頭をあてがい執拗に抉りこむ。
 息も絶え絶えに首を振るロンの耳に口寄せ、囁く。
 「お前も俺の物だ」
 そして道了は笑った。
 狂気の内の凶暴性を剥き出した笑顔だった。 

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050422214616 | 編集
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