ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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四十二話

 貢さんへ。
 あなたに手紙を書くのはこれが初めてです。
 改めて筆をとるとなんだか気恥ずかしいです。
 無知で無学な故に見苦しい所が多々あるかと存じ上げますが何卒ご容赦を。

 この手紙をあなたが読む頃おそらく私はこの世にいません。
 この手紙をしたためたのはあなたを苦しめるためじゃない、この期におよんでどうしても捨て切れぬ想いを手紙に閉じ込めておいていこうとしただけ。
 どうか嘆かないで、苦しまないで、哀しまないで。
 勝手なお願いだと承知しています。
 私は身勝手な女です。
 どうか呪ってください、憎んでください、恨んでください。
 あなたに罵倒されるなら本望です。
 未練がましい女とお想いですか?
 己が命と引き換えてあなたの執着を繋ぎ止めようとする不憫な女だとお思いですか?
 ……ちがう。
 つらつらとこんな事が書きたかったんじゃない、この世を呪う怨嗟の声を吐き出したかったんじゃない。
 ごめんなさい、不快にさせて。
 ごめんなさい、他に書くべきことがあるはずなのに。
 私自身なにをどう書き出したらいいかわからないんです。
 心の整理がつかないんです。
 嗚呼、なんでこんな事に。どうしてこんな事に。
 あなたを苦しめるために手紙をしたためたんじゃないと前置きしながら未練がましい繰言ばかり。盲いた目でも筆が乱れているのがわかります、手がたえず震えているのがわかります。本当はこんな事書きたくない、私の身に起きた事を綴りたくない。この手紙は今すぐ破り捨てるか焼き捨てるのが賢明だと頭の片隅で囁き声がします。

 今更我が身の不幸を嘆いて何になるの?
 全部終わってしまったというのに。

 いえ、違います。
 私自身の手で終わらせなければいけないのです。
 私は罪を犯した。決して許されぬ罪を。
 過ちではないと信じたい。
 過ちだとは私自身思っていない。
 貢さん、あなたと肌を重ねた行為を後悔した事は一度だってありません。
 どうか信じてください。
 私は貴方の腕の中で安心を得た、愛されている実感を得た。
 幸せだった。
 幸せだったのです、本当に。
 私なんかには勿体無いくて有難くて涙が出そうな位。
 私はもともと莞爾さんの情けで離れに住まわせてもらっている身寄りのない女、天涯孤独の身の上、卑しい使用人ふぜい。莞爾さんが私と貢さんの仲を禁じたのも当たり前です。次期当主と目される本家の跡取りが一介の使用人と恋仲になったとあっては元禄年間から続く帯刀家の名に傷が付くと案じたのです。
 莞爾さんはひどく体面を重んじる方でした。
 私とあなたの関係が表沙汰になったとあっては家の恥と、面と向かって罵られた事も一度や二度ではありません。
 莞爾さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。
 身寄りを亡くした私に幼い頃からよくしてくださったのに、恩を仇でかえすような振る舞いをしてしまいました。
 けれどもあなたを好きになってしまった。
 ひとりの女として好きになってしまった。
 貢さんを好きな気持ちは偽れない。
 たとえそれが当主への忘恩に値するとしても恋情を慎むことができなかった。……はしたない女です。莞爾さんの怒りを買うとわかっていながら、その怒りがあなたに向くとわかっていながら身を引く事ができなかった。
 そしてとうとう後戻りできないところに来てしまった。
 自業自得です。
 悪いのは私。
 恥と意地をかなぐり捨ててもあなたに縋り付こうとした私。
 ……支離滅裂な文章だわ。
 何が言いたいのかしら私。
 自分でもよくわからない。
 ひょっとして頭がおかしくなってるのかしら。
 だってこんなに手が震えて字がのたくっている……みっともないったら。目が見えなくてもわかります。指でゆっくり字を辿ってみれば自分の字がどんなにか見苦しく歪んでいるかすぐわかります。
 せっかく貴方に教えてもらった字なのに上手く書けなくて悔しい。
 拙い字の綴りで気持ちを伝えるしかない己がひどく歯がゆい。
 貢さんにはせめて私の字を覚えていてほしい。
 歳月を経て私の面影が薄れても、せめて私が綴った字だけは記憶にとどめていてほしかった。
 綺麗な字を書きたい。
 できるだけ丁寧に書くつもりです。残された時間を使って。
 一字ずつ心をこめて。
  
 あなたが手紙を読む頃私はすでにこの世にいません。
 首に縄をかけて己の息の根を絶つつもりです。
 あなたは当然理由を知りたがる。
 貢さんは知らない事を知らないままにしておくことができない人だから、白と黒をきっちりつけたがる人だから、私の死の真相を暴こうと奔走するでしょう。
 そして遅からず真相に辿り着く。
 私がどれだけやめてと懇願したところで決してやめないでしょう。
 ならいっそ、死ぬ前に真相を綴るべきと筆をとりました。
 本当はこんな事書きたくない。
 今すぐ筆を捨てて紙を破り捨てたい衝動に駆られて気が狂いそうです。こんな恥ずかしい、おぞましい、おそろしい……嗚呼。あなたにだけは知られたくない。あなたに知られるのが怖い。
 できることなら永遠に胸に秘めて逝ってしまいたい。
 その半面、私の身に起きた事を知ってほしい気持ちもある。
 だれでもいいから話を聞いて、だれでもいいから助けて。
 ひとりで耐え続けるのはもう限界、胸に秘め続けるのは限界。
 心が悲鳴を上げます。
 怖くて怖くて震えがとまらない。
 助けにきて、だれか、だれか……

 みつぐさん。

 私の手をとって無明の暗闇から救い出して。
 どうかこの手を握って欲しい、二度と離れぬようしっかり握って欲しい、ひとりじゃないと安心させてほしい、ひとりで苦しまなくていいと言ってほしい、守ってくれると約束してほしい。
 ……駄目。
 やっぱり駄目。縋っては駄目、縛っては駄目、巻き込んでは駄目。
 貢さんは優しい人だから縋れば必ずこたえてくれる。でも。

 ………この手紙が日の目にふれることはないと信じて続けます。

 私が首を吊る理由の一つは、道場の門下生に犯されたからです。
 全部で十一人いました。
 とある親切な方から不吉な噂を教えられたのです、道場の門下生が結託してあなたを襲おうとしていると。
 必死に走りました。息を切らして走りました。
 貢さんは寡黙を美徳する人だから色々と誤解されやすいのは承知の上、しかし大勢で一人を囲むなど卑劣なまねは許せない。
 私は彼らを止めにいきました。
 どうか仕返しを思いとどまってくれと懇願しました。
 彼らは聞く耳を持ちませんでした。
 私はそれでも必死に縋り付きました。
 押し問答がはじまりました。いつしか揉み合いになりました。目が見えない私は着物の胸元がはしたなく肌蹴たのも知らず「なんでもするから貢さんを助けて」と激情に任せて口走りました。
 なんでもするから、と。
 そのとおりになりました。
 ……その後のことは正直語りたくありません。
 ただただ怖かった。おそろしかった。
 目が見えないことが今だかつてあんなにおそろしかったためしはない。子供の頃から慣れ親しんだ暗闇があんなに得体の知れなかったためしはない。

 怖かった。
 どこをさわられるかわからなくて、
 どこをまさぐられるかわからなくて、
 どこを揉みしだかれるかわからなくて、
 どこに指を入れられるかわらなくて、
 どこを貫かれるかわからなくて、

 助けて助けてと狂ったようにかぶりを振った、頑是無い幼子の如く泣き叫んだ。かわるがわる犯されながらあなたの名を呼んだ。ずっと笑い声を聞いていた……下劣な笑い声を。逃げようとした。何度も何度もがむしゃらに身を翻した、道場の床を這いずって光のほうをめざした。けれどもすぐに引き戻された。着物の裾をひきちぎられて胸元を鷲掴まれて背中にのしかかられて

 『めくらはめくららしく芋虫みてえに丸まってんのがお似合いだ』
 『貢のお古は癪だが我慢してやる』
 『知ってるか?アイツには分家との縁談が持ち上がってるんだとよ。可哀想に、捨てられたんだなお前』
 『貢に遊ばれて捨てられた可哀想なめくらをたっぷりと可愛がってやるよ』

 乳房を乱暴に手掴みされた。痛かった。かわるがわる乗られた。足を無造作に押し開かれて一気に貫かれた。
 痛くて痛くて自然と涙が流れた。
 自分の意志では止められなかった。
 嫌々と首を振った。
 聞いて貰えなかった。
 抵抗すればするほど宴に興を添えた。
 はやく終わって欲しい一刻もはやく終わって欲しい済んでほしいとそればかりでしまいには涙も枯れ果てて体の奥深くを突く熱の塊に痛みすら麻痺して目と同じく虚ろな心に何も感じなくなった。
 何も。
 絶望だけがあとに残った。
   
 でも、それだけじゃない。
 それだけじゃないのよ。
 
 先を続けるのをためらう。
 ここでやめてしまいたい欲求が筆をとめる。
 嫌だ。こんなおぞましいこと書きたくない、暴き立てたくない。何も知らないあなたに真相を明かしてどうするの?あとに残るのは底知れぬ絶望だけ、決して這い上がれぬ暗闇だけ。私がいる場所と同じ暗闇に引きずり込む事になるとわかっていながら先を続ける意味が見つからない。
 でも、苦しいの。
 苦しいのよ。
 せめてこうして手紙に吐き出さなければ苦しくて苦しくて、胸に沈んだ秘密の錘が苦しくて息もできず深みに嵌まって、どんなにもがいても浮かび上がる事ができなくなりそうでとても恐ろしい。
 許してください、貢さん。
 私がこれから言う事を。
 罪深い恋心を。

 私たちは姉弟なの。
 血の繋がった実の姉弟なの。
  
 私の母親は莞爾さんの妾だった。
 莞爾さんは実の父、あなたは腹違いの弟。
 ……真実を知ったのはごく最近。
 とても驚いたわ。
 容易に信じられなかった。
 でもそれで納得がいったの、莞爾さんが私と貢さんの仲に反対した本当の理由が。本家の跡取りと使用人が恋仲になる事を単純に不愉快に感じたんじゃない、莞爾さんの反対にはもっと切実な理由があったのよ。
 どうか莞爾さんを恨まないで。
 たったふたりきりの親子なのだから。
 私の父でもあるのだから。
 莞爾さんは貴方を心配していた、腹違いの姉弟が愛し合うのを容認しがたかった。だから分家との縁談を持ち上げてまで私たちを引き裂こうとした。莞爾さんは必死だった。あなたが人の道を踏み誤らず正しく生きてくれるよう真摯に祈り真剣に悩んでいた。
 
 貢さん。
 子供の頃はあなたを実の弟のように思っていた。
 いつからか淡い恋心に変わった。
 自覚した途端激しい愛情に変わった。
 あなたを守ってあげたかった。ずっと一緒にいたかった。あなたの伴侶として共に添い遂げたかった。たとえまわりの人たちに祝福されなくてもあなたとなら幸せになれると夢見て疑わなかった。いつかは子供が欲しかった。私たち二人とも早くに母を亡くし父親の愛情を得られず育った、その分自分の子供には愛情を注ごうと心に決めていた。

 あなたと家族になりたかった。
 
 あなたへの恋心には今でも変わりない、あなたを愛する気持ちはゆるぎない。
 許されるならずっとあなたのそばにいたかった、あなたの伴侶として終生添い遂げたかった。  
 けれど、許されない。
 実の姉弟で情を通じ肌を重ねた罪深さは耐え難い。
 貢さん、あなたもご存知のはず。
 古く澱んだ帯刀の血をこれ以上濃く澱ませるわけにはいかない、これ以上業を深めるわけにはいかない。
 私たちの子供はきっと幸せになれない。
 生まれながらに業を孕み、帯刀家に縛り付けられて生きていくしかない。
 
 貢さん。
 ついに叶わなかった私の夢を聞いてくれますか。
 遠い将来、もし莞爾さんの許しを得てあなたと伴侶になれたらば、生まれた子供に付けたかった名前があるの。
 「咲」。
 「苗」の子が「咲」だなんておかしいですか?
 貢さんには笑われますね、きっと。
 それでももし二人のあいだに生まれた子が女の子ならば、満開の幸せを願って「咲」と名付けるつもりでした。
 実を言うと子供の頃から自分の名前がきらいでした。
 「苗」。
 地味な名前。なんだかなげやりな感じがする名前。
 薫流さんと静流さん、誰もがおもわず微笑みかけたくなる美しい兄弟の名前を密かに羨んでました。
 薫流と静流。
 生まれたときから幸せが約束されているような華やかな名前。
 二つの流れが一つになりて静かに薫る流れとなる、どこか宿命的な結び付きを感じる名前。
 二人の名前を噛み含むようにくりかえし、続き自分の名前を反芻し、自分だけが仲間はずれにされているような引け目を感じました。 
 「なえ」と自分の名を口の中でくりかえす度、お前はだれからも愛されてないんだぞと思い知らされるようでいやでした。
 自分の名前を好きになれたのは貢さんのおかげです。
 「いい名だ」と貢さんが褒めてくれたからです。
 私は貢さんに救われました。
 何度も、何度も。目が見えない私の目となり貢さんが尽くしてくれたおかげで不便もなく生きることができました。
 いくら感謝の言葉を尽くしても足りません。
 あなたの忠心と献身に報いるには私はあまりに何も持たず生きてきました。
 
 私は苗。
 とうとう咲かずに終わる苗。
 
 すべての苗が芽吹くとは限りません。
 満開に咲き誇るとは限りません。
 咲かずに終わる苗もたしかにあるのです。
 だれかを生かすために芽吹く前に摘まれる苗が、なにかを残すために間引かれる苗もあるのです。
 私は芽吹かない苗でした。
 あなたの隣で幸福に花開くことを夢見て、とうとう果たせずに終わりました。
 たとえ真実を知らなかったといえど実の姉弟で情を通じたのは事実、抱き合ったのは事実。
 私と情を通じたことが表沙汰になれば貢さんに累がおよびます。
 私と手に手をとりあって畜生道に堕ちるような男は次期当主にふさわしくないと一身に非難を浴びます。
 私は幼い頃からずっとあなたを見てきた。
 ある時は母のように姉のようにある時は恋人として、だれより近くであなたの事を見つめ続けた。見えない目で見つめ続けた。
 だからわかります。
 疲労困憊した荒い息遣い、苦しげな喘鳴、それでも挫けず木刀を振るい続ける風切る唸り、虚空に飛び散る大粒の汗、袖が翻る風圧。
 あなたがどれだけ無心に稽古に励み続けたか、文字通り粉骨砕身の努力で剣の腕を磨いたか、私は全部見てきました。
 私と情を通じたことであなたが貶められるのは耐えられない。
 あなたの努力までも無きに等しく扱われるのは耐え難い。 
 
 私はずっとあなたに守られてきた。
 今度は私が守る番です。
 自分の命に代えてあなたの名誉を守る番です。  
   
 貢さん、どうか身勝手をお許しください。
 私が死んだら泣いてくれますか。馬鹿な女だと罵りますか。どうしておいていったと縋ってくれますか。
 ごめんなさい。
 もうこうするしかないの。
 こののち私が生きていればいつか秘密を洩らしてしまう日がくる、錘の重さに耐え切れず口を割ってしまう日が必ずくる。
 それだけじゃない。
 命を断たねば私は諦めきれない、命尽きるまであなたを忘れられず未練を抱き続けるに決まってる、あなたと幸せになりたいと身の程知らずに求めてやまない。
 
 帯刀家が背負った業は私の代で断つ。
 二人で心中するくらいならいっそ私ひとりが間引かれたほうがましです。
    
 勝手なお願いと重々承知の上で言わせて貰います。
 貢さんには幸せになってほしい。生き延びて幸せになってほしい、帯刀家から自由になってほしい。
 芽吹かない苗を嘆かないで。
 いつまでも暗く冷たい土の中に心を残さないで。
 暗く冷たい土の中はあなたの居場所じゃない。
 帯刀家だけがあなたの居場所じゃない。
 あなたの居場所はあなたを愛する人の隣以外にありえない。
 貢さんはこの先何があっても生き続けなくてはだめ、しぶとくしたたかに生き続けなくてはだめ。
 どうか心して聞いてください。
 恋人として最後の、姉として最初の願いです。
 この先あなたを好きになってくれる人が必ず現れる。
 貢さんはとても優しい人だから、だれより一途で高潔な人だから、その優しさと高潔さを好いてくれる人がきっと現れる。
 あなたの脆さ弱さまでもまるごと包み込んで愛してくれる人がきっといる。
 あなたを愛するひとは帯刀家の人間であってはいけない。
 あなたを幸せにできるひとは、血の因果を外れたところにしかいない。
 
 恋人としてあなたを愛した私も結局は血に縛れて死んでいく。
 あなたには同じ道を辿ってほしくない。
 帯刀家とは関係ない所で幸せになってほしい。
 宿命に呪縛されない幸せを掴んでほしい。
 
 ………ごめんなさい、勝手なことばかり言って。
 呪ってくださって結構です。
 恨んでくださって結構です。
 でも貢さん、どうかこれだけは心にとめておいて。
 私はあなたが好きです。真実気も狂いそうなほど……死ぬほどに。
 あなたと幸せをもとめた気持ちに嘘はない。
 あなたの子供が欲しかった気持ちに嘘はない。
 私は芽吹かない苗。暗く冷たい帯刀家の中で死んでいくしかない。
 私は目吹かない苗。あなたは私の目の代わりとなってくれた。
 大好きです、貢さん。
 あなたは私のひかりでした。
 目が見えない私でもあなただけは見える気がした。
 ちょうど目を閉じても顔にあたる光だけはわかるように、些細な息遣いや衣擦れの音やおずおずとふれる手であなたを感じる事ができた。 
 けれど私は光を与えられるばかりで、あなたの光にはなれなかった。
 目が見えない私はこの先帯刀家を出ることができない。
 もし私がいることであなたまでも暗く冷たい帯刀家に閉じこもってしまうなら……
 
 貢さん、逃げて。
 どうか命尽きるまで帯刀家から逃げてください、逃げ続けてください。
 悟ったふりで死を待つよりも必死に逃げ続けたほうが余程いい、私は貢さんにそうしてほしい。
 
 帯刀家の外にこそあなたを愛してくれる人がいるはずだから、
 あなたを抱きしめて守ってくれる人がいるはずだから、
 今度こそ本当の光をつかめるはずだから。

 その人はあなたを抱きしめこう言ってくれる。
 あなたの背中に腕をまわし、あなたを優しく抱擁して。
 私がとうとう与えられなかったものを、あなたに与えてくれる。
 血と血で結ばれた肉親の愛ではなく、想いと想いで結ばれた本当の愛を。
 一方的に生かされる献身ではなく互いに寄りかかる依存ではなく、相思相愛の安らぎを。
 『自分はあなたを生かし生かされている』と。
 
 幸せになってね、貢さん。
 私と咲の分まで咲き誇って頂戴。
 いつかふたりで見た桜のように満開の花を降らして頂戴。

 この手紙は私の部屋の文机の下、和紙を貼った箱にしまっておきます。
 あなたが見ずに終わるならそれがいい。
 世の中には知らないほうがいいことも沢山ある。
 それでも書かずにいられなかったのは死ぬ前に心の澱を吐き出したかった私の我侭です。
 
 最後に、いつかあなたが出会う人に一言。
 貢さんを――弟をくれぐれもお願い致します。
 どうか私と同じかそれ以上に弟を愛してください。
 莞爾の長女にして貢の姉、一族の末席に連なる帯刀苗が切にお願い申し上げます。

 貢さん。
 桜の木の下で咲を抱いてあなたを見守っています。
 しずごころなく花散る春の日は私たちの事を思い出してね。

 幸せにならなかったら承知しませんよ。

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050423141539 | 編集
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