ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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三十七話

 「帯刀分家が嫡男、静流が参ります」
 剣を正眼に構えて堂々と名乗りをあげる。
 切っ先は微動もせず、真っ直ぐにサムライをさしている。
 静流の眼差しは揺るがず、ひたりと目に虚空を映している。
 水に棲む魔性の目。
 あらん限りの憎しみを込めてサムライを殺すと宣言しておきながら、その目は一切の邪悪と無縁に澄み切っている。
 まるで水鏡。
 明鏡止水の目。
 名は体を現す。
 己の名を体現するが如く清冽な気を纏い、瞼を下ろし瞑想し気息を整える。
 瞠目。
 宙吊りにされた僕が成す術なく見守る前で静流は完全に世界と同化する、呼吸に合わせて体内で練り上げた闘気が四肢に満ちていく。
 しかし静流自身は緊張とは無縁に穏やかな顔をしている。
 限界まで張り詰めて切れるのを待つ糸のような緊張感も殺気も微塵もなく、生死を決するこの期に及んで異様にリラックスしている。

 この世のしがらみから解き放たれた安らかな表情。
 悟りを開いた恍惚の表情。

 剣を正眼に悠然と踏み構えたその姿には、才の突出した者特有の余裕と威厳が漂っている。
 束の間命が危険に晒された恐怖も忘れ、立ち居振る舞いの美しさに見惚れる。
 日舞の玄人ならではの嫋やかな体捌きは艶めかしく、漣立てず水面を歩く足運びで見るものを幻惑する。
 再び目を開けた時、静流の表情は一転していた。
 口元に仄かに浮かんだ笑みは一瞬の内に消え、瞼の奥から覗いた双眸に怜悧な眼光が宿る。
 直感した。
 今この瞬間、静流こそが本当の天才だと確信した。
 そして唐突に理解した、僕自身が静流を嫌っていた理由を。
 勿論サムライに近付く静流を警戒してたのもある、僕の知らないサムライを知る彼に嫉妬を覚えていたのもあるがそれ以前に、遡れば夕焼けに染まった展望台で初めて出会った時からずっと静流に対する生理的嫌悪を感じていた。
 その理由が漸くわかった。
 彼と僕は同じ生き物だ。
 同じ天才なのだ。
 彼に対して抱いた感情は近親憎悪か同族嫌悪か……否、自己嫌悪の裏返しだ。僕は初対面時にわかっていたのだ、爽やかな笑顔の裏の真実の核を掴んでいたのだ。
 天才は天才を知る。
 そして、嫌悪する。
 僕はこれまでサムライこそが人間国宝の才を受け継ぐ天才だと思っていたが事実は違っていた、実際は異なっていた。
 本家の跡取りとして厳しく育てられたサムライには皮肉にも当主を継ぐ才能が備わっていなかった。真実才能に恵まれていたのは分家の嫡男の静流であり、それを知った莞爾は実の息子に辛く当たった。

 皮肉な行き違いが生んだ悲劇。

 弔いの火の粉が舞いとぶ炉傍で、上着の裾を颯爽とはためかせ静流が疾駆する。
 囚人服の裾が風を孕んで音高くはばたき、パッと舞い上がった火の粉が視界を赤く熱し、前髪を燻す。  
 風圧に舞い上がる前髪にも構わず、細腕の鉄パイプを振り上げる。
 火の粉に焦がされて皮膚に火傷を作りながら間合いに攻め入り、袈裟懸けに斬る。
 流麗に流れる剣は肉を斬り骨を断つ威力でもって致命傷を与える。
 「サムライっ!」
 肉が爆ぜて鮮血を撒き散らす幻覚を見た。
 袈裟懸けに斬られたサムライがよろめき、炉に没する幻覚を見た。
 僕の不安が見せた幻を裏切り、サムライは間一髪斬撃を避けて後方に飛び退いていた。安堵する暇もなく次が来る。

 まさに、水。

 ある時は瀑布を上げる滝のように残像を脳天から断ち割り、ある時は岩をせかるる水のように緩急変化に富む曲線を描く。
 直線と曲線が見事に融和し、身の毛もよだつ冴えを見せる。
 静流が生き生きと舞う。
 美しく優雅にしたたかに、殺戮の高揚に身を委ねる。
 殺戮の衝動に身を委ねる。
 静流はもはや人斬りの本性を隠そうともせず、面に血化粧を施された美しき修羅と化し、静かに流れる水の如き剣筋でサムライを追い詰めていく。
 劣勢に追い込まれたサムライが眉間に縦皺を刻み、切れ長の双眸に憔悴の光を揺らす。
 「僕が天才だって?」
 静流が皮肉に笑う。絶望に蝕まれた微笑み。 
 自嘲的な笑みを浮かべながらも追い詰める剣筋は手を抜かず、冷静に言葉を吐く。

 「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。そんな世迷言は那由他でも阿僧祇でも否定してやる、僕の生が続く限り否定し続けてやる。君が凡人で僕が天才、君が努力の人で僕が天才?認めない、絶対に認めない。本家の長男は生まれながらに何もかもを持っていた、生まれつき優れていた、完全無欠の人間だと周囲にそう聞かされて己を卑下して育ってきたんだよ僕は。さすがは本家の跡取りだ、分家とは出来が違う、立派な跡取りがいて帯刀家も安泰だ、それに比べて分家の跡取りは女々しくて情けない、女みたいななりをして覇気に欠ける、本家の跡取りの爪垢でも煎じて飲ませたらどうだ、いっそ女に生まれてくればよかったものを……
 皆が僕にそう言った、爪剥がれるまで刀を振るい必死に君に追いつこうとする僕をあざ笑った。僕は帯刀家に相応しくない人間だと本家の引き立て役にすぎないのだから分をわきまえろと、誰も彼もがお節介な説教を垂れた。くどくどしく」

 静流の目に狂気の光が揺らめき、剣捌きがさらに速くなる。
 饒舌に唄いながらも振るう剣筋は衰えを知らず切れを増すばかりで文字通り太刀打できない。
 興に乗った静流がいっそぞんざいに鉄棒を叩き付ける。
 鉄と鉄が激突する甲高い音が響き、火花が散る。
 上段からの打ち込みを立てた鉄棒でサムライが受け止める。
 鉄棒と鉄棒がぶつかる。
 技と技が相殺し、力が拮抗する。
 「僕が天才などであるものか。僕が天才なら稽古で一度も君に勝てなかった説明がつかない」
 静かな怒りを孕んだ顔と声で静流が唸り、関節が白く強張った手にさらに力を込める。
 華奢な体躯と折れそうな細腕からは想像もできぬ力でもって鉄パイプを押し込む宿敵と対峙、サムライが抗弁する。
 「お前自身が実力に枷をかけていたのだ。俺に引け目を感じて実力を出しきれなかったのだ」
 「僕が思い込み激しいみたいに聞こえるけど」
 さも心外そうに眉をひそめる静流を見下ろし、僕は呟く。
 「それは違う」
 サムライと睨み合ったまま耳だけこちらに傾ける静流に、腕と脇腹の痛みを堪えて説明してやる。
 「ただ激しいんじゃない、『異常』に激しいんだ」
 息をするたび脇腹が痛む。全身が疲れている。
 吊られた腕が麻痺し、澱のような虚脱感が脳天からつま先へと下りていく。大量の汗で濡れそぼった上着が素肌に貼り付いて気持ち悪い。眼鏡をとられたせいで視界がぼやける。
 それでも意識を保ち続ける為に口を開く、今にも萎えそうな気力を叱咤して今にも蒸発しそうな理性をかき集めて舌を動かす。

 侍の生き様を見届けるために。

 「静流、君は思い込みが激しく暗示にかかりやすい体質の人間だ。それに加えて人格未形成の幼児期から常にサムライと比較され続けてきた。俗に言うマーフィーの法則、パブロフの犬だ。
 もともと心理学ではなく量子力学の三原則から発展した用語だがこの際まあいい、説明を続ける。静流、稽古に際して君の実力が制限されて一度たりともサムライに勝てなかったのは君自身のせいだ。君自身がサムライに劣ると思い込んでいたから皮肉にもその通りになってしまっただけのことだ。本当はサムライより遥かに優れていたにもかかわらず勝てなかったのは他ならぬ君自身が己の才能を疑っていたせいだ、自分の才能を信じきれなかったせいだ」

 誰よりも自分の才能を信じ続けなければならない自分自身がそれを裏切ったのでは全く意味がない。
 生まれつき人より多くを与えられていたとしても自分自身がそれを知らなければ、もとより何も持ってないのも同じ事。
 持たざる者は持てる者を羨み、そのすべてを欲する。
 どこまでも浅ましく貪欲に自滅の道を突き進む。
 
 自分を卑下するのは自己の才能に対する冒涜だ。
 自分を卑下するのは自己に対する最大の侮辱だ。
 何故それに気付かない、気付こうとしない。 
 静流、君ほどの人物が。
 貴様ほどの天才が。
 
 息を継ぎ、叫ぶ。

 「たとえまわりの人間が何を言ったとしても君だけは自分の才能を信じ続けねばならなかった、自分の才能を疑ってはいけなかった、誇りを持ち続けねばならなかった!君が道を踏み誤ったのは他の誰のせいでもない、勿論サムライのせいでも君に復讐を命じた母親とそれを容認した姉のせいでもない、いちばんの原因は帯刀静流貴様自身だ!!
 君には十分選択の余地があった、ここに来る前に何度も何度も引き返すチャンスがあった、最悪の結末を回避する手段があった!!
 姉を愛していたらなら二人で遠くに逃げればいい、だれも君たちが姉弟と知らぬ場所でやりなおせばいい、近親相姦がなんだそんなものどこが禁忌だというんだ、遺伝子の近さで障害児が生まれるのがまずいのか、血の繋がった姉弟で性行為に及ぶのがまずいというのか?!
 前者がまずいのは異常のある子をわが子と思えない場合だけだ。
 全くの他人同士でも障害のある子は生まれるんだ、姉弟間でも何ら異常のない子が生まれる事もあるんだ、将来的に生まれる子供の話など命をだしにした卑劣な言い訳に過ぎない、統計的にも遺伝的にも不確定要素が多すぎて否定材料にならない!
 後者の場合は問題にならない、愛し合ってるなら性行為に及べばいい、愛し合ってる者同士が体を重ねて何が悪い、愛する人間と体も心も深く繋がりたいのは有史以前の当たり前じゃないか!?」

 体の中で出口をさがして激情が渦巻く、脇腹の痛みすら圧してとめどなく湧き上がる感情に翻弄される。
 苗はサムライが弟だと知って首を吊った。
 もしそれが本当に自殺の理由なら苗を恨まずにいられない、血の繋がった姉弟だからとたったそれだけで幸せになるのを諦めたとしたらその潔さを憎まずにいられない。
 何故サムライを独りにした、苗。
 サムライは貴女を愛していたのに、貴女だけが辛い日々の拠り所だったのに、何故最後まで生きて彼のそばにいてやらなかったんだ?

 何故彼を、こんな所に来させてしまったんだ。

 僕は苗を恨む。
 その潔さと誇り高さを憎む。
 どんなに非難されても苦しんでもそれでもサムライと共に生きて欲しかった、サムライと添い遂げてほしかったと呪わずにはいられない。
 何故そんなに簡単に幸せを諦める? 
 潔く誇り高く往生際良く、美しい自己犠牲精神でもって愛する人の手を放せるんだ?  
 僕なら絶対に放さない。
 どんなに見苦しく往生際悪く利己的でも大事な人の手を放したりするものか、サムライの手を放したりなどするものか、サムライをひとりになどさせるものか。
 僕は彼と幸せになるんだ。
 彼と一緒に幸せになるんだ。
 東京プリズンで生き延びて、いつかは生きてここを出るんだ。
 死人にも静流にもサムライは渡さない。
 天才のプライドと威信に賭けて、僕らの生きるこちら側にサムライを引きとめ続けてやろうじゃないか。

 「そんなに薫流が好きながら家のしがらみを断って二人で逃げればよかった、母親と姉に言われるがまま刀で刺し殺したのは君自身だ、即座に刀を捨てて薫流を抱きしめることもできたのにそうしなかったのは君だ、君自身だ!!自分の愚かさ罪深さを他人になすりつけるな、逆恨みをするな、妄想に逃げるな!
 僕は貴様を軽蔑する、帯刀静流。
 なるほど貴様は天才だが一片の尊敬にも値しない男だ、自分の才能を信じ続けられなかった弱さがもたらした悲劇を今なお受け入れるのを拒絶し逃げ続ける惰弱で最低な男だ。僕は貴様を唾棄する、今なおサムライを苦しめ続ける貴様を憎む!!」
 「才能を信じ続ける才能がなかったんだよ、僕は」
 静流が唇をねじまげて嘲弄する。
 儚い諦念の滲んだ微笑。
 「誰も彼もが君のように自信を持てるわけじゃない。あんまりうるさいと縄を切るよ?」
 「直に手を触れるな!」
 静流の言葉にサムライが激昂、両腕に静脈の筋を立てて一気に鉄パイプを押し返す。
 力の均衡が崩れ、静流が素早く飛びのく。
 白鷺の羽ばたきに似た身ごなしで華麗に跳躍、再び鉄棒を構える。
 「……寡黙を尊ぶ帯刀家の人間の癖に口数多すぎだね、僕は。これからは慎むよ」
 恥じらうようにはにかみ、風鳴りに似て鋭く呼気を吐く。
 「!―くっ、」 
 静流の振り被った鉄棒が容赦なくサムライの脛を打ちのめす。
 脛を強打された激痛に苦悶の形相を浮かべるも何とかその場に踏み止まり防御の構えをとるも遅く、鉄棒を水平に伸ばした静流が小走りに間合いに突入する。
 水際立った身のこなしでサムライの間合いに駆け入り、懐に潜り込む。
 静かに流れる水の如く。
 気配も感じさせずにサムライの懐に潜り、灼熱の鉄棒で刺突をくりだすー……
 「サムライが敗けるものかっ!!」
 ささくれだった縄が手首を締めて痛みを与える、その痛みを堪えて檄を飛ばす。
 僕の声に反応したサムライが辛くも兇刃を防ぎきる。 
 「天才が認めた凡人が自身すら認めない天才に敗けるものか!!」 
 「僕だって姉さんに認められていた!」
 「その姉を殺したのは誰だ!?」
 静流が悲痛な顔をする。
 唯一の理解者を自分の手で殺した事実の重さに打ちのめされ、一瞬の隙ができる。
 いまだ。

 「ォおおおおおおおおおおおおおおおォおおおおおおおおおおおおォおおおおおおおっっ!!!!」
 
 裂帛の気合を込め、火の粉で真っ赤に灼けた鉄棒を蒸気噴き上げる手に握り、全身全霊で挑みかかるサムライ。
 実体なき水のように様々に形を変える静流の剣筋とは違う、全てを打ち砕き破壊する迫力の剣筋が大気を貫く。 
 悲劇の連鎖も血の呪縛も。
 見えざるものすら断ち切り炎で浄化させる、烈火の剣。
 この期に及んで無防備にも正面から突っ込んでくるとは予測できず、静流がうっすらと笑う。
 勝ち誇って微笑む静流の眼前、サムライが攻撃に移る。
 鉄パイプの表面にふれた火の粉がじゅっと音たて、瞬時に蒸発する。
 静流は余裕で剣を構え、サムライを迎え討つ準備を整える。
 僕は気付いていた、静流の鉄パイプが傷だらけなことに。
 少しの衝撃で折れそうなことに。
 ひょっとしたら静流自身気付いていたのかもしれない、ぼろぼろに傷んだ手中の鉄パイプで斬撃をふせぎきれるかわからないと。
 それでも静流は剣を引いて体勢を立て直すことなく、体前に鉄パイプを翳してサムライを受けて立つ。
 サムライが渾身の力で鉄パイプを振り下ろす。
 ぼろぼろに傷付き、全身至る所に酷い火傷を被ったサムライが放った必殺の一撃が難なく受け止められる……

 否。
 受け止めきれなかった。

 「!!!」
 宙高く鉄パイプが舞う。
 火の粉が盛大に舞い飛ぶ中、宙に放擲された鉄パイプが僕の鼻先を掠める。
 いつか見た光景が鮮烈に蘇る。
 展望台の突端に佇む少年、夕焼けに染まるコンクリート。
 残照に映える黒髪の少年が緩やかに振り向き、そしてー……

 『久しぶりだね。貢くん』
 玲瓏と澄んだ声が聞こえた。
 幻聴だった。

 現実の静流は眼下にいる。
 眼下の通路にてサムライと対峙している。
 今しも静流の手をはねとばされた鉄パイプが滑るように炉に落下、増殖する泡の中へと呑みこまれていく……

 終わった。
 静流の、敗けだ。

 「……参ったね。今ので腕がへし折れちゃった」
 傷んだ鉄パイプは衝撃に耐え切れなかった。
 腕もまたしかりだ。
 鉄パイプを遡った衝撃に右手の骨が砕けたらしく、無意識に右腕を庇い、そのまま後方へとよろめく。
 サムライは茫然自失の体で立ち尽くしていた。不規則に乱れた呼吸といい額をしとどに濡らした脂汗といい、二本足で立っているのが奇跡に近い疲労困憊の相を呈している。
 だが、ざんばらに乱れた前髪の奥の目は死んでいなかった。
 炉の炎にも負けず旺盛に輝いていた。
 静流は虚ろな無表情をさらしていた。
 利き手は折れ、得物を失い、もはや完全に勝機はなくなった。
 足が縺れ、体がよろめく。
 吸い寄せられるように手摺に身を凭せる。
 背中に体重を預け、手摺を押す。
 「待て静流、その手摺はさっき君が鉄パイプをぶつけた……!!」
 手摺が後ろ向きに傾ぎ、静流が背中から虚空に放り出されたのは次の瞬間。
 ほぼ同時に、僕自身にも異変が起きる。
 「!?っ、」
 さんざん暴れたせいか火の粉に焼き切れたか、僕の手首を縛った縄が緩み、自重でちぎれる。
 耳朶で風が唸る。
 落下の風圧で前髪が捲れる。
 虚空に放り出された僕の眼前、サムライが必死に手を伸ばす……
 「直っ!!!」
 呼びかけに応じ、無我夢中でサムライの手を掴む。
 通路に腹這いになったサムライは手摺が壊れた向こう側へと胸まで乗り出し、その右手で僕の全体重を支えている。
 そして、左手には―……
 静流が、いた。
 虚ろな無表情のまま、サムライに腕を掴まれ宙にぶらさがっている。
 右手に僕を、左手に静流をぶら下げたサムライの顔に大粒の汗が噴き出し、両腕が見る間に青黒く鬱血していく。 
 下方から噴き上がる火の粉が頬を舐める。
 足元では轟々と炎が渦巻いている。
 さっき沈んだ鉄パイプは跡形もなく溶かされて泡に帰してしまった。
  
 サムライは僕ら二人を両手にぶら下げたまま、激しい焦燥に苛まれた葛藤の表情で唇を噛んでいる。

 僕か静流か。
 救えるのはどちらか一人だ。

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