ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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三十二話

 鍵屋崎が消えた。
 サムライの従弟に拉致られた。
 「こんな時に強制労働行だと!?なに考えてんだよサムライはっ」
 怒りに任せて壁を殴る。衝撃で拳が痺れる。
 房に帰ってきてからこっちイラつきどおしだ。手当たり次第に壁を殴り付けて鬱憤ぶちまけるも手を痛めるだけで何も解決しない。
 それはそうだが、壁でも殴らなきゃやってらんねえ。
 独房を脱走したシズルが医務室を襲撃、見張りの看守と医者を刺して鍵屋崎を拉致った事件で東棟は持ちきりだ。

 鍵屋崎にはさんざん世話になった。
 こっぱずかしくて言えないが、兄貴みたいな存在だ。

 その鍵屋崎が看守二名と医者を殺した凶悪犯と一緒にいる。
 脇腹刺されて全治二ヶ月の重傷でベッドから動けない体なのに、無理が祟って傷口が開いちまったら大変だ。時間が経つにつれ苛立ちと腹立ちは募る一方、壁を殴るだけでは気がすまずに足がでる。
 「落ち着けよ、ロン。お前が壁破壊したってキーストアはもどってこねーぞ」
 「余裕ぶっこいてんじゃねーよレイジ、お前鍵屋崎が心配じゃねえのかよ!?」
 ベッドに腰掛けて優雅に足を組んだ王様に憤懣をぶつける。
 レイジは退屈そうに胸元の十字架をまさぐっている。
 色硝子に似て醒め切った目を過ぎるのは、しみったれた感傷とは程遠い酷薄な色だ。
 「心配だよ、もちろん」
 「だったら王座から腰を上げろよ、鍵屋崎をさがせよ!お前に人望ないのは俺だってわかってるよ、それでも王様の命令は無視できねえだろ、王様の影響力は絶大だろ!?東棟の奴らにひと睨みで言う事聞かせるのもできなくないはずだ、お前がその気になりゃシズルとっつかまえて鍵屋崎見つけだすのもわけねーのに……聞いてんのかレイジ、耳垢ほじくってんじゃねえよ!!」
 「単純だな」
 耳に人さし指を突っ込んでねじり、あきれたふうに首を振る。
 無神経な一言に怒りが沸点を突破、憤然たる大股でレイジに歩み寄る。レイジはベッドに座ったまま、絶対的優位を誇示して俺を待ち構える。人さし指に付着した耳垢をふっとひと吹き、左目に悪戯っぽい光を閃かせる。
 「喧嘩売ってんのかよ。買い叩いてやるよ」
 精一杯ドスを利かせた声音で威圧する。
 俺はめちゃくちゃ気が立っていた。
 鍵屋崎は見つからないシズルはどこにいるかわからない肝心のサムライは強制労働先から帰ってこない八方塞がり状況だ。
 俺も本来なら房にシケこんで壁に八つ当たりしてる場合じゃない、いますぐ房をとびだして鍵屋崎の捜索に加わって東京プリズン中を駆けずりまわるべきなのだ。そうだ、俺だって本当はそうしたい。鉄扉をぶち破って廊下をひた走って鍵屋崎の居場所を突きとめたい衝動を塞き止めるのに自制心を使い果たしてるのだ。
 それもこれも、レイジが余計なことを言うからだ。
 「……レイジ、いい加減説明しろよ。なんだって俺が房を出ちゃいけないんだ、鍵屋崎をさがしにいっちゃいけないんだよ」
 「迷子になるからさ」
 「殺すぞ」
 「おー怖」とレイジが首を竦めるも冗談に乗ってやる気分じゃない。 心配事が多すぎて軽口を叩く余裕がないのだ。
 不機嫌な俺の視線の先、しれっと取り澄ましたレイジに沸々と怒りが込み上げる。体の脇で拳を握り込み思い切りぶん殴ってやりたい衝動を自制する。レイジもサムライもあんまり薄情だ。鍵屋崎がシズルに拉致られたってのに頼りの王様は再三急かしても腰を上げねーし、サムライに至っちゃレッドワークの鉄火場から帰ってきやがらねえ。
 レイジは勿論腹が立つが、許せねえのはサムライだ。
 サムライの行動は理解不能だ。
 鍵屋崎が拉致られて酷くショック受けたのはわかるし同情もする、だからっていつも通りに強制労働に出るこたないだろうが。一日くらい強制労働をすっぽかして鍵屋崎の捜索に当てりゃあいいのに……
 「わけわかんねーよ、畜生。お前もサムライも最低だ」 
 口元をひん曲げて吐き捨てる。
 「鍵屋崎は、仲間じゃねーのかよ」
 クサイこと言ってる台詞はある。
 だからってやめたりしない、糾弾の舌鋒を引っ込めたりはしない。
 少なくとも俺は鍵屋崎のダチのつもり、仲間のつもりだ。鍵屋崎本人がどう思ってるかは知らないけど……多分「迷惑だ」と露骨に顔を顰めて一蹴するだろうが、それでも俺は鍵屋崎をダチとして信頼して心配してる。レイジとの仲を取り持ってくれた事に感謝している。 
 瞼を閉じて回想する。
 売春班廃止をかけて臨んだペア戦にて鍵屋崎はピンチヒッターとして名乗りを上げた。肋骨へし折られた俺の代わりに体を張ってレイジの暴走を止めてくれた。
 挑むようにレイジを見据え、焦燥に駆り立てられ激情をぶちまける。
 「お前鍵屋崎のこと何とも思ってねーのかよ、骨へし折られて顔潰されて歯を引っこ抜かれても構やしねえって思ってんのかよ?なあそうなのかレイジ、お前が大事なのは世界に俺一人で他はどうでもよくて、東京プリズンで出会った他の連中もお前にとっちゃどうでもよくて、一緒に戦ったサムライや鍵屋崎が死にかけようがどうしようが俺さえ無事ならそれでいいって涼しいツラしてんのかよ!?」

 なんだよそれ。
 そんな愛されかた、ぜんぜん嬉しかねーよ。

 無意識に手が伸びて上着の胸ぐらを掴む。
 レイジはされるがまま無抵抗に俺を見上げている。
 酷く醒めた目だ。
 どんなに誠意を尽くして説得しようとも熱烈に翻意を求めようとも、興味がないことには指一本動かさないといったあっぱれな開き直りっぷりだ。
 涼しげなツラが癪に障り、乱暴に胸ぐら掴み上げる。
 「見損なったぜ、レイジ。お前だけじゃねえ、サムライもだ」
 レイジの胸ぐらを両手で握り締め、俯く。
 怒りに紅潮した顔と興奮に潤んだ目を見せたくなかったのだ。
 何故だかひどく哀しかった。
 娑婆に友達がいなかった俺は、東京プリズンにレイジに出会ってダチができた。鍵屋崎とサムライに出会って初めて仲間ができた。食堂でレイジとじゃれあって鍵屋崎に行儀が悪いと注意されてサムライに一瞥されて、そんな当たり前のくだらない日常が、平和に馬鹿騒ぎできる日常が俺には最高の喜びだったのだ。
 泥沼で憎しみ合う台湾人と中国人の混血、男癖の悪い娼婦をお袋にもつ半々と物心ついた頃からずっと世間に後ろ指さされてきて、東京プリズンでレイジと鍵屋崎とサムライに出会って生まれて初めて居場所ができた。

 ダチができたんだ。
 大事なダチが。

 レイジはそうじゃないのか、俺と同じ気持ちじゃないのか?
 俺以外は本当にどうでもいいのか、鍵屋崎がどうなろうが知ったこっちゃないと高をくくって「ふーん」で済ましちまうのか、一貫して無関心な態度であしらうつもりなのか。
 鍵屋崎はレイジにとってもダチじゃないのか、体を張って自暴自棄を諌めてくれた恩人じゃないのかよ?
 「俺は、鍵屋崎が好きだ」
 口から零れたのは素直な言葉、鍵屋崎に対する正直な気持ち。
 変な意味じゃない。俺は鍵屋崎が好きだ、鍵屋崎のそばで安らぎを感じる。鍵屋崎は口は悪いし愛想はないけど実は仲間思いのイイヤツで、俺はそんな鍵屋崎が好きで、ある意味レイジよかよっぽど頼りになるヤツだと思っているのだ。
 「お前はどうなんだよレイジ、鍵屋崎が好きじゃないのかよ。俺と同じ好きじゃなくてもちょっとは好きだろ、仲間思いのイイヤツだなって思ってるだろ」
 「からかい甲斐のあるヤツだとは思うよ」
 レイジがそっけなく頷き、宥めるように俺の手をさする。
 「落ち着けよ、ロン。ヨンイルが西の連中かりだしてキーストアさがしまわってる。遅くとも今日中には見つかるだろうさ。西の道化はアレで頼りになるヤツだ、俺なんかよりよっぽど人望あってダチ想いで……」
 瞼の裏で閃光が爆ぜる。
 「ヨンイルなんかどうでもいいよ、俺が聞いてんのはお前の気持ちだよ、お前鍵屋崎が好きじゃねーのかよ!?」  
 「好きだよ!!」
 レイジを殴り飛ばそうと振りかぶったこぶしが空を切り、前のめりに体勢を崩す。突如レイジが立ち上がり逆に胸ぐらを掴み返す、上背のあるレイジに胸ぐら掴まれて宙吊りにされ、首が絞まる息苦しさに喘ぐ。勢い余って俺を宙吊りにしたレイジの目をまともに覗き込み、言葉を失う。
 「俺だってキーストアが心配だよ。アイツにはさんざんケツ拭いしてもらったんだ、死ぬほど感謝してるよ!アイツがいなきゃロン、お前とだって喧嘩別れしたままだった。鍵屋崎がガツンと喝入れてくれなきゃ俺はずっと腹ん中吐き出せずに笑顔で自分偽り続けて、これから先もずっとお前を騙してくしかなかった。そうだよ、俺の世界はとことんお前中心に回ってるよ、ロン!」
 一息に宣言したレイジが、静かに俺を下におろす。
 「……けどな、その中心に近いところに鍵屋崎とサムライがいるんだよ。王様の愉快な下僕たち、もとい……愉快なダチがな」
 「ダチ」を少し照れくさく言い、決まり悪げに黙り込む。
 やっと、やっと気付いた。
 レイジの手元に注目して、ふてぶてしく余裕を演出する王様の本心を悟った。
 レイジは鍵屋崎がいなくなった時からずっと、鍵屋崎の身に異常が起きたと聞いて医務室に直行した時からずっと胸元の十字架をまさぐり続けていた。華奢な金鎖を二重三重に指に絡めて手に巻き付けて、ともすると逆の手順でまたほどいて、内心の苛立ちと不安をごまかそうと傷だらけの十字架を弄り続けていたのだ。
 「……食堂のテーブルに肘付いて、鍵屋崎に叱られたことあったっけ」
 レイジが懐かしそうに目を細める。
 伏し目がちに微笑むレイジにつられて苦笑、十字架に手を重ねる。  「口うるさいよな、アイツ。小姑みてえ」 
 十字架ごとレイジの手を包む。
 指に絡んだ鎖が澄んだ旋律を奏でる。
 十字架はしっとり汗ばんでぬくもっていた。レイジの体温が移ったのだ。
 うっすら汗をかいた十字架をなで、目を閉じる。
 「……でも、いないと寂しいな」
 レイジと手を合わせているだけでささくれだった心が癒されていく。
 夕闇の迫る房にふたりきり、言葉もなく立ち竦む。
 奇妙な静けさがあたりを包む。
 東棟の囚人はシズルさがしに出払っていて近隣の房はからっぽ、格子窓の向こうもひっそり静まり返っている。
 「……鍵屋崎、どこにいんだろ」
 「教えてやろうか?」
 「え?」
 思いも寄らぬ言葉に鞭打たれて顔を上げる。
 驚いた俺の眼前、レイジがおもわせぶりな微笑を浮かべる。
 世界の終末を予言するような、背筋が寒くなる笑顔。
 「レッドワークの巨大溶鉱炉。鍵屋崎はそこにいる」
 世界を掌握する全能感を宿した声が、思いがけない真実を告げる。  口を半開きにしたまま、腑抜けた顔で立ち尽くす俺を面白そうに眺め、レイジが笑みを深める。
 「なん、で、わかるんだよ?」
 「置手紙に書いてあったろ、『炉にて待つ』って。東京プリズンで炉といったら真っ先にどこを思いつく?レッドワークの溶鉱炉だろ」
 危うく叫びそうになった。
 俺は馬鹿だ。漸くわかった、「炉」の意味が。あの時のサムライの表情の変化、憤怒の形相のわけも。
 「サムライも一発でわかったんだろうな、真相が」
 「待てよ、じゃあなんで俺たちに言わないんだよ?まさかアイツひとりで助けに行くつもりかよ、無茶だよ、何考えてんだよサムライ!?ちょっと待て、じゃあ今の時間になってもサムライが帰ってこないのはレッドワークの溶鉱炉でシズルと対決するつもりで……こうしちゃいられねえ、ヨンイルに知らせにいかなきゃ!」
 鍵屋崎の居場所がわかったんなら助けにいかなきゃ……
 泡を食って駆け出した俺の肘をレイジが掴んで引き戻す。
 「止めんなよレイジ、はなせ、はなせよ!はやくしねーと手遅れになっちまう、鍵屋崎が溶鉱炉におとされてどろどろに溶かされちまうよ!くそっ、サムライの奴こんな大事な時にまだ従弟との果し合いだの武士の意地だのつまんねーことにこだわってんのかよ、シズルとの対決邪魔されんのがイヤで手紙破いて証拠隠滅したんだろ、ふざけんなよアイツ、鍵屋崎の身をいちばんに考えるんならつまんねえ意地張らずにまわりの連中頼るべきだろ、ヨンイルに応援頼んで子分総出で溶鉱炉に向かえば……」

 「ジ・エンド」

 はっと振り返る。
 背後から俺を押さえ込み行かせないようにしたレイジが、耳元で囁く。 
 「サムライの判断は正しかった。サムライは鍵屋崎の安全をいちばんに考えて行動したんだ。だからこそ真っ先に手紙を破った、自分以外の人間にシズルの居所がバレないよう証拠を消したんだ。冷静になれよ、ロン。シズルは完璧にイカれてる。ためらいなく、むしろ嬉々として人を殺す。鍵屋崎の命なんざサムライをおびきだす美味しい餌か便利な道具くらいにしか思ってないあいつが唯一こだわってんのがサムライへの復讐だ。俺だって詳しい事情は知んねーけど、シズルが心の底からサムライを憎んで憎んで憎み抜いてんのは最初に会った時からわかってたよ」
 心臓が凍る。
 レイジは初対面の時からシズルの本性を見抜いてたのか?
 シズルの本性を見抜いてちょっかいかけたってのか。
 信じ難い心地でレイジを振り仰ぎ、固唾を呑んで次の言葉を待つ。
 「なんでわかるかって?俺が『憎しみ』だからさ」
 俺の体に腕を回し、緩やかに手を組み合わせ抱擁する。
 女を腰砕けにする甘い美声がスローテンポで流れる。
 「シズルはサムライをおびきだすためにキーストアを拉致った。シズルの目的はサムライを呼び出して決着をつけること、邪魔者はおよびじゃない。サムライがぞろぞろ仲間を引き連れて溶鉱炉に乗り込んだらシズルは笑顔のままキーストアを炎ん中にぶちこむだろうさ、約束を破っただの真剣勝負をおとしめただの僕を馬鹿にしてるだの勝手な理屈を捏ねてな。サムライはそれを恐れた。シズルはサムライの昔なじみだ、シズルの性格は誰より身近なサムライがいちばん知り抜いてる。大体ヨンイルが頭数揃えて救出に向かったところで、シズルんとこに行くまでにキーストアを炉に叩き込まれちゃ話になんねーだろ」
 生殺与奪の権はあくまでシズルが握っている。
 今現在、いちばん鍵屋崎の近くにいるのはシズルだ。
 シズルの思惑に反して大人数で救出にいくのは人質を殺してくれと言っているようなものだ。シズルは一対一の対決を熱望している。
 サムライとの勝負を中断する目障りな他人がぞろぞろ現れたら……
 鍵屋崎の命運は尽きる。
 「…………!っ」
 固く閉じた瞼の裏側に浮上する光景……轟々と燃え滾る溶鉱炉へ真っ逆さまに落ちていく鍵屋崎。
 激しくかぶりを振って最悪の想像を追い払おうとするも後から後から不吉な連想が過ぎり知らずレイジに縋り付く。
 俺の腹にしっかり腕を回して抱擁するレイジ。
 俺がついているから大丈夫だと言い聞かせるように密着、子守唄のリズムで体を揺らす。
 「サムライを信じろ。鍵屋崎は帰ってくる」
 逞しい腕に身を委ねる。首の後ろに吐息を感じる。
 腕の中で俺を守り、首の後ろに顔を埋め、汗の匂いを嗅ぐように鼻の頭を擦りつける。
 「お前と俺のダチがそう簡単に死ぬわきゃねーだろ、ロン」
 「……あったりまえだ。野良猫並にしぶてえ俺のダチが炉で炙られた位でおっ死ぬもんかよ。サムライも鍵屋崎もけろりとして帰ってくるに決まってる」
 レイジの腕を掴んで虚勢を張る。背中に心地よい体温を感じる。
 二つの鼓動が一つに重なり溶け合っていくー……
 慌しい靴音が廊下を駆けてくる。
 「バスジャックだ、西の道化がバスジャックを起こしたぞ!」
 「!?なっ、」
 驚きの余り肘が跳ね上がり、レイジの顎を強打する。
 顎を押さえて悶絶する王様をよそに鉄扉を開け放てば、今しも息を荒げて廊下を走ってきた囚人が大袈裟に騒ぎ立てる。
 「西の道化がご乱心だ、『金田一ばりの名推理で直ちゃんの居所解き明かしたで、ほなら殴りこみや!』と息巻いてバスジャック、ハンドル回して砂漠に出ちまった!」
 「マジかよそれ」
 「バスジャックたあ派手だな」
 「てか運転できたのかよ、アイツ」
 「免許もってんのか」
 「どうせ漫画のうけうりだろ、カペタとかレツゴーとかさあ……」
 全身の毛穴が開いて大量の汗が噴き出す。
 廊下のど真ん中で口角泡飛ばして捲くし立てる囚人のまわりに、シズル捜索を打ち切って房に引き上げた野次馬が群がり始める。
 えらいことになった。
 「今の聞いたかレイジ、ヨンイルがバスのっとって砂漠に出ちまったって……畜生、どうしてこう次から次へと問題起こるんだよ!?ヨンイルの奴じっとしとけよ、鍵屋崎が心配なのはわかるけどバスジャックなんざやりすぎだ、バス一台ぶんどって勝手に砂漠に出たことがばれたら懲罰房送り……いや、その前に運転できんのかよ!?事故ったらシャレになんねーぞ!!」
 恨みがましい涙目でこっちを睨むレイジの腕を引っ張り、無理矢理廊下に連れだす。 
 「俺たちも地下停留場に行くぞ!ヨンイルが行動起こしたってのにじっとしてられっかよ、俺だってホントは鍵屋崎助けたいんだよ、アイツらの力になりてーんだよ!!」
 俺にもできることがあると証明する。
 鍵屋崎のダチとしてサムライのダチとして、レイジの相棒として恥ずかしくない働きをするんだ。
 俺とレイジが揉み合ってる今この瞬間も鍵屋崎は炉の上に吊るされてサムライはシズルとの対決でぼろぼろになってヨンイルがぶんどったバスは砂漠で転覆してるかもしれない、イヤだ、俺はイヤだ、大事な仲間が危険な目にあってるってのに無力にあぐらをかいてあがきもせずにいるのはごめんだ、ダチの為に何もできなくても何もしようとしない最低の人間になるのだけはごめんだ!!
 奥歯で嗚咽を噛み殺し、真っ赤に腫れた目でレイジを睨み据える。
 レイジは顎をさすりながら黙っていたが、ふいに表情が和む。
 降参のほほえみ。
 レイジが無造作に片手を掲げる。
 「シェ―ラザードを助けにいくぜ」
 漸く意図が飲み込めた。安堵とこっぱずかしさと喜びとが一緒に湧き上がり、温かい感情が胸を満たす。
 どうする、今ならまだ引き返せるぞと言いたげに唇ひん曲げた嘲弄の表情で俺を見下し、レイジが覚悟を試す。

 『Do we go to hell?』
 地獄に行くか?

 答えは決まってる。
 返事の代わりに音高く手のひらを打ち合わせる。
 コンクリ剥き出しの通路に痛快な音が響く。

 『我想去地獄!!』
 地獄に行くぞ。

 最高のダチと相棒をもって、俺は幸せ者だ。

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050503022729 | 編集
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