ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

最近のトラックバック
ブロとも申請フォーム
スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

関連記事 [スポンサー広告]
スポンサー広告 | コメント(-) | ------------ | 編集
二十七話

 静流ご乱心から一ヶ月が経った。
 鍵屋崎が痴情のもつれで刺し殺されて泥沼三角関係が悲劇的な終局を迎えてから今日で一ヶ月……冗談。残念ながら鍵屋崎は死んでない、憎たらしいことに今もぴんぴんしてる。脾臓貫通の重傷なんだから素直にポックリおっ死んだっていいものをどっこいなかなかしぶとい。
 静流はこの一ヶ月ずっと独居房に拘禁されてる。
 看守一名を殺して囚人一名に重傷負わせたんだから当たり前だ。
 冷たい穴倉に転がってる静流を想像するとちょっと溜飲が下がる。
 ヤツにさんざん苦しめられて脅迫されて輪姦で口封じされて、静流が大手振って表歩いてる間はびくびくしっぱなしで心休まる暇なんか片時たりともなかった僕もさすがに一ヶ月が経った今じゃ気力が持ち直した。
 静流にふられたあげくあっさり殺された柿沼に同情はしない。
 自業自得だ。
 柿沼は少しどころじゃなく頭が悪かった、静流にぞっこん惚れてたせいでアイツの本性が見抜けなかったのだ。
 カッキーのおばかさん。
 とはいえ僕も一歩間違えれば同じ運命を辿っていた、静流に脅迫され共犯に仕立て上げられたあげく全ての罪を被せられてあっさり葬られていた。
 んで、現在の僕。
 「リョウさんーやめましょうよー。覗き見なんて悪趣味っスよ」
 上着の袖を引っ張ってビバリーがしぶる。
 口では嫌がってても本気で抵抗してるわけじゃない証拠に目は好奇心に輝いてる。
 「だいじょうぶだいじょうぶ」とビバリーをあしらって壁からそっと顔を出す。
 「ビバリーだってホントは気になってるくせに、三角関係の渦中にあるサムライと西の総大将ヨンイルの内緒話。サムライも医務室前うろうろしてるとこ僕に見つかったのが運の尽き、あんまりそわそわしてるんでこりゃ変だなって物陰に隠れて見張ってたら……ビンゴ!」
 軽快に指を弾く。
 物陰の向こう、廊下の片隅で深刻に話し合ってるヨンイルとサムライにバレなきゃ口笛でも吹きたい気分。
 「ま、僕だって否定はしません。カーギーさん命の用心棒サムライさんと西の道化ヨンイルさん、どうにも妙な取り合わせっスね。二人してこそこそ何話してるんでしょうか……親殺しの居ぬ間にデート?逢引?」
 「まっさかあ!」
 小ばかにしきって鼻を鳴らせばビバリーがむっとする。
 憮然とするビバリーにくるり向き直り、人さし指を突きつける。
 「考えられないね、あの二人に限って。いい?サムライが鍵屋崎を裏切るなんてありえない、ヨンイルも以下同文。鍵屋崎のどこにそんな無限のセックスアピールがあるのか全く理解に苦しむけどサムライがヤツに首ったけなのは一目瞭然、鍵屋崎の良き友人を装ってるヨンイルだってまんざらじゃあない。さもなきゃ泣く子も黙る西のトップが毎日山ほど本抱えて医務室と図書室往復するわけないよ、寝たきりの鍵屋崎のこと考えて配達サービスしてやってるにしても多かれ少なかれ下心があるに決まってる」
 「リョウさんの言う事も一理ありっス。ヨンイルが鍵屋崎に懐いてるのは西でも東でも有名な話、道化ファンクラブの連中もやきもきしてるみたいっス」
 ビバリーが神妙に頷く。
 道化ファンクラブ別名ヨンイルの貞操を守り隊は西棟に存在するらしいその名の通りの集団だ。
 どこかの王様と違って人望厚い任侠体質のヨンイルは五百名から成る集団に「兄貴」と仰がれてるらしい。暑苦しいね。
 壁に隠れた僕らの視線の先には難しい顔をしたサムライとヨンイルがいる。もっとも深刻な面持ちはサムライだけ、腕を組んで壁に凭れたヨンイルはさっぱりした顔でいる。
 ビバリーと目配せし、適切な距離と障壁を隔てて二人の会話に耳を澄ます。
 「……んで、俺に渡すもんがあるやろ」
 ヨンイルが無造作に片手を突き出し、顎をしゃくって催促する。
 何もかもお見通しだと食えない笑みを浮かべて。
 サムライは無言で手を見下ろす。
 事情を知らない人間が通りかかればゆすりたかり無心の類にしか見えない光景だ。サムライは暫し躊躇した末、囚人服の懐を探って一通の封筒を取り出し、ヨンイルに握らせる。 
 「………頼む」
 慇懃に頭を下げる。サムライから受け取った封筒を一瞥、素早くポケットに隠したヨンイルがにっこりする。
 「確かに受け取ったで。そっこー直ちゃんに届けたるさかい安心せぇや。あ、もちろん盗み読みなんぞ悪趣味な真似せんから」
 とってつけたように言い、顔の前で慌しく手を振る。
 オーバーリアクションの道化を見詰めるサムライの顔には苦悩と疲労が滲んでいる。寄らば斬るぞとささくれだった空気を漂わせたサムライは食堂でもどこでも浮いている。静流の暴挙と鍵屋崎の入院がもたらした心痛は予想以上に大きかったらしい。
 とくに鍵屋崎の怪我に多大な責任を感じてるらしく、目にはどこか後ろめたい色がある。
 「……直は元気か」 
 暗い目を伏せる。
 ヨンイルは肩を竦める。
 「そりゃもう。最近じゃ自分でベッドに起き上がれるようになって『入院食がまずい、原料は粟とひえか』て毎日ゴネとる。直ちゃんが快適な入院生活送れるよう俺もあんじょう努力しとる、お前がいのうても不自由せんから安心しィ」
 「…………そうか」
 『お前がいのうても』を強調され、サムライが複雑な表情を浮かべる。残念なような、当てが外れたような、そう思ってしまう自分を戒めるような。
 ほんの一瞬サムライの面を覆った幻滅の色は、陽気な笑い声に吹き飛ばされる。
 「直ちゃんに必要にされへんでがっかりした?」
 「何?」
 サムライが気色ばむ。すっと目を細めたサムライから不穏な気配が立ち上る。
 「これじゃどっちがぞっこん惚れとるんだかわからん。サムライ、あんた実は嫉妬深いやろ。四六時中直ちゃんにべったりひっついて悪い虫つかんよう見張ってへんと不安なんやろ。ベッドで寝たきりの直ちゃんに誰かが悪させえへんかって毎晩気ィ揉んどるんやろ。そのカオは図星やな?」
 意地悪い笑みを浮かべてぐっと身を乗り出し、サムライの顔を間近で覗き込む。
 サムライは反論しない、否定しない。
 武士に二言はないと体現するが如く仄かに頬を上気させている。
 あきれた。
 初恋に悩む中学生かよ?ウブで奥手にもほどがある。
 「直ちゃんのことなら心配すな。お前がそばにいられん分は道化がちゃあんと守ったる。西のトップが睨み利かせてれば貞操安泰や」
 ヨンイルが頭の後ろで手を組み、サムライからすっと離れる。
 「惚れた弱味、か」
 不安か葛藤か、もしくはその両方をごまかすための無意識にゴーグルをさすりつつ、苦味の勝った笑みを上らせる。
 「損な役回りやなあ、俺。逢瀬もままならぬロミオとジュリエットのために伝書鳩ならぬ伝書ヨンイル買って出て、ホンマ物好き。自分でもほとほとあきれてまう」
 「かたじけない」
 サムライが頭を下げる。
 不器用なサムライはこれしか感謝を表す術を思いつかなかったらしい。
 「このあいだのことといい、お前には口では言い表せんくらい感謝している。この恩はきっと返す」
 こないだのこと?ビバリーと顔を見合わせる。
 こないだの事が何を指すかわからず困惑する僕らをよそにサムライはいつになく饒舌に、ヨンイルに対し最大限の感謝と礼を伝えようと切羽詰った口調で続ける。
 「お前が見張りを引き付けてくれねば医務室に忍び込むなど不可能だった。お前が陽動してくれたおかげで俺は上手く医務室に忍び込むことができた。幸い医師にはばれなかった、あの老爺はぐっすり眠りこけていたからな」
 ぐうすか鼾をかく医者でも思い出したのか、サムライの顔が和む。
 「すべてお前の助力あってこそだ、ヨンイル。お前の助力がなくば夢にまで見た直との逢瀬は叶わなかった。いや、逢瀬の件だけではない。直に会うのを禁じられている俺から文を預かり毎度届けてくれる、直と俺の絆を繋いでくれる……」

 サムライが毅然と顔を上げ、真っ直ぐヨンイルを見詰める。
 嘘偽りのない、澄み切った目。

 「お前は恩人だ、ヨンイル。俺と直の、俺たち二人の恩人だ」
 一振りの刃の如く曇りなく澄み切った切れ味を誇る、サムライはそんな男だ。
 サムライの言葉と心はいつも真っ直ぐで、あまりにも真っ直ぐで、それ故自覚なく人を傷つけることがままある。今この時もそうだ。僕にはわかった。見逃さなかった、ヨンイルの顔に浮かんだ一瞬の苦悩を。おそらくヨンイル自身すら気付いてない、サムライに対する嫉妬を。
 「くっさい台詞。時代遅れもええとこや」
 ヨンイルがぐっとゴーグルを押し下げて目を隠し、笑いで表情をごまかす。ゴーグルで目を覆ったのは表情を見られたくないから、本音を知られたくないから。
 おどけた仕草で肩を竦め、どこか空々しく響く底抜けに明るい声でヨンイルが主張する。
 「俺はただ直ちゃんの手塚トモダチとして出来るだけのことやっとるだけや、お前が恩に着ることない。あ、さっきのは嘘。直ちゃんが別にお前に会いたがってないなんて大嘘や、メシ食いながら本読みながらぼうっとしとるけどアレ多分お前んこと考えとるんやろな、次はいつお前が会いにきてくれるか手紙が来るかてそればっか考えてお手手が留守になっとんのや。魂ごとどっか持ってかれたみたいに」
 「俺とて同じだ。心は常に直で占められている」
 ヨンイルが滑稽に口笛を吹く。
 サムライがますます赤くなる。
 口にしたそばから後悔するサムライ、その肩にぽんと手を置いてヨンイルが苦笑する。
 「妬けるなあ、ホンマ」 
 僕は見た、ヨンイルの手に力が込められるのを。サムライの肩を掴んだ指が強張り、口元の笑みが薄まる。
 苦痛に呻くサムライの耳元に顔を運び、顔を斜めに傾げ、囁く。
 「……直を不幸にしたら許さん」
 背筋が寒くなる真剣な表情だった。
 張り詰めた空気が廊下を包む。
 壁の向こう、一直線に伸びた廊下で対峙したサムライとヨンイルはお互い一歩も引かずに目の奥の表情を探り合っている。
 先に声を発したのは、サムライだった。
 「心得ている」
 ヨンイルの手を肩から引き剥がし、重々しく頷く。
 ヨンイルはしばらく疑わしげにサムライを探り見ていたが、やがて納得したように頷き、打って変わって調子よく手をひらひらさせる。
 「さよか。ならええわ、俺が手出し口出しすることちゃうしお前に全部任せよやないか。直ちゃんはお前にぞっこんべた惚れて他の男がちょっかいかけてもなびかんし、お前はお前で直ちゃん以外は見えへん恋は盲目病にかかっとる。お似合いや」
 ヨンイルに茶化されたサムライが何か言いかけ口を開き、また閉じる。
 話は済んだ。ヨンイルがこっちにやってくる。
 やばい!
 ビバリーと一緒に奥に逃げ込む。隅っこで頭を抱え込んだ僕らの背後を軽快な靴音が通り過ぎていく……
 「そこの赤毛とちびくろサンボ」
 「ちびくろ!?」
 ビバリーがバッと顔を上げる。
 「!ばかっ、」
 慌ててビバリーを止めたが時遅く、ヨンイルが寄ってくる。
 「今の話ナイショやで。安田が放った見張りにバレたら面倒くさいことになるさかい、な」
 「それだけ?」
 バレちゃったらしょうがないと開き直る。
 解せない風情のヨンイルに両手を広げてみせる。
 「サムライにやきもち焼いてるなんて西のヤツらにバレたら道化の面目丸つぶれだもんね」
 「リョウさん!」
 ビバリーが僕の口を塞ぐのとヨンイルが爆笑するのは同時だった。
 縺れ合って床に伏せた僕とビバリーの鼻先、ヨンイルが腹を抱えて哄笑している。
 「ははははははっはははは、あかん、俺にもレイジの笑い上戸が伝染ってもうたみたいやわ!あははははっ、お前妄想激しいな!俺がサムライにやきもち?アホ言いな、二次元でしか勃たんて評判のオタクがサムライにやきもち焼いてどないすんねん気っ色わるい!俺はただ大事な手塚トモダチ失いたくないだけや、ブラックジャックの実年齢とかピノコとメルモの共通点とかサファイアは亜麻色の乙女派かリボンの騎士派か言い争える相手を失いたくないだけや!俺を暇させんためにも直ちゃんには一日もはよぅ元気になってもらわなあかんねん」
 わざわざゴーグルを押し上げて目尻の涙を拭い、きっぱりと言い切る。
 「ゲスな勘ぐりすなよ。俺は一生童貞貫き通すてあの世のじっちゃんに誓っとんのじゃ、いまさら初恋に目覚めてたまるか」 
 言うだけ言ってくるり踵を返し、医務室の方角へ去っていく。
 ビバリーはぽかんと口を開けた。
 僕もぽかんと口を開けた。自覚がない初恋って恐ろしい。視線の先でくるり角を曲がったヨンイルが「直ちゃーん、見舞いにきたでー」と大声を上げる。ビバリーはどちらともなく顔を見合わせ肩を竦める。
 「強敵出現か。三角関係が四角関係になるとはね」
 「複雑っス」
 いつのまにかサムライは消えていた。全く神出鬼没だ。
 ……何となく面白くない。どいつもこいつも見る目がない、なんだってあの可愛げない親殺しばっかちやほやされるのか理解に苦しむ。
 「あーっ、むかつく!サムライもヨンイルも趣味悪いよ、相手は極悪非道の親殺しだよ、人を見下した物言いの自称天才だよ?あんなヤツのどこが……」
 その時だ。
 「た、大変だ!静流が脱走した!」
 全身の血が凍り付く。
 廊下を全速力で走ってきた囚人が、すれ違うヤツを片っ端から掴まえて喚き散らす。
 「静流?だれだよそれ」
 「ばかっ、もう忘れたのかよ!?一ヶ月前に柿沼殺して親殺しをぶすりとヤったサムライのいとこだよ、アイツが独居房脱走したんだよ!ほら、なんだっけ……イエローワークの温室担当の看守がいたろ?身長140センチ台のガキにしか興味ねえ変態の」
 「曽根崎?」
 「そう、そねちー!アイツが独居房の餌やり係だったんだけど、独居房に配膳に行ってから帰ってこねえんで同僚が心配になって見に来たら……ああ、思い出しただけで気分悪いぜ畜生!俺もたった今野次馬にまざって事件現場見に行ったんだけど、静流がいた独居房はもぬけの殻でイチモツ出しっぱなしにした曽根崎が口から泡噴いて倒れてて……そのイチモツが……」
 大袈裟な身振り手振りを交えてふれまわる囚人、そのまわりに瞬く間に人垣ができる。 
 大口開けてガリっと歯を噛み合わせる囚人、それが意味するところを悟った野次馬たちがどよめく。
 「やっちまったのか」
 「悲惨だなー。そりゃもう使いもんになんねーだろ」
 「で、静流は捕まったのか?」
 「行方不明だってよ。看守総出で捜してるけどなにぶん隠れる場所多いから……」
 「リョウさん、大丈夫っスか?」
 ビバリーの心配げな声を聞く。足元がふらつき、よろめく。
 ビバリーが僕を支える。ビバリーに縋って何とか体を起こした僕の頭の中に独居房の惨状がありあり浮かぶ。
 もぬけの殻の独居房、糞尿まみれの床に全裸で倒れた曽根崎、眼球がぐるり裏返って口角からぶくぶく泡を噴いて手足が不規則に痙攣して……無残に噛み千切られたペニス、床に吐き捨てられた赤黒い肉塊……

 僕がしゃぶったぺニス。

 「おえっ、」
 我慢できない。
 喉元に猛烈な吐き気が込み上げて、気付けばビバリーの上着に今朝食べた物をぶちまけていた。
 ビバリーがぎょっとする。
 無意識にあとじさるビバリーの服を両手で掴み、口の端から胃液の糸引き激しく咳き込む。 
 「リョウさん大丈夫っスか、気分悪いならすぐそこの医務室行きましょうよ!あ、でもこの格好で中に入るのまずいかも……どどどどうしましょ、医者は綺麗好きだって言うしせめて上着だけでも洗っといたほうがいいっスかね、あれ蛇口、蛇口は……」
 取り乱したビバリーの背後から看守が押し寄せる。
 静流脱走の知らせを受けて捜索に駆り出された看守が「そこのけそこのけ囚人ども、看守さまのお通りだ」と警棒を打ち振るい通路に散らばった囚人を片っ端から叩きのめす。
 「どけ黒んぼ、道を塞ぐな!」
 「ビバリー!」
 むなしく手を伸ばした僕の先、先頭の看守に突き飛ばされたビバリーが壁に衝突、後頭部を強打してずり落ちる。
 正体なくして壁に凭れたビバリーに駆け寄ろうとして、鼻息荒く突進してきた看守の集団に跳ね飛ばされる。
 衝撃で床に転げる。
 天井と床がめまぐるしく入れ替わる。
 床に打ち付けた全身に鈍い痛みを感じる。吐いた直後に床を転げたせいで気分は最悪、眩暈ですぐさま立ち上がれない。
 ぐんにゃり床に伸びた僕の体を、誰かがひきずる。
 ビバリーだ。それ以外考えられない。
 僕が跳ね飛ばされたのを目撃して助けに来てくれたんだ。

 「さんきゅ、ビバリー……」
 「どういたしまして、共犯者」

 唐突に視界が翳る。
 裏通路に引きずり込まれたのだと思った時には既に遅く、口に手が被さる。
 この声、聞き覚えがある。
 人に命令するのに慣れた声、人に傅かれるのに慣れた声……
 静流の、声。
 「~~~~~~~~~~~!!」
 声にならない絶叫を放ち、狂ったように身を捩るも背後から僕を抱きしめる腕の力は強く、びくともしない。
 振り返らなくてもわかる、確信がある。
 僕の背後、裏通路の暗がりに潜んでいるのは……
 一ヶ月前に柿沼を殺して鍵屋崎に重傷を追わせた犯人、帯刀静流。
 押し殺した息遣いを耳の裏側に感じる。
 背中に密着した体から性急な鼓動が伝わる。
 「振り向かないで」
 鋭い囁きが耳朶を射る。直後、恥じらうような風情を孕んだ声音が耳朶をくすぐる。
 「僕、困ってるんだ。こんな格好で出歩いたら目立ってしまう。だから、ね……」
 静流がゆっくりと僕の体をまさぐる。
 慣れた手つきで上着の裾をめくり、下腹を揉みしぼる。
 その手の感触が静流に犯された夜の忌まわしい記憶を喚起看守が覆い被さりマワされて上の口も下の口も犯されて体液でべとべとに汚れて髪がへばりついて暗闇にひとりぼっち
 いやだもうあんなのはいやだ暗闇怖いひとりは怖い助けてビバリー助けて助けて
 「君の服、頂戴」
 耳朶を食み、歯を立てる。
 愛撫の手が激しくなる。
 僕はそれどころじゃないあの夜の記憶がまざまざ蘇って恐怖で硬直理性が蒸発、ああまた静流に捕まっちゃった今度こそおしまいだ僕も柿沼の二の舞になる始末される殺されるママに会う前にママ
 「あげ、るから。ころさない、で」
 縺れた舌を叱咤、たどたどしく言葉を紡ぐ。
 思考の洪水が脳裏に殺到、心臓の鼓動が高鳴り全身の血管が脈動し虚空に据えた目から勝手に涙が溢れる。
 ああ、殺される。間違いなく殺される。
 静流はためらいなく人を殺す、僕さえ比べ物にならない非情さで利用価値のなくなった人間に見切りをつける。こんな所で死ぬなんていやだ、生きてここを出てママに会うって約束したのにこんな所でこんなヤツに殺されちゃうなんて僕の人生って一体……
 「もうひとつお願いがあるんだ」
 「え?」
 だから、静流のこの言葉は意外だった。
 虚を衝かれた僕の体をまさぐり、乳首をいじり、多情の白蛇めいた淫猥さでズボンの内側へと手を這わせる。
 「欲しい物があるんだ。君なら簡単に用意できる」
 「はっあ……ふく、」
 下着の中に冷たい手が滑り込む。華奢な五指がペニスに纏わり付いてゆるゆると撫で出す。腰から下が快感に蕩ける。
 床に膝を付いた僕の体を貪り尽くして精気を搾り上げ、勝ち誇る。
 「お願い聞いてくれるね」
 拒否権はなかった。

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050508172645 | 編集
ブログ内検索
     © 2017 ロールシャッハテストB  Designed by 意地天
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。