ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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九話

 くしゃみをした。
 「砂漠の夜は寒いなあ。風邪ひいちゃうよ」
 囚人服の二の腕を抱いて身震いする。砂漠の夜は冷えこむ。このままここにいたら風邪をひいてしまいそうだ。適当に引き上げようと踵を返しかけた僕の目にとびこんできたのは一体の人影。東棟の外壁、目立たない場所に設置された死体搬送用のドアからさまよい出てきたその影はきょろきょろとあたりを見回してから、落ち着きない足取りでコンクリート敷きの地面を歩き出す。
 こんな時間に看守の目を盗んで散歩なんて度胸あるね。それとも逢引かな?
 後者の可能性のほうが高いと予想してなにげなく目を凝らした僕は危なく口笛を吹きかける。そこにいたのが鍵屋崎だったからだ。なんて偶然。今さっき奴と連番になる囚人ふたりとお目にかかったばかりなのに今度は当の本人とバッタリ遭遇だなんて。いや、ひょっとして偶然じゃないのかな?衝動的にリュウホウを追ってきたらしく、落ち着きなくあたりを見回している鍵屋崎は死角の僕に気付いていない。目先の関心事にとらわれて、はるか背後まで気が回らないのだ。
 こんな夜中にリュウホウと待ち合わせてデートの約束でもしてたのかな。
 本人の知らぬ存ぜぬところで鍵屋崎を観察しながらそんな想像をめぐらしていた僕は、なにげなくポケットに手をやってそのふくらみを確認する。ズボンのポケットに入っていたのはサーシャの手下から回収したクロロフォルムの小瓶。
 ポケットに手をすべりこませ、茶褐色の小瓶を握り締める。
 手の中の小瓶と15メートル先の鍵屋崎とを見比べ、ちょっとしたイタズラを思いつく。
 二十歩、十五歩、十歩。
 闇に乗じて背後に接近、クロロフォルムを数滴しみこませた袖口で鍵屋崎の口を塞ぐ。
 突然すぎて、叫ぶ暇もなかったようだ。
 鍵屋崎の体から見る間に力がぬけ、がっくりとその場に膝をつく。糸が切れたように昏倒した鍵屋崎の寝顔をのぞきこみ、こみあげてきた笑いを噛み殺す。
 「こんな時間にほっつき歩いてるきみが悪いんだよ、メガネくん。悪い狼さんに食べられちゃってもしらないから」
 さて、どうしよう。
 ぐっすり寝込んだ鍵屋崎を屋外に放置して凍死させるか風邪をひかせるかしてもいいんだけど、それじゃちょっと芸がない。掌中でクロロフォルムの小瓶をもてあそびながら思案する。僕は僕で鍵屋崎を眠らせてみたものの、いつまでもこいつにかかずりあってるわけにはいかない。監視塔ではサーシャ様がお待ちかねだし、もうすぐしたらレイジがきてしまう。
 ん?レイジ?
 その手があったかたと閃く。
 「おーい、ちょっとそこ行くサーシャの犬くん一号二号」
 折りよく視界の彼方をとおりかかった見回り役の少年ふたりに声をかける。何事かと互いに顔を見合わせながら駆け寄ってきた少年ふたりは、コンクリートの地面に倒れている鍵屋崎を見て顔に疑問符を浮かべる。
 「コイツ運ぶの手伝ってくれない?」
 「だれだよコイツ」
 当然、ふたりは不思議な顔をする。そりゃそうだ、いきなりそんなこと言われてもわけがわからないしスパイといえど東棟の人間であるにことには変わりない僕に命令されたとしても、はいそうですかと従うわけにはいかないだろう。
 だから僕はこう言ってやった。
 「サーシャをハメようとしてた東のスパイさ」
 「な……!?」
 雷に打たれたように少年たちが驚愕する。しめしめと内心ほくそ笑みながら、表面的には深刻ぶって続ける。
 「コイツ、レイジに言われてサーシャの周り探ってたんだよ。気付かなかった?ニブイね君たち。サーシャがレイジを敵視してるようにレイジも次の対戦相手のサーシャのこと警戒してたのさ。まあ、でも安心してよ。僕が機転を効かせてクロロフォルム嗅がせたから、これ以上余計な邪魔は入らない。東のスパイは始末したから、皇帝サマも思う存分レイジと殺しあえるだろうさ」
 さも自分の手柄のような飄々とした口ぶりで言い、少年たちの反応を確かめる。
 「このままココに放っといてもいいけど、どうせならレイジとサーシャの対決をコイツにも見せてやりたいと思わない?サーシャの裏をかこうとして派遣したスパイが愛しのロンちゃんとつながれてるのを見た時のレイジの顔、見モノだよ」
 僕の誘惑に心動かされたのだろう、少年たちの顔に意地の悪い笑みが浮かぶ。サーシャをだしぬこうという企てが失敗し、みじめに幻滅したレイジの顔を見たいという欲求に屈したのだろう。鍵屋崎の腕を双方の肩に担いで歩き出した少年たちを追いながら、声を殺して笑う。 
 意外なゲストも現れたことだし、今晩の舞踏会は盛り上がりそうだ。

                              +

 
 意識を失った鍵屋崎と、睡眠中のロンに手錠をかける。
 これでふたりは逃げられない、運命共同体になったわけだ。
 ふたりがよく寝入っているのを確認して、20メートル離れた場所に立っているサーシャのもとへと急ぐ。サーシャは腕組みして目を閉じていた。癖のない銀髪が夜風にさやと揺れ、青ざめた唇から低い低い声がもれる。
 「私が下位に甘んじることなどあってはならない」 
 鋭く尖ったおとがいを持ち上げ、星のない夜空に話しかけるように頭上を仰ぐ。
 「東の王だけではない」
 サーシャがぐるりを見渡す。サーシャを中心に輪を作っていたのは、まじりけない白い肌の少年たち。金髪、茶髪、ブルネット。色素の薄い瞳と肌の色は彼らが育った大地と同じく、人を寄せ付けない冷え冷えした印象を与える。自分を取り囲んだ忠実なる家臣らを順繰りに見つめ、サーシャが大きく深呼吸する。
 「ゆくゆくは西の道化と南の隠者を屠り、この極東の地に第二のロシア帝国を築く」
 大気を震わせ殷殷と響いた悪霊じみた声に至く感銘を受けたらしく、少年たちの中には目尻にうっすらと涙を浮かべている者さえいた。狂える皇帝は自分の演説が与えたもうた効果をはかるようにたっぷり間をおいたあと、気違いじみたおたけびを上げる。
 『ハラショー 露西亜!』
 血走った目を極限まで見開き、天へと拳を突き上げるサーシャ。
 『ハラショー 露西亜!!』
 それに呼応したのは、円陣を組んでいた少年たち。一糸の乱れもなくサーシャに唱和して高々と拳を突き上げる。興奮に頬を上気させ、なにかに取り憑かれたように爛々と目を輝かせたその顔からは、サーシャの掲げる崇高なる理想にとことん心酔している様子が窺いしれた。
 『ハラショーサーシャ!』
 『ハラショーサーシャ!』
 『ハラショー露西亜!』
 『ハラショー露西亜!』
 コンクリートの屋上に熱気が渦巻く。
 熱狂して唾をとばし、狂乱の坩堝へと身をおき、興奮の絶頂で我を忘れて東京プリズンの小皇帝サーシャと祖国ロシアを讃える少年たちを遠目に眺めてうんざりする。
 西の道化と南の隠者を殺すなんて、誇大妄想もいいところだ。
 西棟と南棟のトップはある意味レイジ以上の曲者だ。そんな連中相手にサーシャがいくら策をめぐらしたところで容易に勝てるとは思えない。反省しないのは馬鹿の特徴だが、レイジを倒せば東京プリズンの全棟ひっくるめてトップに立てると楽天的に考えてるならサーシャは真性の馬鹿だ。レイジを倒したところで上にはまだふたり強敵が残っている。ロシア系が大半を占める北棟で「のみ」絶大な権力を誇る偽りの皇帝サーシャが東と西と南を制し、真の王座に着くまでの道程ははてしなく遠い。  
 まあ、常習してる覚醒剤が脳に回って「レイジを倒す=トップに立てる」と短絡的に刷り込まれてる可能性が高いけど。
 少し離れた場所でサーシャとその愉快な仲間たちのハラショーコールを見物していた僕の背後で衣擦れの音。鍵屋崎とロンが起き出したらしく、ぼそぼそと話し声がする。踊るような足取りで方向転換、ふたりに接近。なにを話してるのかと聞き耳を立てたら、物騒な単語が耳にとびこんできた。
 「―こうして手錠でつながれたまま僕と君の死体が発見されたら、文字通りの手鎖心中だな」
 「手錠でつながれて野郎と無理心中なんて酸っぱすぎて反吐がでてくるぜ」
 「じゃあ、ひと思いに殺してあげよっか」
 はっとして顔をあげたふたりを見比べ、底抜けに明るい口調で続ける。
 「僕、いいクスリ持ってるよ。安楽死なら任せてよ、打ってぽっくり覚めたら天国ってね」
 「―お前が俺たちを拉致ったのか?」
 唸るように歯を剥いたロンの語尾を奪うように疑義を呈したのは、隣の鍵屋崎。
 「そんな馬鹿な、不可能だ。腕力で劣る君が意識を失った僕たち二人をここまで運べるはずがない」
 信じられないといった顔の鍵屋崎を気分よく見下ろし、おおいにもったいぶって正解を与えてやる。
 「半分正解、半分不正解ってところかな。実行犯は別にいるけど、クロロフォルムを貸したのはまぎれもなく僕だし。君たちをここまで運んできたのは別人」
 「どこだ、そいつら。ぶっとばしてやんねえと気が済まない」
 「できるの?その格好で」
 威勢がよいロンに笑いながら水をさす。自分の手首に嵌まった輪っかを見下ろし、悔しげに歯軋りするロン。
 「―どうして僕らをさらったんだ?」
 ロンがキレる前に質問を挟んだのは、こんな時だというのに憎たらしいほど落ち着き払っている鍵屋崎だ。理性的な声と口調で、単刀直入に核心をつく。
 「メガネくんが教えてくれたんじゃないか、レイジの弱点はロンだって」
 肩をすくめた僕の背後へと目をやり、ロンの顔がこわばる。ロンの視線の先にはサーシャがいた。
 「リョウ、お前……北棟のスパイだったのか!」
 「スパイってひどいなあ。彼らは単にぼくのお客さんだよ、ねえ、サーシャ」
 家臣をひきつれて威風堂々コンクリートの絨毯を歩んできたサーシャが、ゴミでも見るみたいに無関心な目で傍らの僕を一瞥する。 
 「その通り。このアバズレは金さえ払えばブタのケツの穴でもなめる根っからの守銭奴だ。私はこのアバズレを利用して、分不相応な地位に君臨しているあのいやらしい混血児を排斥しようとしたまでだ」
 愛玩犬にするように僕の赤毛をかきまわしながら、うっそりとサーシャが述べる。
 「お前があのいやらしい混血児の友人か?」
 「―いやらしいいやらしいって、俺も混血児なんだけど」
 「どうりで下品な顔をしてるわけだ」
 挑発的な口調で返したロンに薄く笑みを浮かべ、言下に斬り捨てるサーシャ。気分を悪くしたロンから隣で沈黙している鍵屋崎へとなにげなく目をやり、質問を続ける。
 「お前も混血児か?」
 「―さあな。戸籍上は両親ともに日本人と記載されているが、詳しいことはわからない」
 「日本人か。それではお前の血も汚れているな」
 胸を上下させて深呼吸したサーシャが、一拍おいて口火を切る。 
 「この世界でいちばん優れた人種はだれだ?この世界でいちばん美しく気高い人間はだれだ?第二次世界大戦でユダヤ人を迫害したゲルマン民族か?違う。四千年の中華思想に支えられた黄色い肌の猿どもか?違う。第二次ベトナム戦争にのりだして国の予算をひたすら浪費しているプロテスタントの道化どもか?もちろん違う」
 熱に浮かされたように饒舌にまくし立てたサーシャが、恍惚と濡れた目で夜空を仰ぐ。
 「この世界で最も気高く美しく優れた人種……それは、ロシア人だ」
 そして、一転して屑でも見るように辛辣な目で鍵屋崎とロンを視殺する。
 「それ以外は屑だ。地球の食糧事情を悪化させるだけの害虫にひとしい存在は今すぐ死に絶えるべきだ、それが何かの間違いでこの世に生を受けた下賎で卑しいお前ら混血児の義務で宿命だ」
 それまで身動ぎもせず、黙ってサーシャの言葉を聞いていた鍵屋崎がスッと目を細める。
 「君の言葉には矛盾があるな。君は今『混血児は今すぐ死に絶えるべきだ』と独善的に断言したが、混血嫌いを自認する君のグループに日露の混血児が複数含まれているように見受けられるのは何故だ?」
 「愚問だな」
 サーシャが笑った。背筋が寒くなるような笑み。
 「そこの黒髪」
 「は、ハイ!」
 ぞんざいに招かれた少年が、尻尾をふらんばかりの慌てぶりで彼のもとへと駆け寄る。
 「1763年に即位したロシア皇帝ピョートル三世は大変な愛犬家として知られた。いや、愛犬家という言葉は正しくないな。彼は多くの犬を飼っていたが、その犬を狭い部屋に閉じこめ餌もろくに与えず虐待していたという」
 「何の用で、」
 「すか」と言い終える前に、少年の顔面にサーシャの拳が炸裂した。 
 呆然とした鍵屋崎とロンは無視し、よろめき倒れた少年を無慈悲に蹴り上げるサーシャ。
 「妻のエカテリーナに頭のあがらないロシア皇帝のささやかな趣味は飼い犬を鞭打つことだった。私の趣味は汚らしい混血の犬をなぶって憂さを晴らすことだ。これらはその為だけに私の身の周りに侍らせてる無知な愛玩動物だ」
 「いかれてやがる」
 笑みに分類できない笑みを浮かべて淡々と少年を痛めつけるサーシャに嫌悪感を隠せずロンが呟く。
 「―何?」
 「レイジもいかれてるが、お前よりずっとマシだ。いいか、よく聞けよ北棟の皇帝気取り」
 ロンの目は据わっていた。よっぽど腹に据えかねてる証拠だ。
 「あのやることなすことテキト―でいつもへらへら笑ってるクソったれたホモ野郎のが、お前の百兆倍人間として上等だ」
 「君は真性の馬鹿か?よく状況を見て相手を挑発しろ、へたしたら死ぬぞ」
 「お前こそ真性の馬鹿だな、日本人。挑発ってのは口が勝手に動くことだ、頭で考えてる暇なんかねえ」
 「人間なら理性で押さえろ、怒りを自制しろ。たしかに彼は不愉快きわまる最低の人間だが今この場で『君は不愉快きわまる最低の人間だ、一秒でもはやく蒸発して消えてくれ』と嘘偽らざる本音を吐露したところで状況が好転するのか?悪化するだけだろう」
 身の程と状況もわきまえずにサーシャを挑発したロンをすかさず制止した鍵屋崎だが、きみそれフォローになってないって。悪化させてるだけだって。
 天然で状況を悪化させてる鍵屋崎に僕がつっこむより早く、サーシャの口角が不自然に痙攣する。 
 「下賎な混血児の分際で私を愚弄する気か?」
 「下賎な混血児の分際でお前を愚弄する気だよ、エセ皇帝」
 そう言いきったロンの頭上に右腕を持ち上げるサーシャ。
 サーシャの袖口からすべりでたのは古風な鞘のナイフ。手首が撓って返ってくるまでの一動作で鞘から抜刀したサーシャは、抜き身のナイフをロンの頬に這わせ、ささやく。
 「首を刎ねられたいか?反逆者」
 「レイジに対抗して皇帝名乗ってんならギロチンくらい用意しとけよ」
 場が緊迫する。
 一歩も譲らず睨み合うサーシャとロンの間に割って入り、おっとりと口を開く。
 「やめなよ」
 ナイフの背が1ミリほどロンの顔の皮膚に食いこんだところで、サーシャが停止する。
 「そいつらは大事な人質だ、人質ってのは無傷で五体満足だからこそ脅迫材料になるんでしょ。ま、夜中ほっつき歩いててまきこまれたメガネ君は災難だけどしかたない。これからはじまるブトウ会を看守にチクられでもしたら、僕ら全員独居房送りだもんね」
 「招待状はたしかにレイジの手に渡ったんだな?」
 説得が功を奏したようで、一掴みの理性を取り戻したサーシャがパチンと刃を閉じる。
 「かぼちゃの馬車が遅れてるのかな?エンペラーお待ちかねのシンデレラはそろそろ到着するはずだよ」
 遠くから聞こえてくるのは、足音。
 闇を渡り、だんだんと近づいてくる王様の足音。
 「ほら、きた」
 なにがなんだかわからず当惑してる鍵屋崎とロンの横を抜け、コンクリートの手摺に身を乗り出す。サーチライトに照らされた中庭、その中央を不敵に突き進んでくるのはひとりの男。明るい藁束のような茶髪を襟足で結い、垢染みた囚人服を洒脱に着こなし、綺麗な顔に笑みを浮かべてこっちに歩いてくる男の名はー……
 「やばい。レイジの奴、キレてる」
 彼の名前はレイジ。笑いながら怒れる奇特な男だ。

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20060429012824 | 編集
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