ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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九話

 「悪い子にはおしおきしなきゃな」
 レイジが邪悪に笑ってる。
 顔にかかる前髪の奥、純白の眼帯に覆われた片目は傷に塞がれている。俺は知ってる、あの眼帯の下にはサーシャと刺し違えて出来た無残な傷跡がある。サーシャのナイフに切り裂かれて片目を失明したレイジは、硝子めいた透明度の隻眼に狂気の光をちらつかせている。
 片目を犠牲にしてまでも勝利の栄光を掴んだレイジ。
 体の一部を捨ててまでもリングに上がり続けたのは俺を守る為だ。
 レイジはいつだって自分の身を犠牲にして俺を庇ってくれた、俺が傷付くくらいなら自分がぼろぼろになったほうがマシだと片目が光を失ってもなお最後の最後まで戦い続けた。
 そのレイジが今、俺を押し倒している。
 俺の上にのしかかって眉間に安全ピンを翳している。
 安全ピンの先端に目が吸い寄せられる。
 裸電球の光を集めて鋭く輝く切っ先が耳朶を刺し貫くところを想像、恐怖を感じる。思い出すのはタジマに無理矢理ボイラー室に引きずりこまれた時の事、安全ピンの先端で耳朶の柔肉を突かれる鋭い痛み。
 俺の耳朶をちぎるとるように掴んだタジマの下卑た笑顔、黄ばんだ歯のぬめり、口臭くさい息までもが生々しく蘇る。
 タジマがちょいと指先に力を込めれば鋭い針が耳朶を貫通、向こう側に抜ける。
 情けない話、俺はびびっていた。
 四囲を密閉されたボイラー室は暑苦しく蒸れていて、何もしなくても大量の汗をかいた。コンクリ壁を這い回るボイラー管からは間欠的に蒸気が噴出、大気を白く曇らせた。サウナに閉じ込められてるみたいだった。ピアスを開けるくらいどうってことない、一瞬で済む、大して痛いわけないと自分に言い聞かせて恐怖をやわらげようと挑戦したが無駄だった。
 迫り来る安全ピンとタジマの哄笑の二重攻撃で虚勢が吹っ飛んだ。
 勿論、東京プリズンにだってピアスを開けてる奴は大勢いる。レイジみたいに両耳にずらりと銀環を並べている奴もいる。
 だが、自分で開けるのと他人に開けられるのは全く別物だ。
 俺はピアスなんか開けたくない。男がそんなちゃらちゃらしたもんつけられっか。軽薄が服着て歩いてるレイジを見りゃわかる通りピアスは軟派の象徴だ。俺は今日までずっと硬派に生きてきた、大の男がちゃらちゃらしたアクセサリーを身に付けるなんざ冗談じゃねえと意固地な信念を貫いてきた。第一喧嘩の邪魔だ。耳朶のピアスはともかくペンダントやら指輪やら余計な重しをじゃらじゃら付けてたんじゃ、いざって時反射的に体が動かねえじゃんか。
 裸電球の光を背に、レイジの顔には濃淡くっきりとした陰影が刻まれている。
 俺をベッドに押し倒してのしかかったレイジの目が爛々と光っている。凶暴な光。狂気に理性を明け渡して本来の獰猛さを剥き出した危険極まりない雰囲気が漂っている。嫉妬に狂える暴君にもはや言葉は通じない、説得も釈明も弁解も一切無駄だと絶望する。
 正邪と清濁が混沌とまざりあった笑顔が暗黒に染まるのも時間の問題。現に俺が身動きできず眺めてる前でレイジの笑顔は刻々と変化してる。
 優雅に長い睫毛に飾られた目には脆く硬質な色硝子の瞳が嵌めこまれている。光の加減で猫科の肉食獣を彷彿とさせる黄金にも変わる神秘的な瞳が、真っ直ぐに俺を射抜く。
 魔力が宿る硝子の瞳、視線の呪縛。
 怖い。
 レイジが怖い。
 「冗談、やめろよレイジ。らしくねえよ、こんなの」
 震えそうな語尾を叱咤、虚勢を張って言い返す。レイジの表情は変わらない。眉一筋動かない、完璧な無表情に近い完璧な笑顔。
 こんなに綺麗に笑える奴には生まれて初めて会った。
 レイジは俺がこれまで出会った人間の中でも断トツ極上の容姿の持ち主だが、出来すぎな程整ったツラは人に忌避される要因にもなりうる。
 人は「完璧なもの」に慣れてない。
 もともと不完全な人間は潜在的に「完全」や「完璧」な存在を恐れているのだと前に鍵屋崎が言っていた。だからいざ完璧なものや完全なものが眼前に現れると嫌悪を隠せない。出来すぎなほど容姿が整った者はもはや同じ人間とは思えず、悪魔か天使に近い存在である錯覚に襲われる。
 あの時鍵屋崎が捏ねた理屈が今腑に落ちた。
 ガキっぽく怒ったりあけっぴろげに笑ったり、いつも表情を崩してるレイジがこんな風に微笑すると背筋が凍り付く戦慄を覚える。
 口元だけに薄っすら笑みを刷いた恐ろしく邪悪な表情は悪魔に近い。
 俺の眉間に安全ピンを翳したまま微動だにしないレイジに焦燥が募る。
 まさかレイジは本気で俺の浮気を疑ってるのか、所長に吹き込まれたデマを頭でっかちに信じこんでるのか?
 確かにうなじのキスマークは動かしがたい浮気の証拠と言えなくもないがすべては誤解、ホセの悪ふざけの延長なんだと身の潔白を訴えたいが、下手に動けば眼球にピンが刺さる恐怖から、肘であとじさるように仰向けにレイジを仰ぐ。

 「どうかしてるよ、お前。まさか所長の言うこと信じてんのか?俺が他の男に抱かれたって、それでキスマーク付けられたって本気で思ってんのかよ。ふざけんな、俺は男と乳繰り合う趣味なんかねーよ、男が男とヤるのが当たり前の日常になった東京プリズンでもずっと処女守ってきたのはいつか懲役終えて娑婆出て女抱く日心待ちにしてたからだ!!お前とはそりゃその場のノリっつか勢いっつか男の約束で仕方なくヤっちまったけど俺が自分から他の男に抱かれに行くわきゃねえだろが、俺は今でも女が好きなんだよ、一人でヤるときもむらむら妄想してんのはメイファの裸とか好みの女の裸とか開脚とか胸隠しとか……畜生なに言わせんだ、なんで俺が自慰のオカズ公開してまで無実訴えなきゃいけねーんだよ!?」

 やばい、テンパってとんでもねえことまで暴露しちまった。
 レイジの誤解を解きたい一心で恥ずかしい秘密を口走り、羞恥で顔が熱くなる。穴があったら入りてえ。激しい恥辱と後悔に苛まれて唇を噛んだ俺の上を衣擦れの音たて影が移動、レイジが前のめりになる。
 「とにかくあれは、あの痣は誤解なんだ。最初から話すからまず俺の上からどけよ、こんな体勢じゃ落ち着いて話もできね……」
 「うなじにキスマークつくっといて何が誤解だって?いい加減諦めろよ、ロン。聞き分けない子は嫌いになるぜ」
 レイジが唄うように揶揄する。
 「俺がケツにローター突っ込まれて一晩中よがり狂ってた時、房から追い出されたお前は上半身裸でどこほっつき歩いてたんだ?上半身ヌードで一晩中廊下ほっつき歩いてたら最悪凍死の可能性もある、ところがお前はピンピンしてた。ま、ちょっと風邪もらっちまったみたいだけどな」
 俺の風邪なんか病気のうちに入らないと鼻で笑い飛ばし、続ける。
 「やっぱ野良は駄目だな。飼い主がいなけりゃすぐ他の人間に擦り寄る恩知らずだ。白状しちまえよ、ロン。お前、餌くれるなら誰でもいいんだろ?人肌にぬくもった寝床と体をどろどろに溶かす快楽さえくれりゃ相手は誰でもいいんだろが。構ってくれ拾ってくれって甘い声で鳴いてお持ち帰りされたんだろ。首に痣まで作っといて言い逃れはナシだぜ。さて、どうするかな。他の奴に拾われねえように一発でわかる印つけなきゃな。お前の髪の毛一本から足の小指の爪に至るまで全部王様の持ち物だって、キレたら怖い暴君の財産だって身の程知らずな連中に思い知らせてやるには……」
 嫉妬深い暴君がしつこく俺の耳朶をいじり、恐怖を煽る。
 人体の先端でも一際敏感な耳朶を刺激され、危うく声が漏れそうになる。
 下唇を噛んで声を堪えるも、むずがゆい快感に頬が赤らむ。
 華奢な指先に摘まれた安全ピンが冷たい銀色に光る。
 ピンの先端から目を離さず生唾を嚥下、じっとり汗ばんだ手のひらをシーツになすりつける。
 だんだん腹が立ってきた。レイジは頭から俺の浮気を決めてかかってる、自分の知らないところで他の奴に抱かれたと思い込んで弁解のチャンスも与えてくれない。あんまりじゃんか。いつもくどいくらい「愛してる」を言うくせに、俺が好きだとか信じてるとか俺がいなきゃ生きてけないとか安っぽい台詞を連発するくせに肝心な時にこれっぽっちも信用されないなんてとプライドが傷付く。
 失望が怒りに変換され、頭に血が上る。
 レイジが信じられないなら仕方ない、腹を括るっきゃない。
 目を閉じて深呼吸、心の中でゆっくり十数えて平常心を取り戻し、決心を固める。
 「……いいぜ。やれよ」
 レイジが鼻白む気配が伝わってきた。俺は目を閉じたままやけっぱちに続ける。
 「お前が俺のこと信じらねえなら仕方ねえ、煮るなり焼くなり耳に針通すなり好きにしやがれ。どうせ俺が『ごめんなさい、実は他の男にケツ貸しました』って泣き叫んだところで容赦なく針通すんだろ?お生憎さまだな、暴君の思い通りになんかなってやるもんか。俺は誓って他の男にケツ貸したりなんかしてねえ、お前以外の男に抱かれるのなんざごめんだ、反吐がでる。だけどレイジ、どうしてもお前が信用できねえってんなら首に鈴でも耳にピアスでも何でもいいから王様の印をくれよ。俺がお前の物だって印をつけろよ。やきもち焼きの王様はそれで満足なんだろ、俺が目に涙浮かべて痛がる顔見てスカッとしたいんだろ。頼むもうやめてくれ、俺が悪かった許してくれってがくがく腰振って縋り付いてほしいんだろ。ガキっぽい仕返し。精神年齢いくつだよ」
 嘲るように喉を鳴らし、口の端を吊り上げる。
 薄目を開けた視界に無表情のレイジが映る。
 俺の挑発が核心に触れて、笑みを浮かべる余裕すら失った顔。
 「来いよ暴君。悪い猫を調教してくれよ」
 安全ピンなんか怖くない。耳朶にピアス開けるのがなんだってんだ、笑って受け止めてやろうじゃんか。ペア戦決勝戦、サーシャに嬲られるレイジを金網越しに見てるしかなかった呪縛の恐怖と比べたら全然マシだ。
 肘を立て上体を起こし、きっかりとレイジを見据える。
 レイジは俺にのしかかったまま指先の安全ピンの存在も忘れて硬直していたが、やがて完全に俺の上からどく。
 「―座れよ」
 王者の威厳と暴君の威圧を兼ね備えた命令に逆らえるはずない。
 レイジの表情を探りながら慎重に起き上がり、床に足を垂らす。
 俺の隣に腰掛けたレイジが無造作に身を乗り出し、至近に顔を寄せてくる。裸電球の光を透かし、優雅に長い睫毛がきらめく。
 物憂げに煙った隻眼が冷酷な印象を与える。
 西洋の血を感じさせる彫り深く端正な顔だちに、不覚にも見惚れる。
 多分、現時逃避だ。一年と半年見慣れたレイジの容貌を詳細に観察するのは、睫毛一本一本が数えられるほど顔が近付いた緊張をごまかすためだけじゃない。
 指先の安全ピンから目を逸らし、跳ね上がる動悸と呼吸を整えるのに集中する。
 耳朶に針を通される痛みを想像、腋の下にじわりと汗がにじむ。いくら痛みに慣れていても怖いものは怖い、なかなか心の準備ができない。
 「怖いか」
 レイジが悪戯っぽく囁く。性悪な顔。
 「怖くねえ」
 手のひらに滲んだ汗を隠し、きっと睨み返す。
 「無駄口叩いてる暇あんならさっさとやれ。そうやってじりじり長引かせてびびらすつもりか?王様の癖に姑息な手使うなよ、がっかりだぜ」
 「言ってろ。じきに泣いて縋り付いてくるんだから」
 んなワケあるかと反発が込み上げる。
 レイジがにやにや笑いながらそっと俺の耳朶に触れる。
 だが笑ってるのは口元だけで目はちっとも笑ってない。顔の上と下で表情を使い分けるなんて器用な奴だと感心する。
 何か、何か違うこと考えろ。
 何でもいい、何か他のこと、気が紛れることを。ホセ。あいつ殺してやる。あいつの悪ふざけのせいでレイジがキレちまったんだ。
 俺もとことん間抜けだ、うなじにキスマークつけられたのにも気付かず寝過ごしちまったなんて訴えたところでさっぱり説得力ない。
 さすがに気付くだろ、うなじを吸われたら。でも待て、俺はホセに腹を殴られて朝までずっと気を失ってて……まさかホセ、最初からそれが狙いで?俺にキスマークつけるのが目的で腹に一発くれたってのか?
 まさか。だがそう考えれば筋が通る。
 ホセは最初から俺の体を狙って……
 何の為に?
 「!!?っ、あ、ひっ……」 
 耳朶への刺激で思考が散らされる。
 安全ピンの先端が軽く耳朶を突く。
 「やらしい声だすなよ、ちょっと感度確かめただけだろ。それとも……物足りないのか」
 「馬鹿、言え……はや、くしろ」
 怖い。畜生怖い。感情に抑制が利かない。
 ベッドに腰掛けた姿勢でぎゅっと膝を握り締め、無意識に体を固くする。レイジを突き飛ばして逃げ出したい衝動と必死に戦いつつ、来るべき時、鋭い痛みを覚悟して絶対に悲鳴をあげないよう下唇を噛み締める。ともすれば奥歯ががちがち鳴りそうだ。これ以上焦らされたら気が狂ってしまいそうだ。もう一度催促しようとレイジに向き直った瞬間、
 「!?っあ、れっ………!!」
 突然、耳朶を口に含まれた。
 不意打ちだった。熱い唇に耳朶を食まれ、舌で転がされる。
 耳元で唾液を捏ねる音が響く。
 レイジの舌を感じる。俺のいいところ感じるところ、性感帯を全て知り尽くした舌が器用に引っ込められまた突き出され耳朶に唾液を塗りこめる。耳の穴まで舌が潜りこんで来てくすぐったい。
 唾液でべとべとになった耳朶を飽き足らず舐め回すレイジを何とかどかそうとして、体の前に無意味に手を掲げる。
 「ふ、くっ………レイジやめ、耳朶なんか舐めても美味くねえだろっ……」
 「消毒だよ」
 あっけらかんと言うレイジに呆れる。消毒?口実だろそりゃ。
 「鍵屋崎が言ってたぜ、こけた時膝に唾ぬりこむのは砂利とか黴菌洗い流すためで唾自体に殺菌効果はな……ふあっ」
 軽く前歯を立てられ、声が弾む。やばい。これじゃ俺が感じてるみたいじゃんか。男に耳朶舐められて喘ぎ声なんかあげたら変態だ。
 レイジの肩に手をかけ力づくでどかそうとしたが、レイジは俺の耳朶を舌でねぶるのに夢中で一向に引き下がらない。
 背筋をぞくりと悪寒が駆け抜ける。
 熱い唇とそこから覗いた舌が耳朶をなぞる。変な感じ、だ。体の先端がめちゃくちゃ敏感になってる。
 風邪が悪化したらしく、気だるい微熱を感じる。レイジの肩に手をかけ寄りかかり、微熱に赤らむ顔を伏せ、懸命に声を抑える。
 透明な唾液の糸を引いて唇が離れる。
 耳朶の消毒とやらを終えて満足したらしいレイジが、扇情的に上唇を舐め上げる。
 「耳朶舐められただけでイっちまったのか?本番はこれからだってのに」 
 「イってねえ、風邪気味で熱があるんだよ……」
 言い返した声にも張りがない。疲弊した俺を無視し、レイジが安全ピンの留め金を外す。
 冷たい銀色に光る安全ピンが緩慢な動作で迫り来る。鋭利な先端が耳朶に触れ、ひやりとする。
 金属の冷たさ、硬い感触。
 「……………っ!」
 「声我慢できねえなら俺の服掴んでろ」
 レイジが俺の手首を掴み、しっかりと上着の胸を掴ませる。はからずもレイジの胸に縋り付く格好になった俺は、刻々と迫り来る貫通の瞬間に備え、ぎゅっと目を閉じる。耳朶の感触を確かめるように二・三度軽く突いてから、レイジがうっとり呟く。
 「美味そうな耳。食いちぎりたい」
 おそるおそる薄目を開ける。
 レイジが自分の耳朶に手をやり指を触れ、難なくピアスを外す。ピアスを外す瞬間少し顔を顰め、色っぽく眉を寄せる。レイジの手のひらに乗ったピアスを一瞥、これが俺の耳に栓をするモノだと理解する。
 サイズはそれ程大きくない、シンプルな銀のピアス。
 「王様の慈悲だ。片方だけで許してやるから右か左か選べ」
 「右」
 殆ど即答していた。右でも左でもどっちでも変わらねえと自棄になっていた。
 レイジが軽く首肯、耳朶にあてがった安全ピンに圧力をかける。
 「!!ひっあ………」
 痛い。唇をきつく噛み締めて苦鳴を濁らす。
 鋭利な針がゆっくりと確実に耳朶の柔肉に沈みこんでいく。
 瞼が涙に濡れる。
 耳朶を刺し貫く鋭い痛みは、俺には刺激が強すぎる。
 レイジの服を掴んだ五指を閉じこみ、忍耐力を振り絞って必死に痛みを堪える。 
 「れいじ、通る、破けるっ……じらすな、はやくっ……」
 「焦らさなきゃ面白くねえだろ。いい子だから我慢しろよ、ロン。ほら、見てみろ。冷たい針がお前の耳朶をゆっくりゆっくり通ってくところ、処女膜が限界まで張り詰めて破けるところを」
 「お前といいタジマといいただピアス開けるだけの行為をどんだけ卑猥にするんだよ!?」
 タジマと並べられたレイジがさも心外そうな顔をする。
 だが、レイジの表情を観察する余裕があったのはそこまでだ。
 それから先は殆ど覚えてない。
 耳朶に浅く埋め込まれた針がさらに容赦なく進み、柔肉を貫通する痛みが電流の刺激に変わる。全身の毛穴が開いて汗が噴出、レイジの胸に埋めた顔が引き攣り、下唇が切れて口の中に鉄錆びた血の味が広がる。早くはやく終わってくれとそれだけを一心に念じて苦痛な時間に耐えるもレイジは俺を焦らすようにいたぶるようにひどく緩慢に針を進める。耳朶に痛覚が通ってるのを今この時ほど恨んだことはない。
 レイジの胸にしがみついた俺はじんわり熱をもった瞼の奥で眼球が潤むのを感じ
 「目え瞑るなよ。こっちからあっちへ針がコンニチワするところをちゃんと見てろ。トンネル開通万歳だ」
 痛い熱い耳が熱い痒い
 レイジの嘲笑をどこか遠くで聞く。
 耳朶が痛痒く疼く。
 息を吸い、止める。レイジはわざとゆっくり針を進める、俺が痛がる顔をたっぷり堪能して支配欲征服欲を満たしてやがる。
 目の端で捉えた優越感に酔った笑顔が癪に障る。
 俺はレイジがこんなに残酷になれることに驚いていた、レイジが他ならぬ俺自身に対してこんな暴虐に及ぶなんてとショックを受けていた。
 「あ、あ、あああっああ、ひぐっあ……!!」
 「もうすぐ全部通る。一本に繋がる。お前の処女膜が破ける」
 ぷつん、と皮が弾ける音がした。耳朶の裏側に薄皮のテントが張り、それが破けて針が突出、完全に耳朶を刺し貫く。
 瞬間、全身が脱力してレイジにしなだれかかる。耳朶に穴が開いた。なんだかすうすうする……変な感じだ。耳朶はまだじんわり痺れて鈍い疼痛を訴えている。じくじく疼く耳朶をレイジが掴み、慣れた手つきでピアスを嵌める。
 俺の耳朶に銀のピアスが留められる。
 「お利口さん。処女喪失おめでとう」
 「!このっ、」
 ふざけた口調でまぜっかえすレイジに怒りが沸騰、激情に駆られて拳を振り上げる。
 その瞬間。
 レイジが俺の腕を掴みぐいと引く。
 突然腕を引かれてレイジの胸に倒れこんだ俺の唇が強引にこじ開けられて舌が潜り込む。抵抗しようとした。口腔に侵入した舌を噛もうとしたがレイジの方がうわてだった。
 たちどころに舌を絡め取られて頬の内側の粘膜を探られ貪られる、唾液が喉に逆流して息苦しさに噎せ返る。
 突然の展開に頭が真っ白になる。
 「んっ、ふ、ぐ……」
 四肢がぐったり弛緩する。
 プライドも意地も何もかも全部投げ捨てレイジに身を委ねたい誘惑に駆られる。レイジは俺の肘を掴んだまま決して手を緩めず放さない、熱い舌が俺の口腔を貪欲にまさぐって歯列の裏側をなぞって未知の性感帯を刺激してー……
 「!!?」
 口移しで何かを飲まされた。
 レイジの口から俺の口へ、舌を介して送り込まれた異物を反射的に吐き出そうとしたができなかった。レイジが俺の口をしっかり塞いで嚥下を強要したからだ。
 レイジに口を塞がれ窒息しかけ真っ白な頭で必死に暴れる、激しく首を振り手足を振り乱して抵抗するもレイジは許してくれない。
 酸素を欲して暴れる俺の口を塞いだまま器用に舌を使って何かの錠剤と思しき異物を喉の奥へと送り込みー
 喉仏が動く。
 一本の管となった喉を、謎の錠剤が滑り落ちる。
 「かはっ、ごほっ」
 目的を達し、漸く唇が離れる。激しく咳き込み肺一杯に酸素を取り入れる俺を見下ろし、レイジが謎めいた笑みを浮かべる。
 裸電球を背に不気味な陰影に隈取られた笑顔には、暗黒が渦巻いている。
 「レイジおま、どういうつもりだ!?今何飲ませたんだよ!!」
 脳裏でけたたましい警鐘が鳴り響く。今更吐き出そうにもムリだ、正体不明の錠剤は喉を滑り落ちて胃袋に吸収されちまった。
 片手で喉を支えてレイジを見上げた俺は、ぞくりとする。
 「頑張ったご褒美。風邪薬だよ。お前熱あるんだろ?それ飲んで大人しくしてろ」
 「マジ、なのか」
 疑い深い目でレイジの表情を探り見る。
 不安定に揺れる裸電球の翳りが真意を読めなくする。俺は立ち上がろうとして、体に力が入らずそのままベッドに倒れこむ。
 体が変だ。おかしい。ぞくぞくと悪寒が駆け抜ける。寒いのか熱いのかよくわからず頭が朦朧とする。
 皮膚の上を毛虫が這ってるようなむずがゆさが体の異変を物語る。
 「ただの風邪薬ならなんであんなまぎらわしい飲ませ方すんだよ、あんな無理矢理……お前何隠してるんだ、俺に何飲ませたんだよ、事と次第によっちゃただじゃ!」
 「逃がさねーから」
 ぎしりとベッドが軋む。レイジがベッドに片膝乗せて俺にのしかかる。
 天井で裸電球が揺れる。催眠術をかける振り子のように。
 「めでたいなお前。これで、この程度でおしおきが済むとマジで思ってたのか?耳朶にピアス開けた程度で?ははっ、まさかな!いくらなんでもそんなにおめでたくねえよな。ロン、お前もいい加減わかったろ。俺の名前はレイジ、英語の憎しみ。キレたら怖い王様、嫉妬深い暴君。そんな俺がお前の耳に針通したくらいで許し与えるわけねえだろ。もっともっとこらしめてやんなきゃ」
 レイジが俺の前髪をかきあげ、額にキスをする。
 唇の温度が額に伝わる。俺は仰向けに倒れたまま、上に覆いかぶさるレイジとその背後の天井を見つめる。 
 配管むきだしの殺風景な天井を背に俺に覆い被さったレイジが、俺の動揺を面白がるようにすっと目を細める。
 恐ろしく邪悪な表情。
 嫉妬に狂える暴君が、甘い蜜を含んだこの上なく優しい声音で言い聞かせる。
 「知ってるか、ロン。風邪薬の成分の何十分の一かは媚薬なんだぜ」
 それ自体媚薬のような声が滴り落ちた瞬間、俺はひきずりこまれるように眠りに落ちた。

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050525003131 | 編集
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