ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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五話

 「いつまで僕の房に居座る気だヨンイル。即刻退去しろ」
 僕は不機嫌だ。
 理由は単純明快、眼前にある。堂々房の床に胡坐をかいて漫画を読み耽る図々しい道化こそが頭痛の種。
 「またまたあ直ちゃん、ひとりは寂しいくせに意地張って。ホンマはオレにいてほしい思うとるやろ」
 「思ってない」
 「相棒と別れたばっかでひとりは心細いくせにつれへんこと言いな、俺と仲良く手塚話でもして憂さ晴らそうや」
 「僕の生活空間を侵害するな。貴様が視界に入ると不快指数が上昇する。大体西棟の人間が東棟に居座るな、不法入棟者め。強制送還されても文句は言えないぞ」
 「強制送還できるものならしてみろっちゅーねん。手塚仲間のピンチに駆け付けへんかったら図書室のヌシの名が廃る」
 堂々巡りの問答に徒労感が募る。
 不毛な議論に嫌気がさしてため息を吐き、本から顔を上げる。強制労働終了後、夕食開始までの自由時間を図書室から借りた本を読んで過ごす僕の足元でヨンイルが読み耽っているのは低俗な漫画。二十世紀に流行った漫画をこよなく愛するヨンイルの現在のお気に入りはドラゴンボールらしく、床一面に足の踏み場もなく単行本が散乱している。
 貴重な読書時間をヨンイルに邪魔された僕は、努めて彼の存在を意識せぬよう本に目を落とすが内容がちっとも頭に入ってこない。
 本に集中できないなんて前代未聞の異常事態だ。
 対岸のベッドがやけに遠く感じられる。
 壁際までの距離は変わってないのに、几帳面に整えられたベッドがやけに遠く感じられる。僕の留守中にサムライが帰った痕跡はない。
 サムライが出て行ったときのまま整えられたベッドが視界に入るたび情緒不安定になる。
 サムライと別れてから三日が経過。
 あれからサムライとは会ってない。食堂で姿を見かけることはあったが、常に静流がそばにいた。僕の接近を阻む閉塞的な雰囲気の二人を見かけても、話しかけることはできなかった。
 僕はサムライに気付かぬふりをした。サムライもまた僕に気付かぬふりをした。三日前サムライに突然別れを切り出されて以来、僕は強制労働を終えてサムライ不在の房に寝に帰る単調な日々を過ごしている。
 サムライがいないことを除けば以前と何ら変わりない生活。僕の身近に漂っていたサムライの残滓、大気中にほのかに漂う墨の匂いも三日経ちだいぶ薄れてしまった。
 日々サムライの残滓が消えていくのを実感する。
 サムライと距離が開くのを痛感する。三日前、サムライは突然僕に別れを切り出して静流と行ってしまった。現在は静流の房に身を寄せてるらしいが詳細はわからない、知りたくもない。一体何故こんなことになってしまったのか……僕が静流の嘘を真に受けたのが原因か、サムライに蟠りを残していたのが原因か?

 『貢くんが苗さんを犯したと聞いても彼の友人でいられるのかい』
 サムライが苗を犯したと静流は言った。
 真実か否かわからない、判断材料がない。
 否定も肯定もできない言葉。僕は結局、サムライを信じ切れなかった。苗の自殺の原因はサムライだと静流に吹き込まれて不信感が芽生えてしまった。
 内面の変化が態度に表れてサムライを追い詰めたのかもしれない、サムライは僕の本心を見抜いていたのかもしれない。
 だから僕たちは。
 『俺があの房にいる限りお前は帰ってこない。ならば俺が出る。房は好きに使って構わない』
 僕たちは。
 『俺がそばにいるとお前は辛くなる。俺たちはもう共にいるべきではない、互いを傷付けるだけの関係は不毛すぎる』
 最悪の選択は、最悪の結果に繋がる。 
 『レイジ、ロン、ヨンイル。お前には良き友がいる。これからは奴らを頼れ。必ずやお前の力になってくれるはずだ』
 何故僕はサムライを呼び止められなかった、早々と諦めてしまった?

 今更後悔しても遅い。僕はサムライを追うべきだった、僕が苗の代用品でないのと同じく君の代用品もないのだと告げるべきだったのだ。
 レイジがいてもロンがいてもヨンイルがいても、他の誰がいても肝心の君がいなければ意味がないと伝えるべきだったのだ。
 別れ際の寂しげな目が脳裏によみがえる。帯刀貢がサムライに戻った瞬間。僕はもっと足掻くべきだった、足掻き続けるべきだった。大事なものを完全に喪失する前に必死に抵抗すべきだったのだ。
 僕らの関係には終止符が打たれた。サムライへの恋愛感情ともいえぬ淡い想いを自覚するまもなく、僕とサムライの絆は断たれてしまった。もう手遅れだ。僕らの関係は終わってしまった。サムライは房を出た、僕に別れを告げて静流を選んだ。
 それが彼の選択なら真摯に受け容れるべきだ。
 サムライは静流を選んだ。
 その事実を重く受け止め、上の空でページをめくる。
 「……同情は不愉快だ。ヨンイル、僕は孤独に耐性がある。サムライが房から消えたことにも何らショックは受けていない、房の使用面積が増して喜んでるくらいだ。生活空間が拡張できてよかった。サムライがいないベッドは本の置き場所にする」
 「そんな幽霊みたいなカオしてなに言うてんのん」 
 ヨンイルが脱力する。幽霊みたいな顔?心外だ。
 ベッドに座った位置から振り返り、鏡に顔を映してみる。確かに顔色が悪いが、これは慢性的な疲労と不眠が原因でとくに体調が悪化したわけでもない。
 東京プリズンに来てからこっち僕の顔色が良くなった試しなどない。
 「心配せずとも僕の顔色は慢性的に悪い。気が済んだら西に帰れ、このままずっと居候し続ける気か?三日前は君が指揮した捜索隊に保護されたおかげで風邪をひかずにすんだが、理性を取り戻した今はあんな馬鹿な真似はしない。夢遊病者めいた足取りで廊下にさまよいだして行き倒れる可能性などない、絶対に。僕が半覚醒の状態で徘徊せぬよう、ベッドから起き上がったら枕元の本が落ちて正気にもどる仕掛けなのだ」
 「いや、そんな自信満々に目覚ましの仕掛け解説されても……やっぱズレとるで、直ちゃん。相当ショックやったんやな、彼氏にフラれたんが」
 ヨンイルがしたり顔で頷く。……不愉快だ。
 荒々しく本を閉じて立ち上がり、大股に歩き、鉄扉を開け放つ。
 「出て行け。これ以上僕を怒らせるなら手段を選ばず排斥する」
 ヨンイルは立ち上がる素振りさえ見せない。憤然と鉄扉を開け放った僕を無視、図々しく胡坐をかいている。
 もはや強硬手段に訴えるしかない。覚悟を決め、ヨンイルの周囲に散乱した漫画本を拾い集める。
 読みかけの漫画を奪い取られたヨンイルが「あ!?」と抗議の声を上げるのを無視、廊下に開放した鉄扉から外へと漫画を投げ捨てる。
 「なにすんねん直ちゃん、漫画への冒涜や!?」
 血相替えたヨンイルが這うように廊下に転げ出た瞬間、鉄扉を閉ざして錠をおろす。
 これでよし。邪魔者は追い払った、読書に集中できる。
 そのままベッドに帰り、膝の上で本を開く。
 鉄扉の向こう側でヨンイルが抗議するが、相手にしない。
 「ひどいあんまりや直ちゃん俺の友情足蹴にしよって、直ちゃんがポイ捨てした鳥山明に謝らんかい!!本を粗末にするなんてオタクの風上にもおけんやっちゃ、見損なったで!」
 「漫画は本のうちに入らない。付け加えるが僕はオタクじゃない、読書家だ」
 それでもまだ諦めきれず、鉄扉の前から立ち去りがたく唸っていたヨンイルだが、根負けして踵を返す。「直ちゃんのアホ、俺が集めたドラゴンボール見せたらんからなっ」などと現実と妄想の区別がつかぬ捨て台詞を吐いたヨンイルに嘆息、読書を再開する。
 ……駄目だ。今度は静かすぎて落ち着かない。
 焦燥感に駆り立てられ、殺風景な房を見渡す。サムライ不在の房にただ一人残されて居心地の悪さを感じる。三日前まではサムライがいた房。べッドに腰掛けて本を読む僕のそばで写経にいそしんでいた。
 般若心経の経典を紐解いて、硯を用意して、黙々と墨を擦って…… 
 写経に励む仏頂面を思い出す。
 声をかけにくい横顔、気難しげに寄った眉間の皺。
 いつのまにか馴染んでいた日常、僕が当たり前に溶け込んだ光景。
 「………」
 一抹の喪失感が胸を吹き抜ける。
 見慣れたものがそこにない、見慣れた人間がそこにいない。たったそれだけのことで何故こんなにも心をかき乱されるのか、不安になるのか……唇を噛み締め、俯く。僕はサムライに未練があるのか、さっきから空っぽのベッドにばかり視線がいってしまうのはそれでか。サムライと僕は終わったはず、終わったはずなのに。
 「サムライなど知らない。勝手にすればいい。好きなように生きて死ねばいい」
 帯刀貢の生き方に関与しない、生き様に関与しない。
 帯刀貢は静流の隣にいるべき人間、静流を庇護すべき人間なのだ。
 僕には関係ない男だ。
 関係ない他人だ。
 「……………」
 人さし指で唇に触れる。サムライの唇が触れた部位をなぞり、感触とぬくもりを反芻する。
 「寂しくなどない。哀しくなどない。僕は最初から一人だった。天才は凡人の理解を拒否する、共感を拒絶する。信頼など要らない。信じて頼る人間など要らない。僕には僕だけでいい、IQ180の頭脳さえあれば他人の助力などなくても生きていける。僕の味方は僕だけだ。他人を信頼しても失望させられるだけだと辛辣な教訓が得られてよかったじゃないか。おめでとう鍵屋崎直、知識量と半比例して人生経験の乏しい僕が僕が他人を信用するなと教訓を得れたのは東京プリズンに来たからだ、ここで人間関係の経験値を積んだからだ。まったくツイてるじゃないか、なんて幸運な人間だ僕は、僕にIQ180の知能という最大の味方をくれた運命に感謝する!!」
 コンクリ壁に絶叫が跳ね返る。
 気付けば僕は哄笑していた、狂ったように笑っていた。
 まったく、なんて間抜けなんだ僕は。
 他人を信頼した挙句に裏切られ、自己憐憫に溺れ、そんな自分を嘲笑うことでさらに傷口をほじくりかえす悪循環。
 自虐の醜態をさらす僕の耳に、一定の間隔でノックが響く。
 「!誰だ」
 反射的に立ち上がり、鋭く誰何する。鉄扉の向こう側に誰かがいる。誰だ?ヨンイルが帰ってきたのかと一瞬疑ったが、礼儀知らずの道化ならそもそもノックなどするはずない。
 「……僕。リョウ。入っていい?」
 リョウ?意外な人物名に戸惑う。何故リョウが僕の房を訪ねる?またよからぬことでも企んでいるのかと疑惑が過ぎるが、好奇心に従い
扉を開ける。錆びた軋り音を上げて開いた扉の向こう側、廊下にリョウが突っ立っていた。
 気まずげに顔を伏せ、上目遣いに僕の表情を探り、おどおどと口を開く。
 「……そんなおっかないカオしないでよ。いじめにきたわけじゃないんだから」
 「信用できない」
 鼻先で扉を閉ざそうかと思ったが、久しぶりに顔を見たリョウが意気消沈してたために逡巡する。しばらく見ない間に少し痩せたらしく、不健康に憔悴した面持ちに痛々しい笑みを貼り付かせている。
 「話したいことがあるんだ。いい?入って」
 本音を言えば即刻追い返したかったが、弱り果てたリョウを突き放すのに罪悪感を覚えしぶしぶ迎え入れる。僕にもロンのお人よしがうつったらしい。肝心の本人は食堂の乱闘騒ぎがもとで独居房に送られたまま、三日経っても出される気配がないが。
 バタンと鉄扉が閉じる。危なっかしい足取りで房に入ったリョウが僕の許可も仰がずベッドに腰掛ける。図々しい。不快感も露にメガネのブリッジを押し上げた僕を、濡れた上目遣いで見つめるリョウ。
 「何だ、話したいこととは」
 「こないだの乱闘の件。メガネくんも知ってるっしょ?ロンのとばっちり食らってビバリーまで独居房に入ってるの」
 「それが何か」
 「メガネくんロンの友達っしょ。なら責任とってビバリーを独居房から出す方法考えてよ、元はといえばロンを助けるために無関係のビバリーが独居房入ったんだから」
 「自己責任という言葉を知ってるか?知らなければ辞書を引いてみたまえ。ロンを庇ったのはビバリーがそうしたかったからだ。彼自身の判断が招いた結果に僕は一切関与しない、不名誉な言いがかりはやめてくれ」
 「……ちょっと冷たいんじゃないの、それ。メガネくんだって心配じゃないのロンのこと、友達なんでしょ。もう三日も独居房にいれられっぱなしなんだよ、まともな人間ならそろそろ頭イカレてる頃だよ。ロンが今どうしてるか心配じゃないの、助けに行きたくないの。助けに行きたいよね、なら考えてよ、ビバリーとついでにロンを独居房から逃がす方法をさ!いつもIQ180のオツムを自慢してるくせにできないなんて言わせないよ、メガネくんならできるはずだよ、看守に目ぇつけられずに二人を逃がすことだって不可能じゃないって!!」
 興奮したリョウが僕の胸ぐらに掴みかかる。
 リョウは必死だった、一杯に見開いた目には涙がたまっていた。
 怒りに頬を赤らめたリョウが震える手で僕に縋り付く。ビバリーのピンチに何も出来ない無力感に苛まれ嗚咽を堪えるリョウを見つめるうちに唇が歪み、皮肉な笑みが顔に浮かぶのを自覚する。
 「―なら、こうすればいい」    
 痩せ細った手首を掴み、シャツから引き剥がす。有益な助言が得られると錯覚し、リョウの顔が希望に輝く。
 折れそうに細い手首を掴み、リョウを強引に引き寄せる。
 リョウが顰めた顔に眼鏡の奥から冷たい眼差しを注ぎ、耳朶で囁く。
 「リョウ、今度は君が事件の主犯になれ。そうだな、こんなのはどうだ。君のポケットに入ってる注射器で通りすがりの囚人に毒物を注入するんだ。毒物を注入された囚人は死屍累々と廊下に倒れて東棟は惨状を極める、騒ぎを聞きつけた看守が君を逮捕、のち独居房に移送する。独居房の個数には限りがある、君が放り込まれるのと入れ違いに出される囚人がいる。ビバリーが心配なら君が救え、ビバリーの身代わりに独居房に入るんだ。これで問題解決だ」
 「!そん、な」
 リョウの顔が絶望に凍り付くのを嗜虐の愉悦に酔いながら眺め、口の端を吊り上げる。
 「どうした、できないのか。大事な友達のためならそれ位できるはずだろう。ビバリーは高尚な人格者だ、無関係のロンを捨て身で庇って独居房に送られた。それならばビバリーの友人が身代わりになるのも不可能じゃないはず。何を怯えているリョウ、僕に助けを乞うたのは君だろう?君はまさか自己犠牲の覚悟もなく友人を助け出そうとしたんじゃあるまいな、そんな都合よい解決策があると本気で期待してたのか、視野狭窄の愚か者め」
 残酷な衝動に歯止めがきかない。
 もうやめろと理性が叫ぶ、もっとやれと本能がけしかける。
 自分でもわかっている、これはただの八つ当たり、サムライの不在から来る怒りや哀しみをたまたま現われたリョウにぶつけて憂さを晴らしているだけだ。
 最低だ、僕は。ビバリーを助けたい一心で僕を頼ってきたリョウを抉りこむように攻撃する、辛辣な毒舌を吐いて徹底的に貶める僕こそ真に唾棄すべき卑劣な人間だ。
 わかっているが止まらない、攻撃衝動を抑制できない。
 リョウの傷付く顔で救われたい、サムライとの別れがもたらした喪失感を埋めたい。
 「そんな、のできない。他の手はないの?僕もビバリーも独居房に入らずにすむ方法考えてよ、きみ天才なんでしょ、なら皆が幸せになる方法考えてよ、誰も不幸にならずにすむ方法教えてよ!!」
 「友人の自己犠牲なくしてビバリーは救われない。ビバリーを救いたいなら君が事件を起こせばいい、ロンの乱闘騒ぎなど比較にならない騒ぎを起こして被害を広げれば囚人が独居房に移送され元いた古い囚人が放免される。単純な計算だ」
 痣になるほど手首を掴み、力任せにベッドに押し倒す。
 されるがままに仰向けに倒れたリョウの上に覆いかぶさり、至近距離で顔を覗きこむ。
 放心状態、空白の表情をさらすリョウに額を被せ、非情な宣告を突きつける。
 「友人を見捨てて生き残るか友人を助けて独居房に入るか。二者択一で選べ、リョウ」
 リョウの顔が悲痛に歪む。シャツの下、肋骨の浮いた薄い胸板が呼吸に合わせて上下する。
 リョウと体を重ね鼓動を感じ、自己嫌悪に襲われる。
 軽い体を突き放し、興味が失せたようにリョウに背中を向け、リョウの吐息で曇った眼鏡のレンズを上着の裾で拭う。
 「……最も、君のように利己的な人間が後者を選ぶとは思えないがな」
 痣になった手首を見下ろしリョウが黙り込む。重苦しい沈黙。
 唐突に跳ね起きたリョウが無言で僕の隣を駆け抜ける。
 鉄扉を開け放ち廊下を走り去る靴音をよそに、たった今リョウの手首が抜けた五指を見下ろす。
 虚空を掴むように五指を閉ざし、苦く吐き捨てる。
 「………最低だな、僕は」
 多分、その時に発見したのだ。
 サムライがいないだけで僕はとんでもなく残酷な人間になれると。
 自分でも驚くほどに。

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