ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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二十七話

 今見たものが信じられず呆然と立ち尽くす。
 電池が切れた蛍光灯の下、コンクリ剥き出しの殺風景な通路に立ち尽くし、排他的に閉ざされた鉄扉を見つめる。
 あれは、シズルの房。
 最前僕が見たものは現実だろうか、目を開けたまま夢でも見てたんじゃないかという疑惑が脳の奥で膨らんで足元がぐらつく。
 鉄扉の前で待ち伏せしていた看守に無防備に歩み寄るシズル。緩慢に縮まる距離、二人を結びつける親密な空気。シズルは親愛の笑顔を見せ看守に歩み寄り頬に触れた。シズルは看守の頬を両手で挟み優しく自分の方へと誘った。
 看守の腕の中でシズルの体が妖しくくねり、蠢き、のたうつ。
 口紅なんて塗ってないのに赤い唇とは対照的に、奔放に仰け反る首の白さ。華奢な腕を看守の背中に回しきつく抱きしめ、股間に柳腰を摺り寄せ、享楽の笑みをちらつかせる。
 正常な人間が浮かべちゃいけない類の笑み。
 前戯とはいえない荒荒しさと激しさでシズルの体を貪りながら、看守は意味不明なうわ言を呟く。
 衣擦れにかき消えそうにかすかな声で、「す、すべすべだあ。女みてえだ」と呻き、鉄扉に押し付けたシズルにのしかかるように前傾姿勢をとる。長い舌がシズルの首筋に唾液の筋を付けて鎖骨の起伏をなぞる。
 シズルは例のくすくす笑いを漏らしながら貪欲な愛撫を受けていた。
 切れ長の双眸に悪戯っぽい光を宿し、唇を綻ばせ、淫蕩な妖婦さながらに自分に溺れゆく男を憐れんでいた。
 無垢な少女めいて清純な美少年が自ら進んで男に身を委ねて快楽に溺れている。筋骨隆々とした逞しい腕に抱擁され全身を愛撫されシズルは笑みを絶やさず虚空を見ていた。
 虚無に通じる空洞の瞳。
 物憂げな影を作る睫毛の下、艶々と濡れ輝く漆黒の瞳。
 後ろ手にノブを捻り、看守を伴い矩形の暗闇に呑まれたシズルの残影が目に焼き付いて離れない。大気中にはまだシズルの笑いの余韻と赤裸々な前戯が醸した放熱の残滓が漂って、僕はふらふらと鉄扉に吸い寄せられた。
 シズルのことはよく知らない。東京プリズンに来たばかりの新入りで、サムライのイトコだってくらいしか情報は掴んでないが、あんな綺麗な顔して看守を体でたらしこんでるなんて……
 それに、シズルと一緒にいた看守。
 あれ、僕のお客さんじゃないか。ちょっと前まで僕をよく買いにきてた腐れ看守の柿沼さんだ。ふうん、シズルに乗り換えたってわけ?気に入らないね。涼しい顔して人の客横取りなんていい根性してるんじゃんとシズルに対する怒りと反感がむくむくもたげてきて、知らず知らずのうちに歩幅が大股になり、鉄扉が急接近。
 そんなにシズルがいいわけ?僕だってテクには自信がある。六歳で男知ってから必死に経験積んで今じゃ一端の娼夫になったってのに、昨日今日きたばっかの素人に負けるかと対抗心に火がつき、それならこの目で確かめてやろうじゃんと決意。そうっと爪先立ち、息を殺して格子窓を覗きこむ。
 等間隔に並んだ鉄格子の奥には不気味な闇が淀んでいた。
 耳の奥に鼓動を感じながら暗闇に目を凝らし、シズルを捜す。いた。房の壁際のパイプベッドにシズルがいる。仰向けに寝転がったシズルの上に覆い被さり、性急な動作でシャツをはだけているのは……例の看守。柿沼。
 「柿沼さんには感謝しているんだ。本当に」
 柿沼の手に熱を煽られ、頬をうっすら上気させたシズルが謙虚に礼を述べる。柿沼の後頭部に手を回し、脂で固まった髪の感触を愛でるように指を絡める。
 「僕が貢くんと同じ部署になれたのは柿沼さんが裏で手を回してくれたおかげ。本当に感謝してるよ。入所時の身体検査の担当が柿沼さんでよかった。東京プリズンに来ていちばん初めに出会った看守が柿沼さんじゃなければ、今頃どうなっていたことか……」
 心細げに目を伏せ、絶妙の呼吸で言葉を切り、間をもたせる。
 男心をくすぐる秀逸な演技。男をその気にさせることにかけちゃ天才的だと感心すると同時に、邪悪で狡猾な本性を目の当たりにした戦慄を禁じえない。気付けば指先が震えていた。
 脳裏で警鐘が鳴り響く。シズルは危険だと本能が疼く。
 嗅ぎ取ったのは同類の匂い。でも、シズルのが断然タチ悪い。
 完璧に計算し尽くされた媚と演技で男を誑かして思い通りに動かす、天性の魔性の才能。
 「お前の頼みならなんだってしてやるさ。あの時、お前と目が合った時に電流が走ったんだよ。お前の目に射ぬかれて微笑みに魅入られて色香に狂わされたんだ、俺は。なあシズル、お前は俺の物だ。お前の為なら所長だって殺してやる、安田だって殺してやる。だから」
 「わかってる」
 シズルが寛容に両手を広げ柿沼を迎え入れる。柿沼がシズルの上着を脱がそうと悪戦苦闘する。胸板までたくし上げられた上着が首につかえ、頭が抜けるのに少し時間がかかった。 
 「僕は逃げない。僕は柿沼さんの物」
 唄うようにシズルが言う。囚人服の上着とシャツとズボンが無造作に床に投げ捨てられ、その上に重なるように紺のズボンが落ちる。トランクス一丁になった柿沼が一糸纏わぬ上半身をさらけだしたシズルに襲いかかる。
 上着を奪われてあられもない姿にされたシズルは、羞恥と喜悦とが半ばする恍惚の表情で快楽に溺れていた。放埓な肢体が闇に踊る。赤裸な衣擦れの音が耳朶をくすぐる。
 『三千世界の鴉を殺し ぬしと朝寝がしてみたい』
 清澄な歌声が暗闇に流れる。シズルの、声。その声に促されるように柿沼の動きが速まり、律動が激しくなる。華奢な膝を掴んで広げ、シズルのズボンを脱がして自分の分身を押し入れる。ぐちゃり、ぐちゃりと淫猥な水音が響く。
 「っ、はあ……ふっ………あ、ああっあ」
 仰向けにひっくり返った姿勢で手荒く揺すられながら、切なく喘ぐ。しっとり汗ばんだ前髪がざんばらに乱れて額にかかり、精を注がれる快感に濁り始めた目を隠す。柿沼の背中に爪を立て、容赦なく理性を追い立てる快楽の洪水に浮きつ沈みつしながら、シズルが目を閉じる。
 「お前には特別に配慮してやった。他の囚人と暮らすのは嫌だと言えば、ひとりで使える房を与えてやった。俺と逢引するにはそっちのが都合がいいからって説得されて、上に無理言って融通してやったんだ」
 恩着せがましく言いながらさらに奥深く突き入れ一方的に責め立てる。ぐちゃり、ぐちゃり。挿入に伴い響く水音が行為の卑猥さを引き立てる。
 「あっ、あっ、あああああっあああっふああっ……あっ、すごい、柿沼さん……こんなの初めて…っ!」
 シズルの顔に紛れもない歓喜の表情が浮かぶ。柿沼の分身を進んで迎え入れようと腰を振るたび、しっとり汗ばんだ額に濡れた前髪が散らばる。喘ぎ声が次第に甲高くなる。柿沼に抱き付いたシズルが口の端から一筋涎を垂らし前髪を散らし、理性をなげうち快楽に溺れきった恍惚の表情で、へし折れんばかりに背骨撓らせ絶叫。
 シズルが、達した。同時に柿沼も射精した。肛門から溢れた白濁の残滓が下肢を伝い落ちるさまが僕の位置から辛うじて見てとれた。浅く肩を上下させ呼吸を整えつつ、柿沼の肩に凭れかかる。
 薄ぼんやりと虚空をさまよう放心した目、怠惰に弛緩しきった表情、閉ざすのを忘れた唇……
 「………っ、」
 体に異変が起きる。勃起。シズルと柿沼の絡みを見て分身が勝手に興奮しちゃったらしい。だって、こんな……こんなの見せられたら、だれだってこうなっちゃう。
 シズルの姿態に欲情したのが悔しくて、下唇を噛んで俯いた僕をよそに、衣擦れの音が再開。
 「!」
 息を呑み、格子窓の向こうに再び目を凝らす。暗闇に沈んだ房の片隅のベッドで柿沼が何かごそごそやってる。何?マットレスの下から柿沼が引っ張り出したのは……女性用の、着物。真紅の襦袢と、それに付随する白絹の帯。
 「なに、あれ。なんでシズルのベッドにあんな、綺麗な着物が……」 
 胸騒ぎがする。ここから先は見ちゃいけない、第三者が踏み入っちゃいけない領域だと良識が退去勧告を発する。でも、足が竦んで動かない。動けない。怖い物見たさの好奇心には抗えない。鉄扉の前に立ち竦んだ僕の視線の先、暗闇に沈んだベッド上で柿沼が思いがけぬ行動をとる。
 シズルに顎をしゃくり全裸で正座させ、剥き出しの肩にそっと着物をかける。炎で染め抜いたような真紅の襦袢で剥き出しの肩を覆い隠してから、緩く衿をかけ合わせる。薄地の着物が奏でるしゃらしゃらと雅やかな衣擦れの音。
 全裸のシズルに襦袢を羽織らせ帯をとり、結わえる。 
 出来あがったのは、見目麗しい和装の少女。
 遊女の科を作り、真紅の襦袢をしどけなく着崩して白い帯を結わえた少女。
 慣れた様子で襦袢を羽織りたおやかな少女へと変身したシズルが、柿沼の膝に手をかけ、囁く。
 「いつものようにして」
 シズルの目が嗜虐的に細まる。柿沼がごくりと生唾を飲み再び動き出す。床に手を伸ばし、看守服を拾い上げ、胸ポケットから何かを取り出す。
 黒い光沢の柄の筆と、口紅。柄が細い特殊な筆は、女性の唇をなぞり、口紅をはみ出ず塗るための化粧道具。
 「目を閉じろ」
 柿沼が低く命令する。気のせいか声が震えていた。
 柿沼に促されるがまま、顎はやや上向き加減に、余裕の笑みさえ浮かべて瞼を閉じる。
 口紅に筆をひたし、そろそろとシズルに近付く。上唇の先端に筆先が触れる。上唇のほぼ真ん中に置かれた筆が慎重に動きだす。
 唇の膨らみに沿って筆が動き、丁寧に紅を刷く。
 暗闇に沈んで色彩が区別できないにも関わらず、僕にはそれが、似合う人を選ぶ深紅だとわかった。
 「よく似合うぞ、シズル。綺麗だ」
 唇の膨らみをなぞりながら、熱に浮かされたように囁く。
 「姉さんに似てるかな」
 瞼を下ろしたシズルの顔に寂しげな影が過ぎる。が、それはすぐ微笑に呑まれて消え去り、気丈な様子で続ける。
 「柿沼さんには本当に感謝しているんだ。東京プリズンに柿沼さんがいてくれてよかった。もし身体検査の段階で柿沼さんに当たらなきゃ、姉さんの形見の扇子は容赦なく取り上げられてた。僕は身を守る術を何ひとつ持たず地獄に乗り込まなきゃいけなかった」
 沈痛に目を伏せる。長い睫毛が震える。
 「姉さんの残り香がする扇子を取り上げられるなんて、僕には耐え切れないよ」
 シズルにお姉さんいたんだ。でも、形見って?死んじゃったワケ?
 当惑した僕をよそに、シズルが虚空に腕をさしのべ柿沼を招き寄せる。たっぷりとした袖が揺れ、炎が燃え広がるごとく柿沼の背中を包み込む。
 紅のひと塗りで遊女に変貌した女装の少年が、しゃらしゃらと衣擦れの音も淫靡に、愛情に見せかけて男を抱擁する。
 頭がくらくらした。僕が今見てる光景はとても現実の物と思えない。あまりに時代錯誤で浮世離れした光景……
 もう辛抱できないと着物の衿をはだけて柿沼の手がすべりこみ、処女雪の白さの胸板が暴かれる。
 仄赤い痣、指で圧された手形。密やかに積み重ねた行為の痕跡が大胆に暴かれて―……
 
 その瞬間。
 シズルと、目が合った。

 柿沼の肩越しに僕の視線を絡めとり微笑を深める。いつから気付いてたんだろう、僕がここにいることに。
 やばい。逃げなきゃ。このままここにいたらやばい。
 全身の毛穴が開いて汗が噴き出す。シズルが柿沼の耳元に顔を寄せ何かを囁く。多分、僕の存在を教えているのだ。妖艶な流し目でこっちを一瞥、柿沼の耳朶に吐息を吹きかけて促すシズル。唐突に柿沼が振り向き、鉄格子の向こうに立ち竦む僕を発見するなり憤怒の形相に豹変。
 「この野郎っ!!!!!!」
 「あ、あう、あっ」
 激怒した柿沼に背を向け、脱兎の如く逃げ出す。
 背後で鉄扉が開け放たれ怒涛の足音が急接近、野太い怒号が鼓膜を叩いて憤激の波動が押し寄せる。やばい、捕まっちゃう、助けてビバリー!囚人と看守のエッチ覗いてるのがバレたんだ、ただで済むはずない。それでなくても柿沼は短気で有名な女装マニアの変態で、ポストタジマを名乗れるくらい悪評付いて回る注意人物なのに。
 「!ひっ、」
 遅かった。僕がのろくさしてるうちに柿沼の手が伸びて後ろ首を掴む。僕の後ろ首摘んで房に引きずり込んだ柿沼が乱暴に鉄扉を閉め、残響で大気が震える。恐怖で歯の根ががちがち震えだす。殴られる?蹴られる?殺される?最悪の想像ばかりが連鎖的に浮かんで絶望が深まる。せめてもうちょっと僕の足が速ければ逃げ切ることができたのにと後悔してもはじまらない。
 ビュッ。風切る唸りが耳朶を掠め、ベッドに放り出される。
 背中からベッドに墜落した衝撃で肺から空気が押し出され激しく咳き込む。
 「この野郎、リョウ、てめえどっから見てたんだ!?俺とシズルが房に入るとこずっとタダ見してたのか、ずっと聞いてたのか!舐めし腐った真似しやがって……上等だ男娼、今見たことよそに漏らさねえように裸にして死ぬほどぶん殴って歯あ全部ひっこ抜いてやらあ!」
 「ご、ごめんなさい、ごめんなさ」
 最後まで言わせてもらえず頬を張り飛ばされた。思い切り。衝撃で口の中が切れて鉄錆びた味が満ちる。腕の一振りで薙ぎ飛ばされた体をベッドパイプが受け止める。また衝撃。ベッドパイプに激突して眩暈に襲われた僕の胸ぐらを掴み、柿沼が警棒を振り上げる。
 「言われた通り口を開けろ、今見たこと口外できねえようお前の歯あ全部砕いてやる!」
 「いや、だ。許してよ柿沼さん、ほんの出来心なんだよ、たまたまそこ通りかかったら声が聞こえてきてそれでつい……ほんとほんとだよ、嘘じゃないよ!ねえお願いだから信じてよ、僕たち長い付き合いじゃん、柿沼さん僕のフェラ上手だっていいこいいこしてくれたじゃん!?僕柿沼さんなら生でいいかなって特別に許可してあげたっしょ、清楚好みの柿沼さんたっての要望で白いワンピース着てあげたっしょ……」
 哀願の嘘泣きじゃなく、本物の涙が込み上げてくる。
 僕よりシズルのほうがいいっての、ただ仰向けに寝転がってイイ、イイって喘ぎ声あげてるだけのド素人のがいいっての?シズルに客を取られた悔しさで涙が止まらない。平手で張り飛ばされた頬は熱を持ち腫れ上がり内側の粘膜は炎症を起こしてる。娼夫のプライドをズタズタにされた悔し涙で頬を濡らす僕へと柿沼が警棒を振り下ろす―
 ああ、殺される。
 「待って」
 救世主は身近にいた。髪を舞い上げる風圧に反射的に目を閉じたが、いつまでたっても予期した衝撃は訪れない。おそるおそる薄目を開ければ、意外な光景が飛び込んでくる。
 シズルが柿沼の手を制してじろじろと僕の顔を眺めている。
 敗者に対する愉悦と弱者に対する憐憫とを複雑に織り込んだ目の色が、ますますもって惨めさをかきたてる。
 慈悲深いと形容してもいい菩薩の顔―
 不意に、シズルを滅茶苦茶にしたい衝動が湧き上がる。
 「見世物じゃねえよ、カマ野郎」
 狂おしく身を捩りシズルの顔に唾を吐く。ぴちゃりと音がしてシズルの頬に唾が跳ね、怒りのあまり咆哮した柿沼が警棒で僕の肩口を殴る。激痛に背中が仰け反る。パイプベッドに寄りかかり、肩を庇って呼吸する僕の上にのしかかる……シズル。帯が半ばほどけて、真紅の襦袢の衿がはだけたあられもない格好で僕に迫りながらシズルが横に手をさしだす。
 「手錠貸して」
 手錠?そんなものどうする気さ。肩を押さえてへたり込んだ僕の眼前、柿沼の手からシズルの手へと手錠が渡される。カチリと金属音が鳴り輪が外れる。僕の手を後ろに回し金属の輪をひっかけ施錠、シズルが満足げに微笑。
 「まずいところを見られちゃったね」
 「い、言わない!絶対ひとに言わないからビバリーのとこに帰してよ!」
 「どうかな。君は口が軽いらしいから……ねえ、情報屋のリョウくん」
 「な、んで知ってるんだよ、新入りのくせに……」
 「柿沼さんに教えてもらったんだ。彼は貴重な情報源だから」
 共犯者の結束を確かめるように柿沼と密やかに笑み交わし、僕へと向き直る。格子窓から射した僅かな光が、深紅が映える口元を仄かに照らしだす。 
 「君のことはよく知ってる。尻軽でおしゃべりで大勢の看守に特別扱いされる男娼のリョウ。僕らのことも話すつもり?噂話で広めるつもり?それはちょっと困るな。まだ目的を達してないんだから」
 「目的って……」
 「東京プリズンに来た目的」
 紅の唇が綻び、磨き抜かれた真珠のように小粒の歯が零れる。シズルが僕の頬に手を伸ばす。首振りで逃れようとしたが、見かけに反して強引なシズルは僕の頬をひたりと包みこむ。
 癖のない黒髪の隙間から、闇より深い漆黒の目が覗く。
 「可哀想だけど、口封じしなきゃ駄目みたいだ」
 不吉な宣告に総毛立ち、手首を擦り合わせて手錠を外そうと必死の抵抗を試みる。金属の輪が擦れて軋んで耳障りな音をたてる。けど、外れない。手首の薄皮が剥けて傷付くだけで手錠自体はびくともしない。くそっ、外れろ、外れろよ!!鎖が許す限界まで引っ張り腕を開こうとするが、ガチガチと鎖が軋るだけで胸に巣食う絶望感が膨らむ。
 発狂寸前の恐慌に駆られた僕の正面、紅の襦袢を羽織った少年が淡々と命じる。
 「知り合いの看守、何人か連れてきて。できるだけ口が固い人を」
 え?
 思わず暴れるのを止め、恐怖に凝り固まった表情で暗闇に溶けたシズルを仰ぐ。柿沼に命じて仲間の看守を呼びに行かせたシズルが鉄扉が閉まるのを音で確認、申し訳なさそうに付け足す。
 「ごめん。でも、仲間に入りたかったんでしょう」
 一転、嗜虐の喜びを目に宿したシズルの手が頬からすべりおち、ズボンの股間に置かれる。下肢が鳥肌が立った。衣擦れの音も淫靡に僕に摺り寄り、股間を揉む。
 「ふっ、あ……ひっ!?」
 頭が破裂しそうだ。必死に身を捩り嫌々と首を振りシズルから逃れようとしても背後はベッドパイプで右側は壁で、左側は何もない虚空だけど得体の知れない暗闇が蟠り足元も見えない。
 怖い。助けてビバリー、助けてママ!!
 懇願むなしくシズルがのしかかる。後ろ手に手錠をかけられた僕はされるがままシズルに押し倒される、ベッドで背中が弾んで天井が遠ざかりシズルの顔が急速に近付き―
 「仲間に入れてあげる」
 熱い吐息が顔にかかる。
 シズルの手が上着の裾からもぐりこみ、器用に乳首を捏ねる。 
 「いっ……たすけ、ママ、ビバリーっ……!」
 「叫んでも無駄だよ。ここは地獄だから」
 抓られ、捏ねられ、弄くられ。
 乳首をしつこく愛撫されてたまらず声をあげれば、喉の奥で沸沸と笑いを泡立て、シズルが独白。
 「そうさ。他の全てを捨てて帯刀貢を追いかけて、地獄の涯てまでやってきたんだ。今さら逃げ帰れるわけがない。逃げ帰る処もない。縋れないよう頼れないよう、一切合財を斬り捨ててきたんだから」
 乱暴に扉が開け放たれ圧倒的な光が射し込む。
 だが、それも一瞬のこと。再び扉が閉まり、狭苦しい房を暗闇が支配する。暗闇の中を足音が殺到。格子窓から射した光に入れ違いに照らされる顔……
柿沼を含めた看守が五人、舌なめずりせんばかりに僕とシズルを見比べる。
 悲鳴をあげようとした。手で口を塞がれた。シズルじゃない、シズルと交替に僕にのしかかった看守の手で……それから。宙を蹴り上げた僕のズボンを下着と一緒に脱がして下半身を裸にして、それから。

 それから。
 「口封じだよ」
 
 地獄を見た。

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050622030826 | 編集
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