ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

最近のトラックバック
ブロとも申請フォーム
二十一話

 サムライに抱かれた。
 『お前が欲しい。直』
 ベッドで背中が跳ね、衝撃で眼鏡がずれる。
 鼻梁にずり落ちた眼鏡越しに周囲を見渡す。
 ここは、僕の房だ。息苦しく狭苦しい四角形の空間は僕が日常寝起きする見慣れた房で、僕が押し倒されたのは日常使用しているパイプベッドだ。
 殺風景なコンクリ壁に四囲を塞がれた房の隅、壁に寄せたパイプベッドの上に寝転んだ僕はサムライの行動に当惑する。
 『なにを考えているんだサムライ、即刻僕の上からどけ!悪ふざけに付き合ってる暇はっ……』
 スプリングが鋸を轢くような軋り音をあげる。
 僕はサムライをはねのけようと必死に暴れた、なりふり構わず腕を振り身を捩り足を蹴り上げ拒絶の意志を訴えた。だがサムライは応じない。再三「どけ」と促しても無視し、僕の腰の上で微動だにせず沈黙を守っている。
 上腕がぞわりと粟立つ。
 サムライは酷く思い詰めた面差しをしていた。一途に切迫した表情には焦燥が滲んでいた。目に苦渋の色を宿して僕の両手首を掴み、一本に纏め上げて固定する。
 『これ以上我慢できない』
 切羽詰った心情を吐露し、上着の裾から手を潜らせる。
 やめろ、と抗議しようとした。が、声が出ない。上着の隙間からひやりとした外気が忍び込んで肌が粟立った。僕よりひとまわり大きく痩せて骨張った手が上着の裾から潜り込み、下腹部をなでさする。
 『やめろ、服から手を抜け……っ、はあ』
 恥辱で頬が上気して声が漏れる。喘ぎなのかうめきなのか、自分でも判別しがたい熱い吐息に紛れた声。
 何故こんなことになったんだ?
 おかしい。こんなの間違っている。サムライは誰より頼りになる僕の友人、自分の身を犠牲にしてまでも献身的に僕に尽くしてくれる僕がこれまでの人生で得たただひとりの友人だった。そのサムライが何故こんな……僕を、強姦しようとしている?僕の意志を無視して、僕の叫びを無視して、僕の上着をはだけて興奮に息を荒げて肌を貪っている?
 乱暴な愛撫に痛みを感じ、顔を顰める。
 痩せた腹筋を揉みしだかれて、薄い胸板をまさぐられる。
 蹂躙される。
 陵辱される。
 赤裸な衣擦れの音にも増して羞恥心を焚きつけるのは、鼻梁にずり落ちた眼鏡越しに僕の目に映る光景。上着の裾を掴み、一気に胸まで捲り上げて僕の上半身を露出させたサムライが下腹部に顔を埋めている。淫猥に唾液を捏ねる音に理性が蒸発、瞼がじんわりと熱を帯びて目尻に涙がにじむ。
 サムライが僕の腹を舐めている。
 飢えた犬のように腹に顔を埋めて塩辛い汗を舐めている。
 何故こんな卑猥な行為を?
 恥辱で頭が沸騰、手も足も出ない己の不甲斐なさを眼前のサムライに転じて激烈な憎悪を抱く。房の隅に位置するパイプベッド、両手首を頭上で拘束された仰向けの寝姿でサムライを仰いだ僕は、性行為の強制に対する強い嫌悪感を剥き出して弾劾する。
 『き、みは、僕の友人だろう!?友人の癖に、僕に欲情するのか!!』
 サムライの目に悲痛な色が過ぎる。
 だがそれはすぐに能面めいた無表情にかき消されて、前よりもっと激しさを増した愛撫が再開される。
 赤い舌が唾液の筋をひき、下腹から胸へと緩慢に這いのぼる。
 奥歯を噛みしばり抗うも、生温かい舌が性感帯を刺激して、不規則に体が跳ねるのをおさえきれない。
 『ふあっ……』 
 口を塞ぎたくても頭上で両手を戒められてるためにそれすらできない。
 頼む、やめてくれ、解放してくれと目を閉じ一心に念じる。プライドをかなぐり捨て懇願する。
 しかしサムライはやめない。友人だろうと重ねて問われても否定も肯定もせず、卑怯な沈黙を守り、脇目もふらず僕の体を貪っている。
 甦るのは売春班の記憶、タジマの策略で売春班に落とされてから来る日も来る日も男たちに犯されたおぞましい記憶。
 極限の苦痛を舐めた一週間を何とか生き延びたというのに他でもない、僕を売春班から救出した男が現在進行形で僕を犯そうとしている。僕を抱きに来た数多の客と同じように、僕の両手を戒めて乱暴に扱って自分の物にしようとしている。これは何の冗談だ?否、冗談であってほしい。僕が持ち得たかけがえのない友人が、僕の信頼を裏切ってこんな……こんな卑猥なことをしてるなんて。僕の上着をはだけて下腹部をまさぐって鎖骨を唇で辿ってるなんて嘘だと思いたい。嘘であってほしい。

 サムライが僕に欲情してるなんて、嘘だ。
 あってはならないことだ。

 『ぼ、くは、君の性欲処理の道具にされたくない!性欲を処理したくば自慰でもなんでも勝手にやればいいだろう、僕を巻き込むんじゃない!せっかく売春班から抜け出せたのに男に犯されるのは懲り懲りだ、それが君ならなおさらだ!何故だサムライ答えろ、僕にわかるように説明しろ、僕たちは友人じゃなかったのか!?君には苗がいるだろう、恋人がいるだろう、なのにこんな……』
 苗を裏切る気か?
 僕を裏切っただけでは飽き足らず、苗まで裏切る気か?
 サムライが獣じみた振るまいに走った理由がわからないまま、やるせない怒りを込めて罵倒する。
 苗の名前をだせば、サムライの顔が苦渋に歪み、一瞬手が止まる。
 古傷を抉られて躊躇した隙に勢い良くシーツを蹴り上げて腰から振り落とそうとするが駄目だった、サムライは僕の考えなどすべて見通していた。
 『っ、あ!?』
 乳首を噛まれた。
 痛い……涙腺が緩み生理的な涙がこみあげる。しかし、意に添わぬ快楽に馴らされた体が苦痛までも貪欲に吸収し快感へと昇華させる。薄く血の滲んだ乳首の疼きが恍惚を伴う性感へと変化するのにさほど時間はかからなかった。
 一体いつのまにこんなに淫乱になったんだ?
 答えはすぐにでた、売春班の一週間だ。囚人看守ともに性欲の捌け口を担う売春夫として強制的に客をとらされ続けた一週間で僕の体は劇的な変化を成し遂げた。
 僕は不感症だった。
 否、それは強烈な自己暗示の産物に過ぎず実際はそうではなかった。
 それが証拠に今も、僕の体は反応している。
 僕自身がうろたえるほど過激な反応を示し始めている。
 乳首を噛まれて鋭い性感が芽生えた。
 口では反抗しつつも僕は快楽に溺れている、貪欲に快楽を求め始めている。嘘だ。こんなのは嘘だ認めない、僕はこんな淫乱な人間じゃなかった、性行為には不快感さえ抱いていたのに!
 激しい自己嫌悪に苛まれ、意味不明の奇声を撒き散らしたくなるのを堪え、下唇を噛む。
 咆哮したい。発狂したい。
 理性と本能の狭間で絶え間なく揺れ動く自意識、自制と衝動の葛藤。サムライにさわられて感じてるなんて嘘だ股間が反応してるなんて嘘だ勃起してるなんて嘘だ、こんなのは全部全部嘘なんだ!!
 『直。お前が愛しい』
 耳朶を湿らす吐息……興奮に掠れた囁き。
 胸板を撫でる指から伝わってくる欲情の火照り。僕の乳首を口に含み、唾液を捏ねる音も粘着質に舌を絡めながら、サムライが呟く。
 乳首を強弱つけて吸われる快感に息が上がり始める。
 『あっ……あ、あ、あっ』 
 数日前の夜、図書室で突如僕に襲いかかり唇を奪ったサムライ。
 熱く柔らかい唇、前歯がぶつかるほど性急なキス……馬鹿な。こんな時にそんなこと思い出すなど自分を叱責するが、熱に溺れた頭が朦朧と想起するのはあの夜の唇の感触と僕を抱きしめる力強い腕、サムライの苦悩の表情のみだ。
 サムライがキスしたのは、単純に僕が欲しかったからか?
 こうして僕を抱きたかったからか。
 サムライはいつから僕を欲しがってたんだ。ずっと友人のふりをして、優しく接して献身的に尽くして信頼を勝ち得て、ずっとこの機を狙っていたのか?疑問が疑惑にすりかわる。今までサムライのことを友人だと思っていたのは僕だけで、サムライはそうは見てなかったのか。僕を欲望の対象にしていたのか?
 疑心暗鬼に苛まれた僕をよそに、サムライの手が下肢に移動してズボンにかかる。待て、と遮る暇さえ与えずにズボンの内側に手が滑り込む。
 無骨に骨張った指が、じかに太股をさわる。
 『!くっ、ん……』
 サムライの指を直接感じ、内股が震える。
 『……サムライ、やめろ。これ以上は……ふ、あ』
 なんとか虚勢を張り、強い語気で命令しようとしたが、ズボンに侵入した手の動きで決心が萎えて声に哀願の響きが混じる。僕の反応を探りながら、次第にゆっくりと手を移動させ下着の内側へ―…
 『性器にさわるな!』
 純粋な恐怖を感じた。
 売春班の記憶が鮮烈によみがえり、身が竦む戦慄を覚えた。
 下卑た笑みを満面に湛えたタジマが勝ち誇って僕のペニスを掌握し、見せつけるようにゆっくり扱く。僕の股間に顔を埋めて、頬膨らませてペニスを含み、唾液を捏ねる音も卑猥に舌を絡める。売春班を抜けてからは人にふれさせることもなかった場所にサムライの手が直接届く。
 探る。触れる。掴む。
 『そこ、は、排泄器官だ……腎臓で漉された尿を体外に排出する場所だ、よくそんな不潔な器官にさわれるな、良識を疑う……は、うっく』
 サムライの手がゆっくり動く。ペニスの先端に血液が溜まる。まただ。意志を裏切り、体が反応している。サムライの手に擦れられたペニスが充血して勃起してズボンの布を押し上げる。手の動きが激しくなるにつれ急激に射精の欲求が高まる。うそだ。サムライの手で勃つなど嘘だと首振りでよわよわしく否定し、涙の膜が張った目でとり縋る。
 嘘だと言ってくれサムライ。
 『僕を、犯すのか』
 苗のように犯すのか?
 そうして、追い詰めて殺すのか。静流の言った通りに。
 瞬きも忘れて問えば、サムライが押し殺した口調で告白する。
 『そうだ。俺はかつて苗を犯した。苗の体も心も手に入れるために力づくで抱いた。どうせ父に許されぬ仲ならと自暴自棄になって、俺を一途に慕ってくれた苗を、ひたむきに信じてくれた女の体を畜生道に堕ちたように貪り食らった』
 それが、サムライが敢えて語るのを避けてきた苗の死の真相なのか。やはり静流の言ったことは真実だったのか。苗を犯して首を吊らせて、それが発覚して父に勘当を言い渡され、そして…… 
 サムライは酷く真剣な面持ちをしていた。絶望の淵を覗きこんだ暗澹たる目には、物欲しげに口を開けて快感に喘ぐ僕の顔だけが映り込んでいた。
 かつて苗を犯して殺したように、僕もまた犯して殺すのか。
 沈着冷静な無表情の裏に、絶えず身を灼く激情を秘めていると気付いたのはいつ頃だろう。
 帯刀貢はいつか情念の炎に焼き滅ぼされてしまうのではないかと、それ故の鉄面皮で感情を抑えこんでいるのではと僕はずっと疑っていた。
 地獄の劫火を身の内に巣食わせたサムライからは、凄まじい熱気が放たれていた。
 『はっ、あっ、あっあっあっ……!』
 手の動きが加速する。快感が急激に高まる。情欲に猛る雄の本性を剥き出したサムライが、欲望に目をぎらつかせて僕を一方的に責め立てる。
 性急に扱かれてペニスに血液が集中して腰が勝手に浮きはじめる。
 声を抑えるのは不可能だ。
 僕の意志を裏切り愛撫に悦ぶ体が恨めしい。
 なんとか射精を遅らせようと太股を突っ張って抵抗したが、尿道を蚕食する掻痒感でもう何秒も保たないことがわかった。
 だらしなく弛緩した口元から糸引く涎が垂れる。呼吸が浅く速くなり声が弾み腰が跳ねる。
 加速する手に導かれて射精する間際、サムライの顔が急接近。
 狂気に憑かれた目が、爛々と輝いて。
 『お前が欲しい。お前を俺の物にするには、こうするしかない』
 乱れた前髪の隙間から覗いたのは、あまりに荒荒しく獣じみた眼光。
 憔悴した面差しに凄艶な色気すら滲ませて、股間の手は休めぬままに僕の唇を奪う。舌が入ってきた。唇の隙間をこじ開けて侵入した異物が前歯をなぞり口腔をむさぼる。朦朧とした頭でサムライの舌に応じる。
 舌に舌を絡め、口移しで唾液を飲み交わす。
 射精の瞬間が迫っている。
 『んっ、ふ……』
 口を口で塞がれ、息ができずに苦しい。
 よわよわしくかぶりを振って酸欠の苦しみを訴えれば、漸く唇を放したサムライが僕が見たこともない酷薄な笑みを浮かべる。
 『わかったか、帯刀貢の本性が。俺は本来こういう男だ』
 僕がこれまで信じてきたもの、縋ってきたものが粉々に打ち砕かれた。
 『あっ、あああああああっああああっあ……』
 力を込めて断言したサムライに反論する暇もなく絶頂が訪れた。脳裏で閃光が爆ぜて瞼の裏側が真っ白になる。先端の孔から迸った白濁が下腹部に散り、シーツに散り、サムライの手を濡らす。
 精液に塗れた指を口へと運び、舌を這わし、雄の色気匂い立つ笑みを深め…… 
 
 「!!!」
 唐突に目が覚めた。
 寝汗に濡れそぼった前髪が額にはりつく。跳ね起き、枕元を手探りして眼鏡を掴んで顔にかけ、暗闇に目が慣れるのをじっと待つ。
 気が狂いそうな焦燥に焼かれて闇にうずくまった僕は、現実と混同するほど生々しく五感に訴えてきた悪夢を反芻し、無意識に二の腕を抱く。
 そして、下半身の異状に気付く。
 毛布を跳ねのけズボンに手をかけ下着の状態を確認。予感が的中した。覚醒時の違和感は粘りけある精液に濡れた股間と汚れた下着が原因だった。
 「夢精か……」
 口にした途端に壮絶な屈辱感を味わった。サムライに強姦される夢を見て夢精したということは、僕は興奮していたのか。サムライの手で上着をはだけられ肌をまさぐられ唇で吸われて股間を揉まれて性的に興奮してたのか。最低だ。最悪だ。今の僕の姿を恵が見たらどう思うだろう。
 軽蔑されるに決まってる。最低の兄だと罵られるに決まってる。
 「くそっ!」
 荒く舌打ちし、激しい自己嫌悪に苛まれて頭を抱え込む。びっしょり寝汗をかいたせいで透けたシャツが肌に吸いついて気持ち悪い。気持ちが悪いのは股間も同じだ。早く下着を脱いで洗わなければと気は急くが、四肢はぐったりと萎えたままなかなか虚脱状態から立ち直れない。
 悪夢を見たのは連日の強制労働で疲れてるせいか?
 東京プリズン新所長として赴任した但馬の兄に三日以内に用水路を作れと命令を下され、僕らイエローワークの囚人は通常の二倍も三倍も働かなければいけないことになった。
 明日も強制労働がある。十分に睡眠を摂らなければ作業が遅れるというのに、つまらない夢に起こされてしまった。
 これも全部静流のせいだ。静流があんなことを言うからだ。
 瞼の裏側に浮上する妖しい笑顔。
 妖艶に赤い唇と好対照を成す清楚に白い肌、流れる黒髪の美少年……
 静流。
 サムライの過去を知る唯一の人物……
 東京プリズンで最も帯刀貢に近しい人物。
 『帯刀貢が苗を犯したと聞いても、彼の友人でいられるのかい?』
 「やめろ」
 『本当のことを教えてあげるよ。帯刀貢は苗を犯したことが発覚して後継ぎにふさわしくないと絶縁状を叩き付けられた。勘当を言い渡されて逆上した貢は神棚の刀を手にとり、実の父親を含む門下生十三人を斬り殺したんだ。莞爾さんはともかく、残り十二人はとばっちりもいいところさ』
 「違う、サムライはそんなことしない。僕を陥れようと妄言を吐いても決して騙されない。貴様ごとき低脳の思惑に気付かない天才だと思うか?侮られたものだな。サムライは僕の友人だ、唯一僕が心を許して絶対的な信頼を寄せる友人だ。下水道で土下座をして売春班に助けにきて僕の為に剣を振るい、そして―……」
 『せいぜい気をつけなよ。「あれ」はけだものだから』
 「でたらめを言うな!!」
 耳を塞ぎ絶叫するも頭の中で響く声からは逃れられない。
 静流の妄言に惑わされてたまるかと激昂する一方で、サムライを信じきれない自分に気付いて狼狽する。最前見た、夢と決めつけるにはあまりに生々しい出来事の記憶が何から何まで鮮明によみがえる。

 体を這いまわる骨張った指、乳首を吸う唇、荒い息遣い……
 売春班に僕を抱きに来た男たちと同じ、淫蕩に堕落したサムライ。 

 「サムライは違う、絶対に僕を犯したりなどしない彼は違う売春班の客とは違う僕を犯しにきた奴らとは違うんだ!!静流の言うことは全部嘘だ、彼は無実だ、苗を犯したりなどしてない!サムライは苗を愛していた、苗といた日々を回想するときは目が和んで優しい笑みを浮かべて、生涯ひとりしか持ち得ない本当に大切な人のことを話すように語るんだ!!あんな優しい顔で苗を思い出す男が彼女を犯したりするはずがない、もしサムライが実際に苗を犯したとしたら彼は!!」
 
 僕を犯した男たちと、一緒じゃないか。
 何も変わらないじゃないか。

 頭を抱え込み項垂れて、どのくらいそうしていただろう。
 「………」
 ……下着を洗おう。今やるべきことに優先順位をつけ、のろのろとスニーカーを履く。サムライを起こさぬよう慎重に夢遊病めいた足取りで歩き出す。暗闇に沈んだ房を見渡せば、悪夢の延長のように同じ光景があった。
 それとも、まだ夢が覚めてないのだろうか。
 これは夢の続きなのか。
 ふらつきながら房を横切ろうとして、サムライのベッドの前で足を止める。
 ベッドの傍らに佇み、無言で見下ろす。
 サムライはぐっすり寝入っていた。行儀よくベッドに仰臥して規則正しい寝息をたてている。
 耳の奥に涼しげな声がよみがえる。
 『帯刀貢が苗を犯したと聞いても、彼の友人でいられるのかい?』
 僕の足は自然、サムライが横たわるベッドへと吸い寄せられた。
 洗面台に向かえと頭が下した命令に心が反発して、暗闇の中で方向転換。ベッドの傍らに片膝つき、サムライの寝顔を覗きこむ。
 悪夢を見てる様子がなくて安堵したのも束の間、耳鳴りに似た反響を伴い、深淵から夢魔の声が湧いてくる。
 『せいぜい気をつけなよ。『あれ』はけだものだから』
 「本当のことを教えてくれ、サムライ。僕を騙していたのか」
 枕元に肘をつき、両方の指を組み、額を預ける。
 静流の口から真相を告げられるのは耐えられない。プライドの危機だ。それくらいならいっそ、サムライの口から真実を聞きたい。
 それがどれほど過酷な真実でも、君の口から明かされるなら一抹の救いはある。
 「………っ!」
 指を強く強く握りしめ、深々と頭を垂れる。
 僕は、最低だ。あれだけしつこく友人だと主張しておきながら、静流の言葉に心乱されてサムライを信じきれない現実に幻滅する。サムライに陵辱される夢を見て射精した自分に絶望する。
 あんな夢を見たということは、僕は内心、サムライに抱かれたがっていたのか?深層心理の奥底で彼に抱かれることを欲していたのか?
 普通同性の友人に抱かれたいなど思うはずがない。ならばあれは、あの夢は、一体何だったんだ。僕はサムライをどう思っているんだ。サムライは僕をどう思っているんだ。
 わからない。
 考えれば考えるほど深みに嵌まる悪循環から抜け出せなくなる。 
 「僕が知る君は偽りなのか。君は常に衝動と戦っているのか。僕を犯したい衝動を抑圧して誠実な友人のふりをしているのか?そうやって僕の信頼を繋ぎ止めて、いつか苗のように……」
 僕を裏切っていたのか、サムライ。
 サムライの首へと手を伸ばす。起きる気配はない。
 音たてて生唾を嚥下し、慎重に首に手を回す。
 許せないと思った。もしサムライが苗にしたことが真実なら、静流の言うことが事実なら、僕は決して彼を許さないだろう。
 売春班に助けにきた夜に見せた涙は嘘か?
 僕を抱きしめた腕のぬくもりも?
 そんなに僕を抱きたければあの夜に抱けばよかったんだ、犯せばよかったんだ。僕が完全に心を開く前に、僕が君なしではいられなくなる前に―……
 そうしてくれたほうがどれだけ救われたかしれない。
 「君は苗を犯したのか?僕のことも犯したいと思っているのか」
 サムライの首に手を巻き付け、徐徐に力を込める。寝顔の眉間に縦皺が寄る。だが、起きる気配はない。このまま殺してしまえという誘惑が頭を掠め、気道を圧迫する指に力を加える。
 「僕に欲情しているのか、帯刀貢」
 眉間に苦痛の皺を刻み、サムライが仰け反る。
 サムライの首に手をかけた僕の中で、その瞬間何かが切れた。

 顔に顔を被せ、唇を奪う。
 
 サムライが目を開けたのは次の瞬間だった。何が起こってるか瞬時にわからず、目に当惑の色を浮かべたサムライの意識がやがて覚醒、発作的に僕を突き飛ばす。
 「な、に!?」
 軽く咳き込み、手の甲で顎を拭いつつ、驚愕の相で叫ぶ。
 「どうした、これが望みだったんだろう。人の夢に不法侵入してまで目的を遂げようとしたんだ、ならば天才自ら要望に応えてやろうじゃないか」
 露悪的な笑顔でサムライを挑発、親指で見せつけるように唇をなぞる。
 ベッドに跳ね起きたサムライを間近で覗きこみ、彼の目をまっすぐ見つめたまま上着の裾に手をかける。
 腹部で腕を交差させ、サムライの視線を意識しつつ、緩慢な動作で裾をたくし上げる。
 ひやりとした外気が上着の隙間から忍び込んで肌が粟立つが、顔では平静を装い、上へ上へと服をめくる。まずは痩せた腹部をあらわし、薄い胸板をさらし、華奢な鎖骨が覗くまで上着を引き上げて頭を振って一気に脱ぎ捨てる。
 肉の薄い貧弱な肢体をさらけだし、体前に垂らした腕に上着をひっかけたままサムライと対峙。
 そして。
 「命令だ。僕と性行為に及べ」
 サムライの本性を試す賭けにでた。

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050628133011 | 編集
ブログ内検索
     © 2017 ロールシャッハテストB  Designed by 意地天