ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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十二話

 レイジなんか大嫌いだ。
 あんなヤツに処女をくれてやるんじゃなかった。
 ひりひり痛むケツを押さえてどこをどう歩いたか、房に真っ直ぐ帰るのは嫌で、足は自然と医務室に向いていた。
 房に直帰すりゃあと何十分後かにはレイジと顔突き合わせることになる。
 今の状態でレイジと顔合わせりゃ手当たり次第に物ぶん投げて罵り倒して追い出しちまう、怪我人だってことも忘れて踏んだり蹴ったりあたっちまう。
 そんなわけで、短気で喧嘩っ早い性格を自覚してる俺は適当に寄り道して頭を冷やすことにした。
 食堂じゃ寸手で自制心が働いてこぶしを引っ込めた、レイジをぶん殴りたい衝動を抑えて回れ右した。顔から火が出るほど恥ずかしかった。
 いや、そんな表現はなまぬるい。死ぬほど恥ずかしかった、本当に。
 一分一秒でも早くあの場を立ち去りたかったのが本音だ。
 レイジの無神経ときたら俺がどんなふうに喘いだか乱れたか昨晩の痴態を事細かに描写しやがって、俺は周囲の連中が下品な野次とばして笑い転げる中うしろも振り返らず逃げてきた。駆け足で逃げたくても裂けた肛門が痛んでへっぴり腰になったのが格好悪かった。
 廊下を歩きながら八当たりで壁を殴りまくったら手首がじんじん痺れた。
 レイジなんか大嫌いだ。クソくらえ。 
 あいつに処女くれてやったのは間違いだった。ケツも痛いし最悪だ。今晩は寝返りも打てないだろう。なにも食堂中の囚人が興味津々聞き耳立ててる中でバラすことねえじゃんかと今思い出しても全身の血が逆流する感覚に襲われる。
 もう表歩けねえ、俺。
 明日からどんな顔して食堂行けばいいんだよ、強制労働に出りゃいいんだよ?
 心の中で愚痴りつつ医務室のドアを蹴り開ける。
 「医者いるか」
 返事がない。いないみたいだ……と思って視線を巡らしたら入ってすぐそこの机に上体を突っ伏して鼾をかいていた。
 居眠り中か。不用心だなとため息まじりにドアを閉める。ま、かえって好都合だ。医者が居眠り中ならあれこれ詮索されずに済む。俺が医務室を訪ねたのは灯台下暮らし、医者に無茶言って退院したてのレイジがここに来ることはないだろうと踏んだからだ。
 白く清潔な通路を歩いてレイジ不在のベッドをめざす。
 からっぽのベッドがあった。昨日レイジが抜け出したままのベッドに腰掛け、踵の潰れたスニーカーを荒っぽく脱ぎ捨てる。ベッドに大の字に寝転がり、天井を仰ぐ。
 片腕を額に置き、目を閉じる。
 「体だりぃ………」
 額が熱い。ひょっとしたら熱があるのかもしれない。昨晩気を失ってからもレイジに二回三回激しく抱かれた無理が祟って熱を出したのかもしれない。処女相手に容赦ねえなあいつ。ちょっとは加減しろっつの。
 片腕で目を覆い、シーツを蹴り上げる。
 体がむずむずする。熱のせいだろうか。昨日レイジに吐き出された熱が体内に沈殿してるのか?レイジに抱かれた時の感触と感覚がまざまざと甦る。体の表裏をまさぐるなめらかな手、ケツの穴を唾液で潤してほじくる指、前に回ってペニスをいじくる手……耳朶を湿らす熱い吐息。
 『愛してるぜ。ロン』
 「嘘つけ。愛してんなら俺の嫌がることすんなよ」
 『マリアより誰より愛してるよ』
 「俺を抱いたらもういいんだろ、それで満足しちまったんだろ。飽きちまったんだろ」
 だからあんな無神経なことが言えたんだ、満員御礼の食堂で周囲の連中に聞こえる大声で、俺が昨晩どんなふうに喘いだかよがったか俺の気持ちも考えずバラすことができたんだろ。明日からどんなツラして表歩いたらいいんだよ畜生、もう東京プリズンで生きてけねえよ。
 責任とれよレイジ。
 「っ、ん………」
 吐息が乱れる。呼吸が浅く荒くなる。レイジの無神経に怒りを覚える半面、行為の余熱が燻った体が意志に反して疼きだす。レイジが俺の中に吐き出した熱が隅々まで行き渡って、細胞一つ一つに至るまで沁み込んで全身の皮膚を性感帯に造り替えたのか、前とは比較にならないくらい感度が良くなってる。
 おかしい。俺は、こんな淫乱じゃなかった。こんな淫乱な体じゃなかった。なのに一晩ぶっ通しでレイジに抱かれて快楽に馴らされて、一晩経ってもまだ熱が冷めなくて、シャツの内側の肌がレイジの指を求めてじれったく疼きだす。レイジに触れて欲しくてたまらないとシャツに擦れた肌が訴える。
 おかしい。俺はレイジに怒ってるのに、食堂で昨日のことバラして一回ヤッたぐらいで俺のこと自分の女扱いするレイジの暴君ぶりに腹を立ててるのに、体の火照りと疼きを解消したくて自然と下半身に手が伸びる。
 昨日は物凄く痛かったのに、こんなの死んだほうがマシだって何度も気を失いかけたのに……
 でも。
 途中から頭がじんと痺れて、わけわからなくなって、はでに喘ぎ声あげてたのも事実で。
 最初こそ痛みが勝ってたけど、今だかつて味わったことない強烈な快感もあって。
 『全部入った。よく入ったな、苦しかったろ?』
 俺の頭を撫でる大きな手、耳朶にふれる優しい囁き。
 「…………」
 股間に手を潜らせる。信じられないことに、前が勃っていた。ペニスが勃起してズボンを押し上げていた。昨夜のことを思い出して、レイジに抱かれた記憶を貪欲に反芻して、体が勝手に興奮してる。
 レイジなんか大嫌いだ。いつもいつも俺のことおちょくりやがって、満員の食堂で恥ずかしげもなく「俺の女」宣言しやがって、ちょっとはひとの気持ち考えやがれってんだ。
 心の中で毒づきつつ、股間に手を導き、揉む。
 なまぬるい愛撫。
 『感じてんのか嫌がってんのかわかんねーよ、どっちかにしろよ。物欲しげな顔しやがって』
 「んっ…………はっ」
 鼻から吐息が抜ける。手の動きが激しくなる。
 何やってんだ、俺。ついさっきまでレイジが寝てたベッドに横たわって、股間に手を持ってって……こんなとこ誰かに見られたらどうすんだよ?医者が今にも起きだしそうで気が気じゃない。声が漏れそうになるのを枕に顔を埋めて押さえればかすかにレイジの残り香がして欲情をかきたてる。レイジなんか大嫌いだ畜生と呪詛を吐くが一旦加速した手の動きは止まらない。せめて喘ぎ声が漏れるのを防ごうと枕に強く強く顔を押しつける。
 『怖くない、大丈夫だから。俺も一緒にいくよ。お前を天国に連れてってやる』
 ズボンの上から股間を揉んでいた手を徐徐に移動させ、音たてて生唾を飲み込み、ズボンの中に潜り込ませる。下着の中をまさぐり、頭をもたげたペニスを直に掴み、性急に扱き上げる。体はまだ行為の余熱を帯びて火照っていて、俺がレイジの態度にキレててもお構いなしに下半身は独立して疼いて、ペニスの先端は上澄みの雫を滲ませている。
 何さかってんだよ、興奮してんだよ?
 今までレイジのこと考えながら自慰したことなんてなかったのに、自慰する時思い浮かべてたのは大抵メイファや空想上の女のあられもない姿で、レイジの顔思い浮かべて股間に手え持ってったことなんて今までなかったのに……
 耳朶に吐息の湿り気を感じる。レイジの囁き声で脳髄が甘く痺れる。
 『愛してる。ロン』
 「あっ………」
 嘘つけ、調子のいいことばっか言ってんじゃねえと反発しつつも一旦加速した手は止まらない。下着の内側に突っ込んだ手で乱暴に股間を揉みしだく。緩急つけてペニスを扱けば瞬く間に腫れ上がって掌中で体積を増して射精の欲求が強まる。
 カーテンはきっちり閉め切ってるし枕に顔面押しつけてるし声が漏れる心配はない、大丈夫だと自分に言い聞かせる俺自身、自分がやってることが信じられなかった。
 レイジの無神経にブチギレて、あいつとはもう絶交だって心に誓って、けどいざ医務室にやってきてレイジが寝てたベッドに横臥したら意志を裏切って手が股間に伸びちまった。わけわかんねえ。快楽に馴らされて快感に目覚めて勝手に興奮する体が恨めしい。昨日一晩かけて性感帯を開発されちまったのか火照りを持て余した体が疼いて疼いて仕方ない。
 体の火照りを持て余してベッドに寝転がり、股間を揉む。激しさと浅ましさを増す腰の動き、耳障りな衣擦れの音。ヤッてる最中レイジは何度も俺にキスして「愛してる」と囁いた。残り一つになった目に慈愛の光を湛えて、極上の微笑を浮かべて……俺も「愛してる」と返した、「愛してる」とレイジに返してあいつを強く抱いた。もう二度とレイジを手放したくない、離れたくない一心であいつを思いきり抱きしめた。
 自分の手にレイジの手を重ねてさらに激しく性急にペニスを扱き上げる。
 「んっ、くう………っ」
 できるだけ声は押さえてるが、妙に甘ったるい喘ぎが鼻から漏れるのは如何ともしがたい。鼻にかかった喘ぎ声……俺の声じゃないみたいだ。片手でシーツを掴み、枕に顔を擦りつける。腰が浮く。脳裏に浮かぶのはレイジの顔、左目に眼帯かけて右目を細めた笑顔……
 この世でただ一人俺だけに向ける極上の笑顔。
 俺が独占する笑顔。
 「あっ、」
 駄目だ。イく。掌中のペニスが硬くなる。俺は夢中でペニスを摩擦しながらさらに腰を上げてそして…
 「やっほーヨンイル起っきしてるー?皆に愛される人気者、フェラ十八番の便利屋リョウくんがとっときの情報もってきてあげたよー。感謝し……」
 シャッ、と勢い良くカーテンが開け放たれて赤毛で童顔のガキがひょっこり顔を出した。プライバシー侵害もいいところの派手で騒々しい登場の仕方に手の動きが止まり、体が硬直する。自慰も佳境に入って手の動きがますます加速してた俺は、枕に顔を埋めて腰を上げたみっともない姿勢のままリョウと直面する。
 「…………あはははははははっはははっはは!?」
 気まずい沈黙を破ったのはリョウの盛大な笑い声。
 リョウときたら事もあろうにベッドに突っ伏した俺を指さして笑い転げた、ズボンに手を突っ込んで枕に顔突っ伏して尻を掲げた俺を容赦なく嘲笑った。だけじゃ済まず、近所迷惑な大声張り上げて周囲のベッドにふれまわりやがった!
 「ちょっとご近所の皆さんこっち見てご覧よ、東棟の王様もとい東京プリズンの王様の飼い猫がご主人サマ不在のベッドでおいたしてるよ、粗相してるよー?わあ愉快な眺め、ロンてばこんなとこでナニやってんの、愛しのご主人様の匂い辿ってベッドに潜りこんで……自慰?オナニー?一人エッチ?」
 「ばばばばばかっ、でっかい声だすんじゃねえ!?」
 興味津々俺の顔を覗きこんで満面に小悪魔の笑みを湛えたリョウにとびつき、そのよく動く口を塞ごうと両手をばたつかせるもリョウのほうが一枚二枚上手で俺の反撃を身軽にかわして続ける。
 「ロンてば、昨日レイジと結ばれたばっかなのにまだ足りないの?さっきなんか食堂ではでに痴話喧嘩やらかした癖に、レイジが寝てたベッドに潜り込んでレイジの匂い嗅ぎながら一人エッチなんて健気な飼い猫じゃん。どうしたのねえ、里心ついちゃったの?昨日一晩かけて躾られて王様なしじゃいられない淫乱な体にされちゃったの!?」
 「違っ……勝手に話作んじゃねえ、勘違いだ勘違い、デタラメだ!」
 甲高い笑い声が周囲の壁に跳ねかえり天井高く響き渡る。爆笑するリョウを前に、ズボンから手を引っこ抜いてベッドに立ち上がった俺は怒髪天で喚き散らす。ああもう最悪だ畜生、今日は何から何までツイていねえ!
 よりにもよってレイジのベッドで自慰してるとこを見つかっちまうなんてと自分の不運を嘆きつつ、リョウを適当に言いくるめる説得力ある反論はないかと頭を働かせる。
 「なにが勘違いなわけ。ロンがオナニーしてたのは事実じゃん、僕この目でばっちり目撃しちゃったもんね、レイジの残り香嗅ぎながら下着に手え突っ込んでさーいやらしい」
 「消毒液の匂いに興奮したんだよ!!」
 苦しい言い訳。苦しすぎる。
 激しい自己嫌悪と羞恥心やらなにやらに苛まれて頭を抱え込みたくなった。リョウに自慰の現場見つかりゃ今日中か明日中には言いふらされるに決まってる、レイジとヤッた件に関してはまあ合意の上だし隣近所に聞こえてたろうし半ば諦めてたけど、レイジが退院したベッドであいつの名前口走りながら自慰に耽ってたとかあることないこと脚色加えて言いふらされたんじゃ本当におしまいだ。東京プリズンで生きてけねえ。
 ああ、死ぬほど恥ずかしい。
 わけわからずむらむらして自慰なんかするんじゃなかったと今更悔やんで手遅れだ。人生最大の後悔に襲われてベッドに手足をつき項垂れた俺をよそに、リョウは元気一杯医務室中をとびまわって黄色い声で騒いでる。
 「ねえおじいちゃん先生、ロンてばおじいちゃん先生の居眠り中に医務室にこっそり忍び込んだだけじゃ飽き足らずにベッドで自慰してたんだけどこの件に関してどう思う?風紀が乱れると思わない?」
 「ふむ。健康な証拠じゃないかね」
 リョウに揺り起こされた医者が寝ぼけ声で反駁する。あの野郎医者にまでチクりやがった信じられねえと心の中で罵倒、リョウを医者からひっぺがそうとスニーカーをつっかけて走り出す。
 「東京プリズンの風紀乱してる男娼がどの口でぬかす!?大体お前医務室に何の用だ、コンドームなしでヤりまくって性病にでも感染したのかよ!」
 「うわひどっ、人格攻撃?自分が恥ずかしいとこ見られたからってそりゃないっしょー」
 リョウがおどけて首を竦める。
 「僕が今日ここに来たのは商売の一環で道化に用があるからさ。ねえヨンイル?」
 リョウが跳ねるように軽快な足取りで方向転換、カーテンを開け放つ。道化はばっちり目を覚ましていた。静かだから寝てると思って安心してたのにとまた舌打ちしたくなる。
 「気に病むなロンロン。俺かて和登さんのセーラー服姿やふしぎのメルモ変身シーンをズリネタにヌく」
 「そんな微妙な慰めいらねえ。てかメルモでヌくのかよ、ロリコン」
 「アホぬかせ。俺はロリコンちゃう、骨の随までオタクなだけや」
 「いばることかよ」
 むきになるのが馬鹿らしくなった。
 急激に脱力感を覚え、深々ため息ついてベッドに腰掛ける。がっくり項垂れた俺の肩をリョウが叩いて慰める。
 「安心してよロンロン、このコトは特別に内緒にしといてあげるから。僕だって悪魔じゃない、思春期の男の子の気持ちはよーっくわかってるつもりだよ?見て、この純真な目。お星サマきらきらしてるっしょ」
 「お前の言うことなんか信用できるか」
 邪険に手を振り払い、ヨンイルに向き直る。過ぎたことくよくよ悩んでも仕方ねえ、忘れよう、いっそなかったことにしちまえ……よし、忘れた。医務室に入ってからリョウにバレるまでの記憶を封印、さりげなく話題を変える。
 「で、ヨンイルに用ってなんだよ」
 「気になるあの人の消息さ」
 リョウがひょいと俺の隣に腰掛けて人さし指を立てる。あの人?胡乱げにリョウとヨンイルを見比べる。ベッドに上体を起こしたヨンイルはリョウの説明に聞き耳立てながら手元で作業してる。ふと興味をそそられてヨンイルの手元を覗きこんだ俺は、鼻腔を刺激する火薬の匂いに眉をひそめる。
 毛布を剥いだベッドの上に並んでるのは薄紙に包まれて選り分けられた火薬と黒い球体。
 花火師の仕事場めいた様相を呈したベッドの上で、額にゴーグルかけたヨンイルはひどく真剣な面持ちで火薬の分量を測っていた。紙から紙へと火薬を移し変えて目の位置に持っていき、肉眼で数量を見極めたのち僅かな重さの違いを手の平で確認する。
 傍から見てるだけで気が遠くなるような細かい作業をヨンイルは手際よくこなしていた。
 「気になるあの人ってまさか……」
 「ラッシーさ」
 リョウが頬杖ついてほくそ笑む。
 「あいつ、まだ東京プリズンにいたのかよ!?」
 声が跳ね上がる。ここ最近姿を見ないからとっくに東京プリズンを去ったものと思ってたのに……予想通りの反応に溜飲を下げたリョウが、フェラチオと引き換えに仕入れて来た情報を得意になって披露する。
 「ロンってほんと馬鹿だねえ。いや、ロンに限ったことじゃなく東京プリズンの囚人みんな頭悪いけどさ……あ、親殺しは例外ね。あいつも別の意味で馬鹿だけどさ。ほら、ラッシー寮住まいっしょ?東京プリズン辞めるって言ってもそんな簡単にいくはずない、部屋の整理とか掃除とか残務処理とか色々やること残ってるんだ。おまけに東京プリズン出る許可とるのがややこしくてね……囚人だけじゃない、看守がここ出るにも面倒なチェックが要るんだよ。変な病気持ってないかとか体に寄生虫飼ってないかとか」
 「じゃ、五十嵐はまだここにいるんだな」
 「もちろん……と言っても、三日後には晴れてバイバイだけどね」
 リョウがふざけて手を振ってみせる。見た目はただのガキだがリョウは囚人看守双方に顔が利く。男娼の人脈を生かした情報収集はお手の物だろう。
 「さよか。おおきに、リョウ。五十嵐が去る期限わかっただけで十分や」 
 「どういたしまして」
 リョウがにっこり微笑んで突き出した手を一瞥、囚人服のズボンに突っ込んだ紙幣をろくに数えもせずに渡して再び作業に没頭するヨンイルに、好奇心に負けて質問する。
 「ヨンイル。お前、リョウ使って五十嵐がここ去る日掴んでなにやらかすつもりだよ」 
 作業の手はかたときも休めず、今日初めて俺の方を向いたヨンイルが挑戦的に微笑む。尖った犬歯を覗かせたやんちゃな笑顔。
 「ドーンとどでかい花火打ち上げるんや。お礼は見てのお帰りってな」 
 自信満々に言い放ったヨンイルがこぶしに固めた手を頭上に持っていき、ぱっと五指を開く。花火が炸裂するジェスチャーにリョウともども首を傾げる。困惑する俺の耳にドアが開く音が届く。新たな訪問者。そいつは迷うことなく一直線にこっちにやってきてヨンイルに声をかける。
 「元気そうですね、ヨンイルくん」
 光沢ある黒髪を七三に分けた伊達メガネの男……南の隠者ことホセが、にこにこ笑いながらヨンイルに挨拶して、隣のベッドに腰掛けてる俺とリョウに気付く。
 「これは奇遇な。君たちもヨンイルくんのお見舞いに?」
 「ちゃうちゃう、ロンロンはこっそり医務室のベッドに潜りこんでオナニーしとったんや。俺が珍しく静かにしとるから寝とると思い込んで油断したんやろな」
 「バラすなよ!?」
 最悪だ。デリカシーのかけらもねえ。ヨンイルも俺が来たこと気付いてたんなら最初に声かけろよ、俺はヨンイルが何も言ってこねえから安心しきって股間に手え入れたのに!慌ててヨンイルの口を塞ぐが遅い、一度出た言葉は引っ込まない。道化に続いて隠者にまで暴露されていっそ死にたくなった。医務室になんか来るんじゃなかった、まっすぐ房に戻ってりゃよかったと落ち込んだ俺に笑いをかみ殺してリョウが付け足す。
 「さっきなんか処女喪失した時の状況バラされて顔真っ赤にして怒ってたくせに、レイジのぬくもり恋しさにベッドに潜り込んでオナニーなんてロンロンも可愛いとこあるじゃんー」
 「おや、そんなことをしたんですか彼は。可哀想にロンくん、さぞかし恥ずかしかったでしょうね」 
 ホセが同情たっぷりに俺を見る。いたたまれない。時間が戻せるなら五分前の自分を絞め殺したい。いっそ全速力で逃げ出そうかとも思ったがケツが痛くて動けない。へっぴり腰になって失笑を買うのはプライドが許さない。つまらない意地と見栄にしがみついて、針のむしろから逃げ出すこともできず立ち竦む俺のもとへホセが歩み寄る。
 肩に置かれた手のぬくもりを感じて、顔を上げる。
 俺の正面に立ったホセが分厚い眼鏡の向こうで目を細めている。
 「レイジくんが嫌になったらいつでもコーチを頼ってください。誠心誠意相談にのらせていただきます」
 俺の肩を掴んで耳元に口を近づけたホセが、妙に力を込めて断言する。
 「千夜一夜ワイフと愛の営みに耽った吾輩にかかれば夜の悩みもすっきり一発解決です。吾輩ホセならきっとロンくんのお力になれますよ。なに、弟子の下半身を鍛えるのもコーチの務めです」
 肩を掴む手に力がこもる。ホセは白い歯光らせて爽やかに笑ってるが、笑顔の裏側にどす黒い感情のうねりを感じるのは気のせいだろうか。本能的な危機感からあとじさった俺と内にどす黒いものを秘めたホセの笑顔とを見比べ、ベッドから足をぶらぶらさせたリョウがつっこむ。
 「それセクハラじゃない?」
 俺が言いたいことをリョウがさらりと代弁してくれた。
 ごくたまにいいこと言う男娼に感謝。 


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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050706105059 | 編集
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