ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

最近のトラックバック
ブロとも申請フォーム
スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

関連記事 [スポンサー広告]
スポンサー広告 | コメント(-) | ------------ | 編集
九話

 あれは幻だったのだろうか。
 タジマを乗せた車が去ってからの記憶は曖昧で、ところどころが欠落している。白昼夢の中を漂っているような非現実感。
 僕の異常を察したロンが一生懸命声をかけていた。
 僕の肩をしきりと揺さぶって、必死の形相で詰問した。
 『タジマが帰ってきたってどういうことだよ、あいつは東京プリズンからいなくなったんじゃないのかよ!?だって重傷だって聞いたぜ、この先一生車椅子生活だって、看守として復帰する見込みは絶望的……なあおい鍵屋崎聞いてんのかよ、どういうことだよタジマを見たって、お前寝ぼけてんじゃねえのかよなんでタジマがここにいんだよあのタジマが……嘘だって言えよ、なんかの間違いだって言ってくれよ!?』
 ロンの目には紛れもない恐怖が浮かんでいた。
 漸くタジマの苛めから解放されたのに、たった二週間でタジマがまた舞い戻ってきた。ロンは冷静さを失って全力で僕の言葉を否定しにかかった、前言撤回を求めて手加減なく僕の肩を揺さぶった。
 だが僕は放心状態で、その場凌ぎの嘘でロンを宥めることもできなかった。
 いつのまにか強制労働は終わっていた。
 僕は足をひきずるように自分の房に戻りベッドに腰掛けた。サムライはいなかった。時間が経つにつれあれは何かの間違い、見間違いじゃないかとの疑惑が強まる。

 あれは本当にタジマだったのか?

 ベッドに腰掛け、片手を額にあてがい、試しに自分の熱を測ってみる。
 そういえば少し額が火照ってる……気がする。熱があるのかもしれない。
 僕は熱のせいで幻覚を見たんじゃないか?
 そう考えれば納得がいく。あの時は後部座席の人物をタジマと見間違えて錯乱したが、現実的に考えてタジマが今ここにいるはずがないのだ。
 ならばあれは別人ということになる。
 「そうだ。タジマがここにいるはずない。彼は東京プリズンを去ったんだ、二度と僕の前に姿を現す心配はない。彼はもはや永久に東京プリズンを追及された過去の人間、現在の僕に影響を及ぼすはずがない」
 口に出して自分に確認、大きく深呼吸して平常心を取り戻す。
 僕ともあろう者が、妄想と現実の区別もつかなくなっていた。タジマはいない。もういない。金輪際タジマに怯える必要はない、タジマに付き纏われる恐れもない。僕は目を開けながら寝ていたんだ、砂漠で白昼夢を見ていたんだ。今日は睡眠不足で脳が覚醒してるとは言いがたい状態だったからその可能性は多いにあり得る。
 口元に自然と笑みが浮かぶ。苦味の勝った自嘲の笑み。
 「無様だな、鍵屋崎直。亡霊に怯えるなど、僕らしくもない」
 まったく、ロンの前でみっともなく騒いで取り乱して大恥をかいてしまった。房に帰り着いて冷静さを取り戻してから、その事が悔やまれる。
 単なる見間違いを大袈裟に騒ぎ立ててロンを不安にさせた。
 食堂で会った時にでも訂正しておかねば……
 「……待て、何故僕が訂正しなければならない?おかしいじゃないか。元を正せば僕が白昼夢を見たのもサムライのせい、昨夜サムライがあんな事をしたからだ。全ての責任は彼にある。僕はサムライのせいで寝不足になったんだ、彼の存在を意識するあまり神経が張り詰めて十分な睡眠が摂れなかったんだ。謝罪すべきは僕じゃない、サムライだ。これは根拠無根な責任転嫁ではなくありのままの事実だ。サムライが昨夜あんな……」

 無意識に唇をさわる。
 撫でる。
 サムライの唇が触れた場所に、微熱を感じる。

 「…………」
 一口には説明しがたい不思議な気分だ。当惑、混乱、そして……動揺?
 僕はサムライにキスされて動揺してるのか。まさか。売春班ではキス以上のことを日常的にされたのに、今さらキスひとつくらいで動揺する理由がない。相手がサムライだから?
 僕が友人と認識してる特別な男だから、だからこんなにも動揺してるのか。胸がざわめいているのか。僕はサムライを信頼している。僕には決して危害を加えないと油断して無防備な面を見せていたことは否定しがたいが……だからって、僕の無防備に付け込むような真似をするのはいつもの彼らしくない。
 「何故、キスをしたんだ」
 人さし指で唇をなぞり、小声で呟く。
 僕以外に誰もいないからこそ声に出すことができた。物問いたげに対岸のベッドを見つめる。サムライはまだ帰ってない。レッドワークの残業が長引いてるらしい。そろそろ夕食の時刻だというのに……慣れない仕事に苦労してるのだろうか。
 たかがキスだ。あの程度のことでサムライを過剰に意識しすぎだ。欧米では恋人同士に限らず友人間家族間で当たり前に交わされる親愛表現だ。だが待て、サムライは日本人だ。それも三代遡って純血の……おかしい。やはりおかしい。しかも、僕は男だ。僕は同性愛者じゃない、異性にも同性にも恋愛感情を抱いたことはないと断言する。サムライだってそうだ。
 少なくとも、僕は今までそう思っていた。
 サムライには過去恋人がいた。幼馴染であり使用人であり、世話好きな姉のような存在だった……苗。
 サムライが唯一心を許した、心優しい盲目の女性。
 サムライは今でも、苗が忘れられないんじゃないのか。
 苗のことを、愛しているんじゃないのか?
 苛立ちまぎれに頭を掻き毟り、吐き捨てる。
 「……わけがわからない。支離滅裂意味不明だ。動機が不明瞭でイライラする。サムライは同性愛者なのか?僕に欲情したのか?まさか。昨夜のあれはいくらなんでも唐突過ぎる、必然の過程を踏まえてない。やはり熱病か?高熱を発して脳に異常が起きて発情を促す脳内麻薬が過剰分泌されたのか。レイジは常に脳内麻薬が過剰分泌されていて一年中さかっているが、サムライは一年中禁欲生活をしてるから昨夜その反動がきたのかもしれない。そういえば僕はサムライが自慰してるところを見たことがない、見た目は老けているが彼も一応十代の少年だというのにどうやって性欲処理をしてるんだ?」
 疑問だ。サムライには性欲が無いのだろうか。僕はもともと性欲が薄いからタジマに強制された以外では自慰の経験もないが……論点がずれてきた。
 考えても答えは出ない。サムライが僕にキスした動機は不明だ。
 彼が何を思ってあんな行動にでたのか知りたければ本人に問い詰めるしかないが、サムライと顔を合わすのは気が重い。
 だが、これは自分でも意外なのだが……

 サムライにキスされても、嫌じゃなかった。

 扉が開いた。
 「!」
 反射的にベッドから腰を浮かし、開け放たれた扉を注視する。
 サムライがいた。強制労働から帰ってきたらしい。
 「あ……」
 何か言わなければと強迫観念に駆られて、目下最大の関心事を率直に聞く。
 「君の、自慰の経験の有無が知りたい」
 まずい、率直すぎた。
 何を聞いてるんだ僕はなんて下世話な質問だいや違うこれは生理学的な好奇心に端を発した質問であって疚しい意味は微塵もないこれは真面目な質問なんだ僕はただ禁欲的なサムライが日頃どうやって性欲を処理してるのか気になってそれで!!
 激しい自己嫌悪に苛まれて頭を抱え込む。
 廊下に立ったサムライは不審げに僕を眺めていた。
 「そんなことを聞いてどうする?」
 「今の質問は忘れてくれ、なかったことにしてくれ!!」
 頬に血が上る。大体、サムライの自慰の経験の有無を知ってどうするんだ。答えを聞いたところで僕はどう対応したらいいんだ。
 大袈裟に咳払いし、何事もなかったように姿勢を正して顔を上げる。サムライの背後で鉄扉が閉じて鈍い残響が壁にこだまする。対岸のベッドに腰掛けたサムライは胡散臭げに眉をひそめて僕の表情を探っている。
 不躾な観察に気分を害した僕は発作的に立ち上がり、憤然とサムライに歩み寄る。
 いい機会だ。
 サムライに直接聞こうじゃないか、僕にキスした理由とやらを。
 房には現在、僕とサムライ二人きりだ。
 格子窓の外から猥雑な話し声が漏れ聞こえてくるが、構わない。 
 背筋を伸ばしてベッドに腰掛けたサムライと一対一で向き合い、慎重に口を開く。 
 「サムライ、君に聞きたいことがある」
 「なんだ」
 「昨夜……、」
 突然、サムライが腰を上げる。心臓が跳ね上がる。待て、逃げる気か卑怯者めと心の中で罵倒してその背に足早に追いすがる。
 僕の質問を遮ってサムライが向かう先は洗面台。
 サムライが無造作に蛇口を捻り、水を出す。ズボンに挟んでいた手拭を蛇口の下に置いて水を含ませて、鮮やかな手際で絞る。サムライの背後で立ち止まった僕は、質問を続けようか否か迷い、虚しく口を開閉する。これはひょっとして、誤魔化されているのか。最後まで言わせまいという無言の意思表示かと邪推した僕に体ごと向き直り、サムライが言う。
 「眼鏡をとるぞ」
 「なっ」
 拒否する暇もなくサムライの手が伸びて眼鏡を外されて、視界が曇る。何をする気だ貴様、安田に直してもらった大事な眼鏡を……
 声を荒げて抗議する僕を無視、サムライが思いがけぬ行動にでる。
 サムライの顔が接近する。
 「!」
 鈍い音。背中が壁に衝突して逃げ場を失った僕は、サムライの手から眼鏡を取り返そうと試みるも、視界が曇ってるせいで遠近感が掴めないせいで上手くいかない。まさかこの展開を予期して前もって眼鏡を取り上げたのかと疑惑が深まる。昨夜の光景が脳裏にフラッシュバックする。
 図書室の扉を背に追い詰められた僕にのしかかるサムライ、熱い吐息が睫毛にふれて、唇が触れて―……
 再び、キスされるのか?
 恐怖と緊張に体が強張る。反射的に目を閉じる。暗闇。サムライの顔は見えないが、手に取るように息遣いを感じる。瞼の向こう側にサムライがいる。僕の顔を凝視する。
 そして……
 「!?いっ、あ?」
 ひやりとした感触。
 冷たく柔らかい布で瞼の上を覆われた。顔面に手をやり、僕の両目を塞いだ布をおそるおそるまさぐれば、サムライが今さっき蛇口で濡らした手拭いだった。何の真似だといぶかしんでサムライを見上げれば、当の本人があっさり言う。
 「目が腫れている。酷い顔だ。手拭いで冷やしておけば少しはマシになるだろう」
 「!!ちょっと待て、僕の目が腫れてるのは誰のせいだと……元はと言えば君が寝不足の原因、」
 「俺が?」
 サムライが不審げに眉をひそめる。
 鈍感もすぎると無神経だ。サムライと議論するのに疲れて脱力、壁に背中を凭せて素直に手拭いを受け取り、目の位置にあてがう。水の冷たさが瞼に沁みて気持ちがいい。なんだか急に眠たくなり、手拭いを押さえる腕の力が抜ける。顔から剥がれた手拭いを瞬時に拾い上げて、再び僕の瞼に押しあてたのはサムライだ。
 「……まったく。君の行動は何から何まで紛らわしすぎる」
 僕の目が腫れてるのを心配して、わざわざ手拭いを冷やしてくれた。細心の気配り、不器用な思いやり。手拭いの冷たさが火照った顔に心地いい。だが、いつまでもこうしてるわけにはいかない。壁から背中を起こし、「もういい」とサムライの手をどけようとして、手拭いを顔から外した僕は初めて気付く。
 「サムライ、手に怪我をしてるじゃないか!?」
 「大したことはない」
 「大したことはないって、剣を握る大事な手じゃないか!」
 手拭いを乱暴に払い落とし、サムライの右手を掴んで引き寄せ、指を開かせる。サムライは手に火傷を負っていた。範囲はそう広くないが、皮膚が赤く焼け爛れて痛そうだった。
 薬を塗って包帯を巻いておいたほうがよさそうな怪我だ。
 「医務室で診てもらえ。夕食にはまだ時間がある」
 「その必要はない。この程度の怪我、放っておけば治る」
 「痕が残ったら大変じゃないか。そうじゃなくても君は傷だらけだ、少しは自分を大事にしろ。こないだの太股の怪我だって相当酷かったじゃないか、これ以上君の体に傷を増やしたくない」
 「俺は男だ。体にひとつふたつ傷が増えたからとて問題は」
 「そう言うなら今ここで服を脱いで全裸になれ、君の体にある傷を全部数えてやる。言っておくがひとつふたつどころじゃ済まないからな、僕を庇って負った傷は!!」
 サムライの腕を引っ張り、鉄扉を開け放つ。当然、火傷を負ってないほうの手だ。サムライは不承不承僕のあとについてくる。なんだその不満げな顔はと憤慨する。僕はこれ以上つまらない罪悪感に苦しみたくない、サムライを怪我させた責任を感じたくない。
 元はといえばサムライがレッドワークに落ちたのも僕のせいだ。
 胸の痛みを覚えながら、サムライを医務室に連れて行き治療を受けさせる。サムライは憮然としていた。この程度の怪我で医者にかかるなど情けないと自分の不甲斐なさを恥じてるのは明白だった。構うものか。
 サムライは人体の自然治癒力を過信しすぎだ。
 火傷を放っておいて、黴菌が入って悪化したらどうするんだ。
 「……包帯は邪魔だ。すぐにほどける」
 治療を終えて医務室を出てからもサムライは不機嫌だった。
 手に巻いた包帯を憮然と見下ろし、五指を開け閉めする。
 「二三日剣の稽古を休んだらどうだ」
 「できん。たとえ一日でも剣の修行を休むめば腕がなまる」
 「強情な男だな。君はそう言うが、怪我が悪化したら意味がないじゃないか」
 「俺は強くならねば」
 どこか思い詰めた口調と眼差しでサムライが呟く。僕は困惑する。
 「今だって十分強いじゃないか。まだ上を望むのか?見かけによらず強欲だな」
 大股に先を歩むサムライの背中に皮肉をなげる。だが、サムライは立ち止まらない。どこか思い詰めた横顔で無心に廊下を歩く。そのまま真っ直ぐ房に帰るかと思えば、途中で角を曲がる。
 サムライの後ろ姿はどこか、僕を不安にさせた。
 昨夜からサムライは変だ。己が内にとてつもない秘密を抱え込んだ故の不安定さがサムライの背中に表れている。歩き方に余裕が感じられない。背中はぴんと張り詰めて、痛々しいほどに研ぎ澄まされて、人を寄せ付けない硬質な空気を放っている。 
 一体どうしてしまったんだ。
 サムライと距離を埋めようと必死に足を速めるが、どうしても追いつけない。人を寄せ付けない孤高の背中。僕を冷淡に突き放す背中。
 息を切らしてサムライを追う。
 サムライが向かう先は展望台だった。
 窓ガラスが除去された矩形の出入り口が壁に穿たれた向こう側は、囚人が自由に出入りできる憩いの場だ。サムライが僕を待たずに窓枠を乗り越えて展望台に出り、さらに歩く。サムライに遅れること数秒、窓枠を跨いで展望台にでれば生ぬるい風が頬をなぶる。
 西空は朱に染まっていた。凄まじい夕焼けだ。溶鉱炉に呑まれたみたいな空だった。展望台には数人囚人が散らばっていた。その誰もが呆けたように口を開けて残照を眺めていた。
 神々しいばかりの夕日の美しさに心奪われて腑抜けに成り下がった顔。
 サムライはどこだと視線を巡らした僕の目にとびこんできたのは、若竹のようにまっすぐな背筋。
 サムライは展望台の中央に立ち尽くしていた。黄昏の残照を浴びて足元に長く影を伸ばしたその姿は不思議と絵になっていた。
 目の位置に手を翳して赤光を遮りつつ、サムライの背後に歩み寄る。サムライは振り向きもしなかった。
 どこまでも孤独に孤高に、砂漠の彼方に沈みゆく夕日と対峙していた。
 朱に照り映える横顔の眩さに目を細めて、控えめに声をかける。
 「サムライ」 
 サムライは微動だにせず立ち竦んでいた。いつか、これと同じ夕日を見た。あれは数ヶ月前、まだ僕がサムライを友人と認めていなかった頃。タジマに燃やされた手紙の灰をかき集めて、展望台に運び、風に飛ばした。あの時のサムライの姿が現在のサムライと二重写しになり、胸が詰まる。

 風に吹き散らされた微塵の灰。 
 展望台の突端に佇み、夕空へと手を差し伸べた残影。

 言葉にできない想いが込み上げて胸を締め付ける。
 口を開き、また閉じ、遂に決心して息を吸う。
 今を逃したら、二度と聞けない。
 「何故、僕にキスをしたんだ?」
 サムライが緩慢に振り向き、真っ直ぐに僕を見る。なんとも形容しがたい、深い眼差しだった。複雑な色を湛えた双眸だった。そう見えたのはサムライの双眸が夕日を照り返して朱を帯びていたからだろうか。
 地平線に沈みゆく夕日に身をさらしたサムライが、噛み締めるように呟く。
 「夢を見た」
 「夢?」
 僕からふいと視線を外し、再び夕日に向き直り、双眸を細める。
 「業火に呑まれる夢だ」
 大気が朱に染まる。空が燃え上がる。長短さまざまの人影が展望台の床に黒々と穿たれる。サムライはそれ以上語らなかった。僕もそれ以上聞けなかった。業火に呑まれる夢が何を暗示するのか僕にはわからない。だが、サムライが今ここでそれを口にしたのには理由があるはずだと直感で悟った。
 残照に染め抜かれた横顔には耐えがたい苦渋が滲んでいた。内面の激しい葛藤が窺える苦悩の表情。細めた双眸には悲哀と自責が相半ばして宿っていた。まるで、生きながら業火に灼かれて地獄の責め苦を味わっているような―……
 
 その刹那。
 サムライの目が、驚愕に見開かれた。
 
 僕が今だかつて見たことがない激情の発露……戦慄の表情。
 サムライの視線を追って正面を見た僕は、まともに残照を浴びて顔を顰める。
 瞼の裏側が朱に染まる。目が眩さに慣れてくると同時に、展望台の突端に佇んだ人影が残照に輪郭を彫り込まれて鮮明に浮かび上がる。
 その少年はこちらに背を向けて夕日を眺めていた。
 すらりと伸びやかに均整の取れた、優美な肢体の少年だった。
 周囲には他にも囚人がいたが、その少年だけが異質な……若しくは異端な存在感を放っていた。少年を包む空気からして清冽に浄められていた。
 コンクリート造りの殺風景な展望台に音もなく翼を畳み、見目麗しい一羽の白鷺が舞い降りたようだった。
 紅に暮れる世界と対峙していた少年が、緩慢にこちらを向く。
 癖のない黒髪が風に揺れて、色白の肌が残照に怪しく照り映えて、切れの長い眦が覗く。淫靡な微笑を含んだ唇だけが艶やかに赤い。
 清楚な少女と見紛うほどに端麗な容姿の少年だった。
 夕日が煌煌と燃え尽きる。
 「静流?」  
 サムライの唇がわななき、掠れた声を漏らす。己の正気を疑っているような、実際目にしてるものが信じられないといった当惑の声。
 展望台の突端に立った少年は風に吹き流れる前髪を手で押さえ、久しぶりの再会を恥じらうようにはにかむ。
 誰もが好感をもたざる得ない心の琴線をかき鳴らす笑顔だった。
 「久しぶりだね。貢くん」
 容姿に似合いの涼しげな声で、夕日に溶けた少年は挨拶した。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050709162155 | 編集
ブログ内検索
     © 2017 ロールシャッハテストB  Designed by 意地天
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。