ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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七話

 ずっと誰かのいちばんになりたかった。
 自分以外の誰かにとって絶対不可欠な、必要な存在になりたかった。
 それが分不相応な望みだとわかっていても、贅沢な願いだとわかっていてもどうしても諦めきれなかった。お袋のいちばんは常にその時付き合ってる男で、メイファのいちばんは酒乱の恋人で、俺はどんだけ足掻いたところで二人のいちばんにはなれなかった。
 足掻いても足掻いても無味乾燥なあり地獄の底深く落ち込むばかりだった。
 お袋もメイファも俺のことなんかどうでもよかった。
 お袋にとってもメイファにとっても俺は別に必要な存在じゃなくて、お袋に関して言えばいないほうがマシな邪魔者扱いで、だから俺はずっと、物心ついた時からずっと、誰かのいちばん大事な存在になりたかったのだ。

 俺のいちばん大事な奴が、俺のことをいちばん大事にしてくれる。

 ただそれだけのことが俺にはとんでもなく実現の望みが薄く思われた。
 俺の好きな人間が俺のことを好きになってくれる。そうなったらどんなにいいだろう幸せだろうと膝を抱えて空想してたガキの頃から俺は全然成長してない。
 本当言うと自分でも無理だと諦めていた。
 俺はどこへ行っても疎まれて嫌われて薄汚れた野良猫みたいに唾吐かれて足蹴にされる運命で、気まぐれで優しくしてくれる人間はいても心の底から俺を愛してくれる物好きなんてどこにもいるわけないと世を拗ねていた。
 でも、レイジに出会った。
 東京プリズンでレイジに出会った。
 俺のことを愛してると、俺の国の言葉で愛してると言ってくれた人間がいた。俺が他の誰より大事だと抱きしめてくれる人間に出会えた。
 レイジはお袋もメイファもくれなかった言葉をくれた、お袋からもメイファからも貰えなかった物をくれた。漸く願いが叶った。胸が熱くなった。視界が曇ってるのは涙のせいだろうか。おかげでレイジの顔がよく見えない。
 「ちょっと痛いけど我慢しろよ」
 俺の視線をどう取ったのか、レイジが気遣わしげに声をかける。
 レイジの首に腕をかけて頷く。
 正直、怖かった。これから待ち受ける行為に対する恐怖が先立って、膨大な不安が喉もとに込み上げて、俺は口数が少なくなっていた。痛いってどれくらいだ、なんて間抜けな質問はしなかった。しても意味がない。
 その代わり、レイジの背中に腕を回して強く抱きしめる。
 服を着てる時は華奢に見えたが、裸になると適度に肩幅があって精悍さが増した。肩甲骨が腕にあたる。呼吸に合わせて上下する肩甲骨の起伏、筋肉の躍動が腕に伝わる。レイジも俺と同じくらい緊張してるんだ、と思うとおかしくなって緊張がほぐれた。 
 こいつと初めて会った時はまさかこんなことになるなんて夢にも思わなかった。
 初対面の印象は最悪だった。右も左もわからないまま看守に背中押されて房に放り込まれた俺を一瞥、無関心にベッドに寝転がったままあくびを連発するレイジ。失礼な奴だなと憤慨した。次に胡散臭い奴だと怪しんだ。
 『なんて名前』
 そうだ。最初に名前を聞かれたんだ。
 『なんで笑わねーの。笑えば可愛いのにもったいねえ』
 『楽しくもないのに笑えねえよ』
 たしかそれがいちばん最初の、初めてレイジと交わした会話らしい会話だった。俺はただ当たり前のことを言ったんだ、楽しくもないのにへらへら笑ってる奴の気が知らねえと、へらへら笑ってるレイジの神経を逆撫でするのを承知で辛辣な皮肉を吐いたんだ。
 ところが予想に反してレイジは怒らなかった、それどころか唐突に笑い出した。ぎょっとした。こいつ頭がおかしいんじゃないかと真剣に疑ったのは自然な成り行きだった。レイジは俺の存在を無視して腹を抱えて笑い転げた、おかしくておかしくてたまらないといった具合に、なんでそんな簡単なことに気付かなかったんだと自分の馬鹿さ加減を笑いのめした。
 『そうだな。その通りだよな。俺、そうなりたかったんだよな』
 あれが、最初だった。始まりだった。あれから一年と半年が経った。今ではもう、レイジがいる生活が当たり前になって、レイジが隣で笑ってるのが東京プリズンの日常で、レイジの存在なしには俺の日常は成り立たなくて……
 俺はこれからずっとレイジと一緒にいたい。
 レイジが隣にいるなら東京プリズンのくそったれた毎日もそう悪くねえなって思える。
 だから、俺は。
 俺は。
 「……………っ」
 「力むとケツの穴締まるだろ。そうじゃない、力を抜くんだよ。全部俺に任せるんだ」
 レイジが耳元で囁く。
 熱い吐息を吹きかけられて耳朶が痺れる。頭がぼうっとする。
 体がおかしくなっている。レイジの唾液を刷り込まれた体が、快楽に馴らされた体が悩ましく疼きはじめる。俺は刺激に飢えていた。
 レイジの指が肛門から引きぬかれた時は物足りなさを覚えた。それまで三本の指がぎっちり埋まっていた肛門はだらしなく弛緩して充血した肉を覗かせたまま、ペニスを呑み込む準備は整ってる。
 硬く勃起したペニスの先端が肛門にあたる。
 ペニスが脈打つ。
 「……………」
 衝撃に備え、体の脇でシーツを握りしめる。
 怖い。恐怖で頭がどうかしちまいそうだ。呼吸が不規則に跳ねる。裸の胸が浅く上下する。暗闇に沈んだ天井を背景にレイジがゆっくりと慎重に動き出す。荒い息遣い、衣擦れの音、細長い指が肛門を捏ねくりまわす水音……
 「いくぞ」
 動悸が速まる。吐息が細切れになる。両手でシーツを握りしめる。強く強く、もっと強く。目を閉じてもレイジの気配を感じる。
 暗闇で活性化した感覚が、嗅覚が聴覚が触覚がレイジの気配を捉える。
 暗闇にほのかに漂うアルコールの匂い安物のウィスキーの匂い、レイジの荒い息遣い、獣じみて興奮した息遣い。首筋を滴り落ちる汗………
 「!!!ひ、あっ」
 体が弓なりに仰け反る。肛門を抉る灼熱感……先端が入ってきた。指三本とは比べ物にならない熱量と大きさの物体が肛門の入り口を押し広げて奥へ奥へと進んでく。
 「あ、ああああああああっああっ、ひあっ、いっ!!!?」
 陸揚げされた魚みたく体が勝手に跳ねる。凄まじい激痛が下肢を引き裂く。縫い綴じられた中心をこじ開けて押し広げて腹の奥を目指す塊の存在を感じる。生きながら内臓を攪拌される激痛に極限まで剥いた目からとめどなく涙が零れる。
 きつい、これ以上無理だやめてくれレイジ抜いてくれ死ぬ死んじまうこんなの本当に無理、喉が詰まって息ができない。
 肺に水が溜まってるみたいで、たっぷり水を吸って膨張した海綿が喉もとを塞いでるみたいに呼吸が苦しくて、ああ駄目だこんなの体が骨が軋んで悲鳴をあげる腹が熱い内臓がどろどろに溶けて体内を満たして………
 勢いよく踵を上げて空を蹴る、蹴る、何度も虚しく虚空を蹴り上げて意味不明支離滅裂な奇声を発して涙を散らして激しくかぶりを振る。
 「レ、イジっ、……不要太用力、こんなの全部入、んね、腹ん中あつっ……ひあぐ、あああっああっ!」
 痛い痛すぎて物を考えられない助けて誰か助けてくれ俺の腹ん中にぎっちり詰まってるコレを抜いてくれ死ぬ死んじまう腹の中から焼き殺されちまう内臓どろどろに溶かされて煮殺されちまう!!
 半狂乱で首を振る、尖った爪でシーツを掻き毟り喉仰け反らせ首うなだれて手足を振り乱して滅茶苦茶に暴れる、安っぽいプライドをなげうって全身全霊で許しを乞い助けを求める。ケツの穴にじゅうじゅう水蒸気を噴き上げる焼き鏝突っ込まれて内臓を掻き混ぜられてるみたいだった。
 本能全開の絶叫を撒き散らすしかない拷問の苦しみに、心底痛覚の存在を呪った。
 絶えず喉を焼いて迸る絶叫がコンクリ壁に反響して殷殷と鼓膜に沁みてめくるめく眩暈を喚起する。
 千切れる。引き千切れる。
 生温かい血のぬめりが太股を伝い落ちてシーツを斑に染める。
 ケツの穴が裂けた。処女膜が破れる時ってきっとこんな感じだ。
 「あ、ひ、あ………痛い、痛あ………」
 無我夢中でレイジにしがみつく。そうやって何かに縋ってないと体がばらばらに千切れてしまいそうだった。腹が熱い。レイジが容赦なく俺の中に入ってくる。ペニスの先端が直腸の襞を掻き分けて、いっそう硬さ太さを増した肉棒が血を潤滑油に、奥へ奥へと押し入ってくる。内蔵が圧迫圧縮される。嘔吐の衝動に襲われる。下肢の感覚はすでにない。激痛に麻痺した足にはもう空を蹴り上げる力も残ってない。
 「はっ、はっ、はっ………はっ……ふ………」
 「体の力抜けよ」
 「無茶、言うな、よ……これが限界、だよ……」
 「あと三分の一だ」
 こんなに苦しいのにまだ三分の二しか入ってねえのかよ。
 絶望的な気分で力なく首を振り、息も絶え絶えに訴える。
 「ぜんぜん、気持ちよくね……こんなの、痛いだけ、だ………」
 股間のモノはすっかり萎えていた。泣きたかった。肩を震わせて涙と鼻水を滂沱と垂れ流して幼稚にしゃくりあげたかった。太股を濡らす血のぬめりが気持ち悪かった。
 脳裏に像を結ぶ鍵屋崎の顔。
 売春班の隣部屋から聞こえてきた悲鳴、絶叫、嗚咽……ひっきりなしに通気口から漏れてきた声が殷殷と耳の奥によみがえる。あの鍵屋崎が、いつも冷静沈着に落ち着き払って他人を見下して奢り高ぶっていた鍵屋崎があんな惨めでみっともない声だすなんて俺には最初信じられなかった。タジマに何言われても何されても侮蔑的な態度であしらっていた鍵屋崎があんな、あんな悲鳴をあげるなんてと耳を疑った。

 辛かったんだな、あいつ。
 痛かったんだな。

 今、漸くわかった。本当の意味でわかった。
 鍵屋崎や他の連中がどれだけ辛かったか、あの一週間でどれほど深い地獄を見たか、生涯忘れられない苦しみを味わったか……俺は卑怯者だ。鍵屋崎が客に犯されてるとき何をしていた、ただじっと耳を塞いで部屋の隅で縮こまってただけだ。鍵屋崎が俺を恨むのは当たり前だ、俺は鍵屋崎に恨まれても仕方ない人間だ。なのに鍵屋崎は恨み言なんかひとつも漏らさず、それどころか、俺を庇ってくれて……
 『不好意思』
 ごめん。
 謝って済むことじゃないけど、謝りたい。俺が今味わってる痛みなんか鍵屋崎に比べれば生ぬるい、売春班の連中が味わった痛みに比べれば遥かにマシだ。俺は、仲間に恵まれてる。恵まれすぎてて気付かなかった、気付くのに遅れた。レイジだけじゃない。鍵屋崎もサムライも売春班の連中も、あいつらが俺のこと支えてくれたから、助けてくれたから、俺は今ここにこうしていられる。
 レイジと一緒にいられる。
 みんな、あいつらのおかげだ。
 「だれに謝ってんだ」
 レイジが不思議そうな顔をする。
 「内緒だよ」
 大丈夫、まだイケると少し休憩を挟んで呼吸を整える。レイジの背中に腕を回し、抱き寄せる。俺の腹とレイジの腹がぴたりと密着して二人の汗がまじりあう。
 贅なく引き締まった腹筋のうねり、呼吸に合わせて上下する胸郭の動きを感じる。
 「全部いれてくれ」
 「大丈夫か?」
 レイジが俺の前髪をかきあげて労わるように額の汗を拭う。頭のてっぺんからつま先まで汗でぐっしょり濡れそぼり、無気力にベッドに横たわった俺の体調を心配してるらしい。余計なお世話だ。レイジに心配されるほどおちぶれてねえ。倦怠の底から反発心がもたげ、レイジの目をまっすぐ見据える。
 「お前を全部、中に入れたいんだよ」
 慎重に体をずらし、ラクな姿勢をとる。少し動いただけで中に入ってるモンが擦れて激痛が走って瞼の裏側で火花が爆ぜた。今度こそ下肢が焼き切れたかと思った。苦鳴を漏らして上体を突っ伏した俺の肩にレイジが手をかける。
 そのまま、レイジの手に肩を支えられて激痛が薄れるのをひたすら待つ。
 「お前が欲しいんだ。レイジ」
 口を利く余裕を取り戻してから、真っ先に言った。
 俺は、レイジが欲しい。レイジと繋がりたい、もっとレイジを感じていたい。俺がタジマに犯されず東京プリズンで生き残れてこれたのは鍵屋崎や売春班の連中のおかげであって、こういう言い方は嫌だけど、虫唾が走るけど、あいつらが俺の身代わりになってくれたからで、だから俺は、処女捨てる相手がタジマじゃなくてレイジであることに感謝しなきゃいけないんだ。
 レイジに体を凭せ掛け、腕に身を委ね、決心を固めて瞼を下ろす。 
 大丈夫、まだイケる、まだ耐えられる。
 体をばらばらに引き裂かれる激痛にも耐えてみせる、耐えきってみせる、最後まで。
 不敵な笑みを拵えてレイジを促す。
 レイジも決断したらしく、今度は一気に押し入ってくる。
 「ひぎっ………あっ、あああああっああああっああああ!!!」
 肛門の出血が再開、生温かい血の雫が内腿を濡らして点々とシーツに落ちる。つま先が突っ張って臀部の筋肉が強張って異物の侵入に抵抗する。
 容赦なく筋肉を裂断する激痛に瞼の裏側が真っ赤に染まる。
 熱く脈打つペニスが血のぬめりを潤滑油に奥まで入ってくる。
 雄と雌の交わりみたいに、獣の交尾めいた荒荒しい腰つきでペニスが挿入される。喉が破裂するかと危ぶむほど甲高い悲鳴をあげて嫌々とかぶりを振って、潮にさらわれる砂浜に杭打つように尖った爪でシーツを引っ掻く。
 脳天に鉤を刺されて上へ上へと引っ張られる感覚。喉が引き攣る。肺から押し出された空気の塊が喉につかえて危なく窒息しかける。
 長かった。実際は五分もかからなかったが体感時間は五時間に等しかった。レイジのモンが根元まで全部おさまりきるまで俺は地獄を見た、麻酔もなしで下肢を真っ二つに引き裂かれて体を縦裂きにされる激痛に身悶えた。
 頭が朦朧とする。許容量を超す刺激に痛覚が麻痺したのか、脊髄を抜けて脳天を貫く激痛は次第に薄れ始めて、今は肛門に異物が埋まってる違和感と鈍痛を感じるのみだった。
 「あ………がっ………」
 「全部入った。よく入ったな、苦しかったろ?」
 レイジが愛情こめた手つきで俺の前髪をかきあげて誉めてくれた。苦しいなんてもんじゃなかった、途中何度も死んだほうがマシだと痛感した。
 閉塞した随道を拡張して容赦なく穿孔したペニスが俺の奥でどくどく脈打ってる、倍に膨張してる。レイジも相当きついんだろう、気丈に笑みを浮かべた顔にしとどに汗をかいてる。
 俺を気遣わせないためか、虚勢を張って余裕を演出していても体が辛いらしく息が上がっていた。顰めた眉が色っぽい。扇情的で官能的、たまらなく劣情を刺激する苦痛の表情に魅入られる。
 苦痛が快感に昇華する間際で刹那の恍惚の表情。
 「はっ………きつっ……お前のモン、奥にあたってる……」
 前髪の先端から滴った汗が目尻に流れ込んで視界がぼやける。俺もきっとレイジと似たような表情をしてるんだろう。苦痛か快楽か、痛いのか気持ちいいのかパッと見わからない恍惚の表情。白痴じみて宙をさまよう虚ろな目と酸素を欲してわななく半開きの唇、焦点を失った涎まみれの顔……
 ただ入れただけでこんなに痛いのに、この状態で動かれたらどうなっちまうんだろう。
 俺の心を見ぬいたようにレイジが宣言する。
 「動くぞ」
 「!まっ、」
 「待たない。最初に念押したろ、加減できねーって」
 レイジが意地悪く微笑み、俺の腰を掴んで動き出す。衝撃。激痛。腰で抉り込むように打ち込まれるペニスが襞をやすりがけて、体の奥、ちょうど前立腺の真下を刺激する。激痛に激しく身悶えていたのは最初だけで、ケツがこなれてペニスの出し入れの速度が上がるにつれて体に変化が起きる。
 「あっ、あっ、あっ、ひっ!?」
 痛いだけじゃない。それどころか、俺は感じ始めてる。唾液で潤されて指で馴らされた襞が物欲しげにひくついて、レイジのモンをぐいぐい締め付けてるのがわかる。それだけじゃない。激痛で萎えた股間がまた勃ち上がりはじめて、頭をもたげた先端に上澄みの雫を滲ませてる。
 怖い。俺の体が俺の体じゃないみたいだ。自分でも制御が利かなくて、声を抑えたくても無理で、レイジに腰を掴んで揺さぶられる度に体が弓なりに仰け反る。
 「あっあっあっあっあっ、あああっ、ふあっ……!!」
 怖い。俺が俺じゃなくなる。途中何度も理性が吹っ飛んで意識を手放しかける。理性が散り散りになるのが怖い、俺が俺じゃなくなるのが怖い、心と体が千々に引き裂かれるのが怖い。体から分裂しかけた心を現実に繋ぎとめるために必死にレイジに抱きつく、レイジの背中に爪を立てて肩甲骨のあたりを抉る。怖いこんなの初めてだ体験したことがない感覚怖い助けて壊れる死ぬ砕ける弾ける爆ぜる!!
 気持ちいいのか悪いのかわからない、今俺の口から迸ってるのが喘ぎ声か苦鳴か自分でも判然としない。ただ、体が熱くて熱くてたまらない。助けてほしい、掬い上げてほしい。溺れる者が藁をも掴む必死さでレイジにしがみつく、両手を背中に回して腹に腹を擦りつける。俺にのしかかるレイジ、何かを耐えるように眉を顰めてきつく口を引き結んで律動的に腰を突き入れる。
 濡れた音。淫猥な水音。
 俺の肛門に溜まった唾液と精液と血液がペニスに絡みついて、飛沫が跳ねる音。ぐちゃぐちゃと下品な音が鳴る。
 ケツにペニスを突っ込んで内臓を捏ねくりまわす音、大量に分泌された体液と体液が混ざり合う音。
 「はっ……すっげえきつい、ぐいぐい締め付けてくる」
 レイジが悪乗りして片頬笑む。野郎、人の気も知らねえで。仕返しとばかりレイジの肩甲骨に爪を食い込ませ、掠れた声で吐き捨てる。 
 「こっ、ちの台詞だよ……ケツ、に突っ込まれたモンが喉から出、ちまいそうだ!あっ、やめ、動くな、そこ、そこっ……」
 「感じてんのか嫌がってんのかわかんねーよ、どっちかにしろよ。物欲しげな顔しやがって」
 どんな顔だよ、知らねえよと心の中で突っ込むが口に出す余裕はない。今の俺は喘ぐだけでいっぱいいっぱい、酸欠の魚みたいくぱくぱく口を開閉するだけで精一杯なのだ。
 畜生レイジの奴なんだってこんな余裕なんだ、経験値の差かよ憎たらしい。
 俺だってもっと経験積んでればレイジに翻弄されっぱなしの醜態晒すことなく余裕に振る舞えたのにと内心歯噛みする。ああ、こんなことならもっと女と寝とくんだった抱いとくんだった。レイジの体は筋肉質で直線的で固くて艶美な曲線で構成されたメイファの体とは全然違う。メイファの柔肌、乳房の感触を反芻して自分に確認する。
 俺はやっぱり女がいい、女のほうが断然イイ……
 「ひあっあっく!?」
 突然、レイジの動きが激しさを増す。
 「ヤってる最中に他のこと考えるのは相手に失礼だろ?お仕置き」
 「!?なん、でわかっ……あっあっあっあああっ」
 「わかるよ、一年と半年お前を見てりゃ」
 動きが激しさを増すのに比例して快感が猛烈に加速、声が一音階高くなる。 喉が膨らむ。レイジは器用に腰を使う。緩急つけて挿入をくりかえして、俺も知らなかった未知の性感帯を掘り下げて、前立腺の真下を律動的に刺激する。
 脳髄を直接揺さぶられるような、あまりにも激しすぎる快感に本能的な恐怖を覚えて抗うもたちどころに押さえ込まれる。獲物の喉笛に噛みつく豹の獰猛さで、肉に飢えた本能と獣性を剥き出して、精力絶倫に腰を突き入れながらレイジが聞く。
 「今、天国の階段何段目?」
 鋭利な光が過ぎる隻眼を悪戯っぽく細めて、荒い吐息の狭間で囁く。夜目にも鮮烈に輝く茶色の虹彩が綺麗だった。相変わらず自信過剰な王様だ、少しは懲りろよと反感を煽られて唇を皮肉げに歪める。
 「……五段目。もうちょっと頑張れよ、王様」
 レイジが鼻白む。ざまあみろ。と、レイジが不意に体勢を変えて俺の腰を両手で掴んで前よりさらに深く奥へと突き入れる。一切遠慮がない腰の動きにたまらず悲鳴をあげて伸縮自在の芋虫みたいに身をよじる。
 「ひあっあっあっああああああっああ!!?」
 前とは比較にならない速度と激しさで間をおかず貫かれて脳裏で閃光が爆ぜる。ああ、余計なこと言うんじゃなかった俺の馬鹿レイジ挑発した結果がこれだ自業自得正真正銘の馬鹿だ!ぐちゃぐちゃ響く水音が行為の淫らさを引きたてる。血と精液と唾液が混ざり合った液体が直腸を満たしてペニスの滑りをよくする。痛みは既に感じない、俺はただ怖かった、気持ちがよすぎて頭が変になりそうでそんな自分が怖かった。だから必死にレイジにしがみついた、渾身の力で抱擁した。
 「気持ちいいか」
 「がっつくなよ、みっともね……あっ!」
 言葉が続かない。レイジが忍び笑いを漏らす。
 「今の自分の格好見ろよロン。憎まれ口叩いてても自分から腰振ってるじゃねえか」
 「ちが……」
 「違わねえよ。後ろ突かれただけでびんびんに勃ってるじゃねえか、前の方さわってねえのにさ。思ったとおり感度がいいな、お前。耳朶も乳首も太股もあちこち敏感すぎ」
 「ふあああっ……」
 レイジの指が体の上で踊り、乳首を抓る。たったそれだけの刺激で鋭い性感が生じて喉が仰け反る。乳首は固くしこっていた。充血して尖りきった乳首を指の腹でこねくりまわされて、同時進行で前立腺を突かれて頭の芯がじんと痺れる。今や俺のペニスは腹につきそうなほど反りかえって、透明な汁が孔から零れてる。
 イきたくてイきたくて頭がおかしくなりそうだ。
 射精の欲求に抗いかねて、射精に至る刺激が欲しくて、レイジに抱きつく腕の力をますます強める。鉄錆びた血の味が舌で溶けて喉を焼く。唇は切れて血が滲んでいた。限界まで喘ぎ声を噛み殺した証拠だ。もう駄目だ、これ以上は保たない、はやくラクになりたい。
 「イきたい?」
 頷きたくなるのをプライドが邪魔する。レイジに弱みを見せるのは癪だった。イきたくてイきたくて気が狂いそうなのに、腕はしっかりとレイジを抱きしめて腰は上擦って自分から進んで結合の度合いを深めてるのに、それでもまだ抵抗があった。素直に頷けばラクになれると、ラクにしてもらえるとわかっていても最後の最後の瞬間まで虚勢を張るのをやめられない。
 つまらない意地。安っぽいプライド。
 「あっあっああああああっああああああっあ!!」
 腰が弾む。尻が跳ねる。レイジが軽々と俺を抱き上げて手荒く揺さぶる、奥深く貫く、串刺しにする。目尻からとめどなく涙が零れて頬を濡らす、俺が跳ねるたび涙が虚空に飛散する。ベッドの脚がコンクリ床に擦れる音とスプリングの軋り音とが甲高い不協和音を奏でて鼓膜をひっかく。
 塩辛い涙が顔じゅうの孔という孔に逆流して、むせかえる。
 「レイジ、無理、もたねえよ……っあ、ふっく……」
 「イかせてくださいってお願いしろよ」
 強情に首を振る。俺も限界だけどレイジだってそろそろ限界だ。余裕ぶっこいてられんのも今のうちだ。
 「だ、れが頼むか、よ……ひっ…そんな恥ずかしい台詞吐くくれえなら、舌噛んだほうがマシ……だっ」
 「頑固者。ま、そういうところも含めて好きなんだけどな」
 「惚れた弱みだよな」とため息まじりにぼやきつつレイジが俺の股間に手を潜らせる。何する気だとぎょっとする。レイジが俺の股間をまさぐり、勃起したペニスを手に取り、見せ付けるように緩慢な動きで扱きだす。
 「手伝ってやるからイけよ」
 「結構だよ、下半身の介添えなんかいるかよ!?」
 血相変えてレイジの手を払おうとした時には既に遅く、俺の分身は完全にレイジに掌握されていた。
 レイジの手と腰が再び同時に動き出す。緩急自在に握力を調整してペニスを扱き上げて、硬く勃起したペニスで俺の体の奥まで貫いて……体の内部から直接前立腺を刺激されて、同時に性器を摩擦されて、快感が二倍に膨れ上がり血の巡りが加速する。イく。出る。尿道が酷く疼いて射精の欲求が急激に込み上げて体が制御できなくなる、怖い、どうなっちまうんだ俺……レイジ、レイジはどこだ?!
 「どこだ!?」 
 「ここだよ」
 癇癪起こした赤ん坊をあやすようにレイジが背中をさする。がむしゃらにレイジに抱きつく、沈没船から放り出された遭難者が嵐の海で板きれにしがみつくように必死に、わけわからないままレイジを抱擁する。レイジはいる。確かにここにいる。レイジの体温を、呼吸を、はっきり感じとる。
 「ああっ、あっ、ひっあっあっあっああっあっ……」
 「怖くない、大丈夫だから。俺も一緒にいくよ。お前を天国に連れてってやる」
 耳朶に吐息がかかる。背中を撫でる指に欲情の火照りを感じる。色々な光景が光に眩む脳裏に去来する。
 レイジと初めて会った時のこと。吸い込まれそうに透明な、造り物めいて精巧な、色素の薄い硝子の瞳。あの目は今、ひとつしかない。片方はサーシャに潰された。もはや永遠に開かない。
 豪快に扉を蹴破って売春班の仕事場に颯爽と乗り込んで速攻タジマを追い払った。好物の肉粽で俺を餌付けた。決死の脱出劇、痛快な救出劇。ペア戦開幕。破竹の快進撃、無敵の活躍。ペア戦中盤、レイジと仲違いをした。俺の不用意な一言がレイジを酷く傷付けて遠ざけた。ペア戦終盤、レイジは最後まで俺の為に戦った。全身ぼろぼろになって大量の血を流して、片腕の傷口を踏み躙られて背中を焼かれて左目を深々抉られて、いつ倒れてもおかしくない満身創痍の状態で、意識を失う限界までリングに立ち続けた。
 この一年と半年、本当に色々なことがあった。
 レイジと出会ってからの一年半で俺は変わった。独りぼっちじゃなくなった。最高の相棒と仲間を得た、くそったれた人生に生き甲斐を見出した。よかった。レイジに出会えて本当によかった、鍵屋崎やサムライや売春班の連中と出会えて本当によかった。俺は今最高に幸せだとレイジの腕の中でぬくもりに抱かれて確信する。
 俺はもう独りじゃない。
 抱きしめたら、抱きしめ返してくれる奴がいる。
 「レイジ。俺のこと、絶対に放すなよ。放したら承知しねえからな」
 レイジを失いたくない、奪われたくない。レイジの身も心も独占したい一心で強く強く抱きしめる、こいつは俺の物だと確かめるように腕に力を込めて背中を締め上げる。レイジが荒荒しく俺の唇を吸う。痛みを伴う程激しいキス、舌を絡め取り唾液を飲み干す濃厚なキス。無我夢中でレイジの唇を貪り、ぎこちなく舌を絡めて精一杯キスに応じる。口移しで俺に唾液を呑ませたレイジが名残惜しげに唇を放して言う。  
 「放すもんか絶対に。神様に説教されても悪魔に誘惑されてもお前を抱いたまま放さない。天国でも地獄でもお前と行けるとこならどこへでも行ってやるさ、この世の果てを見てきてやるさ。言ったろ?お前は俺の救世主だって。お前が俺を許してくれるなら、背中の十字架だって重くない。片目でも暗くない。お前が一緒に歩いてくれるなら、鼻歌まじりでゴルゴダの丘を乗り越えられる」
 レイジがへたな鼻歌をなぞる。ストレンジ・フルーツ。リンチで殺された黒人がポプラの木に吊るされてる、それはまるで奇妙な果実のよう……甘い歌声に哀切な詞を乗せた唄が暗闇に流れる。
 「そこに俺を吊るすためのポプラの木が立っていても、俺を磔にする為の十字架が立っていても怖くはない。俺にはお前がいる、ロンがいる。それだけで幸せだから、生まれて来て良かったって実感できるから」 
 「レイジ、イく、イくっ……!!」
 「愛してる。ロン」
 レイジが真心を込めて囁き、力強く俺を抱く。俺もレイジを抱く。二人してしっかり抱き合う。ああ限界だ、イく。レイジの腰の動きが速くなる、俺の腰が浮く。出口を求めて体内で暴れ回る快感―……

 ―「あああああああああっあああああっああ!!!」―

 脳裏で閃光が爆発する。瞼の裏側が漂白されて一時的な失明状態におちいる。射精の瞬間。ペニスがびくびくと痙攣して先端の孔から白濁が迸り出る。宙に弧を描いた白濁がレイジの下腹に飛び散り、胸や顔にも付着する。恍惚、脱力、弛緩、倦怠。絶頂に達した俺は、汗で一面ぐっしょり濡れそぼったシーツの上に身を横たえて、気だるく鈍重な動作でレイジを仰ぐ。
 レイジは微笑んでいた。愛しげに俺の前髪をかきあげ、手櫛を入れて髪を梳いていた。
 無意識に片腕を宙に差し伸べ、空を掻く。
 「レイ、ジ……」
 何を言おうとしたのか自分でもよくわからない。ただ、どうしてもレイジに伝えたいことがあって、でもそれが何かわからなくて、すごく大事なことなんだけどその核心が掴めなくて、もどかしさに歯噛みする。
 レイジの顔が焦点を失い、急速にぼやけて遠ざかる。疲労で目が霞み、遠近感が狂い、目標を見失った五指がむなしく宙を掻く。
 そして、俺の意識は途切れた。

 鉄扉が開閉する音で目が覚めた。
 といっても俺の房じゃない、隣の隣の房だ。
 騒々しい足音に覚醒を促されて瞼を押し上げる。
 誰かが大急ぎで廊下を走っていく。誰だ朝っぱらから、近所迷惑だっつの……寝ぼけた頭で呪詛を吐く。 
 待てよ、朝?
 手の甲で瞼を擦り、二三回目をしばたたき、あたりを見まわす。房に立ち込めた闇は藍色に明るんで朝の訪れを告げていた。夜明け。廊下の奥から今さっき走り去ったガキの声が遠く聞こえてくる。
 「なんだよ朝っぱらから、寝ぼけて徘徊してんなら洗面台に顔つけるぞ」
 夜明けの空気を震わせてかすかに廊下を伝わってきたのは、声量を絞った話し声。
 「ちげーよ馬鹿、寝ぼけてんのはどっちだよ。ほら、今日は例の日だろ。看守の言ったこともう忘れたのかよ、めでてえ頭だな」
 「ああ?……ああそうか、例の日ね。くそ、すっかり忘れてたぜ!こちとら余裕ぶっこいて寝てたってのによ。囚人こき使うのいい加減にしてほしいぜ、タジマのアレで少しは懲りたかと思ったのに」
 「人手不足なんだろ。ほら、五十嵐とタジマがいなくなったからさ」
 「二人ぽっちいなくなったくらいで人手不足かよ……まあ、五十嵐は真面目に働いてたからな。他の看守がさぼってるときでも、さぼってる奴らの分までマメに働いてた」
 「五十嵐いなくなるの、寂しいな」
 「うん」
 格子窓を挟んで会話してた片方がしんみりと呟き、もう一方が同意する。 
 俺も同感だ。
 「それはともかく、愚図愚図してっとまた看守に大目玉だぜ。昼には新人が大挙してやってくるから、それまでに視聴覚ホールに行ってスクリーン下ろしとかなきゃ」
 「くそっ、面倒だなあ。右も左もわからねえ新人のお守りなんて損な役回りだぜ」
 「ブラックワークの連中よりマシだろ。プラスに考えろ、プラスに」
 集中力を高めて耳傾けてるうちに内容が呑みこめてきた。察するに、看守に雑用を命じられた囚人が二人愚痴を言い合ってるのだ。鉄扉の蝶番が軋り、格子窓越しに会話してた囚人が不承不承廊下に出てくる。眠い目を擦りながら廊下に出た囚人が相棒と連れ立って歩き出す姿がまざまざと脳裏に浮かぶ。
 二重の靴音が遠ざかり、再び廊下が無人になる。
 静寂が鼓膜に沁みる。俺はまだ半分寝ぼけていて、毎朝の習慣でとにかく顔を洗おうと毛布をどけて上体を起こした途端、身も世もなく悲鳴をあげる羽目になった。
 「っ、い…………!!?」
 下半身を激痛が襲った。なんだ、これ。おそるおそる尻をさする。そこで漸く頭の芯に纏わりついていた眠気の靄が晴れて昨夜の記憶が甦った、鮮明に。反射的に毛布を剥ぎ取り下半身を確かめる。
 裸じゃなかった。ちゃんとズボンを穿いていた。一瞬夢かと思ったが、腰に蟠る倦怠感と尻の激痛が現実なら、俺が意識を失った後にレイジが後始末してくれたことになる。
 ふとあることに思い至り、シーツに隅々に目を凝らす。あった。昨夜のあれが夢じゃない証拠に、シーツのあちこちに乾いた血痕がこびりついていた。ズボンに手をかけて太股を覗き込めば、内腿にも血を拭き取ったあとがあった。
 ……そうだ。俺はあの後気絶して、それから……それから?覚えてない全然。記憶がない。いや待て、ほんの少しだけ覚えてる。
 眉間に意識を集中、夢か現実か区別がつかないがおぼろげながら覚えている断片を繋ぎ合わせて記憶を再構成する。あの後再びレイジがのしかかって俺の膝を掴んで広げて突き入れて、っておい、じゃあ何か俺はまたあれから一回か二回か三回かイッたことになるのか、ぶっ続けで抱かれたことになるのか?どうりでケツが痛いわけだ。レイジの奴、無茶しやがって。
 ひりひり疼くケツをさすりながら、起き上がるのは無理っぽいから慎重にベッドに身を横たえる。
 そして、びびる。目の前にレイジの寝顔があった。
 「!?」
 一瞬心臓が止まった。すぐ隣に寝てたのに全然気付かなかった、寝起きとはいえ俺も間が抜けてる。発作的に跳ね上がった動悸がおさまるのを待ち、しげしげとレイジの寝顔を見つめる。
 レイジは全裸で大事なところだけ毛布をひっかけていた。素っ裸で寝て風邪ひかないのかコイツと呆れたが、寝る前に俺に服を着せてくれたんだなと有り難く思う。俺は寝相悪いから服着せるのにひどく手こずったんだろうと想像するとおかしくなる。ただでさえ意識のない人間に服を着せるのは至難の技だ。俺の体をひっくりかえして手取り足取り苦労しつつ袖に腕通してズボンを穿かせてと、こいつも頑張ったんだろう。
 くすぐったい気持ちでレイジの寝顔を眺める。
 「幸せそうなツラしやがって。ちょっとは人のこと考えろっての、今日も強制労働なのに……シャベル上げ下げするたびケツが裂ける激痛味わうなんてぞっとしねえよ。おい。聞いてるのか王様」
 熟睡中の奴に文句を言っても始まらない。腹が立って、レイジの鼻をつまむ。面白い顔。美形が台無し。
 「…………夢の中、か。にやけやがって、憎たらしい」
 どうせスケベな夢だろ。世界中の美女侍らして絢爛豪華にハーレム気取ってんだろ。レイジの鼻から指を放してしばらく寝顔を眺める。眼帯が少しずれて左目の傷痕が覗いていた。それさえ除けば本当にあどけない、安らかな寝顔だった。こんなに無防備でいいのかよとこっちが心配になってくる。
 
 左目の傷痕を眺める。
 完璧に整った顔の中で、たった一箇所、そこだけ無残な傷痕が穿たれた左目を。
 
 ベッドに肘をつき、レイジを起こさぬよう用心深く上体を倒し、間近で顔を覗きこむ。起きる気配はない。ぐっすり眠ったレイジにおそるおそる顔を近付ける。衣擦れの音がかすかに耳朶にふれる。
 心臓の鼓動が高鳴る。緊張で手のひらが汗ばむ。
 俺の吐息で睫毛が震えて、レイジの頬に物憂げな影がさす。
 眼帯の上からそっと左目に接吻する。
 直接傷に触れたら痛いかもしれないから、眼帯の上に唇を落とす。
 
 『お前が俺を許してくれるなら、背中の十字架だって重くない。片目でも暗くない』

 俺は、レイジの光になれるだろうか。
 レイジが失った目の代わりになれるだろうか。
 
 レイジの左目と右目を見比べ、瞼を下ろした右目の上に手を翳して、真剣に呟く。
 「お前の右目は、何があっても守るからな」
 「期待してる。右目が潰れたらお前の顔が見れなくなるもんな」   
 レイジがうっすらと瞼を開け、くすぐったそうな笑顔を覗かせる。人肌にぬくもった寝床でまどろみながら幸せを噛み締めてる、無邪気なはにかみ笑いだった。
 レイジが俺の頭に手を伸ばし、自分の胸に抱きそこねて空振りする。片目になって日が浅いせいで遠近感が上手く掴めないらしい。顔の横であっさり空を切った腕を一瞥、わざとらしくため息をつく。
 「格好つけるからだよ。空気抱いて寝てろ、王様」
 「ちげーよ、今のはフェイントだよ。バスケの基本。お前ってば単純だからすぐ騙されるのな。つまりだ、俺が言いたいのは……」
 ベッドに起き上がったレイジが右目を指さし、最高のジョークを思いついたとばかりにご機嫌に笑う。 
 「これがホントの『一目ぼれ』ってな」 
 ……いや、笑えねーからそれ。全然。 
 一夜明けて早々にこいつに処女くれてやったことを後悔した。

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050711154514 | 編集
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