ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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五話

 「ふあっ……!?」
 口から変な声が漏れた。
 自分の声だなんて信じられなかった。
 レイジは何ら抵抗なく裸の股間に顔を埋めた。萎えたペニスを右手で支え持ち、左手を根元に沿えて立ち上げて、ゆっくりと口腔に含み、ぴちゃぴちゃ下品な音たてて捏ねくり回す。
 レイジの口の中は熱かった。舌がぬるぬると動いていた。とろりとした唾液がペニスに絡みついてすごく変な感じだった。
ふいに昔の記憶が甦る。
 俺が生まれ育った池袋スラム、日本に根付いた台湾人の街。線香の煙が濛々と立ち込める廟の一角には揚げ餅や駄菓子を売る屋台が出ていて、やたら滅多ら威勢のいい男たちが胴間声をはりあげてガキ相手に商売していた。
俺が思い出したのは、水飴だ。
 透明な壜に入ったとろりと光沢のある水飴、人さし指につけて舐めると歯が根元から溶けそうに甘かった。屋台の親父はその水飴を一壜いくらで叩き売ってたんだが、お袋に飯抜かれて腹ぺこだった俺は、何回かその壜をくすねたことがある。勿論水飴じゃ腹はふくれないが、ちびちび大事に舐めてれば少しはひもじさをごまかせる。でも、すぐに手がべとべとになるのには辟易した。
 手のひらに水飴を零せば指と指が粘ついて、五指を開け閉めするたびにちゃにちゃ透明な糸を引くのだ。
 たとえば、割り箸に水飴を絡めるところを想像してほしい。割り箸をたっぷり水飴に浸して舌で引き延ばしていくところを想像してほしい。フェラチオはちょうどあんなかんじだ。水飴が唾液で、割り箸がペニス。
 ただ違うのは、俺のペニスは水飴を絡めた割り箸みたいに甘くないってことだ。
 正直、こんな物を平気で口にできるレイジの正気を疑う。
 「うっ………は、あ」
 変な、感じだ。体が熱い。レイジの口の中では唾液が泡立っていた。やっぱりレイジはこの手のことにおそろしく慣れてる。きっとレイジなら虱の沸いた売女の股間だろうが綺麗に剃毛された尼僧の股間だろうが、醜悪さに眉ひそめることなく、不潔さに抵抗を覚えることなくさらりと口をつけて体液を啜ることができるんだろう。蚊みたいに。
 レイジは行為中も上目遣いに俺の反応を確かめながら、顎の角度を調整したり舌の動きを変えたりとたゆまぬ工夫を凝らしていた。サービス精神旺盛な男娼。野郎、余裕と自信ありまくりで癪にさわる。レイジの肩に手をかけ押し返そうとしたが、ペニスに絡み付く舌がそれをさせてくれない。ねちっこい。ぺちゃぺちゃ唾液を捏ねる音が暗闇に響く。排尿感に似たもどかしさを覚え、レイジの肩に爪を立てる。
 「レ、イジお前ふざけるのも大概にっ……し、ろ!」
 喘ぎ声を噛み殺し、息も絶え絶えに反駁する。男の意地に賭けて断言するが、俺は早漏じゃない。早漏じゃないが、そろそろやばい。レイジの口の中でペニスが勃ち上がりかけて、先端に血が集まりだしたのがむず痒い感覚でわかる。
 小便を限界まで我慢して膀胱がはちきれそうになった時によく似た、尿道の掻痒感。 
 レイジは手と舌を巧みに連動させて用いてあっというまに俺のイチモツを「一人前」の状態に仕立てあげちまった。ひょっとしたらお袋よりメイファより上手いかもしれない、何がってフェラチオが……いや、そんなことはどうでもいい!万一レイジの口の中で射精しちまったら男の沽券に関わる一大事、俺はこれから一生レイジの顔をまともに見れなくなる。だってまだフェラチオが始まって五分も経ってねえのに畜生、これでイッちまったら早漏決定じゃんか!
 羞恥心に火がついた。
 これ以上レイジの好きにさせてたまるかと決心。腕に渾身の力を込め、無理矢理レイジを引き剥がす。必死の抵抗。これ以上体を好きにされるのはたまらない、こんな卑猥な行為耐えられないと頭の片隅に居座った理性が悲鳴を上げる。
 そりゃ確かにレイジは経験豊富で滅茶苦茶上手くて、舌の使い方や指の添え方に至るまで文句の付け所がなくて、俺を最高に気持ちよくさせることもわけないんだろう。
 レイジが本気を出せば十秒で俺をイかすこともできる。だが、奴は手加減した。すぐにイッたらつまんないからと手を抜いていた。ツラを見ればわかる。俺のペニスをしゃぶってる間じゅうレイジは満足げに、優越感に酔って笑っていたのだから。
 「お前まともじゃねえよ、よくこんな物しゃぶれるな!?」
 俺は怒っていた、それ以上に混乱していた。レイジがこんなに上手いなんて知らなかった。そりゃ本人が自慢してたし話にも聞いてたが、実際体験してみて初めて真実味を帯びて迫ってきたというか、体に思い知らされたというか……くそ、うまく言えねえ。
 とにかく、ここで一発ガツンとかまさねーとますます王様が調子にのっちまう。レイジの肩を掴み、呼吸が整うまでしばらく待ち、続ける。
 「こんな……こんな、汚ねえだろ普通に考えて!?そりゃ俺だって童貞じゃねーしフェラチオやってもらったことくらいあるけどその、まあなんだ、男同士でこういうのはちょっとどうかと思うよ!やっぱナシ、こういうのナシでいこう、約束はきっちり守るから俺が目え瞑ってるうちにぱぱっと済ませてくれよ!ちょっと後ろ向いて我慢してりゃすぐ終わるだろ、こんなコト意味ねえ……」
 「意味ならあるぜ。ロンが気持ちよくなんなきゃ始まんねえ」
 レイジが意味ありげに笑う。
 「お前勘違いしてねーか。セックスってのはおたがい気持ちよくなんなきゃ意味ねーの。一方だけ気持ちよくなったんじゃ相手の体使って自慰してるのと一緒だろ?ま、中にはそういうのがイイ奴もいるけど……一夜を共にする相手には頭のてっぺんからつま先まで舐め尽くして最高に気持ちよくなってもらうのが俺のやり方なんだよ」
 悪魔みたいにほくそ笑むレイジをあらんかぎりの憎しみ込めて睨みつける。視線に熱量があるならたちどころに灰にできそうな眼力を込めてはみたが、やっぱり俺じゃどうしたってレイジに太刀打ちできない。どうしようもない現実、力の壁。さっきからレイジに翻弄されてばかりで悔しい、情けねえ、みっともねえ。レイジの前で足開いてペニス咥え込まれて、俺は壁際でじっとしてるだけか?喘ぎ声我慢して唇噛んでるだけかよ。頭の中がぐちゃぐちゃだ。半端に理性が残ってるのがなおさら辛い。
 観念して目をとじて、後頭部をコンクリ壁に預ける。
 「恥ずかしいよ……」
 「暗闇だから気にすんな」
 レイジが喉の奥で笑い声を立て、再び股間に顔を埋める。反射的に足を閉じようとしたが、レイジに手でこじ開けられる。そうはいくかと太股に力を込めて対抗する。力比べに勝利したのはレイジで、俺の両膝に手をかけてぐいと強引に押し広げる。いくら暗闇で見えなくても恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ馬鹿、こんなポーズとらせるんじゃねえよ。股間にじっと視線が注がれてるのがわかる。願いが叶うなら今すぐ発狂したかった、全身の血が燃え立つ恥辱を味わって閉じた瞼から涙が滲み出た。
 首を傾げて俺の股間を覗きこんでいたレイジが、人さし指を先端にひっかけて揶揄。
 「可愛いペニス」
 『可愛?!』
 待て聞き捨てならねえ台詞だ。可愛い?悪かったな可愛くて、そりゃお前のご立派なモンと比べたらお粗末だよ。なんだ、自慢か?さりげなく自慢か?自分のほうが男として格上だって自慢してるのかコイツ。いいのかよ俺言われっぱなしで、ガツンと一発……
 「!ひっ、あ」
 矢のように鋭い性感が尿道を貫き、脳天に抜ける。体が撓り、踵が跳ねる。シーツを掻き毟り、悩ましげに悶える俺をレイジは愉快げに眺めていた。意地悪くほくそ笑んで見物を決めこんでいた。熱っぽく潤んだ目に憤怒を滾らせて、王様の涼しげなツラを睨みつける。
 信じらんねえ。こいつ、俺のイチバン敏感な部分を指でピンと弾きやがった。痛い。マジ痛い。五指で掻き毟ったシーツに皺が寄り、性感の喘ぎか忍耐の苦鳴か、自分でも判然としない声が口から漏れる。
 もうこれ以上体がもちそうにない。限界だ。早くイかせてほしい。中途半端でやめられるのがいちばん辛い。生殺しだ。レイジの手で強引に開かれ両足の間、素っ裸の股間にはみっともないモノが勃ちあがってる。レイジのそれとは比べ物にならないほど軟弱なペニスに劣等感を抱きつつ、切れ切れに催促する。  
 「ふざ、けるなよ……お前のお遊びに付き合ってる暇ねえんだよ、とっとと本番入れよ」
 「いいのか?体馴らしとかないと後が辛いぜ。あせるなロン、せっかちは嫌われる。物事には順序がある、セックスには順番がある。前戯すっとばしたらお楽しみが半減だ」
 「恥ずかしいんだよこの格好、何度も言わせるなよ!」
 こめかみの血管が熱く脈打つ。レイジは完全にこの場の支配権を握っていた、さながら暴君のように俺の上に君臨してた。俺が泣こうが喚こうが吠えようが暴れようがてんで意に介さず、ただ笑ってる。
 苛立ちをこめ、体の脇でこぶしを握りこむ。
 暗闇の中で羞恥心の熾き火をかきたてられ、全身の血が沸騰する。
 嗚咽の衝動が急激に込み上げてきた。泣いてたまるか。我慢しろ。根性で涙腺を引き締めろ。もうこれで勘弁してくれ、イかせてくれとレイジに頭を下げて懇願したい欲求をねじ伏すのが大変だった。
 口腔の粘膜がペニスを包みこんで、五指が繊細な動きで竿を扱き上げる。息が上がる。びくりと体が強張る。片手を口にあてて声が漏れるのを防ごうとするが、駄目だ。
 「んっ、んっ、んっ……う!」
 指を噛んで声を堪えても、腰が快感に弾んでしまう。
 「気持ちいいのか」
 「よく、ねえ……あっ!」
 「強情っぱり」
 レイジがあきれ顔になる。うるせえ。意地でも「気持ちいい」なんて言うか。コンクリ壁に後頭部を預け、首を仰け反らせる。肩が断続的に跳ね上がり、呼吸が性急に速まる。頭がおかしくなりそうだ。熱くて熱くて気が狂いそうだ。股間がむず痒い。下半身に血が溜まっていく。レイジの舌を感じる。貪欲に柔軟に、レイジの口の中で動く舌。蛭の吸引力でペニスに絡み付いたかと思えば素早く離れて、亀頭を舌先でくすぐり、唾液の筋を付けて竿を這い、先端から根元にかけて根元から先端にかけてくりかえし舐め上げる。
 「本当はどうなんだ。気持ちいいんだろ」
 「よく、ねえって言ってんだろ自信家。その性格治さ、ねえと、女もダチもなくす、ぜ」
 目尻に涙が滲む。体が熱い。全身の細胞がドロドロに溶解してく感覚。イきたい。一分一秒でも早くイきたい出したいイきたくて気が狂いそうだおかしくなりそうだ。気付けば俺はレイジの後頭部に手をやって、物欲しげに股間に押し付けていた。もっともっと快楽を得たくて快感が欲しくて、腰が上擦り始める。
 「言ってることとやってることが違うじゃねえか」
 レイジが鼻で笑う。嫌味な顔。恥辱で顔が赤らんで視界に涙の膜が張る。涙で撓んだ視界にぼんやり映りこむレイジの顔、コンクリ打ち放しの房の暗闇、配管剥き出しの殺風景な天井……それら周囲の景色が混沌と渦巻いて眩暈がする。
 熱を放出したくてたまらないのに、射精したくてしたくてそれしか考えられないってのに、俺が達しそうになるのを見計らってレイジが手の速度を緩めるから……
 イきたい。東京プリズンに来てからもレイジがいない間に自慰したことはある……が、他人の手で擦られるのと自分の手でやるのじゃまるで違う。
 股間に顔を埋めたレイジを見下ろす。
 唇の隙間から抜き差しされるペニスは生き物みたいに脈打っていた。根元に手を添えて、片手で竿を扱いて、笛を吹くみたいに咥える。強弱つけて唇で吸い、舌を絡める。
 奉仕する側とされる側が逆転したような奇妙な、それでいてとても淫らな光景。
 俺は固く目を閉じてレイジの手が加速してくれるのを祈った。レイジの頭後頭を手で押さえて、裸の背中でコンクリ壁を這い上るように腰を浮かせる。吐息が乱れる。呼吸が荒くなる。次第に余裕がなくなる。口から声が漏れる。淫売みたいに濡れた喘ぎ声……嗚咽とうめきが入り混じったくぐもり声。
 声に弾みがつく。腰に弾みがつく。知らず知らず足を大胆に開き、腰を前に突き出し、自らレイジを迎え入れる体勢をとる。素っ裸の股間を無防備に外気に晒して、痣と擦り傷だらけの太股にレイジの頭を挟んで締め付ける。 
 「イきたい?」
 「……イ、きたくね……」
 なけなしの自制心を振り絞り、強情に首を振る。
 レイジに弱みを見せるのは嫌だ、調子づかせるのは癪だ。心と体が分裂する。体が貪欲に快感を求め始める、快楽を貪り始める。こんな……こんなの嘘だ。俺が自分からレイジにねだってるみたいな、積極的に奉仕に応じてるような、奉仕を手伝うように股をおっぴろげてるなんて嘘だ。相手はレイジなのに、男なのに、徐徐に抵抗が薄れ始めてるのか?すべての輪郭を曖昧にする暗闇で、粘着質に唾液を捏ねる音が行為の淫らさと疚しさ引き立てる。
 腰が溶けそうだ。蕩けそうだ。
 「我慢は体に悪いぜ。素直に『イきたい』って言やイかしてやってもいいんだけど」
 野郎、主導権握ってるからって調子のりやがって。
 「だ、れがお前のテクでイくか、よ。ここに来るまで何人何百人女や男抱いてきたんだか知らねえが自信持ちすぎだ、フェラチオなら俺のお袋のがよっぽど上手いしキスならメイファのほうが……、っひい!?」
 語尾は悲鳴にかき消された。
 レイジが突然、俺のペニスを握ったのだ。
 ぎりぎりで塞き止められて、限界まで張り詰めて、先端に透明な汁を滲ませていたそれを。無造作に。手加減なく。握り潰そうとしたのだ。
 欲張りなガキが、玩具を独占するみたいに。
 「痛あ、ああっああああっ、いっ……馬鹿、手え放せ、いてえよ!!」
 しきりに身をよじり激痛を訴えるがレイジは放してくれない。片手でペニスを包んで力を込めれば、尿道を圧迫される激痛に腰が浮き沈みをくりかえす。ペニスが充血、膨張する。きつく栓を締められたペニスは俺の腹に付きそうなほど急角度にそそり立ってうっすら汗をかいている。
 「レイジ、マジでやめっ……」
 「イきたい?」
 「ふざけるな、そこ男の急所だぞ!蹴られたらいちばん痛え場所だぞ、そんな風に掴んだらっ……」
 「小便漏らす?」
 「わかってんなら言わせるなよ、血尿でそうだよ!」
 首を仰け反らせ、うなだれ、両手でシーツを掻きむしる。全身の毛穴が開いてしとどに脂汗が噴き出す。レイジの手をはねのけようと必死に暴れてみるも、スプリングが軋む音が虚しく響くだけで効果がない。
 「いたっ……レイジ、手……」
 「どうしてほしいんだ」
 「どけ、ろ」
 「本当にどけていいの。物足りなくね?」
 刺激が欲しい。はやくイきたい、ラクになりたい。
 擦って扱いてほしい、途中でやめないで一気に……
 「………そこ掴まれると、イけね……」
 耳朶にふれる衣擦れの音。格子窓から射した光がピアスに反射、レイジの横顔を暴き出す。勝ち誇った顔。壁に背中を凭せ掛けて、欲情に目を潤ませて、だらしなく弛緩した口元から一筋涎を垂れ流した俺を隻眼で見上げてレイジは口元を緩める。
 口から垂れた唾液が顎を伝い、喉へと滑り落ちる。粘り気ある液体が喉沿いに緩慢に滑り落ちる感覚……生温かく粘り気ある感触。
 錆びた軋り音が上がる。レイジが膝立ちになり、スプリングに体重がかかる。膝這いに俺へとにじり寄ったレイジが、肩に顎をのせ、耳朶に口を寄せる。
 「ロン。今のお前、めちゃくちゃいやらしい」
 熱い吐息が耳朶を湿らす。体の表面がひどく敏感になってるせいか、耳朶に吐息を吹きかけられただけでぞくりと快感が走った。涼やかに鎖が流れる音……レイジの首にぶら下がった十字架が揺れて、玲瓏の旋律を奏でる。
 俺は十字架に目をやった。
 格子窓から射す僅かな光を吸いこんで、神秘的にきらめく黄金の十字架。
 催眠術の振り子のように一定の間隔で左右に振れて、ブレて、俺を眩惑する黄金の光の弧。
 レイジの声がすぐそば、吐息が睫毛を震わす距離で聞こえる。耳朶をくすぐる距離から響いてくる。
 「半開きの口から涎たらして、その涎が喉を伝って、へその窪みへと滑りおちる」
 「!あっ、」
 耳朶を噛まれる。
 「色っぽく眉しかめて、熱っぽく目を潤ませて、喉を仰け反らせて、もうたまんねえって顔してる。熱を煽られて余裕がなくなって、今にも理性が吹っ飛んじまいそうな、そんな顔。酸欠の魚みたいにみっともなく喘ぐなよ。どうした?腰が上擦ってるぜ。手をどけてほしいんじゃないのかよ。お前のペニスと来たら物欲しげにひくついて、イきたくてイきたくてしょうがねえって具合にびんびんに勃ってるぜ」
 「口縫い合わせるぞ」
 股おっぴろげて凄んでも効果はなかった。涙目の脅迫じゃ虚勢を張ってるとバレバレだ。痛いんだか気持ちいいんだか頭が朦朧として次第にわけがわからなくなる。体の皮膚が全部性感帯に造り返られたみたいにじれったく疼いて、射精に至る刺激に飢えて、太股が不規則に痙攣する。
 太股に震えがくる。ペニスに血が集中する。快感に溺れる。
 「はっ……あっ、あっ、あっ」
 「本当はイきたいんだろ。素直になりゃご褒美にイかせてやってもいいぜ。どうして欲しいか言えよ」
 栓を、外してくれ。手で擦ってくれ、扱いてくれ。 
 プライドをかなぐり捨ててそう泣きつきたかった。レイジが舌を出して目尻の涙を舐め取る。舌が、顔を舐める。顔じゅうしつこく舐めまわして唾液まみれにする。親猫が子猫の目脂を舐め取ってやってるみたいな無邪気さ。
 「男誘うみたいに腰揺すってるくせに。あんまり良すぎて涙ぐんでるくせに」
 「な、んで俺の表情がわかんだよ……暗闇で」
 「わかるよ。視力いいから」
 電気消しても意味ねえじゃん。だまされた。
 「そろそろ限界だろ。どうして欲しいんだ」
 「………っ、」
 言いたくねえ。絶対言いたくねえ。ちぎれんばかりに首を振り、レイジの誘いを拒絶する。
 熱い舌が耳の穴に捻じ込まれる。手が動く。俺のペニスはレイジに掌握されてる。このとんでもなく意地の悪い、我侭な王様に掴まれてる。
 握り潰すもイかせるも王様の気分次第ってわけだ。
 理性が蒸発する。尿道の疼きが最高潮に達する。
 激しい葛藤に苛まれる。プライドを選ぶか、快楽を選ぶか。レイジはもう口を使ってない、ただ竿の部分を握ってるだけだ。先端の孔を指で封じて射精を塞き止めて、にやにや笑いながら俺の様子を探ってる。
 腰が上擦る。粗くざらついたコンクリ壁が裸の背中を擦る。駄目だ。イきたいイきたいイきてえイきて……イきてえ!!
 レイジの手の中の竿が俺の鼓動に合わせてドクドク脈打ってる。
 「イ、かせろ……」
 俯き、吐き捨てる。頬に血が上る。頭を掻きむしり転げまわり喉裂けるまで絶叫したい衝動に駆り立てられるが、懸命に耐える。暗闇に白い歯を零して、レイジが冷笑する。
 「具体的にどうして欲しいか言ってくれなきゃわかんねーよ」
 そんな恥ずかしいこと口が裂けても言えねえ。奥歯を噛み縛り、腹の脇でこぶしを握りこんで急沸騰する怒りを押さえ込む。 
 「!!ひ、あっ……」
 片手で睾丸を揉みこみ、片手をゆっくり動かす。俺が達しないよう慎重に指を滑らして熱を追い上げる。指でちょっと擦られただけで腰全体が快感にとろける。
 「このままやめていいのか。そうか、ロンはお預け食うのが好きなのか?最後までイかずに中途半端でやめて苦しい思いするのが好きなのか。じゃあこのままやめてもいいよな、退屈なフェラチオはこれにて終了で次のステップに……」
 「やめ、るな!」 
 「だっていやなんだろ。気持ちよくないんだろ」
 首を振り、はっきりと否定する。俺はもうヤケになってた、どうにでもなれと開き直った。
 透明な汁が先走ったペニスは、腹につくほど屹立してドクドク脈打っていた。
 「イ、かせ、ろ………」
 嗚咽をこらえてレイジにしがみつく。レイジの肩のあたりを掴み、窒息してもかまうものかと胸板に顔を伏せ、駄々をこねるように首を振る。
 「擦って、扱いて……口で咥えて、気持ち良くしてくれ。イかせてくれ。もっとはやく手を動かして激しくしてくれ、俺が何も考えられなくなるくらいにめちゃくちゃによくしてくれ!!!」
 とうとう言っちまった。一息に願望をぶちまけた虚脱感でぐったりと肩が落ちる。真っ赤な顔を見られたくなくてレイジの胸板に顔を埋める。
 「お利口さん。よくできました」
 耳元で甘い囁き。レイジが俺の頭を気安く叩く。なんだか無性に泣きたくなった。怒りと悔しさと情けなさと惨めさがごっちゃになった最低な気分だった。かっこ悪い、俺。最悪だ。レイジの肩に杭打つように爪を立て、胸板に顔を擦りつける。レイジがひどくご満悦の笑顔で奉仕を再開、俺の膝に手をかけてこじ開ける。股間に顔を埋める。唇の隙間から覗いた舌が淫猥に蠢く。
 ペニスが口腔に吸いこまれる。
 「ふあっ、あっ、あああっああっああああっ……」
 しつこく唾液を捏ねる音が恥辱を煽りたてる。レイジの口はまるごと吸盤みたいで、舌は肉厚の触手みたいで、手の摩擦とそれらが連動して一滴残らず精気を搾り取ろうとする。背中が仰け反る。太股が突っ張る。ぞくりと体に震えがくる快感……一気に加速する快感。次第に強まる排尿感、体全体がひとつの心臓になったような鼓動の波紋。
 レイジの口の中でペニスが硬さを増して急激に膨張する。こんなもん口一杯に頬張ってレイジは苦しくないのだろうかと心配になる。吐き気は大丈夫だろうか、窒息は……不安げにレイジの様子を探れば、奴ときたら無心に、いっそ無邪気ともいえる表情でペニスを舐めていた。ぴちゃぴちゃ美味そうにしゃぶっていた。
 心配して損した畜生。
 「あっ、あっ、あっあっあっあっ」
 腰が弾む。声が弾む。舌の動きが激しくなり、手の摩擦が速まる。
 「レイジ、もういい……だから口から抜いてくれ放してくれじゃないと口の中に出しちまう!」
 レイジに縋り付き、必死に訴える。だが、レイジはやめない。そんなことはなからお見通しだといわんばかりに俺の顔面を片手で覆って奉仕を続ける。
 「いいから出せよ。呑むから」
 「!?」
 喉が引き攣る。
 呑むってまさかザーメンを?だってそんなもん呑んだってうまくねえのに、苦いだけなのに……嫌だ、レイジの口の中でイってたまるか!俺は無茶苦茶に暴れだす。両こぶしで肩を殴り付けて甲高い奇声を発してありとあらゆる罵詈雑言を浴びせてレイジを非難する。スプリングが律動的に弾んでベッドが上下に揺れる。レイジの肩を掴む。嫌だ、イきたくねえ。イきたいけどイきたくねえイきたくねえ、口の中に出したくねえ!外に、外に出させてくれ!
 「だって汚ね……」
 「汚くない。呑ませてよ」
 「お前、嫌いだ。大嫌いだ。これ終わったらぜってえ殺してやる……」
 「サンキュ」
 レイジの返答はひどくくぐもって聞き取りにくかった。口一杯にペニスを頬張っていたからだ。
 「あっあっあっあっあっひあっ………ああああああっあああっあっ!!!」
 イく。出す。レイジの喉の奥へ突っ込むように腰を仰け反らせて、そして―……
 射精の瞬間。頭が真っ白になった。今までこらえにこらえていたものが、限界まで張り詰めていたものががぷちんと弾け飛んで意識が拡散する。
壁に背中を預けてそのままずり落ちる。
 ひどくあっけなかった。この先進めも戻れもしない、自分の意志じゃどうにもならない瀬戸際に追い詰められて体の制御が利かなかった。
 レイジの口腔で爆ぜた事実に打ちのめされて、ベッドに四肢をつき、首をうなだれる。唾液と精液が入り混じった白濁の糸を引いたペニスが口から抜ける。手の甲で無造作に顎を拭き、レイジが喉を鳴らす。
 呑んじまった。
 レイジの口の端からは呑みきれなかった精液が一筋たれていた。レイジは何の抵抗も躊躇もなく俺の精液を嚥下した、飲み干した。唇の端にあてた親指で零れたぶんを拭き取り、おそろしく淫らに微笑む。
 「どうした?フェラチオだけで疲れ切った顔して……一回イっただけで満足するなよ。夜はまだ長いんだからこれからいくらでもできるだろ。二回でも三回でも四回でも五回でもイってみろよ、出してみろよ」
 肩で息をしながら、どんより濁った目でレイジを見上げる。フェラチオだけで俺は精神的にも肉体的にも消耗しきっていた。この上連続で射精したらからからに干からびちまいそうだ。
 が、恨めしげな目つきで見られたレイジはといえばちっとも悪びれたふうなく飄々としてる。
 壁に背中を預けた俺は、浅く弾む呼吸の狭間から懇願する。
 「『疲労的……全身無力、想我休息』」
 疲れた。休みたい。うわごとめいた台湾語でたどたどしく訴えかける俺をよそに、レイジが再び動き出す。今度は何だ?半ば落ちかけた瞼を開き、虚ろな目でレイジの行動を観察する。
 視界が回る。体が反転、瞬く間に裏返しにされる。
 「!なっ……、」
 仰向けに寝転んだ俺の背後にレイジが回りこみ、両足の間に手をさしいれて強引に開く。レイジに裸の尻を向けた格好になった俺の胸裏で不吉な予感が膨らむ。
 「気持ちよくさせてやったお礼に俺も気持ちよくさせてくれよ」
 レイジが密やかに笑い声をたてる。俺はこれから自分の身に起こることを想像して頭が爆発しそうな恐慌に駆られた。前戯の次は本番。わかってる、そうなるだろうなと薄々感づいてた。けど、やっぱり怖い。そりゃレイジとの約束は守りたい、レイジの頑張りに報いたい気持ちは本物だけど……
 土壇場で決心が揺らぐ。 
 ケツに入れるなんておかしい、ケツに入れられてよがる奴の気持ちなんて俺には永遠にわからない、理解したくない。
 内股をあやしく撫でるレイジの手。くすぐったさと紙一重の快感がレイジの手に触れられた場所から湧き起こる。レイジの指がふれたそばから体の皮膚が性感帯に造りかえられてくみたいに、太股がじんわり熱を帯びて敏感になっていく。さっき達したばかりの先端がまた持ち上がり始めてる。
 「レイジ、やめ……やっぱよそうぜこんなの、おかしいよ。ケツに入れるなんて想像できねえ、出血したら後始末面倒だし第一めちゃくちゃ痛いに決まってる。痔は勘弁だ」
 「雰囲気ぶち壊すこと言うなよ」
 「当たり前だ、わざと萎えること言ってんだから」
 怖い。叫びたい。逃げたい。かすかに体が震える。四つん這いでシーツを張って逃げようとして、レイジに足を掴まれ引き戻される。レイジの手を蹴り飛ばそうとしたが、遅かった。レイジは今や完全に俺の足の間に割り込んで、背中に体重かけてのしかかって俺を押さえ付けてる。
 「怖くない。大丈夫だから」
 「嘘だ」
 「できるだけ痛くないようにするからさ。信じろって、処女には優しいのが取り柄なんだから」
 口元に笑みを含んで俺をなだめるレイジ。こめかみに唇を落とし、俺の緊張をほぐそうと優しく愛情こめた手つきで背中を撫でる。長さと間接のバランスが絶妙なレイジの手……醜く節くれだち、汗でべとついたタジマの手とは全然違う。別物だと頭じゃわかってる、だが心が納得しない。タジマに襲われた時の記憶が脳裏にまざまざとよみがえる。鮮明な悪夢。俺のズボンひん剥いてケツを裸にして満面に下劣な笑みを湛えたタジマ。ヤニくさく黄ばんだ歯を剥いて高笑い、肥満腹を揺すって俺の背中にのしかかって……
 「怖いんだよ」
 今まで心の奥底に秘めてた本音が口を突いて出た。
 シーツに顔を埋め、嗚咽を噛み殺す。俺は今だにタジマが怖い、東京プリズンを去ったタジマの存在に恐怖と脅威を感じてる。またいつタジマが現れるかわからない、俺に襲いかかるかもわからない。タジマに自慰を強制された。俺がぎこちない手つきでペニスを扱き上げるのを眺めてタジマは笑っていた、丈夫な革靴でペニスを踏みにじって射精を促した。売春班の仕事場では目隠しされて煙草で焼かれた、両手を固定されて首筋をねちっこく舐められた。タジマはさかりのついた豚みたいだった。医務室に入院してた頃だって、皆が寝静まった夜中に性懲りなく強姦しにやってきた。
 怖い。俺にのしかかるすべての男がタジマとだぶって見えて、体が鳥肌立てて拒絶反応を起こす。
 「タジマはいなくなった、お前に照明落とされて病院に運ばれた。もう二度と戻ってこねえって何百回も自分に言い聞かせて安心させて、でも駄目なんだ、肝心なときに尻ごみしちまうんだ!ひょっとしたらタジマがいるんじゃねえか、今も近くにタジマがいるんじゃねえかって悪い想像ばっか膨らんで、心臓止まりそうにおっかない夢ばっか見て……
 お前もタジマとおんなじだ、前から俺のケツ狙ってたんだろ、俺が泣こうが喚こうがお構いなしに問答無用でぶちこんで念願はたす気なんだろ!?
 お前もタジマと一緒のゲス野郎だ、俺の意志なんか関係なく自分のやりたいようにやるんだ、なら鳩尾にガツンと一発入れて気絶させてくれよ、俺が気絶してるうちに全部終わらせてくれよ!!」
 やり場のない怒りが込み上げてくる。
 名伏しがたい衝動が体の奥底から突き上げて咆哮をあげる。俺はタジマに逆らえなかった、タジマのことが大嫌いなのに、生理的嫌悪で吐き気に襲われるくらいなのに、煙草で焼くぞと脅されて言うなりになった。
 昔、お袋の身代わりに俺を犯そうとした男の記憶が頭の奥から涌き出る。 
 顔はよく覚えてない。
 目鼻立ちはあやふやで、顔はそこだけ霧がかったように曖昧な印象だった。
 そいつは大股に廊下をのし歩き、俺の腕を引っ張る。腕が引っこ抜けそうな激痛に死に物狂いで暴れて抵抗、踏ん張りを利かせて廊下に踏み止まろうとするが大人と子供じゃ勝負にならない。
 腕一本で引きずられる。ドアが近付いてくる。お袋の仕事場。あそこにはベッドがある。男と女が二人寝れば一杯になる狭苦しいベッドが鎮座してる。そして俺は背中からベッドに倒れこんで……
 みんな、みんな無理矢理俺を犯そうとする。何度も何度も嫌だって叫んだのに、決死の覚悟で暴れたのに。俺が痛くてもお構いなしに、気持ち悪くてもお構いなしに、下半身の欲望を満たそうとする。
 「お前も一緒だ、結局男なんかみんな一緒じゃねえか!俺も男だけどお前らみたいにだけはならないって決めてたのに、メイファのこと幸せにしてやりたいって本気で思ってたのに……わかってるよガキっぽい願望だって、世間舐めた甘い考えだってわかってるよ!わかってるけど、メイファ幸せにすることができりゃ俺も男として一人前になれるって、自信もてるって、俺のケツ狙った奴らとは違うんだって証明できるってあの時はマジで信じてたんだよ!!」
 俺が甘かったのだ、どうしようもなく。
 12歳のガキに一体何ができるってんだ。女と将来約束して、二人分の人生背負って、それでちゃんとやってけるのかよ。仕事は?生活費は?メイファは俺の甘さを見ぬいてた、だから俺についてこなかった。メイファは悪くない。メイファは賢い。俺は知ってる、女はいつだって賢くて男はいつだって単純馬鹿だ。後者は下半身でしか物を考えないのだ。 
 シーツを握り潰して本音を叫ぶ。
 今まで抑圧してきた感情が堰を切ったように溢れ出して、言葉の洪水が溢れ出して止まらなかった。 
 「これじゃ結局俺は男にヤられるのが似合いのヤツで、ただのガキで、誰一人も幸せにできねえ役立たずだって言ってるみたいなもんじゃねえか!ヤれよレイジ、俺の足広げてケツにぶちこめよ中だししろよ!タジマが羨ましがるぜ、売春班でヤれなかったの俺だけ……っ!?」
 前髪を乱暴に毟られる。
 背後から伸びた手が無造作に前髪を掴んで、俺を強引に振り向かせる。
 髪の毛が頭皮から剥がれる激痛に苦鳴を漏らしつつ振り向いた俺は、愕然とする。
 「あんまり聞き分けねーと怒るぞ」 
 レイジの声は静かだった。口元は微笑んですらいた。が、目は微塵も笑ってなかった。
 おそろしく獰猛なものを孕んだ、危険極まる眼光。
 「もう一度言ってみろよロン。だれがタジマの同類だ?タジマとおんなじでケツにぶちこめば満足するって?舐めるなよ。俺がケツにぶちこみさえすりゃそれで満足するって本気で思ってんのかよ」
 レイジの手に握力がこもる。髪の毛を掴む力が増す。
 焼き鏝を押し付けられたみたいに頭皮がひりひり疼く。俺はレイジから目を逸らせなかった。レイジはまっすぐに俺の目を覗きこんでいた。
 隻眼を剣呑に細めて、鋭利な眼光を放って、至近距離に顔を近付ける。
 「大間違いだ。性欲のはけ口ならお前にこだわらず他捜すさ、どっかそのへんのヤツに適当にあたるさ。タジマと一緒?どこが一緒だよ。勘違いすんなよロン。俺がお前とヤりたいのはたんなる憂さ晴らしでも暇つぶしでもない」
 口元の笑みが薄れ、レイジが完全に真顔になる。
 「お前のことが好きだからさ。好きで好きで頭がおかしくなりそうだからさ。心も体もひとつになりたくて、お前のことがもっと知りたくて、俺のことをもっと知ってほしくて、それにはセックスがいちばん手っ取り早いからさ。好きなやつと寝たいと思うのがそんなにおかしいか?」
 「…………」
 レイジの胸元では十字架が輝いてる。永遠に色褪せない真実の輝き。
 レイジの眼光と同じ輝き。 
 前髪から手を放し、唇が触れ合う距離に迫る。
 「お前のこと無理矢理犯そうとした連中と一緒にされちゃたまんねえよ。そんな奴ら俺が殺してやる、ロンは俺の物だ、お前を傷付ける奴はみんな殺してやる。八つ裂きにしてやる。ナイフで喉かっさばいてたらふく鉛弾食わせてやる。本領発揮で鏖殺してやる。お前に付き纏う悪夢なんか鼻歌まじりに蹴散らしてやる、地獄に追い払ってやる」
 レイジの目に魅入られる。
 この上なく愛しいものを見るような、聖母みたいな目。
 唇に柔らかい感触。俺の唇に押し付けられたレイジの唇の感触。
 「逃げるな、拒むな、怯えるな。ちゃんと目を開けて俺の顔を見ろ、ロン。俺はタジマか?」
 よわよわしく首を振る。
 「ガキの頃、お前を無理矢理犯そうとした男か」
 今度はきっぱりと首を振る。泣きたくなるのを堪え、次第に速度を上げて、そうじゃないと否定する。
 『Who am I?』
 レイジが訊ねる。深呼吸で勇気をかき集め振り絞り、毅然と顔を上げる。
 レイジの目をまっすぐ見つめる。
 今度は逃げなかった。レイジに怯える必要がないとわかったからだ。レイジはタジマじゃない、昔俺を襲った男じゃない。レイジはレイジだ。俺の大事な相棒だ。
 誰よりも頼りになる、誰よりも心を許せる、俺の自慢の……
 「お前は、レイジだ」
 「そうだよ」
 「英語の『憎しみ』。いつもへらへら笑ってるむかつく奴。本気と冗談の区別がつかねえ紛らわしい奴。サーシャと浮気した尻軽。図書室で借りた聖書で敵を薙ぎ倒すばちあたり」
 「そのとおり」
 「俺の為に、全身ぼろぼろになりながら戦ってくれた。俺の為に何度も死にかけて、今ここにいる」
 レイジに対する恐怖が氷解して、胸の内が温かい感情で満たされた。
 レイジがもう一度、今度は前にも増して優しく俺の唇に触れ、目を閉じて感触を味わう。俺も目を閉じて応える。ぎこちないキス。レイジの唇は温かかった。ちゃんと生きてる証拠、血が通ってる証拠だ。人肌のぬくもりが嬉しくて、俺は自分からレイジの腕にとびこんでいく。
 レイジが今ここにいてくれて、よかった。
 生きててくれてよかった。
 「おかえり」が言えてよかった。また元気な顔が見れてよかった。
 笑ってくれてよかった。
 レイジの胸に倒れこんだ俺は、衣擦れの音に紛れて消えそうな小声で呟く。
 「………いいぜ」
 レイジの胸から顔を起こし、上体を立てなおす。ベッドに座りこみ、大きく二度深呼吸する。暗闇に目を凝らしてレイジの表情を観察すれば、柄にもなく緊張してるらしく顔が強張っていた。
 真摯な光を湛えた隻眼を覗きこみ、俺は言った。
 レイジを受け容れる覚悟を決めて。
 「俺を抱いてくれ」 

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050713200341 | 編集
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