ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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六十六話

 「鍵屋崎。お前、ロンを犯せ」
 タジマは正真正銘の異常者、真性の変態。
 俺の目と鼻の先に鍵屋崎がいる。
 後頭部に銃をつきつけられて、俺の腰に跨り、顔の横に手をついてる。転倒した時俺が鍵屋崎の下敷きになり自然とこういう姿勢になったんだが、鍵屋崎はそのままどく気配もおりる気配もない。俺の腰に跨ったまま表情の読めない目でじっとこっちを見つめてる。片方割れたレンズが普段から表情に乏しい鍵屋崎の本心をさらに読めなくしてる。
 ひびの入ったレンズ越しに俺を見下ろす双眸に爆ぜる葛藤、逡巡、躊躇。
 だがそれも目の錯覚を疑わせる一瞬のこと。
 鍵屋崎はすぐに無表情に戻り、体をずらして位置を移動、俺の腰を這いずって騎乗位になる。
 「まさか、本気じゃねえよな」
 手足の先から冷えてゆく感覚……戦慄。目に映る光景が信じられない。いや、信じたくない。コンクリ床に仰向けに寝そべったまま、肘で上体を支えて起きあがろうにも鍵屋崎が腹に跨ってるせいで体に力が入らない。畜生、どけよ。舌打ちしたい気分で鍵屋崎をどかそうと試みるが、鍵屋崎は俺の上に乗ったまま梃子でも動かない。
 言うこと聞かない手足が恨めしい、自由に動かない体が憎らしい。
 逃げろと脳が命令を発してるのに体が従わない矛盾。葛藤。
 そうだ、わかってる。俺の体はもうボロボロで限界だった。折れた肋骨はまだ完治してなくて、胸はずきずきと疼いて、指一本動かすだけで全身の間接が痛んで軋んで地獄を見た。
 鍵屋崎を突き落とそうと腕を振り上げてみたところで全く力が入らないんじゃ意味がない。
 心臓の鼓動が速鳴る。緊張で喉が乾く。
 汗でびっしょり濡れた背中のシャツが素肌にへばりつく。ひどく耳鳴りがする。誰かが頭蓋骨を撥で叩いてるみたいだ。耳鳴りがうるさくて周囲の喧騒がよく聞こえない。鍵屋崎に哀願する自分の声さえよく聞こえない。
 「いくらタジマに命令されたからって、銃で脅されてるからって、まさか本気で俺を犯すわけないよな鍵屋崎」
 みじめったらしい懇願。鍵屋崎がまさかそんなことするはずがない。鍵屋崎は口は滅茶苦茶悪いけど付き合ってみりゃ案外いい奴で、意外なほどいい奴で、俺はいつしか鍵屋崎に心を許し始めて、今では仲間だと認めていて……
 そうだ、鍵屋崎はいい奴だ。すごくいい奴だ。俺なんかには勿体無いくらいできたダチだ。医務室に入院中の俺が暇持て余してる時に本を貸してくれた、字ばっかの糞つまんねえ哲学書だけど俺のこと気にかけてくれた鍵屋崎の親切心は純粋に嬉しかった。
 他にも鍵屋崎には世話になった、たくさん世話になった。
 俺が売春班の房に篭もりきりでいた時も通気口越しに励ましてくれた、威勢良い毒舌で気力を奮い立たせてくれた。鍵屋崎一流のひねくれた励まし方で。
 俺だってわかってる、身に染みてる。鍵屋崎の毒舌は優しさの裏返しで、鍵屋崎は本当はすごくいい奴で……
 だから、そんな鍵屋崎がタジマに言われて無理矢理俺を犯すはずがないと嘘でも信じこみたかった。
 「どうした?さっさと犯れよ、ギャラリーがお待ちかねだ」
 タジマが銃口に圧力を加えて鍵屋崎の頭を屈めさせる。鍵屋崎の頭越しに仰いだタジマはにやにやと笑っていた。反吐がでそうなゲスの笑顔。心の底からこの悪趣味な出し物をたのしんでやがるのは明白。
 くそ、体が言うこと聞けば今すぐタジマの憎たらしいツラをぶん殴ってやるのに。
 「鍵屋崎、どけよ」
 物言わぬ鍵屋崎に必死に訴えかける。顔が半笑いに崩れる。これから鍵屋崎に犯されるなんて冗談じゃねえ、俺はまだレイジとの約束を守ってねえ。レイジが勝ったら抱かせてやるって約束したんだ、100人抜きのご褒美に抱かれてやるって開き直ったんだ。
 強く目を閉じれば瞼の裏側に隻眼の寝顔が浮かぶ。
 左目を失ったレイジの寝顔。
 レイジは左目を犠牲にして勝利を掴んだ。
 背中に十字の烙印を焼き付けられて傷の開いた片腕を踏み躙られてボロボロになってまで、俺と鍵屋崎を守るために、売春班をぶっ潰すために公約どおり100人抜きを成し遂げた。俺との約束を守ってくれた。

 だから俺も、約束を守らなきゃ。

 「鍵屋崎、どけって。腹に乗んなよ、苦しいよ。おい、なんの冗談だよこれ?タジマの命令に唯々諾々と従って今から公開レイプって、マジでそんなこと考えてんのかよ。サムライだって見てるんだぜ。サムライだけじゃねえ、地下停留場には決勝戦観にきた囚人どもがごまんといるんだ。そいつらがはあはあ息荒げて見てる前で、本気で俺のこと犯すつもりかよ?お前にできんのかよ、そんなこと」
 卑屈に喉が鳴る。
 恐怖で喉が引き攣ったのが嘲笑に聞こえたらしい鍵屋崎がすっと目を細める。剣呑な表情の変化に背筋が寒くなる。 
 様子がおかしい。
 さっきまでの鍵屋崎とは別人みたく雰囲気が一変してる。いや、これは……そうだ、東京プリズンに来たばかりの頃の鍵屋崎だ。俺が出会ったばかりの頃の鍵屋崎に戻っちまった。
 人を人とも思わない傲岸な眼差し、自分には人を見下す特権があると信じて疑わない傲慢な天才の表情。
 俺の言葉は、鍵屋崎の「何か」に触れたらしい。おそらく、鍵屋崎の核心に。
 鍵屋崎に跨られた体勢から片肘立てて顔だけ起こし、早口で反駁。 
 「売春班じゃ男に犯られる一方だったお前が犯り方知ってんのかよ、無理すんなよ不感症のくせに、似合わねえよ。お前だってタジマに言われて無理矢理なんて絶対やだろ、反吐がでるって腹の中じゃ思ってるだろ。俺だってそうだよ、タジマに言われてお前に抱かれるのなんざまっぴらごめんだ。それにさ、レイジと約束しちまったんだよ。100人抜き成し遂げたら抱かせてやるって」
 ああ、なに言ってんだ俺。舌が勝手に動いて汚い唾をまきちらしてる。俺の唾が顔にかかっても鍵屋崎は動じない。片方割れたレンズの向こう側から、剃刀めいて鋭い切れ長の双眸が瞬きもせず俺を凝視する。
 完璧な無表情。
 そうだ、東京プリズンに来たばっかの頃の鍵屋崎はこんな奴だった。
 俺がくだらない冗談とばしてもつまらない話題振っても表情は殆ど変わらなくて、俺が対等な人間とはこれっぽっちも思ってない尊大な物腰で余裕ありげに構えていて……意思の疎通ができなかった。
 鍵屋崎と俺じゃ根っこから違う人間で、到底わかりあえるはずもないと絶望させる冷淡な顔。
 徹底的に共感を拒絶する無表情。
 「今ここでお前に犯られるわけにゃいかないんだよ、レイジとの約束守れなくなるだろうが。俺をいちばん最初に抱く奴はレイジじゃなきゃ駄目なんだよ、そう決まってるんだよ!俺だってやっと納得したんだ、レイジになら抱かれてやってもいいかなって思えたんだ、あんなに頑張ってぼろぼろになったレイジになら……どけよ鍵屋崎、とっとと俺の上からどきやがれこのクソ天才!!お前だって本当は嫌なくせにタジマのお遊びに嫌々付き合わされてるくせに、嫌ならさっさとどけよ、頭に銃つきつけられてるからなんだってんだ、俺とお前ふたり力合わせて反撃すりゃあタジマだっていちころだよ銃ひったくることだってできるよだから!」
 「黙れ」
 突然、口を塞がれる。息ができなくて苦しい。
 何が起きたのかと頭が混乱する。俺の口を片手で塞いだ鍵屋崎の顔が急接近、じかに吐息のかかる距離にくる。
 片方割れたレンズ越しに俺を射竦める鋭利な眼光……冷徹に研ぎ澄まされた眼光。
 「僕に選択肢はない。拒否権もない。タジマの命令に逆らえばその瞬間に脳漿を撒き散らすこと確定だ」 
 耳元で鍵屋崎が囁く。暗示をかけるように低い声。これが本当にあの鍵屋崎か、俺が知ってる鍵屋崎か?
 「……仕方ないだろう。僕だってこんなこと本意ではないが、タジマに命令に従わなければ確実に死ぬ。今タジマに逆らうのは得策ではない、それがどれ程不愉快なことであろうがタジマの命令に従うしかない」
 諦観の眼差しで苦々しく吐き捨てる鍵屋崎を前に、俺の中でなにかが爆ぜた。
 「!くそっ、」
 鍵屋崎を胴から振り落とそうと滅茶苦茶に暴れる。
 両腕を限界まで突っ張って鍵屋崎を押しのけようとする、足を勢い良く蹴り上げた反動で鍵屋崎を落とそうとする。
 だが駄目だ、無駄だ。なにをやっても無駄だ。
 鍵屋崎は俺の上からどかない。どんなに暴れたところで本調子じゃない俺が身長で勝る鍵屋崎をどかせるわけがない。いや、奴ひとりならどかすこともできたんだろうが背後には銃を持ったタジマがいて、「いきがいいなあ結構だが、これ以上手え焼かせるんじゃねえよ」と嘲弄。
 体重かけて俺の足首を踏みつける。
 「!?あああっああっ、っあ、ぐ……」
 コンクリ床に固定された足首が軋み、たまらず悲鳴をあげる。
 痛いなんてもんじゃない。タジマが踏んだのは俺が捻挫した足首、まだ包帯もとれてない足首だ。足首の骨が軋む激痛で視界が真っ赤に染まり、全身の毛穴が開いて脂汗が噴き出す。
 抵抗がやんだ隙にタジマが横柄に顎をしゃくるのが目に入る。  
 衣擦れの音。俺に跨った鍵屋崎が緩慢に動きだす。
 「やめ……」
 荒い息遣いに声がかき消される。
 鍵屋崎の手が一瞬止まるが、銃口で頭を小突かれ、まだすぐ動き出す。
 上着の裾をはだけて潜りこむ冷たい手のひら。
 ああ、鍵屋崎の体温は低いんだなとどうでもいいことを思った。冷え性なのかコイツ。いや、今そんなこと関係ない、本当にどうでもいい。
 「お前、頭おかしいよ。タジマの狂気が伝染っちまったのかよ」
 「心外だな。僕は狂ってなどいない。自分の判断に基づき行動してるだけだ」
 鍵屋崎の口調は淡々と落ち着いている。
 「売春班で僕は数え切れないほどたくさんの男に抱かれ、さまざまな種類のセックスを体験した。生憎売春班では抱かれるほう専門だったが、回数を重ねるごとに同性の性感帯は熟知した。良い機会だ。受動態のセックスには飽きてきた頃だ、能動態のセックスを試してみるのも悪くない」
 なん、だって?
 耳を疑う。目を疑う。鍵屋崎はタジマに銃で脅されて嫌々無理矢理俺を犯してるはずじゃないか、なら今の台詞は……

 「良い機会」?「悪くない」?

 どういう意味だよそれ。なあ、俺にわかるようにちゃんと説明してくれよ。 鍵屋崎お前、頭がどうかしちまったのか。一万人の大群衆の前でタジマに股間揉まれて、頭の血管が二三本まとめてぶちんと切れちまったのかよ。俺は嫌だ、鍵屋崎に抱かれるのなんて嫌だ、レイジ以外の男に抱かれるなんて考えただけでぞっと鳥肌立って生理的嫌悪が爆発する。お前だってそうだろ、売春班じゃ毎日泣いてたじゃないか、悲鳴あげて痛がってたじゃないか。
 泣いても喚いてもてんで取り合ってもらえず、男に無理矢理犯されるのがどんだけ最低最悪のことか、お前がいちばんよくわかってるはずだろ?
 「正気に戻れよ」
 戻ってくれよ、お願いだから。
 こんなことやめてくれ、俺の上からどいてくれ。
 恐怖にかすれた声で懇願しつつ、震える腕で鍵屋崎を押しのけようとすれば、邪魔っけに振り払われる。助けを求めて檻の外に目をやる。
 売春班の面々がいた。凱がいた。東棟の奴らがいた。ホセがいた。そして、サムライがいた。
 売春班の奴らは一箇所によりそいあって、慄然とこっちを見つめてる。
 凱は口を開けっぴろげにした間抜けヅラで、その他大勢の東棟の奴らは鼻息荒く興奮の面持ちで、くんずほぐれつする俺と鍵屋崎に見入ってる。ホセは笑っていた。胡散臭い笑顔だった。
 「直」
 サムライは震えていた。
 太股の傷が開いて立ちあがれず、何もできない無力感に歯噛みして、その場に蹲っていた。自分が見てるものが信じられないといった驚愕の表情。サムライに呼びかけられても鍵屋崎の動きはとまらない。
 俺の上着をはだけて腹部をまさぐりながら早口に言う。
 「君はそこで傍観していろ。わざわざこちら側に救助にこようなどと考えるな、迷惑だ」 
 「あーあ、可哀想に。ふられちまったなサムライ」
 タジマが濁声の哄笑をあげる。視界の端にちらつくサムライの顔……苦渋に歪んだ表情。
 鍵屋崎の手が上着の裾にもぐりこむ。
 上着が捲れあがり、薄い胸板が露出する。
 「!」
 鍵屋崎の顔が強張る。無理もない、俺の胸板には白い包帯が巻かれていた。胸だけじゃない。外気に晒された裸の上半身のあちこちに醜い痣がちらばっていた。俺はいみじくも痣だらけ傷だらけの醜い体を目の当たりにした鍵屋崎がおもいっきり引いてくれることを期待した、萎えてくれることを期待した。
 「萎えたろ?汚いし気持ち悪いだろ、痣だらけで。だからさ、抱くなよ。無理して俺抱いたっていいことなんかなにもないって、お互い後味悪いだけだよ。それに俺はじめてだしケツが裂けて血だって出るし、ほら、後始末大変だし。そうなったら、俺とお前……」
 俺とお前は、もう二度ともとの関係に戻れなくなる。今までどおりダチでいられなくなる。俺は殺したいほど鍵屋崎を憎む。殺しても殺しても殺したりないほど鍵屋崎を憎む。
 「手が止まってるぞ。はやく先進めよ。もう俺辛抱できねえ、股間が張ってしかたねえんだよ、はやくイきたくて仕方ねえんだよ。さあ、下を脱がすんだ。ロンを素っ裸にして股開かすんだ。できるだろ、やれるだろ、天才に不可能はねえんだから。なんなら包帯ほどいてロンの手首縛っちまえよ、そうしたらちょっとは大人しくなるだろうさ、犯りやすくなるだろうさ!!
 売春班のこと思い出せ鍵屋崎、お前が泣きながら男に犯されてるときロンは何してた?見て見ぬふり聞こえぬふりでダチ見殺しにした卑怯者だぜコイツは、そんな奴に情かける必要なんざねえ、これっぽっちも!ロンだってどうせお前の喘ぎ声オカズにしてマスかいてたに決まってる、コイツは俺に煙草の火ィ押しつけられてよがってた淫乱の半々だからな!」
 今すぐタジマの口を縫いつけたい、それが叶わないなら歯を全部ひっこぬいてやりたい。顔から火がでそうな羞恥に苛まれた俺へと罵詈雑言の礫が浴びせられる。

 「犯っちまえ、眼鏡!」
 「口ばっか達者なはねっかえりの半々なんか犯しちまえ!」
 「ケツ剥いてぶちこんじまえ!」」 
 「俺は眼鏡が犯るほうに賭けるぜ、日本人はキレたらおっかないからな」
 「自分の身が可愛いなら犯すに決まってる」
 「人が見てようが何人いようが関係ねえ、犯っちまえ!」
 「「犯れ!犯れ!」」
 「「殺れ!殺れ!」」
 「「犯れ!犯れ!」」
 「「殺れ!殺れ!」」 
 
 くそくらえ。
 東京プリズンの囚人はどいつもこいつも最低野郎ぞろいだ。タジマ乱入の混乱が公開レイプへの期待と興奮に取って代わられたらしく、見渡す限り会場を埋めた大群衆が口々に犯れ殺れと喚いてる。周囲の乱痴気騒ぎに加わらず重苦しく沈黙してるのは売春班の面々とサムライだけだ。
 「生き残りたければ僕の言うことに従え」
 「!っ、やめ、」
 声援の後押しで覚悟を決めたらしい鍵屋崎が反論を許さぬ口調で断言する。鍵屋崎の顔が急接近……払いのける暇もなかった。鍵屋崎が強引に唇を奪う。瞬時に理性が吹っ飛んだ。眼鏡のレンズが吐息で曇って鍵屋崎の表情を完全に覆い隠してしまった。俺は今なにをされてる?キス?口で口を塞がれてる?積極的に押し付けられた唇の感触が気持ち悪い、と思う間もなく唇を割って潜りこんできたのは……舌。
 「んっ、ふ」

 『生き残りたければ僕の言うことに従え』。

 さっき鍵屋崎に言われた言葉が脳裏をぐるぐる回ってる。俺が生き残るためには見世物になるしかないのか。一万人の大群衆が鼻息荒く股間を固くして見守る中、鍵屋崎に犯されて派手に喘ぎ声あげるしかないのか。
 苦しい、息ができない。口移しで注ぎ込まれた大量の唾液が逆流して噎せ返りそうになる。嫌だ、こんなキスは嫌、舌入りのキスなんてレイジにしかされたことねえってのに畜生、メイファとだってやってねえのに!
 こぶしで鍵屋崎の胸を叩き、息が続かなくて苦しいと懸命に訴える。
 漸く唇を離して舌を抜いた鍵屋崎が、手の甲で顎を拭いつつ冷笑する。
 「幼稚なキスだ。レイジを悦ばせたいならもっと練習を積め」
 「……はっ……余計なお世話、っあ!?」 
 言い終わる暇も与えられず、ズボンに手がかけられる。
 下着ごと引きずりおろす気か?それだけは勘弁してくれとズボンを掴んで抵抗する。公衆の面前で裸の股間なんか晒したら俺はもう東京プリズンで生きてけない、首吊ったほうがマシだ。そんな生き恥かくくらいなら舌噛んで死んだほうがマシだ。
 「鍵屋崎頼むから正気に戻ってくれよ、お前そんな奴じゃなかったろ、タジマに言われた通りに俺犯すようなプライドない奴じゃなかったろ!?お前はいつだって異常にプライド高くて付き合ってるとうんざりすることもあったけど、でも、お前の融通利かないとこ結構好きだったのに……」
 「無駄だロン、観念しろ。親殺しはお前のこと犯したくて犯したくてもう辛抱たまらんそうだ。どうだロン、お前だって本当は興奮してるんだろ、びんびんに勃起して今すぐイっちまいそうなんだろ?それバレるのが嫌で必死に抵抗してんだろ、ズボン掴んで駄々こねてるんだろ?お前に自慰させた時とおんなじだ、あの時のお前ときたら傑作だった、俺の言うとおり股間に手え持ってって涙目でしごきやがって……いやらしくてたまんなかったよ、オナニー中のお前の顔!」
 嗚咽まじりの抗議にも鍵屋崎は聞く耳もたない。タジマの哄笑が大きくなる。犯れ殺れ犯れ殺れ……会場の群集一丸となってタジマと鍵屋崎をけしかける。ここはどこだ、地獄か?じゃあ蜘蛛の糸がふってきてもいいだろうに。
 体じゅうが痛い。全身の間接が痛い。手足を滅茶苦茶に振りまわして暴れるたび、包帯がほどけて縺れて絡み合う。
 ズボンにかかった鍵屋崎の手が下着ごとずり下ろして……
 
 え?

 今のはなんだ。目配せ?鍵屋崎が誰かに目配せした。誰に?金網の外に待機してる人物……サムライ。
 その刹那。
 「!?ぎゃああっ、」
 サムライがおもいきり投擲した木刀が宙高く舞い、照明が翳る。サムライが投げた木刀はタジマの頭上に落下。激突の衝撃でタジマが銃を手放して倒れる。
 「今だ!」
 生気が甦った鍵屋崎が俺を突き飛ばして一目散に走り出す。
 タジマが起き上がるより速く床を蹴って加速、銃の落下地点へ腕をのばす。間に合うか?床に手をつき上体を起こしたタジマが怒りの咆哮をあげて鍵屋崎に襲いかかる。危ない!気付けば俺も走り出していた。幸いすばしっこさには自信がある、俺の唯一の取り柄といっても過言じゃない。あっというまに鍵屋崎を追いぬき、タジマの股下をくぐり抜けて銃をとる―……
 『殺してやる』
 銃を手にした瞬間、殺意が爆ぜた。タジマを殺してやる。殺したい殺したい殺す殺してやる絶対に、俺と鍵屋崎をさんざん苦しめやがったこの変態野郎に鉛弾ぶちこんでやる許せねえこいつだけは絶対許せねえ!
 タジマに命じられて自慰させられた夜、ベッドで膝抱えながら誓った。
 いつか必ずタジマを殺してやると。復讐を果たしてやると。
 それが今だ。絶好のチャンスだ。今しかない今を逃したら後はない俺の手の中には銃がある、さあタジマの眉間に銃口を定めて引き金引け!!感情が急沸騰、引き金に指をかけ奇声を発して反転―……

 ―『不可以拉!』―

 引くな。
 だれかが耳に懐かしい台湾語で叫んだ一瞬、指が鈍る。衝撃。だれかがおもいきり俺にぶつかってきた。激突の衝撃で跳ね飛ばされて視界が反転、白熱の照明が網膜を灼く。床に尻餅ついた俺の指をこじ開け、銃をひったくろうと頑張ってるのは……鍵屋崎。何の真似だ。なんで鍵屋崎はこんな怖い顔をしてる、殺意に爛々とぎらついた目で銃口を覗いてる?俺の手をひっかいて俺の指をこじ開けて銃をふんだくって、それで何をする気だ?
 だれを殺す気だ?
 答えはすぐにでた。鍵屋崎が殺したがってる人間なんてひとりしかいない……タジマだ。
 「放せ鍵屋崎余計なことすんなタジマを殺すのは俺だ、俺がタジマを殺すんだ!東京プリズンに来てから今の今までタジマにはさんざん酷い目にあわされてきた、二度と思い出したくもないことばっかされてきた!こいつが死んだところでだれも哀しまねえんだからいいじゃねえかもう殺しても、もういいじゃねえか、俺だって限界まで我慢したよ、でももう限界なんだよ、こいつ殺さない限り俺はもう東京プリズンで生きてけない、俺たちが生き残るには俺たち苦しめる元凶絶つしかねえんだよ!!」
 目が溶けそうに熱い。東京プリズンに入所してから今日まで、タジマにされてきた数々が走馬灯のように脳裏をよぎる。タジマがいるだけでタジマがいるせいで毎日が地獄だった。イエローワークの強制労働でタジマに殴られない日はなかった、生傷と痣が絶えない毎日だった。
 俺が売春班に落とされたのだってタジマの逆恨みの計略だ。それだけじゃない、医務室に入院中の俺を性懲りなく襲いにきた。今ここでタジマを殺さなきゃ俺は一生後悔する、このさき一生タジマに付き纏われる。ああいやだいやだ冗談ねえ畜生おことわりだそんなの、きっぱりさっぱり縁切ってやるよ、お前なんか俺の人生に要らないんだよタジマ!!
 「ああああああああああああっああああああっ!!!!」
 死ね、タジマ。頼むから死んでくれ、俺の視界から消えてくれ、東京プリズンから消えてくれ!
 腹の底から咆哮して引き金を引く。腕に伝わる反動、地下停留場に轟く乾いた銃声。殺ったか、死んだか?タジマの生死を見極めようとよろばいでた俺に鍵屋崎が足払いをかける。
 視界が反転、背中に衝撃。俺の手から銃をひったくった鍵屋崎が硝煙たちのぼる銃口を一瞥、無言でタジマへと歩み寄る。床に大の字に伏せったタジマはぴくりとも動かない、遠目には生死もわからない。
 慌てて起きあがり、鍵屋崎を追う。
 そんな俺の前で、鍵屋崎が思いがけぬ行動をとる。
 いまだ硝煙たちのぼる銃口をタジマの眉間に翳して、言う。
 「君に殺人は荷が重い」      
 眼鏡越しの目は静謐に凪いでいた。あまりに穏やかで、不安になる眼差し。
 とてつもなくいやな予感がする。何故鍵屋崎はあんなすっきりした顔をしてる、すっきりした顔でタジマの眉間に銃口をつきつけている?まるで、これまで自分がしてきたことにもこれから自分がすることにも悔いはないといわんばかりに……
 「痛う…………ロンと鍵屋崎のクソガキャ、舐め腐った真似を……ふたり並べてケツ剥いて犯」
 タジマはまだ死んでなかった、数秒間気を失ってただけだった。俺が満腔の殺意を込めて放った銃弾は惜しくも逸れたらしい。床に肘をつき、大儀そうに上体を起こしたタジマの目が驚愕に剥かれる。
 カチャリと銃口が鳴る。
 タジマの前に立ち、眉間に銃口を固定。ゆっくりと慎重に引き金に指をかけ、宣告する。

 「タジマを殺すのは僕だ」 

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050725130704 | 編集
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