ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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二十一話

 「めでたしめでたし」 
 ベッドに腰掛けて足を放り出せば、ビバリーがぎょっとする。
 「なんスかリョウさんいきなり」
 「ビバリー知らない?ロンとレイジがようやっと仲直りしたんだって」
 僕の額に手をあて熱をはかるビバリーに笑いかければ、合点がいったビバリーが「ああ、そのことっスか」と軽く頷いて床に胡座をかく。
 「知ってますよ、東棟じゅうで噂になってますよ。医務室のベッドで二人一緒に朝迎えたそうじゃないスか、熱々のラブラブっすね」
 二人の仲良しぶりにあてられたのか、手の平を返して天井を仰ぐビバリーはあきれ顔。
 気持ちはわかる。
 ペア戦準決勝ではしゃぎすぎたレイジが南の囚人を失明させ南のトップの腕を刺して場外の野次馬ふたりに重傷を負わせた一件は現場を目撃した囚人の口から口へと広められて一晩経った今じゃ東西南北の隅々まで行き渡ってる。
 僕は金網の死角に設置された隠しカメラ越しに一部始終を目撃したわけだけど、レイジのキレっぷりにはさすがに戦慄を禁じえなかった。
 不幸な囚人の返り血で髪も顔も服も全身べったり朱に染めた怒り荒ぶる暴君とカメラ越しに目が合った時はびびっておしっこちびりそうだった。
 キレたレイジの怖さは身に染みてる。僕は知ってる、ロンが来るまでレイジがそりゃもう無茶苦茶やってたことを。
 サーシャ入所時に起きた渡り廊下の抗争は記憶にあたらしい。今じゃだいぶ手加減のコツを掴んだとはいえ過去のレイジは敵に容赦するのがへたで、命だけは見逃してやったとはいえサーシャは背中に一生消えない敗者の烙印を負わされた。
 鼻歌まじりに愉快げに、残酷に残虐にサーシャの背中を切り刻むレイジを僕はまだ克明な悪夢のように覚えている。
 だから昨晩、準決勝でレイジが荒れに荒れて手をつけられなくなった時は「これで暴君に逆戻りかあ」と諦めにも似た感情に襲われた。
 仮初の平和と秩序は破られた、暴君の時代再来かってね。
 実際隠しカメラに映ったレイジは完璧箍が外れていて、狂気走って聖書を口ずさむさまは異様な迫力に満ち満ちていた。
 審判の時来たれりと胸で十字を切った僕だけど、どっこいそうはならなかった。
 鍵屋崎が暴君の手綱を引いたからだ。ナイフを携えたレイジと物怖じすることなく対峙して必死の説得を試みた鍵屋崎を思い出せば、大した度胸だなと口笛を吹きたくなる。
 鍵屋崎がいなかったら事態は収拾つかなかった、悔しいけどそれは認めよう。
 鍵屋崎が体を張ってレイジを止めなけりゃリングではハルマゲドンが起きて多数の死傷者がでていた。レイジは手当たり次第に周囲の人間を傷つけ血祭りにあげて後戻りできなくなってたはずだ。  
 鍵屋崎のお手柄だね。頑張りを誉めて拍手でもしたげよ。ぱちぱち。
 鍵屋崎とレイジのあいだに結ばれた美しき友情により、ハルマゲドンあわやの大惨事は間一髪免れたけど、主犯のレイジがお咎めなしってわけにはいかない。
 地下停留場を大混乱に陥れた罪は重い、いかにペア戦がルール無用とはいえ金網越しの野次馬が襲われるなんて前代未聞の異常事態で、副所長がリングに乗りこんでレイジに独居房行きを告げたのは妥当な処分といえよう。
 レイジは自業自得で同情の余地なしだ。
 ところが、ここで異議ありを唱えたのがお節介な鍵屋崎で副所長の安田に「一日、いや朝まで待ってくれ」と直談判した。
 安田は鍵屋崎の申し出を了承、かくしてレイジには明け方まで数時間の執行猶予が与えられた。
 僕が知ってるのは、カメラで見たそこまで。あとは噂に過ぎない。とにかくレイジとロンは仲直りして、明け方安田が医務室を訪れたときには、ふたり仲良く遊び疲れた子供のようにぐっすり眠ってたんだそうだ。
 レイジの下になったロンがちょっと寝苦しそうにうなされてたとか、ロンを抱いたレイジが幸せそうな顔してたとか、真偽が定かじゃない噂が出回ってるけど実際この目で見てないから想像の域をでない。
 ひとつ断言できるのは、ロンとレイジはめでたく仲直りした。
 だからといって、独居房送りが見逃されるはずもない。
 明け方医務室を訪れた安田および看守数名によりレイジは独居房へと強制連行された。 これはまあ仕方ない、時間厳守で約束を履行した安田にレイジと鍵屋崎はむしろ感謝しなきゃ。安田はきっちり約束を守ってレイジとロンが仲直りする執行猶予をくれたのだ。
 見た目は冷たいけど案外情にもろい副所長だ、どこかのだれかさんとおなじく。
 「レイジはもう親殺しに頭上がらないね、迷惑かけまくり面倒かけまくりでさ。ロンとの仲を取り持ってくれた恩人みたいなもんじゃん?まったく鍵屋崎は男に取り入るの上手いよ、いつからあんなに王様と仲良くなったんだ」
 「嫉妬はみっともないっスよリョウさん」
 「嫉妬?僕がだれに」
 聞き捨てならない台詞に気色ばめば、床に胡座をかいたビバリーがしれっとうそぶく。
 「レイジさんと親殺しの仲妬いてるんじゃないスか」
 「冗談。鍵屋崎タイプじゃないもん、あんなつんけん尖った可愛げないヤツお断りだね。だいたい不感症と寝てもたのしくないっしょ?売春班で男に慣らされてちょっとは感度よくなったって言ってもさ……」 
 「リョウさんはなんでそう下品な方向に話題をもってくんスか?セックスと恋愛は別物でしょう」
 ビバリーの戯言を鼻で笑って一蹴する。ビバリーは変に勘繰ってるけど僕が鍵屋崎に惚れてるなんて冗談じゃない、気色悪い誤解はやめてほしい。たしかに鍵屋崎は生意気で目障りで放っとけないヤツだしからかうと面白いけど、僕が親殺しに片思いしてるなんてありえない。だってママの手紙を破いたヤツだよ?
 「まあ、親殺しが気になるのは事実だけど……」
 両手を広げてごろんとベッドに倒れこむ。目に映るのは配管むきだしの殺風景な天井。 灰色のコンクリ壁に囲まれた狭苦しい房を眺め、枕元のテディベアを頭上に抱き上げ、拗ねたように唇を尖らす。
 親殺しもここに来たばっかの頃と比べてずいぶん図太くしぶとくしたたかになったもんだ。キレたレイジとも互角に渡り合えるくらいに成長したんだから……サムライのおかげ?なんだか面白くない。
 テディベアを高い高いしながら回想するのは、いつだったか、僕を壁際に追い詰めて誘惑した鍵屋崎の表情。ぞくっとするくらい色っぽい目つき、首筋への冷たいキス。
 鍵屋崎は堅物な見た目からは意外すぎるほどキスが上手くて僕はびっくりして一瞬流されそうになって、でもすぐ正気に戻った。
 だから、僕が鍵屋崎に惚れてるなんてありえない。
 雰囲気を変えるため、テディペアを高い高いしながら飄々と言い放つ。
 「それはそうと、王様には感謝してほしいよね。僕が副所長に証言してあげたおかげで渡り廊下の抗争主犯容疑で独居房送り免れたんだから。今となりゃ早いか遅いかだけの違いだったけど……」
 「リョウさんてほんと要領イイっすね。北棟に親殺し案内してって抗争に巻き込まれて、副所長が来た途端にすたこら逃げ出して。親殺しは渡り廊下に放りっぱなし、案内役として無責任な」
 「なんでそこまで鍵屋崎の面倒見なきゃなんないのさ?そりゃお金貰ってたら考えるけど、そもそも鍵屋崎を北に連れてったのは無償の善意でタダの親切心だよ。もともと鍵屋崎が言い出したことなんだし自分のお尻ぐらい自分で拭けっての」
 テディベアを胸にのせてむくれる。ビバリーの非難は見当違いもいいところだ。北への案内役を引きうけて抗争の巻き添え食った僕こそいい迷惑だと憤慨する。
 北と中央の渡り廊下で起きた抗争で主犯格のサーシャ他数名が独居房送りになったが、本来なら抗争への関与が疑われたレイジも事情聴取を受けて独居房送りを言い渡されるはずだった。
 レイジが独居房送りを免れたのは僕がこっそり副所長にご注進したから。 
 つまり僕はサーシャに忠誠を誓った舌の根も乾かぬうちにご主人サマを裏切ったことになるけど、まあ、これは僕なりのけじめ。案内役の責任を放棄して、修羅場まっただなかの鍵屋崎と愉快な仲間たちを置き去りにして、僕だけとっとと逃げ出してしまったのだ。 ビバリーには「僕が責められる謂れはない」と主張したけど、本音を言えば、ほんの少しだけ良心が痛まないでもない。
 一応僕も東棟の人間だ。
 ピンチの王様に恩を売っといて損はないと打算が働いたのも否定しないけどさ。
 「僕が医務室をでた副所長に『悪いのは全部サーシャ、サーシャが鍵屋崎とレイジに殺し合い命じて、レイジがそれを断って皇帝が逆上したのが抗争の原因。東棟の人間はとばっちり食っただけです』って証言しなきゃ、レイジはサーシャと一緒に独居房送りでお隣さんだよ?ロンと仲直りするチャンスも与えられず暴君に逆戻り。
 本人が知らないところで王様の危機を救った僕の功績を考えれば親殺しを見捨てたことくらいどうってことない。でしょ?」
 「レイジさんいつ出て来るんでしたっけ。三日後?」
 「一週間。決勝戦にはでてくる」
 「一週間!?うわあ、きびしいっすね」
 「一週間後にはサーシャもだされる。東西南北四トップが晴れてリングに集結」
 テディベアを高く高く放り上げて甲高い笑い声をあげる。
 ああ、今から楽しみで楽しみで期待に胸はちきれそうだ。東のレイジ、西のヨンイル、南のホセ、北のサーシャがリングに揃い踏みで何も起こらないわけがない。きっとなにか、皆の想像を絶した凄まじいことが起こる。
 東京プリズンの歴史に残る世紀の決勝戦が今から待ち遠しくてしかたがない。 
 さあ、だれが勝つ?だれが東京プリズンの支配権を握る、だれが本当の王様になる?
 「話がでかくなりすぎてついてけないっすよ、僕は」
 やれやれとかぶりを振りながらビバリーが嘆く。僕が仰向けに寝そべったベッドに頬杖つき、感慨深げにペア戦の経緯を振り返る。
 「レイジさんがロンさん救いたいが為に100人抜き宣言したのがそもそもの始まり。100人抜きの条件に売春班撤廃を要求したレイジさんに囚人の大多数は猛反対、レイジさんには味方がいなかった」
 「味方はいないけど仲間はいた」
 「そう、頼りになる仲間が。サムライ、親殺し、そしてロンさん。たった四人だけど、この四人は強い絆で結ばれた信頼関係にある四人。舐めてかかっちゃいけません。実際レイジさんは100人抜きまであと一歩、他の3トップを倒せばいいとこまで来てる」
 「簡単に言うけどね、ビバリー。3トップの実力を侮っちゃいけないよ?」
 ベッドに上体を起こし、揃えた膝の上にちょこんとテディベアを座らせてビバリーに向き直る。
 「前に見たっしょ、3トップの個人データ。ヨンイルは過去に二千人殺した懲役二百年の爆弾魔、普段は道化を装ってるけどその実力は未知数だ。ホセは地下ボクシングのチャンピオンで、素手で人を殴り殺せる人間凶器。東京プリズンにぶちこまれたのは、奥さんの浮気現場に踏みこんで浮気相手殴り殺したから。北のサーシャはもう説明するまでもないけど、ロシアンマフィアの暗殺者で超絶的なナイフの使い手。
 それぞれ戦い方の違う三人を相手に、サムライとロンを欠いたペアがどこまでイケるかな」 
 意地悪くほくそ笑みながら決勝戦の行方を予想する僕の視線の先で、ビバリーが気難しげに唸る。
 「ロンさんはともかくサムライさん不在は痛いっスね。太股十五針縫ったんじゃ決勝戦に復帰できそうにないし、今戦えるのはレイジさんと親殺しだけ……」
 堪えきれず吹き出す。
 「親殺しになにができるのさ?軟弱な坊やはひっこんでろよ」
 そう、所詮役立たずの鍵屋崎になにができる?金網越しの応援席でレイジやサムライに声援とばすことしかできない鍵屋崎がリングに上ったところで勝負にならない。まあ、鍵屋崎にしてはよく頑張ったって誉めてあげるけど四人の命運はすでに尽きたも同然だ。王様とサムライが組んで初めて100人抜き達成の可能性が生まれた。
 だけどサムライは太股を十五針縫う重傷でベッドから動けず、ペア戦には出場できない。サムライがいなけりゃ、万が一にも決勝戦に勝てる見込みはない。
 レイジひとりじゃ荷が重い。相手は西南北のトップだ。頂上対決の行方は現在東京プリズンにおける最大の関心事だけど、右腕に重傷を負った上に独居房から帰還したばっかで身も心もぼろぼろのレイジが三試合続けて出場すること自体無理無茶無謀だ。
 結論。レイジは3トップに勝てない。
 100人抜き達成の野望は潰え、鍵屋崎とロンは売春班に逆戻り。
 売春班の存続が決定し、囚人は大喜び。東京プリズンは平穏を取り戻す。  
 「奇跡でも起きない限り、レイジと鍵屋崎が100人抜き達成するなんてありえないね」
 「おなじ東棟の仲間として応援してあげましょうよリョウさん……」
 「やだ。親殺し嫌いなんだもん」
 「ほんとに愛情表現が子供なんだから……好きな子に意地悪してたのしむなんて歪んでるというか素直じゃないというか」
 ぶつくさ愚痴をこぼしながら背中を向けたビバリーの肩にテディベアをおく。
 「あいつらのこと仲間だなんて思ったこと一度もないね。僕には仲間なんかいないよ」
 テディベアの腕を操ってビバリーの肩を叩く。
 口調はふざけてるけど内容は本音。僕には仲間なんかひとりもいない、べたべたした馴れ合いはごめんだ。他人は利用するために存在する、それが僕の哲学。外でもここでもずっとそうやって生きてきたんだから今更変えられるわけがない。
 僕の言葉に反応してビバリーの肩が強張る。テディベアの腕を動かしてビバリーの肩を叩いてた僕は、ビバリーの雰囲気が豹変したことにたじろぐ。
 怒ったのかな?お茶目な悪戯なのに、笑って許してくれてもいいじゃん。
 テディベアの腕を引っ込め、庇うように懐に抱き、怯えた上目遣いでビバリーの様子を探る。
 「……どうしたのビバリー。怒ってる?」
 「怒ってますよ」
 おどおどと機嫌を窺えば、むすっとしてビバリーが答える。こっちを振り向きもしないビバリーの態度にテディベアを抱っこして途方に暮れる。なにが気に障ったんだか皆目見当がつかない。ちらちらビバリーを盗み見ながら、所在なくベッドにうずくまり、テディベアでひとり遊びをする。
 なんで怒るのさ、わけわかんない。僕なにかいけないこと言った?
 僕のどこが悪かったんだろうと拗ねたように唇を尖らして反芻する。
 あいつらのこと仲間だなんて思ったこと一度もない。僕には仲間なんかいない。仲間なんか……
 え?
 ひょっとして、ビバリーが怒ったのはそこ?
 「……………」
 テディベアをもてあそぶ手を止めて、じっとビバリーの後頭部を見つめる。僕には仲間なんかいない。ビバリーがへそを曲げたのはそう口を滑らした直後だ。ビバリーの後頭部から膝の上のテディベアへと視線を転じ、黒くつぶらな瞳を覗きこむ。
 テディベアの瞳に映ったのは独りぼっちの迷子のように心細げな僕の顔。愛くるしいテディベアの瞳を覗きこめば、脳裏に次々と記憶の断片が浮かび上がる。
 『リョウさん!』
 洪水が起きた下水道に、ビバリーは身の危険も顧みず僕を助けにきてくれた。
 心配させるなこの馬鹿って、ママにも殴られたことない僕を殴った。
 僕の手から力づくで拳銃を奪ったのは?僕のために真剣に怒ってくれたのは?おしゃべりでうるさくてハイテンションでたまにうざったくなるけど、僕がホームシックにかかって涙ぐんでると決まってくだらないバカ話して元気づけてくれるのは?
 ……ビバリーだ。
 「………ビバリー、機嫌なおしてよ。ね?」
 甘ったるい猫なで声でビバリーの機嫌をとる。ビバリーは僕を無視して憮然と黙りこんでる。ビバリーに無視されるのに慣れてない僕はおろおろ動揺して膝からテディベアを落としそうになる。
 わけわかんない、なんであんな一言で怒るのさ?なんでもいいからお話してよいつもみたいに、ねえビバリーってば。
 縋るような眼差しでビバリーを仰いではみたけど、反応はない。しびれを切らし、いても立ってもいられずビバリーの肩に手を触れる。
 「怒ったんなら謝るよ。おわびに騎上位でイかせてあげ」
 「もういいっス!!」
 肩から邪険に手を叩き落とされた。
 びっくりして言葉を失う。ビバリーに叩き落とされた手が痛くて、その衝撃で膝からテディベアが転げ落ちる。ベッドで跳ねて床に落下したテディべアに目を奪われた僕をよそに、ビバリーが憤然と立ち上がる。
 「……リョウさん、あんた本当にわからず屋だ。もう付き合いきれません。あんたの顔なんか見たくないっスよ」
 「え……え?え?ちょ、なんでそうなるのさ!?」
 ビバリーは本気で怒ってる。体ごと振り向いたビバリーにきつい目で睨まれて鼻腔の奥がつんとする。視界が曇るのは涙のせい?待ってよ、ビバリーに冷たくされたからって僕が泣く理由ないじゃんか。
 スプリングを軋ませベッドに立ちあがり、肩を怒らせてビバリーを睨みつける。
 体の脇でこぶしを握りしめ、毛を逆立てた猫のように精一杯ビバリーを威嚇するけど、目に涙が浮かんで変なしゃっくりがこみあげてきて、これじゃ全然さっぱり迫力がない。
 「わからず屋はどっちだよ、くだらないことで怒ってむきになって!僕悪くないもん、ビバリーが勝手にへそ曲げたんだよ。僕に仲間がいないのはホントのことじゃないか、それとも何、ビバリーは僕の仲間のつもりだったの?僕のトモダチのつもりだったの?」
 ビバリーの顔が怒りでサッと紅潮する。冷静にならなきゃと頭じゃわかってるけど舌が止まらない。
 ビバリーに無視されたのが哀しくて腹立たしくて、床のテディベアが無垢でつぶらな目で僕を見上げてるのがやりきれなくて、大粒の涙をためた目で挑むようにビバリーを見据える。
 今にも泣き出しそうに目を潤ませた僕に一瞬怯んだビバリーが、懐でこぶしを固め、もどかしげに反駁する。

 「―っ、僕はリョウさんのことが心配で!」
 「頼んでもないのにトモダチ面すんなよ、気持ち悪いんだよ!!」

 あ。
 まずい。
 反射的に口を塞ぐ。が、遅かった。両手で口を押さえた僕の正面では、ビバリーが愕然と立ち竦んでいた。空白の表情に浮かんだのは幻滅の笑み。
 ぎこちなく笑ったビバリーが、自嘲的に吐き捨てる。
 「そう、っスよね。トモダチでもないのに、迷惑っスよね。全部僕が勝手にやったことで、リョウさんには全然関係ないスもんね。調子にのってました。今まで」 
 言いすぎた。
 そんなつもりじゃなかったと後悔しても遅い。口から出た言葉は戻らない、もう取り返しがつかないのだ。むなしく宙に手をのばし口を開こうとした僕の正面で、中腰に屈んでテディベアを拾い上げるビバリー。 
 丁寧な手つきで埃を払い落とし、直接僕には渡さず、枕元におく。
 「ビバリー、ちが、今のはちがうんだって。ねえ、まさか本気にしてないよね?僕いつもビバリーにべったりひっついてるじゃん。頼りきってるじゃん。ビバリーがいなきゃ生きてけないってマジで」
 僕はおろおろするばかりだ。ビバリーは無言でテディベアを覗きこんでいたが、僕の方は振り向かず、テディベアに語りかけるように口を開く。
 「リョウさんは僕がいなくても生きてけます。図太くしぶとくしたたかな子ですから」
 やけにしんみりとした独白に胸がざわめく。冷たく突き放すというよりは、内省的で寂しげな口調だった。あまりにちっぽけな自分の存在に失望したようにテディベアを撫でるビバリーから目を逸らせない。はやく謝らなきゃ言い訳しなきゃと気ばかり急いて舌を噛んだ僕の前でビバリーがすっくと立ちあがり、鉄扉の方へと歩いていく。
 「どこ行くのさビバリー、おいてかないでよ!」
 追いすがる僕の呼びかけもむなしく、拒絶の響きを残して鉄扉が閉じる。ベッドから飛び下りたはずみにテディベアがまた転がり落ちたけど拾い上げる手間を惜しんで鉄扉に駆け付ける。両のこぶしで鉄扉に縋った僕は、そのまま鉄扉に額を預けて崩れ落ちる。
 今追えば間に合うかもしれない、という誘惑が脳裏をかすめたけどはげしくかぶりを振って追い払う。
 僕は悪いことしてない。謝るのはビバリーの方だ。ビバリーが「ごめんなさいリョウさん!」と泣いて謝るまで許してやらないんだからと心に決め、鉄扉から体を起こし、おもいきり蹴りを入れる。
 ガンと鈍い音、衝撃。
 「図太くしぶとくしたたかに生きて悪いかよ畜生、ひとの生き方に文句つけんなっ!」
 腹立ち紛れに鉄扉を蹴れば、足元から衝撃が突き上げてじんと痺れた。

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20050908100743 | 編集
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