ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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三十九話

 ざまあねえ。
 凱との試合から数日、俺はいまだにベッドに寝たきりの生活を強いられてる。ベッドのパイプに背中を凭せて漸く起き上がれるようになったものの、捻挫が完治せず自由に歩き回るのを禁じられてる状態だ。腫れた足首には包帯が巻かれている。他にも全身包帯だらけバンソウコウだらけでみっともない。名誉の勲章と言や聞こえは良いが、ちょっと前まで片目が腫れて視界が半分塞がっていた。ガーゼが外れたのは昨日だ。瞼はまだ腫れぼったいが、何とか視力は回復した。
 凱は容赦なく一方的に俺を痛めつけた。口達者な半々なんかに負けちゃ中国人の恥だとさんざん子分どもにうそぶいてたんだから当然だ、凱にとってはこないだのぺア戦が自分の実力を証明し、他棟に権勢をアピールする絶好のチャンスで一世一代の晴れ舞台だった。凱だけじゃない、自己顕示欲旺盛な凱の子分どもにまで金網越しにさんざん殴る蹴るされ手も足もでず、諦めかけた俺の窮地を救ったのは手首で輝く十字架から得た閃き、修羅場で鍛えた喧嘩の勘と咄嗟の機転。レイジに託された十字架を太股に刺し、動きを止め、その一瞬の隙に回し蹴りで反撃に転じ逆転勝利。
 その後の記憶はふっつり途切れている。やたら照明が眩しくて目に染みたとか歓声で鼓膜が痺れたとか、どうでもいいことばかり覚えてる。俺を取り囲む何人ものガキを見た。売春班の見慣れた面子の中に笑顔のヨンイルとホセが混じっていた。鍵屋崎もいた。口々に俺の勝利を祝い褒め称えていた、ような気がするが意識朦朧としてたせいで確信は持てない。
 意識を失う寸前、額にやわらかな感触が落ちた。
 忘れもしない唇の感触に薄情な王様を思い出したのは、いつだったかレイジが悪夢を追い払うおまじないだとかほざいてふざけ半分に額にキスしたからだ。あの場にいないレイジが俺にキスしたとも思えないが、じゃあ誰がキスしたんだと言われると答えに窮する。永遠の謎だ。

 意識を失い、目覚めたら医務室だった。

 あれから数日が経ち、自力でベッドに起き上がれるくらいには回復した。正確な日数がわからないのは暇な一日ベッドに横たわり単調に過ごしてるせいで、時間の感覚が狂ってるからだ。医者に説明されたが、俺は肋骨を折っていたそうだ。他にも全身十三箇所の打撲傷を負っていて、完治には時間がかかる。一日でも早く治したいなら絶対安静が必須だと念を押された。東京プリズンの看守はとことん非人道的で囚人が腕を折ろうが肋骨を折ろうが強制労働を休ませてくれない鬼だが、売春班休止中ではなから体が空いてた俺は「まあいいか」と見逃してもらった。東京プリズンの看守は賭博好きだ。大穴狙いで俺の勝利に賭けて大儲けした看守が贔屓してくれたんじゃないかと密かに疑ってるが真相はさだかじゃない、ことにしておく。
 そんなわけで、俺は今医務室のベッドに寝ている。麻酔もなしに傷口を縫うヤブ医者だと思い込んでいたが実際かかってみたら意外と処置は的確で、評価を改めざるえなくなった。くたびれた見かけとやる気のなさに反比例して腕は確かだという噂は本当だったわけだ。看守に圧力をかけられて骨折を捻挫と偽ったりもするがくさっても医者として最低限の職業意識はあるらしい、とほんのちょっとだけ見直す。
 あくまでほんのちょっとだけだが。
 さすがに肋骨が折れてたんじゃ無碍に放り出すわけにもいかず、俺は結構いい待遇で入院中だ。強制退院も覚悟していたから有り難い。東京プリズンは地獄だが、地獄に仏がいるように監獄には医者がいる。ひとつ勉強になった。ベッドに寝たきりで暇してたら、売春班の面々やホセやヨンイルがちょくちょく見舞いに来た。たまに鍵屋崎も来た。売春班の面々はともかくホセとヨンイルは暇潰し、鍵屋崎は図書室帰りのついでだろう。その証拠に毎回本を抱えていた。  
 レイジは来なかった。べつに落ちこんでない。
 ガキじゃあるまいし、レイジが見舞いに来なくてがっかりするわけない。レイジが俺の入院中にどこで何やってようが知るか。あいつはあいつのやりたいようにやってるんだろう、俺がいてもいなくてもおかまいなしに。
 「………」
 医務室で目が覚めた直後に見たあれは、幻覚だったのだろうか。俺がそうあって欲しいと望んだありもしない幻覚だったのだろうか。枕元にレイジがいた。椅子から腰を上げじっと俺を覗きこんでいた。俺の顔の横から十字架を取り上げ、小粒の金鎖が流れる涼やかな旋律が耳朶をくすぐり、そして…… 
 「………まさかな」
 無意識に唇に触れ、苦笑する。
 レイジが俺にキスするなんて、夢だとしたらとびきりの悪夢だ。現実だとしたら、とびきりタチの悪い冗談だ。そうとしか思えない、それ以外の感想はない。レイジにキスされて嬉しいわけない、男同士でキスなんて気色悪い。でも、男でも女でも唇のやわらかさはおなじなんだなと人さし指で唇をなぞる。
 レイジはもう、俺に近付くなと言った。不幸になるだけだから、もう俺にかまうなと。
 体が言うことを聞けば一発殴ってやりたかった。引きとめてやりたかった。でもできなかった、体を動かせば肋骨がひどく痛んで悲鳴をあげそうだった。夢か現実かも区別がつかず頭が朦朧として、とうとうレイジを呼び止めるタイミングを逸してしまった。
 今ごろ後悔を噛み締めても遅い。レイジはあれから一回も顔を見せない。俺は完全にレイジに嫌われてしまった。いや、嫌われた、とは違うだろうか。だがレイジが俺を遠ざけようとしてるのは事実で、それは俺を傷付けたくないからで……くそ、また思考の悪循環に嵌まってる。
 俺を傷付けたくないから俺を遠ざけるってなんだそりゃ、意味わかんねえ。
 「同房の相棒なら一回くらいツラ見せにこいっての」
 まあ、十字架を取り返しに一回は訪ねたわけだが、あれは勘定に入れたくない。お別れのキスなんて格好つけすぎで虫唾が走る。あれが最後だなんて思いたくない、認めたくない絶対に。レイジがよくても俺がよくない、全然さっぱり納得できない。
 あんな自己完結な別れ方、俺は承知しない。
 レイジに文句を言いたくてもベッドから動けないんじゃどうしようもない。
 あいつが顔見せに来るをじっと待つか、俺が自分の足でレイジのとこへ行けるようになるまで待つか、どっちにしろ辛抱が肝心だ。こうなりゃ根比べだ。遅かれ早かれ、俺はちゃんとレイジと向き合わなきゃならない。レイジへの恐怖を克服して、ちゃんとあいつの目を見て、今の本当の気持ちを告げなきゃならない。
 だからそれまでは、ゆっくりと体を休めたい。
 「………けっ」
 レイジが顔見せに来なくて寂しいなんて思うわけがない。ただ、相棒の見舞いにも来ない薄情な王様に腹を立ててるだけだ。十字架取り返せばもう俺には用ないってか?あの十字架そんなに大事な物なのかよ。マリアの形見だとか言ってたけどマリアってどこの誰だよ、聖母マリア様かよ。昔の女の贈り物?今も肌身はなさず身につけてるってことはよっぽど大事な女だったんだな、レイジがたぶん本当に愛した数少ない…
 馬鹿か俺は。ヤキモチか。  
 悶々と頭を抱え込み、毛布の中に潜る。そりゃ俺は女から何か貰ったことなんて一度もねえし、レイジが羨ましくないと言ったら嘘になる。でもこれじゃ、レイジに贈り物した女に嫉妬してるみたいだ。いいじゃんか別に、レイジが誰に十字架貰っても。レイジにだってそりゃ女くらいいるさ、外じゃさぞかしモテただろうし……なんだ、別に俺が心配することないじゃんか。レイジの名前を呼んでくれる女なんて世界中いくらでもいるんだろうし。
 ああ、ちくしょう眠れない。これも全部レイジのせいだ、責任とれよ。今は夜だ。独り身で宿舎住まいの医師はこの時間帯も大抵医務室にいるが、今は不在。一度宿舎に帰って仮眠をとってくると俺に告げて出て行った。他に空きベッドがいくつもあるんだし医務室で寝ろよと言えば、「患者の使うベッドを医者が利用するわけにはいかない」ときっぱり断られ、不覚にも見なおしてしまった。
 だから今、医務室には俺ひとりだ。
 消灯時間を過ぎ、電気は既に消されている。視界が明るいとよく眠れないだろうと医者が配慮してくれた。結構いいヤツだ。今までさんざんヤブ医者扱いしたことにちょっと気が咎める。
 ヤブ医者はヤブ医者でもいいヤブ医者だ。うん。
 消毒液の匂いがほのかに漂う医務室には暗闇と静寂が満ちていた。
 医者は気を利かせてくれたが、目が冴えてどうにも寝つけない。静か過ぎて落ち着かないのだ。房にいた頃は壁越しの寝息や鼾や歯軋りや衣擦れの音がうるさくて、隣のベッドから聞こえてくるレイジの寝言がうるさくて枕を投げ付けたこともあったが、一人になると不安でしょうがない。この静けさにはいまだに慣れない、衝立の外の世界が消失したような空白の感覚なのだ。かすかに鼓膜を震わすのは規則正しい空調の音だけで、レイジが隣にいた頃が無性に懐かしくなる。
 「またレイジかよ」
 静か過ぎて、独り言も呟きたくなるというものだ。むなしい一人つっこみ。目を閉じてため息をつく。せめて夢の中でレイジに会ってぶん殴りたい、そしたら少しはすっきりするだろう。顎の下まで毛布を引き上げ、蜂の羽音に似た空調の唸りを聞きながら睡魔の訪れを待つ……
 物音。
 「?」
 暗闇の中、うっすらと目を開ける。今、物音がした。ドアの外、廊下からだ。毛布にくるまり顔だけ動かし、衝立に遮られたドアの方を向く。足音だ。コンクリの床を叩く硬質な靴音が殷殷と反響し、徐徐に近付いてくる。次第に大きくなった靴音がドアの前で止む。医者が帰って来たのだろうか。それにしちゃやけに早いなといぶかしむ。ついさっき出て行ったばかりなのに……軋り音とともにドアが開き、肌寒い外気が吹き込んできた。冷えた廊下の空気が首筋を撫で、鳥肌が立つ。衝立の向こう側でドアが閉じ、誰かが動く。耳障りな衣擦れの音と荒い息遣い、せわしく歩き回る靴音。
 医者じゃない。
 脳裏に閃光が射すように直感する。医者がこんなふうに落ち着かなく歩き回るはずがない、だいたい医者が帰ってきたんなら俺に一言も声をかけないのが不自然だ。急患か?いや、急患にしても様子がおかしい。靴音の主はひどく興奮しているが、焦燥の気配はない。
 誰だ?
 心臓が強く鼓動を打ち、全身にいやな汗が滲む。医務室が用があるなら何故入室前に声をかけない、断りをいれない?ノックもしないで勝手に入って、勝手に動き回ってる人物はだれだ?医者は不在だ。今、ここには俺しかいない。不吉な予感に胸が騒ぎ、緊張に喉が乾く。おかしい、何かが変だ。衝立の向こう側でさかんに衣擦れの音がする。深夜、医務室に侵入した何者かがなにかを捜して行ったり来たりを繰り返す。
 シャッ、と音がした。いちばん手前のカーテンが手荒く引かれる音に続くのは舌打ち。いやな予感が募り、体の芯が冷たくなるような恐怖に襲われる。二番目のカーテンが引かれる。また舌打ち。違う、ここじゃない、ここも外れだ。急いた手つきで次から次へとカーテンを開けベッドを改める侵入者。違う、ここじゃない、誰もいない。ここも外れ……
 誰なんだ?
 暗闇で敏感になった聴覚がほんのかすかな物音にも反応し恐怖を倍増する。靴音がだんだん近付いてくる。シャッ、シャッとカーテンを引く音が連続する。邪険な舌打ち。次から次へとベッドを覗きこむ何者か。
 シャッ。耳朶を切るような鋭い音がすぐそばでした。次は俺のベッドだ。いやだ、こっちへ来るなと叫びたい衝動に駆られるが声帯が強張り声がでない。その代わり全身で靴音の主を拒絶し、頭からベッドにもぐりこむ。毛布が視界に覆い被さり何も見えなくなる。目の前は真っ暗闇。毛布の繊維が頬をくすぐる感覚にもましてじれったいのは体がちっとも動かないこと。体が言うことを聞くなら今すぐ跳ね起きて逃げ出したい、廊下にとびでて助けを求めたい。でも無理だ、今の俺は絶対安静で、肋骨は折れていて……
 シャッ。
 カーテンが引かれる音がした。舌打ちはしなかった。かわりに、誰かが鼻息荒く枕元を覗きこんできた。恐怖と混乱で頭がおかしくなりそうだ。俺の頭上をじっと見つめてるヤツは誰だ?レイジ?まさか。そんなことあるわけない。レイジは豹みたいにしなやかに歩く、こんな鈍重な歩き方はしない。毛布に視界を遮られてるせいで何も見えない。毛布越しに俺を覗きこんだそいつが確かに笑った気配がした。
 いやな笑い方だ。悪意の波動を孕んだおぞましい笑顔。
 俺の頭上に手がのび、毛布を掴む。やめろ、と声にだそうとして肋骨がひどく疼く。目も眩む激痛に毛布を掴んだ指が緩む。
 たやすく毛布が剥ぎ取られ、侵入者の正体が暴かれる。
 「見舞いにきてやったぜ」
 ああ、この声は忘れもしない。暗闇に目が慣れるのを待つまでもなく、侵入者の正体を確信する。ぎしりとスプリングが軋み、ベッドに震動が伝わる。俺の顔面から毛布を剥ぎ取ったそいつが、図々しくベッドに腰掛けたのだ。
 タジマだった。
 「………な、んでお前がここに」
 声をだすのも苦しかった。心臓が蒸発しそうだった。医務室には今俺ひとりきり、いや、タジマと二人きりだ。医師は留守にしている。俺が何をされようが、大声で助けを呼ぼうが無駄なのだ。タジマはそれを見越して医務室を訪ねた。けど、なんでタジマが?謹慎中じゃないのかよ。
 「お前、安田に罰食らって当分出歩けないんじゃねえのかよ」
 「ああ?ばれなきゃいいんだよそんなの。謹慎処分ってのは表向きだ、実際は自由に出歩いていいんだぜ。俺には強力な後ろ盾があるからな」
 「後ろ盾?」
 「こっちの話だ。おいおい、そんなにびびるなよ。せっかく見舞いにきてやったんだから喜べよ」
 恩着せがましくタジマが言い、身を乗り出す。ベッドに上体を起こした俺は、パイプにはりつくように距離を取る。今タジマに襲われたらひとたまりもない。俺は怪我をして動けない、肋骨に響くから大声もだせない。ちくしょう、あのヤブ医者本当にヤブ医者だ。なんだって肝心なときにいないんだよ?
 「顔の腫れ、だいぶ引いたな。可愛い顔に戻ってきたじゃねえか」
 ふいに、タジマの手が頬に触れた。気色悪いさわり方にぞっとする。タジマの手を払おうと身を捩った途端、肋骨に激痛が走り悲鳴をあげる。タジマがもう片方の手を俺の上着の胸にのせ、軽く圧迫したのだ。
 パイプに背中を凭せた俺を至近距離で覗きこみ、ゆっくりと頬をなでさする。いやらしい手つきだ。目尻から頬から、顔の輪郭をすべりおち切れた唇をさする。痛いと顔をしかめれば、嗜虐心が疼いたタジマが嬉々と笑み崩れる。 
 「そうだ、その顔だ。たまんねえな、勃ちそうだ」
 「さわんなよ変態、贅肉でたれたてめえの胸でもなで……痛っ、」
 胸におかれた手に徐徐に、徐徐に力が加わる。頼むやめてくれ、と声にならない声で懇願する。肋骨の骨折箇所を手のひらで圧迫され、今にも気絶しそうな激痛が胸を責め苛む。額に脂汗が滲み、喉から苦鳴が漏れる。漸く胸からどいた手が、今度は上着をはだけ、脇腹へともぐりこむ。素肌に外気がふれるひやりとした感覚に身の毛がよだつ。
 「寝たきり生活でタマってんじゃねえか。ヌいてやろうか」
 「余計なお世話だ」
 「ベッドにはりつけで便所に行けないんじゃし瓶の世話になるっきゃねえよな、恥ずかしい」
 「!このっ……、」
 恥辱に頭が火照り我を忘れる。俺の上着を胸まではだけ、痣にむしばまれた素肌をじっくり観察し、満足げに吐息をもらすタジマ。自分で見下ろした裸の上半身には青や黄色や黒やさまざまな痣が散らばっていた。恍惚とぬれた目で痣だらけの上半身を視姦し、タジマが手をすべらす。
 「!?くあ……っ、」
 痣に手を這わし、腹部を圧迫。臓腑を抉る激痛に踵が跳ねる。
 「ふざけんなこの変態、深夜のお医者さんごっこは趣味じゃねえんだよ……」
 「馬鹿言え、痛いのが好きなくせに。痣さわられて興奮してんだろ。もっと下のほうも触ってやろうか」
 「やめ、」
 俺の拒絶を無視し、タジマの手がズボンにもぐりこむ。ズボンの内側にもぐった手が、軟体動物が這うように太股をなでさする。
 「肋骨折れてんじゃ抵抗できねえだろ。顔の腫れが引くまで待ってやったんだから感謝しろよ、ロン。ケツの穴さえ使えりゃ問題ねえ」
 「冷静になれよタジマ、こんなことして安田にバレたらどうすんだよ。お前の看守生命終わりだぜ。ただでさえ謹慎処分食らってんのに……っう」
 「安田の若造がなんだってんだ、お前といい親殺しといい何かっちゃあ安田安田……気にいらねえんだよ。ああそうだ、いいこと聞かせてやるぜロン。昨日鍵屋崎を犯しに行ったんだ」
 「!?」
 なんだと。
 パイプから背中がずり落ち、ベッドに肘をついた体勢でタジマを見上げる。俺の股間をまさぐりながらタジマは笑っていた。吐き気をもよおすほど醜悪な変態の笑顔。
 「留守中こっそり房に忍びこんで待ち伏せして、図書室帰りの鍵屋崎をとっちめてやった。見モノだったぜ、あれは。裸にして上着で手首縛って、サムライのベッドで四つん這いに跪かせて、さんざ言葉でいたぶってやった。さすがの親殺しも参ってたぜ。サムライの木刀で足開かれちゃそりゃ……」
 「うるさいそれ以上しゃべるな耳が腐る、変態の自慢なんか聞きたくねえ」
 「冷血な親殺しのくせに、アレしごかれてたまんねえって顔してたぜ。今のお前と一緒だ。口じゃいやだいやだ駄々こねてもほんとは感じてるんだろ、息荒げて物欲しげに腰振ってんのがいい証拠だ。はは、俺の手は気持ちいいだろ?男の手で感じるなんてお前も変態の仲間入りだな、喜べ」
 「感じてねえよ」
 「レイジ以外の男じゃ感じねえってか?妬けるね。でも肝心のレイジには捨てられたみたいじゃんか」
 レイジに捨てられた。
 残酷な事実を突き付けられ、体が強張る。大人しくなった俺に気をよくしたタジマが耳元で囁く。
 「レイジに捨てられたって素直に認めちまえよ、ラクになるぜ。で、これからどうするんだ?レイジに捨てられて、どうやって東京プリズンで生活してくんだ?今までお前がだれにも犯されず殺されずやってこれたのは王様が守ってくれたからだ、王様に捨てられてこれから先どうやって生きてくんだよ」
 耳朶が熱い吐息に湿る。タジマの手を起点にねばっこい快感が下肢に広がる。
 「もうそろそろあたらしく擦り寄る相手さがしたらどうだ。主任看守の俺なんかどうだよ、いろいろよくしてやるぜ。俺専属売春夫になりゃ他の客とらなくていいんだ、悪い話じゃねえだろうが」
 「っあ、ふ」 
 唇を噛んで喘ぎ声を殺そうとして、タジマの手に邪魔される。快感はどんどん強くなる。この快感に身を任せちまえばラクになれるんだろうか、という悪魔の誘惑が脳裏をかすめる。タジマに体を許せば、レイジに捨てられても生きていける?俺は東京プリズンで生き残ることができる?
 レイジはやっぱり、俺に飽きたのだろうか。
 俺のことなんかどうでもよくなったのだろうか。だから試合も見に来なかったんだろうか。だから一度も見舞いに来ないんだろうか。
 レイジは薄情だ。自分が言いたいことだけ言って、俺には何も言わせてくれない。
 「どうだロン、決めるのはお前だ。レイジを選ぶか俺を選ぶか、ふたつにひとつだ」
 タジマは何故か俺を気に入ってる。素直にハイと頷けば、俺はきっとタジマ専属売春夫になるんだろう。毎日のようにタジマに犯されて感覚が麻痺して、いつからかそれを当たり前のこととして受け入れてしまうんだろう。
 鍵屋崎が見た地獄を俺も見るのか。
 「さあ、どっちだ」
 タジマの舌が耳朶を舐め、唾液をこねる淫猥な音が響く。股間でうごめく手を見下ろし、低く呟く。
 「お断りだブタ野郎。ブタはブタらしくてめえのクソでも食ってるのがお似合いだ」  
 タジマの手が止まる。
 腫れぼったい片目をしばたたき、笑顔の虚勢でタジマに向き直る。
 「レイジは俺の相棒だ。今ここでハイって頷いて俺がいなくなれば、レイジはどこに帰ってくりゃいいんだよ?ああ見えて王様は寂しがり屋なんだ、帰る場所残しといてやんなきゃ可哀想だろ」
 レイジは必ず帰って来る、そう信じてる。
 レイジは俺を捨てたわけじゃない、そう信じる。タジマの甘言に騙されて俺からレイジを捨てるのは本末転倒だ。レイジは必ず帰って来る、俺とレイジはまだやり直せる。
 嘘でもそう信じなきゃ、やってられないじゃんか。 
 「……選択を間違えたな。いいぜ、俺をフッたことじっくり後悔させてやる」
 タジマの声が冷たくなり、股間をまさぐる手が乱暴に引きぬかる。怒りに任せて俺を押し倒したタジマにされるがままに目を閉じて、レイジの顔を思い浮かべる。俺はまだあいつに言いたいことが山ほどある……
 シャッ、とカーテンが開き、眩い光が闇を切り裂く。
 「そこまでだ」
 俺の上でうごめいていたタジマが背後からの声に固まる。予想外の人物の登場に、ベッドに肘をついた俺は目を疑う。
 そこにいたのは、懐中電灯を抱えた副所長の安田だった。

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20051020023303 | 編集
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