ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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三十三話

 「サムライを侮辱するな!!」
 心から叫んでいた。
 頭が沸騰し視界が赤く染まり、タジマへの憎悪が極限まで膨張した。タジマはサムライを侮辱した、嘲笑した、人格を貶めた。寡黙に徹して僕を守ってくれた男を、僕の大事な友人を罵倒した。絶対に許せない、こんな男に抱かれてなどやるものか。
 タジマの手に体の裏表を貪欲にまさぐられ、普段人目に晒さない場所まで残酷に暴かれ快楽へと導かれ、僕はすっかり諦めきっていた。絶望には慣れた、失望にも慣れた。爪の汚れた不潔な手で素肌をまさぐられ胸の突起をつねられ腰を抱かれ乱暴に扱われることに慣れきり、心は麻痺して何も感じなかった。心が慣れなければ生きていけなかった、生き延びられなかった、男が男を欲望の対象にし日常的に犯す劣悪な環境に耐えられなかった。
 誰が好き好んで男に抱かれたいものか。
 しかし苦痛な性行為でも許容しなければどんな目に遭わされるか徹底的に体に叩きこまれ、抵抗する気力も逆らう意志も最後のひとかけらまで剥ぎ取られた。
 だから僕はタジマの手が素肌にふれたときも、半ば諦めていたのだ。抵抗は無駄で無意味だと売春班でさんざん学習した。大人しく従順にしていれば必要以上に酷くされない、進んで行為を受け入れれば酷く殴られることもないと自分に言い聞かせてベッドに横たわり目を閉じていた。不快な現実を見ずにすむように、サムライの約束を破った現実を受け入れずにすむように。
 だが、限界だ。
 「どわっ!?」
 手首を腰の後ろで縛られたまま、体を表返してタジマの腹部に蹴りを入れる。両手の自由は奪われていても両足は自由に使える、何故もっと早くこうしなかったのかと悔やまれる。そうだ、僕はタジマに怯えていた。売春班での体験はまだ心に影を落として、寝ても覚めても僕を責め苛む。
 タジマは僕の常連だった。本人は「贔屓にしてやってんだから感謝しろ」と恩着せがましくうそぶいていたが僕がタジマに感謝したことなど一度もない、断じてない。憎悪と嫌悪と恐怖と怯惰、それがタジマに抱く感情のすべてだ。今でもはっきりと覚えている、鮮明に体が覚えている。発情期の犬みたいに荒い息遣い、汗でぬめった腹の感触、体を這いまわる芋虫めいた指……タジマは加虐性愛嗜好の性的異常者で、僕は到底口にはだせないような性行為ばかり強いられていた。
 毎日が地獄だった。
 あの夜サムライが助けにきてくれなかったら完全に僕の心は壊れていた。
 あの日々には決して戻りたくない。ならば、必死の抵抗を試みるしかない。腹部を蹴られたタジマがひっくり返った瞬間に素早く跳ね起き、どうにか拘束を緩めようとはげしく身動ぎする。ロープだったらどんなに暴れたところでほどける見込みはないが上着なら何とかなるかもしれない。肩も外れよと両腕を動かし縛りを緩める最中、頭上に影がさす。
 「親殺しがっ、上等だあ!!」
 不意打ちで抵抗され、激怒したタジマがおもむろに警棒を振り上げる。
 よける暇もなかった。容赦なく肩を殴られ、勢いのままベッドから転落。視界が反転し体が浮遊感に包まれ、次の瞬間背中に衝撃。背中から床に落下し、肺が圧迫され息が詰まる。早く体勢を立て直さなければ今度こそ殴り殺される。焦燥にかられるがまま、背後に回された手をめちゃくちゃに擦り合わせる。摩擦熱で手首の皮がすりむけそうだ。
 早く、早くほどかなければ……
 「生意気に逃げやがって」
 舌打ちとともに床に降り立ち、僕を見下ろすタジマ。ズボンの前は寛げたまま、醜悪に怒張した性器が露出している。鼻梁にずり落ちた眼鏡越しにタジマの動向をさぐりつつ逃げるようにあとじさる。手首の拘束が緩み、手首と上着の隙間ができた。あと少しだ、頼むから間に合ってくれ……
 「気のある男を悪く言われて腹立ったのかよ」
 ヤニ臭い歯を剥いてせせら笑うタジマをきっと見返し、時間稼ぎに口を開く。
 「ゲスの勘繰りだな。僕は同性愛者じゃない、サムライに恋愛感情を抱いてるわけじゃない」
 「サムライたあヤったのか」
 「性行為になど及んでない」
 「そうかそうか、売春班でセックス漬けの毎日過ごしたせいでサムライのモンじゃ物たりねえか。毎晩毎晩からだが男欲しがって疼いて眠れねえか。可哀想になあ!女もろくに知らずにここに来てケツの穴に突っ込まれる快感やみつきになって、挙句俺なんかの手にアレいじくられて喘いで……」
 「それ以上言うな」
 「サムライだって男だ、お前とヤりたくてヤりたくてヤりたいに決まってる。あいつだっておんなじだ、お前裸にして四つん這いにしてめちゃくちゃに犯しまくりたいって頭の中じゃ妄想ふくらませて毛布の中でこっそり……」
 「サムライを貴様のような変態と同列で括るな」
 サムライを悪く言われ、残りわずかな理性がとびそうになる。怒りが頭が沸騰して正常に思考が働かずにあせりと苛立ちが募る。僕を追い詰める快感に酔い痴れながら警棒をもてあそぶタジマ。硬質な靴音がコンクリ床を叩き、後ろ手に縛られた僕のもとへとゆっくり……
 抜けた!
 「!!くそがっ、」
 僕が行動を起こすほうが、タジマの警棒が振り下ろされるより一瞬早かった。その一瞬の差が勝敗を分けた。床を蹴り加速し、タジマの足の間をくぐるようにサムライのベッドの下にすべりこむ。
 すずりがひっくり返り、墨汁の瓶が倒れ瞬く間に漆黒の染みが広がる。墨汁の飛沫がとぶのもかまわず更に手を突き入れ、木刀をしっかり掴む。
 「気い済むまでぶちのめして気絶させてから存分に犯してやらあ!!」
 反射的に体が動いた。
 怒号を発し、猛突進してきたタジマの脛を振り返りざま木刀で打ち据える。無防備な脛をしたたかに打たれ、自分の痛みには過敏なタジマが濁った絶叫を発し転倒。脛を抱えて悶絶するタジマをよそに、木刀を抱えて扉に走り寄る。早くここから逃げなければ確実に犯される、いや、犯されるだけではない。タジマに反抗したのだから今この場で殺されてもおかしくない。僕が死んだら処理班が呼ばれて死体は内密に運びだされる、サムライには何も知らされず、タジマは何ひとつ咎められることなく……
 いやだ。そんな現実は否定する。 
 ノブを捻り鉄扉を開け放ち廊下に転がり出る。今の自分が裸だとか気にする暇もない、どうせ廊下は無人で他に人目もない。少しでも遠くタジマから逃げなければ。タジマに捕まること即ち死を意味する、よくて半殺しですんでもタジマは必ず僕を犯す。犯されるのも殺されるのもごめんだ、自分に嘘をつくのはもう限界だ。サムライ以外の男に体をさわらせないと約束したんだ……
 房ですさまじい物音がした。
 「!?」
 反射的に振り返り、硬直する。床でのたうちまわっていたタジマが僕のベッドに衝突、その衝撃でベッドがずれ、ベッドの下に隠していた手紙が暴かれた。
 手紙。恵の担当医から届いた手紙。
 「なんだあこりゃあ……親殺しのくせに生意気に、身内からの手紙なんか隠し持ってたのかよ」
 「返せ!」
 頭で考えるより先に房にとびこんだ。今は何をおいても逃げるべきなのにできなかった、激痛が薄れたタジマがおもむろに立ち上がり手紙を拾い上げ、僕に無断で中を改めたからだ。嫌な、もう二度と思い出したくない記憶が甦る。永遠に葬り去りたい記憶。僕は実際にその現場を目にしたわけではないかロンの口から聞かされた。
 恵に宛てた手紙がライターで焼かれる光景。
 僕が綴った字がひとつ残らず灰になり、踏み躙られる光景。
 早く逃げなければ、と一方で誰かが叫ぶ。しかし一方の誰かが手紙を取り戻せと叫ぶ。早くタジマの手から手紙を取り返せ、そうしなければ取り返しのつかないことになる、おなじ過ちを二度くりかえすことになる。一度目は僕の不注意で手紙を落とし、二度目も僕の現実逃避で……恵が描いた絵に僕の姿がなくて、その現実を直視したくなくて、折角届いた手紙をベッドの下に投げこんでいた。
 だから、こんなことになったんだ。
 手紙にざっと目を通したタジマの顔に冷笑が浮かぶ。僕のことを完全に見下した邪な笑顔。
 「ああ、妹からの手紙じゃねえのか紛らわしい。しっかしこの医者偉そうでむかつくな、東京プリズンを何だと思ってんだ。なになに、恵ちゃんの描いた絵を同封します?これのことか……」
 「返せ!!」
 腕をのばし、なりふりかまわずタジマから手紙を奪い返そうとする。だがタジマの方が一枚も二枚も上手だって、必死な僕を翻弄するように頭上で便箋を振りまわし、恵の絵を封筒から抜き出す。がさがさと紙が鳴る音。手荒く紙を広げたタジマが大袈裟に顔をしかめる。 
 「うわっ、こりゃまたずいぶんとへたな絵……間違えた、前衛的な絵だな。天才の妹だけに俺たち凡人にゃ理解できねえ前衛的センスしてるな」
 「恵を馬鹿にするな、一生懸命描いたんだ!僕の妹の絵は下手じゃない、前言撤回しろ!」
 その絵は恵が心をこめて描いたんだ。僕はいないけど、僕の姿はどこにもないけど、恵は一生懸命願いをこめてその絵を描いたんだ。今は亡き両親とそうやって手をつなぎたかった幼い願望をこめて、決して叶わない夢を見て……恵の絵はたしかに稚拙だ、でもそれのどこが悪い、下品で無教養なタジマに絵画について語る資格など一片もない。
 絵を奪い返そうと必死な僕を見下ろし、笑みを噛み殺した表情でタジマが聞く。
 「そんなにこの絵が大事か?」
 「貴様には関係ない、答える義務もない!それは僕の所有物だ、僕の大事な妹が描いた大事な絵だ!精液がこびりついた汚い手でふれるなこの低脳!!」
 白い物が付着した手を絵に擦り付けながらタジマが笑う。タジマの手を汚すあれは、僕がだしたものだ。僕がだしたものが絵を汚してる。僕が恵を汚してる……いやだ、やめろ、やめてくれ。
 手の汚れを絵で拭くタジマ。
 「そんなに大事な物なのか」
 やめろ。
 「じゃあこうしよう」
 やめてくれ。
 僕の眼前で、タジマが絵をくしゃくしゃに握りつぶす。見せつけるように念入りに、両手で握りつぶす。そうして原形を留めない紙屑にした絵を、丸めて口に放りこみ、咀嚼する。
 なに、をしてるんだ? 
 目に映る光景が信じられない。タジマの奇行には慣れていたが、タジマが今、いかにも不味そうに顔をしかめて咀嚼してるアレは恵の絵だ。今しもタジマの喉を通り食道を下っているのは、恵の絵だ。
 「………はは、どうだ、これで取り返せないだろうが。どうだ悔しいか、え、悔しいかよ?なんだようつむいちまって張り合いのねえ、さっきまでの元気はどうしたよ」
 「………、」
 タジマの声が耳を素通りする。体が硬直し、指一本さえ言うことを聞かない。タジマが紙を食べた。恵の絵を飲み下した。恵が一生懸命描いた絵を…… 
 恵の夢を。
 俯き立ち尽くす僕の体が突き飛ばされ、そのままベッドに激突する。背中が軋んだ。痛かった。抵抗する気は起きなかった。頭は空白だった。心が麻痺したように何も感じなくなった。ベッドを背中にずり落ちた僕の顎を掴み、無理矢理上向かせてタジマが囁く。
 目と鼻の先でタジマが覗きこんでいる。僕をいたぶることが楽しくて楽しくてしょうがないという笑顔。 
「くそったれ親殺しの分際で妹が描いた絵をこっそり隠し持ってるなんてふてえ野郎だ。いいか、よく聞け鍵屋崎。両親殺したお前が家族に希望持つこと自体間違ってんだ。手紙に一言でも恵ちゃんが恋しがってるとか寂しがってるとか書いてあったか?ないだろ。お前のことなんて誰も恋しがってねえ、待ってもいねえ、それが現実だ」
 それが現実。
 顎に食い込んだ指が痛かった。僕を待つ人間などだれもいない、僕を必要とする人間などだれもいない、それが現実。タジマの目に映った僕は、完全に心を手放した表情をしていた。目は絶望で濁り、焦点を結んでいなかった。唇は何かを反駁しかけ、しかし言葉にできずに半ばむなしく開いていた。
 心に亀裂が入った人間の顔だった。
 「さあ、くりかえしてみな。僕は人間のクズの親殺し、妹にも見捨てられた情けない兄貴、だれにも待ち望まれてねえ要らない人間だって」
 「………、」
 「言え」
 タジマが冷酷に命令し、顎を掴む握力が増す。
 「!あぐっう、」
 血も引くような激痛が走る。タジマの革靴でおもいきり股間を踏まれた。反射的な動作で股間を庇えば、そんな僕を嘲笑するようにタジマの口角がつりあがる。
 「言えよ親殺し。言わなきゃもっと酷くするぞ」
 「………僕は、」
 「聞こえねえなあ!もっと大きな声で」
 「僕は」
 喘ぐように口を開くが荒い息にまぎれて言葉が続かない。胸が苦しい。引き裂かれそうだ。心なんか麻痺したはずなのに、それでもまだ痛いと感じるのは何故だ?顎が痛い、人に言えない場所が痛い、でもそれだけじゃない。これまで僕を支えていたプライドの芯が腐食して、一片ずつ剥げ落ちてゆくような喪失感。
 現実など見たくない。辛いだけだ。
 タジマの目に映る自分など見たくなくて、よわよわしく瞼をおろす。目を閉じ、口を開く。タジマの命令に従わなければこの苦しみは終わらない、タジマは決して僕を手放さない。
 言え。言ってしまえ。事実を事実と認めるだけじゃないか、それのどこに痛みを感じる?
 痛みを感じる資格なんて、僕にはないのに。
 「僕は人間のクズの親殺し、妹にも見捨てられた情けない兄、だれにも待ち望まれてない要らない人間だ」
 「もう一回」
 「僕は人間のクズの親殺し、妹にも見捨てられた情けない兄、だれにも待ち望まれてない要らない人間だ」
 「もう一回」
 「僕は……」
 かすれた声で棒読みして、それを何回もくりかえす。繰り返すごとに心が麻痺し、何も感じなくなり、自分の輪郭が大気に薄れて消えてゆく錯覚に襲われる。僕は人間のクズの親殺し、妹に見捨てられた情けない兄、だれにも待ち望まれてない要らない人間。それが真実。恵は最初から僕なんか必要としてなかった、僕は家族でさえなかった。じゃあ一体僕は何の為に両親を殺した?鍵屋崎優と由香利にとどめをさした?恵を守る、ただそれだけが僕の唯一の存在意義だったのに……
 催眠術をかけるようにタジマの言葉を復唱すれば、満足したらしいタジマが漸く顎から手をはなす。
 そして、違うことを命じる。
 「しゃぶれ」
 ぼんやりとタジマを仰ぐ。タジマは笑っていた。心底楽しげに笑っていた。こんなに楽しげに愉快げに笑う人間ははじめてだ、こんなにおぞましい笑顔も初めてだ。
 もう、なにもかもがどうでもよかった。
 なにもかも自分に関係ないことに思えた。自分などどうなってもよかった。鍵屋崎直なんて人間はもう誰の記憶からも抹消されて、今ここにいる僕はただの親殺しにすぎなくて、誰一人救えず誰一人守れない無力な人間で。
 天才である意味さえない。
 僕が、鍵屋崎直という固有名詞に固執する意味がない。
 「…………」
 震える手をタジマの股間にのばす。タジマがひどく満足げな表情をする。それに口を近付け、含もうとする。頭は朦朧としていた。目に映るものすべてに現実感が欠落していた。
 どうせ僕はここで朽ち果てる運命だ。運命を変えるのは不可能だ。なら、無抵抗に身を任せたほうがずっとラクだ。醜悪な物を見なくて良いようしずかに目を閉じ、舌を覗かせ……

 『俺はおまえに生き延びてほしい、生き残ってほしい』

 脳裏で閃光が弾けた。

 『俺は二ヶ月前に言った、生き残るために俺を頼れと。その言葉が気に入らないなら『利用しろ』と言い換えてもいい。鍵屋崎、そんなに俺は頼りないか?頼りにならない男なのか?いくら剣が強くても友人に頼られる価値もない男にサムライを名乗る資格はないとレイジに言われた。そのとおりだ』
 『頼むから頼ってくれ、直。今ここで頼ってもらえなければ、俺はもう友人でいる資格がない』
 売春班最後の夜に、血を吐くようにサムライが言った言葉。
 
 僕はタジマの言うように要らない人間か?
 誰にも待ち望まれてない、要らない人間なのか?
 
 ……いや、ちがう。
 人間のクズなのも親殺しなのも否定しない。が、誰にも待ち望まれてないなんて認めない。サムライはあの時たしかに言った、はっきり耳に届く声で僕が必要だと、僕が必要だから自分を利用しても生き延びてほしいと訴えたのだ。
 そのサムライとの約束を、僕はまた破るのか?
 僕を必要とする人間の信頼を裏切るのか?
 そんなことはできない、絶対に。
 天才のプライドに賭けて、鍵屋崎直個人の意志に賭けて、約束は守らなければ。
 
 薄暗い房に、耳破れんばかりの絶叫が響き渡った。
 この期に及んで僕に反撃されると思わずタジマはすっかり油断していた。即座にタジマの股間から顔を放し、血の混ざった唾を吐く。僕の血ではない、タジマの血だ。
 タジマの股間に顔を埋めるふりで、口に含み、歯を立てたのだ。
 股間を両手でおさえ悶絶するタジマから床に手をつきあとじさり、そばに転がった木刀を握り締める。
 サムライの教えを反芻し、しっかりと木刀を構え、叫ぶ。
 「僕にふれていいのはサムライだけだ!!」
 自分の声で痛いくらいに鼓膜が震えた。胸の動悸はおさまらず、呼吸が速くなった。それでも木刀は手放さず、股間をおさえてうずくまったタジマに木刀の切っ先をむける。体も心も貶められてもせめて最後の一戦は死守しようと心に決め、両手で木刀を構えて今の僕にできる精一杯で身を庇えば、ゆっくり股間から手をはなしたタジマが怒りに顔が充血した恐ろしい形相に変じる。
 僕への殺意をむきだしにした顔。
 「あああああああああああああっああああっ、そんなに死にてえええのかあああっ!!!」
 怒り狂ったタジマが全力で警棒を振り上げる。
 タジマの全力で振り下ろされた警棒を何とか木刀で受け止めるが、その反動で手が痺れた。眼前に構えた木刀で警棒を払い、踵を返して鉄扉へ疾走する。逃げなければ殺される、タジマは本気で僕を殺すつもりで手加減せずに仕掛けてきた。開け放した扉から廊下へ転げ出て、木刀を片手に持ち、背後の脅威に駆り立てられひた走る。逃げろ逃げろ逃げろ、速く速く速く!!心臓が爆発してもかまうものか、タジマにつかまり嬲り殺されるよりずっとマシだ。タジマに引きずり倒され犯されるよりずっと……
 「!!!っ、が」
 肩に激痛が走る。
 肩に警棒が的中し、木刀を持ったまま廊下に倒れ伏す。天井の蛍光灯が視界に映る。仰向けに寝転んだ僕は、すぐさま起き上がろうと廊下に手をついたが、肩の激痛がひかずに上手く体勢を持ち直せない。
 額に脂汗が滲む。タジマはすぐそこまで来てる。はやく起き上がらなければタジマに捕まる、今度こそ犯され殺される。僕はそれだけのことをしたのだから……
 「来るな」
 喉から制止の声が漏れた。一歩、また一歩とタジマとの距離が縮まり靴音が大きくなる。それ以上近付くな、近付いたら……どうする?僕の味方は木刀だけ。が、基礎しか習ってない剣技では所詮時間稼ぎ。僕はサムライじゃない、サムライのようには強くなく自分の身は守れない。なにが天才だ、肝心の時に役に立たない頭脳など……  
 靴音が途絶える。
 とうとう追い詰められた。僕はまだ立ちあがれない。肩がひどく疼いて、膝を起こそうとしたそばからよろけて尻餅をつく始末。そんな僕の背後に立ち、タジマが哄笑をあげる。それでもどうにか平衡感覚を取り戻し、片手で肩を庇い、片手で木刀をひきずり歩き出す。最後まで諦めるな、諦めたら終わりだ。サムライ以外の男にさわられるのはいやだ、いやなんだ!
 腰を蹴られた。
 「!!」
 体を折れば、すかさず膝を蹴られる。それでも倒れずに持ち応えれば、とどめとばかりに太股を蹴られる。力尽き、廊下に屑折れた僕の後頭部を靴裏で踏み、タジマが口笛を吹く。
 「最後までサムライの木刀を放さねえか、見上げた根性だ」
 僕の手を蹴り足を蹴り、四つん這いの格好にさせたタジマが素肌に執拗な視線を這わす。廊下の真ん中で犬みたいな格好を無理強いされる屈辱で頭が沸騰し、素肌が赤く染まる。上着は房に置いて来て、上半身は裸だ。埃まみれの床に手足をつき頭をたれた僕の手の下から力づくで木刀を抜き取り、タジマが言う。  
 「ご褒美に、サムライの木刀で開かせてやるよ」
 淫猥に舌なめずりしたタジマがぎこちない手つきで木刀を構え、無造作に僕の足を広げる。足の間に木刀をさしいれられ、僕が握り締めていたプライドの最後の一片が跡形なく蒸発する。
 サムライの木刀を奪われ、サムライの木刀をこんなことに使われたばかりか、サムライとの約束さえ守れないのか。
 自己嫌悪の泥沼に際限なく沈みこみ、床に肘をつき深く深くうなだれた僕の耳に乾いた音が響く。木刀を投げ捨てたタジマが僕の腰を抱え、腹を密着させ、そして……
 僕の耳元で、ねっとり囁く。
 「たっぷり犯してからじっくり殺してやるよ」
 おしまいだ。
 とうとうサムライとの約束を守れなかった。恵の絵も守れなかった。僕がしてきたことは全部無駄だった。諦念とともに目を閉じた僕のズボンが乱暴に引き下げられ、タジマが生唾を飲み込んだ……

 その時だ。

 廊下の前方に靴音が響き、二人の人間が現れる。
 「タジマ、おまえ……!」
 絶句した五十嵐と、
 「即刻鍵屋崎から離れろ。でなくば射殺するぞ」
 背広の内側に手をさしいれた安田だった。

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20051026005029 | 編集
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