ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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四十話

 「審判、インチキだろあれ!!」
 金網を乗り越えんばかりの凱が審判に抗議する。ゴングが鳴り響いた直後に辿り着いたらしく、リングにうつ伏せたままぴくりともしない少年を忌々しげに睨んでいる。
 「いいのかよ、外野の飛び入り参加見逃して!ルール違反じゃねえのかよ!?」
 「ペア戦はルール無用だ」
 金網を揺すりたてて吼える凱をうるさそうに一瞥、審判役の看守が説明する。
 「飛び入りの参加を禁止するルールはねえよ。素手で戦ってるやつに得物渡すなって禁止事項も、な」
 「そうそう」
 声は頭上から降ってきた。
 全員がそちらを仰げば、金網に足をひっかけ、ヨンイルが逆さまにぶらさがっていた。
 「一方が武器持って一方が手ぶらじゃアンフェアやろ?こんくらいのズル笑って許してや」
 悪びれたふうもなく笑うヨンイルを指さし、「ほら、自分でズルって認めたぜ!」「いいのかよ審判!?」と凱とその仲間たちが騒ぎ出す。凱とその仲間たちに詰め寄られ対処に困っている審判はよそに、ヨンイルが軽い身ごなしでフェンスから飛び降りる。
 そのまま宙で一回転して見事に着地を決める。
 「勝ちは勝ち、あとからなに言っても負け犬の遠吠えで結果は覆えらん。そうやろなおちゃん」
 「ちゃん付けするな」
 木刀を届けてもらった手前形だけでも感謝を述べておくか、という殊勝な気持ちはその瞬間に吹っ飛んだ。とはいえ、サムライの窮地に間に合って安堵した。最前までリングで孤独に戦っていたサムライはといえば、一戦終えた幕間にリング外へと退避して医師の治療を受けていた。
 サムライの方へ駆け寄る。
 サムライは上着を脱いで上半身裸になっていたが、皮膚の至る所が裂けて血が滲んでいた。鞭で相当ひどくやられたらしい。殆どかすり傷らしいが安心はできない。サムライのそばに侍った医師が手際良く傷口を消毒して綿で血を拭い、ガーゼを患部に押し当てて上から包帯を巻いてゆく。藪医者だと思っていたが存外腕は確かなようだ、と少しだけ、あくまでほんの少しだけ見なおす。
 半年前、いい加減な診断を下された恨みはこの程度では拭えそうもない。
 「……だいぶ苦戦したようだな」
 サムライの背後に歩み寄り、小さく呟く。大丈夫か、なんて間抜けな台詞はとてもじゃないが言えなかった。だいたいどの面下げて「大丈夫か?」などと聞けばいい、サムライの木刀を持ったまま今の今まで姿をくらましていた僕が、試合終了間際の今ごろになってのこのこ姿を現した僕が。凱にスタンガンで気絶されボイラー室に監禁されていたというやむをえない理由はあるが、それもすべて僕の不注意が招いた事態だ。
 もう少し警戒心を持って周囲に目を配っていたら防げたはずなのに。
 サムライに怪我をさせずにすんだのに。
 「たいしたことはない」
 医師に包帯を巻かれながら、振り向きもせずサムライが答える。それだけ聞けば本当にたいしたことはないと思えるそっけない口調だが、僕が到着するまで鞭で嬲られていたとおぼしき裂傷が肌におびただしく刻まれていて、正視するのも辛い。 
 「それよりどこに行ってたんだ。姿が見えないから怪訝に思っていたが……」
 罪悪感に苛まれつつ、サムライの裸の背中を眺めていた僕は返答に詰まる。まさかありのままに答えるわけにもいかない、サムライに余計な心配をかけたくない。彼には試合のことだけ考えていてほしい、僕が危険に巻きこまれたことをわざわざ知らせる必要はない。大事な木刀を持って行方をくらましていたというのに、そのことについて僕を責める発言を一切しないサムライの優しさが歯痒くて、どもりがちに嘘をつく。
 「……その、トイレに行っていた。早く木刀を返したかったんだが、出るに出られなくて」
 最低の言い訳だ。
 こんな嘘をつかなければいけないなんて屈辱的だ。いっそ真実をぶちまけてすっきりしたいが駄目だ、スタンガンで気絶させられボイラー室に監禁されてたなどと白状したらサムライは血相変えるに違いない。僕のプライドの危機でもある。それにしてももっとマシな言い訳はないものか、語彙は豊富だとかねがね自負する天才のくせに……
 手当てを終え、ふいにサムライが振り向き、僕を見た瞬間に眉をひそめる。
 「直。その首はどうした?」
 ひさしぶりに下の名前で呼ばれ、ハッとして顔を上げる。指摘され、無意識に首に手をやり、気付く。
 首に青黒い痣ができていた。タジマに首を絞められた指の痕だ。
 「これは、」
 自然な言い訳を考えようとして、真剣な眼差しに射抜かれて固まる。無理だ、首の痣に関して自然な言い訳など思いつくわけがない。誰がどう見ても誰かに首を絞められたとしか思えない状況じゃないか。
 サムライから顔を背け、言い訳を考えあぐねて視線を巡らし―
 「彼にやられた」
 「は?」
 隣にいたヨンイルを指さした。
 僕につられ、自分の顔を指さしたヨンイルが何が何だかわからず目をしばたたくのを無視し、ため息まじりにかぶりを振る。
 「僕がブラックジャック九巻を借りていると知り、自分も読みたいから早く返せと首を絞められたんだ。まったく、なんて粗野で乱暴で凶暴な男なんだ君は。首を絞めるような野蛮な行為をせずとも僕はしっかり期日を守って本を返す完璧主義者だ。考えてもみろ、僕が一日でも図書を延滞したことがあったか?ないだろう」
 「ちょ、ちょお待て!俺まったく身に覚えないんやけど人聞き悪いこと言わんといてや、正々堂々しれっとひとを絞殺未遂犯扱いして……そりゃユニコ誘拐した赤毛には有言実行ケツの穴に指つっこんで奥歯がたがたいわせた前科あるけど、」
 身に覚えのないぬれ衣を着せられたヨンイルを押しのけ、裸の上半身に包帯を巻いたサムライが歩いてくる。僕の手前で立ち止まったサムライがズボンの尻ポケットを探り、手ぬぐいを取り出す。
 「巻いておけ」
 「……は?」 
 何だと?
 「首に巻いておけ。手ぬぐいでもないよりはマシだろう」
 ふと、何の脈絡もなく、風邪をひいたときはネギを首に巻けば効くという民間療法を思い出した。 
 「要らない」
 「何故だ」
 「格好悪いからだ」
 即答する。たしかに以前も似た状況で手ぬぐいを借りたことがあったが、首に巻くのはさすがに抵抗がある。……というかこの男は、いつでも手ぬぐいを持ち歩いてるのか?これだけは絶対に譲れないと拒否すれば、サムライが渋々手ぬぐいをしまおうとし。
 「……待て。やっぱり借りておく」
 途中で気が変わり、サムライから手ぬぐいを受け取る。隣ではヨンイルが「木刀届けてやったのにこの扱いはナシやで、ホンマ」と不満をこぼしている。
 上着を拾い上げ、袖に腕を通し、裾を下ろす。
 包帯が目立つ上半身を上着に隠したサムライに、声を低めて念を押す。
 「ずっと戦い通しで疲労してるんじゃないか?続けて戦えるか?」
 「俺の出番は終わりだ。小休止を挟んだ後半戦はあの男の出番だ」
 サムライが冷めた一瞥をくれた方向を見れば、フェンスに凭れたレイジが本を読み耽っていた。
 「君が戦ってる間、ずっとああして本を読んでいたのか?」
 眉間に皺が寄るのをおさえられない。
 喧嘩中とはいえ、サムライが鞭で嬲られて負けそうになっているその瞬間も本から顔を上げずにいたとは由々しき事態だ。サムライをその場に残し、大股にレイジに歩み寄る。フェンスの金網に背中を預けたレイジが最後の1ページをめくり、満足げな吐息を漏らす。
 「ずいぶんちんたらやってたな。一冊読み終えちまったぜ」
 堕落しきった豹のように伸びをしながらレイジが言い、読み終えた本を脇におく。なにげなく本の表紙を見れば文豪アーネスト・へミングウェイの短編集だった。 
 「キーストアさ、どう思う?へミングウェイは武器よさらばとか誰がために鐘が鳴るとか有名だけど、俺は短編のが好きだな。武器よさらばとか肩がこるし後味わるいし、ハッピーエンド好きな俺的にすっきりしねーんだよラストが。インディアン・キャンプとかのが好み」
 「へミングウェイについてはほぼ同意見だ」
 怒りと苛立ちを押し殺し、努めて平静な声をだす。
 本を読み終え、初めてロンがそばにいないことに気付いたらしい。きょろきょろとあたりを見まわしたレイジが不思議そうな顔をする。
 「ところでキーストア、ロン知らねえ?」
 もう一回殴りたくなった。
 ロンは今僕の身代わりでボイラー室にいるというのに、僕を逃がすために体を張って時間稼ぎしてるというのに、この男は何も知らず何も気付かず試合中ずっと本に没頭していたのか。たしかに本は素晴らしい、へミングウェイの短編集は素晴らしいが時と場所をわきまえて読書するくらいの慎み深さはないのかこの男には。そうかないのか、手におえないな。
 なら本当のことを教えてやれ、レイジとサムライがつまらない喧嘩を長引かせたせいでロンが今どんな目にあっているか、彼らが知らないところで僕たちがどんな危険に巻きこまれたか。
 「ロンは今、」
 『面倒くさいことになるからレイジには言うな!』  
 言葉を続けようとして、ボイラー室を脱出する際に背中にかけられた声を思い出す。
 そうだ、あの時たしかにロンはそう言った。タジマに押し潰されて身動きできない状態で、必死な形相で叫んだのだ。真実を言うのは簡単だ、真相を告げればレイジは何をおいてもロンを助けにいくだろう。
 試合を放棄して、サムライの努力を無にして。
 「………」
 唇を噛んで考え込む。
 面倒くさいことになる、というのはそういうことか。レイジが試合放棄した時点で100人抜きは実現不可能となりレイジとサムライの敗北が決定する。サムライの善戦は水の泡となり僕とロンは売春班に逆戻り、レイジもまた売春班に堕とされてサムライに至っては両手の腱を切られる。
 冗談じゃない。
 そんな未来は断固として却下する、否定する。
 「どうした?」
 僕の顔を覗きこみ、レイジが眉をひそめる。レイジの視線を避けるように俯き、口を開く。
 「……ロンは今、トイレだ」
 「それにしちゃ長いな。腹でもくだしてんのかな」
 レイジは僕の言葉を疑う素振りもなく、ひとりで納得して頷いてる。
 『ロンは今、タジマに捕まって大変な目に遭っている』
 言えるわけがない。言った途端にすべてが水の泡、サムライの戦いもレイジの戦いもこれまで戦ってきたすべてが無駄になる。ロンはそれを見越して「レイジに言うな」と釘をさしたのだ。
 「よーし」
 おもむろにレイジが立ちあがる。膝の屈伸と柔軟、ざっと準備体操を終えてから照明に輝くリングを見つめる。  
 勝利の自信に満ち溢れた精悍な横顔で。
 「ロンがクソして戻ってくるまでに凱を倒して勝利の女神にキスしてやる」
 レイジは知らない、ロンが絶体絶命の危機にあることを。僕が話してないのだからあたりまえだ。
 レイジの視線の先、リングを挟んだ対岸では凱が睨みを利かせている。額の出血は既に止んでいたが、こちらを睨む目には殺気がこもっている。
 「この時を待ってたぜ、レイジ」
 殺気走った目でレイジを威嚇し、獰猛に凱が唸る。
 「ヤンとロンチウのペアや残虐兄弟がサムライやっつけちまったらどうしようって冷や汗かいたんだが、余計な心配だったな。言ってみりゃ奴らは安全牌、俺様の勝利をお膳立てする駒にすぎねえ。今日のペア戦の目玉はおれとおまえ、本番はこれからだ」
 「さらっと俺に様つけんな、雑魚の悪役地でいくつもりかよ恥ずかしい」
 「減らず口叩けるのも今だけだ、ゴングが鳴り次第王座からひきずりおろしてやる」
 「知ってるか凱、誰がためにゴングが鳴るか」
 一呼吸おき、レイジが不敵に笑う。
 「王様のためにさ」
 檻のような金網を挟み、リングを隔てて睨み合う凱とレイジの様子に否応なく周囲の緊迫感が高まる。
 非常にまずい状況だ。
 もうすぐゴングが鳴り、凱対レイジの試合が始まる。レイジはなにも知らない、ロンがボイラー室に捕まっていることもタジマに痛めつけられていることも。レイジに知らせてはいけない、どのみちそれは自滅を意味する。
 僕に残された選択肢はひとつ。
 レイジに知らせずサムライに知らせず、僕がロンを救出する。
 仮にサムライを頼ればすぐにロンを助け出せるかもしれない。しかしサムライは怪我をしている、心身ともに消耗している。彼には休息が必要だ。これ以上体を酷使すれば最悪倒れてしまうかもしれない。
 「……しかし、どうすればいい?」
 どうすればロンを救い出せる?
 ロンは単身僕を助けにきたが、今は僕の身代わりでボイラー室に捕まっている。策も何もなく突っ込んでいくのはとても利口とは言えない。同様に僕ひとりでロンの救出を成功させるのは不可能に近い。僕は天才だ、天才に不可能はないと断言したいところだが頭脳は常人離れしていても腕力は常人以下。認めたくはないが、できないことは必然でてくる。
 「おい、」
 「なんだ!?」
 振り向けば、そこにいたのは見覚えのある顔。だれだろうと記憶を検索し、すぐに思い当たる。
 途方もなく長く感じられた生き地獄の一週間、売春班で通気口越しに会話したおなじ境遇の少年たちが3・4人、僕の剣幕に恐れをなしたように縮こまっている。
 意外な顔ぶれに、しばし言葉をなくして動きをとめる。
 中にはメイファという名の子を持つ囚人と凛々という名の恋人を持つ囚人もいた。鏡に突っ込んで担架で運び出された後者の顔にはまだ生々しい傷痕が残っていた。
 「何の用だ?」
 「いや、……おまえが言えよ」
 「俺が?おまえが言えよ」
 しばらく小声で言い争っていた囚人を代表して歩み出たのは一児の父親だ。少し気まずげに視線を揺らしてから、何か決断したように僕を見据える。
 「さっき見てたんだよ、あの半半……売春班で一緒だった半半が大人数に取り囲まれてるとこ」  
 「なんかやばい雰囲気だったもんで、気になって」
 「試合が始まるまえだったかな。大人数に取り囲まれて何か言われて、それから血相変えて駆け出してったんだけどそれきり姿が見えなくて、どうしたのか気になったんだよ。半半と仲イイおまえなら何か知ってんじゃねえかって声かけたんだけど、」
 「仲がいい?どこからそんな発想がでてくるんだ」
 それはともかく、彼らは彼らなりに100人抜きの結果が心配で試合観戦にきていたらしい。自分たちの未来が関わってるのだから気にならない方がおかしい。一週間仕事場に軟禁状態で直接顔を見る機会は少なかったとはいえ、過去に自分たちが責め立てたロンのことを多少は気にかけているようだ。
 が、今は彼らの相手をしてる場合じゃない。
 おそるおそる声をかけてきた連中をそっけなくあしらおうとして、脳裏に一つの案が浮かぶ。
 「……君たち、ロンが心配か?」
 低い声で確認すれば、落ち着きなく顔を見合わせ、かつての同僚たちが口々に言う。
 「そりゃまあ、な」
 「あの時はずいぶん酷いこと言っちまったけど、俺たちが今こうして足洗えたのもあいつのおかげだし」
 「あいつのおかげ、というより東のトップのおかげだけど」
 「考えてみりゃあんだけ酷いこと言ったのに、あいつ反論らしい反論もせずによく我慢してたよな」
 「少し言いすぎたかなって思わなくもねえし……、」
 「心配してるんだな?」
 いちばん肝心な部分を確かめれば、一呼吸の間をおいて全員が頷く。ある者はきっぱりと力強く、ある者はためらいがちに、ある者はつられて。それでも全員が確かに、僕が見てる前で首肯した。
 ロンを心配してると認めたのだ。
 ならば話は簡単だ。
 「ロンに謝りたいなら行動で誠意を示して欲しい」
 咳払いし、元売春夫たちを見まわす。どう話したものか少し迷うが、ストレートに切り出すのがいちばんだろう。まわりくどい言いまわしは凡人に通じにくい。
そう判断し、毅然と前を向く。
 「僕に協力してほしい」
 天才が凡人に頭をさげるのはプライドの危機だが、プライドより優先しなければならないことが世の中にはある。

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