ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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三十二話

 ボイラー室は暑い。
 壁と天井の配管から漏出する水蒸気のせいでボイラー室はサウナのように蒸し暑く、何もせずじっとしてるだけで必然シャツの内側に汗をかく。
 熱気と湿気が充満した狭苦しい部屋の最奥、手錠で繋がれた僕は黙ってうずくまってるしかない。
 手錠の片方は背後の配管に繋がっている。途中、3メートル離れた壁際に暇そうに突っ立ってる見張りの目を盗んで手錠をひきちぎれないかと試みたが無駄だった。凱の言う通りこの手錠は本物らしい、以前監視塔で嵌められた玩具の手錠とは段違いの強度がある。鎖をひきちぎろうと手に力をこめて引っ張ってみてもさっぱり効果はなく、鎖と皮膚とが擦れる摩擦熱で手の内側が赤くなるだけだった。
 自分の非力さが恨めしくなる。腕力に自信がない僕では素手で鎖をひきちぎる野蛮な芸当は不可能だ。
 この半年、イエローワークの強制労働で来る日も来る日もシャベルを上げ下げしてそれなりに握力は鍛えられたと思っていたのに不意打ちでレイジを殴れはしても自力で手錠を外すのは無理らしい。
 あたりまえだ、そんなことができたら人間の限界を超えてる。
 ささやかな抵抗に手錠の環と手首の皮膚のあいだに爪をもぐりこませ、痛痒いひっかき傷ができるまで掻き毟ってみたがこれもまったく無駄。

 ……無駄だと?なにを言ってるんだ僕は。
 不可能だ不可能だと何回繰り返せば気が済む?不可能を不可能で片付けるのは凡人の諦観で、不可能を可能にしてこそ天才の真価が発揮されるというのに。 

 冷静になれ。まず状況を整理しよう。
 試合開始三十分前、僕は地下停留場にいた。隣にはサムライがいた。ふとサムライが人ごみから離れた場所にうずくまってる囚人を発見して、気分が悪いと訴えてしきりに悶え苦しむ囚人をおぶって医務室へ行った。とっつきにくい仏頂面ゆえ誤解されやすいが、サムライはあれで随分とお人よしな所がある。
 凱はその武士の情けにつけこんだ。囚人を医務室へ運ぶためサムライが一時的に僕に木刀を預けた瞬間を見計らい背後に接近、スタンガンで気絶させて拉致。試合終了までボイラー室に監禁してサムライと隔離する作戦だ。
 刀を握れば最強でも刀がなければただの男に過ぎないサムライが苦戦を強いられるのは目に見えてる。いや、ただの男よりは確実に強い。僕はサムライが囚人の首の後ろに手刀を打ちこんで気絶させた瞬間を目撃してる。俊敏な身ごなしと無駄のない足捌きは十分脅威になりうるが、極論してしまえばそれだけだ。
 今日のペア戦にはサムライに倍して喧嘩慣れした人間や腕力に優れた人間、何より卑劣な策略を巡らす人間が出場する。素手の喧嘩の経験値が低いサムライが彼らと互角に渡り合えるかどうか……、
 ぐずぐずしてる暇はない。もうとっくに試合始まってる。ボイラー室の扉越し、遠く潮騒のように聞こえるのは会場の歓声か。先鋒のサムライは既にリングに立ってるはずだ。今はどちらが優勢なのだろう。木刀を紛失したサムライが無防備な状態をリングに晒して苦戦を強いられる姿を思い浮かべ、刻々と焦りと苛立ちを募らせる。

 このままでは試合が終わってしまう、サムライが負けてしまう。

 何故あの時もっと真剣に止めなかったんだ、疑問点を追及しなかったんだと歯噛みして自分の甘さを悔やんでも時既に遅い。胸を掻き毟って苦しみ悶える大袈裟な演技に一抹の疑問を感じていながら、もし本当に急病人なら足止めするのはまずいと躊躇したからか。本当に急病人である可能性が完全には否定できない以上、根拠に乏しい憶測で物を言うのを控えた天才の謙虚さが仇になった。僕はもっと大胆になるべきだ、IQ180の頭脳が下した判断に自信を持って断言すべきだったのだ。
 今更ながら、サムライをむざむざ行かせてしまったあの時の選択が悔やまれる。
 サムライから木刀を預かった僕は呆然と立ち尽くし、仮病の囚人をおぶさった後ろ姿を見送るしかなかった。僕が選択を誤まったせいで、疑問点の追及をおろそかにしたせいでサムライは現在窮地に追いこまれているのだ。もしサムライが現在進行形で苦戦してるなら責任は僕にある、僕に木刀を預けたせいで本来ラクに勝てるはずの試合に苦戦してるなら全責任を負うべきはこの僕だ。
 ボイラー室に閉じ込められていては試合の様子がわからない。今が何試合目か、試合が始まってどれ位時間が経つのかも正確にはわからない。おそらく一時間は経ってないだろうが、凱たちが出ていってから随分と時間が経過した。サムライはかなり疲弊してるはずだ。前半戦で体力を使い果たして、まともに試合に臨める状態じゃないかもしれない。後半戦はレイジに交代する手筈だが、こじれにこじれた険悪な仲の二人が円滑に交代できるか不安が残る。
 僕がサムライを受け持つならともかく、ロンひとりでふたりを説得するのは荷が重い。はっきり言って、短気で喧嘩っ早いロンに喧嘩の仲裁役は向いてない。拗ねていじけたレイジに「おまえ精神年齢いくつだ」ときつい言葉をぶつけて事態を悪化させるおそれもある。
 焦燥感に煽られながら手首を見下ろす。
 手錠をひきちぎるのは困難だと実践済みだ。左手首のひっかき傷がその証。手錠を壊すのが不可能なら別の方法を探さなければ……それにしてもこの手錠はどこから手に入れたんだ。
 瞬間、頭の中で回線が繋がった。
 東京プリズンで常に手錠を所持してるのは看守しかいない。僕を長時間拘束するため使用された手錠の入手経路は看守しか考えられない。すぐさま連想したのは半年前の一件、イエローワークの強制労働中に凱たちに襲われロンともども生き埋めにされかけた記憶。
 あの時凱は、だれに命じられたと言った?
 ひとつひとつ事実を確認し、不確かな予感が徐徐に確信へと輪郭を固めてゆく。やはりそうとしか考えられない、僕の推理は正しい。合理的思考過程を踏んで辿り着いたのはひとつの結論、凱たちを裏で操り僕を、いや、正確には僕たち四人を陥れようと腹黒い策略を練る人物の存在。
 試合前に凱と接触し、直接手錠を渡した看守はひとりしか思い浮かばない。
 ―落ち着け鍵屋崎直、怒りは頭を鈍らせ判断を狂わせる。ここは冷静にならなければ。今は自分のおかれた状況を詳細に分析して冷静に対処すべき場面で感情を優先すべき場面じゃない、怒りに駆られて優先順位を逆転させるのは本末転倒愚の骨頂だ。
 僕をこんな目に遭わせた人物、ひいては現在進行形でサムライを危険な目に遭わせてる人物への怒りの感情は理性的に制して、一刻も早くボイラー室から脱出しなければ。
 まず、手錠を外すのが先決だ。
 もっとも僕一人の力では手錠を外せないとわかりきってる。なら、他人の手を借りるまでだ。
 背後の壁に凭れ掛かり、さりげない動作で天井を仰ぐ。
 「暑いな」
 3メートル離れた壁に寄りかかっていた見張り役の少年がちらりと一瞥くれる。横顔に注がれる視線を意識し、注意をひきつけるのに成功してまず安堵する。無視されたら無意味に大きな独り言になってしまうところだった、壁相手に会話する危ない人間扱いされるのはご免被りたい。
 上着の襟に指をひっかけ、軽く揺する。風を送るふりをしながら注意深く見張り役の表情を探る。さっきまで沈痛に押し黙っていた僕が、急に話しかけてきたことを不審がってるようだ。怪訝そうな見張り役を仰ぎ、できるだけさりげなく頼む。
 
 「脱がせてくれないか」
 
 今のは少し不自然だったろうか。
 いや、おかしくはないはずだ。実際ボイラー室の室温は高い、シャツの内側が汗でじっとり湿って不快なのも事実だ。暑いから服を脱がせて欲しいという文脈は理に適ってる。
 しかし、低姿勢で申し出た僕に対し見張り役の少年は何故かぎょっとしたような顔をした。
 「……は?なに言ってんだお前、脱ぎたきゃ勝手に脱げよ」
 「そうもいかない」
 戸惑いから怒りへ。不愉快な表情に変じた少年の反論は当然予測していた。説得の言葉も考えてある。壁際で腕組みした少年にもよく見えるよう、すかさず左手を掲げてみせる。左手を掲げる動作につられ、手錠の鎖が耳障りな音を奏でる。
 「人体における間接の稼動域には限界がある。僕はナマコやナメクジに代表される軟体動物じゃない、手錠されたまま服が脱げるとでも思ってるのか」  
 「殺されたくなきゃ黙ってろ」 
 どうやら気に障ったらしい。理論的な説得は逆効果か。一旦諦めたふりをして手首を下ろし、壁に背中を預けて天井を見上げる。片膝を立て、片足を床に投げ出した無防備かつ無造作なポーズで上着の襟をつまむ。シャツの内側に風を送る動作を装い、軽く襟を揺すってみせる。
 緩んだ襟刳りの内側、ちょうど鎖骨のあたりに熱っぽい視線を感じる。
 本人に悟られぬよう慎重に視線を滑らせば、壁際でむっつり腕を組んでいた見張り役が、生唾を嚥下して僕の方を凝視していた。わざと見えやすい角度で襟刳りを広げたのだから反応してもらわなければ困る。 
 「きみも大変だな」
 退屈を持て余した演技をし、無意識にこちらに身を乗り出した見張り役に話題を振る。
 「大変って、なにがだよ」
 「凱だ」
 予想通り食いついてきた少年に向き直り、同情的な口吻で言う。
 「凱は低能で粗暴な最低の男だ。君も内心では不満を感じてるんだろう?無理のない話だ。ボイラー室に君ひとり残して行ってしまうなんて随分と不条理じゃないか」
 おそらく見張り役の少年は、凱の派閥ではあまり地位が高くなく、常日頃から損な役回りばかりやらされてるのだろう。日頃から軽んじられ、凱への反感を募らせてるにちがいないという推理は的を射ていた。僕に本心を見抜かれて逆上した見張り役が大股に接近、襟首を掴んで息巻く。
 「うるせえんだよ、手も足も出ねえ人質の分際でさっきからごちゃごちゃくだらねえことぬかしやがって。しまいには犯すぞ」
 「犯せばいい」
 「………あ?」
 何言ってんだ、こいつ。
 面食らったように目をしばたたいた見張り役の手が緩み、襟首がすり抜ける。あっけにとられた少年をまっすぐ凝視、眼鏡越しに目を細めて挑発。
 
 「ブラックワーク仕込みを試したくないか?」
 
 背中がぐっしょりぬれてる。
 ぐったり凭れ掛かった壁が水蒸気で湿ってるせいだ。ボイラー室に長時間監禁されるのは拷問だ。周囲は分厚いコンクリートで塞がれていて、低い天井には濛々と水蒸気がたちこめている。いつのまにか視界が靄がかっていたことに気付き、落ち着き払って眼鏡を外し、上着の裾で丁寧にレンズを拭う。少し時間をかけてレンズを拭ってる最中、はだけた裾から覗いた脇腹に火照った視線を感じた。スタンガンの火傷が二箇所生々しく残った脇腹を興味なく見下ろし、眼鏡をかけ、ひたと正面を見据える。
 「心配には及ばない、ここは密室だ。僕たち以外にはだれもいない。見張り役という損な役割を押し付けられたんだ、少しくらいたのしんでも罰はあたらないと思うが」
 「……はっ。不感症で潔癖症の親殺しが、いっちょまえに男誘惑なんてどういう風の吹き回しだよ。売春班で毎日男に抱かれてるうちに男なしじゃ生きてけねえ体にされちまったのか。立派な娼夫になっちまってよ」
 「否定はしない。……本音を言えば、僕も少し退屈してたんだ」
 リョウがよくするような表情を手本に媚びた笑みを浮かべれば、目の前の喉仏がごくりと上下し、シャツの隙間から薄ら上気した素肌を垣間見せる僕の挑発に劣情を刺激された少年が我慢できずに身を乗り出してくる。肩に手をかけて押し倒され、背中が壁に衝突。その衝撃で手錠の鎖が引かれ、手首に痛みを感じる。
 手首に食い込んだ金属の拘束具に苦痛を与えられ、おもわず顔をしかめかけ、最大限の自制心を振り絞り平静を取り繕う。
 サムライ以外の人間に弱みを見せるのは僕のプライドが許さない。
 壁に背中を預けた窮屈な姿勢で見張り役を仰ぎ、虚勢を上塗りした皮肉な笑みを拵える。
 「凱が戻ってくるまでたのしもうじゃないか」
 「―ド淫乱が」
 口汚く罵りつつも下半身はおおいに乗り気なようで、見張り役の少年は本来の役目も忘れて夢中で僕にのしかかった。上着の裾をはだけ、貪欲な手つきで下腹部を揉みしだかれる。相手を気持ちよくさせることなどどうでもいい、自分の快楽を優先させるだけの乱暴な愛撫に抗議のひとつもしたくなるがぐっと堪える。
 シャツの内側に突っ込まれた手が卑猥にうごめいて上着を巻き上げてゆく。腕の付け根まで上着をたくし上げられ、一糸纏わぬ上半身を晒した間抜けな格好の僕は今この場に他の人間がいなくてよかったと心の底から安堵する。大勢の人間の前で犬の真似をするのはどうということないが、大勢の人間の前で犯されて興奮する趣味はない。
 貪欲な手が腹筋に沿って急速下降、ズボンの内側に潜りこもうとしたその瞬間。
 「待て、順番が間違ってる」
 「順番?」
 右手を突き出して行為を突っぱねれば、本番直前にお預けを食らった見張り役が目を丸くする。飲み込みの悪さを嘆くようにかぶりを振り、俯きがちに眼鏡のブリッジを押し上げる。眼鏡を押さえた方とは逆の手、手錠に繋がれた左手をポケットに持っていきながら淡々と説明する。
 「愛撫が性急すぎる。君は外で女性を抱いてたときもそんなふうにしていたのか?あきれたな。童貞ならまだ可愛げがあるが、前戯の手を抜くなど女性に対して失礼すぎる。僕は男だから多少乱暴にされてもかまわないし今更体に傷がついたところで大したダメージはないが、正規の手順を踏んでくれなければこれから臨む行為への意欲が減退する」
 「言いたいことあんならはっきり言えよ!」
 癇癪を起こした見張り役を冷え冷えと観察、とんでもなく非常識な人間を見る目で糾弾する。
 「キスもできないのか?」
 非難がましく指摘し、強制的に顔を近付ける。僕がしようとしてることを察した見張り役がおそらしく卑猥な笑顔となり、調子に乗って顎に手をかけてくる。顎に指をかけられ上向かされ、はずみで眼鏡がずり落ちそうになる。首だけ反った不自然な体勢が苦しくて、僕は売春班でよくやらされていたおぞましい行為を連想する。
 「舌使いが上手い」と、床に跪かせた僕の頭を撫でたのはタジマだったか。
 僕の舌使いが上手いのは売春班でさんざん仕込まれたからで人に誇れる特技ではないが、今この瞬間だけは役に立った。
 唇を奪い、舌を入れる。
 無遠慮に突っ込まれた舌が貪欲に口腔をまさぐり、喉元に唾液が逆流して噎せ返る。窒息の苦しみに涙目になり、はげしく咳き込みながら体を放す。呼吸の間隔で肩を喘がせ、ぐったりと壁に凭れ掛かる。顎を拭きたい、唇を拭きたい。緩慢な動作で手を掲げ、口腔粘膜の接触で入り混じった二人分の唾液を拭い取る。
 「涼しいツラして舌使い上手いじゃねえか」
 「ブラックワーク仕込みだからな」
 そうだ、全部ブラックワークで、売春班で仕込まれた。売春班ではもっと汚らわしい行為を強制された、この程度痛くも痒くもない。胃袋が引き絞られるような吐き気を抑えて減らず口を叩けば、おざなりに前戯を済ませた見張り役が自分のズボンを下着と一緒に膝まで下ろし、性器が勃起した下半身を露出する。裸の下半身を晒した見張り役が今度は嬉々として僕のズボンに手をかける。
 「上の口は合格。下の口の使い心地はどうだ、ろう、な………」
 鼻息荒く欲情した少年の握力が緩み、途中で言葉が萎む。愚かな少年が自分の身の上に起こった異変に気付いた時には既に遅く、彼の体は僕の膝の上に突っ伏していた。
 僕の膝に顔を埋め、ぶざまに突っ伏した見張り役の少年に侮蔑の眼差しを注いで揶揄する。
 「気付かなかったのか、睡眠薬を飲ませたのを」
 「て、めえ……ひ、きょうだ、ぞ……」
 さっき顔を伏せたとき、こっそり含んだ睡眠薬を口移しで飲ませたのだがしてみると即効性だったようだ。安田に貰った睡眠薬はどうしても眠れない夜のためにと大事にとっておいたのだが、それがまさかこんな形で役に立つとは。自嘲的な気分に浸りながら壁によりかかっていれば、じきに膝の上から規則正しい寝息が聞こえてくる。ズボンの膝にヨダレをたらし、幸せそうに寝こけている少年に囁く。
 『晩安』
 中国語でおやすみを言い、不自由な体勢から腕を伸ばし、少年のポケットをまさぐる。
 あった。
 見張り役の少年が鍵を所持してるのではないかと推理して賭けに出たのだが、僕の読みどおりだった。凱は捕らえた獲物に細心の注意を払うタイプでもなし、僕には見張りをつけてれば大丈夫だろうと慢心し、自分で肌身はなさず鍵を持ち歩いてる可能性は低いと踏んだのだ。
 鍵穴に鍵をさしこめば手錠は簡単に外れた。
 ひっかき傷ができた左手首をさすりながら立ちあがる。熟睡中の少年を起こさぬよう細心の注意を払い、足音はおろか衣擦れの音もたてない慎重さでドアへと向かいがてら、床に転がっていた木刀をそっと手に取る。
 サムライの木刀は泥だらけの靴跡にまみれていた。
 「………」
 手中の木刀を見下ろし、上着の裾で綺麗に拭う。この行為には何の意味もない、無意味な行為だ。断じてサムライの為ではない。ただ汚い物をそのままにしておくのが落ち着かなかっただけ、言うなればそう、僕の気分の問題だ。
 誰に聞かれてもないのにそう言い訳しながら木刀を掴み、右手でノブを回そうとし―
 抵抗を感じる。
 「……馬鹿な」
 ドアに鍵がかかってる。
 馬鹿な、何故こんな初歩的なことに気付かなかったんだ?もし凱たちを裏で操ってるのがあの人物ならば当然ボイラー室の鍵も管理してるはずだ。それでわかった、何故凱が見張り役の少年に手錠の鍵を預けて去ってしまったのか。仮に僕が手錠を外してボイラー室の中限定で自由に動き回れるようになっても、ボイラー室自体が外から施錠された完全密室なら何の意味もない。
 たぶん凱はあの人物からボイラー室の鍵を預かっていたのだ。試合終了まで僕を閉じ込めておく手筈は万端、というわけか。

 ―舐めた真似をしてくれるじゃないか。

 「―っ、」
 舌打ちしてドアを睨み付ければ、廊下から微かな衣擦れの音が聞こえてくる。
 ドアの表面に耳を当てる。間違いない、ドアの向こう側、ボイラー室前の廊下を誰かがうろついてる。
 「そこにいるのはだれだ?」
 ぺア戦開幕して試合会場が盛り上がる中、こんな薄暗い、人けのない場所をうろついてる人間は胡散臭い。外の廊下にいるのが凱が残していったもう一人の見張り役、という疑いを考慮して声を低めて問えば、少し間をおいて思いがけぬ人物の声が返ってきた。 
 「……俺だよ」
 何故五十嵐がこんなところにいるんだ?

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