ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

最近のトラックバック
ブロとも申請フォーム
スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

関連記事 [スポンサー広告]
スポンサー広告 | コメント(-) | ------------ | 編集
十九話

 早くも一週間が経った。
 レイジとサムライが仲違いした前回のペア戦から一週間、二人は一度も口をきかず食堂で顔を合わせても見て見ぬふりしてむっつり黙り込んでる。レイジはサムライのことなんか知ったこっちゃないとそっぽを向き、サムライもレイジのことなんか知ったこっちゃないとポーカーフェイスに徹して箸をとってる。レイジとサムライに挟まれて苦労してる俺と鍵屋崎はいい迷惑で、俺は何度となく「ガキっぽい真似はやめて仲直りしろ」と正座させて説教したのだがレイジはまともに取り合わずあくびばかりしてる。
 サムライも同様で、鍵屋崎がいくら説得しても顔を縦に振ろうとしない。普段おちゃらけてるレイジだが、相棒のサムライに右手の捻挫を隠されていたのが相当こたえたらしい。俺は悪くない、悪いのはサムライだ、サムライが謝るなら許してやるの自己中三段論法を頑として譲らず年下の俺を手こずらせてばかりだ。サムライもあれで相当頑固者だから、自分に非があると認めて頭を下げるのは武士の見栄だかなんだかに関わる重大事なのだろう。
 そして何も進展がないまま今日を迎え、ペア戦第二幕が切って落とされた。

 試合開始十分前。

 今日のこの日を楽しみに過酷な強制労働に耐えぬいた東西南北の囚人ががやがや騒ぎながら地下空間にくりだしてくる。週末の夜に催される東京プリズン最大の娯楽行事、ブラックワーク娯楽班の無差別格闘技を観にやってきた囚人に先輩も新入りも関係ない。そろそろ年季も明けようかという二十歳ぎりぎりの囚人から俺とそう変わらない年頃の小柄なガキまではしゃぎまくって金網のフェンスに群がってる。喧嘩好きが高じて相手を殴り殺して東京プリズンに送られたガキには、返り血のしぶきがかかる距離で繰り広げられる囚人同士の殺し合いは血沸き肉踊る最高の催しなのだ。
 力こそすべて、勝利こそすべて。
 レイジの100人抜きを阻止せよと名乗りを上げた連中の中には東棟の人間も多くいた。大半は凱の子分で、目の上のたんこぶ的存在のレイジを完膚なきまでに打ち負かしてブラックワーク覇者の名声と東棟トップを地位をぶんどろうと目論んでる。
 今日の第一試合で、レイジ・サムライペアは早速凱の子分とぶつかった。
 「いいのかよ」
 「いいんだよ」
 先鋒で出陣したサムライを見送りながら傍らのレイジを睨めば、ふてくされたように鼻を鳴らされた。サムライの右手の怪我はこの一週間でだいぶ良くなったらしいが不安は残る。レイジが先鋒として出場したほうが無難じゃないかとさんざん口を挟んだのだが、サムライはもとよりレイジまでが「いや、これでいく」と頑固に言い張ったせいで順番は逆転することなく、右手の包帯が外れないサムライがリングに立つことになった。
 試合開始のベルが鳴り響く。
 挑戦者の武器はヌンチャクだった。風切る唸りをあげてヌンチャクを振りまわしながらじりじりと間合いを詰めてゆくガキとは対照的にサムライは一歩もそこを動かない。木刀を正眼に構えた姿勢で微動だにせず挑戦者を威圧している。
 「右手の怪我は治ったのか?」
 「心配無用だ」
 ヌンチャクを旋回させながらの揶揄に短く返したサムライの右手首には包帯が巻かれている。一週間が経ってだいぶ腫れは引いたらしいが、大事を見て安静にしてなければ患部が悪化してしまうかもしれない。金網にしがみついてサムライを見守ってる俺の横で、鍵屋崎も少し不安げな顔をしていた。
 勢いよく投擲されたヌンチャクが右手首をかすめ、袖口がふわりとふくらむ。
 「!危ねっ」 
 完璧にあてにきていた。間一髪、身をかわしてヌンチャクの直撃を避けたサムライに降り注ぐ罵声と怒号の嵐。いちばん見晴らしのよい最前列を独占していた凱とその取り巻き連中が一斉に金網を揺すりたて、右手への集中攻撃に苦戦中のサムライめがけ聞くに耐えない罵詈雑言を浴びせ掛ける。
 「避けるな、バーカ」
 「おとなしくやられちまえ、腰抜けザムライが」
 「右手怪我してんのに試合でんじゃねえよ、かっこつけが」
 「チュンル、棒きれ振りまわすしか能のねえ日本人なんかぎたぎたにのしちまえ!中国人の意地見せてみろ!」
 ペットボトルの水をがぶ飲みしつつ檄をとばす凱を筆頭に、金網を蹴りつけ殴りつけ揺すりたて、行儀悪く野次をとばす連中に苛立ちが募る。凱たちの声援に後押しされたガキが調子に乗って雄叫びをあげ、頭上でヌンチャクを大旋回。大昔に流行った香港の活劇映画さながら迫力満点にヌンチャクを旋回させ加速させ、投擲。
 サムライが眼前に掲げた木刀がヌンチャクを弾く。あと一秒反応が遅れていたら顔面に直撃を受け、盛大に鼻血を噴いていたことだろう。へたしたら鼻骨が折れてたかもしれない。
 「いい加減交代してやれよ」
 「言う相手間違えてんじゃねえか?」
 レイジの袖を引っ張りながら言えば鼻で笑って一蹴される。「サムライが苦戦してようが鼻血噴こうが俺には関係ないですよ」と他人事めいて取り澄ました横顔を殴りたくなる。はらはらとしっぱなしの俺をよそに、金網越しのリングでは華やかな大技が連続する大活劇が繰り広げられていた。手足の延長のように鎖を躍らせ、自由自在にヌンチャクを方向転換させつつ地面を蹴ってサムライに突進。頭蓋への致命傷を狙い、頭上に振り下ろされたヌンチャクを避けて横に跳躍したサムライが追撃を阻止すべく反射的に木刀を構える。目にもとまらぬ連続攻撃を苛烈な太刀筋でさばきつつ金網に沿って疾走するサムライ、その残像を目で追いながら余裕のない口ぶりで鍵屋崎が言う。
 「ヌンチャクを受けとめるたびに右手首が痺れ、次の攻撃への反応が遅れてる。いかに補助の役割とはいえ右手が使えないのは不便だ」
 「聞いたかレイジ、不便だとよ」
 「不便でも不利じゃない。俺が出る幕ねえよ、今日の試合は」
 「~お前いい加減にしろよ、いつまでもガキみてえなこと言ってんじゃねえよ!」
 「無茶言うなっつの。実際サムライが帰ってこなきゃどうしようもねえだろ」 
 「………」
 レイジの言い分も最もだ。レイジがいくら交代したくても肝心のサムライが入り口に戻ってこなければ手と手を打ち合わせることができず、よってレイジがリングに上がることは許可されない。サムライがあくまで孤独な戦いに身を投じて木刀を振るいつづけるかぎり永遠に交代不可能なのだ。
 もっとも今のレイジは、サムライを心配してしつこく声をかけたりはしない。腹の底じゃどう思ってるか知らないが、少なくとも表面上はポーカーフェイスで金網越しの死闘を眺めている。醒めた目と口元の笑みの組み合わせはひどく酷薄で、綺麗な顔形が売りの悪魔のようだ。
 どうしちまったんだよ。
 これは俺の知ってるレイジじゃない、いつもおちゃらけてくだらない冗談を吐いて俺をあきれさせる笑い上戸のレイジじゃない。相棒のサムライが右手の怪我にも負けずに歯を食いしばって頑張ってるってのに、応援の言葉ひとつかけず嘲笑してるなんて……
 「らしくねえよ」
 そりゃレイジの性格の悪さは一年と半年付き合ってきた俺がよく知ってるけど、少なくとも以前のレイジはこんなむかつく笑い方をしなかった。サムライはダチじゃなかったのかよ、ちょっと前まで相手にされなくてもおかまいなしに軽口叩いてたじゃねえかよ。レイジが俺のために100人抜きを決意してくれたのは嬉しい、感謝もしてる。でもサムライと仲違いしたまま、ずっとうやむやのまま100人抜きに挑まれるのはいやだ。
 「らしくねえよ、お前。サムライは相棒だろ?一緒に戦う仲間だろ?なのになんで平気なツラして笑ってんだよ」
 「じゃあ聞くけど、なにが俺らしいんだよ」
 シャツの内側から金鎖を引っ張り出し、十字架をまさぐる。この前引きちぎった鎖は器用に結ばれて修復されていた。サムライの足元を穿ったヌンチャクがコンクリートの破片を散らすのを横目に続ける。
 「金網にしがみついてがんばれーって応援すりゃいいのか?サムライは絶対負けねえから安心しろよってにこにこ笑って励ませば満足か?お断りだな。あんな頑固者応援するのまっぴらごめんだ、ひとりで勝手にやってりゃいいんだ。いいか、よく聞けよ。先に手を貸すの拒んだのはあいつだ、俺に頼らなくても勝てると宣言したのはサムライだ。だったら証明してもらおうじゃんか、時代遅れのサムライが刀一本でどこまでやれるか」
 「本気で言ってんのかよ」
 「本気」
 十字架をまさぐりながら笑みを浮かべたレイジにやりきれなくなる。今のレイジには何を言っても無駄だ。もしサムライがヌンチャクに直撃され腕一本骨折したとしても指一本動かさずに変わらぬ笑みを浮かべていることだろう、そう痛感させる冷酷な双眸だった。
 年上のくせにどこまで世話焼かせりゃ気が済むんだよ。
 レイジを翻意させるのがバカらしくなってそっぽを向けば鍵屋崎の横顔が目に入る。深刻な横顔を眺めてるとなにか声をかけてやりたくなる。サムライの苦戦中に関係ない話をするのは気後れしたが、俺たちが焦慮に揉まれようが戦況が好転するわけじゃなし、せめて応援席の雰囲気だけでも明るくしようと気持ちを切り替える。
 「妹からの手紙、なにが書いてあったんだ」
 念願叶って届いた手紙を話題にだせば会話も弾むだろうと踏んだのに、何故か反応は芳しくなかった。変だ、シスコンの鍵屋崎が妹から手紙が届いて嬉しくないわけないのに。金網を掴んだ手が白く強張り、俯き加減の顔から表情が消え失せる。情緒不安定に黙りこんだ鍵屋崎を怪しみつつ、重苦しい雰囲気を蹴散らそうと明るい声で続ける。
 「ほら、こないだ五十嵐から渡された手紙のことだよ。なんだよ照れてんのかよ、らしくねえ。半年ぶりに届いた妹からの手紙だろ、シスコンならシスコンらしく素直に喜べよ。なにが書いてあったんだ?おにいちゃん元気ですか、とか……」
 正直身内から手紙が届いた鍵屋崎が羨ましかったが、卑屈な本音はおくびにもださず軽口を叩く。
 鍵屋崎に手紙がきたんなら俺にもいつか手紙がくるかもしれない、嬉しい内容の手紙が……
 「!そうだ、前に言ってた手紙ってこの事か。覚えてるだろ、手紙になに書けばいいか俺に相談してきて、お前本読むの好きだから最近読んだ本のこと書けばってアドバイスしたよな。どうだった、結果は。お前のことだから手塚治虫の漫画のここが好き、あそこが素晴らしいって延々書き綴って妹に引かれてそ……」
 何が起きたのかわからなかった。
 上下に視界がぶれ、襟首が締まる。鍵屋崎に襟首を締め上げられたのだと気付いたのは眼鏡越しの双眸に射竦められた時だ。
 「黙れ」
 鍵屋崎らしからぬ暴力的な振るまいに度肝を抜かれ、続く言葉を喪失する。力一杯襟首を締め上げられ、足裏が宙に浮く。
 「なん、で怒るんだよ……俺なにか気にさわることでも言ったか!?」
 「なれなれしく話しかけてくるな。不愉快だ」
 手を触れてるのも汚いと俺の襟首を突き放した鍵屋崎が物言わずそっぽを向く。わけもわからず咳き込みながら鍵屋崎を見上げる。もう俺のことなんか視界からも思考からも閉め出しちまったんだろう、以前にも増してひややかで人を寄せ付けないバリアを築いた鍵屋崎に愕然とする。
 「―っ!」
 場を和ませようと話しかけたのに、この仕打ちはあんまりじゃないか。
 やり場のない怒りに駆られ、金網を蹴りつける。そりゃ少し調子に乗ってたことは認める、この頃鍵屋崎がだいぶ接しやすくなったから勘違いしちまったのも認める。でも何で?妹からの手紙をからかわれたぐらいでマジで腹立てるなんてシスコンも度が過ぎてる。
 もう鍵屋崎のことなんかどうでもいい、放っとこう。
 深呼吸で気を鎮め、正面に向き直る。試合は白熱していた。ヌンチャクは遠距離攻撃を得意とする武器だ。自分の身は安全圏においたまま鎖で飛距離を稼いで連続攻撃を仕掛けることができる。対するサムライは木刀での打ち合いを得意とする近接戦闘型で、必然戦況は不利にならざるをえない。相手の間合いに踏みこまなければ必殺の一撃を繰り出せず、劣勢に回らざるをえないサムライに焦れて声をかける。
 「サムライ、負けんじゃねえ!武士の意地を見せてやれ!」
 俺の声援に励まされたわけでもないだろうが、次の瞬間サムライが行動を起こした。
 肩口めがけて振り下ろされたヌンチャクから素早く逃れ、頭を屈めた低姿勢で疾風の如く疾走。大旋回するヌンチャクの下をかいくぐり、一気に敵に接近。
 「チュンル、下、下だ!」
 金網によじのぼった凱が指示をとばすが、遅い。一瞬の隙をついて懐にもぐりこんできたサムライに慌てたガキが鎖を引き戻そうと手前に引いた刹那、楕円の軌道で舞い戻ってきた鎖を見据えてサムライが呟く。
 「潔く巻かれろ」
 棒で綿飴をすくいとるように木刀で鎖を絡めとり、何重にも鎖を巻いた木刀を横薙ぎに一閃。鎖の先端を握っていたガキが前のめりにたたらを踏み、今度は逆にサムライの懐へととびこんでゆく。
 勝敗が決した。
 無防備に晒されたガキの背中に、脊椎も痺れる一撃が振り下ろされる。木刀から外れた鎖がじゃらじゃらと鳴りながらサムライの足元にとぐろを巻く。
 「本日の第一試合、勝者サムライ!!」
 鎖に巻かれてもがき苦しむガキを興味なさげに一瞥、試合終了のリングに背を向けたサムライが大股に引き返してくる。勝利の爽快感とは無縁な仏頂面で、腕を振りすぎたせいで緩み、だらしなく垂れ下がった包帯を縛りなおしている。 
 「おつかれさん」
 一試合終えて帰ってきたサムライを労ってやる。一時はどうなることかと危ぶんだがさすがサムライだ、一瞬で形勢逆転しちまった。このぶんなら俺が心配することもないだろう。ホッと胸を撫で下ろして傍らを見ればいつのまにかレイジがいなくなっていた。
 あいつ、サムライの試合も見届けずにどこ行っちまったんだ?
 とことん自己中な奴だとあきれはてた俺をちらりと一瞥し、サムライが言う。
 「奴がいなくても問題ない。俺一人で勝てる」
 サムライが名前を呼ぶのも不快げに「奴」と吐き捨てたことが、なんだか無性にやるせなかった。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20051227220531 | 編集
ブログ内検索
     © 2017 ロールシャッハテストB  Designed by 意地天
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。