ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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ラブリーベイビーモルモット

赤ん坊は関節がないかのように柔軟に動く。
いざそれを前にしても、予測不能の動きをする柔らかい塊といった認識以上の感慨は浮かんでこない。
ましてや生後間もない妹への愛情など欠片も抱きはしない。
それら人間に備わっている当たり前の感情が自分には欠落しているのだと思っていた。
今、この時までは。

後見人夫妻の片割れにして僕の母胎でもある鍵屋崎由香里が第二子を出産した。
性別はXX、女性。
母の出産が迫ってるのは知っていたが佳境に入った研究から手が離せず、見舞いには行かなかった。
両親もまた僕の来訪を望まず、ただ一言与えられた課題に専念しろと命じた。
僕は両親に与えられた課題を完璧にこなした。

僕が執筆した論文は海外で高い評価を受け、博士号を取得した。
鍵屋崎優は実子の誕生よりもむしろそちらの方を喜んでいた。
誤解なきよう断っておくが、産まれたばかりの妹に会いに行かなかったのは嫉妬に起因する幼い反抗などでは断じてなく、ただ単純に興味がなかったからだ。

誕生から二週間が経過したある日、妹が家にやってきた。

それは偶然だった。
父の書斎に資料を借りに行った帰り道、通りかかったドアの隙間から見慣れない物が見えた。殺風景な部屋の中央にベビーベッドが一台。最初に覚えたのは違和感。この家にそんな物が存在するという事実そのものが奇異な印象を与えた。

モルモットの檻。

格子の隙間で何か白い物が動いている。
まわりに人はいない。
ささやかな好奇心からドアを開けて入室、木目も冴える新品のベビーベッドに歩み寄る。
妹との初対面。
しかし僕の心は冷たく沈静し、感動や感激とは切り離され、観察者の立場から「それ」の生態を記録する。

それはすやすやと眠っていた。
ベビー服に大量の涎をたらしている。かすかに甘いミルクの匂いが漂ってきて胸が悪くなる。
赤ん坊はうるさくて汚い。
一日中寝てるか泣き喚くかの両極端の不条理な生き物、母乳の搾取と排泄と睡眠、快感原則と短絡に直結した生理的欲求のみで生きる人よりは動物に近しい存在で疎ましくさえ思っていた。
僕にとって赤ん坊とは騒音発生装置の別名に過ぎない。

格子の隙間に手を差し入れ接触を試みたのはほんの出来心。
その頃から僕は潔癖症で、他人との接触を極端に避ける傾向にあったのに、涎まみれの不潔な生き物にふと触って反応を見たくなったのだ。指が触れた。柔らかい。手のひらなど僕の人さし指で足りてしまう。
「………」
急に後ろめたさを抱く。

起こしてはいけない。触ってはいけない。
こんな場面を両親に、人に見られてはいけない。ドアは開けっぱなしだ、いつ廊下を人が通るかわからない。
心臓が疚しく脈を打つ。
咄嗟に手を引っ込めようとした瞬間、思いがけぬことが起きる。

赤ん坊がきゅっと人差し指を握り返す。
「!」
硬直する。
逃げられない。
無理矢理振りほどいて逃げるという選択肢が何故か浮かばず、人さし指を掴まれ棒立ちになる。
赤ん坊はしあわせそうに眠っている。檻の中のモルモット。
実験動物として扱われる運命も知らず、自らの運命を予見せず。

同属嫌悪の対義語が同属憐憫か。今、僕の胸の内を疼かせ溢れ出る感情も?
「恵」
確かそんな名前だった。記憶を検索し、ぎこちなく、たどたどしく呼びかける。
気のせいか、赤ん坊が笑った気がした。
親でさえ出生届に記入したきり忘れていた名を一番最初に呼んだのは僕だった。

目を逸らしつつ、指先をぎゅっと握る。
「………」
今まで体験した事のない感情に慄き震え、繋ぎあった手から通うぬくもりに縋りつく。

「……恵」

僕の庇護と愛情を必要とする存在。
僕を肯定する存在。

人工の天才としての利用価値しか認められず、自分もまたそういうものだと、鍵屋崎直の存在価値は天才であるその一点に尽きると自負していたのに、今この瞬間、生まれて初めて夾雑な付加価値を除く実体を求められた。

天才だろうがそうでなかろうが関係ない、彼女が求めているのは僕そのもの―
「家族」としての、自分を愛し育むぬくもりの具現としての、僕。
庇護者への無条件の信頼がぬくもりに溶けて伝わってくる。
「………」
清潔な檻で飼われるモルモット。
鍵屋崎優と由香里の遺伝子を受け継ぎながら、実験動物としての価値しか認められぬ妹の手を怖々と包んで温める。

この日、鍵屋崎直に妹ができた。
名前は恵。
僕の愛する、たった一人の家族だ。

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20010529113727 | 編集
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