ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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先生のお時間

「三年生を二回体験したいのか」
「エンドレスエイトはこりごりだけど」
笑いながら誤魔化すもお愛想が通じないのを失念していた。
ミス研部長兼無類のミステリー愛好家を自認するマブダチこと俺の熱心な布教活動によってサブカルチャー及びエンターテイメントへの造詣を深めた麻生だが、こっち方面は疎い。というか興味がない。
首を竦め顔色を窺う。
やべえ、かなり怒っている。
いつも無表情で心を読みにくいが、付き合ってしばらくするとほんのちょっとしたしぐさや目の動きから感情が飲み込めるようになった。
今現在、正面のパイプ椅子に腰掛けた麻生は不機嫌に黙り込み、眼鏡が似合うクレバーな双眸に軽蔑の光をため、冷ややかにこちらを威圧している。
傍の机には抜き打ち検査によって没収されたミステリーの新刊が乗っかっている。
麻生もとい俺専属家庭教師サマが怒ってらっしゃるのは、からきし誘惑に弱いダメ生徒が懲りずに約束を破ったせいだ。
「言ったよな、評価がBに上がるまでミステリーの新刊には手を出すなって」
「言いました」
「なんでこれがここにあるんだ」
「昨日書店で平積みになってんの見かけてつい」
「衝動買い?」
尋問の声がさらに冷え込み、身の置き場もなく縮こまる。
「いや、だってさ、三年ぶりの新刊なんだぜ?いつ出るかいつ出るか楽しみにしてたシリーズ物で今巻でついに主人公の過去が明かされるって触れ込みで、助手の美少女との間に恋愛的な進展あるときたら即買いだろ!?」
「衝動買いの割に詳しいな」
墓穴を掘った。
そうとも下調べしてましたともばっちりと、カレンダーにバツ印をつけて発売日を楽しみにしてましたとも。
ボロが出て面白いくらい狼狽する俺を一瞥、木槌を振るう裁判官に似た厳粛さで本の上に手をおく。
「将来より娯楽をとったわけか」
「いいじゃねえかちょっとくらい、受験生だって息抜きは必要だろ」
「息抜きすぎて酸欠になるんじゃないか」
返す言葉もございません。
猿でもできる反省ポーズでうなだれる俺と向き合い、神経質な指先で眼鏡のブリッジを支える。
「お前の為に厳しくしてるとか歯の根が浮く嘘は言わない」
もうすぐ夏休みに突入するというのに受験に身が入ってない友人を、嘆きと哀れみと蔑みとを混ぜた目で見詰め、呟く。
「娯楽に逃避すんのはお前の自由だ、俺にそれを規制する権利はない。お前が根っからミステリーバカだってのは知ってるし」
ぎしりと椅子が軋む。姿勢を変えたのだ。
「だから、これは俺のためだ」
「え?」
心臓が跳ねる。
「来年、お前が隣にいなきゃつまらない」
それだけだ、と付け加える。
その横顔はどこか拗ねたようで、だからこそなお一層俺の怠慢を責めるでも詰るでもなく怒る態度が良心の核を抉り。
「………ごめん」
叱責にしょげかえり、汗みずくの手のひらを折れんばかりに握り締める。
麻生が俺の為に頑張ってくれてんの知ってるくせに、期待にこたえられない自分が恥ずかしい。
「麻生」名前を呼ぶ。麻生が振り向く。
「俺……」風通しをよくしようと開け放った窓の外から校庭を走る野球部の声が響き、蝉の声がわんわん鼓膜を撓ます。強く握り締めた手を振り解き、勢い余って椅子を蹴倒す。
「聞きたくて聞こうとして聞けなかったことがあったんだ」
麻生の顔がシリアスに引き締まる

すっ、と深呼吸しー

「旧五千円札の人ってだれ?」
「………は?」
深々頭を抱え椅子に戻り、ここ数日俺を悩ませ受験勉強を手につかなくさせていた最大の難題に取り組む。
「岩倉具視じゃねえよな、おっかしーなーもうここまで出かけてるんだけど。あの髭眼鏡のオッサンだよ」
「……」
「これ買う時に一万円だしたんだよ。したら五千円で釣り貰ったんだけどどーッしても思い出せなくて、一日中頭にひっかかって活字に集中できず悶々と」
「新渡戸稲造」
「それだ!」ぽんと膝を打つ「すっきりした!サンキュ」
思考の飛躍についてけないといった麻生の表情。レアだ。拝んどこう。
「鼓膜どうかしてるのか?」
俺の話聞いてたかと不機嫌の絶頂で問い直す麻生にむかってビシリと親指を突き立てる。
「心残りは消えた。これでずっぽり受験に集中できる」
全力投球、闘魂注入の誓いも新たにふんぞり返る俺の前で、麻生が鞄から何かを取り出す。数学の教科書。
それを仰向いた俺の顔面に落とす。
「ぶっ!?」
「10ページから15ページまで、練習問題全部解くまでここから出さない」
「そんな!」
「絶対出さない」
「殺生な!部室出れないんじゃトイレとかどうす」
「トイレは別」
よかった、麻生もそこまで鬼じゃなかった。
「全問正解するまで帰さない」
鬼だ。
「麻生ごめんマジごめん今月の新刊血涙流してガマンっすから!」
「今月の?」
「来月もガマンすっから血尿だしてぇえぇ」
「気色悪ィ声だすな」
「お願い麻生サマ秀才サマ仏サマ」
「無神論者だからな、俺は」
折れんばかりに手を握り締め懇願する。
拾い上げた教科書を表返して埃を払い、麻生は笑う。夢にまで見そうな邪悪な笑み。
「今夜は帰さないぞ」
「その台詞使うシュチェーション激しく間違ってっから!」
全力で突っ込む。
「全問正解したらご褒美やるよ」
「え」
顔が近付く。
「前借り希望か」
貞操の危険を感じ後退すれど間に合わず、上履きの先端をぎゅっと踏まれる。
吐息を掠め取るような、ついばむような一瞬のキス。
ほんの一瞬なのに、唇が火傷したかと思った。
「お前……」
椅子に戻って教科書を開き、憎たらしいほど落ち着き払って座れと促す麻生に抗議しようとして
「あとで感想教えてくれ」
眼鏡の奥の目を数式に落としシャーペンの芯を出す。
先日購入した新刊の事を言ってるのだと察し、唇を拳で拭う代わりに舌で舐めつつ、大きく足を開いて椅子に跨る。
「いいのかよ受験生」
「お前の感想が一番おもしろい」
「お偉いさんの書評読め。そっちのが参考になるだろ」
「お前の口から聞く感想が一番生き生きして面白いんだ。……かなわない」

何にかなわないのか、誰にかなわないのか。
そう語る麻生が、光の加減かもしれないけど酷く眩しげな顔をしていたから。

「……ベンキョー終わってからな」
「今日中に終わるといいな」
「努力します」
「よろしい」

仕方ない。
がんばるしかない。

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ボーダー×ボーダー | コメント(-) | 20010309231820 | 編集
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