ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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つがいの刃

直を前にすると衝動を抑制できない。
青白く静脈が浮く繊弱な首筋に噛みつきたい。病的に生白くすべらかな肌を愛撫したい。額にかかる癖のない黒髪からは清潔な石鹸の香りが漂う。これが直の体臭だ。潔癖症の直はシャワーの際には体の裏表を洗って几帳面に砂と垢をこそぎ落とす。まるで何かの強迫観念に駆られたかのように。
垢染みた囚人服に身を包んでいても他と相容れず清潔な印象を保つ。細いうなじは女のそれと似て非なる色香を放ち、じっと見つめていると理性が蒸発しそうになる。
「ところで、サムライ」
「なんだ」
「髪が伸びたな」
生返事を投げて寄越してから我に返る。洗顔を終え、振り向く。
ベッドに腰掛けた直が眼鏡の奥から観察の眼差しを注ぎ、自らの襟足を指で叩いて指摘する。
「髪だ。君の。気付かなかったか」
「……いや」
「むさくるしい蓬髪だ。放っておくとしらみが沸く」
「失敬な、きちんと洗っている」
「万全ではない」
「頭皮もちゃんと洗っている」
憮然として言い返す。
「散髪は?」
「……いや」
「何故しない」
「……」
「無精か?怠慢か?不潔が基本スタイルか?どうりでフケで白いわけだ」
心外な暴言を吐かれ気分を害す。
「後ろには手が回らん。仕方なかろう」
「刃物の扱いには慣れてるだろう」
「己の髪を切るのは手を煩う」
直が眉間に皺を寄せ考え込む。
そして
「……世話が焼ける」
眼鏡のブリッジを中指で押し上げため息ひとつ、腰を上げる。
「僕がしよう」
突然の申し出に戸惑う。
「気は確かか?」
「正気を疑うほどの発言か?」
逆に鼻白み、不愉快そうに言い返す。
「勘違いするな、借りを返すだけだ。同房の人間が不潔でいるのは耐えられないからな」
借り。
以前、直の髪を切った事を思い出す。
指の狭間を滑らかにすり抜ける繊細な髪質、細波めいた官能を伴うその感触を恋い慕うよう反芻する。
「何をしている。座れ」
共同作業だと言わんばかりに顎をしゃくって促され、諾々とベッドに腰掛ける。
衣擦れを曳く歩みをつい意識し、体が妙にしゃちほこばってしまう。
なにをしているのだ俺は。
言うなりに座ってどうする。
いやしかし髪を切り切られるだけの行為に何ら疚しいところも後ろ暗いところもない、あれこれ邪推し取り乱す方が奇態ではないか。
「……放っておけばよい」
内心の照れをごまかし、無粋の極みの渋面を作る。
「誤解するなと言っている」
直もまた不機嫌に訂正する。
「僕が懸念するのは君が髪を放置することによって発生する事態だ。そのむさ苦しい有様を毎日見せつけられる身にもなってみろ」
鋏を持って後ろに回り、俺の髪をつまみ、長さを測るような均等さで上から順に刃をあてがう。
呼吸を正す。髪に触れる手から微かな緊張が伝う。
「行くぞ」
しゃきん。
据わりの悪い沈黙が漂う中、鋏の刃が噛み合う音だけが勤勉な単調さで響く。
妙な事になったと戸惑う反面、俺には似合わぬ事に、含羞と憤慨を割ったような苛立ちに炙られてもいる。

直は義理堅い。
ただ、それだけの事だ。

「何か話したらどうだ」
「俺がか」
「壁が口を利くか」
交わす会話も自然と険悪になる。

しゃきん、しゃきん。
怜悧な金属音が響く。
襟足まで伸びた髪を切られ、首筋が外気に晒される。
「……」
真意が読めぬ。ましてや抑圧された表情に塗り込められた本心を推し量るのは困難だ。
細い指が脂で光る髪の間を通り抜け頭皮を按摩する心地よさに、思わず吐息を漏らしてしまいそうになる。
不意に、指の動きが止まる。鋏の音もやむ。
首の後ろ、俺からは見えない部位に執拗に注がれる視線。痛ましげな眼差し。
痛恨極むる自責の念が孕まれたかのような眼差しの熱に、チリチリと皮膚が騒ぐ。
いくら鈍い俺でも、直が何を見ているのか判った。
火傷のあとだ。
「これは、治らないな」
「ああ」
背後に気配が寄り添う。
俺の後ろ髪をつまみ、背中の広範囲から首筋にかけて、赤黒く焼け爛れた皮膚を見つめている。
「感覚はあるか」
首筋にひたりと指を添えて訊く。
「あるが、鈍い」
包み隠さず、ありのままを述べる。下手な嘘など直はすぐ見抜く。
「僕の指はどうだ。熱いか、冷たいか」
「……熱い。火照っている」
「そうだ」
「脈を打っている」
「生きている証拠だ」
「汗は?」
「……少し汗ばんでいる」
「君に触れてるからな」
あっさりと手を引き、ズボンの横で神経質に汗を拭う。
後ろ襟から伸びた首筋に再び視線を転じ、醜く引き攣った皮膚を人さし指で慰める。
「いちどは燃えた髪が伸びても治らない」
呟く。

「伸ばすのか」
それが君の優しさか。
「伸ばして、隠すのか」
僕の罪を、その疵ごと覆い隠すのか?

「……」
抑揚を欠いた追及が胸を抉る。
平板な声で俺を詰り、怯惰を責める直に対し、背を向けたまま口を開く。
「……ほうっておいてもいずれ伸びる」
あえて傷を暴き晒す必要は感じない。
しかし、
「ひとつ頼みがある」
「なんだ?」
罪悪感を振り払うように散髪を再開した直の手を唐突に掴み、顔の前に持ってくる。
「っ、」
ぐらつき、つまずく。
俺の背にのしかかり、抗議の声を上げんとした直の手に、ぎこちなく接吻を落とす。
「よせサムライ、鋏を持ってるから危ない……」
「知らん」
批判は無視し、漸くつかまえた手を裏返し、しるしをつけるように唇でなぞりゆく。
乾いた唇で手のひらを愛撫し、手首まで遡り、丸く膨らんだ尺骨を含む。
「―ッ、待」
「待てん」
肌に吹いた塩を舐め、汗を啜る。
「綺麗な手だ」
世辞ではなく、本音を言う。
「俺とは違う」
「汚い手だ。汚れている」
顔が歪む。

友を選ぶか、乳兄弟を選ぶか。
炎上する溶鉱炉にて、究極の二者択一を迫られた。

「……」
華奢な手。少し力を込めれば骨が軋み、容易く折れ砕けそうな不安を抱かせる。
後悔してるのか?
自問に次ぐ反問に煩悶が連鎖、波紋を広げる。
答えは自らの内から、そしてあまりに透明な直の眼差しの底から、自然と湧きあがってきた。

否。
断固として否。

後悔はしない。後悔など許されない。それは俺に一矢報いて死んだ従兄弟への侮辱だ。「俺の傷は、俺の誇りだ」口下手な己が恨めしい。こみ上げる想いの上澄みさえも満足に掬いきれぬ言葉で慰める代わりに、ただひたすらかき抱く。

「今ここに在るものは、すべからく」
短くなった髪も、背に負う火傷も、そしてお前も。

愛しい。いとしい。
ならば何故、愛しいと書いてかなしいと読む?

「サムライ」
直がぎこちなく、既に痛まず鈍く疼くだけの俺のやけどを気遣うように背に手を回す。
「一度しか言わないからよく聞け」
息を吸う。
「僕が髪を切りたいと望むのは君だけだ」
悔いるような苦い声。
「触れるのを許すのも、触れたいと焦がれるのも、君だけだ」
まるで、触れ合う口実が欲しかったと告白するように。懺悔するように。

お前は俺の誇り。
俺はお前の

「………生きる意味を補完してくれる存在だ」
最大級の信頼を支える最上級の賛辞。

鋏は片刃では成り立たぬ。一対で初めて存在意義を持つ。
俺とお前はつがいの刃。生涯ともにあると、誓う。

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20010529113728 | 編集
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