ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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オンリーロンリーグローリー

逆境が良心を鍛えるなんて嘘っぱちだ。俺の魂はそれを知っている。
冒頭の一文には大いなる矛盾がある。
何故なら俺は魂の存在を信じない。死後の世界も輪廻も信じない。
所詮は美化された観念であって抽象的な概念にすぎない、虚無に還る事を恐れる人間が生み出した絶望回避装置だ。

逆境が良心を鍛えるなんて嘘っぱちだ。そう思っていた。
こいつと会うまで。

行きつけの本屋に寄った帰り、喉の渇きを覚え自販機に硬貨を投入する。
「おごり?」
「たかるな」
「ケチ。いいじゃねえか缶コーヒー一本くらい、頭脳労働でくたくたなんだ、糖分補給しねーと」
軽口を叩きつつ、へこんだ鞄を抱いてガードレールに座る秋山にため息をつく。
「仕方ねえな」
「お、サンキュ」
無造作に缶コーヒーを投げ渡す。
秋山の手の中でぬくい缶が跳ねる。
惚れた弱みという俗な諺を引用するのは癪だが、現状それ以上的確な言葉が見つからない。30センチほど離れて腰掛ける。ペンキの剥げたガードレールから這い上る冷気がコートに包まれた尾てい骨を冷やす。
放課後の寄り道。
ナイフで切り込みを入れたような月が暮れなずむ冬空に輝く。
「宵の明星」
白くかき曇った吐息に乗った呟きを拾い、遥か西天を振り仰ぐ。
「よく知ってるな」
「お前俺のこと相当ばかだと思ってんだろ?」
「かなり馬鹿だと思ってる」
秋山が情けない顔をする。
「地理のおさらい中なんだ」
研ぎ澄まされた大気が外気に晒した皮膚を刺す。
秋山の頬に血が集まって赤く染まる。
俺が寄越した缶コーヒーをちびちび啜る横顔を眺めつつ、思う。


圭ちゃんもこの星空を見たんだろうか。
圭ちゃんが飛び降りる寸前に見たのは、こんな星空だったんだろうか。


「なあ秋山」
「なに?」
続きを躊躇う。
秋山が缶から口を離し目で促す。
「……別に」
「言いかけてやめんな、気色悪ィ」
続けたら、こいつは確実に引くだろう。
しかしいつになく優柔不断な俺の態度と意味深な沈黙がかえって興味を引いちまったようで、好奇心の塊の秋山はすっかり聴く体勢に入ってる。
缶コーヒーで口を湿し、秋山の方は見ず呟く。
「自殺についてどう思う」秋山がきょとんとする。
咄嗟に質問の意図を理解できなかったようだ。当たり前だ。
「……やっぱ引いた」
「いや、引いてねえよ」
「うそつけ」
「うそじゃねえよ、いきなりドシリアスな質問でびっくりしただけだっつの」

秋山は嘘がつけない。戸惑っていると顔に書いてある。
困惑顔の秋山は敢えて無視し、続ける。
「俺はさ、自殺って負けたまま死ぬ事だと思う」
圭ちゃんは死ぬ前に何を見聞きし、何を考えたんだろう。
「逃げたまま死ぬ事だと思う」
屋上を蹴って跳ぶ前に、何を考えたんだろう。
「強姦をさして魂の殺人て表現を用いるけど、俺は自殺にも用いるべきだと思う」

自分に対する魂の殺人。
自分で自分を殺す罪。
ただの逃避じゃないか、そんなのは。

そんな臆病者に同情なんか絶対しない。
自殺を肯定しない。
それが世界で一番大切な人であっても、俺を裏切って死んだ奴を許せない。

俺の言葉を咀嚼し斟酌するような長い、長い沈黙が漂う。
缶を弄びつつ、似合わない難しい顔で悩んでいた秋山が重い口を開く。
「勝ちとか敗けで考えた事はねえかな」
でも、と暗い目を伏せる。
「俺の知ってる人間が、俺に黙って死んだら正直……こたえる。すげえこたえる」
「それは大丈夫だろ」
「ん?」
「お前の近くなら大丈夫」
お前がいるから。
お前の存在が最大の保険だから。

俺にはわかる。
秋山は身近な人間におめおめ自殺させるような無能な奴でも無力な奴でもない、SOSを手遅れになるまで放っておいたりはしない。

その意味で、俺はこいつを信頼している。
肺活量限界ぎりぎりまで走って最大限伸ばした手は必ず届くと、友達が教えてくれた。


「何で急にそんなこと聞くんだよ」
「夜空を見てたらナーバスになって」
「平熱?」「冗談」
ちらちらと俺の顔色を窺う。
友人が自殺の誘惑に揺れてるんじゃないかと疑う表情。
「―あのさ、麻生」
「何」
一気飲みした缶コーヒーをぐしゃりと握り潰す。
「勝ちでも負けでもねえけど、裏切りだぞ」
遺された人たちへの裏切り行為。

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願うように、祈るように。
白い息の霧散する宙に指で字を書く。
「必死って必ず死ぬって書くだろ。だったらさ、ホントに死んじゃう前に必死んなって逃げりゃいいじゃん。逃げ切って振り切って生き抜くんだ」
かっこつけたと自覚し、白い歯を見せはにかむように笑う。
「逃げるが勝ちって言うだろ?手を引っ張って一緒に逃げてくれる奴がいるなら捨てたもんじゃねーじゃん」
がむしゃらに戦えとプレッシャーをかけるのではなく、逃げてもいいとさとす。
秋山は優しい。
「俺なら逃げて生きてほしい」
優しくて、強い。
「逃げることは悪いことじゃねえよ。かっこ悪いけど」
「……どっちだよ」
「かっこ悪くて何が悪いんだよ?しぶとくずぶくと何糞と生きて生きて生き抜いて最後に笑ったもん勝ちだろ」
夜空に届けと両手を突き上げ高らかに宣言する。


ああ、まったく。
かなわないな。

俺の言いたかった事をぜんぶ代弁してくれた。

俺は圭ちゃんにそうしてほしかった。
辛くても苦しくても哀しくても自分を殺すようなまねをせず、とことんかっこ悪くていいから生き抜いてほしかった。
俺はそんな圭ちゃんをかっこ悪いなんて思わないから。

「秋山」
がらじゃない演説に照れたのか、マフラーを巻き直し寒気のせいだけじゃない頬の赤みを隠す秋山に呼びかけ、振り向きざまマフラーの両端を掴んで開く。
「キスしていいか?」
「!?んな、」
一応、許可をとる。
マフラーの両端を素早く引っ張り、疎らな通行人の目からお互いの接近を隠す。
秋山がきつく目をつむる。
かするように唇が触れ合う。
ささくれた藁半紙の感触に眉根を寄せる。
「……唇荒れてる」
「うるせえ」
「リップクリーム使えよ」
「男が買えっか」
「妹から借りれば」
「甘ったるくてつい舐めちまうんだよ!」
俺の手からマフラーの端切れを奪い取り涙目で騒ぎ立てる。
「お前だって荒れてんじゃねーかがさがさに」
「コーヒー味だ」
「苦えよ」
「加糖を選んだんだけど」
「このつもりで?」
「このつもりで」
「最初から!?」
いきりたち、俺をマフラーで絞め殺さんとする秋山の手からひょいと逃れ、宵の明星輝く澄み切った夜空を見上げる。

秋山と同じ位、いや、その半分でも強さがあれば圭ちゃんは死ななかったかもしれない。


でも。
今俺が好きなのは、秋山だ。





山本紺さまがついったーで書いたボダボダSSを漫画にしてくれました。
神だ!!!
何度でも言うが
神だ!!!!!
秋山のキメ顔が凛々しくて麻生の攻め顔もかっこよくて……
秋山が夜空に両手突き上げるとことか麻生が唇噛むとことかやばい!!私の心臓がやばい!
あの粗だらけのSSを漫画仕立てにしてくれただけで感激なのに、胸に迫る表情とか、ひたと見据える強い眼差しとか、私の頭の中にあったそのままが表現されていて感動しました。

山本さま、素晴らしすぎるイラストありがとうございます!
宝物にします!!

高画質バージョンはこちら。
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タイトルはバンプの同名曲。
いい曲。



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ボーダー×ボーダー | コメント(-) | 20010308231713 | 編集
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