ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

最近のトラックバック
ブロとも申請フォーム
スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

関連記事 [スポンサー広告]
スポンサー広告 | コメント(-) | ------------ | 編集
鹿男あをによし(万城目学)



「堀田―お前は強い。恥ずかしい話だが、二日間稽古しておれはお前から一本も取れなかった。まったく情けない限りだ。それだけにおれは自信を持って言える。お前は強い」
おれは堀田の少々離れ離れになった目をのぞきこみ、うなずいてみせた。続いて他の三人の顔を見渡した。
「もちろん―負けることもあるだろう。けれど、それはいいんだ。負けてもいい。剣道は勝負がすべてじゃない。だが、やる前から負けるとは絶対に思うな。相手は京都と大阪だ。怖いと感じることもあるかもしれない。別に怖くなってもいいんだ。それは人間の自然な感情だ。ただ、やる前からあきらめるな。それは相手に負けたんじゃない。自分に負けたんだ」
じっとおれの顔を見上げていた堀田が真面目な顔で、
「教師らしいことも言えるんですね」とつぶやいた。
「うるさい」


「まったく、妙な話だよ。人間という生き物は文字にしないと忘れてしまう。本当に大事なことは、文字にしてはいけない。言葉とは魂だからだ。だが、そのことを人間はすっかり忘れてしまったらしい」



「きみ、ちょっと女子高に行ってみないか?」
神経衰弱を疑われ、そう教授に肩を叩かれ態よく厄介払いされた「おれ」。
産休代理の教師として赴任した先では何故か自分を目の敵にする女生徒と遭遇、未知の地・奈良での新生活は初っ端から前途多難。
ひとりたそがれていたところにやってきたのは一頭の雌鹿。
彼女―もとい、「彼」はおれをしげしげ見つめ、渋みを帯びた低音で語りかける。 
「さあ、神無月だ――出番だよ、先生」。
 
神の使いの鹿に勝手に救国の使命を託されたツイてない男が、京都と奈良を文字通り東奔西走するファンタジー。
あをによしとはなんぞや?と調べたら奈良を修飾する枕詞「あをによし(青丹よし)」みたいですね。
本作は主人公=「おれ」の一人称ですすむのですが、語り口がユーモラスで味わい深く、「おれ」のキャラも面白い。
一言でいうと大人げない、怒りっぽいへタレなんですが、基本的に悪人じゃないから憎めない。
やることがどんどん裏目にでてしまうのがおかしいやら不憫やらその空回りぐあいはいっそ愛しくなってくる。
研究室をひょんなことから疎まれ追い出され、不本意ながら教師とした赴任した先では早々トラブルに見舞われ自信喪失。御年28にしてモラトリアムに陥るなど意固地な不器用さが可愛い可愛い。
しかせんべいの誘惑に負けてこっそりつまみ食いしちゃうシーンなんてにやにやがとまりませんよ……!

おれはもう一度鹿せんべいの匂いを嗅ぐふりをして、前歯で少しだけ割ってみた。
まるで抗議の意思をこめているかのように、鹿がおれを見上げていた。
欠けた満月のようになったせんべいを鹿にくれてやり、おれは齧った部分を慎重に味わった。
どうしよう。意外とうまい。
次の一枚は、さっきよりも少し多めにいただいた。
芳醇な味わいのクラッカーのようなものである。歯ごたえもなかなかよい。いよいよおいしい。
残りは一枚である。おれはそれを半分に割った。小さく割れたほうを鹿にあげたかったが、さすがにそれはまずいと思い、大きいほうをくれてやった。



しかせんべい 食うか食わぬか 問題だ(五七五)
奈良公園を訪れた方はだれしも一度はしかせんべいを食したい誘惑に襲われるとおもうのですが(ないとは言わせん)実際に何割かは口にするとおもうのですが(ご安心を私もです)その葛藤と意外に美味だった驚きを今だかつてここまでみみっちくユーモラスに書いた作者がいただろうか……。
こんなヤツなので人格に多少難アリで胃腸が弱く神経衰弱気味だろうが愛さずにはいられません。
文章は平易で読みやすく、そこかしこにウィットなユーモアがちりばめられ飽きさせない。
主人公も魅力的なんですが、相棒の鹿も輝いてる。
「人間は嫌いだが人間が作った食べ物は大好きだ」と宣言しポッキーをばりばり貪り食い、救国の英雄とよぶには甚だ頼りない主人公になにくれとアドバイスし、へタレた時には角で尻を突き刺したり必殺後ろ足キックで活を入れる。鹿いいよ鹿しぶいよ鹿。普通は「可愛い」と形容すべき生き物なんでしょうが、こいつの場合はしぶさが際立っています。おれとのとぼけたやりとりにはつい笑ってしまう。
そしておばあちゃんみたいな名前のヒロイン、堀田イト。
おれが担任することになった1―Aの生徒、初対面にもかかわらず何故か敵視してくる天敵。第一声「マイシカ」のインパクトは絶大でした。最初は水と油のように反発しあってた二人の変化に注目。
これがすごくいい……!
小説におけるヒロイン的存在、それも女子高生となるといかにも~な美少女を連想しがちですが、この堀田は目が少々離れてるせいで「野性的魚顔」だの評される。

新ジャンル・魚顔。
斬新すぎるヒロインです。

いや、後にこづくりで可愛い顔だとフォローしてますが魚顔ってあんた多感な時期の女子にむかって……。
性格はというとツンデレ。凄いツンデレ。
序盤からツンツンツン、行動背景がわからなかった段階では「なんだこいつ」と不愉快になったりしたのですが理由がわかるにつれ同情と共感を覚えました。
剣道部への入部・大和杯参加をきっかけに水と油のぎすぎすした関係が教師と生徒、師弟のそれに変わり始める過程がイイ!大和杯を目前にしたおれが一堂に会した部員に飛ばす檄には痺れました。ちゃんと先生してる、成長したなあ……。
正直序盤は何が進行してるのか把握できず、おれも状況に翻弄され「嘘だろありえない夢だよな」と否定するばかりで少しだるく感じたのですが、中盤の鹿との対話で仕掛けが明かされ事態の深刻さが開示されるやがぜん面白さを増す。
サンカクとはなにか、目とは何か、それがないとどんな災いが降りかかるのか。
序盤は半信半疑、鹿に操られ自分の意志などおいてけぼりで状況に流されていたおれが、サンカクを手に入れるため自発的に頑張りだす中盤からが熱い!剣道試合にて堀田無双が始まってからボルテージあがりっぱなし、それは最終戦で最高潮に達する。試合シーンの手に汗握る迫力と緊迫感は素晴らしく、運び番の任も世界の運命も忘れ心の底から堀田を応援してしまうおれに完全に同調する。
以降どんでん返しありーの伏線回収ありーのと練られた展開にひきこまれ一気読み。
もう堀田がどんどん可愛くなってくる。
下宿を訪ねてきたときのやりとりなんて秀逸ですよ。
にやにやするわそわそわするわおいこっちが恥ずかしいよ!
抜粋しようか悩んだんですがこれはぜひ原作で読んで欲しい、初々しくもじれったいやりとりに笑み崩れること請け合いですから。

ラストの落としどころがまた憎い。ここで終わるか!卑怯な!ある意味すごく鬼畜です。
そりゃ鹿になってまで自分を救おうとした男に惚れないわけないわな……。
元に戻す条件がアレってのはベタな約束ですが、もし相手の事をなんとも思ってなかったら効かないよなあ。まさかあれっきりなんてことはないよね?二人のその後がすごく気になるので続編を期待したいのですがさすがにむりかなあ……一人(一匹?)だけでてきてない狐の存在も気になります。堀田視点で語りなおしても面白そう。

一緒に読みたい本

関連記事 [読んだ本感想]
読んだ本感想 | コメント(-) | 20021107183852 | 編集
ブログ内検索
     © 2017 ロールシャッハテストB  Designed by 意地天
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。