ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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三十九話

 「黒ヤギさんからお手紙着いた~白ヤギさんたら読まずに食べた~仕方がないからお手紙書いた、さっきの手紙のご用事なあに」
 陽気に鼻歌をうたいながら飛び跳ねるように廊下を歩く。
 ポケットでかさかさ鳴ってるのは手紙。僕を殴ってる最中に鍵屋崎のポケットから落ちた大事な大事な妹宛のお手紙だ。捨てにいく?残念、不正解。そんな芸のないことはしないね。今日の僕は東京プリズンの郵便配達夫だ、黒ヤギさんから着いたお手紙は白ヤギさんに食べられちゃったけどこの手紙をむしゃむしゃ食べられちゃっちゃあ困る。
 「あ、逆だったかな?読まずに食べたのは黒ヤギさんだっけ」
 まあどっちもでいい、ささいなことだ。懐かしい童謡を唄いながら蛍光灯が点滅する仄明るい廊下を歩いて向かうはとある房。前方50メートルの地点に目的の房が見えてきて駆け足で急ぐ。小走りに到着、廊下に人通りがないのを用心深く確かめてから鉄扉の上部に設けられている格子窓に顔を近付け、鉄格子の隙間からそっと中の様子を窺ってみる。
 目をしばたたいた。
 「なあサムライ」
 「なんだ」
 「顔色が悪いぜ」
 「気のせいだ」
 「目の下に隈ができてる」
 「気のせいだろう」
 この噛みあわないやりとり、どこかで聞いたことがある。息をひそめ頭を屈めて鉄格子の窓を覗き込めば天井中央から埃に曇った裸電球がぽつねんと吊りさがる下、ベッドとベッドが左右対象に配置された殺風景な房の真ん中に見知った顔がふたり。ともに垢染みた囚人服を着ているが第三者に与える印象は対照的。ひとりは凛と背筋をのばして床に正座したおそろしく姿勢のよい男でこちらを振り向きもせず寡黙に墨を磨っている。精悍に引き締まった横顔はのっぺりと起伏に乏しく表情も読み取りにくいが、注視してよく見れば目の下に隈が浮いてる。憔悴した顔をわずかに俯け、黙々とストイックに墨を磨り続ける男の傍らにだらしなく膝を崩して座りこんでるのは明るい藁束のような茶髪を後ろで一本にまとめた男で、囚人服からのびた手足はむらのない褐色。耳朶に連ねたピアスの数がまず目を引くが、それより何より印象的なのは精巧なガラスを彷彿させる色素の薄い瞳だ。純和風な容姿の男と人種不明な容姿の男がおなじ天井の下で口数少なく向き合ってるのはちょっと異様な光景だ。
 それがブラックワーク実力№1を誇る東棟の王様と、影じゃその王様にだってひけをとらないと噂される№2なら言わずもがな。
 ロンが篭城開始してから六日目、からかう相手もいないがらんとした房にひとりぼっちで暇を持て余してたのか、わざわざサムライの房に出張してきたレイジが大あくびをする。
 「鍵屋崎がいなくなってからよく眠れてねーんじゃねえか?」
 『鍵屋崎』
 レイジがなにげなく、さりげなくを装って口にした言葉は直球で核心を突いていた。墨を磨る手が止まり、こちらに向いた背中が強張る。そしてまたなにげない風に再開、そっけないほどに抑揚ない声でサムライが応じる。
 「……そんなことはない。下衆な勘繰りをするな」
 「嘘つけ」
 膝を崩して身を乗り出したサムライの顔を覗き込み、なにもかもお見通しだという笑顔を浮かべる。努めて表情を出さないように引き締めた横顔を覗きこみ、サムライの本心を推し量るように目を細めたレイジが軽く提案する。
 「助けに行ってやれば?」
 「………………」
 「行きたいんだろ」
 「お前に関係ないだろう」
 「なんでそうはぐらかすかね。照れてんの?」
 「照れてなどいない」
 「じゃあさっさといけよ、呑気に墨なんか磨ってる場合じゃねえだろう。こうしてる今も鍵屋崎は突っ込まれてしゃぶらせて喘がされて泣かされてるんだぜ」
 挑発ともとれる発言に返された反応は激烈だった。
 人の不幸は蜜の味と公言してはばからない悪魔のような薄笑いを浮かべてうそぶいたレイジの襟首が凄まじい力で掴まれて締め上げられる、激昂して立ち上がったサムライがその弾みに足もとの硯を蹴飛ばして床一面に墨汁がぶちまかれてサムライの手足やズボンの裾にも点々と飛沫が跳ねる。墨汁の海に立ち上がったサムライはおそろしい形相をしていた。先刻までの無関心無表情はどこへやら、憤怒を滾らせた双眸は冥府の鬼火の如く眼光炯炯と輝いている。目の下に浮いた隈と凄惨に殺げた頬も相俟って今のサムライは修羅の鬼相に変じていた。
 「……怒るなよ。本当のこと言っただけだぜ」
 「降参降参」とおどけて両手を挙げたレイジが火に油を注ぐような返し方をするが、床一面にゆっくりと染み広がってゆく墨汁が目に入り、失態に気付いたサムライが乱暴にレイジの襟首を突き放す。そのまま床に膝をつき、ポケットからだした手ぬぐいできびきび墨汁を拭いだしたサムライを愉快げに眺めながらレイジがへたな鼻歌を唄いだす。わあ音痴だ。これ以上レイジの鼻歌を聞かされちゃたまらないと片手で耳をふさぎ、鉄格子の隙間に手紙をくぐらせて手を放す。宙にすべりおちた手紙がぱさりと床に落下するまでの数秒間に廊下を全力疾走して10メートル先の曲がり角に身をひそめ呼吸を整えがてら聞き耳を立てる。さあ、うまく気付いてくれるかなと憂慮したけど要らぬお世話だったようだ。
 衣擦れの音、人が動き出す気配。
 「?何かおちてきたぜ」
 レイジに指摘され床に這いつくばってたサムライも気付いたらしい、墨汁をしとどに吸って黒く染まった手ぬぐいをさげてこっちに歩いてくる姿が目に浮かぶ。曲がり角からちょっと顔を覗かせてみれば格子窓の向こうでうごめく長身痩躯の影を確認できた。上体を折ったサムライが怪訝そうに眉をひそめてたった今、僕が鉄格子の隙間から落とした手紙を拾い上げる。
 錆びた軋り音をあげて扉が開き、手紙を手にしたまま廊下に立ち尽くして左右を睥睨するも人影はない。サムライが当惑した様子で房に引き返して鉄扉を閉じるのを確認後、抜き足差し足忍び足で廊下を歩いて会話が聞こえる距離にまで接近する。
 「手紙だ」
 壁に背中をくっつけて鉄格子の隙間からもれてきた呟きに耳を澄ます。不審の色を目に湛えたサムライが処理に困って手の中の手紙を見下ろしてる様子がありありと目に浮かんで愉快になる。
 「ラブレター?もてるねサムライ」
 レイジのひやかしを黙殺したサムライが音荒く便箋を広げて文面に目を通してゆく。沈黙。中の様子が気になっておそるおそる格子窓を覗きこんでみれば、サムライは滝に打たれた修行僧のように凝然と裸電球の明かりの下に立ち尽くしていた。手の中の便箋に食い入るように見入って立ち竦むサムライへと無警戒な大股で歩み寄ったレイジが「なになに」とその手元を覗きこみ、声にだして読み上げる。

 「『惠、元気にしてるか?
  手紙を書くのは今回で二度目だ。前回よりは上手く書けてるといいが、正直自信はない。一度目の手紙は諸事情あって出すことができなかったが、こうしてまた惠に手紙を書くことができて、たとえそれが僕の一方的な思い込みだとしても惠との繋がりが回復してすごく嬉しい。
 すごく、嬉しい。
 ……なんだか稚拙な文章になってしまった。ここまでまだ三行だが、早くも後悔し始めている。どうやら僕は手紙を書くのが下手なようだ。新発見だ。論文を書くのは得意なのに、変だな。上手くいかないものだな、なにもかも。
 惠は今どうしてる?
 現在は仙台の精神病院に入院してると聞いたが、不自由はないか。僕に心配されるだけ迷惑かもしれないが、せめて今どうしてるのかだけでも知りたい。風邪はひいてないか?寂しくはないか?担当医や看護婦はやさしくしてくれるか?惠をそんな境遇に追いこんだ僕が言えた立場じゃないのは自覚してるが、惠さえよければ、負担にならなければ、こうして拙い手紙を綴る行為を許して欲しい。 
 惠に手紙を書いて、惠の存在を実感することでしか今現在の僕は生きてる実感がえられない状態なんだ。どうか、手紙を書くことだけでも許して欲しい。辛ければ読まなくていいから、いや、最初の一行だけでも読んで欲しいのが本音だが惠が辛いなら無理にとは言わない。一度目を通してすぐに捨ててくれて構わない。それでもいいから、とにかく今この瞬間だけは僕の気持が恵に伝わってると錯覚させてくれ。

 しあわせな夢を見させて、安心させてくれ。

 ……僕としたことが、失態だ。前回とおなじ過ちを繰り返している自分の愚かさ加減に絶望しそうだ。主旨を明確にしなければ伝わるものも伝わらないと頭ではわかっているのに、こうしていざ惠に書くとなるとひどく緊張して文章が支離滅裂になってしまうんだ。
 惠は今、精神病院でなにをしてる?病院にピアノがあるとは思えないが、音楽療法を行っている所なら置いてあるかもしれないなと気付いた。惠は今もピアノを弾いてるか?練習は続けているか?僕は惠のピアノが本当に好きだった、惠の隣でピアノを聞いてるときが一番心休まった。また惠のピアノを聞きたい、仔犬のワルツを聞かせて欲しい。他の曲でも構わない。惠の弾く曲なら何でも好きだ。
 今僕は、』……」 

 手紙はそこで途切れていた。まったく唐突に、必然的に。
 「中途半端」
 不得要領顔で首を傾げたレイジの声など聞こえないように手の中の手紙を見つめていたサムライがふいに呟く。
 「書けなかったんだ」
 「?」
 レイジが不思議そうな顔をしたのはサムライの言葉の真意を推し量ったからじゃない、手紙を握り締めたサムライの手が白く強張っていたからだ。便箋が歪むほどに手に力をこめたサムライが俯き、かすれた声で呟く。
 「自分の近況が書けなかったんだ。鍵屋崎は」
 僕も同感。鉄扉に背中を預けて廊下にうずくまり、蛍光灯がぶらさがった天井を仰ぐ。あのかっこつけたがりが大事な妹宛の手紙に今の自分の境遇を書けるわけがない、毎日男に犯されて泣いてるなんてそんな救いのない現実を明かせるわけがない。不自然な箇所で途切れた手紙を握り締め、途方にくれたように立ち尽くすサムライの傍ら、レイジは何か言いたげに唇をとがらして沈黙を守っていたが……
 「サムライ」
 レイジが長い沈黙を破りサムライに呼びかけるのと、心ここにあらずといったらしくもない腑抜け面で顔を上げたサムライの横っ面に拳が叩き込まれるはほぼ同時だった。
 「!」
 風切る唸りをあげて襲来した拳を避ける暇もなく、また、軌道から逸れる暇もなく横っ面をぶん殴られたサムライの手から書き損じの便箋がこぼれて宙に舞う。裸電球の明かりを透かして天井高く舞い上がった手紙がゆるやかな螺旋を描いて床に落ち、レイジにぶん殴られて床に転倒したサムライが呆然と目を見張る。床一面の墨汁の海に手をついたサムライを見下ろしたレイジが笑顔で吐き捨てる。
 「しけたツラしてんじゃねえよ。ぐちゃぐちゃ悩んでる暇あんならとっとと行動起こせ、らしくねえよ。鍵屋崎のこと気になんなら助けに行けばいいじゃん、会いにいけばいいじゃん。何をうじうじうじうじと悩んでんだよ、お前それでも武士か?」
 「―お前になにがわかる」
 冥府の底から湧いてくるような声だった。
 墨汁の飛沫をはね散らかし、瘴気じみた殺気を全身にまとわせて立ち上がったサムライが目に激情を閃かせる。幽鬼じみた足取りでレイジに歩を詰めたサムライの足もとで墨汁の飛沫が跳ねてズボンの裾と上着の裾を汚してゆく。
 「鍵屋崎は俺が手を貸すのを拒んでいる」
 「知ってるよ。キーストアは何でも独りで抱え込むタチだもんな、さぞかししんどい思いしてんじゃねえの今。行ってやれよ」
 「俺がのこのこ出向いて行ってあいつが喜ぶと思うか」
 「喜ばないだろうな。余計なことするなって怒るんじゃえねえの」
 挑発的に腕組みして自分を待ち受けるレイジのもとへと大股に歩み寄ったサムライはぞっとするほどに底冷えした目をしていた。おもいきりぶん殴られて切れた唇を拭いもせず、唇の端に痛々しく血を滲ませたまま、一歩もひかずにレイジと対峙する。狭苦しい房に充満してゆくのは息苦しいほどの殺気と圧迫感、異変を嗅ぎ付けた囚人が周囲の房からわらわらと沸いてきて鉄格子から覗き見してた僕を最前列に押し出して扉に群がる。ぐ、ぐるじい。
 「なんだなんだ」
 「喧嘩か」
 「どいつとどいつが……て、サムライとレイジじゃねえか!?」
 「マジかよ、東棟の二強が遂にガチンコ対決!?」
 「こいつあ見逃す手はねえ。おいっ、東棟の連中全員呼んで来い!見モノだぞ!」
 扉に押し付けられて圧死寸前、鉄格子に顔を押し付けられて身動きできずに窒息寸前の僕などもう全く目に入らないみたいに房の中ではサムライとレイジが睨み合ってる。蛇とマングース、いや、龍と虎?違う、そんなレベルじゃない。今にも絶えそうに点滅する裸電球の下、床一面の墨汁に靴裏をひたして一対一で対峙するのはブラックワークの覇者たる東棟の王様と王様に継ぐ実力の持ち主と噂される男。腕組みしたレイジは余裕の構え。 これまで、というか僕が東京プリズンに来て以来レイジとサムライの直接対決は行われたことがなかった。僕が東京プリズンに来る前も二人が直接ぶつかったことはなく、それなりに良好な関係を維持してきたという。サムライは無駄な殺生を好まない平和主義者だし、笑う戦闘狂として東棟を含めた全棟の連中に恐れられてるレイジだってサムライには一目おいてる節があったからこれまで二人の直接対決は行われてこなかったのだ。
 それが今、現実に始まろうとしている。

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20060129202624 | 編集
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