ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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少年怪奇劇場(なるしまゆり)



 ―…あの人には言ってあげたかったな
 もしかしてあなたの探しているものは 
 あなたのすぐそばの それじゃありませんかって……

 あの人は永遠に探すのかな
 自分のすぐ後ろにあるものを


 ………ね
 ぼくはずっと怒っているんだよ
 こんな思いをさせてくれるのも
 ぼくを縛るのも
 この世に一人しかいないんだ



 なるしまゆりの心理描写は圧巻。
 思春期の少年少女の痛々しいほどの閉塞性や、大人になりきれずさりとて子供でもいられない微妙な心理を描かせたら天才だと断言します。
 「少年魔法士」が好きで好きで大好きで一時期読みまくりました。
 カルノ(シスコン)もレヴィ(マザコン)も勇吹も好きですが、基本一話読みきりのオカルトオムニバス「少年怪奇シリーズ」も大好きなんです!凄くいいと声を大にして主張したい。
 これは昔あすかに読みきりで掲載されていたシリーズの愛蔵版。
 「隣の町で死んだ人」。
 有名校の受験に失敗し都立の滑り止めに入学した戸倉坂はクラスで浮いた存在。
 そんな変人・戸倉坂に興味を持つのは茶髪にピアスの不良・落柿。
 やがてクラスの出し物として「隣の町で死んだひと」という都市伝説がベースの劇を演じることになるのだが……
 落柿はちゃらちゃらした見た目に反し中身は一本筋が通った熱い男。
 クラスで孤立していた戸倉坂はそんな落柿の中に死んだ従兄の影を見る。
 友人が戸倉坂の陰口を叩けば「あいつそんなつまんねーやつかな」と呟き、劇の脚本を破いた戸倉坂の行動にも理由があると直感し、本人にむかって直接それを聞く。
 街では塾生が襲われる連続通り魔事件が発生。
 戸倉坂と落柿も事件に巻き込まれるのだが、当人たちをおいてけぼりにしてどんどん勝手な噂が広がっていく。
 実際にそこには傷付いた被害者や涙を流した遺族がいるのに、関係ない人々にとってはあくまで「隣の町で死んだひと」の話にすぎない。近すぎず遠すぎず、わっとたかって食い漁って忘れ去るのにちょうどいい距離……
 なるしまゆりは私たちの身近に当たり前にあって、しかし忘れがちなものに気付かせてくれる。
 面白おかしく脚色され一人歩きする噂にさらに傷付く「被害者」のひとりに向かい、落柿が言い放った台詞が最高にかっこいい。

 「いいか?襲われたのはオレ、怖かったのもオレ、だから本当のことを言えるのも俺だけだ。お前のせいじゃ絶対にねえ!!くだらねェことは信じるな 笑い飛ばせ!!バカ!!」

 少年怪奇シリーズはホントどれもよくてはずれなしの傑作選なんですが、「怪談六話」は格別に特別。
 中学生の従妹が屋上から落ちて意識不明の重態となった。
 事故の瞬間を目撃した少年はひとり病院をぬけだし、子供の頃彼女と冒険に行った城跡へと走る。
 幼友達が敵同士に分かれ合戦を行ったという伝説が残るその土地に友達同士で行くと怪談を見るらしい。

 「私たち友達なんだから見えるはずだよね?」
 「一生友達でいようね忍ちゃん」

 事故の直前、都古はかつて体験した怪談と再会し呪いをとくため城跡に行こうと忍に持ちかけ拒否されたのだった。
 今作は忍と都両方の視点が挿入されるんですが、ひねくれた忍の事を都古がどう思っていたかが痛いほど伝わってせつなくなる。
 美人だがとっつきにくい性格。
 女子に煙たがられクラスで孤立した都古の友達は忍だけ。

 だけど忍はいとこで男の子。
 中学生にもなっていとこの男の子が友達なんて変じゃないの?
 忍ちゃんは仕方なく私と一緒にいるんじゃないの?

 子供の頃はあたりまえに一緒に遊んでいた忍はいつしか他の友達を作り都古から離れていく。
 ずっと一生友達だよって約束したのに、その約束にこだわってたのは私だけなの?
 関係性の変化に戸惑う心情があるあるわかるーというエピソードをとおして非常に上手く描写され引き込まれる。
 いとこで異性の同級生に対しお互い抱く複雑な気持ち。
 友情と馴れ合いを区別するのはむずかしい。ひょっとしたら同情なのか。大人になりきれないふたりにはすぐ後ろにあるはずのもうひとつの答えが見えなくて……
 もう本当にこの話が好きで……語りはヤボなのでとにかく読んで欲しい。
 冒頭のシーンで感情の水位が上昇しぶわっと涙が出ました。
 
 怪奇と名はついてますがシリーズに通底するテーマは死、友情、出会いと別れ。
 逝ってしまったものと残されたもの、得たものと失ったもの、今いる人と今はもういない人の対比が哀切な情感を引き立て独特の余韻を残します。
 幽霊が出る合戦場、彼岸と此岸が交錯する深夜の橋の上、閑散とした駅のホーム、夜はもうひとつの顔をもつ無人の場所。
 それぞれに悩みを抱え道に迷った登場人物たちは、それら非日常に接し霊的な磁場を生じる場所で様々な怪奇と遭遇し、既に日常をはずれてしまった存在との対話を経て自分の中に在る「ほんとう」に気付いていく。
 逝ってしまった人への愛情、忘れかけていた夢への情熱、古い友との約束。

 どうにもならないことはどうにもならない。
 折り合いなんてつけられない。
 結局は向き合うしかないのだと。逃げてばかりいられないのだと。どうにもならなくてもやるだけやってみるしかないのだと。
 やるだけやってみたらなんとかなるんじゃないかと、信じることができるのが平凡なひとの非凡な強さだと。

 日常に埋没し削れていく大切なものをすくいとるかのような描写は時に切なく優しく、ふとしたはずみに踏み込んでしまった非日常での体験を経て、あがき、悩み、苦しみ、葛藤し、挫折を乗り越えようと前を向く人々の姿が胸を打ちます。
 読後感はほろ苦くさわやか。
 傑作ぞろいの短編集が読みたい方におすすめです。
 こういう話が書けたらいいよなあ……書きたい。

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