ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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マルドゥック・スクランブル(冲方丁)



 《じゃあ、ドクターのことは機械の一部だって思うことにする》
 「ひどいなあ」 
 ドクターがぼやいた。
 《優しい機械》
 からかうようにバロットが付け加えた。
 《言いたいことを、言わせてくれるから》


 ―今、ここにいる。
 つづけて、すぐ下にこう書いた。
 ―味方は一人もいない。
 それから、また書き付けた。
 ―今ここにいる。



 「きみにすべてを与えなおそう」
 そう言って行き場を失くした少女に救いの手をさしのべた男は、炎上する車に彼女を閉じ込め去っていく。
 助けを求める声に耳を貸さず。
 非情な背中を向けて。
 「素敵な人形は飾られてればいい」
 それまで男に従順だった少女がたったひとつ犯した間違い。
 与えられた物に疑問を持ったこと。
 少女はただ自分が何者か確認したかっただけ、男が与えなおしてくれたものを確認し今の幸せに感謝したかっただけなのに……
 少女の名はルーン・バロット。
 職業は未成年娼婦―ティーン・バロット。
 保険金殺人の犠牲となって瀕死の重傷を負った彼女を科学技術の粋を尽くし死の淵から蘇生させたのは、事件委任官ドクター・イースターとネズミ型万能兵器ウフコック。
 自分はなぜ殺されねばならなかったのか。
 頼れるネズミ(中身は親父)ウフコックを相棒に、バロットは自らの存在意義を賭けた壮絶な戦いへと身を投じていく―……。
 冲方丁といえばライトノベル界では一番の出世頭。最近発売された初の時代小説「天地明察」がブランチでも取り上げられたので知ってる方も多いと思います。私も読みました。面白かったです。
 「マルドゥック~」は少女と銃(ほんとはネズミだけど)というその筋のフェチにはたまらんコンビが縦横無尽に活躍するSFアクション小説。日本SF大賞も受賞しました。面白さは折り紙つきです。
 SFというと難解な専門用語がわんさか出てきてとっつきにくいイメージが先行しがちですが大丈夫!キャラの魅力とリーダビリティの高いスリリングな展開、息継ぐ間もない痛快なアクションシーンの連続でぐいぐい読ませます。
 
 バロットとは孵化する前のひよこを卵の中で煮殺して食べる悪趣味な料理。
 グロテスクな見た目に反し大変美味で一部のマニアに好まれている。

 過去、バロットはさまざまな辛い経験に遭い自らの心を殻で覆う術を身につけた。
 何度も何度も裏切られ傷つけられ絶望し、現実から逃避する唯一許された手段として自らの心を殺し生きてきた非力な少女が、ドクター・イースターとウフコックという心強い味方=全力でサポートしてくれる仲間を得たことによって、一度はリタイアしかけた非情な人生に立ち向かっていく姿がとてもいい。
 序盤は無気力で厭世的、人形のように主人(=シェル)に従順だったバロットが誰かの言うなりにただ漠然と「生きる」というポーズを脱ぎ捨て、「生き抜く」という目的意識を新たにしていく過程にぞくぞくします。
 少女と銃!銃と剛!素敵に無敵!
 バロットを励ましともに戦う仲間も非常に魅力的。
 人語を解ししゃべるネズミにし正体は手のひらに乗る万能兵器・ウフコック。あるじのオーダーによって、必要とあらば銃やナイフなどの武器から日用品のラジオまで、なんにでも化けることができる。
 フルネームはウフコック・ペンティーノ―生焼け―煮え切らないと揶揄される名前が示すとおり、なんにでも実直に取り組んで自問自答する悩み多きネズミ。彼との出会いがバロットを変える。
 ドクター・イースターはロック歌手さながら長髪を七色に染めたエキセントリックな男だが、しかしその一流の技術をもって、声帯を失ったバロットに新たな能力を授ける。
  
 一人の少女の喪失と再生の物語である。

 そう言ってしまえばひどく陳腐だが、使い古されたテーマだからこそ作者の力量が生きる。
 文章はテンポよく痛快。変態どもが入り乱れ銃弾飛び交うアクションシーンもスリリングかつバイオレンスで興奮大だけど、ウフコックとバロットのとぼけたやりとり、ドクター・イースターのお茶目など、日常パートも見所もりだくさん。
 「私を生き返らせてレイプした」と、当初は命の恩人のドクターにさえ警戒心ばりばりだったバロットが徐徐に心を開いていく様がなんていうかもうむちゃくちゃイイ……バロット萌えです、いいです、可愛いんです……!ドクターにプレゼントをなげつけるシーンやその後部屋にこもって一人泣くシーンには悶え転がりました。なんて愛しいいい子なんだ……。
 保険金殺人が失敗した事を悟ったシェルは、生き残った被害者―証言者に刺客を送ってくる。
 このとんでもないド変態ぞろいの刺客を戦う力を手にしたバロットが迎え撃つシーンは鳥肌が立ちます。痺れる……!
 しかしバロットもバロットで、悲惨な生い立ちや今までの体験から、ウフコックに対し危ういまでの執着と依存を見せる。 

 バロットは「私を愛して」とウフコックに懇願する。
 そうすればそれが生きる目的になるから、生きる意味になるからと。
 ウフコックは戸惑う。自分はネズミで兵器だから男が女を愛するようにはきみを愛せない、保護者のような感情しか抱けないと煮え切らない態度で答えを保留する。
 殻を割れない少女は問い続ける。

 どうして私なの?
 どうして私が選ばれたの?
 
 ただ一言「愛してるから」と、ひとりぼっちの少女はそう言ってほしかっただけなのに。
 それで納得できたのに。

 抱いて。タイトに。 

 少女と銃の組み合わせが好きな方には自信をもっておすすめします。
 難所といえば難所なのが二巻終盤から始まるカジノシーン。
 SFやアクション部分はノープロブレムでもここで脱落しちゃう人が多いと思います。むしろこのシーンあってこその傑作!と熱烈に支持する向きもあるのですがルールを知らない人には厳しいだろうなあと……
 現在別冊少年マガジンで漫画版が連載中。
 こっちもすっっごく面白いです!
 作画は大今良時さんという無名の新人ですが、絶妙の不安定感を醸すアングル、歪みや崩れが魅力になる独特の絵柄に惚れこみました。鬼頭莫広に萌えを足したような絵柄といいますか……
 公式サイトで一話が無料で読めるとのことなのでぜひ!

 余談ですが今夏ゴンゾでアニメ映画化予定ということです。
 こちらも楽しみ……と言いたいのですがなんだか激しく不安なのは公式サイトがそっけなさすぎるからか、一度アニメ化が企画段階で頓挫した前科があるからか……プロモも雰囲気は出てるけど思わせぶりなだけで判断しようがない……。
 期待してるのでいいもの作ってくださいお願いします!
 不安にさせないで!

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