ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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凡夫危うきに近寄り、喰われる11

 「やめろこのばかしまいにゃ頭突くぞ!」
 「すいません、やめません」
 どうして来てしまったんだ。
 信じられない愚か者だ。
 吊るされた男の名にふさわしい向こう見ずな愚かさ、無謀さ、後先の考えなさ。自らすすんで危険な罠に飛び込んできたも同然だ。
 一体何度痛い目にあったら気が済むんだ、一体何度突き放したら諦めてくれる?
 『千里』
 幻聴を疑った。
 とうとう妄想が浸潤し耳がおかしくなってしまったのかと危ぶむ程に、あの人の声をくりかえし内耳が再生していた。
 僕を呼ぶイラついた声、先行くぞと怒鳴るおっかない顔つき、ちっとも優しくないその声がどれだけ愛しく心強かったかきっとこの人は知らない。
 この人はいつも僕を引っ張ってくれた。
 彼は僕を追い越し先に行く。
 けれどもけっして置き去りにはしない、十数歩離れた場所で必ず立ち止まり追いつくまで待ってくれる。
 だからこそ懸命に追いつこうと努力した、隣に立つにふさわしい人間になろうと思った、過去も悪夢も吹っ切って彼だけを追って前へ前へと歩を進めた。
 先輩、先輩、先輩。
 僕の、僕だけの先輩。
 いつか所有格で語ることが許されるのを夢見ていた、彼のなにもかもを独占したかった。
 『早くこいよ、置いてくぞ、千里。電車に乗り遅れちまう』
 待ってください先輩、意地悪しないで。ちょっとそこの喫茶店で涼んでいきましょうよ、おごりますから。
 それともそこのコンビニでコーヒー買いますか、いい年しておまけのミニカー集めてるの知ってますよ。
 『てめえ、なぜそれを』
 先輩にまつわることで僕が知らないことなんてありませんよ、見くびらないでください。
 いつも偉ぶってるくせに割かし子供っぽいとこあるんだから。
 どうします?買います?
 『……職場のヤツらにはバラすなよ、絶対』
 低く念を押し舌打ち。
 背広に片手を突っ込んでふてくされたポーズが笑っちゃうほど可愛くてツボにはまる。
 缶コーヒーなんてカゴいっぱい大量に買ってあげる、先輩が喜んでくれるなら万札がとんでも惜しくない、なんだってする。
 お願いだから笑ってほしい。僕を見てほしい。
 感謝の言葉を要求するつもりはない、ただ笑ってほしい、ほんのちょっとでも僕がしてあげられることで幸せになればそれでいい。
 ほんのちょっとが出発点だった。
 報われるにつれ物足りなくなった。もっと笑って欲しい、もっと構ってほしい、もっと僕を見てほしい。
 もっと、もっと、もっと……
 膨れ上がる願望が欲望に結びつくのは時間の問題だった。
 最初は名前を呼ばれるだけで胸がいっぱいになった、いつしかもっと多くを望んでしまった、自分のおかれた仮の立場を忘れもっと望んでもいいのかとおめでたい勘違いをしてしまった。致命的な失策。
 「暴れないでください、傷つけたくない」
 もう十分傷つけてるくせに。
 「お望みどおりよくしてあげるんですよ、いいじゃないですか。あなたのいいところはぜんぶ知り尽くしてるんだ」
 かつて僕がしるしをつけた。
 「これが目的で来たんでしょ?」
 「違う!」
 「いいんですよ隠さなくて。口では強がっても体は正直だ、こんな状況で縛られて押し倒されて勃起してるのが証拠です。ペニスがだらだらいやらしい汁をたらして物欲しがってます」
 相変わらず言葉責めに免疫がないようだ。セックスのつど耳元で体の変化にまつわる恥ずかしい台詞を囁くだけで顔色が豹変するのは面白い。
 「説教しにきた?よく言う、いたぶられにきたんでしょ」
 目を細く眇めて笑う。
 今の僕はきっと恐ろしく醜悪な笑みを浮かべているだろう、人間性が堕落しきった笑みを。
 「ほんとにお前を連れ戻しにきたんだよ……!」
 「ぐっしょり汗を吸ったシャツで縛られてベッドに転がされてる人が何寝言言ってんですか。上半身を裸に剥かれて、足は棒みたいに突っ張って、前ははしたなく丸出しで……ヤってくださいって言ってるようなもんでしょ」
 「丸出しにしたのはてめえだろ変態!!」
 「下着の上からしごかれるほうがよかったんですか?」
 「そうじゃね、わかって言って」
 もどかしげに歪む顔、双眸に閃く焦燥の光。
 腕を縛られた体勢から身を乗り出して叫ぶ姿は悲痛に切迫し、前髪が風圧でばらける。
 諦念じみた虚無が浸して胸が冷え切っていく。
 こりずに暴れる体を押さえつけ、抑揚なく宣告を放つ。
 「僕は千里有里の所有物だ。あなたとはもう一切関係ない、あなたと僕の人生は分岐してしまった、あなたがしつこくまとわりついてこなきゃ二度と交わるはずもなかった」
 全部この人が、久住宏澄が悪い。
 吹っ切ろうとしたそばから傷を抉り蒸し返すこの人が。
 僕の心を惑わせかき乱す元凶、苦悩の種。
 初めて本気で好きになった人、兄さんの妨害から守りぬきたいと誓った人、幸せになって欲しいと願った人。
 別離は苦渋の決断だった。
 僕さえ姿を消せば元にもどると思った、少なくとも彼だけはもと帰属していた会社とマンションを往復し女性と交際したまに同僚と飲みに行く平穏な日常に帰れると信じ込んだ。
 傷は癒えずとも時が経つにつれ痛みにさえ慣れてしまうだろうと消極的に環境に適応する道を選択した。

 ただの逃避だとわかってる。
 だけど逃げ切れるはずだったんだ。

 「交わる交わらねえもあるか、離れてくなら追っかけるぞ!」
 この人さえ現れなければ。
 「どうして邪魔ばっかりするんだ……」
 歯痒い。
 胸が痛い。
 この人の率直さはまぶしすぎる、本家に引き取られてからずっと兄さんに束縛され続けた僕など正視しただけで穢してしまうような恐怖がある、視線で火傷するなんてことが現実にありえるなら小揺るぎもせず人の核心を捉える目こそ恐ろしい。
 どうしてこの人はいつも馬鹿正直に直球で立ち向かってくる、どこまでも真っ直ぐに信念を貫く、傷つくことが怖くないのか、裏切られて平気なのか?
 疑問の嵐が荒れ狂い憎悪とも未練ともつかぬ葛藤がせめぎあう。
 再会したから心が揺れてしまった。
 やつあたりだ。わかってる。
 さっきまでふたりリビングで向き合って穏やかな時間が流れていた、互いの包容し許容し慰撫するような互いを尊重しあうような時間が流れていた。
 錯覚か?
 都合よい解釈だと笑え。
 僕はそれでよかった、幸せだった、彼の手に口づけることができただけで泣きたいほど満たされていた。
 僕のエゴで傷つけた相手に許しを乞う資格などない、ならせめて一瞬でいい触れたかった、むかしみたいに

 『とろとろ歩いてんな、おいてくぞ』
 あの頃みたいに。

 「ちさと………?」
 俯く。
 伏せた顔を垂れた前髪が隠す。声の変化から虚を衝かれた心境を察知、虚脱した動作で目を向ける。
 前戯を中断し深々項垂れた僕を気遣う。
 これから自分を犯そうとしてる相手を心配する、とんでもないお人よしの顔。
 視線がぶつかる。
 心が不感症になる。
 兄さんの機嫌をうかがえば顎で促される。
 どこまでも価値観の相容れないどこまでも真っ直ぐな人に対し、虚無を孕む低い声で呟く。
 「ゲームを始めます。あなたに降参と言わせたら僕たちの勝ちです」
 「なに言ってやがる」
 「せっかく来てくれたんだから特別に時間を割いて遊んであげるって言ってるんです。ただで帰しちゃ可哀想ですもんね。どんなに冷たくしてもしつこく追いかけてきて僕を困らせる悪い子にはお仕置きが必要だ」
 しばらく忘れていた感覚を久しぶりに思い出す。
 僕を見る彼の目に走る怯え、次はなにをされるだろうと構える表情に残酷な気持ちが疼く。
 僕はサディストだ。
 おそらくは兄さん仕込みの。
 自覚はしている。この人を傷つけたくない気持ちとおもいっきり傷つけぼろぼろにしたい気持ちとが錯綜する。
 「久住さん……」
 小声で名前を呟く。
 指を擦り合わせ、ベビーオイルが透明な糸引くまでよく捏ねる。くちゃくちゃと濡れた水音が立つ。
 「力抜いて。痛いですよ」
 「……いっ……」
 「泣きそうな顔したってだめです。許しません」
 後ろの窄まりに指をあてがう。びくりと震えが走る。
 自分を犯す人間が見えないよう首の間接が許す限り顔を背ける、来たるべき衝撃に備えこみ上げる恐怖を押し殺しひた隠し身構える。
 ぶざまな懇願はもうしない、かといって自分の運命を諦念し許容したわけでもない、泣き喚いてもどうにもならないならせめて体力を温存しておこうと判断する。この人は芯が強くしぶとい。
 「括約筋の緩め方わかるでしょう。何度もやったんだから」
 耳元で囁きつつ反応をうかがえば火を噴くような目つきで睨みつけてきた。
 服従をよしとしない反抗的な態度にいらつきベビーオイルに塗れた指を後孔に突き刺す。
 「!!―あぐっ、あ」
 笑っちゃうほど色気のない声。
 普段外気に晒すこともない、自分で触れることも人に触れさせる事もない秘密の窄まりを暴かれる生理的嫌悪と不快感とに強気な表情が歪む。
 挿入した指を鉤字に曲げ、前立腺の位置をさぐる。じきにしこりに当たる。
 「!?んぅ」
 「ここだ」
 指を抜き差し、前立腺を重点的に刺激する。入念にほぐす。直腸の襞がねっとりと指に絡みつく。
 「あ……千里、抜け、よっ……」
 震えが走る。
 窄まりに指を出し入れ見上げれば、被虐と紙一重のソドミーな快感が苦痛を上回り始めた証拠に、嫌がるふりをしつつも肌とふたつの突起が淫蕩に色づいて男を誘う。
 弱弱しい抗議は無視し、前にも増して容赦なく勢いを増した指で前立腺を苛む。
 後孔に指が突き立つつど背筋が撓う。
 噛み殺そうにも殺しきれない喘ぎ声が上擦る吐息に紛れて零れる。
 前髪がしどけなくばらけて両目を覆う。
 快感と苦痛が綯い交ぜとなって歪む顔は職場の彼を知るものにとってはいっそう倒錯的かつ扇情的、眇めた双眸に生理的な涙がしめやかな膜を張る、切れの長いまなじりから痩せた頬にかけ汗と涙とが混じり合った体液が一筋伝うさまがひりつく劣情を煽り立てる。
 「抜かねえと酷いぞ……」
 「どう酷いんですか?」
 「うあ、あぁっ」
 「教えてくださいよ、どう酷くするんですか?ほら、三本め」
 何もできないのを承知の上でねちっこく挑発、揶揄、窄まりに突っ込んだ指でめちゃくちゃに体内をかき回す。
 屈辱と恐怖と憤怒で灼熱する顔、身もがく姿。
 律動を刻み前立腺をつけば襞ひとつひとつがうねり狂う。
 後孔がきつく収縮しもっともっととねだるように根元まで咥えこむ。
 「指で穿られて感じてるエロい顔を見せてみろ、クズミ」
 兄さんの声。前髪を掴んで強引に上を向かせる。
 ぐったりうつぶせて肩で息をしつつ、消耗しきってなおぎらつく眼光で兄さんを睨みつける。
 眉間の皺に兄さんの指が這う。
 「顰めた眉と半開きの唇がセクシーだ。目はちゃんと見えてるか、俺はここだぞ?眼鏡がないと新鮮だな、焦点が合わないせいで不安そうに見える。怖がってるのか?」
 顔のパーツひとつひとつをいじくりまわし品評する。
 顔中這い回る感触を鬱陶しがって逃れ、ぱらつく前髪のむこうでとびきり下劣に笑う。
 「……は、さわんな、短小が伝染る」
 この人の減らず口は病気だ。案の定、兄さんの手が離れていく。
 何をするつもりだ?
 笑みを含んだ口元に注意し思惑を読もうと試みるも不可能だ、電気を消した部屋の暗さに紛れて表情が判然とせず不安が募る。
 兄さんが動く。シーツに放り出されたペーパーウェイトを拾う。
 「!」
 先輩が示した反応は劇的だ。僕もつられそうになった。
 窄まりを抜き差しほぐしていた指が止まり、時間が凍りつく。
 悪戯っぽく含み笑い、一度手に取ったペーパーウェイトを投げ落とす。
 波打つシーツの上を跳ねて転がるペーパーウェイトを目で追う。
 「フェイントだ」
 組み敷いた体が弛緩し、同時に止めていた息を吐き出す。
 安堵の念は次の瞬間かき消された。
 悪魔的な笑みは崩さぬまま、ポケットから取り出したハンカチを一本に縒りあわせて紐を作る。
 「何の真似………」
 「ドライでいけるんだろう」
 何を企んでるのかわかった。
 慄然と目を剥く先輩、あとじさろうとしたその体を押さえつけ根元をきつく縛りつける。
 執拗な前立腺刺激によって意志を裏切り勃ち始めたペニスを束縛され、人体で一番敏感な肉に紐が食い込む耐え難い激痛に仰け反る。
 「ーーーーーーー!?痛っああああ!」
 尖った喉仏が目に焼きつく。
 「兄さん」
 「前を縛るとよく締まるだろう?」
 まだるっこしいから手助けしてやったんだといわんばかりの態度で恩を売る。
 殺意に煮え立つ頭と反比例して心が冷える。
 「あ………あっ、……きつ、つぅ……」
 ほどこう。今すぐに。助けるんだ。
 根元を戒められたせいで達したくても達せない生殺しの苦しみに苛まれ悶絶、切れの長い目尻が朱に燃え立つ。
 後孔に挿入したのとは反対の手を前に回し、ハンカチを解きかけてためらう。
 兄さんが黙って見ている。
 「………………」
 鈴口に上澄みを湛えひくつくペニスに血管が浮かぶ。ハンカチに這わせた手をどかしシーツを掴む。
 前が苦しい。限界だ。早く挿れたい。
 僕は身勝手な人間だ。
 なにをいまさらとっくの昔にわかってた、イきたくてもイけなくて苦しみもがくこの人の姿にたまらなく欲情している、啜り泣いて苦痛を訴えるほどに欲望が疼いて昂ぶる、仕方ない言い訳はしないそういう性癖なのだ、久しぶりに触れる先輩の久住宏澄の体、やみつきになる感度のよさ、もっと深く強く味わいたい感じたいこの人のすべてを奪い尽くし貪り尽くし僕のものにしたい……

 『どうした、早く来いよ』
 記憶の中、しかめっつらで振り返る先輩に一息ついて応じる。

 「行きますよ、久住さん」
 じれた手つきでベルトを操作、前を寛げて下着をずらす。 
 既に硬度をもって勃ち上がり始めていたペニスが勢い良く飛び出す。
 後孔から乱暴に指を引き抜く。
 「ひっ……」
 粘着の糸引く指を抜くと同時に下肢が痙攣、男を受け入れる準備を整えた窄まりに自らをあてがう。
 精一杯首を捻って振り返る先輩、僕を仰ぐ顔に焦りと怯えと憎悪、僕がそんなことをするなんて信じられないとまだひたむきに愚直に信じ込もうとしてる顔がどす黒いうねりを招く。
 「やめろ千里マジやめろ、正気かお前正気じゃねえよ、水槽にドたま突っ込んで鼻と口からグッピー噴いてこい!」
 「ここまで来て命乞いですか?自分のかっこ見てから言ってくださいよ、すっかり準備万端じゃないですか。なに前縛られて興奮してるんですか、いやらしい」
 「興奮なんかしてねぇ……」
 「嘘つき。びんびんに勃起してるじゃないですか。きつく縛られてるくせに前から汚い汁だらだらたらして、痛くされるのがいいならそう言ってください。後ろだってぐちゃぐちゃにほぐれて、早く僕が欲しいってぱくついてますよ」
 襞をなぞりつついちいち説明してやれば耳の後ろまで真っ赤に染まる。
 「あなたが欲しがってたものがとうとう入るんですよ、嬉しいでしょ、ケツ振って悦んでくださいよ」
 耳元で卑語を並べ立てる。
 細腰から引き締まった臀部にかけていやらしく手を這わせ双丘をなでさすり、窄まりにぐりぐり指を立てる。
 うなじを甘噛みしつつ吐息を吹きかけ、熱と質量を伴う剛直でもってひくつく窄まりを押し広げ入り口付近で浅く円を描けば、ずり上がりつつある尻に大臀筋が浮かぶ。
 「ふあっ……や、ぅあ……は……」
 汗ばむ背中に密着、ゆっくりと体重をかけ前傾していく。
 「ーーーーーーーー!?ああああああああっ、」
 まだ先端を挿入しただけだというのに反応は凄い。軽く達してしまったんじゃないか。
 毛穴から一気に汗が噴き出す。膝裏ががくがく震える。
 シーツに埋めた顔は見えないがこちらに晒した首筋にまでぷつぷつ針でつついたように大粒の汗が浮かぶ。
 締めつけがきつい。後背位で抱くのは初めてじゃない。この人はいつだって後ろから抱かれるのをいやがった。
 後背位を拒む理由は漠然と察しがつく。抱かれてるのではなく犯されてる現実をいっそう印象づけるから、相手の顔が見えなくて不安だから、単純に犬みたいな体勢が屈辱を煽るから……
 だけど後ろから抱かれるといっそう感じやすくなるのも事実だ。
 「聞かせてくださいよ、いやらしく濡れた喘ぎ声」
 回想の声じゃない、記憶の声じゃない、生身の声帯が紡ぐ現実の声を。
 あなたを抱いてるのが現実だと、夢じゃないと思い知らせてほしい。
 「ぐちゃぐちゃ……音、聞こえますか。尻をかき混ぜられて前立腺でびんびんに感じまくってる」
 「言うな、ぅあ、ひあ」
 「ぎっちり咥えこんではなさない。前立腺にこりこり当たってるのわかるでしょ、ほら……また跳ねた」
 耳朶を甘噛みし舌でねぶりしょっぱい汗を啜る。後ろから夢中で攻め立てる。
 腰を掴んで引き立てぐちゃりと局部を密着させ性急な抽送を行う。
 「あっ、あっ、あ」
 「口は貰うぞ」
 前髪を掴み口をこじ開けそこに自身をねじこみ兄さんが笑う、哄笑が響く、前と後ろ同時に攻め立てる。
 汗みずくの背中を抱く。
 「―ほどけ、―っきつ、前……あっ」
 感じまくってわけがわからなくなってる呆け顔、ペニスがひくひくと生き物の如く頭をもたげていく、しとどに先走りを吸ったハンカチは濡れそぼって変色し塞き止められた前には毛細血管が走る、こんな状態で犯されるのは死ぬほど苦しいだろう、ぼくもされたことがあるからわかる、縛られた腕を動かし無意識に前を解き放とうとするも不可能ゆえ浅ましく腰を揺すってシーツに擦りつけ擬似的な絶頂に達しようとする。
 皺くちゃに波打つシーツに前を擦りつけ、そのつど全身を襲う断続的な痙攣をやりすごし、汗と涎とでぐちゃぐちゃになった酷い顔に泣いてるとも怒ってるともつかぬ悲痛な表情を浮かべる。
 「ちさと、はなせ、―っ、ちがう、こんな、望んでねえ」
 「口が留守になってるぞ、だめじゃないか」
 「………んな、……最低だ……眼鏡、壊されるし、お前は馬鹿だし………」
 喘ぎ声が湿り気を帯び、兄さんに前髪を掴まれたまま、気力が折れて俯く。
 「一番の馬鹿は、俺……」
 
 違います。
 一番の馬鹿は僕です。千里万里です。

 あなたが気に病む必要なんて世界中どこさがしたってない、あなたはどこまでも誠実で実直で優しくてまっすぐな人だ、あなたに責められるべき非なんてあるはずないじゃないか。
 僕の位置から顔は見えない。
 力なく項垂れたうなじが見えるだけ。
 ただ、か細く、声だけが聞こえる。
 「俺もお前も馬鹿だ……」
 油断した。
 その声があんまりにも切羽詰っていたから。
 僕が知る彼らしくもない絶望に支配されていたから。
 思い出す忌まわしい光景、ホテルの部屋去り際目撃したベッドに仰向けた彼の姿、僕へと一途に手をさしのべる姿―……
 『俺は、なんなんだよっ!!!』
 悲痛な形相。
 『お前のこと、ただの後輩じゃなくて……少し、面白いヤツだって、思い始めてたのに……』
 どうやったら許される?許してもらえる?
 事の発端から間違ってた最初から間違ってた卑怯な手を使って人の心を縛りつけようとした僕への罰だ、あなたに少し面白いヤツだと思ってもらえるだけで十分だった、それ以上を望んだから罰が当たった、ただの先輩後輩でよかった、恋人になれなくても抱き合えなくてもあなたが気紛れに微笑んでくれるだけで足の遅い僕を待ってくれるだけで満足していた頃に戻りたい
 「…………っ」

 どうして今揺れる?

 この人を諦めさせるには徹底して抱き潰すしかない。
 僕はもう完全に変わってしまったんだと、あなたが未練を残す千里バンリは兄の傀儡として第二の人生を生きる別人になってしまったんだと骨髄に叩き込んでわからせるしかないのだ。なのに抱きながら心が揺れ後悔が襲う、あの時とれなかった手をとりたいと願う。
 抑圧した感情が心臓を焼き焦がす。
 揺さぶられるがまま淫らな声を上げる先輩、意識が飛んでる、汗で湿った髪が額を覆って虚ろな目を隠す、閉じるのを忘れた口へと生臭い肉の塊をねじこむ兄さん、顎が馬鹿になるまでフェラチオをさせるつもりか……

 どうして僕はここにいるんだ?
 どうして兄さんの言うなりに?

 「……はっ、くっ……」
 骨の尖りが目立つ腰に縋りついて深く穿つ。
 体内の熱に巻かれながら初めての出会いを恋愛感情を抱くきっかけとなった出来事を思い出す。
 新人歓迎会が行われた居酒屋のトイレで酔い潰れた僕を介抱してくれた、態度はぶっきらぼうで口は悪くだけど親切に面倒を見てくれた。
 眼鏡を掛けたきつい顔が少しだけ心配そうに、便器にしがみついてえづく僕をのぞきこむ。
 『さき行ってるから。無理して来なくていいぞ』
 引き際を見極めろ?
 『……みんな待ってるから早く来いじゃないんですね』 
 そう皮肉っぽく返した僕に、なんていった。
 『当たり前だろ?無理して来られちゃこっちが困る、後始末する身になれ』

 おい千里バンリ。
 お前はいつまで手のかかる後輩でいる気だ。
 久住宏澄に後始末させる気だ。

 「こいつを飼おうバンリ」
 
 つられて正面を向く。
 彼の顔を手挟んでペニスを吸わせつつ、兄さんがすっかりご満悦のていで言う。
 「むかしうちで飼ってた犬と仲良しだったろ。今度はこいつを可愛がろう」
 「何………」
 呆然とする。
 頭ごと抱きこんでフェラチオをさせながら、余った手でペニスをいじくり倒し意地悪く気をそらせ、兄さんがいっそ無邪気に続ける。
 「マンションの部屋に閉じ込めて排泄と射精の管理をする。首輪をつけて、ベッドにつないで、好きなときに好きなように可愛がる。上手に芸ができたらご褒美をやろう、悪さをしたらエサ抜きで鞭打とう、会社も辞めさせて残り一生俺たちの性欲処理の相手をさせよう」
 「!?痛っ、」
 髪を掴んで乱暴に引き上げる。
 仰け反るほどに上を向かせ、激痛に歪むその顔を間近で覗きこみ、嗜虐の悦びに蕩けきった笑顔で身の毛もよだつ妄想をまくしたてる。
 「お前だって嬉しいだろう、クズミ。もう足が棒になるまで外回りをせずにすむ、靴と指紋がすりへるほど働いてくたくたにならずにすむ、俺たちと遊ぶだけでエサがもらえるんだ。会社なんか行く必要ないだろう、残り一生養ってやる。気持ちいいことだけしてればいいんだ、たまに痛くするけどそれも余興だ、それにお前痛いのは好きだろ?」
 「好きじゃね……あぅぐ」
 鈴口をかりかりほじる。
 露だくの先走りでぬめる竿を上下にしごき亀頭の括れをつまみ裏筋をゆるゆるとなで上げれば、限界まで張り詰めた前をいじくられるもどかしさに前髪に見え隠れする顔がみるみる紅潮していく。
 「あっー……かはっ、ふあ、や……ああっ……」
 痩せた腹筋が引き攣る。内腿がひくひくとのたうつ。
 後ろ手に縛られフェラチオを強制される姿はとてつもなく倒錯し劣情をそそる。眼鏡を取り払った素顔は無防備の一語に尽き、レンズ越しに怜悧な印象を与えるきつい切れ長の目が淫蕩な熱に濁って朦朧とさまよう。
 正気を失う一歩手前まで追い詰められそれでも意地で縋りつこうとする彼を目の当たりにして心臓のリズムが狂う。
 昔飼っていた犬の事を思い出す。
 「血統書つきじゃないからと差別はしない、雑種のほうがしぶとく図太く長生きするし反抗的でしつけがいがある」
 昔飼っていた犬の事を思い出す。
 「俺がいないあいだは退屈しないようバイブやディルドを突っ込んでやる、帰ってきたらたくさん遊んでやる。散歩はさせられないが、集いに連れてってやる」
 「つどい……?」
 「犬好きの集いだ。同じ趣味のヤツらが集まって犬を自慢するんだ。どの犬が一番優れてるか、フェラが上手いか、後ろの具合がいいか、ハーネスつけてお預けに耐えられるか……乱交させて遊んだっていい」
 犬は死んだ。
 僕が看取った。
 兄さんに初めてフェラチオを教えられた夜に。
 「俺の犬になれクズミ」
 兄さんがあの人の顔を抱く。
 フェラチオのさせすぎで切れた唇の端にあざやかに血が滲む。
 その血を舌でさも美味そうに舐めとって、顔にへばりつく髪を梳いてかき上げ、ヨハネの生首に接吻を与えるサロメさながら退廃した気怠さ漂う優婉な動作ですっかり虚脱しきったあの人にくちづける。
 すっきりした首筋と鎖骨のラインが際立つ陰影のつく角度で唇が重なり合う。
 「……やめろ」

 『あいつにさからえないお前にも反吐が出る』
 自分のためなら逆らえなかった。
 『……お前がそんなんなら、もういい』
 よくないだろうちっとも。

 唇を奪う。抵抗がないと知るやさらに深く大胆に濃厚に執拗に口を塞ぐ、舌を絡めとり唾液を捏ね口腔を暴く『お前ら兄弟普通じゃねえよ』わかってた、とっくに『成人して家出てんなら兄貴になに命令されようが従う義理ねえよ、なんか兄貴に逆らえないわけがあるのか』正論だ、わかってた、逆らえなかったのは怖かったからだ、僕の反逆によってまわりに迷惑をかけるのが怖かった、腹違いの兄弟で姦通した真相を暴露し兄の性癖を暴露し哀しむ義母さんや義父さんを見るのがいやだった

 だけどそんなものはもうどうでもいい
 
 過去と現在が錯綜『一服盛ったな』居酒屋のトイレで背中をさすり介抱してくれた先輩の顔に浮かぶ苦笑『無理すんな』力づくで強姦した時それでも負けじと睨みつけてきた『最低だな』去り行く僕に必死に手を伸ばした『お前のこと、ただの後輩じゃなくて……少し、面白いヤツだって、思い始めてたのに……』ドア越しに漏れ聞こえてきた弱々しい嗚咽と喘ぎ声、ちさとちさとと泣き潰れ喘ぎ疲れた声で途切れ途切れ繰り返す『腰抜け』なるほど僕は腰抜けだった『しっかりしろよ』『早く来い、おいてくぞ』どうしてあの人を見捨てて立ち去れたんだ『いくなもどれちさと』どうして今の今まで自分が犯した罪の重さに耐え抜けたんだ『中途半端はどっちだ』あの時さんざん自殺したくなるほど後悔したくせにまた懲りずにおなじ過ちをくりかえすのか千里バンリ

 『ばあか、早く来い』
 あの人はいつだって呆れ顔で追いつくまで待っててくれたのに、僕は一番苦しんでる時にたった一人置き去りにした
 
 『いいか耳の穴かっぽじってよく聞け千里万里、たった一度っきりのお前の人生食い潰してるのは分岐ごとの選択間違いじゃねえ、すっかりてめえの人生を舵取り横取りしていい気になってるクソブラコン兄貴だろうが!!』

 お前は腰抜けか

 『……っ、くそ……一番可愛い後輩だ……』

 僕をまだ後輩と思ってくれるんですか。
 会社を辞めても、職場に帰れなくても、互いを取り巻く環境がすべてが変わってしまっても、まだあなたの後輩でいていいんですか。 
 あなたの後輩を名乗る自分にこれだけは譲れない誇りを持っていいんですか?
 今から全力で走って戻って間に合うなら、憧れ続けた背中に追いつけるなら


 「ヒロズミは俺のものだ」
  
  
 
  
 切れた。




 手が出た。




 極限まで張り詰め引き絞られた何かがその一言が引き金で切れた、衝動が炸裂し爆発し無言でおもいっきり利き腕を振りぬいた、兄さんが愕然とする、その横っ面めがけて渾身の一撃を見舞う。
 人を殴るなんて生まれて初めてで加減も何もあったもんじゃない、擦り剥いた手の甲がひりひりする、だけどそんなことはどうでもいい、勢い余ってベッドから転落しサイドテーブルを巻き込んで倒れた兄さんもどうでもいい、肝心なのは

 「名前で呼ぶな」

 なんてつまらない怒り。
 十数年耐えに耐え抜いた怒りが炸裂するきっかけがこんなつまらない嫉妬だなんて、いっそ笑ってしまう。 
 ずっとずっと下の名前で呼びたかった、タイミングがわからずぐずぐずしてるあいだに離れ離れになってもう二度と叶わないだろうと諦めていたのに先を越された。
 

 「バンリ……?」
 顔を覆う手の隙間から粘度の高い鼻血が零れる。
 引き続き愕然とした表情。僕が暴力をふるうところなんて想像できなかったのだろう、否、たとえ想像できたとしてもまさかいつも支配する側だった自分が下克上されるなんて予期しなかったのだろう。
 「勘違いするな。あなたにこの人を呼び捨てにする資格はない」
 もんどりうって床に転げ落ちた兄をにらみつけ、シーツを毟り取り、息を殺してそこにいるのだろう彼の方へと投げる。

 さあ言え。
 言ってしまえ。
 勘違い野郎にわからせてやれ、格の違いを。
 「久住宏澄はあなたの飼い犬になりさがるような安っぽい人間じゃない」
 シーツを巻いた先輩を背に庇うように前進し、鼻血を拭いて忌々しげに立ち上がろうとする兄へ向かい、大きく深呼吸する。
 先輩にはもう指一本触れさせないと屹然たる決意をこめ
 「この人は僕の、世界で一番かっこいい先輩だ」

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リーマン×リーマン | コメント(-) | 20010419225102 | 編集
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