ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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凡夫危うきに近寄り、喰われる10

 「お望みどおりバンリと挟んで嬲ってやる」
 「……頭が煮えてやがんな、バカ兄貴」
 放り出されたベッドで一回弾み、反動を使って跳ね起きる。
 「しばらく会わねえ間に少しはマシになったかと期待したが思い過ごしだったか。早いとこ医者行って変態性癖矯正してもらえよ、手遅れになるまえに……ああ悪い、とっくに手遅れか」
 「手遅れはお前だろう、すっかり男なしじゃいられない淫乱になってしまって嬉しいよ」
 こいつは脳が沸いている。
 「今日はどうした、バンリが恋しくなって訪ねてきたのか?見合いと被るなんてタイミングが悪いな、大人しく出直せばよかったものを……」 
 「そうするよ。そこをどけ」
 「いやだね」
 床に這い蹲りすっぽ抜けた靴を必死にさがす、どこだくそ見当たらねえ眼鏡がねえと不便だ、千里のヤツめ余計なことを……
 「くそ、靴、靴どこだ?」
 靴がなけりゃ帰れない。
 いやいざとなったら裸足で逃げ出す手もありか?待てよここから吉祥寺まで何十キロあると思ってる、距離が遠すぎだ、道端でタクシー捕まえて飛んで帰るにしても裸足じゃ不審者扱いで怪しまれる。普通のシャツと背広でまるきり仕事帰りのサラリーマンといった風情の男が靴下汚して突っ立ってる姿は滑稽の度をこして悲惨を来たす。
 影の方位が変わる。手をさしのべた床に不自然に伸びた影が射し、条件反射でびくつく。
 「俺が留守にした間にバンリと逢引か?なめられたものだな、間男を許したおぼえはないぞ」
 千里をすっかり所有物扱いした発言にいらつき、見えない目で負けじと睨みつける。
 「後輩に会うのにいちいち兄貴のお許し得なきゃいけないのか?」
 「元をつけろ」
 「勘違いするなよ、千里は物じゃない、お前のペットでも奴隷でもない。俺は会いたいときにこいつに会いに来る、ブラコン兄貴がへそを曲げようがどうしようが知ったことか、俺はまだこいつと蹴りがついてない!」
 正面に立つ有里は無視し、その向こう、廊下に立ち尽くす千里に向かい吠え立てる。
 「あんな未練たらたらのツラしてたくせに嘘つくなよ、平気なふりすんな、全然平気じゃねえだろお前、ホントは帰りたいくせに!元いた職場が恋しいくせに意地張るな、永遠に待てされた犬みてえな情けねえツラ晒すなよ鬱陶しい、今の自分がどんだけしょぼくれたツラしてんのかわかんないのかよ!」
 どうして他人のことにこんな真剣になってんだ俺。自分の必死ぶりが不可解だ。
 後輩だから?
 同僚だから?
 先輩として使命感に燃えて責任感に突き動かされてお人よしが災いしてほっとけなくて、そのどれも少しずつ正しくて違う、確かに間違っちゃないけど上っ面の言い逃れだ。
 邪魔な有里をどかし手探りで漏れてくる光の方を目指し這い進む。
 千里は沈黙を守る。
 そこにいるのにそこにいないようなもどかしさに遣り切れなさが募る。
 有里が隣にいるとこいつは萎縮し本心を隠す傾向に流れる。
 さっき唇が触れた手首が疼いて余熱を訴える。
 手錠をかけられたように白い傷痕が浮き立つ。
 有里の後ろに隠れた影の口元から漏れたのは、無慈悲に冷めた突き放す声。
 「どうせもう無理でしょう会社に戻るのは。ついさっき自分の言ったこと忘れたんですか、引導渡しにきたくせに」
 「そんなつもりじゃねえよ、話し合いに」
 俺が口にした釈明を遮り、仮面の下から抑圧した感情を迸らせる。
 「どうせ姉さんに拉致されなきゃ会う気もなかったくせに今さら口当たりいいことばっか言って先輩らしいふりしたって遅いんですよ。あなたが言ったんですよさっき、もう会社に居場所はないって、戻れないって。あんな辞め方したんだから当たり前だ、僕だって一応社会人だ、電話一本で一方的に辞めると告げてそれっきり……元に戻れるはずないってわかってる」
 声はいっそ平坦だった。子供の頃から願望や欲求を殺し支配に甘んじてきた人間の声だった。
 色んなものを諦め切り捨ててきた、絶望を諦観で洗い流した静謐な目。
 「僕をどうしたいんだ、久住さん」
 「は?」
 「どうして僕の選択にケチをつけるんだ。僕の人生をぶち壊して楽しいですか」
 それはこっちの台詞だ。
 お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃだ。
 咄嗟に言い返せたらよかったが、舌が萎縮して声がでない。
 「立場を弁えさせなきゃいけないみたいですね」
 千里が部屋に入ってくる。
 進むごと輪郭が闇と溶け合い掴み所をなくす。
 「久住宏澄」
 拷問執行人の靴音が響く中、厳粛に本名を呼ばれたじろぐ。
 「あなたに僕を縛りつける権利はない。縛りつけるのは僕だ」
 目視できない顔が不安を煽る。
 喜怒哀楽、今どの表情を浮かべてるのか想像つかない。
 見慣れたはずの後輩が顔を上手く思い描けない、記憶の中の人懐こい笑顔が目の前の男と重ならずドッペルゲンガーじゃないかと馬鹿げた錯覚を来たす。
 千里の体を乗っ取って動いてる別の何か。
 虚ろな入れ物。
 有里が言った危険な罠という言葉の意味がにわかに迫真性を帯びて圧し掛かる。
 「手伝おうかバンリ」
 「下がって見ててください」
 「ふたりで挟んで嬲るのも楽しくないか」
 「正直捨て難い案ではありますが指名されたのは僕です。なら僕が相手をするのが筋でしょう」
 有里が肩を竦め脇に退く。おそらく笑ってるんだろう、口角のいやらしい吊りあがり具合で察しがつく。
 「待て千里、俺は違う」
 今となっては虚しいばかりの反論は抑止力の務めも果たさず一蹴される。
 「俺は……確かにマンションにきたけど、トイレでは媚びて勘違いさせるようなまねをした、だけど違うってホントはわかってんだろ?俺のキャラじゃねーよあんなの、気色わりぃ、笑っちまう。お前だってわかってたはずだ、何ヶ月一緒にいたんだよ……」
 ただ話したかったんだお前と
 「二人きりになりたいと望んだのはあなただ」
 「~だから嘘も方便ってヤツで!!」
 「自分からキスをした。自分から手をさしのべて抱きついてきた。以前の堅物で潔癖な久住さんからは考えられませんね」
 調教の成果を誇り駆け引きの勝算をひけらかすスカした口調。
 俺の腕を無造作に掴んでベッドに放る。 
 背中でマットレスが弾む。
 背景の闇よりなお黒々と濃い影が圧し掛かり視界を覆う。
 「堕落しちゃいましたね」
 「ふりだよ、嘘だ。ああでもしなきゃまともに話をできる状況じゃなかった、トイレでさかっておっぱじめるなんてお断りだぞ」
 「下手な誘惑でした。全然色気がなくてそそられない。あんなのキスじゃない、おためごかしに唇をおしつけてるだけです」
 「……譲歩できる限界……」
 「また自分だけ悪くないふりですか?どこまで卑劣になれば気がすむんですか?そんなに共犯になりさがるのはいやですか」
 まるで感じた時点で同罪だと断罪するように。
 「忘れてしまったんならもう一度思い出せてあげます、本当のキスを。あなたを仕込んだ僕のやりかたを」
 「!やめ、っぐ」
 抵抗した。しようとした。できなかった。
 「はなせ、よせ、有里が」
 性急に舌に吸いつかれる。
 唇をこじ開けてもぐりこむ舌が口腔の粘膜を暴く、ばたつく俺をおさえつける、両腕を掴んで縫いとめ舌を絡める。見た目は華奢なくせに意外と腕力がある、合気道有段者のせいか間接の極め方は心得たものであっというまに組み伏せられ抵抗を封じられる。有里の視線を感じ恥辱で体が火照る、決死の覚悟と渾身の力でがっつく千里をひっぺがそうとするも密着しすぎて物理的に不可能だ、口の中で舌がめちゃくちゃする、俺の唾液を一滴残らず搾取しようとする、口の中が酷く敏感になっているのがわかった、まずい兆候だと自覚しながら唾液の分泌量まで制御できるわけはなくて普段外気に晒さず触れることもない粘膜を舌で軟くほぐされるたび未知の快感が疼く、くっつきあった唇からしとどに唾液が伝って仰け反る首筋にかけて濡れそぼつ。
 「はっ、―っぐ、くるし」
 「思い出してくださいよ、久住さん。あなたの本気はこんなものじゃなかったでしょう。ふたりで待ち合わせて行ったビジネスホテルの殺風景な部屋、僕に押し倒されて無理矢理唇を奪われて最初は抵抗してたくせに……」
 「言うな、有里がいるだろ!」
 脳裏に閃く断片的な映像、海馬が記憶を喚起。
 会社が終わり次第待ち合わせして連れ込まれたビジネスホテルの簡素な部屋、二人で寝るには手狭なベッド。
 振り落とされないよう必死に掴まり転げ落ちないよう寝返り打って頭を守った、あの時も千里は積極的に俺の唇を奪い貪った、俺の上におっかぶさって手を押さえつけて好き放題に蹂躙した。
 「口の中をぐちゃぐちゃのどろどろにされて気分を出してたのはどっちですか」
 「色気なんか出してたまるか、苦しかったんだよ息吸えなくてお前がむちゃくちゃすっから、興奮してるわけあるか……」
 「だけど応えてくれた」
 そう、だ。
 「ぎこちなく、不器用に、必死に……負けず嫌いに。下克上されるのがいやでなりふりかまわず絡めにきたくせに」
 俺は結局のところこいつに勝てない。
 口の中を蹂躙する舌の動きひとつひとつに翻弄される、技巧を凝らした愛撫で軟くほぐされぐちゃぐちゃにとろかされ次第にわけがわからなくなってくる、頭に靄がかかって理性を手放さずにはいられない段階まで追い込まれて初めて千里を求めた、早く苦痛な時間が終わってくれ、おもいっきり息を吸いたい、その為に何をどうしたらいいかわかってる。
 プライドも意地も恥も外聞もかなぐり捨て今俺の上に乗っかってる男に服従するんだ、こいつにねだるんだ、夢中で。
 「……うち帰りたくて、ああしなきゃ納得しねえだろお前、俺はいやだったんだいつだって……」
 唇が透明に濡れ光る唾液の糸引き離れ今度は首筋を辿っていく。
 「うちに帰りたいとか子供みたいな駄々こねて興醒めさせないでください」
 「どかねーとぶん殴るぞ!」
 違うんだ、そうじゃない、こんなのおかしい間違ってる、俺はこいつと話し合いたくてわざわざマンションにやってきたんだ、なのにそれがどうしてこうなるどこでどう間違えた……千代橋の面影が脳裏を過ぎる、連絡ひとついれず心配してるかもしれない。
 掠れた声を振り絞って拒絶するも千里は落ち着き払い、背広を脱がしにかかる。
 「!ちっ、てめ」
 携帯の入った背広ごと床に投げ捨てられる。
 千代橋からメールが来てるか確かめようとしたそばから連絡手段を失った。
 咄嗟に片膝立てベッドから飛び降りようとして引き戻される、俺の腕を頭上でひとつに束ね上げる。
 「携帯返せ!あん中には取引先の番号とか入ってんだぞ、床にぶつかったショックで馬鹿になったらどうする、弁償させっからな!」
 携帯はサラリーマンの必須アイテム、営業の生命線だ。
 俺にとっては千代橋との繋がり以上の意味を持つ。
 「こんな時まで仕事の心配か……あなたらしいな」
 前髪に隠れがちな顔で苦笑し、俺の腕にぎりぎり力を込める。
 「痛ッて……」
 「大人しくしてくれないとまた縛るはめになります」
 「―っ、ほざけ……好きなくせに」
 初めての時もそうだった、俺のネクタイで両手を縛ってことに及んだ。
 物理的な意味と精神的な意味、二重の束縛。
 「縛らねーと安心して犯せないんだろ……腰抜け」
 千里が冷たく目を細める。
 汗で濡れた前髪で目元を隠し、暗い汚泥を孕んだ声音で吐き捨てる。
 「セックスのやりかたまで兄貴に縛られちまって可哀想に」
 「憐れんでくれるんですか、僕を」
 「……お望みならな」
 「半裸で意地張ったって説得力ありませんよ」
 俺の腕を頭上に吊ったまま、鼻の先端が触れ合う距離にまで近付いて囁く。
 「今の自分がどういう状態だかわかります?ああ忘れてた、眼鏡がなきゃ見えませんよね。教えてあげます」
 「よせ……」
 息も絶え絶え弱弱しい抗議を無視、空いた手でシャツの襟元をさばき前身頃をはだけて胸板の広範囲を晒す。
 「シャツの前をしどけなく開いて、色の白く貧相な胸板をしきりに喘がせて。首筋と鎖骨にさっき僕がつけたキスマーク……やっぱり色が白いと目立っちゃいますね。鎖骨の窪みが汗でべとべとだ。乳首は……勃ってますね。口の中ぐちゃぐちゃかきまわされただけでこのザマですか?石榴の実みたいに熟れきって痛そうだ」
 「しまえよ、殺すぞ……」
 ありったけの殺意をこめ、低く凄む。
 視姦の熱を持て余して体がじれったく疼く。
 「体温が上がった……肌が赤くなった。ベルト緩めましょうか?きついでしょ」
 片手だけで器用にベルトの金具をいじり外していく。
 バックルのかち合う音に生唾を飲む。耳につく衣擦れの音、劣情に掠れた息遣い、右手で俺を吊り上げ左手でベルトを外してズボンを脱がしトランクスの股間をさぐる。
 「この………吊るすぞ……」
 「吊るされた男はあなたの方だ」
 「手錠を使うかバンリ」
 「いえ……」
 傍観する有里の誘いに首を振り、俺のシャツを腕からずりおろすや手首を括る。
 「ざけんな、ほどけ!悪趣味に付き合うのはうんざりだ、兄貴の言うなりになんなよ、どうせ抱くならてめえのやりかたで……」
 「過激なこと言いますね。僕のやりかたで抱いたらそれこそ壊れちゃいますよ?」

 今なんつった。
 こいつのやりかたなら抱かれてもいいって?

 「……………は」
 意味を取り違えるな。今のは何かの間違いだ。
 表情筋が微痙攣、口角が左右非対称に吊りあがって絶望の笑みを形作る。
 どうしちまったんだよ俺は。
 有里がいるのに見てるのに千里に抱かれてもいいって、千里がびくびく有里の機嫌をとらず自分の流儀で抱くならいいって?違う、セックスが目的で来たんじゃない。なのになんで俺を裏切る俺の舌、千里に会えりゃそれでそれだけでいいって殊勝な気持ちはどこへやった、心配してるのは本当だずっとっと心配してきた後輩なんだから当たり前だ
 「!ぅあ、や、ふ」
 びくりとする。
 トランクスの中央におかれた手が卑猥にもぞつき不可抗力で内股になる。
 「変、なとこに手えおくな、変態……早くズボン上げろ、しまえ」
 有里が見てる。
 しかし千里は第三者にして傍観者の存在など一切お構いなしに円を描くように股間を揉む、トランクスの薄い生地越しに手の熱と感触が伝わって下半身が甘く疼く、海綿体に血が集まって膨張していく。
 「千里てめえ調子のんな、さっきまでへこたれてたくせにありゃ嘘か、俺の下で泣きっ面かいてたろ!油断させる芝居かありゃ、まんまとだまされたわけか俺は」
 「そうですよ、あなたは騙されたんです。つけこまれやすい性格を呪ってください」
 どうしてわからないのかなと小首を傾げひとりごちる。
 「僕が今まであなたにしてきた仕打ち忘れたんですか」
 「忘れるか……」
 「だったらわかるでしょう、千里万里という人間の本性が」
 とんでもない腹黒でサディスト、猫かぶりの優等生。
 一服盛って縛って犯して、強姦現場を撮った写メをネタにして脅迫し続けた男。 
 「単純な人だ。少し伏せ目がちにして気弱なふりをすればもうそれだけで突き放せなくなるんだ、あなたは」
 先輩だから。
 伏せられた言葉が胸に刺さる。
 千里の手がゆるやかに這い上がってくる。
 必死に身を捩り逃げようとするも無駄な努力、シャツで縛られた両手をしきりと擦り合わせ緩めようと画策する、ばらけた前髪の先端から脂汗が流れ込んで視界の軸が二重三重にブレる。
 「ほどけ千里」
 有里がいるじゃねえか。
 人前でヤる趣味はねえ。
 「俺には梓が……」
 口をついた名前に千里が豹変する。
 「!!―ひっあ、ぃ」
 トランクス越しにがりっと爪を立てられ駆け抜ける激痛に背中が撓う。
 「大切な彼女がいるのにどうして来たんですか?上手くいってるんでしょう、何も不満はないんでしょう。彼女は優しくて芯が強くしてしっかりものだ、意地っ張りなくせに脆いあなたを献身的に支えてくれる理想の女性だ、あなたも好感を持っている。彼女となら幸せな家庭を築ける。あなたは元はノンケだった、普通に女性を好きになって抱ける人種だ、僕が余計な事をしなければ……」
 余計な事。
 「僕さえ……」

 謝罪なんかいらない。
 後悔なんかもっといらねえ。

 「ヤっちまったもんをぐだぐだ言ったってしょうがねえだろ……」
 一番怒ってるのは俺のはず。
 ならどうして
 「………俺もお前も……なにもなかった頃には戻れないんだから……」
 ねじれてこじれてすれ違う。

 何を言いたい?
 何を言おうとしてる?

 かけるべき言葉を手探りで模索する、なじりにきたんでも責めにきたんでもない、俺は有里のもとで抑圧されるこいつを見るのが耐え難い、なんとか助けてやりたい引っ張り上げてやりたいって思った、思い上がりだとか余計なお世話だとかありがた迷惑だとか百も承知だよ畜生
 「……どっから間違ってるっていうんだよ」
 「……?」
 「会社に入った事か?同じ部署に配属された事か?俺と出会った時点からか?どこまで遡って選択にバツつけりゃ気がすむんだ、違うだろ……」
 不自由で苦しい体勢から許される限り上体を乗り出し、怒号を振り絞る。
 「いいか耳の穴かっぽじってよく聞け千里万里、たった一度っきりのお前の人生食い潰してるのは分岐ごとの選択間違いじゃねえ、すっかりてめえの人生を舵取り横取りしていい気になってるクソブラコン兄貴だろうが!!」

 手が止まる。
 千里の表情が吹き飛ぶ。

 「……兄貴とヤッてるなんて異常だと思うよ……」
 嫌悪と嫉妬が綯い交ぜとなった炎が燃え上がり理性が蒸発、感情が昂ぶり目に生理的な涙が滲む。
 一回きつく目をつむり涙が失せるのを待つ。
 「けど……俺が知ってるお前は、千里万里は……」
 ずっとずっとこいつが大嫌いだった、うざくて鬱陶しくて早く消えてほしかった。
 要領よくて人気者でやることなすこと癇に障る後輩、俺とは正反対の人に好かれる性格、男女問わず愛される職場のムードメイカー、俺の羨望と嫉妬と苛立ちをかきたてずにはおかない存在。
 だけど一方で、俺しか知らないこいつの素顔がある。

 「俺が風邪で寝込んだら見舞いにきて……残業手伝って……ヤることヤったら急に優しくなって、ぐったりした体を気遣って……」

 こいつを諦めきれないのは足枷がついてるからだ。
 足枷は三連になっている。
 千里の枷は有里と繋がり、俺の枷は千里に繋がり、逃れられない仕組みになってる。

 「ご褒美めあてで将棋を勉強しはじめるような馬鹿で……」

 ダメだ、口を閉じろ、やめろそれ以上言うな、舌を今すぐ引き抜きたい、どうして止まらないんだ堤防が決壊して洪水があふれだす、正気か久住宏澄今それを言ったら引き返せなくなるぞ、なあいっそ接着剤で口を溶接しちまえ、そしたらこんなこっぱずかしい告白せずにすむ
 さあ今すぐ舌を噛み切れ

 「……っ、くそ……一番可愛い後輩だ……」

 嫌いだったのにいつのまにかほっとけなくなってた。
 懐かれてまんざら悪い気がしなくなってた。
 こいつの為にもうちょっとゆっくり歩いてやってもいいかなと魔が差すくらいには愛着じみたものを抱き始めていたと、いなくなってから気付いた。

 おいてっちまうのも、おいてかれちまうのも、いやだ。
 こいつは一人前になるまで俺の半径1メートル以内にいなきゃいけないんだ。
 
 「ほっとけねえ理由なんてだめなお前がどうしようもなく可愛いからに決まってんだろ……!」

 じゃなきゃだれが追いかけてくるか
 連れ戻そうとするか
 迷惑がられていやがられても助けようとするか

 突き放そうとした
 忘れようとした
 そのたび引き戻された

 こんなの恋じゃねえ
 ましてや愛でもねえ
 同情と名付けるには痛すぎる
 追いつ追われつ傷つけ合ってぼろぼろになっていく

 「………股間膨らませてかっこつけないでくださいよ。笑えます」
 「!ひ、」
 「なんですかこれ。僕にひっかかれただけでこんななっちゃったんですか。痛くされるほど感じる性癖は治ってないんですね」
 トランクスに手がすべりこむ。
 忍耐の意志を裏切り勃ちはじめた前を直接掴んでしごく。
 「先走りでぬるぬるだ。……偉そうに叱りながら下着の中で汁をたらしてたんですか?先輩失格だな。ああ、蒸れてる……ひょっとしてさっきからずっと?いつからかな。車に乗ってるとき、トイレの中……」
 「ちが、」
 「店の中で座ってる時から?隣にいるって気付いた時から?声を聞くだけでイけるんですか」
 トランクスを巻いて下ろす。
 外気に晒された下肢が鳥肌立つ。
 ベッドボードに背中が激突、鈍い衝撃が走る。
 嫌な予感は次の瞬間現実に変わる。
 「お前正気か、なんでだよ、俺は」
 性器が熱く柔らかい粘膜に包まれる。
 「―っあ、あ」
 俺の股間に突っ伏して口を使う。
 「ちさと、馬鹿っ、見てるだろ有里が、正気かよこんな……お前の兄貴だろ!?」
 憤激の上昇に比例し嫌悪感が爆発、最高潮にイラだった声を荒げる。
 ダメだ、ひっぺがせ。こんな姿誰にも見せたくねえ、ベッドに転がされて手も足も出ねえ、千里の口の温度が直接伝わる、両手で俺のものを支え持ち淫猥に唾液を捏ねて頬張る。
 頬が膨張と萎縮を繰り返す。
 すぼめた唇が丁寧に唾液を伸ばし広げていく。
 カリ首の割れ目をくりかえしなぞりほじる舌先。
 亀頭の括れにかけて含んで吸ったかと思えば根元近くまで咥えこむ。
 「―っふ、ふぐ、あ、―っせ、イヤだちさとイヤだ言うこと聞けよ、なんでだよさっきからさんざん言ってんの無視か、ほどけ」 
 「今さら……何度も搾ってあげたでしょ口で。久住さんフェラされるの好きでしょ」
 「好きじゃね……ふあ、―んく」
 腰が上擦る。先端に血が集まっていく。ぐちゃぐちゃ水音を立て貪りつかれぐずぐずんなって溶けていく。
 千里のフェラはおそろしく上手い。
 舌がねちっこく絡みつくつど尿道の掻痒感が焼けつくような快感に変わりつつある。
 「っあ、は、ぅん、ぐ」
 怒鳴ろうとして逆流した唾液にむせる。
 蛇がむずがり飛びだそうとしてるかのように我慢汁を垂れ流すペニスが頭をもたげてひくつく。
 「裏筋を舐め上げると震える。被虐に感じるんだ、あなたの体は」
 千里は俺を喰らう。
 俺の股間に顔を埋めて飢えた犬のように浅ましく舐めまくる、口いっぱいに含んで竿に舌を絡める、喉の奥まで咥え込んで絞りたてる、同じ男だからこそどうすれば一番気持ちよくなれるか知り尽くし実践する。
 「あっ、は、ぅあ……気持ち悪……―っ、抜け!」
 余裕がもたない。いや、最初からない。
 腹筋を矯められず拒否の声が萎む、千里に行為を中断させるのが不可能ならせめて有里を追っ払いてえ、いやだ見るな畜生羞恥心で死ねる、手も足もでねえみっともねえ男のくせに同じ男自分より華奢で優男な後輩一人に好きにされてプライドはボロボロだ、苦痛の色濃く憔悴しきった喘鳴が次第に潤い艶めいていく、シーツを皺くちゃに波打たせ身もがく。
 千里の肩越しに有里と目が合う。
 「出てけ………」
 まじりけなしの憎悪をぶつける。
 「俺だけのけ者にされるのはつまらないぞ」
 「見ててくださいって言ったでしょう兄さん」
 出てってくれ。
 醜態を見られたくないと願う気持ち以上に痴態を見せたくない意地が働く。
 「お前ら兄弟だろ、子供の頃からずっと一緒だったんだろ……」
 「腹違いだけどな。それがどうかしたか?」
 「弟が…………目の前で男にフェラしてんのに、どうかしたかだと……」
 膝で頭を挟み込み抵抗、腹筋の力を使って辛うじて上体を起こし千里の後ろに立つ有里を糾弾する。 
 「兄貴に逆らえない弟も弟を虐げる兄貴もそれが当たり前に容認される関係もぜってえに間違ってる……!!」
 こいつが元凶だ。
 千里の魂をどす黒く蝕む癌細胞だ。 
 「……クズミは常識人だな」
 悠然とした歩幅でベッドボードの方へとまわりこみ、至近距離から覗きこむ。
 長くしなやかな指が戯れるように頬にふれる。
 軽い接触だけで戦慄が貫く。
 「贈り物は気に入ったか」
 「一枚残らず破り捨てたよ、ざまあみろ……」
 「ゴミ捨てのとき見られなかったか」
 「原形わかんねーように木っ端微塵にしたさ……悪趣味め……」
 「記念の品だ。受け取ってもらえて嬉しいよ。正面でフラッシュを焚かれても半ば意識を失って目が虚ろなお前は気付かなかったな、俺に身をまかせっきりで……中に入ったままの状態で。背面座位は結合が深くなる。一番奥のいいところにまで届いたか?」
 脳髄が灼熱に焼ける。
 「おっと」
 上下の歯が獰猛に噛み合わさる。根元から食いちぎられるのを警戒し、頬にじゃれる指がさっと退く。
 怒りを煽りたて恐怖をねじ伏せる。嗜虐に酔った薄笑いを浮かべる有里を見上げ、唇をおもいきりひん曲げる。 
 「…………真っ最中はじっくり見てる暇なかったが……写真で吹き出しちまった。案外短小だな、社長さん」
 空気が凍りつく。
 「どうりで物足んなかったわけだ……ははっ、は……」
 笑う。
 「寝言ほざくな。届かねえもんがどうやって当たるって?」
 嘲笑う。
 「どうせ送りつけるなら加工すりゃよかったんだ。詰めが甘いぜ」
 狂気の発作に取り憑かれ哄笑する、顎の間接が外れそうなほど笑って笑って笑い転げる、千里のぽかんとした間抜け顔、有里の無表情、ああなんかすげえツボにはまった、有里の短小だとか口からでまかせだ、写真に映った結合部も性器もまじまじ見ずに即破り捨てたから実物がどうかなんて知るか、ただ俺の腹に入ってたアレはすごく熱かった、内臓を圧迫され息もできずひどく苦しくてのたうちまわった……
 「そうか。物足りなかったのか」
 喉をなめしたように柔和な声。
 「兄さん、なにを」
 机に歩み寄って何かを掴む。その手が掴んだのは角柱型のペーパーウェイト。
 殴りつけるつもりか?
 しかし、予想は最悪の形で裏切られる。
 「これを使え」
 唐突な提案に絶句。 
 「………は……?」
 「クズミはペニスじゃ物足りないんだそうだ。固くて冷たい無機物でむりやりこじ開けられてガンガン突かれるのがお好みだ」
 有里の言葉の意味がひとつずつ浸透していくにつれ血が引く。
 「だろうクズミ。俺や千里のペニスよりこっちがいいんだよな、バイブやディルドでよがりまくった淫乱なカラダだ、フツウのやりかたじゃイけないと思っていたさ」
 千里にペーパーウェイトを手渡す。千里の手の中の禍々しい異物に目が吸いつけられる。
 文鎮に似た形状の金属の棒はシンプルなデザインで、廊下から射した光に濡れて銀色に輝く。
 「どうしたクズミ、悦べ。お前の気に入るようにしてやるんだから」
 「ふざけ、んなもん入るわけね……突っ込んだら死ぬ……!―っあぁ」
 頭上に有里が回る。ベッドボードごしに覗き込むようにして俺の胸の突起をいじくりだす、緩急強弱つけつねる、親指と人さし指で挟んできつく搾り出す。
 「ふあぁ……あう、あっ、痛ッう……!」
 乳首を重点的に責める指。
 手で指で唇で舌で捏ね回された豆は淡く色づいて押し潰されるごと先鋭した快感を生じいつかの千里の比喩じゃないが感度も腫れ具合も包皮を剥いた陰核そっくりに開発されていく。
 膨れた乳首を指を総動員してつねりつつ、劣情を催した有里が笑う。
 「上は俺、下はお前で半分こだ。可愛がってやれ」
 「―っあ、はふ、―ンく、あ……ッて、放せ……」
 吐息がなでるだけで震えが来る。思考が靄って拡散していく。ここに来た目的を忘れそうになる。
 有里の手はどこまでも貪欲に残忍に蛇のように執拗に既にして尖りきった乳首を虐め抜く。
 「………」
 俺の膝を割り開き、腰を抱え上げ、双丘の窄まりにペーパーウェイトの先端をあてがう。
 「馴らさないときついですね」
 囁きつつ、サイドテーブルの上に転がっていた小瓶をとって中身を殆ど全部手にぶちまける。ベビーオイル。
 「…………!!」
 本気か。
 本気でそれを俺の中に入れるのか?
 「あ…………」
 あと少しで射精しそうなほど張り詰めた前が急速に萎えていく。
 「勘弁してくれ」
 嫌悪感―不快感―
 「んなの入るわけねえだろ、変なもん突っ込むな、近づけるな、見せるな!」
 細部まで鮮明に思い出す数ヶ月前の悪夢、悪趣味な拘束具で自由を奪われた体、目隠しされ後ろに突っ込まれた異物が与える違和感と痛み、グロテスクな形状のバイブが出し入れされるつど吐き気と一緒くたの快感が襲った、体内で響く羽音強すぎる振動が前立腺を虐め抜いて刺激が強すぎてイきたくてもイけなくて泣いて叫んで 
 「前立腺をゴリゴリしてくれるなら何だっていいんでしょ」
 胃液がせりあがりつつある。
 千里はペーパーウェイトを俺の窄まりにあてがったまま、冷たい目でこっちを睨んでいる。
 舌が萎縮する。声を失う。かぶりを振ってあとじさる俺の肩を上から押さえつける……
 有里。
 「アレを突っ込まれるのがイヤなら上と下で奉仕してもらおうか」

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リーマン×リーマン | コメント(-) | 20010419225103 | 編集
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