ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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三十四話

 「リョウさんどうしたんすかその包帯」
 扉を開けた途端、床に胡座をかいてパソコン画面に見入ってたビバリーがすっとんきょうな声をあげる。注目されるのが嬉しくて跳ねるような足取りで自分のベッドに向かい、すとんと腰をおろす。お尻を落とした反動で元気よく足を跳ね上げ、ベッドに後ろ手ついてリラックスした姿勢をとる。心配げに顔を曇らせ、膝這いに床を這ってきたビバリーを見下ろし、思わせぶりに頭の包帯に手をやる。 
 「鍵屋崎にやられたの。可哀相でしょ?慰めて」
 『鍵屋崎』
 名前を出した途端ビバリーに変化がおきる。ため息まじりに頭の包帯をなで、悲劇に見舞われた子役ぶって同情を引こうとしたらベタな芝居が裏目にでたようだ。伏し目がちに目を潤ませた僕を覗きこんだビバリーの顔にはありありと不審の色が窺えた。
 「リョウさん何したんすか?」
 「べつになにも」
 「前科者の言葉を今更信じられると思います?」
 「ひどい差別だ」
 ショックを受けたふりで胸をおさえたのにビバリーときたら乗ってもくれない。ノリの悪いビバリーからふくれ面でそっぽを向き、足をぶらぶらさせながら白状する。
 「たいしたことじゃない。出張サービス終えて廊下歩いてたらたまたま鍵屋崎と行き違ったんだけど……」
 そうして僕は、ついさっき我が身に降りかかった災難について情感たっぷりに語り始めた。

 鍵屋崎が売春班に配属されて五日目。
 この五日間というもの鍵屋崎は食堂に姿を現さなかった。ひょっとして行き違ってるのかもしれないがどっちにしろ直接本人の顔を見ることができず、鍵屋崎がどうしてるのかわからなくてフラストレーションが溜まる一方のもやもやした状態だった。鍵屋崎が体調を崩してようが男にヤられて痛くて立てなくて寝たきりでいようが別に僕には関係ないんだけど、いじめられっ子がいないと今いち調子でないのがいじめっ子の哀しき性というか因果で、顔が見えないとなると尚更鍵屋崎のことが気になってたのは否定できない。売春班に配属されて五日目にもなると新規メンバーの間にも諦めムードがどんより漂い始め、自暴自棄になって暴れ出す奴やら自殺を図って担架で医務室送りになる奴やら酷い鬱症状を呈して何もない虚空に話しかける奴やらそれぞれ個性的な壊れ方をしだすんだけどさて鍵屋崎はどのパターンだろう?僕が顔を見てない五日の間に精神崩壊起こしてるかもしれない、とてもじゃないけど人前に出られる状態じゃなくて裸電球を消した真っ暗闇の房にひきこもってるのかもしれない。
 そうやって悪い方へ悪い方へ想像をふくらましながら廊下を歩いてたら10メートル先に見覚えある後ろ姿を発見。
 鍵屋崎だった。
 ちょうど出張サービスを終えて房へ帰る途中だった僕はこの偶然に感謝した。いそいそと鍵屋崎に駆け寄ろうとして5メートル背後で立ち止まったのはどうも様子がおかしかったからだ。足をひきずるような歩き方をしてる理由は理解できたけど僕が違和感を感じたのはもっと別の何か、一目でわかる身体的変化ではなく内面的な変化とでも言えばいいのだろうか。鉄の足枷でも括り付けられてるみたいな歩き方にも増して僕の接近を阻んでいたのは背中から放射される威圧感。
 一切の救いの手を拒絶する背中。
 鍵屋崎の人間不信は前からだけど最近は少しマシになったのに、サムライと一緒に食事をとるようになってからは少し雰囲気もやわらいで接しやすくなったのにこの五日間ですっかり退行してしまった。

 他者に歩み寄る惰弱を自らに禁じ、他者に歩み寄られる安穏さえ拒絶する孤独な背中。

 それでも勇気をだして歩み寄った僕を褒めてほしい。僕自身短期間の変貌ぶりに躊躇しなかったといえばうそになるけどこの機を逸したらいつまた鍵屋崎に会えるかわからない、なんたって売春班は一日の殆どを売春通りの仕事場にこもりきりで過ごすんだから。急く足取りで鍵屋崎に接近、後ろ手を組んで声をかける。
 『ご機嫌いかが?メガネくん』  
 鍵屋崎が立ち止まる。脆弱に細い首がゆっくりと巡り、振り向く。
 酷い顔色だった。だるそうに振り向いた横顔には表情が欠落していて眼光ばかりが炯炯と輝いていた。銀縁眼鏡越しの双眸は針のように怜悧に研ぎ澄まされて、鋭すぎて怖い位だった。
 世界中の人間一人残らず自身に危害を加える敵と断じた、殺気走った目。
 『……ご機嫌悪そうだね』
 鍵屋崎の眼光に気圧されながら愛想笑いを浮かべる。鍵屋崎は僕のことを嫌ってる、いや、嫌ってるなんて生易しい言葉じゃ足りない。二ヶ月前なんか下水道に呼び出されて殺されかけたんだから恨まないほうがおかしい。さて、天敵の僕が現れてどんな行動にでるかなと内心わくわくしつつ反応を探ってたんだけど……
 鍵屋崎ときたら、あっさり背中を翻しやがった。
 まるで僕なんて最初からそこにいなかったみたいに、空気に同化して見えなかったみたいな態度で。これにはちょっとムッときた。だってそうでしょう、こうやって一対一でちゃんと言葉を交わすのは二ヶ月ぶりなのに何も挨拶がないなんて。それじゃなくても挨拶した相手に無視されたら腹が立つのに相手が鍵屋崎ときたら猛烈に腹が立つ。
 だからつい、魔が差して。
 余裕ぶって腕組みして、鍵屋崎の背中むかって言い放ったんだ。
 『ねえ、ちょっと聞きたいんだけど』
 立ち止まりもしない鍵屋崎の背中にスッと目を細め、意地悪く口角を吊り上げる。
 『男にヤられてる時妹さんの顔思い浮かべた?』
 反応は激烈だった。
 顔に風圧を感じた次の瞬間横っ面に衝撃、吹っ飛ばされて背中から転倒。背後の壁に激突した衝撃で後頭部を強打、脳みそがはげしく揺さぶられて脳震盪を起こしかける。地震でもないのに天井の蛍光灯が揺れて廊下が急傾斜する。宙を掻くように無力に手をのばして虚空を掴む、眩暈に襲われてすぐに立ち上がることができない。背中を壁に預けて上体を起こそうとした瞬間こめかみをぬるりとした感触が伝う。無意識な動作でこめかみを拭って手に目を凝らせばべったりと赤い血が付着していた。壁に強打したせいで頭が切れて出血してるらしい、やばいなこれ、血の量多すぎない……?背中を壁に密着させ、萎えた膝を励まして立ち上がりかけた体がまた吹っ飛ばされて後ろ向きに転倒。今度は廊下の床でおもいきり背中を打って肺から空気が押し出され窒息しかける。
 僕の襟首を締め上げて馬乗りになってるのは……鍵屋崎。
 怖い顔をしている。眼鏡越しの双眸に苛烈に閃くのは……殺意。それでも顔筋は殆ど動かない、能面めいた無表情の中、目だけに激情が発露してる。目は口ほどに物を言うって諺があるけど鍵屋崎も例外じゃない、これは殺人者の目だ、正真正銘の人殺しの目だ。
 きっと僕は、鍵屋崎に殺される。
 全身に冷水を浴びせられたような戦慄が走り、死に物狂いで四肢をばたつかせて鍵屋崎を振り落とそうとしたが無駄だった。悔しいけど体格じゃ鍵屋崎に利がある、胴に跨った鍵屋崎が無表情に拳を振り上げる。蛍光灯の光を反射した眼鏡が物騒に輝く、そして拳が振り下ろされる。一回、二回、三回、四回。肉が肉を打つ鈍い音が連続する。僕だってこういう経験は一度や二度じゃない、逆上した客に殴りかかられた経験はいやというほどある、仰向けに寝た状態での拳の回避法は身に付いてる。なるべく顔が傷つかないように首を左右に傾げて避けようとしてたけど胴をおさえこまれてるんじゃ身動きできない、息継ぐ間もなく振り下ろされる拳をまともに顔面に受けないようにするだけで精一杯。
 『ちょっ、やめっ、』
 鍵屋崎は暴力の行使を楽しんでない、快感を感じてもいない。拳を振り上げて振り下ろす一連の動作は理性で抑制されているかのように機械的だった。
 『顔はぶたないでよ、ママにも殴られたことないのにっ。ねえ聞いてる、聞いて、き』
 横っ面を殴られて意識が飛んだ。口の中が切れたらしく舌の上に塩辛い血の味が広がる。五回、六回、七回……もう何回目だろう?わからない。頭が朦朧としてきた。殺到する足音。騒ぎを聞きつけた囚人が野次馬がてらダチを誘って駆けつけてきたらしい、口笛と野次と罵声が喧しく飛び交いわんわん耳鳴りを伴って鼓膜に押し寄せてくる。
 『なんだなんだ、喧嘩か?』
 『下になってるのはリョウか。リョウを殴ってるのは……』
 『見たことある面だと思ったらサムライと同房の親殺しだよ!こいつあ珍しい、一体何が原因だ?』
 『痴話喧嘩か?痴情のもつれか?赤毛の雌猫に色仕掛けで迫られて潔癖メガネがキレちまったんじゃねえか』
 『いいや、案外メガネがリョウを買ってコト終えたあとに料金上乗せされてカッときて……』
 くそ、言いたい放題言ってやがる。お門違いな詮索に舌打ちしたい気分だけど続けざまに顔を殴られてそんな余裕もない、口の中は血で満たされて、鉄錆びた血が逆流して喉を焼いて咽返る。歯が折れるのはやだなあ、さし歯なんか格好悪いよ。顔が崩れるのは勘弁してほしいんだけどと頭の片隅、妙に醒めた理性で考えながら虚ろに鍵屋崎を観察する。返り血が付着した拳の向こう、眼鏡越しの目に一瞬だけ波紋を生じさせた感情の正体は……悲哀。変なの、殴られてるのは僕なのに鍵屋崎の方が痛そうな顔をしている。崖っぷちに追い詰められた顔をしてる。
 ああ、こんな顔してるからいじめたくなるんだよ。
 『なんだよ、本当のこと言っただけだろ!毎日のように男に犯されて泣いてるくせに、いや、男に組み敷かれて喘いでるのが本当のところ?』
 僕もちょっとおかしい、無抵抗で殴られっぱなしで完全な劣勢なのに鍵屋崎を侮辱するのがやめられない、とまらない。火に油を注ぐのを承知で声高に笑ってやれば鍵屋崎の顔が羞恥に染まりさらに加速して拳が降り注ぐ。ああ、もう本当にそれ位にしてくれないと。顔が崩れたら商売に支障がー…… 
 『そこ、なにやってるんだ!』
 怒号、足音。
 野次馬の垣根を警棒で薙ぎ払い足音荒く突入してきたのは看守。二人がかりで僕と鍵屋崎とを引き離して、残りの一人が警棒を振り回して物見高い野次馬を追い払いにかかる。『なんだよ、もうおしまいかよ』『折角いいとこだったのにジャマすんなよ、バーカ』と口々に毒づき、捨て台詞を吐いたのが誰か特定されない速さで蜘蛛の子散らすように逃げ去ってく囚人をよそに息も絶え絶えに起き上がってみれば、鍵屋崎が看守に羽交い締めされ肩で息をしていた。
 『一体何があったんだ』
 あきれ顔で問いただした看守を振り向けばラッシ―……五十嵐だった。手足を投げ出して廊下に寝転んだまま、起き上がる気力もなく遠い天井を仰いでいた僕を助け起こし、親切にも肩を貸して立ち上がらせてくれる。
 『ま、喧嘩の原因を追求するのは後回しだ。頭が切れてるな、医務室に行ったほうがいい。お前は……』
 気遣わしげに一瞥くれた五十嵐に鍵屋崎はゆるりと顔を上げる。五十嵐の視線が自分の拳に注がれてるのに気付くと体の脇にたらした手を操り人形めいた動作で持ち上げ、凝視し。
 『拳に怪我をしてるんじゃないか?』
 『違います』
 思ったよりしっかりした声だった。叩きつけるように返した鍵屋崎が右五指を軽く折り曲げ、手の甲に付着した血を見下ろす。
 眼鏡のレンズに遮られて感情の読めない目。
 『僕の血じゃないから問題ありません。帰ったらよく洗っておきます』
 鍵屋崎が淡々と口にした言葉に五十嵐が絶句し、鍵屋崎を戒めていた若い看守が気圧されて腕を放す。羽交い締めが解け、自由の身になった鍵屋崎が興味が失せたように背中を翻す。そのまま後も見ずに歩み去ってゆく鍵屋崎の背中をもう一人の看守が『おい、許可なく房に帰るな!』と叱責して追いかけかけたが五十嵐に制止される。
 『いいよ、アイツは』
 『天才児だから特別扱いか?贔屓がすぎるぜ五十嵐、だいたい囚人どもに甘すぎなんだよ。そんなんだから同僚に煙たがられて…』
 『頼む。ここは俺の顔に免じて納めてくれ』
 『……ちっ』
 荒く舌打ちした看守が大股に去ってゆく。後に残されたのは頭から血を流した僕と怯えたように立ち尽くす若い看守、鍵屋崎が消えた廊下に佇んで哀しげに嘆息する五十嵐。複雑な面持ちで鍵屋崎を見送った五十嵐が『医務室に行くぞ。歩けるか』と僕を気遣って覗きこむ。営業営業、けなげに痛みを耐えるフリで『大丈夫』と切り返そうとして廊下に落ちた紙屑に目が止まる。
 殴られてる最中に僕に馬乗りになった鍵屋崎のポケットから落ちた物だ。
 殆ど反射的に紙屑を拾い、素早くポケットに隠す。そうして僕は五十嵐の肩を借りて医務室に行って治療を受けたわけだけど……

 「リョウさん」
 身振り手振りをまじえ、やや大袈裟な口ぶりで話し終えた僕の眼前。床に正座したビバリーは暫く口を半開きにした状態で言葉をさがしあぐねていたが、酸欠の金魚を真似てぱくぱく口を開閉してから漸く舌の麻痺が抜けたらしい。
 「あんた本当に最低だ」
 「ねえビバリー僕の頭の包帯が目に入らない?被害者はどちらかな?」
 いちばん目立つ場所に巻かれた包帯がビバリーの目に入らないわけがない。頭部に巻かれた包帯を指さし、変に強張った笑顔で解答を促した僕を睨み返し、断固たる口調でビバリーが言う。
 「さきに喧嘩売ったのはリョウさんでしょう。言っていいことと悪いことの区別もつかないような人もう相手しきれません」
 「そんなつれないこと言わないでよ。それにね、勘違いしてる。僕は言っていいことと悪いことの区別がつかないんじゃない、ちゃんとついてるからこそ言ったんだよ。今の鍵屋崎がいちばん言われたくないと思ってる言葉、避け続けてる真実をね」 
 「ますますタチ悪いじゃないっスか!」
 抗議口調で立ち上がったビバリーもどこ吹く風と口笛を吹く格好に唇を尖らす。頭の後ろで手を組んで寝転ぼうとして、なるべく頭を動かしちゃいけないという医者の言葉を思い出す。幸い怪我は大したことなかったけど包帯がとれるまで三日かかるそうだ。それより心配なのは顔の傷だ、めちゃくちゃに殴られて痛々しく腫れあがってる。ちょっと口を動かしただけでも酷く疼くのは口の中を切ってるからだ。
 まさかあの冷静沈着な鍵屋崎が、ああも激怒するなんて予想の範疇外だった。
 鼻歌をなぞりながら僕を殴ってる時の鍵屋崎の顔を思い出してたら、床に正座したビバリーが疑惑の目をむけてくる。
 「何がそんな嬉しいんですか?」
 「嬉しい?」
 「嬉しそうじゃないスか。鼻歌唄ってるし足ぶらぶらさせてるし……リョウさんひょっとしてマゾ?」
 「失礼だね」
 身に覚えのない指摘に憤慨して宙を蹴るのを止める。
 「サドかマゾかで言ったら僕はまちがいないサドだよ、今まで鍵屋崎にしたこと見てきたらわかるでしょう」
 「じゃあなんだってそんなにご機嫌なんスか。殴られて顔腫らして頭に包帯巻いてるのに」
 「鍵屋崎がまだまだへばってないからさ」
 「?」
 理解に苦しむといった顔つきで眉根を寄せたビバリーを見下ろし、体ごと向き直る。疑問の色を浮かべたビバリーの目に映ったのは心から嬉しそうな笑顔を湛えた僕の顔。欧米産のホームコメディという安っぽい虚構の中でしか生きられない作り物の子役の笑顔。
 「僕の挑発にキレて殴りかかってくる気力があるなら上等だ。売春班に配属されて五日目、鍵屋崎の目はまだまだ死んじゃいなかなった。この五日間地獄を見たせいで大分憔悴してたけど怒る気力を残してるなら心配ない、まだまだアイツで遊べそうだ」
 どん底からはいあがってこない獲物には興味がない。
 僕が好きなのは何度どん底に突き落としてもこりずにしぶとく這い上がってくる奴、何度プライドを挫かれても破片をかき集めて型にはめこんで修復できる奴だ。少なくとも現時点の鍵屋崎はまだ壊れてない、心まで死んじゃいない。
 何故だかその事が、すごく嬉しい。
 「やっぱさ、抵抗してくれなきゃ燃えないよね」
 ビバリーの言う通り、僕は根っからのいじめっ子なんだろう。が、無抵抗の獲物を一方的になぶるだけだったら歯応えもなにもない、僕はただの悪者になってしまう。まあ悪者なら悪者でいいんだけど、このまま鍵屋崎が抵抗する気力も失って生きた屍になっちゃったらどうしようと危ぶんでいたんだ。
 だから、五日ぶりに鍵屋崎と会って、奴の目を見て安心した。
 たとえそれが崖っぷちで踏みとどまってるに過ぎない虚勢でも目が死んでないなら望みがある。僕に怒れるということは感情が麻痺してない証拠だから、どんな生き地獄を味わっても心はまだ死んでない証明だから。
 すこぶる上機嫌に鼻歌をなぞりながらふと、廊下で拾った紙屑を思い出してポケットを探る。ビバリーが首を傾げる。
 「なんスかそれ」
 「鍵屋崎の落し物。なんか病院の住所みたいだけど……あ、紙が二枚重なってる。片方は書き損じの手紙みたい」
 ベッドに腰掛けてぐしゃぐしゃに握り潰された紙屑を広げ、ざっと目を通す。ビバリーの方はといえば丁寧に皺をのばされた跡があるメモを手にとってしげしげ眺めていたが、その手からメモをひったくって膝に広げた手紙の文面と見比べ、ひとつの結論に至る。 
 「ふーん、なるほどね。鍵屋崎のやつ、精神病院に入院してる妹宛に手紙書いてたんだ」
 病院の住所が書かれたメモと書き損じの手紙とを見比べてるうちに顔がにやつきだすのを押さえられない。
 「じゃあ、メモがなかったらとってもとっても困るよね?」
 僕が考えてることを瞬時に見抜いたビバリーがメモを奪回しようと手をのばしてくるがすばしっこさで僕にかなうわけない。捨て身でスライディングしてきたビバリーから跳んで逃れ、見せびらかすように頭上に掲げたメモをくるくる回しながらベッドに立ち上がる。
 「鍵屋崎がやっとの思いで掴んだ希望を握りつぶすのも気分次第ってわけだ」
 蛍光灯の光に手紙を翳す。便箋の裏面を透かして浮かび上がったのは右上がりの神経質な筆跡。不自然な箇所で途切れてるのは心理的葛藤が原因で先を続けられなかったからだろう。さて、どうしよう?このまま本人に返すのもアレだしひと思いに握り潰してしまうのも芸がない。
 愉快な企みに心弾ませながら、住所を記したメモをなくして今頃焦ってるだろう鍵屋崎を想像し、意地悪い忍び笑いをもらす。
 まったく鍵屋崎ときたら、とことんついてない。

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少年プリズン(未完) | コメント(-) | 20060203201904 | 編集
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