ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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デッド・エンド・リセット後(完)

 「誰かいませんか!」
 「静かに」
 サングラスを邪魔っけに取り払う。あらわになった横顔におくれ毛が舞う。
 「監視カメラつけとくんやったな。ケチったつけが回ったんや」
 「俺の責任じゃない、管理者に言え!」
 「叫んでも喚いてもむだや、だあれも助けにこん。さっき実証済み。あンだけ派手に暴れても駆けつけんかったさかい」
 ドアを振り向き、沸々と滾りたつ凶暴性がちらつく顔で言い放つ。
 「むこうは真っ暗闇、一歩踏み出せば奈落にまっさかさま」
 一寸先は闇。
 「俺らの状況とよぉ似とるやん?」
 若者の唇が首筋を這う。
 「俺は五階を押した、せやからここは四階と五階の中間か……想像してみ、あんさん。エレベーター支えるワイヤーがブツンと切れてもたら」
 「即死にきまってるじゃないか、常識で考えればわかるだろ!」
 「せや、心中や。そうなりたいか?」
 躁的な哄笑が爆ぜる。
 脅迫の声音は殊更に明るく能天気でどこか箍が外れた印象をもつ。
 間違いない、こいつはおかしい、いかれてる。
 「古いビルなんやろ?ワイヤーも傷んどるはず」
 芝居くさく眉をひそめ大仰に声をひそめ、小心な一郎の不安を巧みに煽りつつ天井を仰ぐ。
 「暴れると落ちてまうかもなあ。ぐしゃり、棺に早代わり。これがホンマの死刑台のエレベーター」
 「悪趣味だ!」
 「そらどうも」
 反省の色などまるでない態度で肩を竦める。
 中肉中背、平均的体型の一郎に対して若者は長身で筋肉質。服ごしではわからないがこうやってくんずほぐれつしてみると逸る鼓動と若い筋肉の躍動が伝わってくる。
 「なにするつもりだ」
 「レイプ」
 耳を疑う。
 「おと、男同士だぞ……!?」
 動揺に上擦る声を無視、一郎の上腕をねじり荒っぽい手つきでシャツをはだけていく。
 「俺と心中するか帰って彼女としっぽりか選べや、あんさん」
 「彼女に決まってるだろ!!」
 「せやな、フツウ。目えつぶっとれ、あっちゅーまに終わる」
 「辻褄あわないぞ!」
 往生際で説明を求める一郎を冷ややかに見つめ不敵な笑みが似合う唇をねじる。
 「セイゾンホンノウに火がついたんや」
 若者の言動は理解しがたい、非常識を通り越して狂気に近い、平穏な人生を送ってきた一郎には到底共感も理解もしがたい。
 「―!ぅあっ、」
 自分で触れたことしかない箇所に他人の手が触れる。
 「ひ……この状況でどうしてそうなるんだ……?」
 顎が落ちそうにがくがく震える。視線をおろしぎょっとするのも無理ない、こんな異常な状況だというのに若者は勃起している。
 混乱の極みで慄く一郎にぐいぐいと己自身を押しつけてくる、ズボンの生地を押し上げる突っ張りが熱く脈打つ、一郎を押さえ込んだのとは逆の手で己のズボンを下ろし下半身を露出させる。
 「どや、浪速のフェロモンタイガー」
 どやと言われても激しく困る。お見事ですねとでも言えばいいのか?
 確かにお見事だ。立派だ。
 降参します、平伏します、だからもうやめてくださいと心の中で狂ったように叫び哀願するがどうしてか声が出ない、声帯が強張って喘鳴めいて間延びした息遣いのほかに何も出てこない、悪夢だ、夢なら早く醒めてくれ、どうしてー……
 「見事すぎて口が利けんか。あんさんは……可哀想に、縮み上がっとる」
 強烈な羞恥が恐怖を上回る。
 「はなせ、人呼ぶぞ!」
 「で、誰が来るんや?あんさん横領犯やろ、見つかったらまずいんちゃう」
 「誰か、助けください!誰かいませんか!こいつをどっかにやってください、麻酔銃で撃って投網で捕獲してください!」
 「動物園から逃げた猛獣かい」 
 もちろん一郎にとってはもっとたちが悪いものだ。
 「!待っ、なにす、」
 粘膜同士が触れう異様な感触に動揺が走る。
 若者が己をしごきつつ体を前に倒し、局部同士を擦り合わせる。
 肩と背中に鈍い衝撃が伝う、行き止まりの壁にぶつかる、駄目だ―見るな、正視するな、おかしくなる―鎖が強く食い込み手首が鬱血していく、強く奥歯を噛む。
 「!?あっ、い、ひぁ」
 色気のない声が漏れる。
 先走りを潤滑油にくちゃりと糸引くペニスが手の中で擦れて快感を生み出す。
 「兜合わせって知っとるか?」
 「聞いた、ことない」
 「ガキん頃遊びでせんかったか」
 がっつく若者を手の代わりに足で払って拒むも相手は歯牙にもかけず二竿のペニスをしごく、敏感な粘膜と粘膜が擦れて腰が蕩けるような快感が荒れ狂う。
 「どうや?」
 「気持ち、悪い、はなれろ……はなれてくれ、お願いだから……」
 下敷きの腕が痺れて感覚をなくしつつある。
 恐怖で萎みきったペニスがいつのまにか半勃ちの状態で汁を流す、自分の体の変化に愕然とする、信じられない思いと信じたくない思いが相半ばで渦巻く。
 「勃っとるやん」
 「なにかの間違いだ……」
 弱弱しく口走り、無意識に首を振る。
 そんなはずないと否定したくても目に映る現実は欺きがたい。
 「往生際悪い」
 一郎の兆候を冷ややかに流し見、勝ち誇って嘲弄する。
 「こんな状況でさかるなんて、変態ちゃうか」
 お互い様だ。
 「俺の事さんざんいかれとるおかしいて批判しはったけどあんたかてフツウちゃうわ、チンコしごかれまくって腰振って悦んどるやないか」
 ぱくつく鈴口が吸いつく。
 ぬるつく手が余裕を奪う。
 固く張ったグロテスクな亀頭でもって亀頭をしごき、熱を持った手のひらで屹立を擦り上げる。
 「どうし、て」
 嗚咽する。
 「あんまりだ」
 俺がなにしたっていうんだ?
 報われない。
 「君になにかしたか?」
 「あんさん自身にはなんも恨みないわ。けどまあ、生き方がむかつく」
 「あっ、―んぅ、よせ」
 「だす?」
 縛り上げられた腕が背中と床の間で潰れる、若者が至近で顔をのぞきこむ、必死に顔を背ける、ぐちゃぐちゃと卑猥な水音が耳につく、手の中で育ち上がったペニスが二本存在を主張する、爪先で鈴口をほじって上澄みの汁をぬりこめ括れをつまんで根元から先端へとやすりがける。
 「どないしてほしいか言うてみ」
 「下着はかせ……ひぐっ、」
 中心に血が集まる。
 放精の予感に先端が熱く鈍く疼く。
 昂ぶった己自身にごつい指輪を嵌めた男の手が絡む光景はひどく淫靡で、生唾を飲む。

 何をやってるんだ、こんなところで。
 エレベーターの中だぞ。
 人が入ってきたらどうする?
 ……ああ、とまってるのか。
 それなら心配いらない、だしたところで誰も……

 「変態」
 耳元で囁く声が一郎をうちのめす。
 「エレベーターん中でズボンと下着ぬいで、下半身素っ裸で、先っぽからだらだらエロい汁垂れ流して……淫乱やな、あんさん。男の手がええんか?まだ挿れてもないのに感じまくって……ひょっとして前もしたことあったん?」
 「前……?」
 「エレベーターん中でむらむらして、マスかいとったん?」
 とんでもない誤解に凍りつく。
 「する、わけないだろ、ひとに見つかったらどうする!」
 「見られんかったらヤるんや」
 「あ、いや、しないしないっ」
 「いつ扉開くかわからんでどきどきやな」
 若者は一郎をおちょくって愉しんでる。
 言葉で辱め貶め膝を割り開いて昂ぶる股間を暴く。
 「今開いたら……あんさん、オシマイやな」
 「……道づれにしてやる……」
 汗を吸ったシャツがぐっしょり濡れてへばりつく。
 「おれひとり割くうなんて、不公平だ」
 失踪した先輩への恨みがぶりかえす。
 「先輩がいなくなってからも精一杯やった、必死についていこうとした、でも限界だった……死ぬ気でノルマ果たしたって、引き換えに得られるのは達成感じゃなくて罪悪感で、そんな仕事誇り持てなくて、ムチャ言う上司に逆らえない自分がイヤでイヤで。毎日欝で、会社行きたくなくて」

 どうして愚痴ってるんだ、こんなヤツに。
 自分を犯してる男に。
 目の奥、鼻の奥がつんとする。

 「笑えばいいさ……俺なんかフツウ以下だ、フツウに手がとどかなかった」
 「フツウフツウ、フツウがそんなに偉いんかい。あーもう、ヤッてるときにごちゃごちゃ言うなや、興醒めや」
 「!ふあっ、あく、うぁ、ひう」
 しごく手が加速する、完全に勃ち上がった竿同士が擦れ合う、互いの体積を競うかのように肉がぶつかりあう、男の手で感じる自分が腹立たしい。
 「糸引いとる。あんさんのここぐちゃ濡れや。こっちはどないな按配……」
 後孔に異物感。
 「!!あぐ、」
 唾で湿した人さし指を穿つ。
 「あかん、きついわ」
 「抜け………」
 「なんや?」
 「……っと、もう無理、限界……」
 人さし指だけで激痛が走った。体にかかる負担が半端じゃない。
 排泄の為の器官に異物をねじこまれるという倒錯的かつ背徳的な感覚は胃がしこるような嫌悪を伴い、これ以上の太さと硬さを併せ持つものが孔をこじ開けたらと脂汗がふきだす。
 腕は痺れてとっくに感覚がない。
 目を開き続けているだけで体力を消耗する。
 腹筋が痙攣し下肢がびくびく波打つ。
 「彼女が待ってる……帰してくれ……」
 「俺に言われたかて知らんわ、業者に言え。ドア開かんことにはどうにもならんやろ」
 一郎の顔の横に手をつきのしかかる。
 耳まで裂けそうなほど口を吊り上げ笑う顔に悪辣な陰影がつく。
 「俺とあんたは運命共同体や」
 助けを呼んでも聞こえない、誰も来ない。
 ドアと壁で周囲と遮断され隔絶した空中の完全密室。
 「ケツの孔ゆるめい」
 「ムチャだ」
 「怪我するのあんたやで。無理矢理ぶちこんでもええけど……切れたら後めんどいし」
 ざっと音たて血の気が引く。
 「んっ……」
 ぎこちなく体をもぞつかせる。 
 身をよじり、肩を窄め、括約筋の締め具合を調整しようとするも上手くいかず焦りが募り行く。
 若者がやれやれとため息を吐く。
 「しゃあない、手伝ったる」
 「!あぐうっ、」
 挿入された指が鉤字に曲がり、あまりの苦しさに呼吸がとまる。
 「はっ……熱」
 体外に残った手がフィニッシュとばかり一郎をしごく、若者が小さく呻く、男の手に自由にされる悔しさに涙が浮かぶも体は正直な反応を示し手がきつく上下するごとペニスが鎌首をもたげていきー……
 「―!!ンぅ、」
 先端の孔から勢い良く弧を描いて白濁が迸る。
 咄嗟に唇を噛み背中で壁を叩く。
 虚脱の波が去ったあと訪れたのは凄まじい恥辱感、いっそ舌を噛み切って果てたくなるほどの絶望感。
 「目えとろんと口半開きで……そないよかったんか?だらしないカオ」
 「う………」
 泣くなと言い聞かせるほどに惨めさが増す。
 「まだ始まったばっかやで。……ドア開くまで正味ふたりっきり」
 きつく巻かれたチェーンが圧迫し手首の血行が滞る。
 肩で息をしつつ笑う若者を睨みつける。
 下腹部に散った白濁をいやらしくすくいとるや、指の間で丁寧に捏ねのばし、窄まりに隠れた部分へと忍ばせる。
 「ローション代わりや。男は勝手に濡れんで不便さかい」
 「何が目的だ、事務所に用があるんじゃないのか!?どうして巻き込まれなきゃいけないんだ、俺は関係ない、もうやめたんだ!」
 「逃げたんやろ」
 つきはなすように言う。
 「本音がでたな。俺を人殺しにしたくないてしょせんギゼンシャの戯言か」
 「あぐっ、―あっ、あ」
 見えない部分に潤滑油を塗した指がもぐりこむ。
 乱暴な手が尻たぶを掴んでねっとりこね回す、指が複雑に渦を巻いて蠢くたび孔がひくつく、内壁の襞をかきまぜ塗りこめる淫猥な指の動きに翻弄される。
 「痛ッ、あう、や、待て……」
 「指、もう一本増やすで」
 首筋に吐息がかかりぞくぞくと悪寒が走る。
 期待とも怯えともつかぬ震えが腰を覆う。
 「具合のええケツや。初モンの割には、ほら、放しとうないてぎっちり咥えとる。ぱくぱく物欲しそで鯉の口みたいや」
 苦痛と快楽とがごちゃごちゃに混ざり合い熱に冒された頭の片隅、しぶとく居残った一握りの理性でバッグの場所を確かめる。
 バッグは若者の背後、ドアの近くに転がっている。
 あれさえ取り戻せばきっと……
 「―!!!ひあッ、」
 「さーんぼーんめ」
 先ほどまでとは比較にならない圧迫感に背中が撓う。
 「よそ見はあかんで。こない奉仕しとんのにイケズされたら、俺、キレてまうかも」
 囁く声はあくまで優しく、シャツをたくしあげ体の裏表にじかに触れる手は熱く。
 後ろに回った手が苛立たしげにチェーンをほどき一郎を解放する。
 抵抗は打ち止めだと確信したのだろう。
 「………頼む、やめてくれ、―っ、苦しい、腹が……」
 朦朧とした頭で命乞いを口走る。
 激しい抽送をくりかえしていた三本指が乱暴に引きぬかれほっとしたのも束の間、窄まりに怒張があたる。
 「ふぅッ……んンぅく、あう」
 殴り返す気力も押し返す体力も尽きた。
 下手に動けばむりやり拡張されて少し切れた肛門に激痛が走る。
 一郎は啜り泣く。
 どうしてこんな理不尽な目にあうのかわからぬまま、予想される最悪の事態だけは回避しようと切れ切れに紡ぐ。
 「見逃してくれ………」
 「イヤじゃボケ」
 すげない。
 一郎の手をとって肩にかけ、力の抜けきった指を組ませて言う。
 「振り落とされんのがいやならちゃんと掴んどれ」
 優しいのか、ひどいのか、わからない。
 「―いっ、あ、あああああっあ、あ」
 予告されてたとはいえ、次の瞬間襲った衝撃はしゃれにならない。
 指とは比較にならない体積を伴う怒張が後孔を穿つ、指でほぐされたとはいえまだまだ異物を受け入れるのに慣れてない排泄器官を剛直が滑走する、想像を絶する激痛に声を失う、瞼の裏で閃光が炸裂する、振り落とされないよう必死に縋りつく。
 「あっ、あぁん、ふあ、あう」

 俺だって頑張ったんだ、報われなかったけど。
 報いてくれない会社なんて、こっちから捨ててやる。
 来る日も来る日も神経性の胃痛と戦いながら律儀に出社してそれで得られたものは罵声と怒声と叱責と罪悪感と無力感、そんなものの為に貴重な人生を支払いたくなかった、だから逃げることにした、会社の金を奪って愛する人とふたりで……
 いちからやりなおすんだ。
 その為に必要な金なんだ。
 だから

 「かえ、せ」

 俺の金

 「返せよお……」
 「半端に理性のこっとるとつらいで。ちらしてまえ」
 劣情に息を荒げて言いつつ、跳ね馬の如く激しく腰を打ちつけてくる。
 自分を犯してる相手なのに耳障りなばかりの関西弁なのに、優しく聞こえるのはどうしてだろう。
 「―っ、締めつけきっついわ……さすが初モン」
 下唇を舐める動作が色っぽくてそんなケはないはずなのにずくんと疼く。
 「は、あっ、ああっあっあっあっ!」
 脊髄ごと引き抜くような抽送につられ快楽の津波が寄せては返す、剛直と粘膜が擦れ合うごと腰が跳ね回る、快感を増幅する一点を容赦なく突き上げる動きに振り回される、根元まで埋まった剛直が卑猥な水音伴い滑走し前立腺を叩く、シャツをはだけ涎を撒き散らして喘ぐ。
 「あの金、は、俺が貰ったる」
 ぴくんと指が動く。
 「あんさんと、エレベーターで出会ったん、運命や……鉄砲玉なんてアホらしいことやったれるかい」
 「だまされた、あのクソが」と悪態をつきつつ、一郎の前髪を鷲掴み汗みずくの顔を暴く。
 「人生リセットしたる」
 噛みつくように唇を奪う。
 性急に前歯がかちあい口の中が切れる。貪欲に唇を吸い鉄錆びた唾液を奪い合う。
 一方的に舌を絡めとられ酸欠から脱したい一心でぎこちなくそれに応じつつ、隙を狙う。
 体内の剛直が一際硬さを増したかとおもいきや熱い体液が広がって、虚脱の吐息をひとつずるりと肉の楔を抜く。
 搾取とよぶにふさわしい行為を終え狭い空間に二人分の荒い息遣いが響く。

 さっきまで自分を抱いていた男に凭れ、一郎はきつくきつく目をつぶる。 
 「させるかよ」
 手が撓う。
 
 革ジャンのポケットから銃をひったくる。
 「!なっ、」
 「動くな」
 銃口で動きを制す。
 壁に背中を預けたままゆっくり慎重に上体を起こす。
 生木を裂くような激痛が下肢に走るもなんとか姿勢を保つ。
 形勢逆転。
 行為を終えた若者が油断した隙を突き、銃を奪い取った。
 「……………最低の気分だ」
 片手を壁につき、頼りなくぐらつく体を支える。
 脂汗に塗れ蒼白の顔色とぎらつく怒りに滾る目で、あぜんとする若者を睨みつける。
 「人生をリセットするのはこっちが先だ。もう一度言う、あれは俺の金だ。俺が危険を犯して会社の金庫から盗んだ金、誰が他人にやるもんか」
 顔が歪む。
 「さんざん勝手な事言いやがって。ばかにするのもいい加減にしろ」
 「膝。わらっとるで」
 「武者震いだ」
 「ぶっぱなすんか」
 「お前次第だ」
 「君からお前に変わったな、呼び方が。そっちが地金か」
 「バッグをとって放れ」
 銃口で振って促す。
 「扱えるんか、素人が」
 ズボンをたくし上げ、いちもつをしまいつつ若者がからかう。
 「ただ引くだけだろ」
 「反動が凄いで。ホンモノさかい」
 「ご忠告ありがとう。しっかり両手で握る」
 虚勢ともつかぬ笑みを浮かべる。
 若者が鼻白む。
 「……そっちの事情は知らない。知りたくないし興味もない」
 「イケズやな、身の上話聞いたったのに」
 「好きで話したんじゃない。脅されて仕方なくだ」
 「すっとしたろ?」
 「………」
 「その顔はずぼしや」
 銃をつきつけられているというのに至って飄々と振る舞う。
 ひとを食った態度に腹が立ち、精一杯ドスを利かせた声音で被せて命じる。
 「バッグをよこせ」
 肩を竦める動作つきで、足元に転がったバッグを蹴り飛ばす。
 床を転がってこちらにやってきたバッグを両足に挟み、銃口とまなざしは正面に据えたまま左腕で慎重に抱く。
 ずっしり腕にこたえる重みに、知らず口元が綻ぶ。
 漸く返ってきた。無事取り戻した。
 これで彼女も喜んでくれる、逃避行が叶うー……
 「騙されとるで」
 顔を上げる。
 肩に掲げた手をおろし若者が苦笑する。
 「お人よしやなあ。気づかんかったんか」
 「どういう意味だ」
 「考えてみ。金庫の暗証番号吹き込んだの誰や、実家の父親が倒れたて泣きついて背中を押したんは?あんさんみたいな腰抜けが後押しなしで横領なんて大それた事できるかい」
 一息つき、言う。
 「女に唆されたんやろ」
 「違う」
 「信じとるんか、百パーセント」
 「ああ」
 「携帯でじかに言えるか?」
 動揺の波紋が胸に広がる。
 隙を誘う魂胆かと勘ぐるも、若者は挑発的な態度をくずさずへらへら笑っている。
 「やっぱり。あんさん、騙されたんや。ええように利用されたんや」
 「そんな人じゃない」
 「電話できんのやろ?心の底では疑っとるから確かめるのが怖いんやろ」
 若者が一歩間合いを詰める。
 底知れぬ気迫に怖じて、一歩後退する。
 また一歩、もう一歩と間合いを詰める若者に気圧され、視線は切らぬまま極端な緩慢さで円を描くように移動する。
 「お前に何がわかる」
 「あんさんが救いがたいお人よしって事は」
 「ほんの一時間しか一緒にいないのに?」
 「体に聞けばわかる」
 恥辱と怒りで顔が染まる。
 一郎のウブな反応を愉しみ、くつくつご満悦に喉を鳴らして若者が言う。
 「金持って落ち合って逃げたろかって女が、どうしてメール一本よこさん」
 「え……」
 「電源切っとるんか?ちゃうな。今までもこっちから掛けてばっかで、むこうから来た事一度もなし?」
 くつくつ、くつくつ。
 「彼氏が一時間音信普通やぞ。心配でたまらんとメールよこすんがフツウの心理やろ」
 「……彼女は……おおらかな人だから。ちまちまメールを打つのは好きじゃない……」
 「彼氏が横領したんやで?成否気になんのが当たり前」

 そういえば、どうしてかかってこない?
 こんな大事な日に。
 ふたりの運命を決める日に。

 ありえぬ想像に喉がひどく渇く。
 優柔不断な性格が災いし疑心暗鬼の暗示に洗脳され、銃を構える手がねっとり汗をかく。
 素性の知れぬ若者の根拠ない言葉をでたらめだ、嘘っぱちだとはねつけられるほど強靭な精神力を持たず、周囲に流されるまま生きてきて、人に依存する事でなんとか保たれる惰弱な意志が揺らぐ。
 両者、壁を背に膠着する。密室の閉塞感がプレッシャーを倍加し、体を圧す重力が増す。
 若者はなにもかも見透かしたように、憐れみに似て慈悲深く透徹した笑みさえ浮かべ、顎をしゃくる。
 「怖いんか?」
 「まさか」
 「裏切られるかもしれんて」
 「信じてる」
 「ならかけてみ。すぐすむやろ、ほんの一分か二分や。無事金手に入れて、今すぐそっち行くって教えたり。彼女を安心させるのが男の義務や」
 心理的な駆け引きに絡めとられ、胸に広がる波紋が猜疑の泥沼へと変わる。
 催眠術をかけるような抑揚に誘われ、右手に銃を預けたまま左手でさぐって携帯をとりだす。
 短縮を押す。
 しばらく、待つ。
 どうか出てくれという願いと出ないでくれという祈りがもの狂おしく交錯する、汗ですべりそうな携帯を持ち直す、深く静かに呼吸を整える、若者はじっとこちらを見つめている……
 『一郎?』
 ほらやっぱり、思い過ごしだったじゃないか。
 いつもどおりの彼女の声を聞くや、安堵のあまり座り込みそうになるのをこらえ、喉にためた息を押し出す。
 「俺。今から行く。ちゃんと戸締りして待ってて」
 『もう、遅いから心配したのよ!なんかトラブルあったんじゃないかって、携帯かけようか何度も』
 『うるせえぞ、奈津美』 
 え?
 突如割って入った不機嫌な男の声に硬直する。
 『お前のキンキン声のせいで起きちまったじゃねえか……ぶあっくしゅ、ああさみィ、風邪ひいちまう。服とってくれ』
 『うるさい、しずかにして』
 『パンツどこだ?みつかんねーぞ……』
 手で携帯を覆っているのだろうやりとりは奇妙にくぐもり、しかし想像力で補完して、およその概要を掴む。
 彼女は家にいる。
 なら、彼女と一緒にいる男は?
 彼女の隣に裸で寝ている、やけに聞き覚えある声は?
 『パンツで思い出したけどよー、ははっ、あいつ、うちの鈴木』
 心臓が高く跳ねる。
 『傑作だぜ、黄色に縦縞のパンツはいてんの。下半身まで阪神ファンかよ』
 暇じゃねえんだよこっちは。
 今月もノルマ最下位のお前が体で詫び入れたいっていうからわざわざ面子集めてやったんだ、感謝しろ……
 『ごめんね、友達が遊びにきてて……すぐ追い返すから』
 「……服」
 『え?』
 「風邪ひくから、ちゃんと着とけ」
 おそらく下着姿か―最悪、全裸にタオルケットをまとっただけのあられもない姿がありありと想像できてしまう。
 なにか言いかけるのを遮り、携帯を叩き切る。
 バッグを抱いた腕からふっと力が抜けていく。
 鈴木、お前留守番しとけよ。どこ行くんですか?女だよ、女……どうせ人の女だろ、加藤。お前ひとのもんにしか興味ねえからよ……そうだよ、よくわかったな。今の彼氏がふにゃちんで物足りないってしょっちゅう嘆いてるヤリマン女、加藤さんのムスコが恋しい、今すぐ頂戴ってうるさくてさ……
 放り投げた携帯が円を描いて床を滑る。
 そうして鈴木一郎は二度目の手ひどい裏切りを受けた。


 「元気だしいや、あんさん」
 「だしたくない」
 「女なんてほかにもおるがな」
 「俺には彼女しかいなかった」
 「もっとええ女さがせ」
 「もう女はやだ」
 「ほな俺が」
 「男はもっとやだ」
 結論。
 「みんな死んじまえ………」
 壁際で膝を抱え鬱々と呪詛を紡ぐ一郎に声をかけあぐね、若者はぽりぽり頬を掻く。
 「……やる」
 厭わしいものを遠ざけるようにさっきまで大事に抱いてたバッグを放り投げてよこす。
 「やるてあんさん」
 「好きに使え。俺はもうどうでもいい」
 「女に振られたくらいでヤケになるなや」
 「お前のせいじゃないか……」
 彼女に三股をかけられた一郎は傷心深く、失意のどん底で世を呪い人を呪い膝小僧に顔を埋める。
 「じ、じぶんの彼女とヤりにいく男を、いってらっしゃいって笑って送り出したんだぞ……しかも三股……一時間も放置プレイしてた意味がやっとわかった、お楽しみだったんだ、俺の事なんか忘れて……」
 「道化やなあ」
 「実家の父親が倒れたっていうのも嘘だ、きっと」
 「駆け落ちもどこまで本気かわからんな。勝手に妄想育てたんちゃうか」
 「優先順位……一番低い……」
 「恋人のつもりだったんはジブンだけか。切ないなあ」
 しみじみ相槌を打つ若者をよそに、額をきつく膝におしあてる。
 「ちくしょー……」
 彼女だけが支えだった。
 彼女がいれば生きていけると思った。
 恋人と幸せになりたい一念で犯罪に手を染めたのに、肝心の彼女にとって一郎はいつでも取り替えのきく遊びの相手だったのだ。
 にわかに上階がばたつきだす。
 若者が天井を仰ぐ。
 「ぼつぼつ帰ってきたみたいやな」
 「…………」
 「上がりのエレベーター使たんかいな。行き違いやな」
 「…………」
 「バレたみたいやで」
 鉄板を隔てた上方で怒声と罵声が飛び交い、不特定多数の靴音が入り乱れる。
 一郎は顔を上げない。膝を抱いて顔を埋めたままぴくりともしない。
 さっき一郎の手に渡った銃は、今、若者の手の中にある。
 もうどうなってもいいと自閉する一郎と微妙な距離とり、若者は口を開く。
 「俺のオヤジな、アル中やねん」
 一郎は顔を上げない。
 背後の壁に寄りかかり、さばざばした口調で生い立ちを語る。
 「生まれは大阪。お袋はガキの頃に家追んでた。俺が小坊の頃からオヤジは酒びたりで、まあそんなウチさかい、中学入るまで両手の指じゃ足らん数家出をくりかえした。なんとか行けた高校じゃ一端のワル気取り、族でブイブイ言わして……卒業と同時にスカウトが来た。ほんでまあ、他に就職のあてもなし、極道の世界に」
 黄色いサングラスのむこう、険しい双眸で虚空を睨む。
 「ヤクザいうても最初からええ車乗って威張り散らせるわけやない、最初は地味~に舎弟から、パシリも同然にこき使われて……兄貴分の鞄持ちやら送り迎えやら事務所の掃除に洗車まで……まあ、ていのええ雑用係やな」
 聞き手の反応がなくても気にせず、続ける。
 「真面目にやっとればよかったんやけど、つい悪い癖がでた。浪速のフェロモンタイガーの血が騒いだっちゅーか……兄貴分の女とな、できてもうたん」
 かすかに動く。
 「女……ちゅーか、あれやな。内縁の妻?俺もまだまだヤりたい盛りやし、相手も乗り気やったし、ずこばこハメて愉しんどってん。それが兄貴にバレてもて、もー死んだほうがマシっちゅうくらいしこたま殴られた。すいません、ごめんなさい、許したってくださいって土下座して詫びいれたわ、だらだら血ィ流しながらな。そしたら兄貴がな、よし、そこまでいうならチャンスをやるいうて、こいつをくれたんや」
 ガンマンのような手つきで銃をくるりと回し、ふっと一吹き。
 「早い話、鉄砲玉や。上京費用はもったるさかい、ぱっと一華咲かせてこいて」
 一郎がのろのろ顔を上げる。
 顔には涙が乾いたあと。
 「ヤクザもリーマンと一緒。上に言われたら逆らえん。ましてや兄貴には借りがある。せやけどな、ホンマいうと……」
 俺、むっちゃびびりやねん。
 そう言って、革ジャンの懐に銃をしまう。
 欲しい欲しいとねだったものの自分の手に余るおもちゃを伏せるように。
 不貞腐れた子供のように胡坐を組み、頬杖ついてそっぽを向く。
 「兄貴は言うた。大丈夫、鉄砲玉いうても死なん死なん、かっこだけ。ハッタリ利かしてびびらして、ひとりかふたり撃ったらはよ逃げてこい。二年か三年、ひょっとしたら四年か五年懲役くらうかもしれんけど、でてきたら幹部にとりたてたるって……」
 『お前の覚悟が見たいんや、俺は』
 「信じたのか」
 「ああ」
 はにかみと決まり悪さとが混じった渋面で頷き、ばたばたと音がする天井を仰ぐ。
 「あんたのことよう言えん、俺かて一緒や。女に手えつけときながら、兄弟分のよしみで見逃してくれるて……心んどこかで甘えがあった。兄貴のこと信じとった」
 「けど……今日は社長、出払ってるぞ」
 「で、な。考えたんやけど、こない筋書きちゃうかって」
 一郎が顔を上げる。泣き腫らした目に好奇心の光が瞬く。
 一郎の興味を引いた事でよしよしと悦に入り、若者は推理を口にする。
 「あんさんと俺がかちあわせたの、偶然か?」
 「………は?」
 思いがけぬ台詞にたじろぐ。
 「いや、せやから。横領と殴りこみのタイミングが被るてフツウありえん。んで考えたんや、兄貴と社長が裏でつながっとったら辻褄あうんちゃうかって。もし俺がエレベーターの故障に巻き込まれんで五階に行ったら?事務所はもぬけのから、金庫はすっからかん。で、ここにひとが帰ってきたら……とうぜん、俺が犯人やと思う」
 「ああ」
 「俺は強盗の濡れ衣で殺される」
 「無茶苦茶だ」
 「見知らぬ若いのがチャカ持って事務所におったら……どうなる?金庫は開きっぱで金は消えとる。そいつをふんじばって殴る蹴るして、行き過ぎて死んでもうても……法律はともかく、ヤクザの世界では筋がとおる。西から来た鉄砲玉が金ぶんどって逃げはった、けしからん、いてもうたれって大義名分が立つ。鉄砲玉になりそこねてあげく空き巣に鞍替えしたらそら関西かて切るわな」
 若者は自嘲する。
 「兄貴に売られたんや、俺は」
 「でも……じゃあ、俺は?留守番してたのに」
 「俺は鉄砲玉でお前は会社の人間。事務所ではち合わせたら……」
 緊迫を孕む視線が絡み合う。
 「テンパっとったさかい、あの時。ドアにでもあたらならやっとれんわ。金庫破りに出くわして揉めたとか、金を奪い合って逃げたとか……まあどうとでも理由こじつけるやろ。殺さんまでも組の人間て勘違いして撃ったんは確実や、せやないとかっこがつかん、東京くんだりまで来て手ぶらで帰れるかい」
 皮肉にも命拾いしたと知り、一郎は複雑な表情で追及する。
 「お前が濡れ衣で始末されたあとどうなる、金もってるのは俺なのに」
 「さあ?まあ予想はつくけど」
 自分を指さし困惑する一郎を見返し、あっけらかんと嘯く。
 「あんたの彼女経由で社長に筒抜けやった可能性。ちゅーか、もともと社長が女に吹き込んだやないか。お前が付き合っとる男な、あのとっぽい兄ちゃん、あいつ単純さかい、実家の父親が倒れて金に困っとるちゅうて泣きつけ。暗証番号もついでに教えたれ。お前に首ったけさかい、何でも言うこと聞くわって」
 「嘘だ!」
 「横領しよ言い出したの女の方やろ。さっき言うたよな、自分ひとりやったら度胸なかったって」
 なにからなにまでそのとおりだ。
 実行犯は一郎だが、計画を立てたのは彼女だ。
 恋人の安全を第一に考えた一郎は彼女を家に残して来たが、もしそうなら―もうすぐ大金が手に入る、その金で駆け落ちをしようと考えている女が、呑気に男と乳繰り合ってるはずがない。声だって、もうちょっと緊迫していていいはずだ。

 ああ。
 そうか。
 なるほど、そういうことね。

 「失敗するて、はなからわかっとったんや」
 一郎が死ぬ気で奪って逃げた金は、一旦彼女の手に渡り、社長に返還される予定だったのだ。
 「ジャマな俺を始末して、札一枚欠けんと回収して、そちらはんは痛くも痒くもない」
 一郎の性格ならまず、彼女にバッグを渡す。
 彼女の父親の容態を一番に気にかけて、入院費だの手術費だのもろもろの費用を一括払いするために、「それ頂戴」と魔性の笑みでさしのべる手に疑う事なく―……
 「……どうして身の上話を?」
 「そっちだけ話させんのフェアちゃうやろ」
 「……うん」
 「うん、て。覇気ないなあ」
 苦笑する若者につられ泣き笑いする。
 笑いあうふたりをよそに上がまた騒がしくなる。
 「あー、どうしよ……」
 「こっちの台詞や」
 暗く絶望した目でドアを凝視、なげやりに言う。
 「ドアが開いたら死ぬな、俺」
 ドアのむこうには地獄が待つ。
 行くあてはない。実家に迷惑はかけられない。
 ならいっそここで潔く……
 「そうは限らんで」
 振り返る。
 鞄を抱いて立ち上がった若者が人さし指を上に向け、ついで下に向ける。
 「ここ何階や」
 「?だから四階と五階のあいだ……」
 思わずあっと叫びそうになる。
 「下り専用やろ?」
 若者がにやりと笑い、靴裏で軽快に床を叩く。
 「あんさんが横領犯になったのは必然、俺が鉄砲玉になったのも必然。エレベーターが壊れたんは?……偶然や」
 時として偶然は最大の味方となる。
 「上のヤツらは下りの故障に気付いてへん、俺らが閉じ込められてるて知らんのや、まだ。ほんで……まあ、聞けや」
 とっておきの悪戯を思いついたように含み笑う。
 「五階に行く前にざっと下調べしたんやけど、このビルの二階トイレの窓な、ほそくてせま~い路地に面しとんねん」
 「―でれるのか?」
 「手足を突っ張って、壁を伝って下まで降りて……」
 本当にできるのか、そんなことが?
 「……待て。待て待て。いつ動き出すかわからないし、それまでにここにいるってわかったら待ち伏せされておしまいだ」
 「エレベーターは下に動く」
 「五階を押したろ!?」
 「下に動けって念じるんや、力を合わせて」
 「ムチャだ、できっこない、どうせつかまる、そうだバッグを返して謝るんだ、まだ間に合う、手つかずで返せば許してもらえる……」
 バッグを奪い返さんと手をのばすや逆に肩を掴まれる。
 
 「お前、名前は」
 「鈴木一郎」
 「偽名か?もうちょい捻れ」
 「大変遺憾だけど本名だ」
 「ちょうどええ、逃避行にぴったりや」

 そして言い切る。
 「ブラック会社に逆戻り、やめる踏ん切りつかんとずるずるい続け、したくもない仕事させられて胃ィ痛めてこんなんちゃうって愚痴口言いつつ生きる、そんな生き方にけりつけたくて金盗んだんやろ、それをなんや女にふられたくらいでうじうじと情けない、タイガースかて万年最下位に甘んじてるわけちゃう、少しでも上にあがろあがろて足掻いてがんばっとる、俺がいてお前がいて金がある、もっとでっかく野望をもてや!!」
 「おま、え、なに言ってんだ!?逃げるなら一人で行けよ、巻き込むなよ、俺は平凡を愛するんだ!!」
 「アホぬかせ、おどれはもう平凡の道はずれとるんや!!」
 「大体今日会ったばかりで、しかも初対面からガンガンドア蹴りつけて態度でかくてがさつでうるさくて、しかもさっきなにした、無理矢理ヤッたろ、さんざん恥ずかしい台詞吐いてぐちゃぐちゃいじくり倒しやがったくせに!!」
 付き合いきれない、コイツ頭おかしいんじゃないか。
 俺は平凡な日常に戻る、鞄を持って事務所に帰って土下座で詫び入れてなかったことにしてもらう、それしか方法はない。

 一方で誰かが囁く。
 帰る場所はあるのか?
 行くあてがあるのか?
 このさい運命だと割り切ってこのアホについていくしかないんじゃないか?

 「体の相性ばっちし、俺らええボケとツッコミになるで!」
 「意味わかんねえよボケとツッコミって、大体さっきのアレなんだ、なんでヤッたんだよ!?」
 「お前見てたらむらむらしたんや!こう、いじめて泣かせたくなるタイプっちゅうか、言う事聞かす一番てっとりばやい方法がアレのコレで、な、男ならわかるやろ?」
 「下半身タイガーが!!」
 くんずほぐれつ揉み合う振動が箱全体に響き、ワイヤーに負荷がかかって不安定な縦揺れが襲う中、電気系統が復旧して壁面のボタンにあかりが点る。
 上になり下になり折り重なって転げ回るうち上を制した若者が、一郎の顔の横に両手をつきキスを迫るように急接近。
 「行くとこないんやろ?」
 「誰が強姦魔についてくか!」
 「道づれにしたる言うたのそっちーーーうぐぅ!?」
 蹴りが偶然にも股間を直撃する。
 「堪忍……!」
 両手で股間を庇いよがり狂う情けない姿を見つめるうち腹の底から衝動がこみ上げて、もう失うものなど何もないと突然落雷に打たれたように理解し常識の縛りが吹っ切れて突き抜けた爽快さに至り、この二年間こんなに笑ったことはないという位の捨て鉢な勢いで爆笑する。
 「は、はは……はははははははっ」
 二人の大暴れが契機となりエレベーターが再始動、パネルに光が乱舞する。
 「賭けや!」
 サングラスがずれた顔に生々しい引っかき傷を作った若者が一郎を押し倒す。
 「エレベーターが下に行ったら俺と逃げる、上に行ったら好きにせえ、ブラック会社に戻れ」
 蛍光灯が点滅し明と暗とがめまぐるしく錯綜する視界の中、間近に迫る顔を睨み返す。
 「どうして俺なんだ?」

 こんなダメなヤツを
 たまたまエレベーターで一緒になっただけの男を。

 「……験担ぎ」
 「?」
 「レシート。ラッキーセブン。信じてみるわ、俺も」
 天国と地獄の狭間で動き出したエレベーターの中、上に乗っかった男が無敵に不敵に微笑む。
 「吉とでたら最高の笑い話や」
   


 上か下かで運命が決まる。
 デッドエンドかリセットか、ふたつにひとつ。


 
 さて、結局のところ賭けがどちらの目に出たのか、7ならびのレシートはご利益あったのかの詳細は省くとして。
 後日、一郎はとある海辺の町を歩きながら、意外な告白を聞くはめになる。
 「俺の名前?……サトウ タイガ」
 「タイガ?」
 あんたとかお前とか曖昧な呼び方で茶を濁していたがこのままではいけないと決心し、尋ねた一郎は面食らう。
 「どう書くんだ?」
 「聞いて驚け」
 コンクリートで固めた護岸からとびおりたタイガは、逃亡には全く適さない例の尖った靴で砂浜にでかでかと自分の名前を書く。
 「笑たら殺す」
 

 『大威牙』


 「こんな名前に生まれたらタイガースファンになるしかないやろが、アル中オヤジのド阿呆!!」
 「……確かに、タイガースファンになる為に生まれてきたような名前だな」
 護岸を刳りぬいた階段を下り、タイガの隣に立つ。
 「名前は強そうなくせに中身はびびり」
 「うっさいぼけかす死ね」
 「虎の皮を被ったオス猫ってとこか」
 「……ビルじゃ俺にヤられてひんひんよがっとったくせに」
 拗ねたタイガは尖った靴の先でざくざく砂を掘り返す。
 「三階で途中下車したのだって……」
 「びびってちびりかけた。悪いか、おかげで助かったろ」
 「窓から覗いたおかげで同じならびにトイレがあるってわかった」
 寄せては返す波が砂をさらう。
 砂を蹴散らし憤然と歩くタイガを追いつつ、つっこむ。
 「階段使え、鉄砲玉」
 「そっちこそ、横領犯」
 「こだわりあるのか?」
 「エレベーターの扉開いたとたん腰だめに抱えたマシンガンババババッて乱射、蜂の巣にされた敵がばっばった倒れてく……」
 「……映画の影響?」
 「……憧れたんや」
 「拳銃じゃ無理って気づけよ……」
 「イメージや、イメージ」
 「にしてもタイガね……」
 前を行く男の背中を見つめ、浜辺を歩く逃亡犯の片割れは鈴木一郎というフツウの名前に生まれた事をしみじみ感謝するのだった。
 平凡の基準からは大きく逸脱してしまったけれど、うるさい相棒のおかげでとりあえず退屈だけはしない日々をおくっている。
 まあこれはこれでありかもしれないとバッグを片手に苦笑するのだった。

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