ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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凡夫危うきに近寄り、喰われる3

 「面白い計画?」
 「便宜的にバンリ奪還作戦とでも名づけようかしら」
 話に興味を引かれ、一旦浮かしかけた腰をソファーに押し戻す。
 テーブルの上にはコーヒーの水溜まりが広がっている。
 「大丈夫ですかお客様?」
 「すいません」
 異状を察したウェイトレスがとんできてフキンでテーブルを拭く。
 一礼して去るウェイトレスから視線を切り、シュリにつっかかる。
 「……詳しく、手短に話せ」
 「矛盾してない?それ」
 「むずかしい注文ある」
 シュリが微苦笑し、張がつられて笑う。
 俺はとてもじゃないが追従する気になれず、しかめっつらを保つ。
 老若男女、カップル、家族連れで構成される雑踏が無声映画の如く窓の外を流れて行く。
 休日の昼下がりに街を闊歩する人々は能天気に楽しげで、両親と手を繋いだ幼児が笑い、寄り添い腕を組む恋人たちも笑い、皆が平和に笑っている。
 携帯を耳にかざしたサラリーマンが足早に歩いていく。
 少し離れて従うのは後輩だろう初々しいスーツ姿の青年。
 一生懸命先輩を追う新社会人の顔に、もうだいぶ薄れかけたあいつの顔がだぶる。
 「……もうちょっとゆっくり歩いてやりゃいいのに」
 「?」
 「あれじゃ追いかけるのが大変だ」
 先輩は後輩がついてくるのが当たり前だと思っている。
 携帯での交渉に夢中になるあまり、後輩へのフォローをド忘れしている。
 後輩は文句ひとつ言わず、一途に思い詰めた顔と憧れのまなざしで、自分に構わず先を行く背中についていく。
 俺たちにもあんな頃があった。
 追いかけるだけで精一杯、追いつくのが目標、追い越すなんてまだまだ先の話。
 そう思っていた。
 俺はなにも言わなくても千里がついてくるのがあたりまえだと思っていて、一種の優越感さえ覚えていた。
 だがもうすぎた事だ。
 千里は消えた。
 俺の前からいなくなった。
 シュリが俺を見る。粘着な視線が顔にまとわりつく。
 「会社にもう、あいつの机はない」
 あいつの居場所はない。
 どうにか冷静さを保つ、平常心を持ちこたえる。
 俺は今、普通に振る舞えてるだろうか。
 激情に流されず、正常なふりができてるだろうか。
 目をつぶる。息を吸う。吐く。
 激情の発作は去った。
 落ち着いて言葉を返す。
 「あいつは自分の意志で会社を辞めた。上司からそう聞いている。……俺が拉致られた日に電話で自主退職を願い出たと」
 「そう」
 シュリが促す。
 「今さら会社に戻ったって居場所がない、引継ぎもせず辞めて上司はカンカンだ。せめて翌日か、最悪一週間以内に撤回すれば何とかフォローしてやれたかもしれないけどもう遅い。手遅れだ」
 一呼吸おき、続ける。
 「理由はどうあれ、俺もあいつの身勝手に怒ってる。突然担当者が交代したせいで得意先に迷惑かけたし、後任は尻拭いと穴埋めに奔走した。千里を気に入ってた得意先ほど株は暴落して、せっかく築いた信頼もパアだ」
 ぶちまけたコーヒーの代わりにコップの水を呷り、感情を鎮める。
 「辞めるなら辞めるでちゃんと顔を出して事情を説明するのが最低限の礼儀だ。辞表も出さず携帯で報告なげっぱなしなんて無責任すぎる、はっきり言ってがっかりした」 
 「どうせユウリに脅されたのよ」
 「千里はとっくに成人してる、どんなむちゃくちゃ言われたって聞く義理ねえ、毅然とつっぱねりゃよかったんだ。兄貴に辞めろって言われてはい辞めますなんて人形じゃねえか」
 せめて一言相談してくれたら。
 いまさら言ってもどうしようもない事を悔い、信頼に足ると思われなかった哀愁を噛み締める。
 シュリが華やかな笑い声をたてる。無神経を極めて、いっそ痛快だ。
 「あなたならユウリにさらわれた翌日もきっちり会社にでたでしょうね」
 「出たさ。死ぬ思いでな」
 詳しく説明したくも思い出したくもないが翌日の体調は最悪で、椅子から立ち上がるや貧血を起こし、結局午前中に早退を余儀なくされた。
 外回りで組む予定だった羽鳥はぐったりした俺に肩を貸し、会社の玄関先まで送り、タクシーに乗るのを手伝ってくれたという。
 「真面目な人間ほど不真面目を軽蔑する。責任感の強い人間は無責任を批判する」
 「千里がしたことは俺には逃げにしか見えない」
 「手きびしいわね」
 「事情が変わっちまったんだ。俺は今」
 挑むようにシュリを見つめる。
 「千代橋梓と付き合ってる」
 きっぱり断言する。
 「さっきの子ね?」
 「ああ」
 「可愛い子じゃない。礼儀正しそうなお嬢さんだったわ」
 「会社の後輩だ。いい子だよ。俺にはもったいないくらいだ」
 瞼の裏を千里と千代橋が交互に過ぎる。
 今さっき振りほどいた手のひらのぬくもり、髪から漂うシャンプーの匂いを思い返す。
 「俺は、千代橋を大事にしたい」
 今の正直な気持ちを告白する。
 「蔑ろにして哀しませたくない」
 千代橋はいい子だ。
 ぼろぼろの俺を癒す為に何も聞かず抱かれてくれた。今も支えてくれている。
 裏切りたくない。
 「……そもそも俺はノーマルで、恋愛対象はずっと女で、男に好きだって言われても困る。なんで俺なんか好きになったのか知んねえけど……力づくで無理矢理、あんなのってありかよ」
 最悪だった。最低だった。痛かった。情けなかった。悔しかった。
 「ゲイだろうがバイだろうが個人の性癖に口出すつもりは毛頭ねえ、でも俺を巻き込むな、ひきずりこんでめちゃくちゃにするな。ヤッてから告白って、だいたい順序が逆だ」
 「正しい順序なら?」
 「……できることがあった」
 「お情けで交際してあげた?」
 「無理だ」
 「セフレになったげた?」
 「ますます無理」
 「詭弁じゃない。たとえ告白が先でもあなたはそうやってのらくら優柔不断に逃げ続けたはずよ、ヘテロが男に好かれたって迷惑だものね」
 「それでも考えた」
 シュリが目をしばたたく。
 「納得いくまで、とことん考えてやった」
 告白が先だったら。
 俺は、きっと、そうした。
 所詮は実現しなかった仮定論でしかないが、千里の気持ちにこたえられない代わりに、どこまでもどこまでも真剣に悩んでやるつもりだった。
 譲歩や妥協という言葉は使いたくない。
 俺と千里、同性愛者と異性愛者、平行線はどこまでいっても平行線で重なりはしないだろうが、千里が本当に本気で俺を好きでいてくれたなら、姑息な罠など仕掛けずその気持ちをはっきり言葉にして伝えてくれたなら、最終的に重なり合えなくても近付く努力はした。
 「せめて、共感したかった」
 千里は臆病だ。
 ホモ嫌いに告白したって報われるはずはないと勝手に決めつけて、薬で意識を奪い強姦し、それをネタに脅迫するという極端から極端に走った。
 俺は潔癖だから、男同士のセックスなんて考えられない人間だから、心が手に入らないならせめて体だけでもと思い詰めて強姦したというのがあいつの主張だ。
 一時期それを鵜呑みにしかけたが、千里と一緒に行動する回数が増えて、俺と親しくなるために将棋を勉強したり見舞いに来たり不器用としか言いようない一面を知るにつれ偏見が薄れ―そもそもあいつの行為とそこに至る手段に抜き去り難い嫌悪感を抱きはしても、同性愛者だという事実自体には全く嫌悪感を抱いてないことに遅ればせながら気付いた。
 「告白してもどうせ断られんなら力づくでヤッちまえって、そんなの自分を正当化してるだけだろ?そりゃ何度もホモだとか変態だとかサドだとか罵ったさ、けど順番が逆だったら、告白が先だったら絶対そんな台詞吐かなかった」
 あいつが率直に気持ちをぶつけてきたら、絶対逃げなかった。
 「報いるのは無理でも、蔑ろにだけはしなかった」
 あいつは、千里は、俺を見損なっていた。
 俺はその程度の人間だと思われていた。
 「……あいつがやったことは許せない」
 「そう」
 「俺はあいつを憎んでる。取り返したいなんて思っちゃない」
 始まりから間違っていた。
 間違ったまま、ここまで来てしまった。 
 虚勢ともつかぬ毒々しい自嘲の笑みを吐き捨て、言葉を重ねる。
 「取り返したいなんて思うもんか、あいつがいなくなって首の皮つながったよ。本音言うと会社行く度びくついてた、顔見るたび動悸がした、ぶわっと汗がでた。笑えよ、びびってんだ、あんな華奢なヤツに……二年も後輩なのに。プライド、ずたぼろだよ。あいつだって横槍を望んじゃいない、こないだホテルではっきり言われた。あいつは」
 瞼の裏に浮かぶ千里の顔。
 しつこく食い下がる俺を冷たく拒絶する他人行儀な笑みに、暗い怒りが燃え立つ。
 「有里を選んだ」
 「まるで嫉妬ね」
 「………」
 見透かすような揶揄に卓上の手を強く握りこむ。 
 「あなたとバンリの間にあった事は大体聞いてるわ」
 「なら」
 一呼吸おき、言う。
 「もう俺に関わるな」
 俺の人生をめちゃくちゃにした張本人。
 「金輪際名前をだすな」
 口で命令し、心で懇願する。
 「お前たち家族の泥沼に巻き込むな。そっとしといてくれ」
 何か言いかけたシュリを遮り伝票をもって席を立つ。まとめて会計を済ますつもりだ。
 これでいい。
 無理矢理自分を納得させる。
 もうお前たちとは一切関係ないと、はっきり態度で示した。
 今の俺には千代橋がいる、どっちつかずの優柔不断が原因で彼女を不幸にしたくない。
 その為に、足手まといの思い出を断ち切る。
 千里の面影を切り捨て、けじめをつける。
 伝票をひっさげ大股にレジに向かう俺の耳に、興醒めした声が届く。
 
 「あなたは数ヶ月かそこらだけど、バンリは十年よ」
 
 足が止まる。

 「あなたがバンリに好き勝手された期間はたった半年かそこら。あの子は十年耐えた。今も耐え続けてる」
 聞くな。無視しろ。
 「見捨てるの?見殺しにするの?それでいいの?後悔しないの?」
 うるさい。
 質問攻めに背を向ける。
 「あなたがバンリにされたことも相当えぐいけどユウリはそれ以上。ユウリったら笑っちゃうわ、日本に帰って真っ先にしたことといったら……バンリをストーキングして、おなじ電車に乗って痴漢よ。馬鹿みたい。さかりすぎ。中にローター突っ込んでずっと耐えさせたっていうんだから性格悪いわ。食事まで付き合わせて……」
 胃が縮む。
 吐き気が襲う。
 俺は、俺を抱く千里しか知らない。
 ユウリに、他の男に抱かれる千里なんて想像できねえししたくもねえ。
 「ホテルの上階に部屋をとって連れ込んで」
 「やめろ」
 「一晩中お楽しみだったみたい」
 「黙れ」
 「興味あるんでしょう。知りたいんでしょう。教えてあげてるのよ、感謝なさい。バンリがどんなふうに実の兄に抱かれてるか……」
 「黙れ!!」
 苛烈な怒声が響き渡る。
 テーブルを囲む客が一斉に顔を上げ、あ然と俺を見る。
 「……黙れよ、いいから……」
 この上俺に何を望む?どうして欲しい?
 シュリが優雅に席を立つ。
 すれ違い際やんわり俺の指をほどいて伝票を奪い、耳元で囁く。
 「気が変わったらいつでも名刺の番号に電話して。待ってるわ」
 「……何が目的だ。あいつがどうなろうが知ったこっちゃないんだろ」
 「知り合いの頼みとでも言えばいいかしら。借りがあってね、断れないのよ」
 レジで支払いを済ませドア開け放つや、巻き髪を一振りして去っていく。
 残り香立つ優美な後ろ姿が目に焼きつく。
 「再見クズミ。シュリさんの話よく考えるいいね」
 存在を忘れていた張が、なれなれしく肩を叩いて顔を近づけてくる。
 「ユウリ一泡ふかす、バンリ助かる。これ一挙両得、一石二鳥よ。お前ホントは未練たらたらよ、かこ悪いね」
 「てめえに何が……」
 「あの最中、何度も名前呼んだね」
 耳を疑う。
 俺の肩を強く掴み、耳朶に吐息を絡めるようにして囁く。
 「お前クスリでぐでぐで覚えてない無理ない。でも確かよ、中国人嘘吐かない。チサト、チサト、呼んでたね」
 言い返したくても言葉が出てこない。
 張の方を向くや、人さし指がめりこんで頬がくぼむ。
 『不是我的対手』
 人さし指が突き刺さった頬を押さえ、立ち尽くす。 
 ポケットの中には、シュリから渡された名刺が一枚入っていた。


 
 『余裕ありませんね』
 『……っ、いい加減どけ、重い……腰が痺れる……』
 『騎上位のほうがいいですか?大胆だなあ』
 苦しい。熱い。頭が朦朧とする。
 全裸の千里が獣じみた体位で上に乗っかってるせいだ。
 千里の指が探り当てるまで、舌がしつこくねぶるまで、男の乳首が性感帯に成り得ると知らなかった。
 腕に力が入らない。
 だるい腕を持ち上げ、跨る千里をどかそうと試みるも、千里は邪魔っけに顔を顰めただけでいともたやすく俺の腕を制す。 
 『!ひあ、』
 『ねえ、男性でも乳首感じるでしょう』
 よせ。やめろ。
 喉の粘膜が乾いてひりついて声がでてこない。喘ぎ疲れか。
 体の裏も表も汗と唾液で濡れそぼって気持ち悪ィ。
 長い指が乳首を捏ね、強弱つけてつねる。
 悪戯な舌がつつき、唾液を塗して窄めた唇でやわやわとはむ。
 『敏感になりましたね。最初はくすぐたがってるだけだったのに、ほら、下も……』
 敏感になりすぎて、痛い。
 波打つシーツを蹴り上げる。汗が流れ込んで目が霞む。
 千里は笑う。
 会社で見せる屈託ない笑顔とはまったくの別物、人懐こさを吹き消した嗜虐的な笑顔。
 『痛ッて……』
 栓を締めるようにきつくつねられ、甘く鋭い刺激に背筋が撓う。
 もう何時間、重点的に責められてるんだろう。
 俺は淫乱だから乳首だけでイけると断言したのは千里だ。
 最初はくすぐったいだけだったのに、ぬるつく手と舌と唇とで捏ねられるうちに違う感覚が芽生え始め、包皮を剥かれた核心の如く過敏になった突起がぴりぴりひりつく。
 俺の心を読んだか、そこに口づけて揶揄する。
 『クリトリスみたいですね』
 『んぅっ』
 恥辱に顔が燃え立つ。
 軽く歯を立てられ、痛みとごっちゃになった快感が貫く。
 『まめに可愛がってあげなきゃ……だめですよ』
 『ちさ、と、も…………そこ、じゃねえ、下……じらすな……』
 乳首ばかり手と舌と唇でもって重点的になぶられて、半勃ちのペニスはずっとほうったらしで、限界が近い。
 『生憎と僕の手は二本しかなくて、その二本は乳首を可愛がるので大忙しです』
 意地悪く片頬笑む。
 『自分でしたらどうですか?』 
 馬鹿言え、できるかそんなことと言い返した気がする。
 俺の手は意固地にシーツを掴んで―爪を立て―掻き毟り―こいつが見てるのにやるもんか、しごくもんか、抱き返すもんかと反発しますます強く皺ばむシーツを掴む。
 抵抗に気分を害したか千里の目が残忍に光り、責めがますます粘着さを増す。
 爪が乳首をひっかく、ほじる、強く吸う。
 乳首に与えられる刺激は痛みと区別つかないほど強烈で生理的な涙が目尻に滲む。
 切ない、イきたい、もどかしい。
 乳首への刺激だけじゃイけない、足りない、もっと直接的な刺激が欲しい。
 『強情な人だな……』
 『はっ、はっ、はあっ……』
 底に行くほど重く濁る快楽の泥沼に溺れ息の継ぎ方を忘れる。
 イきたい、イかせてくれ。なんでもします。お願いだから。明日シャツを着る時、痛い。
 口走りかけた懇願を必死で飲み下す。
 『手が余ってるなら自分でしてみます?』
 千里が俺の手をとって胸元に導く。
 唾液でべとつく乳首にぎこちなく指が触れる。
 『―っ、と、さと、よせ、どけ、ろ』
 動揺と消耗で舌がもたつく。尖りきった乳首を襲う甘い刺激に酔う。
 千里は俺の手をとり、力の抜けきった指をほどき、乳首をつまませる。
 『―!!っくは、』
 『初めて自分でさわった感想はどうですか?小さいなりにちゃんと反応してるでしょ。―ああ、いじりすぎて血が滲んでる。痛そうだ』
 やめてほしいのか続けてほしいのかふわふわ浮ついてよくわからない。
 千里が俺の手に手を重ね操る。
 千里の手を借りて夢中で乳首をいじくり回す。
 『右のほうが感度いいですね』
 『……下、さわってくれ……』
 物足りなくて物欲しくて、そろそろ気が狂う。股間がずきずき脈打つ。
 中指と人さし指に挟んで搾り出した乳首を親指の爪でひっかく、半開きの口から涎が垂れる、シーツを巻き込み蹴り上げたつまさきがびくつく、既に千里は手を放している、俺は自分の意志で乳首をいじる、ねぶる、なぶる、千里の教えられた通りのやりかたで千里の手を模倣して千里の―


 『久住さん、好きですよ。もっと乱れてください』
 


 目を開けた。
 寝汗をびっしょりかいていた。
 「はあ、はっ、は、は………」
 肩で息をする。体がぞくぞくする。すぐに変化に気付いて狼狽する。
 二の腕を抱き、震えが止まるのをひたすら待つ。
 電気を消した部屋は暗く、劣情に掠れた息遣いが衣擦れに混じり響く。
 寝汗を吸収して肌にへばりつくシャツが尖った乳首を透かす。
 ズボンの前がはちきれそうに勃起している。
 耳にこびりつくあいつの声、瞼に焼きつくあいつの笑顔。
 起きてなお、生々しい夢の感触を引きずっている。
 右手が股間に伸びる。
 ズボンの前をぎゅっと掴む。
 おさまれと一心に念じつつ、心臓と直結したかのようにどくどく熱く切なく脈打つ股間を握りつぶすも逆効果でしかない。
 「……嘘だろ」
 どうして夢の中までつきまとう?
 どうして夢の中までしゃしゃりでる?
 ほっといてくれ、そっとしといてくれ、うんざりだ、そう叫ぶ理性と裏腹に本能に忠実な右手がズボンに忍んで怒張したペニスを引っ張り出す、毛布を払いのけベッドの上に胡坐をかく、左手でシーツを掴んで捻じ切る、唇をぐっと血が滲むほど噛めば鉄の味が広がる、苦しい辛いらくになりたい体の中に淀み渦巻く熱を吐き出したい
 手を上下に動かし、海綿体が潤沢に血を吸い上げ太らせたペニスをしごく。
 「んっ、ぐ、うっ」
 千代橋に惹かれる一方で、体は貪欲に強欲に千里を求めている。
 女を抱くだけじゃ満足できないと、受身の快楽を強制的に叩き込まれた体がずきずき疼いて訴える。
 千里の夢を見るのは、正直に言うと、これが初めてじゃない。
 そのどれも口にできないような場面ばかりだ。
 夢の中で、俺は千里に抱かれている。跪き頬張っている、組み伏せられ貫かれている、あられもない言葉を口走って喘いでいる、千里は俺の痴態を歪んだ笑みで眺めている、俺はそれに興奮する
 「はっ、あっ、あ」
 今日の夢は特にリアルだった、千里の顔が瞼の裏にくっきり残っている、いつもはぎりぎりで抑制できた欲望に打ち克てた今回はだめだ、手が素早く動く、先走りを零すペニスを容赦なく擦り上げしごき上げ腰を揺らす、左手指がシーツに食い込む、実際には触れてもない乳首がシャツと擦れて疼いて疼いてしかたない、余った左手でおもいっきり掻き毟りたい、だけどそれをしたら本当におかしくなる。
 眼鏡をはずした視界が汗と涙で朦朧と歪む、しごく手に勢い弾みがつく、誰もいないんだから声を出したって構うもんか、だけど頭の片隅に一握りしぶとく居残った意地が女みたいに喘ぐのを許さない、上擦る呼吸に紛れて喘ぎを逃がすだけで精一杯。
 「あっ、―んっ、く、あっ、うあ」
 前傾、シーツに突っ伏す。
 四つん這いになり尻を高く上げる。
 手が止まらない、気持ちいい、体中すごく熱い、ざらつくシーツに卑しく乳首をこすりつけほんの少しばかりの慰めを得る。 
 「ーぅくっ、ぁう、ちさと」


 『バンリを見殺しにするの?』
 『あなたは数ヶ月かそこらだけど、あの子は十年耐えたのよ』


 「おれ、だって、好きでこんな……」
 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう
 これは俺の手じゃない千里の手だ、あいつが今後ろにのしかかってる、どうすればもっと気持ちよくなれるか俺を導く『クリトリスみたいですね』耳朶に火がつく『もっと可愛がってあげなきゃ』やりかたは教わった
 シーツに縋りつく左手指を一本一本引っぺがす。
 余った左手をぎこちなく胸元に這わせる。
 シャツの下からでもくっきりと形を主張する突起をつまむ、つねる、つぶす、揉みしだく。
 「ぅあ、さと、―っは、く、いく」
 
 
 帰ってこい、千里。


 「―――――――っあ!!」


 痙攣し白濁を放つ。
 夢中で胸元をまさぐっていた手をおろし、ぐちゃぐちゃに波打つシーツを掻き毟って、波が去るまで背筋を撓らせて待つ。
 下着が汚れぬよう咄嗟に被せた手の中に白濁を受け止め、腫れた乳首とシャツが擦れるのを避けて、慎重に身を起こす。
 汗で濡れそぼった前髪が虚ろな目の先にぱらつく。
 「……………降参」
 認めてやるよ、淫乱だって。
 片膝を抱き寄せ、白濁に塗れた手をシーツに投げ出し、吐き捨てる。
 「余裕なんかあった試しねえよ」
 ユウリの悪夢が癒えたあとは、毎晩淫らな夢でバンリに犯される。
 どのみちあの兄弟から逃げられない。
 俺は俺をごまかして千代橋を抱く。
 この先一生ずっとごまかしごまかし生きていくのか?
 結局千代橋は来なかった、別れ際の様子が変で遠慮したのか、そういや携帯チェックしてない、メールが入ってるかも…………

 明日でいいか。
 今は無理だけど、明日はきっと、平気なふりができる。
 会社に行って、千代橋に会って、昨日はすまなかったと詫びる。
 
 俺には千代橋がいる。
 「お前なんか意地でも忘れてやる」
 呟きはひどく弱弱しく、薄っぺらく、砕けて散った。
 虚勢を張る余力すら残ってないとは、我ながら重症だ。

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リーマン×リーマン | コメント(-) | 20010419225115 | 編集
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