ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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オレオレ御曹司7

 『瑞原悦巳についての調査報告
 当報告書は社長が不在時の瑞原悦巳の監視を前提に、対象の性格と生態を考察する目的で日ごろの生活態度を記録したものである。
 報告者・1。
 午前八時十五分起床、着替えと洗顔を手早く済ませたのちみはなさまの朝食を用意。ジャムとマーガリンをたっぷり塗ったトーストと牛乳、バナナ一本という手抜きメニュー。本報告者が観察した限りみはなさまの朝食は洋食中心。日本人なら納豆・味噌汁・白いごはん・焼き魚のご膳が栄養的にも見た目的にも朝にふさわしいと愚考するが、瑞原は労働の軽減と技能値の問題でパンを焼くだけの手軽な朝食を好む。
 午前八時四十五分、徒歩で幼稚園へ。遅刻ぎりぎり。もう少し時間に余裕をもった行動を推奨。
 午前九時四十二分帰宅。洗濯、掃除機がけ。掃除の仕方は非常に雑。掃除機の竿(正式名称不明)をやたら振り回し壁や家具に傷をつける。ドカゴトガタゴトぶごォーと騒音うるさく埃が立つ。住民からの苦情を懸念、改善の余地あり。本来全室掃除機がけするべきところを玄関前の廊下、リビング、寝室の目立つ範囲しかかけず。怠慢。
 午前十時、ベランダに出て鼻歌を口ずさみ洗濯物を干す。干し終えた後屋内に戻り、二時間ほどリビングでごろ寝。昼の実態として家事で汗するより娯楽に耽る時間の方が長い。生活態度は怠惰の一語に尽きる。魚の死んだような目でゲームをプレイした後、口開けっ放しの呆け顔で香港アクションムービーを視聴しつつ尻をかく。社長やみはなさまの前では勤勉かつ従順な家政夫を装うも実態は手抜きとサボリ多し、四角いところを丸く掃くため四隅に積もり行く埃が懸念される。
 現段階での総合評価 100点満点中32点』

 「くはあ」
 八重歯が見えそうなあくびひとつ、縦横斜め前前ともはや惰性でコントローラーをぐりぐり倒しつつ、瞬きが少ないせいで睫毛がぱさつき眼球乾く目をしょぼつかせる。
 「一人で落ちゲー飽きたっすよー」
 集中力の限界。
 コントローラーを放り投げ大の字に寝転がる。
 ワイドビジョンのテレビでは軽快な効果音とともに海亀の産卵の如くぽこぽこスライムが量産され、一定時間操作せず放っておくと全画面埋め尽くされゲームオーバーのテロップが流れる。
 現在、悦巳は監視つきで高級マンションの一室に軟禁中の身。
 深窓の令嬢は落ち葉に寿命をなぞらえ儚む美少女の連想に結びつくが深窓の家政夫は別段病弱でも何でもない、どころか健康的には何ら問題もない遊びたい盛りの若者で昼っぱらからゲーム三昧、適当に手を抜いて家事を済ませた後は悠々自適と書いてのんべんだらりなインドアライフに耽っている。
 ばれて叱られない限り仕事をさぼるのが悦巳の悪い癖で要領のいい所だ。
 ゲーム以外に趣味はないのかと問われても立場上自由に出歩けないのではインドア派に宗旨替えするしかない。逃亡を未然に防ぐため黒スーツの巨漢がドアを塞ぎ、マンション周辺はその仲間が包囲している。ちょっとそこのゲーセンまで気晴らしに、コンビニまで立ち読みにと伺い立てれる雰囲気じゃないのだとてもとても。
 誠一はまだ信用してないのだろうか。
 住み込みで働き始めて一ヶ月、ぼちぼち監視の目がゆるんでもいい頃だろうに。
 「ま、信用する要素がないっちゃそれまでだけど」
 洗濯物は洗って干した、ざっと掃除機もかけた、あとはみはなを迎えに行く時間までやることがない。

 暇だ。
 暇なのだ。

 テレビもゲームも音楽鑑賞も飽きた、一ヶ月毎日同じ事の反復ではいやでも飽きがきてしまう。
 一般家庭に普及し始めたとはいえまだまだ値の張るワイドビジョンプラズマテレビに接続されたプレステは、日中暇っす暇っすと騒ぐ悦巳の鬱陶しさにうんざりした誠一が投げ与え、もとい賜ったもの。プレステの横にはこれまた誠一が太っ腹に貸与したアイポッドやDVDのケースが整理整頓の概念に真っ向から反旗を翻すしっちゃかめっちゃか加減で転がっている。
 掃除の意味がまるでない。
 退廃した資本主義の巣で自堕落を絵に描いた寝姿を晒し、誠一の言葉を回想。

 『好きなものを買え』
 住み込みで働く事が決定した翌日、出社間際の誠一に呼び出されカードを手渡しされた。
 押しつけられたカードは高級感あふれる黄金の輝きを放ち、貧乏人の目を潰す。
 『買えって、え?金色っすよ、これ……』
 燦然と後光放つカードを掲げて遠ざけ、某黄門の印籠効果さながら平伏しかねぬ勢いでうろたえれば、誠一が欲張りを咎める。
 『金で十分だろう』
 『金が最上じゃないんすか!?プラチナとか超合金オリハルコンとかあるんすか!?』
 『そんな変形合体しそうな名前はない。まあ、詳しく教えたところで一生無縁だろうがな』
 ためつすがめつほぉおぉと息つき感動する悦巳に、誠一は偉そうに言い放つ。
 『留守にしてる間に出てかれちゃ困る』
 『出てったところで漫画喫茶を寝泊り歩く底辺難民ライフに逆戻りっすよ?しませんて』
 『家から出すつもりはない。欲しいものがあったらそれで買え』
 『どうやって使うんすか?』
 『インターネットで引き落とせ』

 誠一は寛大だ、どこの馬の骨とも知れない住所不定無職上がりの家政夫にぽいとクレジットカードを投げ渡すんだから。一日二万の生活費のほかに個人の娯楽に当てるカードまで支給する経済感覚はカレーは市販のルーから作るものという常識に囚われた庶民と天と地の開きがある。
 金は人を駄目にする。
 金がなくても駄目な人間なら尚更腐るのが早い。
 何でも手に入る魔法のカードをゲットした悦巳は、今やすっかり日本最大を唄う某通販サイトのお得意さんだ。ゲームDVDロデオマシーン、はてはぶらさがり健康機までボタンをポチれば翌日には家に届けられるだろう……いや、ぶらさがり健康機はいらないが。ロデオマシーンはちょっと欲しい。家にいながらにして買い物できる便利な世の中万歳。
 解雇もしくは通報の危険を伴うため雇用主批判は控えたいが、どうやら金だけやって後は放任というのが家庭とそこを仕切る人間に対して一貫した主義方針らしく、幼稚園への送り迎えと飯作りの二大義務さえこなしていればその他の家事の出来不出来や居候の生活態度には口を出さず無関心な態度を払うのが悦巳の知る児玉誠一という男だ。
 正直どうかと思うが、職と住む家を与えてくれた厚意には感謝してる。
 誠一は恩人だ。
 誠一が車で拉致って……もとい手をさしのべてくれなければ、今頃漫画喫茶を寝泊り歩く資金も尽きて路頭に迷っていた。
 ともあれ、感謝してるのは事実だが
 「ぶっちゃけ苦手なんすよね……夜しか顔あわせねーし、それも毎日じゃねえし」
 本人の不在をいい事にぼやく。
 みはなは可愛い。素直で手のかからないとても良い子だ。
 礼儀正しく大人しく、悦巳が作る料理やお弁当を綺麗に食べてご馳走様を言ってくれる。
 一方父親は仕事中心の生活を送り、一人娘と会話もなく、朝は悦巳が起床する遥か前に出かけ夜はソファーを整え寝る準備を始める頃に帰ってきてはネクタイを解きがてら不機嫌に「紅茶」と一声命じる。
 「家政夫なんてがらじゃねーんだけどな……」
 もともと子供好きの世話好きで施設にいた頃はえっちゃんえっちゃんとうるさいくらい懐かれていた。
 悦巳兄ちゃんと呼べと口を酸っぱくしてもちびどもは性懲りなくえっちゃんえっちゃんと連呼し、隙あらば背中によじのぼり髪を毟り顔に落書きし服にぶらさがりと無法な蹂躙を働いたものだ。 
 施設にいた頃を思い出すのは随分ひさしぶりだ。
 高校中退と同時に飛び出してから帰るに帰れず、すっかり遠ざかっていた。
 「………」
 昔の思い出を反芻すると必ず浮かぶ顔がひとつ。
 「あいつどうしてっかな……」
 ひんやり気持ちよく吸いつく床に仰向け、死んだ魚の目で天井を見つめる。
 昨晩誠一にしゃべったせいか妙に感傷的になっている。
 スウェットの懐をさぐって携帯を取り出しボタンを押す。耳に当て、しばらく待つ。
 「……金払ってねえのに繋がるわきゃねえか……」
 当たり前だ。契約はとっくに切れている。
 電波の悪戯とかでひょっとしたらと期待をかけたが報われずため息をつく。
 「……つうかつながっても困るんだけど」
 あいつらに隠れ家を嗅ぎつけられるのは避けたい。
 幼馴染の消息は気になるが、危険な真似は慎もう。
 役立たずの携帯を胸に抱いて目をつぶる。
 『子供みたいだな』
 無防備な唇を掠めて触れた指。
 苦笑する誠一。
 あんなふうに誰かの手で口を拭かれるのなんて何年ぶりだろう。
 親を知らない悦巳はああいうふとした接触に弱い。
 悦巳が十五までいた施設の職員は皆親切で児童への虐待や折檻は皆無だったが、職員としての良心から贔屓をなくしどの子も公平に扱おうとするあまり結局どの子の親にもなれずじまいだった。
 児童数と比較して職員が少ないから仕方ないのだが、匙とフォークをまだ使いこなせない幼児がどれだけご飯をこぼして口や顔をべとべと汚そうが涎掛けを結び放置されるのはざらで、悦巳もまた物心ついた頃から子供たちの間を忙しく走り回る職員に手を焼かせるのを避けて零したご飯を一人で始末する癖がついた。
 だから。
 はたちを目前に控えたこの年になって口元を拭かれるなんて予期せず、さっと顔が赤らんだ。
 正直、誠一がどういう人間かまだ判断がつきかねる。
 夜遅く帰還した暴君のために紅茶をお給仕するのも家政夫の仕事のうちだが、せっかく淹れた紅茶に文句をつけちゃあ突っ返すかひっくり返すかで、無礼を働けば常に足蹴にする準備ができているとばかり尊大にふんぞり返る様は生ける独裁国家、恐怖政治の体現。
 反面、みはながもらってくる連絡帳を暇を見つけてはチェックする父性的な一面も持つ。
 そんな時、誠一は真摯なまなざしで連絡帳を確認しつつまずいとケチをつけるのも忘れ紅茶を含み、黙ってれば男前なのに口を開けば俺様ジャイアン若社長なんてもったいないっすねえとお盆を持って傅く悦巳を惜しませるのだった。
 きっと悪い人間じゃないのだろう。
 詐欺師の人を見る目は確かなのだ。
 「仕出し弁当はやりすぎだけど」
 携帯ボタンを浮気する指に巻かれた絆創膏は猛特訓の代価。一ヶ月前は火傷や切り傷で皮膚に水疱を作りで五指全滅だったが、猫手千切りをマスターし鍋の吹き零れをなくしと堅実なスキルアップに伴い絆創膏の数は減った。
 掃除洗濯などの雑事は平気でサボる悦巳だが(そもそも誠一宅は父子家庭には分不相応なほど広く本気で掃除するつもりなら一日で終わるわけがない)育ち盛りのみはなに栄養ある美味しい食事を摂らせたいという使命感と笑顔でご馳走様を言ってほしいという下心に突き動かされ、料理だけは上達を志し積極的に取り組む。早起きが苦手なため朝だけはトースト牛乳バナナ一本の手抜きに逃げるのはご愛嬌だ。
 前回のトラブルにこりて幼稚園で配布されたプリント類はしっかり読み、筆不精な誠一に代わり連絡帳を介し保育士と交換日記をし、みはなの近況にも明るくなった。
 「……この指父さん、この指母さん、この指赤ちゃん……」
 指を遊ばせつつ戯れ唄を口ずさむ。
 うろおぼえの歌詞をなぞり、絆創膏だらけの指を順に折り曲げる。
 「……俺は……なんだろ。兄さん?お手伝いさん指、なんてねーよなぁ」
 顔の上に翳した手をじっくり眺め、中指をひょこつかせ、笑う。

 絆創膏の数は家政夫として着実に成長しつつある証。
 少し複雑だがまんざら悪い気はしない。
 誰かに必要とされるのは心地いい。

 「よっと」
 背筋を使い、弾みをつけ起き上がる。
 テレビをつけっぱなしにしたまま忍び歩きで廊下に出て、玄関でスリッパからスニーカーに履き替えノブを捻り、慎重に引く。
 右よし、左よし、いざ。
 「どこへ行く」
 スニーカーをつっかけ鼻歌まじりに歩き出した悦巳の背に、凄まじいプレッシャーの嵐が吹きつける。
 出た。
 ドアの前に姿が見当たらないから油断してた、さすがに一ヶ月も経てば諦めたろうと楽観してた俺の馬鹿間抜け。
 ぎくしゃくと振り向く。
 背後に立ち塞がるは黒スーツの巨漢、漫画喫茶を襲撃し悦巳を拉致した部隊の司令塔。
 年齢不詳の無表情にサングラスをかけた男は、死角を作らぬよう周囲に目を配りつつ悦巳に接近し動向をうかがう。
 「えっと……ちょっとそこのコンビニまで漫画読みに」
 お母さま方に大好評の人懐こい笑みを振りまき、目的地の方角を指さし伸び上がるも、鉄面皮はびくともしない。
 「誌名を言え。買ってくる」 
 「いや、立ち読みで十分なんで」
 「撃たれるぞ」
 「はい?」
 「お前がこれから行くコンビニは雑誌棚の前がガラス張りになっている、全身を無防備に晒す絶好の狙撃ポイントだ。狙ってくれと言ってるようなものだ。それだけじゃない、コンビニのガラスは殆ど防弾強化されてない普通の物でダンプやトラックが突っ込んできた場合たちまち弾け飛んで立ち読み中の客が巻き添えになる。激突したのがタンクローリーだったら?火の海だ」
 「……想像っていうか妄想じゃ」
 「逃亡者なら少しは立場をわきまえろ、外出につきまとう命の危険を自覚しないと寿命が縮む」
 どうしよういつのまにか話がでかくなってる。
 「んなオーバーっすよ、たかがコンビニ行くだけで」
 「危険は日常に偽装して潜むものだ。戦場だけが戦場じゃない」
 「すいません、意味わかんねっす……」
 「わからないだろうな貴様には。日本は平和でいい国だ」
 日本を遠く離れた砂漠の方角を仰ぎ、殺伐と乾いた口調で呟く。
 過去に触れられない雰囲気。
 再び悦巳に向き直った顔には任務に命を賭す強靭な信念が映っていた。
 「わかったら戻れ。俺は社長から貴様の監視を仰せつかってる。勝手な外出は禁ずる」
 「買い物は許してくれたのに」
 「……必要に応じて検討するが目的もなくふらふら遊び歩くのは却下。お前の任務は社長とみはなさまの留守中家を守る事だ、責務を放棄して遊び歩くなど拾ってもらった恩を忘れる大逆行為だ、社長が許しても俺が許さん」
 平板な声音の底に滾る熱い覚悟と信念から、誠一に忠誠を誓い、身に帯びた使命を誇りを持って遂行する男の生き様が伝わってくる。
 何が何だかわからないがその言い様がひどくかっこよく感動し、黒スーツで凛々しく決めた風貌は逆光によって苦みばしった陰影を備え、スウェット姿の悦巳はしきりと相槌を打つ。
 「誠一さんのこと尊敬してるんすね」
 「当たり前だ」
 「部下なんすよね?」
 「そうだ」
 「ずっとここにいるんすか?立ちっぱなし?」
 「交代制だ」
 「きつくねっすか?メシやトイレはどうするんすか?」
 「答える義務はない」
 とりつくしまもない対応にへこたれず、ことさら陽気な調子で誘う。 
 「よかったらメシ、中で一緒に食いません?もうすぐ昼だし……ひとりで食うの、味けなくて苦手なんすよ」
 「断る。ここに立つのが俺の任務だ」
 「離れられないんすか」
 「そうだ」
 しばらく考え込んでいたがふと思いつき顔輝かせ、慌しい足音たて中へ引き返していく。
 戻ってきた時、右手にミッフィーがプリントされた子供用の椅子を引きずり、左手にこんもりよそったカレーを抱えていた。
 「どっこいしょ」
 廊下に椅子を据え、カレーの皿をにっこり笑ってさしだす。
 「これに座って食ってください」
 黒スーツが困惑。
 「……いらん」
 「昼抜きは力でないっすよ。万一俺が逃亡企てたらどうすんすか、ディフェンスできねっすよ」
 「お前とは鍛え方がちがう、二・三日食わなくても平気だ。ちなみにお前が逃げたらマンション周辺に張り込んでる仲間がすみやかに射殺だ」
 「……聞かなきゃよかった……」 
 剣呑な言動で差し入れを拒絶する黒スーツだが彼とて人間なら生理現象と無縁ではないだろう、いかに強がろうと半日ずっと立ちっぱなしでは腹が減るし膀胱も張る。
 「昨日の残りもんで悪いけど……カレーは二日目が一番美味いっていうし問題ねっす」
 黒スーツの手にカレーと匙をおしつける。
 「俺に構うな。仕事の邪魔だ、中でじっとしてろ」
 「じっとしてろったって表で飲まず食わずで突っ立ってられたら気になるんす」
 黒スーツの頭のてっぺんからつまさきまで不躾に流し見、手を広げる。
 「誠一さんのゲボク同士どうせなら仲良くやりたいじゃねっすか?」 
 「こき使われるのは本望だ」
 「へえ。ふうん。マゾいっすねー」
 感心したように呆れたように頷き、そういやまだ聞いてなかったなと思い当たる。
 「名前なんていうんすか」
 「アイン」
 「あいーん?志村?」
 「……ドイツ語で1という意味だ」
 「変な名前っすね。あ、もしかしてコードネームってヤツっすか?番号が名前ってなんか寂しっすね……ホントの名前は?」
 黒スーツは答えない。
 うるさくつきまとう悦巳を無視し、彫像のような寡黙さでドア横に立ち尽くす。
 その手にはインド人さながらカレーを抱えてるのだからシュールな光景だ。
 悦巳は一貫して無視されどへこたれず腕を組んで考察していたが、輝く笑顔で提案。
 「んじゃ俺がつけていっすか?」
 無視。
 「おじさんよーく見ると香港俳優のアンディ・ラウに似てるからアンディでどっすか?どっすか?」
 無視。
 いいとも悪いとも気に入ったとも気に入らんとも言わず、感情の読めない鉄面皮を保つ黒スーツ改めアンディとは対照的に、悦巳は持ち前のプラス思考を発揮し「きまり、今日からアンディって呼びますね」と話をまとめてしまう。
 「皿はあとでとりにきますんで」
 自分がいると食べられないのかと妙な気を利かせ、鼻歌まじりにぶらつき引き返していく悦巳をアンディは無言で見送る。
 その背中に問いをなげつけたのは気まぐれだ。
 「―俺が怖くないのか?」
 悦巳がとまる。鼻歌がやむ。振り返り、アンディの銃口のような目をのぞきこみ、にへらっと笑う。
 「ぶっちゃけむちゃくちゃおっかないっす!」 
 快活な口調と笑顔からは微塵も恐怖が伝わってこない。
 ドアが閉じ、悦巳が消える。
 黒スーツは片手に匙を構え片手にカレーを持ちしばらく逡巡していたが湯気に乗じ漂う匂いに食欲を誘われ、試しに一匙すくう。咀嚼。
 形の悪いじゃがいもは口の中でほくほくほぐれ、具沢山のルーとご飯とが絶妙の調和を醸す。
 見た目も味も至って普通のカレーで特筆するべき箇所はない。
 が、食べる人への思いやりがぎゅっと凝縮された素朴で懐かしい味がする、作った人間の本質を物語るようなカレーだった。
 「………42点」 
 カレーは甘口でも評価は辛口なアンディだった。
 
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