ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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万里の長城は一日にして成らず 1

 「もー部長ってばー肝臓悪いんだからあんま飲みすぎないでくださいよ、また顔が黄色くなっちゃいますよ」
 「日本人がイエローモンキーでなにが悪い、島国なめんじゃねー外資系!」
 「はは、意味わかんないですって」
 「千代橋さんて下の名前梓っていうの?ちよはしあずさ……わーなんかすげー雅やかで山となでしこって感じだよねえ、千代橋さん自身もストーレートの黒髪超似合う純和風美人って感じだし」
 「糸目下膨れ寸胴体型ってことですか?」
 「寸胴って言い方はよくないよ、安産体型てプラスに考えなきゃ。てことで、梓ちゃんて呼んでいい?」
 「いやです」
 「よろしく梓ちゃん、せっかくおんなじ部署になったんだから仲良くやろう」
 「死ねばいいのに」
 「すいませーんビール二本追加、焼酎三本あっちのテーブルにまわしてください!」
 足袋を履いた店員がせわしく行き来し座敷がざわつく。
 あちこちではじける笑い声、冗談、軽口のたぐい、姦しく飛び交う世辞と追従と質問。
 最初は緊張していた今回の主賓の新人たちも杯を重ねるにつれうちとけて注いだり注がれたりハイテンションに乾杯、ざっくばらんに砕けた雰囲気に染まって男は足を寛げ胡坐をかき女子はしどけなく横座りし絶品の串カツや焼き鳥に舌鼓を打つ。
 美味い料理がありゃ食が進み旨い肴と酒がありゃ司会が出張って仕切らなくても勝手に盛り上がるのは自然の習いで、座敷を借り切っての新入社員歓迎会は万事恙無く進行している。
 「こちらお下げしてよろしいですか」
 「お願いします」
 卓上に手を伸ばしタレがついた皿を重ねて店員に渡す。
 店員が「ありがとうございます」と会釈して去っていくのを見送り、すっかり泡が抜けぬるまったビールに口をつける。
 飲み会は苦手だ。どうも馴染めない。
 酒は飲んでも飲まれるなというが、どうやら俺はアルコールが利きにくい体質らしく、周囲が盛り上がってる中でひとり理性を保ってるのは逆に居心地悪い。酒に強いといえば聞こえはいいが、宴の席でしらふでいるとノリが悪いと上司や同僚に言われる。
 「くっずみーい、飲んでるかあー!?」
 「消え去れ酔っ払い」
 ビールジョッキを片手に掲げた赤ら顔の酔っ払いが、むんと酒臭い息を吐いて俺のところにやってくる。同期入社の羽鳥だ。会社では一番よく話す。
 「何杯飲んだんだよ、少しは遠慮しろ」
 「飲み会で遠慮なんて興ざめ言うなって、今夜は無礼講だよ、課長しゃんだってそう言ってたじゃん!お前もパーっと弾けろよ、いつも眉間にしわ寄せておっかねえ顔してっから可愛い可愛い後輩ちゃんに避けられるんだよ、久住先輩て仕事はデキるけどきびしいよねーとっつきにくいよねー三白眼だよねーって」
 「三白眼は余計だ」
 「くずみも飲めよう、ぐいぐいと!そんで脱げ、ばっと!インテリ眼鏡ぶってるけど脱いだら意外とすごいんだってがつんと一発見せてやれ!」
 「よっぽど俺を会社にいられなくさせたいらしいな。脱いでも期待に添えねえし」
 羽鳥がやんややんやとけしかける。酔っ払いもここまでくるといっそすがすがしい。苦りきって見回せばまわりの連中も似たようなもんで、女好きで有名な亀田は今期入社の中でもとびきり美人な黒髪の子……たしか梓とか言う名前だ……にモーションかけまくってる。がっついてみっともねえ。
 ……つうか、安子のほうが可愛いし。
 脳内で惚気けがてら隣の机をちらりと見やれば、同僚の女子と楽しげに騒いでいた安子が気付き、アルコールで色っぽく上気した顔に笑みを添え小さく手を振ってくる。
 あいつ、人がいるところではやめろって言ったのに。
 咳払いひとつ、同僚にばれないようさっと目を配り卓の下から手を振り返す。
 公私混同は好きじゃない、きちんとけじめをつけたいという俺のたっての希望により職場ではできるだけ接触を控えてるが、時々こっそり合図を送りあうのも特別な関係ぽくて悪かねえ。
 安子の笑顔にほんわか癒され、ささやかな幸福感に浸る気分を羽鳥がぶち壊す。
 「ところでお前つくねとねぎまどっち派?」
 スーツがはちきれそうな肥満体を裏切らぬ旺盛な食欲を発揮しむしゃむしゃ焼き鳥を頬張るひとり食いしん坊万歳を、不機嫌を隠さず睨みつける。
 「んな派閥あんのかよ、初耳だ」
 「それともレバー派?」
 「レバーは食えねえ」
 「マジで!?お前人生損してるって絶対、なんでレバー食わないのさ!?」
 「血生臭くて苦手」
 「久住しゃんは焼肉でタンは避ける人ですか、牛のべろ食うなんてとんでもねーって人ですか?」
 「いや、タンはいける」
 「レバーよりタンのがゲテモノじゃんー。べこのべろを網で焼いて食おうって発想がすげえよ、アグレッシブだよ」
 「つくね派ねぎま派はどうしたよ?」
 「俺はつくね派かなー。甘辛いタレが美味さを引き立てるんだよね」
 「あっそ。じゃあねぎまで」
 「なんだその『こいつがつくねならねぎまでいいや』みてーななげやりな返答は!消去法ですか?譲歩ですか?妥協ですか?焼き鳥バカ一代と呼ばれた俺に喧嘩売ってんのか!?」
 「ねぎまいいよなーねぎのしゃくしゃく感がたまんねーよなー」
 しごく適当に相槌打ち、大のジョッキをごくごく飲む羽鳥を注意する。
 「あんま飲むとガキにパパお酒くさーいって嫌われるぜ、ほどほどにしとけよ」
 「子供の事は言うなっへー」
 白けきった流し目で見やれば、手前の大皿からつまんだ焼き鳥を咀嚼しつつ羽鳥が抗議する。
 ジョッキをあおり下品にげっぷしてから、なれなれしく俺の肩を抱いて頬を寄せてくる。
 「ところでさ、うちの子の最新画像見る?携帯入れてんの、すっげー可愛い。三輪車きこきここいでんの。驚くぜ?」
 「ガキが無免許で三輪車のってたって驚かねー」
 羽鳥は携帯をとりだし保存した写メをいそいそと呼び出していく。 
 ボタンを押して次々写メを表示させては「あーっ、これも傑作なんだよなあ」「さすが俺の子、寝顔が天使で小悪魔」「わんぱくでもいい、元気に育って欲しい……」と盛大にのろけてにやける親バカにため息ひとつ、がやがやと賑わう座敷を眺め回して、気付く。
 俺とおなじように、完全に酔えてない男がいた。
 そいつは俺がいるテーブルのひとつむこうに座っていた。
 礼儀正しく正座し、両手にコップを持っているが、殆ど減った形跡がない。時折申し訳程度に口をつけるが、よーく見ればコップのへりをなめるだけだ。
 若いくせに自制を失わない飲み方に感心。
 そいつが座る席は男女混合新入社員にあてがわれていて、そいつはコップを手に持ちつつ、両隣、または向かいから話しかけてくる同期や先輩や上司に感じよく受け答えする。
 そいつのまわりには自然と人が集まる、人をひきつけるオーラがある。
 宴が進むうちにだらしなく姿勢を崩す奴らが増えてきたというのに、すっと背筋を伸ばした姿は掃き溜めに鶴の如く目立つ。男に使う形容じゃねえのは承知だが、新卒の初々しさ漂う清廉な容姿にはよく似合う。
 隙を見せないよう常に意識して……というか、洗練をかさね限りなく自然体に近付いた演技だろうか、あれは。重心の安定した正座ひとつで躾けの厳しさと育ちのよさが窺える。
 他のテーブルからわざわざやってくるヤツもいて、そいつは出張してきた相手に対してもさりげない気配りと爽やかで魅力的な笑顔をもって分け隔てなく平等に接する。
 「あいつだれだっけ」
 「あー……っと、たしか今期の新人の変な名前の……ちさと?」
 酔眼をうろんに細め、羽鳥が呟く。脱力。
 「女じゃねえか」
 「嘘じゃねえよ、千里ってんだよ。変わった名前だろ?たしか下もお前と一緒で語呂合わせみたいな……気になんなら挨拶してこいよう」
 舌を縺れさせ羽鳥がせっつく。酔っ払いの相手はごめんだ。やたらと俺にひっついてはいやがらせで汗かいたジョッキを押し当ててくる羽鳥を払い、席を立つ。
 宴会の雰囲気はどうも苦手だ。性に合わない。学生時代から飲み会を楽しめた試しがない。周囲が盛り上がれば盛り上がるほど置いてかれちまう。
 樫の一枚板でできた座卓の間を練り歩き、声をかけてくる同僚や上司に適当に話をあわせる。
 羽鳥の絡み癖ががうざくて席を立ったはいいが、別に用もない。
 座卓の間を歩いて全体の様子を観察、羽目を外しすぎたヤツがいないか注意して時間を潰す。
 「……って、修学旅行の引率か」
 自分に突っ込む。
 ネクタイ鉢巻と手マイクで十八番の演歌をがなる部長とそれに阿り手拍子で音頭をとる課長のコンビ、自称独身貴族の亀田が酔ったふりして梓にしなだれかかる……セクハラか?新入社員に貞操の危機迫る警鐘が鳴り、亀田がそれ以上接近したらすぐさま割って入れるよう監視。
 「梓ちゃんて胸おっきいね~何カップ?」
 「これ偽乳ですから。上げ底ですから。ご期待にそえずにすいません」
 ……あれは大丈夫だな、うん。
 亀田をつんけんあしらう女子社員から視線を戻し、異変に気付く。
 さっきの女みたいな名前の新人……千里だっけ……が、俺の同期の坂井に酌をされてる。
 「なんだよーノリ悪いなーお前さっきからずえんずえん飲んでねーじゃん、遠慮すんなって、これから一緒にやってく仲間なんだからさあ。ほら、飲め、ぐいっとイッキ」
 「すいません、それじゃあお言葉に甘えて……」
 坂井のまわりの連中も調子に乗ってイッキイッキと唱和する。
 千里は愛想良く会釈し、盛況なお囃子に乗せられてコップの中身を一気に呷る。
 コップを持ち上げあおる動作は一瞬だが、その寸前、覚悟を決めるように目を閉じた表情がひっかかる。
 「おーっ、いいねいいね、豪快!」
 「なんだあ、千里くん全然イケるんじゃん。あんま飲んでないからお酒ダメかと思った」
 「ねっ、今度は私の飲んでー。ウーロンハイとチューハイとビールのコズミックカクテルでかんぱーい」
 「うわ、何そのカオスな液体。あんたねえ、飲み会のたび勝手にお酒注ぎ足して新種作る癖やめなさいよ」
 「根津さんと小泉さん大学一緒でしたっけ」
 「そうなんですよ、サークルも一緒で。飲み会のたび変てこなカクテル作るからドラッグ・ドリンククイーンの二つ名で畏怖されてたんですよ智子」
 「智子ちゃんのお酒なら飲んでみたいな~むしろ口移しで」
 「やだー超気持ち悪いんだけどー」
 千里があっぱれな飲みっぷりを披露したことによって座の盛り上がりは最高潮に達する。
 右隣に侍った女子が独自に調合したカクテルを千里に勧める、千里は最初こそ片手をあげ穏やかに拒むふりをしてみせたが積極的な女子に押し切られコップを手にして一気に干す。
 大人しい顔して割とヤる千里にギャラリーはドッと沸き、ますますもってご乱交もとい無礼講の様相を呈す。
 「すいません、ちょっとトイレに……」
 「えーっ、千里くんいないとつまんなーい」
 「はやくもどってきてよー」
 千里が席を立つと同時に甘ったるい嬌声が上がる。離席を熱烈に惜しむおもに女子の声に見送られ座敷をおりて靴を履き、廊下を歩いてトイレへと向かう。
 「…………ちっ」
 舌打ちひとつ、千鳥足で頼りなくふらつく背中を追う。
 土間に揃えて置かれた靴の中から自分のを選び出しつっかけ、すれ違う店員や客にぶつからぬよう身をかわし、トイレの矢印にしたがって角を曲がる。
 苦しげな咳が男性用トイレから聞こえてくる。
 「入るぞ」
 居酒屋のトイレは個室が五つ、それぞれ衝立で仕切られている。小用の方に千里の姿はなく、咳き込む音は一番手前の個室から聞こえてくる。
 ドアに鍵は掛かってない。空きを示すブルーの印が出てる。おそらく施錠の余裕もなかったんだろう。
 一応ノックしてからドアを開ける。
 清潔に磨きぬかれた白タイルの上にしゃがこみ、便器に覆い被さるようにして咳き込んでいるのは……千里。
 「げほげほっ、げっ……」
 背中が激しく浮き沈み、喉が痙攣する。物音と気配に気付いた顔に、狼狽と当惑、醜態を見られた羞恥の入り混じった情けない表情が浮かぶ。
 「………あなたは……えーと、すいません、今思い出しますんで」
 「入るぞ」
 「!待っ、」
 一応断ってから、中へ入ってドアを閉め、鍵をかける。男ふたりだと少し窮屈だが、文句は言わない。自業自得ってことで、こいつにも我慢してもらおう。
 「………トイレなら他、あいてますよ……」
 なかば強引に入ってこられた不快感を隠さず、今にも死にそうに青ざめた顔色で言う。
 震える手でシャツの喉元を寛げ、ネクタイをほどき、便器に顔を突っ込んでえずく。
 「吐き方、わかるか」
 「?」
 千里の顔に疑問符が浮かぶ。その反応で了解し、便器に覆い被さる体をこちらに向けて促す。
 「口開けろ」
 「くち……?」
 トイレの床にぺたりと座り込み、不思議そうに首を傾げる。意思疎通が今いち上手くいかねえ。
 飲み込みの悪い千里の肩を掴み、こっぱずかしさを我慢しお手本を示す。
 「あーん、だ。ほら、こう。目一杯」
 言い聞かせながら、目一杯口を開けてみせる。
 千里は怪訝な顔のまま、素直に俺の教えに従い、大きく口を開ける。
 人さし指と中指を二本、千里の喉の奥に突っ込む。
 「!?あが、」
 喉の奥深くまで指を突っ込まれ、窒息の苦しみに目を剥いた千里が、次の瞬間便器に被さって盛大に嘔吐する。
 胃袋ごと吐き戻すような勢いで一回二回と嘔吐し、それからまた目を潤ませ咳き込む。
 「………ひょっとして、飲み会初めてか」
 「ちがう……ちがいます、大学のサークルで何回か……」
 「コップ一杯でこんなになっちまうのに?」
 「ワインとかカクテルなら平気なんですけど……」
 「まあ、あんな妙なもん飲まされたんじゃ無理ねーな。ケミカルナントカっぽい色してたもんな」
 「栄養ドリンクですか……?」
 口元を手の甲でぬぐいつつ、今だ青ざめた顔色で言う。いたいけに潤んだ目が庇護欲をくすぐる。女だったらさぞかし母性本能直撃されるんだろうが、生憎俺は男だ。涙の薄膜が張った双眸で上目遣いされてもうざいだけ。
 吐くもの吐いて少しだけ落ち着いて口を利く余裕ができたらしく、グロッキーにへばった千里が弁明する。
 「いつもは気をつけてるんですけど……今日は……特別な日だし」
 「無理すんな、いやなら断りゃいい。体質なら仕方ねーよ」
 「……ぼくのわがままで不快にさせたくありません」
 わがまま?
 「面白い発想だな。だけどそれでトイレに駆け込むはめになっちゃ本末転倒だろ」
 会話が噛み合わない。いや、噛み合わねえのは価値観か。
 こいつは多分、俺が嫌いなタイプの人間だ。場の雰囲気を壊すのがいやで自分を偽る傾向が習性になってる。
 無理して酒を飲み、挙句気分を悪くしトイレに駆け込むはめになったバカな新人の背中を、不承不承さすってやる。
 「いけそうか」
 「はい……」
 「うそつけ、その顔色のどこが大丈夫だよ。しばらく休んでろ」
 「すいません、ご迷惑かけて……もう大丈夫なんで、座敷にもどってください」
 「便器にしがみつきながら言っても説得力ねえよ」
 虚勢を張る千里にあきれつつ、傍らに片膝つき、喉仏ちらつく首元へと手を伸ばす。
 「……何……するんですか?」
 むっつり黙り込んだまま、便器に突っ伏した千里の首元に手をやって、なかばほどけたネクタイを巻き取る。
 しゅるしゅると手の甲に巻き取ったネクタイを困惑する千里のポケットに突っ込み、言う。
 「シミがつくとめんどくさい」
 俺も経験あるが、吐寫物の染みはなかなかおちない。
 千里は便器にへばりついたまま、しばらくしげしげと俺を見つめていたが、憔悴しきった顔にやがてごくかすかに笑みを浮かべる。
 「……よく気がつきますね」
 「さき行ってるから。無理して来なくていいぞ」
 「はい……」
 念押しして出ていきかけたところに、ぽつりと独り言じみた呟きが落ちる。
 「……『みんな待ってるから早く来い』じゃないんですね」
 まるで具合が悪くなるたびそう言われ続けてきたような口調に違和感を抱く。
 「当たり前だろ?無理して来られちゃこっちが困る、後始末する身になれ」
 「はい……」
 安堵に似て微笑んだ気配がしたのは錯覚だろうか。急がなくていいと言われたのがそんなに嬉しいのか?変なヤツ。
 千里は弱弱しく頷く。トイレを出ていきかけて、背中に虚ろな問いが被さる。
 「先輩は……名前、なんでしたっけ」
 「久住宏澄。二年先輩」
 「えっ?」
 「なんだよ、えっ?て」
 「いや……対処の仕方落ち着いてるし、ずいぶん貫禄あるから、五年くらいいるのかなあと」
 「どうせ老け顔だよ」
 たぶん眼鏡のせいだ。眼鏡をかけると老けて見える顔立ちなのだ、俺は。そう言い聞かせ傷心を慰める。
 「お前はなんていうんだ」
 聞かれたら聞き返すのが礼儀だ。千里は視線を宙に泳がせ、少しためらってから、意を決したように口を開く。
 「千里バンリです」
 「バンリ?」
 「万里の長城の万里です」
 「雄大だな」
 「名前だけですよ、強そうなのは」
 自嘲気味に吐き捨てる表情の暗さがひっかかるも、俺はなにげなく、おもったままの感想を口にする。
 「俺と一緒で語呂合わせみたいな名前だな」
 虚を衝かれたように千里が顔を上げる。純粋な驚きが、幼さを残した顔に浮かぶ。
 俺は自然に笑っていた。
 クズミヒロズミとチサトバンリ。
 語呂合わせみたいな名前の一致がおかしくて、妙にツボにはまって、たったそれだけの他愛ない理由で、トイレの床にきょとんとしゃがみこんだ後輩にむかって笑いかける。

 なぜだか千里はまぶしそうに目を細めた。

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リーマン×リーマン | コメント(-) | 20010419225149 | 編集
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