ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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脅迫するものはされるもの8

 兄さんの唇はやけに油っこかった。
 身もがいて突き飛ばし、顎を支える手を振り払い、抱擁を拒絶する。
 「人が見てる。やめてください」
 「ブラコンなんだ、俺は」
 「帰国子女の癖が抜けないみたいですね。日本ではそういうの、露出狂っていうんですよ」
 「長く海外飛び回ってるとキスが挨拶代わりになる。そう興奮するな、可愛い顔が赤く染まってもっと可愛くなる。抱かれたいか」
 「ふざけないでください」
 「抱かれにきたんじゃないのか」
 「そんなくだらない事で早退したりしません」
 広壮なロビーを行き交う人々が、険悪に言い争うぼくたちに不躾な注視を注ぐ。
 衆人環視の中、男同士がキスしたのだ。好奇の的にならないほうがおかしいだろう。
 同性愛カップルの痴話喧嘩とでも誤解したのか、制服に身を包むフロントボーイがこちらを盗み見噂するのは素知らぬふりで、兄さんの対面ソファーに腰掛ける。 
 喫茶室をかねたロビーには上品な色合いのソファーが配され、連れがチェックインもしくはチェックアウトの手続きを終えるまで寛ぐ宿泊者他、アタッシュケースを持った外商が商談を行っている。都心有数の本格ホテルという触れ込みのせいか、外人もちらほら見受ける。
 高い天井からは実用性よりか装飾性を重んじたシャンデリアが吊り下がり、優雅に足を組む兄さんにカッティングの後光を負わせる。
 兄さんが指を弾き、給仕を呼ぶ。心得たもので、給仕がしずしずと淹れたてのコーヒーを持ってくる。ぼくの分もあるが、断る。
 「結構です。茶飲み話にきたんじゃありませんので」
 手を組む。じれる。焦燥が苛む。
 チンと涼やかな音たて開閉するエレベーターを見やり、早速本題を切り出す。
 「久住さんを返してください」
 今こうしている間、兄さんと呑気に向き合ってお茶してる間に久住さんがどんな目にあってるか考えるだけで発狂しそうだ。
 どうか無事でいてくれ、無傷でいてくれとひりつく思いで祈る。
 テーブルに置かれたソーサーごとカップを持ち上げ、口をつける。
 仄白く漂う湯気のむこうで、芳醇なコーヒーを味わいつつ鷹揚に言う。
 「俺が黒幕だって証拠はあるのか」
 「あなた以外だれがいるっていうんですか」
 「そうだな。まあ、一度言ってみたかっただけだ」
 白磁のカップとソーサーが触れ合い、軽い音をたてる。
 「お前が捜してるヤツは俺の部屋にいる。四十階のスイートルーム。こないだ連れてったから、わざわざ説明しなくてもわかるな」
 衝動的に席を立つ。
 即座にエレベーターに駆け込み部屋に向かおうとするぼくの肘を掴み引き戻したのは、隣に掛けた男。
 「彼は?」
 「俺の友人」
 「仕事相手だ」
 紹介文に訂正を挟む。
 顔も上げず何をしてるのかと目をやれば、その手元がすばやく動いている。
 唖然とする。隣に腰掛けた頬傷の男は、携帯ゲームのテトリスに夢中だった。
 携帯が場違いにおめでたい効果音を奏でる。
 空から次々と落下する様々な形状のブロックを巧みに積み上げ消していく。
 落ちゲーの腕はプロ級だ。
 「……まともな人じゃありませんね」
 無表情にテトリスに没頭する男に、若干引く。
 頬の目立つ傷といい、異様に似合うダークスーツといい、裏社会に属する人間特有の鉄錆びた殺気が滲み出ている。
 張のようなザコとは比較にならないどっしり重厚な物腰、銃口じみて威圧的な眼差し。
 まだ三十代だろうに、若頭を襲名してもおかしくない豪胆な貫禄が備わっている。
 兄さんの人脈は幅広く底知れない。
 財政界、芸能界はもとより、裏社会にも通じている。
 父さんに会社を任されるにあたって、裏ではかなり強引な手法で利益をあげてきたという。
 「森。紹介する。俺の弟の万里だ」
 「今さらだな」
 「似てないだろう」
 「ああ。あんたのが性根の腐ったつらしてる」
 「よく言われる」
 ボタン連打でブロックを上下左右回転させつつ言う森に、兄さんが苦笑する。親指のつけ根が固く盛り上がってるのはおそらくゲーマーだこだろう。
 電子合成のチープな効果音をピロピロ鳴らしブロックを回転操作、卓越したテクニックで黄金比のピラミッドを組む。秒単位でスコアを塗り替えていく森から視線を切って、正面の兄さんに向き直る。
 「暴力団と癒着してるんですか?盗聴器も、そのツテで仕掛けたんですか」
 声音を抑えて問い詰めれば、兄さんは笑ってはぐらかす。
 森。名前に心当たりがある。
 ピコピコ携帯ゲームにのめりこむ男の横顔を凝視、急いで記憶を検索。たしか、張の上司。
 「張もいるんですか」
 「上で見張らせてる」
 何を、とは聞かなかった。聞かなくてもわかる。
 監禁中の先輩が大人しくしてるはずがない。
 「先輩に怪我させたら承知しませんよ」
 裸に剥いて路上放置じゃ済まない。
 先輩に万一の事があったら、張の歯を一本ずつペンチで引っこ抜いたっておさまらないだろう。
 「どうして………」
 思わずといった感じで疑問が口からこぼれる。
 猜疑と絶望が入り混じった陰鬱な眼差しで、請う。 
 「どうして久住さんまで。あの人は関係ないって言ったじゃないですか。こんな事、意味ない。あなたの行動は犯罪に抵触する上に不可解だ」
 「関係ないはずないじゃないか。好きなんだろう、あの男が。顔に書いてある。今すぐ席を立って駆けつけたいくせに」
 「そうやって、今までも……ぼくに恋人ができるたび、別れさせてきた」
 高校生の頃、当時付き合っていた年上の恋人がいた。
 兄さんは裏で彼に接触し、脅し宥め金をちらつかせ、むりやりぼくから引き離した。
 似たような事はそれから何度も繰り返された。
 ぼくに恋人ができるたび、ぼくが誰かに恋するたび、兄さんの妨害に遭う。
 ある時は金を使って、金がだめなら暴力を使って、将来や今の地位、あるいは家族を脅かすと吹き込んで仲を引き裂いてきた。
 だけど久住さんは、先輩は、ちがう。
 「兄さんが思ってるような関係じゃない。勘違いしないでください」
 毅然と背筋をのばし、力をこめ断言する。
 「久住さんとは交際してるわけでもなんでもない。確かに、何もなかったとは言いません。ぼくは彼に肉体関係を強要した、でも合意じゃない、ぼくが無理矢理……彼を抱いて。その時撮った画像をネタに脅迫したんです。職場にバラまかれたくないなら言う事を聞けと。彼はしぶしぶ要求をのみました。そして今日までずるずる関係を続けてきた。だから」
 恋人でも、ましてや愛人でもなんでもない。
 ぼくと久住さんは、職場の先輩後輩以外のなにものでもないのだと。
 ぼくたちの間に恋愛感情はおろか、好意さえ、ひとかけらも存在しないのだと。
 目を閉じて息を吸う。
 瞼の裏に眼鏡をかけた顔が浮かび、痛切に愛しさがこみ上げる。
 「………兄さんが拉致監禁なんて強引な手段に出なくたって、久住さんは、最初からぼくが大嫌いなんです。これ以上嫌いになりようがない。むりやり体を奪われた今は、憎んでるとさえ言っていい。わざわざ脅す必要なんかない。別れるも何も、付き合ってもない」
 兄さんは、ぼくと彼が手を切るのを望んでいる。
 実際はそんな事しなくたって、心は重なり合わないのに。
 「兄さんのやってることは、おしなべて無駄で無意味です」
 兄さんから学んだ手段で征服しようとした時点で、可能性の芽は摘まれたのに。
 すれ違う。行き違う。
 先輩は絶対、ぼくを好きになりはしない。
 自分をレイプした男に、恋愛感情をもてるはずない。
 「久住さんを返してください。あの人は」
 「手切れ金を受け取らなかった」
 絶句。
 「え?」
 「五百万用意したんだがな。気持ちを金で買われたくないって言ってたよ。お前を嫌いだって気持ちには値段なんかつけられないんだとさ」
 「…………先輩が」
 「素直に受け取れば帰してやったのに」
 「兄さんは何が望みなんですか。具体的に、なにをどうすれば満足なんですか」
 「お前かあいつか、どっちかが今の会社を辞める。理想はお前だ」
 ソファーから腰を浮かせ強迫的な口調で問うぼくに、人さし指をつきつける。
 「クズミとは二度と会わない、先輩でも後輩でもない赤の他人になる。お前は俺のところに戻り、兄弟仲良く暮らす」
 「………」
 「俺の右腕になれ。一緒に会社をでかくしよう」
 葛藤の汗が伝う。ソファーに腰を戻し、膝の上できつく指を組み、ためらう。
 軽快な電子音に乗せて幾何学的な凹凸のブロックを組み立てつつ、森が横目でこっちをうかがう。液晶の照り返しで青白くぬめる眼球がぎょろつき、地の皮膚と色が違う頬傷が一層際立つ。
 先輩の意に染まぬ反抗ぶりを思い出したか、痛快げに笑って茶化す。
 「素直に金を受け取って身を引けば会社を辞めろとまでは言わなかった。だけど断られちまったら、なあ、どうしようもないだろ?」
 「……先輩に会わせてください。会って話がしたい」
 どうするのが最善か。どうするのが最良か。
 わかっている、頭では。
 どうするのが最善か答えはとっくにでてるのに、決心がつかない。
 会社には未練がある。
 親のコネに頼らず、千里の威光に頼らず、自分の意志と努力で就職した会社。
 ひとつ頷きさえすれば先輩を救い出せるのに、先輩とどっちが大事かなんてわかりきってるのに、顎の筋肉が突っ張って抗う。
 ぼくか先輩か、どちらかが会社を辞める。
 どちらにせよ、そうしたら二度と会えなくなる。
 空いたデスク、空いた椅子。先輩がいないオフィスを想像し、心臓が浅く鼓動を打つ。
 「……先輩は無事なんですか。酷いことしてませんよね」
 「キスしかしてない」
 頭に血が上る。怒りで手が戦慄く。
 荒れ狂う嫉妬と憎悪で視界が赤く燃え立つ。
 理性の限り激情を抑えソファーに身を沈めるぼくを、兄さんは口の端を吊り上げ嘲弄する。
 「試しに舌を入れたら目を白黒させてた。いい年して、ろくに舌も入れたことないんじゃないか。俺にやられっぱなしで、口の中かきまぜられて息吸うのも忘れて、苦しそうだった。色気がない。何を教えてるんだ?」
 「あなたの流儀に沿うキスは教えてません」 
 「自分専用にカスタマイズか」
 「ガンプラみたいなもんだな」
 液晶から目を放さず、森がぼそりと呟く。
 「声だけでも聞かせてください」
 切羽詰まった口調で請う。
 「俺だ。久住にかわれ」
 兄さんが背広の内から携帯を押しボタンを操作、こっちに投げる。
 フロントのざわめきを意識的に排除し、電波に乗じる物音に聴覚を研ぎ澄ます。生唾を飲み、呼ぶ。
 「先輩、聞こえてますか。僕です、万里です、大丈夫ですか」
 『千里……か?』 
 半信半疑の声を聞いた瞬間、安堵で涙腺が弛緩し、顔の筋肉が柔和にほぐれていく。
 唇のはざまから安堵の吐息を漏らし、取り落としかけた携帯を慌てて握り直し、矢継ぎ早に確認をとる。
 「そうです、ぼくです」
 『どうしてここがわかったんだよ、やっぱりお前今回の事に絡んで』
 「以前連れてこられたんで。先輩がいる部屋もわかってます、今からそっち向かいます、詳しい話はあとで」
 『ちょっと待て、今聞かせろ!わからないことだらけだよ、どうして俺が蕎麦屋から拉致られなきゃなんねーんだよ、仕事途中なのに……くそ、会社になにも言ってこなかった。昼から営業入ってたのに。携帯もとられて連絡できねーし、』
 「すいません、巻き込んで」
 『謝る前に説明しろ!』 
 よかった、元気そうだ。携帯の向こうで威勢よく吠える先輩と回線を繋いだまま、席を立つ。
 『―!んっ、あっ』
 「先輩?」
 片手に持った携帯に耳をつけ、鋭く叫ぶ。携帯の向こうで呼吸が浅く上擦り、その合間から必死になにかを堪えるような、くぐもり声がかすかに漏れる。
 『やめ、お前、何……ふざけっ、んな、さわんな!』
 激しく争い合う物音、乱れた息遣いに被さる衣擦れの音、鎖が軋り擦れ合う音。
 さまざまな雑音の間から届く先輩の声から虚勢が抜けて、背景で中国語が飛び交う。
 複数の人間が部屋にいる。先輩に、何かしてる?
 肉をぶつ鈍い音、苦悶の呻き、先輩の叫び声。
 「先輩、どうしたんですか!?」
 『~っ、冗談は張の日本語だけで沢山だ!』
 携帯に噛みつかんばかりに叫ぶ、向こうから余裕を失った先輩の声、格闘、抵抗、転倒、ヒステリックな中国語の嬌声が飛び交ってそこに呻き声が挿入、修羅場の殺気が伝わる。
 先輩の身に大変な事が起きている。行かなきゃ、今すぐ。
 携帯を繋げたまま居ても立ってもいられず走り出す、ついで携帯がおちて磨き抜かれた床の表面を滑走、膝がかくんと前にのめって自重が泳ぐ。
 膝裏に蹴りを入れられた。
 先輩の事で頭が一杯で早く助けにいかなきゃの一念で後ろに注意がまわらなかった、さっきと同じ失態を演じる。
 後ろに気配を消して森が寄り添う。液晶の照り返しでうっそりした無表情に不気味な陰影がつき、剣呑な頬傷が浮き彫りになる。
 前傾したぼくの体を肘を掴んで引き戻し、もう一方の手でゲームを継続しつつ、どうでもよさげに兄さんに聞く。
 「どうするんだ」
 「隣の部屋をとってある。そこに連れてけ」
 絶望の不協和音を奏で画面が暗転、ゲームオーバー。森が鼻白む。
 兄さんがソファーから腰を上げ、悠揚たる物腰で携帯を拾う。
 上目遣いにぼくを見て、エレベーターの方へ顎をしゃくる。
 「あせらなくたってじき対面させてやる、ボロボロになった久住とな。他の男の精液で汚れきった男を愛せるか見ものだ」

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