ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

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脅迫するものはされるもの7

 先輩が帰ってこない。
 「久住さん遅いね、どうしたんだろ」
 「昼休み終わってんのに」
 「遅刻なんてめずらしー。フケたのかな」
 「代金足りなくて行きつけの蕎麦屋で足止めくってんじゃね?」
 「梓ちゃん俺らもフケてラブホへ」
 「シュレッダーに突っ込んでズタズタになればいいのに」
 「何を!?なにから!?」
 「ナニから」
 コピー機が紙を吐き出す音に電話のベルが混じり合う忙しない職場で、空席を見つめ同僚が囁き合う。
 昼休み、ちょっと目を離した隙に先輩が消えた。
 先輩はいつも一人で昼食をとる。
 社員食堂を利用する頻度は少なく大抵近くの店に食べに行くけどこの時間になっても帰ってこないなんておかしい、ありえない。
 先輩は人一倍生真面目で責任感が強い。
 昼休みがとっくに終わってるのに帰ってこないなんて前代未聞だ。
 ましてやぼくらは営業で、一日のスケジュールがみっしり詰まってる。
 五分の遅れが命取りになるって体に叩き込まれてるのに、遅刻なんて断じて有り得ない。
 嫌な予感が胸を塞ぐ。仕事に身が入らない。
 一応パソコンはつけているけど集中力散漫で、キーを打つ手が疎かになる。
 同僚も久住さんが帰ってこない事にいい加減不審を抱き始めたのか、空いたデスクを通りすがりざま心配げに一瞥していく。
 本人は自覚してないし指摘すればたちどころに否定するだろうけど、あの人はアレで凄く頼りにされてるのだ。
 仕事中はきびきびしてるし、叱る時はちゃんと叱る。馴れ合いを協調と履き違えた事なかれ主義が蔓延する職場において不誠実に流さず濁さず、自ら嫌われ者役を買って出て手綱を締め直す。
 先輩のそんなところを、ぼくは尊敬してる。
 「…………」
 先輩が不在の机を一瞥、焦燥に駆られ席を立つ。
 先輩の身に何かが起きたと直感する。思い過ごし?違う。確信する、異常事態だ。先輩は絶対無断で仕事をさぼったりしない、そんないい加減な人じゃない。
 そして僕には身に覚えがある。
 ホテルで面会した兄さんの言葉が、不吉な反響を伴い内耳に響く。 
 『久住ヒロズミね……お前がそんなに守りたがるヤツに興味が湧いた。味見してやるよ』
 瞼の裏にちらつく歪んだ笑み。指を舐めつつ笑う顔。
 兄さんはいずれ必ず行動を起こす。先輩に危害を加える。
 先輩の安全を一番に考えるなら離れるべきだった、接触を控えるべきだった、そうしなかったのはぼくの驕りでエゴだ、先輩と離れたくなかったわがままだ。
 子供じみた独占欲。
 ぼくが距離を置こうが会社を辞めようが兄さんは一度目をつけた獲物を逃がしはしない、あの人がどんな性格でどれだけ執念深いか一緒に育ったぼくが一番よく知っている。
 十年近くオモチャにされてきたぼくこそ。
 だから、守ろうとした。ぼくの力で、誰にも頼らず、大事な人を守り抜こうと決心した。
 指一本触れさせないといきがって、先輩のそばからできるだけ離れないようにして、兄さんが接触を図ればすぐわかるようアンテナを張り巡らしていたつもりが不意をつかれた。
 「…………っ」
 寝不足で頭が働かない。
 先輩はまだ帰ってこない。
 一分、二分、三分……無慈悲に時を刻む秒針を睨む。
 「千里くん、どうしたの。顔色悪いよ」
 ぼくはばかだ。
 呑気に昼食を食べている間に、先輩は消えた。
 ぼくの体調が悪いのを心配した同期の女の子たちに取り囲まれて、ぼうっとしてるうちに食堂へ連れてかれた。帰ってきたら、先輩はもういなくて。
 ぼくのせいだ。
 「千里くん?」
 なんで目をはなした?一緒にいなかった?守るって誓ったくせに。
 口だけかよ。
 「どうしたの、ねえ、聞こえてる?」
 寝不足で頭がぼうっとしてたとかまさか昼休み中に行動をおこすとは思わなかったとかは全部言い訳で、ぼくのミスが原因で危機に瀕したのは事実で、だから先輩を助けに行く。
 「すいません、早退します」
 「は?」
 全員が仕事の手を止めてこっちを見る。
 「ちょ、千里くん、早退って理由は」
 「一身上の都合です」
 課長に一礼足早にオフィスを出、エレベーターで一階に降りる。
 小脇に鞄を抱えエントラスホールを突っ切る途中、動転のあまり注意が散漫になり、そばのバケツに気付かず倒してしまう。
 「!?っわ、」
 叫ぶ。
 バランス立て直そうにも間に合わずバケツを巻き込み転倒、中の汚水が激しく波打ち床一面にぶちまかれる。
 転覆したバケツからあたり一面に広がりつつある汚水を行き交う人が迷惑そうに避けていく。反射的に手をついたおかげで顔面衝突は防げたけど、床に這ったズボンの膝が水を吸ってどす黒く染まる。
 「ちょっとあんた、大丈夫!?」
 少し離れた場所で床を磨いてた掃除のおばさんが慌てふためき飛んできて、親切に腕を引っ張り助け起こす。
 「すいません、よそ見してて……」
 「いいからそんなこと。立てる?なんともない?あら、スーツがびしょぬれ……これから営業?外回り?そんなかっこで大丈夫?って、あんた確か久住さんの後輩よね。今日は一緒じゃないの」
 ぎくりとする。顔が強張る。
 「先輩は……」
 どうしよう。なんて言おう。ぼくのせいで酷い目にあってますって?
 混乱を来たし舌が縺れる。
 俯くぼくの体調を慮り、掃除のおばさんが心配そうに覗き込んでくる。
 母性に満ちた優しい眼差しに包まれ、不覚にも泣きたくなる。
 十数年も昔に聞いた優しい人の声が、思い出の彼方から寄せて返す。
 『いい子にしててね、バンリ』
 もう随分思い出さなかったのに、なんで今頃、こんな時に。
 唇を噛み、挑むように顔を上げ、おばさんを真っ直ぐ見返す。
 「……迎えに行ってきます」
 時間がないからひっくり返したバケツだけ元に戻し、再び走り出す。バケツにおもいっきりぶつけた脛がひりつくも、無視して突っ走る。
 回転ドアを抜けて通りにでるや、タイミングよく通りかかったタクシーを挙手で止める。
 なかば道路に身を乗り出し通せんぼする形で止めたタクシーに、後部ドアが開ききるのも待ち遠しくじれて乗り込むや、行き先を指定する。
 「新宿のパークハイアットホテルに行ってください!」
 タイヤが路面を削りタクシーが急発進、都心の高層ビル群が飛ぶように車窓を移り行く。
 背広の内から携帯を取り出し汗ばむ手に握り締めかけようかかけまいかさんざん迷いためらう。
 深く深くうなだれ身を丸め、両手に抱いた携帯をきつく額に押しつけ、祈る。
 どうか無事でありますようにと昔信じてた神様に、もう信じられない神様に、祈る。
 走行の振動がクッション越しに伝わる。
 信号に突っかかるたび焦燥が募り、点滅を目で追う間に理性を手放しそうになる。
 「久住さん………」
 ぼくのせいだ。
 ぼくが目をはなした隙に。
 守るって約束したのに。
 今さら後悔したって遅い。自分の無力と無能を痛感する。
 先輩の携帯にかけて呼び出しを待つも、電源が切れてるらしくいつまでたっても繋がらない。
 帰国後、兄さんはホテルに泊まってる。スイートルームを借り切って豪遊してる。
 なら直接ホテルに行って問い詰める、先輩になにをしたか……
 手の中で携帯が鳴る。条件反射でボタンを押す。
 「もしもし」
 『万里さまですか』
 渋みあるバリトン、落ち着いた声音。
 「椎名………お前、先輩になにをした」
 握力のこめすぎで手の中の携帯が軋む。物騒に低い声で凄む。
 運転手の耳があるのも忘れ、素に戻る。 
 『……面目ありません。全て私の不注意が原因です』
 「言い訳はいい、何があったか説明しろ」
 無意識の物言いが兄に似ている事に気付き、自己嫌悪が膨れ上がる。
 殊勝に詫びた椎名が一呼吸の沈黙を挟み、諦念のため息をついて話しだす。
 『昼休み中、久住さまが外に出かたところを見計らって声をかけ、話があると申し出て、近くの蕎麦屋に寄りました。久住さまは、盗聴器の件で怒り心頭に発しておられました』
 「当たり前だ」
 苦りきって吐き捨てる。こいつには敬語を使う価値さえない。
 車の排気音が鼓膜を打つ。
 タイヤが弾む断続的な振動が伝う。
 余った手で髪をかきあげつつ、携帯にむかい抑揚を殺し言う。
 「……先輩の部屋に盗聴器が仕掛けられてた事、知ってたのか」
 『はい』
 心のどこかで否定してほしいと願っていた。
 儚い期待は脆くも打ち砕かれ、裏切りの幻滅が胸を苛む。
 「なんで兄さんはそこまで……」
 憎しみにとらわれてる場合じゃない。
 少しでも長く話を引き伸ばして情報を引き出せ。
 「蕎麦屋で何を話した。何を言った」 
 『万里さまと有里さまの関係をお話しました。お二人が異母兄弟である事、万里さまがSEINRIコーポレーションの御曹司だという事、既に家を出られた事……』
 「余計な真似を」
 思わず舌打ちが出る。ずっと隠し続けてたのに、苦労が水の泡だ。
 「それだけか?なんで先輩と会った、理由を言え。兄さんの差し金じゃないのか。お前が先輩を唆したのか」
 『……面目ありません』
 「謝罪はいい、説明しろ」
 怒りに任せ窓ガラスを殴りつけたい衝動を辛うじて自制する。
 前に乗り出し、運転席のシートを掴む。運転手がミラーごしにちらちとこちらを窺う。
 なだらかなスロープから高速道路に乗り、流れが急にスムーズになる。
 『航空券をお渡しして、万里さまと暫く身を隠すように言いました』
 絶句。手に持った携帯を唖然と見下ろす。
 高速道路を区切るガードレールの向こうにメタリックな銀色の摩天楼がそびえ立ち、青空に隆々と映える。
 「ははっ」
 喉がひくつき、失笑が漏れる。 
 「同情してくれたのか。駆け落ちを手配してくれたのか。兄さんに弄ばれるぼくを可哀相に思って、こっそり救いの手をさしのべてくれたのか」
 無気力に足を投げ出し、深くクッションに凭れる。
 笑いが止まらない。椎名ごときに同情されるなんて落ちぶれたものだ。
 『……久住さまは私の申し出に激怒なされ、店を出て、そこで……拉致されました』
 乾いた笑いが引っ込む。冷たいものが背筋を伝う。
 つまりこの男は、巧い口実で蕎麦屋に先輩をおびきだして拉致をセッティングしたわけか。
 先輩の性格を考えれば、椎名の申し出に激怒するのは目に見える。
 突然見知らぬ男にチケットを渡され、仕事を丸投げして大嫌いな後輩と手に手をとって海外へ高飛びしろなんて言われたら、まんまと誘導に乗じ店を飛び出していく。
 怒りでまわりが見えなくなってる時に襲われたらひとたまりもないだろう。
 「……兄さんが仕組んだのか」
 椎名はただの駒にすぎない。兄さんの命令どおりに動く駒。
 兄さんは優秀な調査員を使って先輩の身辺情報を集めている。
 先輩の直情的な性格を的確に把握した上で、悪魔のような狡猾さでその行動をシュミレートして罠を仕組んだのだとしたら。
 『これは私の独断です、有里さまは関係ありません。むしろ有理さまのご意向とは反対です』
 「自分の意志で介入したって?信じられるか。お前はあの人の犬だろう」
 椎名は兄さんに逆らえない。
 ずっと前から、十数年前、二人が中学生になった時からずっとずっとそうだった。
 『万里さま』
 「うるさい」
 『お聞きください』
 「言い訳は着いてから聞く」
 一方的に会話を中断、電源を切る。
 沈黙した携帯を懐にしまう。
 苛立ち気味にミラーを睨めば、目が合った運転手がそそくさと運転に戻る。
 ミラーに映ったぼくは、いつもと別人のように厳しい顔をしていた。
 ひりつき切迫した眼差しでミラーを睨む。膝の上できつく手を組み、内側で渦巻き荒れ狂う激情を飼い馴らそうと努める。
 タイヤがアスファルトを噛む。
 「お客さん、着きましたよ」
 お釣りを受け取るのももどかしく万札で払って転げ降りる。
 地上四十階建ての高層ホテルの正面、白亜の威容を誇る玄関を抜けてフロントへ急ぐ。
 カウンターに手をつき、息せき切ってフロント係に掛け合う。
 「4010号室の千里有里を呼んでください」
 「有里さまはただ今お出かけになってます」
 「大事な用なんです」
 「大変申し訳ないですが、キーをお持ちのお客様のご了承なくお通しするわけには……」
 交渉決裂か。そんなことだろうと思ったけど。
 このホテルは確かうちの系列が出資してる、最悪ホテルぐるみで犯罪を隠蔽してる可能性がある。
 押し問答の不毛を悟り、迅速に身を翻し一直線にエレベーターをめざす。
 背後で受付嬢が取り乱し何かを叫ぶ、誰かが追ってくる、構わず無視しタイミングよく到着したエレベーターの扉が閉まる前に滑り込もうと加速に次ぐ加速で前へ前へと体を運ぶ。
 すれ違う人行き交う客が面食らう、振り返る、見送る、ぶつかる、罵声を浴びる、突き飛ばす、謝罪が間に合わず悲鳴が上がる、広壮なホールにパニックが伝染しヒステリックに沸き立つ肉声が背を鞭打つ。
 飛び交う罵声と怒声と悲鳴の真ん中を前のめりに突っ切って閉まりかけたエレベーターへと目一杯手を伸ばす、片方の扉に手をかけ安堵に顔が緩む、そのまま片足を噛ませ一気に押し開く……
 「必死だな。最上階でお姫様が待ってんのか」
 無愛想な声とともに、スーツの後ろ襟をむんずと掴まれ靴裏が浮く。
 「!?な、」
 あと一歩でエレベーターに乗り込めるというところで引き戻され、反射的にスイッチが入る。
 「邪魔しないでください」
 後ろ襟にかかった手を弾き流れで捻り上げ組み伏せようとして、肉眼で捉え切れぬ鮮やかな返し技でもって関節を極められ、骨の中を落雷の如く激痛が駆け抜ける。
 視界が反転、膝がかくんと落ちて床に突っ伏す。どうして?自慢じゃないけどぼくは合気道を習ってて、素人には負けない自信がある。
 「―っ、」
 「『齧った』程度でいきがるなよ」
 頭上に降り注ぐ低い声。
 腕ひしぎの激痛に脂汗を垂らし見上げれば、黒背広の男が傍らに跪く。
 「あんたは素人じゃないがプロでもねえ。一番中途半端でタチの悪いモドキだ」
 屈強な体躯を上等な背広に包み、右頬に抉れた傷を持った壮年の男が淡々と言う。
 底冷えするような眼光に息を呑み、どうにか腕を振りほどこうと身をよじるも叶わず、後ろ手掴まれ引き立てられる。
 「お客様、お怪我はありませんか!」
 「困りますよ、用件があるならフロントを通してからでないと……」
 「いい。俺の知り合いだ」
 ホテルマンを追い払い、エレベーターの前から人目の届かぬ隅へと、有無を言わせぬ腕力で抗うぼくを引きずっていく。
 「誰ですか、あなた。知り合いって、ぼくは」
 「兄貴の知り合いだ」
 剣呑な頬傷もつ男は、喫茶室を兼ねソファーを配したホールの中央までぼくを引きずっていくと、そこでぱっと手を放す。
 「通してください、大事な人が待ってるんです」
 「待ってる?それこそ思い上がりじゃねえか」
 「どういう、」
 続きを遮るようにして一人掛けのソファーに身を沈める。 
 「そろそろ着く頃だって連絡あった。写真でつらは知ってたが、なるほど……あんまり似てないな。あいつのが性根の腐ったつらしてる」
 先刻、締め上げられた腕がひりひり痛む。痣になってるかもしれないなと、麻痺した心の片隅で思う。
 「そこで待ってろ。もうすぐ降りてくる」
 誰がと、間抜けな質問をするほどぼくはばかじゃない。
 一人掛けソファーにふんぞりかえったまま、立ち尽くすぼくの存在はそれきり忘れたように煙草をふかす男から、今しがた到着したエレベーターの方へ視線を転じる。
 エレベーターのドアが中央から分かれて吸い込まれ、白いスーツを着こなした若い男が、にこやかに歩み出る。
 「ご機嫌ようバンリ。早速だが、口直しさせてくれ」
 靴音高くホールを突っ切って歩み寄るや、戦慄に縛られて身動きできぬぼくの正面に立ち、抵抗を封じる優雅さで顎に指を添え、唇を奪う。
 
 兄さんの唇は、先輩の味がした。 

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