ロールシャッハテストB

まさみの18禁オリジナルBL小説ブログ。

最近のトラックバック
ブロとも申請フォーム
スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

関連記事 [スポンサー広告]
スポンサー広告 | コメント(-) | ------------ | 編集
ビスケット・フランケンシュタイン(日日日)



 電脳世界では、涙すらも排泄物として処理されるのだろうけど。
 涙を零す人間性すら、同時に処理されていないことを願う。

 脳が繋がらなくても、手を握ることはできるだろうに。
 

 「わたくしが誕生したのは1999年、世界の滅びを迎えだれもが浮き足立っていた世紀末でした」

 物語は解剖台から幕を開ける。
 無菌ライトの下、無機質な解剖台に横たわる全裸の少女。
 全身に残る無数の手術痕、左右で大きさの違う眼球、継ぎはぎだらけの体。
 左右非対称の異形の怪物でありながら壮絶に美しい少女は、人類が謎の奇病に苛まれ滅びの道を辿る世界において、偶然から生まれた唯一の不老不死。
  
 ビスケット・フランケンシュタイン。
 通称ビスケ。
 彼女は人ではない。
 人に似て非なるまったく別個の存在であり、遺伝子の進化の亜種にして究極。
 死体を継ぎはぎし誕生したビスケは研究室を脱走し、様々な歪みを抱えた人々との出会いと別れ、様々な体験を経て一個の人格を持ちえる存在となる。

 体に重大な秘密を抱え、生まれて初めての恋に身を焦がす大学生・古月蝶。
 最愛の母の教えを遵守しひとごろしを続ける少女・小宮山楽園。
 醜く無能な現実の自分を捨て、仮想現実に逃避する南雷多。
 
 自分のもととなった十数人の少女たちの記憶を持ち得、対象を捕食する事によってその人物の知識を保存する永遠の少女・ビスケは、進化的限界に達した人間の醜さや歪みを半世紀の間見続けながら、とある目的を胸に秘め、世界中を旅して患者たちと接触する。
 ビスケは「生き物は遺伝子の乗り物」だといい、奇病の正体は遺伝子が下した結論だと、全体を生かすために一部を犠牲にする正義と大義が働いた結果と説く。
 遺伝子工学はじめ情報処理学に大脳生理学など、専門用語がところどころ織り込まれた奇病と進化の考察は難解でとっつきにくいが、虚構の枠をこえ現実の問題についても示唆するリアルな観点を孕んで興味深い。
 などと難しいことをならべたが、絶対的な孤独を背負った世界に唯一の存在の美少女が、愛を求めてさすらうハートウォーミングロードノベルとしても読みごたえあり……
 というのはちょっと(かなり)嘘で、日日日の作品群の中では「蟲と眼球とテディベア」に一番近い滅びの絶望と隣り合わせのダークでシニカルな世界観とタナトスでペーソスな空気が全編を覆います。

 挿絵がまたいいんだよなあ……
 toi8さんは廃墟を描かせたら右に出るものがないレーターだとおもいます。

 難しいことをごちゃごちゃならべたんで引いちゃう人もいるかもなんですが、とりあえず最初の話だけでもぱらぱら読んでみてほしい。
 油断して読んでたら「えっ!?」と目からウロコな仕掛けがあって、思わずページをさかのぼって挿絵をじっくり見直してしまう。
 日日日の描くキャラは皆どこかサイコパス的な歪みを抱えていて、自分の欲望と目的のためなら殺人行為すら辞さないんですが、そんな良くも悪くも自己中なキャラが特定の人物にだけ捧ぐ無償の愛情や執着にジーンときちゃうんですよね……不覚にも。
 家族はじめ周囲に性癖を否定され続けた蝶の純粋な恋心や母を慕うあまりに狂気に憑かれた楽園の末路など、全体を構成する断片としての物語は決してハッピーエンドにならず、自業自得と言ってしまえばそれまでの悲劇的な結末に終わる。
 解剖台に横たわるビスケが思い出話と称し語るエピソードは、それでも愚かで弱く哀しい人間への慈愛と諦観のまなざしに包まれている。
 だがしかし。
 客観的にはまごうことなき悲劇であっても、主観においてはそうとも限らない。

 蝶が、楽園が、雷多が。
 想い報われず願い叶わず悲劇的な結末を迎えた彼らが本当に不幸せだったのか、外側からはけっしてわからないだろう。
 彼らの物語が不条理に断ち切れ終わってしまっても、ビスケの物語は続く。永遠に。
 ビスケは自らに彼らを語り継ぐ義務を課す。
 字義通り、遺伝子レベルで。細胞単位で。
 何故なら彼女にはそれが可能だから。
 彼女にしかできないことだから。
 それこそ自分が生まれてきた意味だとビスケは思う。

 作中、「奇病」と共に重要なキーワードなるのが「物語」。
 共感は幻想、愛は虚構、すべて脳が見せる幻。
 本質的な意味では決して分かり合えない人間たちは、結局は個々の物語の中を生きている。
 それぞれの「物語」を作り信じることで、空虚な人生に意味を与えている。
 雷多とビスケが液晶を通し交わす会話は、他人の痛みを想像し得ても知覚体感できず、結果「共感」という幻想で己を欺き生きるしかない人と人との断絶を鋭く突き、考えさせられる。

 このパートで描かれるのは、人と人との関係性を根幹から脅かす最大のタブー。
 人と人は究極的にわかりあえないという絶望的な現実が、確固たる事実として提示される。

 ビスケはネットゲームに耽溺する雷多を否定も肯定もせず許容するも、それでも人が好きだと、滅びゆく人の遺伝子と記憶を残したいと強く願う。
 
 果たしてビスケの目的とは?
 人類の未来は?
 滅びの奇病の正体は?

 継ぎはぎの怪物として生まれ、人に似た心を持つ一人の少女の数奇な運命の終着点を、ぜひとも確かめてください。 

一緒に読みたい本

かなり似てる。読み比べると楽しいかも。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ

関連記事 [読んだ本感想]
読んだ本感想 | コメント(-) | 20021022211541 | 編集
ブログ内検索
     © 2017 ロールシャッハテストB  Designed by 意地天
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。